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悪人は成敗!でも・・・

私はレモニーになる前の、プレイヤーとしてこのゲームをしていた時のことを、思い出していた。


忘れもしないあの時、最初のレモニーの意地悪を。


感謝祭で、王子と歩いている時、ワインをすれ違いざまかけられそうになったの。

あの時ライオネルが代わりにかぶってくれて、私は庇われた勢いで王子と接近して、赤くなって照れてしまっていた。


ライオネルの服にかかったワインを拭き取りながら、レモニーの方を見た時、その手に持っていたワインが、少しも減っていなかったことを思い出した。


次の瞬間レモニーはワインを飲み干して、こちらを見てくすくすと笑っていたのだ。


つまり、あの時ライオネルは自分でワインをかけていたのだ。

その様子がおかしくて笑っていただけなのに、私は、私を狙ってワインをかける、意地悪をされたのだと思い込んだのだ。


嫌な女!


私の第一印象は、それで決まってしまった。


その後の嫌がらせも、よく考えればそう見えるだけに過ぎないのに、深く考えることをしなかった。

王子と手を取り合って乗り越え、愛が深まって、周囲から憧れられることへの快感にしか、目を向けてこなかった。


全部自分だけの力だと思い込んで。


そんなヒロインが、舞台を演出していた左大臣の手に落ちる。


当然と言えば当然かもしれない。


「あんただけを責められるわけじゃない。

私も、昔は態度も言葉も無茶苦茶ひどかったし、嫌われる要素はあった。

つけいる隙があったのは認めるわ。

けれど・・・。

だからって利用していいという理由にはならないわよ!」


私の叫ぶような声に左大臣は、うるさそうに首を振る。


「利用される隙を持つ以上、ガタガタ言うなでおじゃる。

悔しければ、まろをぶっていいでおじゃるよ?

そんな度胸もない小娘のぶんざいで・・・。」


私はすぐに思いっ切り左大臣の顔を、ひっぱたいた。


「これは、あんたが怖がらせたライカ様の分!」


反対の頬もひっぱたく。


「これは、ティモシー王子の分!」


もう一度最初の頬を叩く。


「これは、私とレモニーの分!」


そして再び反対の頬も叩く。


「これは、あんたが利用しまくったライオネルの分!」


そして今度は手の裏で叩く。


「これは、あんたの思惑の犠牲になって迷惑をかけた人たちの分!!」


もう手が痛くなってきた。


「はあ、はあ・・・。」


荒い呼吸をしていると、後ろからその手を掴む人がいた。


「ライオネル・・・。」


「もう、十分。

これ以上あなたが傷めることはない・・・。」


静かな瞳に見つめられて、口を引き結ぶ。


ゆっくり手を降ろしていくと、ボロボロになって鼻血を吹く左大臣が、顔を腫らして、


「ぶへー!

ほ、本当に手を出すなんて!!

み、見たでおじゃるか?

王よ!!

これがこの悪女の本性!

無抵抗のまろをこんなにぶつなんて!

もう、可哀想でたまらんでおじゃろ?

ええい!

放さぬか!

まろがこの手で、この女を処刑台に送るでおじゃる!」


と、言った。


そこへライカがやってきた。


「おお!姫ー!

可哀想なまろを、助けにきてくれたでおじゃるか?

