割り込み契約
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「うっ……」
「あっ……」
ニノとシオンの体が二人の意思に反して動く。二人は必死に抵抗するが、抗うことはできす、俺の前に跪いだ。
「魔法契約!? どういうことだ、アドゥ!」
俺を詰問するような声を出すセシル。いや、俺のせいじゃないぞ!
「じつは……」
俺が手短に事情を説明すると、セシルは自分の荷物に手を伸ばした。
「それは!」
セシルが取り出したのは魔法契約を交わすための魔道具、契約の宝珠だ。
(そういやあんなレアアイテムどうやって手に入れたんだ?)
そもそも競技で使っていた魔道具も他のチームよりもレア度が高いものばかり。よほど力のある研究者についているんだろうとは思っていたが……
ちなみに俺達の魔道具のレアリティが低い、つまり評価が低いのは、ウィズに力がないのではなく、彼女が魔道具開発に力を入れていないからだ。なのに戦術研究実践報告会に出るのは色んな取り決めの関係らしい。
(契約の宝珠はギルドが管理している危険な魔道具。いくら偉くても研究者レベルではどうにもならないはずだ)
セシル達は一体誰と繋がっているのだろう。
「割り込み契約だ! アドゥ! 全ての精算は次の競技が終わってからにする!」
割り込み契約とは魔法契約を後で改変する行為を指す。これは契約の宝珠を持つ者の特権だが、感覚としては後出しジャンケンに近い。そのため……
「は?」「なんてズルい奴だ」
それを聞いていた冒険者からは怒りの声が上がる。魔法契約とは破れない分、神聖なものなので、それを後でどうのこうのというのは非常に外聞が悪いことなのだ。
「ズルくはない! もし、万が一、次も負けた時は俺も土下座する! まあ、有り得ないが」
いや、勝手に決めるな。というか、もうこの負けたらどうのこうのというのはやめて欲しい……
「俺達が勝った時には今までのニノやシオンが交わした契約は全て無効だ。いいな!」
「いや、もう今すぐ無効でいいんだけど」
俺はそう呟くが、セシルは聞いちゃいない。
「あれで次は勝てるつもりなのか、アイツ!」
「ここまで恥を知らない奴は初めて見たよ」
周りの冒険者の『銀の爪』に対する感情はもはや最悪に近い。これじゃ仕事がやりにくくなるぞ……
「フン! 次は負けないんだから!」
「不覚。でも、次は無い」
契約の宝珠の力から解放されたニノとシオンが勝ち誇った顔でそう言うので、俺は“ああ、そう”とか何とか言いながら、三人が帰るのを見送った。
「昔アドゥさんの仲間だったとは思えない人達ですね」
三人の姿が見えなくなってからエリーゼがポツリと呟く。
あはは。う―ん、困った奴らだな……
※
「アドゥ兄貴とエリーゼ姉貴の活躍に乾杯っ!」
「乾杯っ!」
一日目の競技が終わった後、ヘンリーさんは宴会を開いてくれた。俺達は“申し訳ないから”と断ろうとしたのだが、ヘンリーさんから“是非!”と言われて断り切れなかったのだ。
「あの魔道具でよくこんな成績を……一体どんな戦術を? アドゥさんとはどんな連携を? そもそもエリーゼさんはどうやって戦闘中にアドゥさんと意思疎通をとってるんですか?」
「いえ、いつも通りなんですか……」
誘っても来ないかと思っていたウィズは意外にも喜んでやって来た。その目的は飲食ではなく、エリーゼを質問責めにすることだったようだが。
(それにしてもウィズはエリーゼのことがかなり気に入ってるよな)
変な意味ではなく、ウィズはエリーゼの分析力や魔法についての理解力に感心しているらしく、色々教え込んだり、助手をしてくれないかと勧誘していたりするのだ。
「凄いですよ、兄貴は! ミスカルデは『守りの樹』の話題でもちきりですからね」
マジでか。やめて欲しい。
「競技はあと一つ。もう優勝は確実ですね!」
先程のロランの言葉に続き、ジョーまでこんなことを言い出した。いやいや、最期の競技の内容さえまだ分からないのに何を言ってるんだよ……
「ところで兄貴、エリーゼさんとはどこまで?」
「は?」
「いい加減、はっきりさせたらどうですか? まあ、優勝は確実ですからその後に……とか」
コイツ何いってるんだ?
いや、でも待て。俺はエリーゼのことをどう思ってるんだ? 確かに大事な仲間だけど、それだけかな。いや……
(はっきりさせる、か)
ロランを小突きながら、ふとそんな考えが俺の頭をよぎった。
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