早すぎる進化
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『灰猫』の持って来たクエストは高速種に進化した毒蜥蜴の群れの討伐だ。
毒蜥蜴は下級の魔物だが、毒を持つ厄介で危険な相手。だが、蓋を開けてみれば、俺達の戦いは終始危なげの無いものだった。
「【盾打撃】!」
俺のスキルが発動すると、『灰猫』のメンバーはリーダーのナッシュの合図で一斉に攻撃スキルを発動した。
「【蒼波斬】!」
「【火槍】!」
毒蜥蜴は回避さえ出来ずにそれらのスキル攻撃をまともに食らってしまう。それは巧みな連携のなせる技……ではなく、【盾打撃】の追加効果のおかげだ。
(スタン効果は便利だな)
【盾打撃】はダメージに加え、相手を高確率で気絶させるのだ。
「とどめだ!」
俺が心臓に剣を突き立てると、ポイズンリザードは断末魔の声を上げた。
「いや-、助かったよ。厄介な魔物が高速種になったからどうなることかと思ってたが」
Bランクパーティーの『灰猫』にとって、中級よりとはいえ下級の魔物であるポイズンリザードは単純な力比べにおいては格下の相手だ。
だが、この魔物は広範囲に毒液を吐く厄介な攻撃がある。それが高速種になると、回避が困難になるとナッシュは予想したのだ。
「流石Bランクパーティーだな。俺達とは攻撃力が違う」
「よく言うよ……アドゥがいなかったら攻撃を当てる前に毒でやられていたよ」
「そうかな?」
俺は首を傾げたが、どうやらナッシュは本気でそう思っているらしい。まあ、悪い気はしないが。
「それにエリーゼのバフにも助けられたよ。正直、【敏捷性上昇】がなかったら何発も当て損ねていたよ」
「そ、そんな! 私の力なんて」
「そんなことないぞ。俺もエリーゼの【自己治癒力強化】のおかげで耐えられたんだから」
【自己治癒力強化】はエリーゼがレベルアップにより新たに覚えたスキルの一つで、HPを徐々に回復させる効果がある。
「えっ、ええっと……本当ですか、アドゥさん?」
不安そうに、だが、どこか期待した表情でそう言うエリーゼに俺は大きく頷いた。
「ありがとうございますっ!」
俺は勢いよくそう言うエリーゼの頭を撫でた。
「解体は俺達でやっておく。二人は休んでいてくれ」
「いいのか?」
「アドゥのおかげで正直楽すぎたよ。少し体を動かしたいんだ」
そう言うと、『灰猫』のメンバーは毒蜥蜴の方へ向かう。
「じゃあ、お言葉に甘えて休んでおくか」
俺はドカッと座り込んだ。確かに攻撃を受け続けたおかげで疲れてはいるのだ。
「アドゥさん、良かったらこれをどうぞ」
エリーゼが出してくれたのは焼き菓子だ。
「これ、エリーゼが?」
「お口に合うか分かりませんけど……」
俺はお菓子を一つつまみ、口にほりこんだ。
「うまい!」
「本当ですか!?」
エリーゼが嬉しそうに顔を輝かせる。俺が一番好きな表情の一つだ。
「ああ。疲れた体に甘みが染みわたるよ」
「良かったらもっとどうぞ。いっぱいあるんです」
俺達はエリーゼのお菓子をつまみながら、ゆっくり過ごす。そのため、ソレに気付いたのはナッシュ達より早かった。
「まさか、あれは!』
茂みの揺れがナッシュ達に向かっている。茂みの合間から見えるのは蛇の尻尾に……
「アドゥさん!」
「分かってる!」
俺は盾を持ち、スキルを発動した。
「【機動防御】」
俺がレベルアップで覚えた新スキルだ。俺はスキルの効果で瞬く間にナッシュの背後に移動して……
ガキン!
背後から噛みつこうとしていた獅子の頭の牙を盾で受け止めた。
「わ! コイツは合成獣か!」
「こんな大物がどうして!?」
不意を打たれたナッシュ達は慌てながら戦闘準備をし始めた。
「【体力上昇】」
エリーゼのバフが俺に届く。いつも思うことだが、彼女はいつも欲しいバフを俺にくれな。合成獣は上級モンスター。俺の防御力でも不安が残る。
(そして多分……)
キマイラの体つきを見て、俺は直感した。このキマイラは高速種に進化していると。
「【守護壁】」
俺がスキルを使うのと同時にキマイラの尻尾が俺を襲う。俺は盾をかざすが、そうすると今度はライオンの顔が俺に噛みついてきた。
「くっ!」
俺はやむなく後退する……が、それは悪手だった。合成獣は山羊の後足のバネを使って俺に飛びかかってきたのだ!
「!!!」
押し倒されたら俺の負け。俺は前傾姿勢をとると、【盾打撃】を打つ構えを取った。
「アドゥ、それは!」
俺の意図を読んだナッシュが青ざめる。そりゃそうだ。Cランクでしかない俺が上級モンスターと真っ向からぶつかろうというのだ。無謀というより自殺行為だ。
(だが、行ける!)
にも関わらず、俺が勝負を挑んだのには理由がある。いや、理由というよりは確信か。
「行くぞ! 【盾──」
その時、俺が待っていたものがやって来た!
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