明かされる秘密
プレイヤーでヒロインのライカ。
このゲームのジョーカーのような存在、ライオネル。
そして、レモニーとして転生した私。
3人がこの部屋に揃った。
「御用とは何でしょうか。
ライカ様。」
ライオネルは、ライカをじっと見つめている。
「単刀直入に伺います。
あなたは左大臣に、忠誠を誓っているの?」
「私は、ティモシー王子にお仕えする身ですが、左大臣にも大恩がございます。
今回のことは、ティモシー王子にもきちんとご説明した上で、ご処分を受ける覚悟でございます。」
ライカの質問に、ライオネルは淡々と返す。
「ずっと引っかかっていたことを、聞いてもいいかしら。
ライオネル。」
「どうぞ。」
ライカも慎重に言葉をすすめている。
ここまでは、普通だ。
ここから攻めないと。
「・・・、あなたが常にレモニー様の嫌がらせと言われた行為が起きた時に、王子と共に現れて助けてくれていたのは、偶然ですか?」
「どういう意味でしょうか。」
「私は何度も王子に助けられた。
でも、そばにはいつもあなたがいた。
なぜ、いつもあなたなのです?
王子の侍従は、あなただけじゃないのに。」
「・・・。」
「必ず間に合うなんて、おかしいわ。
まるで最初から知っていたように。」
「.・・・。」
「レモニー様は嫌がらせを口にしても、翌日は取り消していたそうよ。
なのに、それは実行されていった。
誰がやっていたのかしら。」
「・・・。」
「この毒入りワインにしてもそう。
なぜレモニー様の贈呈品が、ワインだと知っていたのですか?
あなたはティモシー王子の部屋に、今日は来てませんね?
レモニー様は、剥き出しの状態で贈呈品を持ってくるわけじゃない。
専用の箱に専用の布で包んで持ってくるから、開けるまでは中身はわからない。
そして本数も。」
「・・・。」
「あなたはこの世界のことを、何でも知る立場のキャラクターなの?」
「・・・。」
「ライオネル、あなたが仕組んでいたのでしょう。
悪女としてレモニー様が見られるように。」
「・・・。」
「そうやって最後は左大臣に、私を差し出すために。」
「・・・。」
ライオネルは、ライカの質問に何も答えない代わりに、真っ直ぐ壁際に立つ私に向かって近づいてきた。
そして壁に両手をついて、私を閉じ込めると顔を覗き込んでくる。
隻眼の瞳が、妖しく美しい光を放っているのが見えた。
「やはり、レモニー様。
お探ししました。」
戸惑う私にそう言うと、ライカの方を見た。
「初めてですよ。
レモニー様の無実を、そして左大臣の本当の狙いに気づくプレイヤーに、出会ったのは。」
「!!」
プレイヤーですって!?
思わず目の前のライオネルを、凝視する。
「傲慢で無知で、冷酷で、そして卑怯者。
誰もがレモニー様の前に現れるテロップと、彼女の振る舞いを見て、そう思い込む。
ヒロインの不幸を笑い、嫉妬の炎を燃やす彼女は、本当に嫌われ者ですから。」
そういうと、ライオネルは壁についた片方の手を離し、その手の甲で、私の顔を撫でてくる。
すごく優しい手つきだ。
え・・・、なにこれ。
彼の表情も冷徹な顔から、穏やかでまるで愛しい相手でも見るような顔に変わっている。
わ、私はヒロインじゃないのよ?
悪役令嬢なのよ?
