私は犯人ではありません!
私は開口一番に言った。
「私は、毒入りワインなど、贈っておりません!」
その様子を見た左大臣が、目を細めてこちらを見る。
「その割には、逃げ隠れして侍女のドレスに着替えて変装までして、おかしくないでごじゃるかー?」
「そ、それは部屋に入ってきたケルフェネス王子に、サーベルを突きつけられたから怖くて一旦は逃げました。
でも、私はこうして戻ってきております。」
この左大臣も、すかさず突っ込みを入れてくる。
手強い相手だわ。
「私も事情を伺いまして、レモニー様の無実を信じます。」
と、ライカ姫が王様に向かって言ってくれた。
「きゃー、ライカ姫。
優しいでおじゃる!
哀れな悪女に情けをかけて、救おうとしてるんでおじゃるねー?
しかし、無駄でごじゃるよー?」
そう言うと、ケルフェネス王子の方を見る。
「ケルフェネス王子?
使節団へワインが届けられた時、レモニーからだと聞いたのでおじゃろ?」
左大臣の言葉に、ケルフェネス王子は頷く。
「はい。
そこへライオネルが来て、このワインは毒だと言って、花壇の花にワインをこぼしてみせたのです。
すると花壇の花はみるみる枯れました。」
その言葉を聞いて、使節団のみんなも頷いている。
「ほれほーれ!
レモニー?
ワインが毒入りだそうでごじゃる?
まずいでおじゃ!
嫉妬に狂い、こんな恐ろしいことも平気でやるなんて怖い女でおじゃる。」
左大臣が流し目で、ニヤニヤ笑いながら話す。
「む、娘はいくらなんでも、こんなことはいたしません!
何かの間違いです!」
そこにいたのはレモニーの父親、右大臣のニコラス・ケル。
「むほほほ。
父親が娘を庇うのは当たり前でおじゃる。
しかし、罪は消えて無くなったりはしないでおじゃる。
王様!
レモニー・ケルは、これまで沢山の悪事を重ねてきた悪女!
外交問題に発展しかねないこのような真似をする女を、許してはなりませぬ!」
と、左大臣は声高々に王に向かって、言った。
王も厳しい眼差しを向けてくる。
「レモニー・ケル。
何か言うことは?」
私は、王の低い声に震えそうになりながら、
「あります。
その毒の入ったワインは、父の領地のワインではございません。
どうか、私が持ってきたワインと香りの違いをご確認ください!
二つが別のものだとわかるはずです!」
と、言った。
「何を馬鹿な足掻きをしてるでおじゃるか!
王様、証拠の検分など無意味!
この悪女をさっさと処刑台に・・・。」
私の言葉に左大臣が慌てたように、王に話している。
「おかしなことだ。
この国は、証拠も確認しないで心証だけで裁く国なのか?
これは我が国との国交に深い影を落としかねない性質だ。
我がシャトラ国の国王にも、報告させてもらいます。」
と、すかさず、ケルフェネス王子が左大臣の言葉を遮るように言った。
「お、おじゃ?
そ、そのようなことはないでおじゃる!
ただこの女の過去の所業は、目を覆うものばかり!」
「それすら、ろくに証拠はないのでしょう?
しかし、今はこれがあります。
この問題をどう裁くのか、我々はこれからのことも踏まえて見極めなくてはなりません。」
左大臣は、ケルフェネス王子に言われて悔しそうに膝を叩く。
「王様、どうか証拠をご確認ください。
我が国は、客観的事実によって物事を判断する国であると、内外に示さねばなりません。」
と、ティモシー王子が言った。
王がテーブルを用意させ、二つのワインがグラスに注がれる。
左大臣が、ライオネルの方をチラチラ見ているけど、ライオネルは目を伏し目がちにして、事態を黙認していた。
一同がテーブルの前で、二つのワインの香りを嗅いでいく。
「こ、これは。」
「ほとんど同じに思えるが、少し違う。」
皆、二つの違いをしみじみと漏らしている。
王とティモシー王子も、飲み慣れているだけに、違いはすぐにわかったみたい。
「この香りは、確かに右大臣の領地から取れる極上のワイン。
余もこのワインはよく嗜むから知っている。」
と、王は言ってくれた。
私が持ってきたワインを、本物と認めたんだ。
胸を撫で下ろす私とは対照的に、左大臣は冷や汗をかいている。
「もう一つのワインは、左大臣。
お前の領地のものだな。」
王に睨まれて、さらに左大臣は冷や汗を流している。
「お、おじゃ?
レモニーは、まろの領地のワインを献上したのでおじゃろうか。」
「こちらも一級のワインです。
左大臣。
私と会食した時に、決して自分が許可したもの以外持ち出すことは出来ないと、自慢されていましたね。
レモニーには絶対許可しないとも伺いましたが?」
と、言ったケルフェネス王子が、左大臣を睨みつける。
「それ・・は・・・。」
左大臣は、また、ライオネルを見る。
何もかも、彼にさせてきたのね!
そう思っていると、王がこちらを見た。
「ワインは確かに別物だ。
だが、これだけでは、証明できたのはこの二つが違うということだけ。
ラベルも貼り替えられているようだから、何者かの工作であることは、わかる。
しかし、レモニーが贈りつけたとわかったのは何故だ?
レモニー自身が持ってきたわけでは、ないのだろう?」
そこへダニーが進み出てきた。
「私がお持ちしました。」
後ろの方にダニーの家族らしき一家が、シャーリーンと一緒にいるのが見える。
シャーリーンと目が合い、彼女が笑って頷くのが見えた。
「私の侍従の一人、ダニーです。」
ティモシー王子が王に伝える。
「お前がレモニーから受け取って、使節団へ渡したのか?」
王の言葉にダニーは首を振る。
「いいえ。
私は左大臣から、そのワインをレモニー様からだと言って届けろと命令を受けました。」
「おじゃ!?
こ、この・・・!!」
左大臣が明らかに動揺している。
王は、冷たい目でチラリと左大臣を見た。
「どういうことだ?
わざわざレモニーからだと渡す理由があるのか?」
「あ、いや、それは、あれでおじゃる。
そのう・・・。」
王はさっさと無視して、再びこちらを見る。
「最後に一つ。
ライオネル。
なぜこれに毒が入っているとわかった?」
ライオネルは、伏せた顔を上げて王を見つめた。
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