【精霊賛歌】
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「これはっ!」
【精霊賛歌】はエルフなら誰でも使える種族特有の固有スキルだ。エルフの血を引いているエリーゼが使えてもおかしくはない。
(でも、【精霊賛歌】を使えるなんて聞いてなかったけど……)
まあ、何か事情があるんだろう。ちなみに【精霊賛歌】は精霊魔法のスキルがなくてもMPの消費なしに精霊を呼び出すスキルだ。
(さあ、何が出てくるか……)
精霊に祈りを捧げて、加護を受けるのが【精霊賛歌】。つまり、呼び出される精霊は自分の祈りに応えてくれたものであり、自分では選べない。
「!」
辺りの木々からまるで鞭のように蔦が赤暴牛に襲いかかる。十、二十? 数え切れない数だ!
(これは木精霊?)
赤暴牛は絡み付く蔦から逃れようともがく。が、蔦は手足をしっかりと縛り、首を締め上げる!
(いや、この力……まさか樹精霊か!?)
【精霊賛歌】に上位精霊が応じるなんて見たことも聞いたこともない。が、赤暴牛は森を荒らす魔物だし、腹に据えかねたのかも知れないな。
(っ! マズイ!)
なんと赤暴牛は角を振り回して首の周りの蔦を切ると、全身の筋肉を膨張させて拘束から脱出しようとし始めたのだ。
「じっとしてろ!」
「アドゥさん!」
俺は剣を捨てて、もがく赤暴牛へ突進する。そして、そのまま盾を赤暴牛の頭に打ち付けた!
ゴンッ!
鈍い音と共に赤暴牛の首から力が抜ける。どうやら、首の骨が折れたらしい。
「凄いですよ! アドゥさん!」
エリーゼは興奮気味に駆け寄り、俺の手を取った。
「赤暴牛を一撃なんて!」
「いや、エリーゼの精霊の力もあるから一撃じゃないさ」
「でもでも! 盾で殴るなんて聞いたこともないです!」
俺も聞いたこともない。まあ、とっさの行動ってやつだ。
「まあ、とにかくギルドに報告しよう。他にもこっちに向かうくる赤暴牛がいるかも知れないしな」
「はいっ!」
俺達がその場を去ろうとしたその時、俺の冒険者プレートが俺にしか聞こえない声でメッセージを告げた。
“新しいスキルを獲得しました”
何だって!?
※
ギルドに報告した後、俺達を含めた冒険者は全員駆り出されて警戒に当たったが、幸い町までやって来た赤暴牛はあの一頭だけだった。
「いや、本当に助かった。ありがとう! 君たちは冒険者の鏡だ!」
ミンスの冒険者ギルド長はそう言って俺達の手にずっしりと重い皮袋を手渡した。
「しかし、町へ逃れてくる赤暴牛がいるとは前代未聞! 厳重に抗議せねば!」
ギルド長によれば、俺達が倒した赤暴牛は特に大きく強い個体だったらしく、もし、町に入られていたら相当な被害が出ただろうとのことだった。
「この度は大っっっ変申し訳ありませんでした!」
「どうかお許しを!」
ギルド長と別れた後に現れたのはロラン達だ。ことの顛末を聞いたミンスの冒険者達は騒動が終わった後、二人をボコボコに締め上げたらしい。
「けっ……腰抜けが」
「アタッカーだかなんだか知らないが、馬鹿にした相手に庇われるなんてな」
遠目で二人を見る皆の目はまだ冷たい。
「過ぎたことだ。俺はもう気にしていない」
俺は二人と言うより周りに向かってそう言った。今回はたまたま上手く行っただけ。そんなことで偉そうなことを言うほど俺は驕っていない。
「な、何て、心の広い……」
だが、二人は俺の言葉を変に受け取ったようだ。再び改まって土下座した後、顔を上げて宣言した。
「ありがとうございます! これからアドゥさんの舎弟になります!」
「よろしくお願いします!」
冗談じゃない!
「それは止めてくれ」
俺はぴしゃりと言ったが、二人は“じゃっ、アニキ! また明日”などと言って離れていく。
「本気じゃないよな……?」
「本気だと思いますよ」
祈るように呟く俺に何故かエリーゼが上機嫌でそう返す。俺は盛大なため息をついた。
「そう言えば、エリーゼはいつ【精霊賛歌】を覚えたんだ?」
「実は……」
どうやらエリーゼは今までハーフエルフであることに引け目を感じていたらしい。それが昨日の俺とのやりとりで少し変わったようだ。
(自信のなさが原因で使えないスキルが他にもあるのかも知れないな)
これはただの直観だ。だが、心と体がつながっている以上、有り得ない話じゃないだろう。
「そう言えば、アドゥさんも新しいスキルを覚えたんですよね」
「ああ。レベルは変わらないから条件達成型のスキルだな」
スキルにはレベルアップで覚えるものと、特定の条件で覚えるものの二つがある。
特定の条件で覚えるスキルを条件達成型スキルというが、レベルアップで覚えるものと違ってよく分かっていないことが多い。
「どんなスキルか聞いてもいいですか?」
そんなウキウキした可愛い顔をして言われたら黙っていられる男はいない……いや、教えるつもりだったから困らないけど。
「覚えたスキルは……」
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