裏シナリオへの道
「もちろん、あなたは合格です。
ライカ様。
たた、少し気になることが。
この、レモニー様ですが。」
ライオネルはそういうと、再び目を覗き込んでくる。
「この世界のレモニー様と言うより、プレイヤーのお一人のように見えますね。」
そう言われて、全身が硬直する。
「婚約パレードを邪魔しなかったことといい、毒入りワインを事前に察知して取り替えていたことといい、通常の展開から大きく離れてしまった。
本来であれば、通常の展開の中で真相に気づかねばなりません。」
私は背中に汗をかき始めた。
「このゲームの世界は自由度が高い性質上、少しくらいの本筋からのズレは許容範囲ですが、あまりにひどいと整合性が取れなくなり、制作者側による、強制的な通常エンドが執行されてしまいます。
正直にお答えください。
あなたはプレイヤーですか?」
ライオネルにそう言われて、頭の中は大パニックになった。
どう答えるのがいいんだろ。
魂ごと転生したなんて、このライオネルが信じるからしら。
いや、誤魔化したところで管理者であるライオネルは、見抜いてしまうかもしれない。
「は、はい。
元プレイヤーです・・・。」
「元?」
「今は完全にこのゲームの世界の住人です。
き、今日レモニーとして目覚めたばかりなんです。」
「・・・。」
ライオネルが固まってしまった。
バグでも起こした・・・?
そう思った途端、
「まさか、転生ですか?
ついに・・・ついにこのゲームの世界にまでそれがおきるなんて。」
ライオネルが嬉しそうな顔をした。
「な、何で嬉しそうなんですか?」
「いえ、制作者側から許可が出ました。
このゲーム始まって以来初めての裏シナリオ突破と、転生したレモニー様を歓迎して、ライカ様にはSSSクラスのレアアイテムと、半永久的に最新アバターのパーツを無料で提供するそうです。
そしてケルフェネス王子との恋も、一番早く解禁になるそうです。」
「きゃーーーー!!!
きゃーーー!きゃーーー!!」
ライカが一人で悶絶している。
ちょっと怖い・・・。
「あなたは、もう、味方になってくれるの? ライオネル。」
私が尋ねると、ライオネルは頷いた。
「転生したレモニー様が力を貸した状態でのクリアですけど、条件を満たしていますからね。
・・・私もこれでようやく解放される。」
そう言ってライオネルは、はにかんだように笑った。
「ライオネル・・・?」
「不毛な恋の亡者にこき使われて、レモニー様の死を見なくて済む。
今も同時進行で別のプレイヤーがプレイするゲームの中の私が、また一人レモニー様を処刑台に送っています。
人間のあなたにはプログラムの私がこう思うのはおかしく感じるでしょうが・・・。
私は誰よりもレモニー様を見てきたのです。
私は、本来はレモニー様の・・・。」
そこまで言って目を閉じる。
その瞬間、キーアイテム入手の音がした。
「レモニー様!
やりましたわよー!」
そこへライカが飛び込んできて、抱きついてきた。
「キーアイテム揃いました!
レアアイテムも、物凄いものがたくさんきたの!
見て見て!」
ライカが私から離れてくるりと回ると、グレードアップしたドレスと装飾品を身につけていた。
おまけに、アバターまでさらにグレードアップしている。
「すご・・・!
ティモシー王子もみんなもちゃんとわかるのかな・・・。」
私が心配していると、ライオネルが首を振った。
「ここはゲームの世界です。
レモニー様。
情報のアップデートは一瞬ですよ。」
すかさず、ライオネルが話す。
「そ、そうなんだ・・・。」
興奮したライカが、私の両手をギュッと握ってきた。
「ありがとうございます!
レモニー様!!
さあ!
シナリオを進めましょう!」
「は、はい!」
私は狼狽えながら頷いた。
「さあ、この部屋を出れば、いよいよ対決です。
いいですか、お二人とも。」
ライオネルが私たちを見て、確認する。
「腕がなりますわー!
あの左大臣、みてなさいよ!」
ライカの鼻息が荒くなっている。
「お、落ち着いてください。
ライカ様。」
私はライカをなだめながら、ライオネルの方を見る。
「行きましょう。
左大臣を失脚させて、ライカ様が晴れて結婚式を挙げるまでが、ヒロインパート。
それ以降がレモニー様のパートとなります。
ただし、油断してはいけません。
左大臣は恐ろしい男です。
選択を誤らずにかからないと、バッドエンドが待っています。」
と、ライオネルは説明する。
私は、気を引き締めて頷いた。
私たちは、ライカを筆頭にみんなが待つ、玉座の間へと足を運ぶ。
「!!」
ライカが扉の前で、立ち止まった。
「また、出たわ。
重要なイベントの表示。
これまでの内容を記録しますか、て。」
私も、ゾクゾクしてきた。
「保存してください。」
私は答えた。
ライカは振り向き、私の手を握る。
「私たち、いいチームよね。」
「はい。」
「勝ちにいきましょう。」
「はい!」
私たちは微笑み合い、玉座の間を開けた。
先に行った関係者が揃っている。
「ライカ姫ー!
待ちくたびれたでおじゃるー。」
左大臣が、せわしく跳ねている。
こいつが、レモニーを散々利用した男・・・。
「おお、なんと、後ろの侍女はレモニーでおじゃるか?
わかったでおじゃる!
まろのために、捕まえてきてくれたんでおじゃるね?
優しい姫でおじゃるー。」
左大臣は、またまた強烈に身をくねらせていた。
何であんたのためなのよ・・・!
殴りたくなる手をギュッと握りしめて、玉座の王を見る。
私とライカと、ライオネルは、3人で王の前で跪いて挨拶をした。
この国の国王『セルセウス二世』。
ティモシー王子のお父さん。
「話は聞いている。
使節団へ毒入りのワインを送りつけた件であろう?
レモニー、今度ばかりは目こぼしはできぬぞ。
申し開きしたいことがあれば、ここで申せ。
ことと次第によっては、お前は死刑になるからな。」
と、強く鋭い声で王は言った。
私は顔を上げて、周りを見る。
いよいよだ。
必ず勝つんだから・・・!!
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