招聘
ブクマ、ポイントありがとうございます! 励みになります!
「もう来たのか」
「当たり前だろう? 名誉なことじゃないか」
冒険者ギルド長はげんなりした顔をする俺には取り合う様子もない。
(まさか本当に呼ばれるとはな)
高速種となった合成獣については既に細かなレポートを書いて送っている。正直、これ以上出せる情報はないんだが……
「きっと偉い人もアドゥさんに会ってみたいんですよ」
そんなもんだろうか?
「路銀は届いてるんだ。早く出発しろよ」
王都の冒険者ギルド大長はミンスのギルド長の上位に立つ存在。俺達が王都に着くのが送れることで小言を言われるのが嫌なんだろう。
「早く行きましょうよ、アドゥさん! 私、王都は初めてです」
ワクワクした顔をするエリーゼは最高に可愛い。まあ、エリーゼもこんなに乗り気なんだし、行ってもいいか。
「丁度王都に向かうキャラバンがある。護衛を欲しがっていたから口をきいてやる」
至れり尽くせりだな。まあ、一応感謝しておくか。
※
そんなこんなで追い立てられるように出発した俺達だったが、王都への旅は順調そのものだった。
「順調ですね」
「ああ」
道中に遭遇したモンスターの数も質も大したことがない。非常に楽な仕事だ。
そんな中、旅も終盤に差しかかった辺りでエリーゼの表情が急に憂いを帯び始めた。
「どうしたんだ?」
「え?」
「浮かない顔をしてるぞ」
「あ、あははは。私の森がこの辺りにあるので」
前に言っていた故郷の森のことだろう。だけどこの様子だと早く帰りたい……って訳でもなさそうだな。
(何か事情がありそうだな)
心配にはなるが、聞いて俺がどうにか出来るとも思えない。どうしたものか……
ちなみに冒険者が町から町へ移動するときは、今回のように商人の護衛をするのがベストだ。何故って? 食料等の準備がいらない上、報酬まで手に入るからだ。
「王都に着いたら、アドゥさんの装備を見てみましょう。鎧も盾も傷んで来ていますし……」
「そうか? まだ大丈夫だぞ」
「駄目です! アドゥさんはたくさんモンスターの攻撃を受けるんですから装備は万全にしておかないと!」
まあ、確かにそうなんだが……エリーゼは心配性だなあ。
その時、急に辺りに悲鳴が響き渡った!
「! 様子がおかしい」
「はいっ!」
俺達は走りだした。悲鳴が上がったはキャラバンの最後尾の辺りだ。
「あそこか!」
キャラバンの最後尾の馬車が五匹の子鬼に追いかけられている。子鬼は馬車でも振り切れない速度で馬車に迫り、その攻撃が馬車をかする度に悲鳴が上がる。
(高速種だな)
俺は子鬼がスキルの有効範囲に入ると、即座にスキルを発動した。
「【挑発】」
子鬼の注意が馬車から俺に移る。尚、辺りの地面は子鬼の攻撃でボロボロだ。
「アドゥさん、足場に気をつけて下さい」
エリーゼがそう言いながら、結界石を設置する。結界石は設置した後のダメージは防ぐだけで、今回のように既に地面が破壊されている場合、それを直す力はないのだ。
「ギギキ!」
五匹の子鬼が一斉に俺へと向かって来る。その攻撃よりも正直、足場の脆さの方が気になった。
(亀裂に足を取られたらやばいしな。気をつけないと)
俺は【守護壁】を発動して、五匹の子鬼の攻撃を防御した。
(ありがと、エリーゼ!)
エリーゼの最初のバフは【敏捷性上昇】。やはり一番欲しかったものだ。
「【盾打撃】!」
俺は防御しながら攻撃し、一体の子鬼を打ち倒した。最近、よく戦ったため、カウンターのタイミングは分かってる。
「【運気上昇】」
再びバフが届き、戦況は更に良くなった。俺はより楽に【盾打撃】のカウンター効果を発動させ、二匹目の子鬼を打ち倒した。
(後三匹!)
瞬く間に仲間が減ったことで子鬼達は後退る。よしよし、もう一押しで逃げ出すかも知れない。
「【盾──」
俺が再び盾を構えたその時、突然何かが地中から噴き出した!
「これは、地下水か!?」
しかも、この地下水、何故か熱い! 理由は分からないが、浴びれば酷い火傷を負うことは間違いない。
「ギギッ!」「ギャ!」
子鬼達は逃げ出そうとするが、地面から噴き出す熱湯は次々と数を増していく。多分奴らは全滅だろう。
「エリーゼ!」
俺は辺りを見回し、エリーゼを探した。すると……
「駄目です! アドゥさん!」
熱湯から逃れる内に、エリーゼは崖沿いまで追いつめられていたのだ。
ズドーン!
エリーゼの近くの地面から再び熱湯が噴き出す。何故か彼女の周りは熱湯が盛んに噴き出している。
(守らないと!)
【機動防御】を使いたいところだが、生憎距離が離れすぎている。
(ならっ!)
俺は盾を握りしめると、意を決して足を踏み出した!
「行くぞッ!」
「!!!」
何回か熱湯が体をかすめるが、痛みは無い。俺は構わず走った。
「よし、【機動防御】!」
俺が盾を構えてエリーゼの前に立つのと同時に、彼女の目の前の地面から熱湯が噴き出した!
「ぐっ!」
熱湯は盾で防ぐが、盾は持ってられないくらい熱くなる。俺は熱湯が収まると思わず盾を取り落とした。
「アドゥさん! 酷い火傷!?」
「後でいい! それより……」
だが、既に遅かった。さっきの熱湯で地面は限界を迎えたらしい。俺達の足場には急速に亀裂が走り、俺達の体は崖へと投げ出された!
「エリーゼっ!!!」
俺はエリーゼへと手を伸ばした!
読んで頂きありがとうございます! 次話は明日の7時に更新します!




