崖の底
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「いたたた……」
崖はそこそこの高さがあったが、あちこちぶつかったおかげで落下スピードが落ちたこと、落ちた先が茂みの上だったこともあって大したケガはしなかった。
「って、エリーゼ、大丈夫か!?」
俺は腕の中にいるエリーゼの顔をのぞきこんだ。
「私は大丈夫です。アドゥさんが庇ってくれたので」
「良かった」
俺はエリーゼから離れ、地面に腰を下ろした。一時はどうなるかと思ったが、エリーゼに怪我がなくて良かった。
「よくありませんよ! アドゥさん、手を見せて下さい!」
あ、そう言えば手を火傷してたな。
「とにかく冷やさないと!」
エリーゼは身に付けていた小さな水筒と包帯を取り出した。
「貴重な飲み水じゃないか。俺は大丈夫だから……」
「火傷はすぐに冷やさないと! あと何度か熱湯がかすりましたよね!? そこも見せて下さい!」
荷物はほとんどキャラバンの馬車の中だから、俺達が持っているのは本当に最低限のものだけ。水場が近くにあるかどうかも分からない現状ではあまりいい選択とはいえないが……
「……今は大したことが出来ないですね。水と薬草があればもう少し違うのですが」
ちなみに携帯していたポーションは割れて中身がなくなっている。
「いや、大分楽だし、もう大丈夫だ。ありがとう」
「駄目です! とにかく水場を探し──あっ!」
そう言って辺りを見回していたエリーゼは突然、何かに気づいたような声を出した。
「どうしたんだ?」
「アドゥさん、こっちに行きましょう」
「???」
よく分からなかったが、俺はエリーゼに促されるままに移動する。すると、なんとそこには綺麗な湖があった!
「やっぱり……ここは森の近くなんだ」
森……ひょっとしてエリーゼの住んでいた森のことだろうか。なら、湖の場所を知っていてもおかしくはないな。
エリーゼは俺が火傷を冷やしている間に、薬草を見つけ、簡単な湿布を作って貼ってくれた。
「ありがとう。これで少しは手が使えそうだ」
正直、火傷の痛みよりもいざというとき、何も出来ない状態なのが気が気じゃなかったのだ。
(剣は無理だが、盾が持てる)
そして仲間を、エリーゼを守るのが俺の仕事だ。
「駄目ですよ、無理は!」
エリーゼは慌ててそう言うが……まあ、彼女のことだ。俺を心配してくれてるんだろう。
「……私の里に行きましょう。そうすれば、薬か魔法でアドゥさんの怪我を治せるかもしれません」
なるほどな。エルフは魔力が高い種族で、薬草の知識に長けていると聞くしな。
(だけど、エリーゼの顔色が冴えないな)
そうすれば、エリーゼは“森へ帰らなくては”と言っている割に森へ帰ることにはあまり積極的ではなかった。
(あまり深く考えて来なかったけど、何でエリーゼは森を出て冒険者になったんだろう……)
だが、それは今聞いてはいけない気がする。こういう話を聞いてもいいのは相手が話したいと思った時だろう。
「分かった。そうしよう」
だから俺はこう答えた。これが正解かどうかは分からないけど
※
エリーゼの里にはすぐに行き着いた。エルフはレンガなどの人工物をあまり好まないので、あまり大きな建物ではない。
(大体想像の通りだな)
別にエルフの里に人間が入るのは珍しいことじゃない。そして、それは残念ながら嬉しいことでもなかった。
「……」
今もすれ違ったエルフから怪しげな視線を向けられた。エルフは基本的にプライドが高く、里に人間が入るのを嫌がるのだ。
じゃあ、入れなきゃ良いと思うかも知れないが、エルフだけでは生活は出来ないのだ。例えば、魔物から里を守るために必要な武具やポーションの生産はエルフが苦手かつ嫌がる仕事。だから、エルフ以外とは交流したくないとは言えないのだ。
(まあ、他種族の力を借りないといけないという事実が既に認めがたいんだろうな)
まあ、今は逆にこちらが助けて欲しい側だから、機嫌よく施して貰えると助かるんだが。
「……すみません。まず里長に会わなくては行けない決まりで」
周囲が俺に向ける視線を気にしたのだろう。エリーゼは申し訳なさそうにそう言ってくるが、彼女が謝ることじゃない。
「いや、気にしないでくれ」
というか、エルフ達はエリーゼにもあまり良い態度をとっているとは言えない。俺のように舌打ちしたり、睨んだりするわけじゃないが……
(なんか意図的に無視しているような)
気のせいかも知れないが、何となくそんな感じがする。
(用が済んだら早めに出よう)
再び通りすがりのエルフの男女に舌打ちをされながら俺は強くそう思った。
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