王都ネアポリス
ブクマ、ポイントありがとうございます!
(???視点)
(ようやく『守りの樹』を排除できるな)
俺は培養液に使っている作品の仕上がりを見ながらほくそ笑んだ。
(結局、魔人に進化出来たのは一人だけだったが、まあいい)
『銀の爪』は俺の予想通り、力のために全てを捨てると決意したが、全ての苦痛に耐えられたのは一人だけだった。
(最下級とはいえ、まさか悪魔を倒すとは思わなかったが、今度こそ奴らも終わりだ)
本当に『守りの樹』には散々煮え湯を飲まされた。奴らのせいで計画通りにいかないことばかりだったが、これでようやく帳尻合わせが出来る。
(それもこれもバカな冒険者、『銀の爪』のおかげだな)
王城へ向かう馬車をここに転移させ、魔人と戦わせる。それで奴らはおしまいだ。何せ謁見のために武具を持っていないんだから。
(そして契約を果たせば魔人の魂は俺のモノだ)
高速種と魔人、この二つの手駒があれば、この国は俺のモノだ。いや、この国だけじゃない。いずれは世界を手に入れてやる!
「準備が出来ました」
いいタイミングだ。流石俺の腹心の部下だな。
「よし、そろそろだ」
俺は『守りの樹』が乗っている馬車が映る水晶を見ながらタイミングを測る。実は奴らの通る道には一箇所だけ誰からも死角になる場所を作ってあるのだ。
「よし、今だ! 転移魔法を発動しろ」
「はっ!」
水晶に映っていた馬車が予定通りに消える。やった! 成功だ!
※
(アドゥ視点)
馬車がアーチの下を通った瞬間、異変が起こった。
「これは……あの時の転移魔法の気配です!」
何!? ミスカルデで悪魔が現れた時のアレか!
「とにかく外を確認しよう」
俺はリンクソードと盾を指輪から取り出して外に出る。すると、そこには思いもしない光景が広がっていた。
「ここは闘技場か?」
だだっ広い空間を高い壁が囲っている。観客席には誰もいないが、間違いない。
「しかもここは地下ですね」
窓一つない壁を見ながらエリーゼが呟く。この規模のものを地下に作るとなったらどれだけ手間がかかるのか……
「行者は……いないな」
ついさっきまで馬車を操っていた行者が消えていることを確認したその時、空から気味の悪い声が降ってきた。
「フハハハ! アドゥ、アドゥだ! アイツとの契約の通りだ!」
声の主は空にいた。不気味な翼を背中に生やし、額に禍々しい角がある変わり果てた姿であったが、見間違えるはずもない。ヤツはセシルだ。
「その姿はどうしたんだ? 何があった?」
「“何があった”だと? 決まってるだろうが! アドゥ、お前を倒すためだよ!」
セシルの体からどす黒い炎が立ち上る。それはまるでセシルの俺に対する憎しみのように思われた。
(何でそこまで……)
ミスカルデで俺達に負けたことが悔しかったのだろうか。それとも……
「アドゥさん!」
しまった! 考え事をしている間にセシルは突進し、黒い炎で出来た刃で突きを放っている!
(防御しないと……!)
俺は急いで盾を構えるが、明らかにセシルの動きの方が速い。俺はダメージを食らうことを覚悟したが……
ガキン!
神器が俺の前に現れ、黒炎の刃を受け止めた。
「【体力上昇】!」
俺はエリーゼのバフが飛ぶと同時に【盾打撃】を放ち、セシルと距離を取った。
「くそっ、また防ぐか!」
「もうやめろ、セシル!」
「俺に指図するなっ!」
セシルが俺に向けて黒炎を放つ。俺はそれらを何とか神器で防ぐ。
(なんでお前は俺に構うんだよ! ニノやシオンと楽しくやっていればいいじゃないか)
再びセシルに声をかけようとしたその時だ。
「うっ……ああっ!」
なんといつの間にか、後ろにいたエリーゼが縄のような形になった黒炎で拘束されている!
(さっき俺に向けた黒炎は囮か!)
いつもならちゃんとエリーゼのことも考えて防御出来るのに……なんてザマだ!
「くそっ!」
俺が神器を黒炎に向けると、白い光がエリーゼを照らし、黒炎をかき消した。
「エリーゼ!」
「油断しました。ありがとうございます」
いや、エリーゼは悪くない。油断したのは俺だ。
(エリーゼ、怪我を……)
防具にも使えるくらい丈夫なドレスのおかげでエリーゼの怪我は軽い。だけど、怪我は怪我だ。
(俺のせいでっ!)
俺はリングソードを握り締め、セシルに向き合った。
(仲間を……エリーゼを傷つけるならお前は敵だ。倒すべき相手だ!)
殺意に染まる俺の瞳を見てセシルが満足げに笑う。そうか、お前は俺を怒らせるためにこんなことをしたんだな!
(なら、望み通りにしてやるよ!)
読んで頂きありがとうございました! 次話は明日の7時に投稿します!