ヒロインの結婚式
その後、左大臣は失脚し、右大臣である私の父親が、左大臣へと昇格した。
この件は公式に発表されて、私の名誉回復と、被害を被った人たちへの補償が行われて、晴れてヒロインと、王子の結婚式が行われることになった。
王族の結婚式だから、もちろん、ここは大聖堂。
私は、ライカのブライドメイドとして、彼女の着替えを手伝っている。
「とても、綺麗です。
ライカ様。」
私が言うと、ライカは他のメイドを下がらせて、部屋を二人だけにしてくれた。
「ありがとう。
何もかも、あなたのおかげ。
ま、結婚式はこのゲーム内で何度もしてるけど、今回は特別よ。」
「ふふ、確かに。」
「気になるのでしょう。
ライオネルのこと。」
「・・・。」
彼の名前を言われて、手が止まる。
「ティモシー王子もね、彼を救おうとしてる。
彼は色々悪いことを計画して、実行してるけど。
ほとんど事前に止められて、誰も何もなくしたりしてないの。
なくなった物やお金も隠されていただけで、ちゃんと持ち主の元へ戻っているし、誘拐犯も役者を雇って台詞を言わせただけ。
ちゃんと逃してるし。
街ごと焼かれそうになった時も、事前に住人には避難指示が出ていた・・・と。」
ライカの言葉に胸が痛くなってくる。
「レモニーが悪く見えればいい、その目的のために利用されたことにも、ちゃんと彼は責任を持っていた。
・・・素晴らしい人だわ。」
そのライカの話に、居ても立っても居られなくなりそうになる。
「何度も面会に行ったんですけど、会ってくれないんです。」
私は呟いた。
「知ってるわ。
せっかく名誉回復したあなたと、自分が会えば、親しいと誤解されて、実は共謀したのかと疑われるからよ。」
と、ライカは言った。
「・・・彼に会いたいんです。」
「レモニー。」
「優しい人なんです。
普通なら本当にやることもできたはずなのに。
ほとんど実害がないのに。」
「そうなのよね。
国を混乱させた、そこだけなんだけどね。
それにしても、その責任は左大臣にある。
彼は侍従よ、逆らえないもの。」
「はい。」
「これは、きっとレモニーパートに入ったら、解決できるかもしれないよ?」
「え?」
「ほら、ライオネル言ってたでしょ。
『左大臣を失脚させて、ライカ姫が晴れて結婚式を挙げるまでが、ヒロインパート。
それ以降がレモニー様のパートとなります。』
て。」
「あ!」
私は気分がさっと明るくなってきた。
「きっとライオネルは、レモニーの攻略対象キャラクターなのよ。
意味深に何度も顔を撫でられてたもんね?」
覗き込まれるように言われて、顔が赤くなってくる。
「ふふ、あなたの方が先に攻略されてるんじゃないのー?
彼も素敵だもんね。
このシリーズ随一の美形と言われた、ケルフェネス王子の原型と言われた人だもんねー?」
「か、からかわないでください!」
「ふふ、さあ、そろそろ時間ね。
多分これが終わったら、主役はあなたになる。
私も、もちろんヒロインパートのエンディングまでは自分のアバターを動かせるわ。
でも、レモニーパートに入っても、あなたを操作するわけではないみたいだもんね。
あなたは、特殊なレモニーだから。
自立稼働型のキャラクターで、操作は受け付けなさそう。
映画を見るように、あなたが展開する物語を見るような感じになると思うわ。」
「そうなんですね。
私はヒロインになるけど、プレイヤーのあなたが操作しないなら、見てもらうだけ。
メニュー画面も記録の保存も、私からは何もできませんね。
イベントや、キーアイテムなんかも自分ではわからないな。」
「大丈夫。連絡手段は考えるわ。
何か都合の良いものがあるはずよ。
あなたたちのセリフや考えていることも、テロップで見えるし。
心に思うだけで、私にはわかるから。
こんな、元プレイヤーのキャラクターと話し合いながら進めるゲームなんて、他にないわ!
面白いもの。」
「はい!
あの、ライカ様。
この間お願いしたこと・・・。」
「ええ、ちゃーんとスマホで、ネットに広げたわよ。
レモニーを助ける、トゥルーエンディングルートの入り方。
制作会社が責められてたわよ。
わかりにくい!て。
ちゃんと意図があったらしくって、誰か一人でもこのルートに入ったら、公開するつもりだったんだって。」
「意図が?」
「この制作会社、おかしいの。
本社は海外にあって、そこからの配信で運営されているゲームなんだけど、実態が不明とされているのよ。
別に情報取られるとか、課金請求に違法性があるとか、そういうのはないんだけど。」
「そうなんですね。」
「それとね、レモニー。
あなたが転生する前の人じゃないかと、思われる人の話が・・・。」
「ライカ姫、お時間でございます。」
侍女のクリスタが、扉を開けて呼びに来た。
「あとで、話しますわ。
レモニー様。」
私は頷くと、ライカと一緒に式場へと向かった。
結婚式は滞りなく行われた。
このゲームのプレイヤーであった時、この結婚式のシーンは何度も見ているけれど、いつもよりヒロインが輝いて見える。
きっと左大臣から解放されて、自分の力で輝けるようになったヒロインは、もう本物のヒロインになったということじゃないかな。
悪役がいなくても、妨害なんかなくても、人々に憧れられ、崇拝される女性。
私も嬉しいし、少し羨ましい。
こうはなれなかったもの。
ヒロインと王子が、祭壇の前で誓いをすると、頭上にヒロインパートエンドの文字が浮かび上がった。
天上が光り輝き、たくさんの美しい花びらが、祝福するように舞い落ちてくる。
教会の鐘が鳴り響いて、エンディングの曲が流れ始めた。
ここからは、多分エンドロール中よね。
私は結婚式が終わってから、ライカの控室に足を運んだ。
ライカは花嫁衣装を着替えて、普通のドレスに戻っている。
「披露宴は王宮でやるの。
国を挙げての祝い事よ?
みーんな私たちに注目している。
つまり?」
「え?」
「あなたがライオネルに会いに行っても、誰も気にしない。
問題にもならない。」
「あ・・・。」
「それから、さっき言いかけたこと。
あなたの転生前と思われる女性が、日本にいたの。
その人、なんでもふらりと2年前に現れた人らしいのよ。
それから最近忽然と姿を消したんだって。」
「2年前?」
「このゲームが配信されたのは2年前から。
確認するけど、あなた、日本人?」
「はい。」
「子供の頃のこととか記憶ある?」
「はい。」
「日本で育ったの?」
「えっと・・・。」
あれ、覚えてない。
どういうこと?
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