VS合成獣(キマイラ)
ブクマありがとうございます!
「【運気上昇】!」
俺が待っていたのはエリーゼのバフだ。
(やっぱり【運気上昇】を使ってくれた!)
俺は一か八かの賭けに出る。【盾打撃】の二つ目の効果を狙うのだ。
「【盾打撃】!」
「グオオオーン!」
「キ、合成獣が仰け反っただと!?」
【盾打撃】は相手を気絶させることと、カウンター成功時にダメージが相手の攻撃力分増加するという二つの効果がある。後者は通常よりタイミングがシビアなので、なかなか狙って出すのが難しいが……
(運が良ければ、成功するよな)
カウンターが成功すると、【盾打撃】の威力は相手の攻撃力分増加する。これには合成獣も流石に応えたらしい。
「い、今だ! 【蒼波斬】!」
「【火槍】」
一瞬呆気にとられていたナッシュ達が攻撃する。【蒼波斬】と【火槍】が合成獣に直撃するが……
「なっ……ほとんど効いてない!」
毒蜥蜴を一撃で倒した攻撃だが、残念ながら合成獣には通じなかったようだ。
(高速種は通常種より防御力が低いはずなんだが……俺達とはレベル差が大きすぎるんだろうな)
そんなことを考えながらも俺は合成獣から目を離さない。
(【挑発】を使うと逃げるのが難しくなるから、【機動防御】を使いながら凌ぐしかないな)
【機動防御】は狙われた味方の元へ瞬時に移動して庇う便利なスキルだが、防御力が半減するという欠点もある。
「【自己治癒力強化】!」
ナイスだ、エリーゼ! とりあえず耐えてたえて活路を見出すしかないか。
ブン!
合成獣が爪を振るう。
シュ!
その後は尻尾の蛇の奇襲。
ガキン!
更にライオンの顔は隙があれば噛みつこうとしてくる。
(手数を重視してきたな……っ!)
おそらく俺のカウンターを警戒しているんだろう。合成獣の手数が増えれば俺はカウンターを狙いにくくなる。
(だが注意が俺に向いているのは好都合だ。隙を見て【盾打撃】を放ってスタンに出来たら逃げられるかも……)
合成獣の牙を盾で受け止めながらそう考えた時、そんな目論見を打ち崩す出来事が起こった。
「【中回復】!」
『灰猫』のヒーラーの回復魔法だ。しまった。【挑発】を使ってないからヒーラーが狙われる!
「【機動防御】!」
俺はスキルのおかげで『灰猫』のヒーラーを庇えた。が……
グッ! 重いな……あばらが折れたかもしれない。
「アドゥさん!」
エリーゼが悲痛な声を上げながらも、俺に【敏捷性上昇】をかける。おかげで攻撃直後の硬直をつける!
「【盾打撃】!」
よし、スタンした!
俺はナッシュ達のスキルの巻き添えにならないように少し下がる。すると、エリーゼが俺の元に駆け寄って来た。
「アドゥさん、大丈夫ですか!?」
「ああ。何とか」
「あの……私、考えがあります」
「何?」
エリーゼが早口で話すその内容に俺は思わず目を見開いた。
「どうですか?」
「やれるのか、エリーゼ?」
「分かりません……けど、可能性はあると思います」
「まあ、このままじゃどうにもならないし、一か八かやってみるしかないか」
「はい!」
俺が拳を出すと、エリーゼも拳を作り、俺の拳に合わせる。俺とエリーゼの覚悟は決まった。
「じゃあ、俺は時間を稼ぐ」
「お願いします」
俺は再び合成獣の元へ向かい、スキルを放った。
「【挑発】!」
「なっ!」
後ろに引いていくナッシュ達が驚いた顔をする。エリーゼはそんな彼らに作戦を説明すると、精神集中に入った。
ゴウウウ
エリーゼが精神集中を始めた途端、マナが騒ぐのを感じる。これなら行けるか……?
(いかんいかん! 俺は合成獣に集中だ)
俺は気を引き締め、合成獣に向き直る。
「グオオン!」
合成獣は相変わらず絶え間なく攻撃することで俺を追い込んでいく。くそっ! さっきよりも攻撃が早い!
(エリーゼを信じて耐えろ……)
エリーゼは今、一か八かの大技に挑んでいる。俺に出来るのは彼女のために時間を作ることだけだ。
「行きます! 【精霊賛歌】!」
来た! さて、どうなるか……
「来た! 風だ!」
「アドゥ、下がってくれ!」
合図と共に俺は後退する。
(希望通り風精霊が応えてくれたみたいだな)
本来、【精霊賛歌】はこちらが召喚する精霊を選べるようなスキルじゃない。だが、エリーゼ曰く、森の荒れように木精霊や樹精霊だけでなく、風精霊も怒っているというのだ。
(【精霊賛歌】は自分の祈りに応えてくれる精霊を待つんじゃなく、状況によってはこちらから選んだ精霊に対して呼びかけることが出来るスキルなのか。知らなかったな)
合成獣を中心として風がうねる。そして、それを待っていたように【火槍】が炸裂した。
(やった!)
大風で大きくなった炎に飲まれた合成獣が苦悶の声を上げた!
「まだまだ!」
火を消そうと地面を転がる合成獣に再び【火槍】が飛ぶ。風はどんどん激しくなり、合成獣を包む炎はますます強くなった。
「これでっ!」
俺は隙だらけの合成獣に【盾打撃】を放つ。スタンさせられれぱ逃げるチャンスだ!
バキッ!
俺の【盾打撃】は合成獣の牙を折る。更にはその牙が合成獣の喉に突き刺さった!
「!!!」
合成獣は声にならない悲鳴を上げる。俺の【盾打撃】は運良くクリティカルヒットしたらしい。逃げるなら今だ!
「エリーゼ! ナッシュ!」
勿論、二人の考えていることも一緒だ。俺達は一斉に重傷を負って倒れた合成獣から逃走した。
(あの目……)
逃走しながら俺は合成獣の目がエリーゼを捉えているのを見た。理由は分からないが、この作戦の要が彼女であったことを本能的に悟ったのかも知れない。
ボタ、ボタ……
合成獣が喉の奥から血の塊を吐き出す。通常なら“ああ、倒したな”と思うところだが、この時直感が俺にそうじゃないとささやいた。
(コイツ、まさかっ!)
逃走中だから十分な防御姿勢は取れない。だが、俺は迷わずスキルを発動した。
「【機動防御】!」
俺は一瞬でエリーゼの背後に移動し、合成獣の最後の一撃を受け止める。だけど、いつもとは違って姿勢は崩れていて……
「アドゥさん!?」
驚くエリーゼの顔が視界に入ったのを最後に俺の意識は途絶えた。
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