まろの可愛い果実、ライカ姫。

まろあっての姫でおじゃるよ。

さあ、このまろの妻にしてやるでおじゃる。

共に生きるでおじゃ・・・。」


「レモニー様。」


ライカが私を見て、にっこり笑う。

もう、震えていないわ。


「もう、そのくらいで。」


確かに。

これは暴力よね。

ここまでしといて今更だけど


「左大臣。

私が好きですか?」


ライカが、詰め寄るように左大臣に尋ねる。


左大臣が、ハッとした顔をして、ライカを見つめている。


「人気者にしてやる。

輝かせてやる。

食べてやる。

妻にしてやる。

ぜーんぶしてやると上から目線。

偉そうに、施しでもしているつもりですか?」


ライカが、左大臣を覗き込む。


「ならばお答えしましょう。

お世話になりました。

全てお断りします。」


ライカの言葉に、左大臣は目が点になるのがわかった。


「頼みもしないことを、さも望んだかのように人にさせて、それで喜んでいたら、世話した分を回収するかのように、自分になびけと言う。

強引にお金を貸して、貸した以上にもぎ取ろうとする高利貸しの発想ですよね。」


そう言ってにこにこと笑っている。


「あなたの気持ちは、支配して所有しようとする『物』に対するそれと何も変わりありません。

私は物ではありません。

意志も感情もある。

王子はちゃんと私の意思を尊重してくれます。

あなたにはできませんね。

そして、私はあなたが嫌いです。」


「な・・・な・・・。」


「さようなら、左大臣。」


と、ライカは言った。


そのまま私に微笑み、頷く。


「この・・・、恩知らずの小娘が!!

まろがいなければ、今のようにはなれなかったというのに、なぜわからぬのでおじゃ!?

好感度が落ちれば、チヤホヤされなくなるでおじゃ!

自己顕示欲が強いくせに、耐えられなくなるでおじゃよ!?

黙ってまろに、食われればいいのでおじゃるのに!!」


「お疲れ様でした。

左大臣。」


「な・・・!!」


「私は既に手にしているのです。

大好きな人たちとの、絆を。

自己顕示欲のそれを超える深い信頼を、この世界で得たのです。

だから・・・。」


「!!」


「あなたの施しなんかいらない。

私は自分で輝いていける。

もし、輝きが落ちることがあっても、私が大好きな人たちは離れていかない。

それがわかったから、いいんです。」


「おじゃ・・・じゃ・・・姫・・・。

まろを置いていくのでおじゃるか・・・。

まろは愛されないでおじゃるか・・・。」


ライカのはっきりした言葉と態度に、左大臣が大粒の涙を流して、嗚咽を漏らし始めた。


なぜこれだけのことをして、愛されると思うのか、私には不思議でたまらない。


イケメンであるなしというより、ヒロインへの愛情表現が完全に違う。

左大臣はフラれるのが怖くて、モノとして所有しようとしたのね。


だから、余計嫌われてしまった。


告白してフラれるよりも、酷く嫌われてしまったのだろう。



「・・・どうやら、決着したようだな。

左大臣。

そなたの悪事、その動機。

国政を担うには危険な人物だと判断する。

全権を取り上げ、解任する。

また、それに手を貸し暗躍したライオネル。

国の混乱を招いた実行犯として処罰する。

二人とも牢へ連れて行け。」


王の言葉に全員が納得して、衛兵が彼らを捕まえる。


私はライオネルを見た。


彼は穏やかな顔で笑っている。


「これでいい。

これが正しいのです。

レモニー様・・・。」


「そ、そんな・・・だって・・・。」


「私は、あなたを貶めることに手を貸し、実行した。

あなたはたくさん覚えのないことで責められ、嫌われてきた・・・。

恨んでください。

私がそれをしたのですから。

本当に申し訳ありません。」


ライオネルは深々と頭を下げた。


そう言われても、レモニーとして目覚めたのは今朝。

責められた記憶は全然ない。

むしろプレイヤーとして、レモニーを責めたことの方が覚えがあるくらいなのに。


「い、行かないで・・・。」


何故か胸がぎゅっと絞られるような、悲しさが溢れてくる。


泣きそうな顔になった私の顔を、あの時と同じように、ライオネルが片手で優しく撫でる。


「さようなら、レモニー様。

お元気で。」


左大臣とライオネルが、玉座の間から連れ出されて見えなくなる。


私は大粒の涙をこぼして、その場に崩れ落ちた。


読んでくださってありがとうございました。

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