謝罪
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「こんなところでどうしたんですか?」
「いや、今から帰るとこだけど」
「兄貴ほどの英雄ならさぞかし歓迎されたでしょうね!」
「いや……ところでそっちは何をしにきたんだ?」
「キャラバンの護衛ですよ」
何でも塩や香辛料といった遠方の産物やミンスの工芸品を王都まで運ぶキャラバンらしい。
「おお……良く来て下さった」
里長は俺達が見たこともないような笑顔を浮かべている。
あ、こんなところにいるのはキャラバンを出迎えるためか。
「いえいえ。前の里長には子どものころ可愛がって頂きましたから、その恩返しのつもりです」
確かにここに寄る労力は大きい割に集落自体は小さい。商人にとってはメリットどころかデメリットの方が大きいだろう。
(前の里長の人望は凄かったんだろうな……)
ぼんやりそんなことを考えながら見ていると、不意に里長はキッとなって俺の方を向いた。
「お前達! いつまでそこに突っ立ってるんだ! 邪魔だからさっさと出て行け!」
「里長、何てことを仰るのですか!」
「は?」
凄まじい剣幕で怒鳴る商人に里長は訳が分からないといった表情を浮かべた。
いや、実は俺も何が起こったのかよく分かってない。
「この方達はミンスを救った英雄です! しかも王都の冒険者ギルドさえ一目おく冒険者なんですよ!」
「英雄? 王都? こいつとエリーゼが?」
困惑する里長は商人と俺達を何度も見比べる。が、残念ながら里長に時間はあまり残っていなかった。
「今までは、前の里長のように他種族にも寛容な進歩的な方だと思っていたのですが……どうやら私の勘違いだったようですね!」
「えっ、あっ、違います! あなたは特別ですぞ!」
「私が特別なのではなく、積荷が特別なのでしょう? 私はあなたが他種族にも寛容な立派なエルフだと思っていたから損失が出てもこの里へ寄っていたと言うのに!」
「いや、待って下さ──」
「言い訳は聞けません。ミンスの英雄である『守りの樹』に対する侮辱はミンスの商人全員に対する侮辱です! 私はもうこの里には来れません」
「そんな!」
里長がショックのあまり膝をつく。が、事態は更に悪化する……
「無論、私だけでなくミンスの商人は皆、この里には来ないでしょう」
「何故っ!」
まるでこの世の終わりのような顔をする里長。だが、商人の怒りはおさまらないらしく、語気は荒い。
「当たり前です! アドゥさんとエリーゼさんが赤暴牛や数々の高速種を討伐して下さったからミンスの商人は商売が出来るのです。この話を聞けば、皆が手のひらを返すでしょう」
「申し訳ない! どうか、どうか!」
里長は商人に土下座した。エルフの土下座って初めて見た……
「あなたは馬鹿なのですか! 謝る相手が違うでしょうっ!」
「えっ……ぐぐぐっ!」
里長は土で汚れた顔を上げ、商人や荷物と俺達を見比べる。だが、しばらくすると、歯を食いしばりながら俺達に土下座した。
「人間の戦士様、エリーゼ、申し訳なかった。許してくれ」
「俺はいい。だが、二度とエリーゼに辛く当たるのはやめてくれ」
俺は足元にうずくまる里長にそう告げると、そのまま里を出ようと踵を返す。が、里長は急に俺の足を摑み……
「ガべべべ!」
エルフの年寄りとタンクの俺では筋力に違いがあり過ぎる。里長は俺の動きを止めることが出来ずに顔を地面に擦りつけた。
「……えっと」
悪気があった訳じゃない。というか、この場合、急に足を掴んだこいつの方が悪いよな?
「ど、どうか私にチャンスを……屋敷でおもてなしをさせてください!」
ええ……今更手のひらを返されてもな……
※
「兄貴と一緒に旅出来るなんて最高です!」
「いや、助かったのは俺達だ。ここから王都までの足が無かったからな」
結局、俺達は里長の誘いを断った。最初の印象が最悪過ぎたことに加え、もう出発する準備を整えていたからだ。
また、商人は結局最低限の商品だけを売った後、里を後にした。その際に、俺達は護衛として雇ってもらい、同行することになったのだが……
「でも、ミスカルデを経由するなんて遠回りじゃないですか?」
商人の最終的な目的地は王都なのだが、王都へ向かう前にミスカルデという町に寄る用事があるらしいのだ。
「まあ、もう寄り道してるからな。多少遅れても問題ないさ」
「流石兄貴! 器が違いますね!」
いや、器というか、開き直りだけどな。
「あ、時間だ。行者台に行って来ます!」
「ああ」
入れ替わりで戻って来たのはエリーゼだ。
「ヘンリーさん、物知りですね! 色んな話が聞けました」
ヘンリーというのは俺達を護衛に雇った商人の名前だ。
「で、こんな話を聞いたのですが……」
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