陰謀
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(???視点)
「『銀の爪』はぶっちぎりの最下位です。やはり、あの様な者達を選んだのは間違いだったのでは?」
腹心の部下が心配そうにそう言うが……フフフ、分かってないな。
「いや、期待通りだ。しかも、あの『守りの樹』とも面識があったとはね。好都合だ」
合成獣の高速種が倒された後、俺は計画を早めることにした。人間が高速種への対応に目を奪われている内に次の手を打ちたいのだ。
(トールスの近くの海辺に生えた変位石は既に回収した)
変位石とは魔物の性質を変える特別な石だ。結界石とは対をなす石だが、滅多に見つからない。これを探すのにどれだけ苦労したか……
「次の計画には被験者が必要だ。奴らならぴっだろ?」
「……お言葉ですが、あの様な者達では魔人になったとて役に立つかどうか」
そうか、それで心配しているのか。なら、少し知識を足してやらなければいけないな。
「魔人になるために一番必要なのは憎しみだ。それも尋常なレベルじゃない。”人間をやめてしまいたい“と思えるほどの強烈な憎しみがいる」
魔人への進化に必要な憎しみ、それは進化のエネルギーとしても重要だし、進化の過程で感じる痛みを乗り越えるためにも不可欠なのだ。
「だが、人間には通常理性がある。普通の生活をしていてもそこまで強い憎しみは持てないし、酷い環境におけば、心が折れてしまうこともある」
「……」
「その点、『銀の爪』はどうだ? プライドが無駄に高い癖に実力はない。どうだい? 彼らが思い上がって、周りの人間へ場違いな憎しみを抱くのが目に見えないかい?」
「確かに……失ったかつての栄光は、昔馬鹿にしていた仲間のおかげだったという事実さえ認められず、同じ過ちを繰り返す様が目に浮かびます」
「だろう? フフフ、お前は理解が早いな」
「恐縮です」
まずは『銀の爪』の憎しみを高めつつ、力への渇望を引き出して行くか
(この作戦があれば、厄介だと思っていた『守りの樹』を消すと同時に奴らへのエサを与えることが出来るな)
王都で確実に……と思っていた矢先に行方不明になったから焦ったが、これはこれでいい展開だ。
「抜かりはないな」
「勿論です」
まあ、こいつのすることに間違いはない。後は良い報告が来るのを待つだけだな。
※
(アドゥ視点)
次の日の朝、俺達が集合場所へ向かうと布がかかった大きなボードの前に立った係員がいた。
「最期の競技は……これです!」
係員の声と共に大きなボードにかかっていた布が取り払われる。そこには最後の競技についての説明が書かれていたのだが……
「パーティー毎に対戦?」
周りの冒険者も首を傾げている。冒険者同士で戦ってどうするのだろう。
(特殊な防壁魔法を発動する魔道具でダメージを吸収。一定値を超えると失格になる……つまり、怪我はしないということか)
そもそも冒険者同士で戦い、勝ち負けを決めるというのが分からない。兵隊ならともかく、冒険者の戦う相手は魔物なのだ。
「静かにして下さい! これは王都の冒険者ギルドの要請で急遽行われるものです!」
ザワつく冒険者に係員がそう言うが、だからといって誰も納得した顔はしていない。
(つまり、俺達にとって意味あるものだと言いたいのだろうが……)
そんな理屈では納得出来ないくらい異常な話だ。これは最悪暴動が起こるぞ。
「さて、一回戦はエキシビションマッチ! 『守りの樹』対『黒鉄の剣』です!」
係員がそう言った時、突然辺りの冒険者が熱気に沸いた!
「えっ! マジか!」
「Aランク最強の呼び声が高い『黒鉄の剣』とここまでぶっちぎり一位の『守りの樹』の戦い……見たい!」
え、あれ?
「よし、どっちが勝つか賭けようぜ」
「レートはどうする?」
おいおい! 何だかみんな乗り気になってるぞ!
「これは……仕方ないですね」
エリーゼが諦めたように呟いた。恐らく、これは運営側が事前に用意していた作戦だろう。ご丁寧に胴元を始める係員まで現れる始末だ。
(ダシに使われたってとこだな、こりゃ)
俺は大きくため息をついた。
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