期待
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「質、数ともに凄い量でしたね。驚きました」
そう言ってくれたのは、ミスカルデの冒険者ギルド長だ。
「道中やたらと魔物と遭遇してね。運がなかったよ」
俺は金貨がずっしりと詰まった革袋を受け取りながらそう言った。
「ギ、ギルド長自ら……」
「何で?」
「有り得ない」
セシル達がそう言って驚く。
確かに、報酬を渡すのにギルド長が来るなんて普通はないな。
「運がないのは魔物の方だろう。中級の高速種まで討伐するエリート冒険者なんて王都にも数少ないはずさ」
セシル達はその言葉にうめき声を上げた。
「高速種!?」
「しかも、中級!?」
「エリート!?」
だが、ギルド長にはセシル達は眼中にないらしい。彼らのうめき声には何の反応も示さなかった。
「俺はそんな大した力はないよ。仲間の力だ」
「アドゥさん、それは謙遜し過ぎです!」
エリーゼはそう言うが、これは紛れもない俺の本心だ。そんな俺達のやり取りを見て、ギルド長は柔らかな笑みを浮かべた。
「私が出向いたのはこれからすぐにS級になるだろう冒険者の顔が見たかっただけさ。これからも期待してるよ」
そういうと、ギルド長は俺の胸を軽く叩き、カウンターの奥に消えた。
「ちょっと! これはどう言うことよ!」
あ、ニノか。
「何でアンタなんかそんなにちやほやされてるわけ!?」
「ちやほやって…‥お前達はAランクだろ。俺達のことなんて関係ないじゃないか」
俺達がどう評価されていても、全てはBランクの中でのことだ。だから……ってあれ?
「「「……」」」
三人は急に気まずそうに押し黙った。え? 何か不味いこと言ったかな。
「あ、いたいた! やっぱりギルドにいたんだ!」
全く場の空気にそぐわない声で俺達に話しかけてきたのは図書館で出会った女性研究者だ。
「話の続きがしたくてさ! さっ! 早く」
えっ……まだ、会話(?)の続きなんだけど
「あ、あのブローチは……」
「し、主席研究員……」
「ルーンガイア王国に十人もいない最高の研究者が何故こんなところに……」
何だ? この人偉い人なのか?
「何でって、アドゥくん、エリーゼさんと話したいからに決まってるじゃないか。さっ! 行くよ!」
「ち、ちょっと……」
ま、待ってくれ!
※
結局、長話に付き合わされて宿に帰ったのは昼をかなり回った時間になった。
(昼前にミスカルデに着いてから落ち着く間もなかったな)
宿に帰り、俺達は遅めの昼食を摂りながら今までの話を整理した。
「要はウィズの用件は俺達に自分の作った魔道具を持って魔物討伐大会に出ろってことだったよな?」
「はい。確か名前は“戦略研究実践報告会”でしたね」
ミスカルデには色んなことを研究する機関があるが、その中には魔物の効率的な討伐方法を研究しているものもある。この“戦略研究実践報告会”はそこが主催する発表会兼実験みたいなものらしい。
「まあ、俺達はクエストの最中だから、最終的にはヘンリーさん次第だが、エリーゼはどう思う?」
「私は是非出たいです!!!」
エリーゼがこうまで闘志を燃やすのには訳がある。戦略研究実践報告会には、『銀の爪』も参加するらしいのだ。
(それにしても、アイツらがBランクになっていたなんてな)
世の中分からないものだな。まあ、ざまあみろという思いもないではないが
(もう終わった話だしな)
エリーゼの気持ちは嬉しいが、俺は自分を追放した元仲間に目にもの見せてやろうとか、そういう思いはない。俺の今の仲間はエリーゼだからだ。
「まあ、いい成績を残せばこれをくれるって言うんだし、悪い条件じゃないか」
ウィズから渡された魔道具は二つ。一つは持ち主がバフを受ける度に力を増す魔剣、リンクソードだ。
(遊びで作ったと言っていたが、これは俺達の戦い方にうってつけだ)
二つ目は、MPを消費して矢を放つ杖、ボルトワント
(これがあればエリーゼの戦い方に幅が出る)
MPの消費が激しいため乱発は出来ないが、エリーゼは頭が切れるから上手く使えるだろう。
「これがあれば、アドゥさんを馬鹿にした人達も私の手でギャフンと言わせられます!」
「おいおい」
エリーゼの目が完全に据わってるよ…… よっぽど怒ってるんだな。
「すみません、遅れました」
そう言って入ってきたのはヘンリーさんと護衛をしているロランとジョーだ。
「いや、俺達も色々あって……」
「色々……ですか?」
首を傾げるヘンリーさんに俺は事情を説明し始めた。
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