タンク
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(セシル視点)
赤暴牛の一件から別の街に拠点を置いた俺達だったが、それからも失敗続きだった。
「高速種……厄介だな」
勿論、苦戦しているのは俺達だけじゃない。だが、失敗続きでついにランクがBに降格してしまっては何か手を打たざるを得ない。俺達が選んだのは、新たな仲間を募集することだった。
「でも、何でタンクなの? 何かアイツの顔がちらつくんだけど!」
ニノ、その話は昨日もしただろ?
「タンクといってもカウンター主体のクラスだ。アドゥとは違う」
俺がそう答えると、シオンも大きく頷いた。
「攻撃が一番大事なのは変わらない。でも、高速種相手に先手は取れない。だから、後の先をとる」
これは実際、多くのパーティーが考えていることだ。まあ、俺達がしぶしぶ認めたのは最近だが。
「それは分かるけどさあ~」
ニノは不満げだ。まあ、俺も不満はあるけどさ。
「あんたらが『銀の爪』か?」
お、来た来た!
「俺はギーラン。クラスはデュエルナイトだ」
ギーランは高レベルの冒険者だ。元々はAランクパーティーにいたのだが、パーティーが解散したため、俺達『銀の爪』の誘いに乗ってきたのだ。
(まあ、解散の原因は俺が作ったんだけどな)
勿論ギーランはそんなことは知らない。渡りに舟だと思ってるのだろう。
(これで次のクエストは成功間違いなしだな)
俺は内心ほくそ笑んだ。
※
「ちょっと、どうなってるのよ!」
這々(ほうほう)の体でモンスターから逃げ出した後、ニノはそう叫んだ。
「待て、ニノ。ギーランは俺達とのクエストは今日が初日だ。連携が上手く行かなくても仕方がない」
そうは言ったが、俺は内心ギーランに対する罵詈雑言を並べていた。
(タンクの癖にモンスターの攻撃を受けきれないなんて……)
ギーランに防御を任せて攻撃に専念した俺達。しかし、ギーランはすぐにモンスターの攻撃に耐えられなくなり、戦闘不能。壁を失った俺達は今までのように敗走せざるを得なくなったのだ。
「タンクなのに攻撃を受けきれない。それはもはや存在意義がない」
シオンは口調こそ落ち着いているが、言葉は辛辣だ。
(まあ、これだけ言われれば、次は手を抜かずにやってくれるだろう)
今回の失敗、その原因はギーランの慢心にある。元Aランクパーティーという驕りが油断を生んだのだろう。
(なんせ、アドゥでさえ平気な顔で一時間、二時間と魔物の攻撃に耐えられるんだからな。Aランクパーティーのタンクに同じことが出来ないはずがない)
が、ギーランから返って来たのは予想外の返答だった。
「ふざけるな! どうなってるはこちらのセリフだっ!」
はあ? 何で逆ギレしてるんだ、コイツ……
「お前ら何で俺をサポートしないんだよ! タンクにアタッカーが一人、サポートが一人つくのが常識だろ!」
は?
「タンクに援護? 何でそんなことしなきゃ行けないのよ!」
「下級モンスターの攻撃でさえ大地を割る威力なんだぞ! 一人で耐えられる訳がないだろ!」
何?
「だってアイツは一人で攻撃を受けてたわよ」
ニノが戸惑いながら呟く。
「回復魔法だってほとんどかけたことはない」
シオンもニノに続く。俺に至っては茫然自失状態だ。
「ならあんた達はそのタンクにおんぶに抱っこだったってことだな! 防御も考えずにただただ攻撃するだけなんて子どもでも出来る!」
……
「スキルはいくつかあるのかも知れないが、お前達は素人以下だよ! こんなパーティー、もうごめんだ!」
そう言うと、ギーランは一人で街への帰路についた。
「何よ、アイツ! 好き放題言っちゃって!」
「負け犬の遠吠え」
ギーランの姿が見えなくなると、ニノとシオンは口々に文句を言い始めた。
「まあ、終わったことだ。とにかく次のことを考えよう」
正直、ギーランはかなり期待外れだったが、仕方がない。
「もうっ! 何だか気分が悪いわ! 別の街に行きましょう!」
ニノは嫌なことがあるとすぐその場所を離れたがる。まあ、この思い切りの良さはいいところでもあり、悪いところでもあるな。
「賛成。アイツの顔、もう見たくない」
シオンも賛成のようだ。まあ、確かにあの街にこだわる理由は何もないな。
「ここからだと……」
冒険者ギルドがあるようなところとなると……
「なら、次はミスカルデだな」
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