そんな瞳で悪役を見るイケメンは、このゲームにはいないはずなのに・・・。
「この世界はプレイヤーである、ヒロインのための世界。
プレイヤーが望みのまま愛されて、容姿まで思いのまま。
誰にも嫌われることなく、傷つけられず、常に守られて、常に正義で、常に最上の存在。
やることなすこと全て賞賛。
実際私も今、ライカ様に惹かれています。
そうなるようプログラムされています。」
こんなふうに言うなんて。
やっぱりこの人・・・、ゲームの中でも、異色の存在なんだ。
淡々と言いながらライオネルは、私の頬を撫でる手をそのまま耳の近くに持ってきて、親指の腹で軽く耳たぶをなぞる。
私も何故かされるままになっていた。
よく知らない人のはず・・・。
私はライオネルの手を払った。
「元々レモニー様を悪女に仕立てることを思いついたのは、左大臣です。
最初は右大臣との権力闘争で、足を引っ張らせるためのものだった。
それがヒロインの登場で、心を奪われた左大臣は、ヒロインを手に入れるためにレモニー様を利用する計画を打ち出した。」
「計画?」
「目的はヒロインに手放し難い幸福を手に入れさせること。
まずは全力でサポートし、ヒロインをこの世界の至高の極みへと到達させる。
つまり、皆に尊崇され敬愛されつつ攻略対象と結ばれる、という最高のエンディングを迎えさせるわけです。」
ライオネルは、私が払った手を再び壁についてきた。
・・・逃さない気ね。
「そのために悪女のレモニーがヒロインに嫌がらせをし、それを愛の力で乗り越えるというストーリーが必要だった。
皆、ヒロインと王子の苦難を乗り越えて結ばれる姿に胸が打たれる。
実際ライカ様も、王子の愛に触れて嬉しかったはずです。
そして、到達したとたん、それを失う恐怖を利用して自分のものにする。」
「失う恐怖を利用?
そのために、レモニー・ケルの処刑は必須だと?」
ライオネルの言葉に、思わず私が喋る。
「はい。
この世界の悪とされる、レモニー・ケルの死と右大臣の失脚。
そして、左大臣の一時的な仮死状態による、本編離脱。ヒロインは憂いがなくなり、愛する王子と結ばれる。
そしてプレイヤーがラストシーンを見てセーブした瞬間、左大臣が目覚めて、その話の中のヒロインを奪い取っていたのです。
プレイヤーには見えてないようですが、このゲームはそういう仕組みです。」
ライオネルの説明に、プレイヤーであるライカは顔を顰める。
「何よそれ・・・!」
私も彼女も、何周もしているプレイヤーにとって、過去の自分のアバターが、全て左大臣のものになっていると思うと、吐き気がしてくる。
「奪い取る?
王子との愛し合う結末の後に!?
させないわよ、王子も、周りも!!」
ライカが噛み付くように叫ぶと、ライオネルはため息をついた。
「プレイヤーが離れた後のアバターは、それまでのプレイヤーの選択肢によって性格が固定されます。
悪役レモニー様をなくしたヒロインは、尊崇の対象ではなくなり、輝きを失って普通の妃になる。
その輝きの数値が限界値まで減少したとき、輝きの日々が忘れられないアバターたちは、それを取り戻す行動をするよう、プログラムされています。
そして在りし日々の輝きを、永遠に約束するのは王子ではなく左大臣なのです。」
「うぇ!」
「やだ、そんな・・・。」
私とライカは二人で同時に顔を顰めた。
「左大臣のそばには私がいますので、いくらでも第二、第三のレモニー様を準備して、皆が注目する演出をして差し上げられます。
ライカ様の過去のアバターたちも、今頃喜んで王子と別れ、左大臣の花嫁として幸せにくらしてますよ。」
「い、いやーーー!!」
「こんなことがバレたら暴動ものよね。
制作会社は潰されるわ。」
身悶えして嫌がるライカを見ながら、私も小さく呟いた。
「私は立場上そんなヒロインのアバターを、山ほど知っています。
完結した話の中の、アバターのその後まで気にする人もいませんから、気にしなければそこまでですが。」
ライオネルは淡々と告げる。
「立場上?」
私が思わず尋ねる。
「私は、陰謀の企てを実行する左大臣の手先であると同時に、レモニー・ケルの裏シナリオを開くゲートキーパーの役割を持つキャラクター。
プレイヤーがレモニーを見極め、左大臣の思惑をみごと見破れたかを判断する管理者。
この性質を全うするために、あらゆる情報を入手できる立場にあります。」
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