ロール
ブクマ、ポイントありがとうございます!
「あ、あの……言ってなくてごめんなさい」
エリーゼがおずおずと俺の反応をうかがう。
そうか、ハーフエルフだと分かったら、俺が態度を変えるかもしれないと思ってたのか。
(昔はハーフエルフは忌み子だと考える奴もいたからな)
まあ、ただの迷信だ。でも、それにエリーゼが振り回されているのは事実。何だか気の毒だな……
「悪かった」
「え?」
「不安にさせたな。俺は全く気にしないから」
我ながらもっと言い方がないのかと思うが、元々そんなに口が立つ方じゃないんだよ。
「アドゥさん!」
「エリーゼ!?」
突然、エリーゼが俺にしがみつく。泣いているのか、肩が小刻みに震えている。
(よっぽど不安だったんだな)
理性はそんなことを考える一方、本能はエリーゼの柔らかな感触や甘い匂いに反応する。俺はとにかく急いでパーティー申請を済ませ、落ち着けるような場所へエリーゼを連れて行った。
※
「……ごめんなさい。急に泣き出したりして」
しばらくすると、エリーゼは少し落ち着いた。
「いいさ。気にするな」
俺がそう言うと、再びエリーゼの瞳から一筋の涙がこぼれる。
え? 俺、何か変なことを言ったか?
「ご、ごめんなさい。でも、アドゥさんもずるいですよ……不意打ちは禁止です!」
「あ、ああ。悪かった」
とは言ったものの、何のことか分からない。
(エリーゼは泣き顔も可愛いな……)
ふと、そんな考えが頭をよぎり、俺は慌ててその不謹慎な考えを追い出した。
(何を考えてるんだ、俺は!)
エリーゼがむちゃくちゃ可愛いなのは最初から分かっていたが、分かっていたら大丈夫とかいう話でもない。
「どうしたんですか?」
俺が気を引き締めようと頰を叩く俺にエリーゼは不思議そうな顔をする。
(本人は無自覚か……)
まあ、でも別にエリーゼが悪いわけじゃない。
「いや、何でもない。予定通りクエストを探そう」
「はいっ!」
俺はエリーゼの満面の笑みにまた意識を持って行かれそうになるのに耐えながら、クエストが張り出されている場所へ向かった。
「思ったより少ないですね」
「そうだな」
俺もエリーゼもランクはD。パーティーとしても実績がないから受けられるのはDランクのクエストだけ。
しかし、報酬の額はともかく普段なら倍の数のクエストがあってもいいんだが……
「クエストが少ないな」
「ほら、赤暴牛が北から来る時期だから」
傍で二人組の話し声を聞いて俺は納得した。この時期、(この町)では北から赤暴牛という凶暴な魔物が群れで押し寄せてくる。だから、経済活動が全体的に下火になるのだ。
(商人の護衛とか魔物の間引きとかあればよかったんだけどな)
俺は薬草採取のクエストの依頼者を手にとった。町のすぐ傍の森で危険は少ないが、実入りは少ない。
(赤暴牛討伐は王室騎士団と共闘するクエストで、A~Bランク以上の冒険者しか受けられないが、報酬もいい。セシル達は町を出た可能性が高いな)
ならまあ、悪いだけではないか。
「なあ、あんたらも二人組のパーティーか?」
そう声をかけてきたのは、さっき赤暴牛のことを話していた二人組だ。
「そうだが」
「俺はロラン。相棒はジョーだ。同じDランク同士、よかったら一緒にやらないか?」
ロランが持っていたのは俺クエストの依頼書に書かれていたのとは別の薬草を採取するクエストの依頼書だ。
「同じ森に入るんだ。一緒の方が安全だろ?」
「確かに」
同じ薬草を採るなら分配で揉める可能性もなくはないが、俺達が探すのは別の薬草だからその心配はいらない。
「俺達は二人ともアタッカーだ。あんたらのロールは?」
ロールというのはパーティーの中での役割だ。大きく分けて、アタッカー(攻撃)、タンク(前衛の防御)、ディフェンダー(後衛の防御)、サポート(回復など)の四つに分かれる。少し前まではこの四つの役割を網羅できるパーティーが安定するとされていた。
「タンクとサポートだ」
「タンクだと?」
ロランは急に険しい顔になった。
「タンクなんか何の役に立つんだよ! 今のセオリーを知らないのか?」
「今どきタンクとか馬鹿じゃないのか!?」
ロランは仲間と一緒に俺を馬鹿にし出した。まあ、今どきはこういう反応が普通だ。
しかし、エリーゼの反応は違った。
「アドゥさんは凄い人です!」
「なんだよ、お前」
やばい雰囲気になってきたな。
「俺達は俺達でクエストをやる。構わないでくれ」
俺はそう言うと、エリーゼの手を引いてその場を離れる。背中に“タンクの癖に”とか“とっとと冒険者を辞めればいいのに”などといった罵声を浴びながら。
読んで頂きありがとうございました。次話は明日の7時に更新します。
明日からは一日一話の更新にしたいと思います。