戦略研究実践報告会
応援ありがとうございます!
「それは素晴らしい!」
俺の予想とは違い、ヘンリーさんはウィズの話に大乗り気だった。
「さっすが兄貴! 戦略研究実践報告会への出場は一流冒険者の証ですよ!」
「俺達も舎弟として鼻が高いです!」
ロランやジョーはそう言って鼻息を荒くする。が、待て待て! まだ決まった訳じゃない。
「いや、でも当日だけじゃなく、魔道具に慣れる時間もいるし……」
「兄貴達が護衛するはずだった時間は俺達が引き受けます!」
「えっ……でも」
この話、ヘンリーさんには何の得もない話だ。それどころか、本来俺達がヘンリーさんのために働くはずだった時間に参加するんだから、むしろ損をするはずだ。それについてはヘンリーさんはどう思うのだろう。
「えっと、この話はヘンリーさんには何かメリットがあるのですか?」
ナイスだ、エリーゼ!
「メリットがありますとも! というより、ボーナスを出したいくらいです」
え、そんなに?
「ミスカルデの研究者と繋がりを持てれば、商売の幅が広がりますからね」
な、なるほど。
「しかも、ウィズさんと言えば、最年少で主席研究員になった逸材。こちらから出場をお願いしたいくらいですよ」
まあ、性格に難はありそうだけどな
「で、兄貴! 参加するんですよね! 知り合いに言ってきても良いですか!?」
「おいおい」
とは言ったが、ここまで言われたら参加するしかないか……
※
それから数日が経ち、戦略研究実践報告会が開かれる日になった。
「逃げずに来たことだけは褒めてあげるわ」
会場に着いた俺達は運悪くニノ達にばったりと遭遇してしまった。
「私達との格の違い、見せてあげるからっ!」
ニノは俺に指を突きつけてそう言い放つ。
(何でもいいからそっとやってくれよ)
だが、そんな俺の心情とは裏腹にエリーゼはニノの煽りに過敏に反応した。
「アドゥさんは負けませんよ」
「ちょっと! 誰よ、アンタ!」
「私はアドゥさんの仲間です!」
「興味ないし、アンタなんか知らないし!」
おいおい……自分から聞いたくせにそれはないだろ。
「アドゥ、アンタなんかには絶対に負けないからね!」
最早ニノ達のことは何とも思ってないとは言っても、ここまで言われれば腹が立つな。
「そこまで言って俺達に負けたらどうするんだ? まさか“負けました。ごめんなさい”ではすませないよな」
ああ、火に油だ! 俺はなんて余計なことを!
「土下座でも何でもやってやるわよ! まっ! 有り得ないけど」
ニノはそう言うと、高笑いをしながら離れて行った。
「楽しみですね、アドゥさん」
いやいや、エリーゼ! 目が据わってるから!
「出場する冒険者の皆様〜! こちらに集まって下さい〜」
そろそろ競技が始まるらしい。俺達は声を張り上げている係員の方へと歩き出した。
ちなみに、戦略研究実践報告会では用意された魔物をいかに早く、またいかにダメージを受けずに倒せるかで競うのだが、戦うのは実際の魔物ではない。
(確か魔道具が作り出した“実体のある幻”と戦うって言ってたよな)
正直意味が良くわからなかったが、別にそれでいいと言われた。要は怪我をする心配がないということだ。
「凄い人ばかりですね、アドゥさん」
係員の元に集まった冒険者は名前や噂を聞いたことのある者ばかり。
(場違いな気がしないでもないけど……)
出場する以上、ベストは尽す。じゃないと、ヘンリーさんやロラン達に申し訳無い。
「え〜、お集まりの皆様! これからルールの説明と競技の順番を発表します」
ルールの説明はウィズから聞いていたものと同じ。まあ、ここにいる全員が事前に聞いていると思うが。
ちなみに俺達は十二番。まあ、真ん中よりも早いくらいかな。
「一番から五番の方はこちらへ。その他の方は控え室でお待ち下さい」
係員がそう言うと、集まった冒険者がわらわらと動き出す。まあ、俺も柔軟体操くらいやっておくか。
「アドゥさん。私は魔道具の動作確認をしておきます」
「ありがとう」
滅多なことはないとは思うが、試作品なので万が一ということはあり得る。そのため、エリーゼはウィズから動作確認の仕方や簡単な整備法を習っていた。
そんなふうに過ごしていると時間は過ぎていき……
「十ニ番から十四番の方、こちらへ!」
とうとう俺達の番が来た。どうやら三組が同時にやるらしい。
俺達はそれぞれだだっ広い空間へ案内される。室内の壁には石壁だが、それは幻術でそう見えているだけで、実際は魔法を帯びた金属らしい。
「それでは……始めっ!」
その声と共に高速種の子鬼が現れた。数は五。まあまあの数だ。
「【挑発】!」
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