墓参り
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その後、エルフ達の視線に耐えながら十分くらい歩くと、里長の家についた。
「エリーゼです。長に取り次いで下さい」
「……」
俺達の応対に出たエルフはエリーゼに対して非常に素っ気ない態度。やはり、エリーゼに対して冷た過ぎる。
しばらく待たされた後、俺達は里長の前に通られたが、待っていたのは想像を絶する塩対応だった。
「何故戻って来たのだ、半人。しかも……」
そこで里長は俺の方を一瞬見る。人間を連れてきたのが更に気にくわないってことか。
(それにしても半人って?)
聞いたことがない言葉が、どうやらこの里ではエリーゼのことを指す言葉らしい。
「父様が亡くなったので母様に報告しようと」
「そんな知らせはいらん!」
「母様の願いでしたので」
「汚らわしい! 人間が一人死んだからなんだと言うのだ!」
里長のあんまりな言葉にエリーゼが目を伏せる。事情はよく分からないが、流石にいたたまれない気分になる。
(くそっ……でも余計な口を挟むと逆効果だろうな)
一番辛いのはエリーゼだ。だって、自分だけではなく、親にまで酷いことを言われてるんだから。
「……勿論すぐに出て行きます。もうここには戻らないつもりです」
「当たり前だ。我が里の面汚しが!」
その時、突如里長がエリーゼに向かって手元の湯呑みを投げつけた!
「!」
俺はとっさにエリーゼを庇って前に出る。湯呑みは俺の小手に当たって割れたため、エリーゼは無事。だが、これはいくらなんでも……
「事情は知らんが、やり過ぎだ」
「人間、お前には関係ないことだ」
大ありだ。エリーゼは俺の仲間だからな
と言おうとしたのだが、エリーゼが服の袖を引くのに気づき、俺は言葉を引っ込めた。
「明日には立ちます。それまではどうか」
「フン!」
里長は立ち上がると、“出て行け”とでも言うかのように俺達へ手を振った。
※
「ごめんなさい、アドゥさん」
里長の家から出て直ぐにエリーゼは俺に謝った。
「いや、俺こそカッとなって済まない」
「そんな! 里長もアドゥさんがいたから遠慮した部分があると思います」
あれで遠慮してたのか……
そんな思いが顔に出ていたのだろう。エリーゼは何とも言えない顔をした。
「詳しい話は私の家で。まあ、もう誰もいませんが」
それから俺達は道中で旅に必要な物を買いながらしばらく歩いた。エリーゼの家は村の外れからも大分離れた場所にあったのだ。
(何でこんなに村から離れた場所に住んでいたんだ?)
里長を始めとした里のエルフからの冷遇といい、一体何があったというんだろう。
「すみません、こんなところですが」
エリーゼがそう言ったのは家が誰かの落書きだらけだったからだろう。
ただ、そんな外見とは対照的に中は清潔で過ごしやすそうな空間が広がっていた。
「しばらく誰も住んでいなかったんだよな?」
「この家は精霊の加護で守られているんです」
「精霊の加護……」
つまり、掃除等は精霊がしておいてくれるということなのだろうか。そんな話は聞いたことがないが……
「アドゥさん、手を見せて貰えますか?」
エリーゼはそう言うと、買って来た薬を俺の手に塗りながら、少しずつ自分と家族の話をし始めた。
「私の母はこの森のエルフなのですが、父は人間でした。母は森の外で父と知り合った後、二人で森に戻って来たんです」
初めて語られるエリーゼの過去。俺は口をつぐ挟まず、ただ黙って聞くこてにした。
「その当時の里長は父と母にとても良くしてくれたそうです。村の外れとはいえ、父と母がここに住めたのは前の里長のおかげです」
なんでも前の里長は“エルフは変わらなくてはならない”という革新的な考えを持った人だったらしい。エリーゼの父と母の努力もあって、まあ普通に付き合う程度には溶け込めていたようだ。
「でも、今の里長に変わった途端、事情が変わって……」
今の里長は昔ながらのエルフ史上主義。エリーゼの父は追放され、里にはまだ乳飲み子だったエリーゼと彼女の母だけが残されたのだという。
「母は常に父のことを気にかけ、自分を責めていました。そのせいか、次第に体が弱ってしまい、私が十五になった年には他界してしまいました」
里のエルフからは冷たくされていたこともあり、エリーゼは父の消息を知るために森の外に出て冒険者となったのだという。
「で、父親のことが分かったから、母親に伝えようと戻ってきたという訳か」
「はい」
故人に悲報を伝えるんだ。嬉しいはずはないな。
「俺に何か出来ることはないか?」
「そんな! アドゥさんにはもういっぱいご迷惑をおかけしているのに!?」
いや、エリーゼが責任を感じるようなことは何一つなかったのだが……
だけど、今伝えるべきなのはそう言う言葉ではないだろうな
「迷惑とかじゃなくて、俺が何かエリーゼの力になれることをしたいんだ」
「アドゥさん……」
エリーゼの瞳から真珠のような涙がポロポロとこぼれる。が、エリーゼはそれをすぐに拭うと、しっかりとした声を出した。
「ありがとうございます。じゃあ、私についてきて貰えますか?」
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