レモニーパート開始!
私は必死に昔を思い出そうとした。
子供の頃の記憶はある。
でも、そこは日本かといわれたら、自信がない。
むしろ、むしろあの風景は・・・。
「ま、いいわよ。
無理に思い出さなくても。
これからも、あなたはここで生きていくんだし。
このゲームの世界のキャラクターとして。」
そう言ってライカは笑った。
「行くよね?
ほら、そこを出たらレモニーパートよ?」
ライカに言われて振り向くと、控室の扉の上に、レモニーパートの文字が浮かび上がっていた。
そして、ゲームの中では聞いたことのない、BGMが流れる。
でも、なんだろ。
とても懐かしい。
「あ、じゃ、ここから・・・。」
「そう、あなたが主役。
ちょうどね、今ゲームの画面が、あなたの後方少し上から見る画面になったわ。
あなたを中心に周囲が見れる感じね。
ま、プレイヤーは私だから、見るのは当たり前ね。」
「画面酔いしないでくださいね。」
「大丈夫。
休み休み見てるから。
私の実体は家の中にいるからね、横にだってなれるのよ?」
ライカは優しく肩に手を置いてきた。
「さあ、レモニー。
交代よ。
何かあったら相談には乗るから。
いってらっしゃい。」
私は笑顔で頷くと、扉を開けた。
ここから私がヒロイン。
久しぶりのヒロイン。
私は廊下を駆け出して行った。
表に出ると、馬車に乗る。
「フェシャティナフィアの監獄へ!」
シャーリーンが、動き出した馬車の中で着替えを渡してくれる。
「旦那様には、うまく誤魔化しておきました。
今日こそ会えるといいですね。」
私はドレスを着替えながら、頷く。
そう。
会いたい。
まだ、聞きたいことがある。
お祭りムードに沸く街の中を、私たちは馬車で駆け抜けた。
『フェシャティナフィアの監獄』は、離れ小島の中にある監獄。
船でしか行けないところにある。
重罪を犯したり、逃亡の恐れがある囚人はここに収監される。
ライオネルは、逃亡なんかしない。
問題があるのはむしろ・・・。
「あー!
また、来たでおじゃるか!
この悪女めが!
お前のせいでまろはこのような、かび臭い牢獄の囚人となったでおじゃる!」
元左大臣。
この人は何故か個室の豪華な牢屋に入れられている。
看守を買収したとか・・・。
本当に汚い奴。
面会室に行くには、こいつのいる牢屋の前を通らないといけない。
行くたびに罵られて、もう慣れてしまった。
もちろん、無視。
「こりゃー!
聞こえておるのでおじゃろ!?
こっちを向くでおじゃる!!
お前にぶたれたこの高貴な顔は、一流の医者に診せて治したでおじゃるよ!
・・・・あれ?」
怒鳴り声が止んで、静かになる。
続いて、何やら粘っこい視線が刺さってくる。
・・・嫌な予感。
早く行こう。
「待つでおじゃるよ。
ライオネルのことでおじゃる。」
その言葉に足が止まる。
振り向くと、元左大臣が体をくねらせだした。
う・・・、ライカの気持ちが今更ながらわかる。
「奴は、会わないでおじゃるよ。
所長にでも聞かないと。
この監獄の、一番重い罪を犯した重罪人の牢屋の中にいるでおじゃるからな。」
「え!?」
「囚人同士の喧嘩に、巻き込まれたでおじゃる。
ここで争い事を起こせば、さらに刑期が伸びて罪も重くなるでおじゃるよー。」
「け、喧嘩に?
何故ですか?
彼は争いなんて・・・。」
「レモニー様!」
シャーリーンが、走り寄ってくる。
「元左大臣が逃亡するために、囚人にお金を渡してわざと喧嘩をさせたそうです。
そのどさくさに紛れて逃げようとした左大臣を、ライオネルが捕まえようとして、喧嘩に巻き込まれたそうです。」
「何ですって!?」
私は元左大臣を睨みつけた。
「ほほほ、レモニー。
よく見たらレモニーも可愛いでおじゃる。
睨む顔もそそるでおじゃる。
ライカ姫はもはや人妻。
レモニーが、まろの10番目の妻になってたもれ。」
「お断りします。」
無視!無視!
私はスタスタと歩いて、ここの所長に会いに行った。
フェシャティナフィアの監獄の所長『キリ』は、剃刀のように鋭い目を持つ男性。
ライオネルのために直談判にきた私を、ジロリと睨みつける。
「ライオネルは、争い事に巻き込まれたとはいえ、罪は罪。
ここでの争い事は、一番罪が重いのです。
例外はありません。」
「でも、彼は元左大臣の逃亡を阻止しました!
大体、何故あの人はあんな豪華な牢屋にいるのですか!?
ライオネルよりもあっちを重罪人の牢屋に入れてください!!」
「・・・元左大臣は、罰金等全て支払ってもあまりある金を持っているのです。
あの牢屋も彼のお金で増築したのです。
王も呆れておりますが、彼は逃さずここに収監できれば、それでよしという判断をされたようです。」
「そんな・・・。」
「ま、ライオネルも争いの主犯ではありません。
もう、10日ほど収監しましたから、今日から元の一般房に戻ります。
面会はできます。」
私はそれを聞いて、顔を上げた。
キリは横を向いて、軽く咳払いする。
「ただし、本人に会う気があればですが。」
その言葉に、胸に石が沈んだような気持ちになった。
面会室へ行き、私はひたすら待った。シャーリーンも、心配そうにこちらを見ている。
今日もダメ?
そう思った時だった。
もの凄い音と共に、ライオネルが走り込んできた。
「何故来たんですか!?
来てはいけません!!」
ガラス越しの向こうから必死な顔で、叫ぶ。
顔中殴られたような痕があり、眼帯もボロボロになっていた。
「そ、そんなこと言わないで。
あなたに会いたかっ・・・。」
「危険だから来るなと手紙を出しました!
すぐにお帰りください!!
読んでいないのですか!?」
あまりの必死の言い方に、目を白黒させてしまう。
手紙を?
いつ?
「手紙なんて、知りません。
いつそんな・・・。」
「レモニー様!!
お逃げください!!」
シャーリーンが叫び声をあげた。
ライオネルが私の後ろに気づいて、顔色が真っ青になった。
な、何?
どうしたの?
「レモニー。
捕まえたでおじゃるー。」
元左大臣の声がして、振り向こうとした時、凄い力で羽交い締めにされた。
「きゃーーーー!!!」
「レモニー様!!」
私の叫び声と、ライオネルの声が同時に響き渡った。
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〜次話、18時30分前後に投稿致します。〜