誘拐事件!?
「むほほほ。
可愛いレモニー。
まろと行くでおじゃる。」
私を捕まえたのは、なんと、元左大臣。
「彼女を離せ!!」
ライオネルがガラス窓を叩いて、元左大臣を怒鳴りつける。
「黙らっしゃい!!
この恩知らずめが!
まろがいたから、シャトラ国の後継者争いに血を見らずに済んだというのに。
ケルフェネス王子といい、お前といい、どこまでも馬鹿にしよって。
さあ、レモニー。
まろがいいところに連れて行くでおじゃるよ!」
そう言うと、引きずられるように連れていかれる。
「放して!
いや!」
振り解こうとしても、元左大臣の腕力には敵わない。
シャーリーンは、囚人のような男たちに捕まえられている。
ど、どこから来たの!?
「彼女に乱暴なことしないで!
シャーリーン!」
「レモニー様!」
シャーリーンも、足掻こうとするけど、3人がかりで押さえつけられていて、動けずにいる。
ライオネルの方を見ると、燃えるような目で元左大臣を睨みつけていた。
「レモニー様!
必ず助けます!!」
ライオネルのその言葉を最後に、面会室から連れ出された。
廊下に出ると、看守たちに銃を向けられた所長のキリがいる。
「キリ所長!」
私が言うと、ハッとしたキリ所長がこちらを見た。
「どくでおじゃるよ!
いいでおじゃるか?
この監獄の看守のほとんどが、まろから賄賂を受け取っているでごじゃる。
安い給料で、人は忠誠を誓わないでおじゃるよ!
むほほほほ!
さあ、船に乗るでおじゃる。
国中王子たちの結婚式に注目して、この監獄まで気が回らないでおじゃるからな。」
元左大臣にそう言われて、キリ所長が悔しそうに、部下である看守たちを睨みつけている。
私は、そのまま監獄の出入り口まで、元左大臣に引きずられていった。
すると、後ろの面会室の方から、ガラスが砕ける音がする。
「レモニー様!!!」
体にガラスのかけらをつけたまま、ライオネルが飛び出してきた。
慌ててキリ所長に銃を向けていた看守が、彼に銃を向けるが、ライオネルの後ろから走ってきたシャーリーンが、飛び蹴りで銃を蹴り飛ばしている。
「ひょえ!
お、お前ら何という反則を・・・!」
元左大臣も驚いていたが、構わず外に出る。
港に出て、連絡船の近くまで行くと、空が曇っていて、嵐がきそうな空だった。
連絡船から降りてきた船員たちが、私を元左大臣から引き取ると、船内へと押し込む。
口に布を噛まされ、後ろ手に縛られ、足も縛られた。
「出すでおじゃる!
急ぐでおじゃるよ!!」
元左大臣が船に乗り込んで大声をあげる。
「んー!」
私は声を出せても、言葉がでない。
怖い!
誰か・・・。
「レモニー様!!」
「レモニー様!どこですか!?」
ライオネルと、シャーリーンの声が聞こえる。
船が動き出す振動と音がして、私はもう一度、
「んんーー!!」
と、声をあげた。
「よしよし、レモニー。
大人しくするでおじゃる。」
元左大臣が隣にやってくる。
嫌!
あんたなんか、お断り!
私は芋虫のように這って逃げようとしたけど、縛られた手を掴まれて、引き戻される。
「逃げるのはなしでおじゃる。
さあ、まろと共にシャトラ国へ行くでおじゃる。
シャトラ国の大臣とは、色々繋がりがあるでおじゃ。
そこで落ち着いたら、まろと式をあげるでおじゃよー。」
私は首を振って、もがく。
「可愛いレモニー。
今のレモニーは、ライカ姫と同じ輝きがあるでおじゃる。
かつて色んな男を魅了していたライカ姫と、そっくりでおじゃるよ?
まろがキラキラさせてあげるでおじゃる。」
何よこいつ!!
私がヒロインでない時は、滅茶苦茶利用したくせに!
・・・ヒロイン!?
今は私がそうだから?
そうか、だからこの人は今度は私に執着するんだ!!
元左大臣は、肩を抱き寄せてくる。
この・・・セクハラ男!!
それでも必死でもがいていると、船室の外が騒がしくなってきた。
「なんでおじゃる。
うるさいでおじゃる。」
人が倒れる音と、怒号がして、急に静かになる。
「おや、静かになったでおじゃる。」
船室の扉がガチャリと開いて、ライオネルとシャーリーンが入ってきた。
「な・・・お前らどうやってここに来たでおじゃる?」
「舐めた真似しやがって・・・。」
ライオネルが、切れた唇から流れる血を片手で拭うと、ギラギラ光る片目をこちらに向けて近づいてくる。
ライオネル・・・?
な、なんだかいつもと雰囲気が全然違う。
こんなワイルドなキャラクターだったっけ・・・。
「く、来るなでおじゃる!」
元左大臣は、ナイフを取り出すと私の喉にあてて叫ぶ。
「レモニー様!」
シャーリーンが、心配そうに大声をあげた。
「い、いいでおじゃるか?
もし、それ以上近づいたら、ぐっさり刺すでおじゃる。」
元左大臣の言葉に、シャーリーンは歩みを止めたが、ライオネルは止まらない。
「ひょえ!
ラ、ライオネル!
レモニーが、傷ついてもいいのでおじゃるか?」
「傷一つでもつけてみろ。
お前の命ももらう。
言っとくが、あんたはもう俺の主人でもなんでもない。
彼女に関して、俺は一切手加減なんてしないからな。」
ライオネルの迫力に、元左大臣も震えている。
その時だ。
ガッタン!
船が大きく揺れ始めた。
横目で船の窓から外を見ると、嵐が来ているようで、船が木の葉のように弄ばれ始めている。
一難去ってまた一難・・・、今度は何?
そう思っていると、嵐で船室の窓ガラスが割れて、海水がたっぷり入ってきた。
そして外に吸い出されるように、私の体は海に投げ出される。
あ!
し、縛られてるのに!
口にも布を噛まされているし、手足も動かない。
海の中でもがく間に、苦しくて意識が急速になくなっていく。
真っ暗な闇の中に沈む私が最後に見たものは、こちらに向かって必死に手を伸ばしてくる、ライオネルの姿だった。
ライオネル・・・、私、あなたに伝えたいことが・・・。
私の意識はそこで途切れた。
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