対策会議
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(国王視点)
憂鬱だ。
何故ならワシの嫌いな会議があるのだ。
しかも、今日は側近や大臣、ルーンガイア王国の冒険者ギルドを取りまとめるギルド大長らを集めた取り分け面倒な会議ときている。
「新種の魔物……厄介だな」
やれやれ、また面倒なものが現れたな。
「こちらの戦術に対応して進化したのでしょう」
側近がそう言うが、何の役にも立たないぞ、その情報!
ワシは改めて手元の資料を見返した。
『高速種』と名づけられた魔物は子鬼以外にも発見されており、彼方此方で猛威を振るい始めている等々
全く嫌なことしか書いていない資料だ!
「今までもあったことです。ロールを工夫してパーティーを組むだけです」
流石冒険者ギルド大長、何か腹案でもあるのか?
「具体的には何かあるのか?」
「まずはタンクです。元々重要なロールですが、最近攻撃力を重視するあまり、一部でタンクを低く評価するきらいがありました」
「その認識を改めるということか」
「はい。また、サポートについても考える必要があるかも知れません。とにかくロールによって戦術がガラッと変わるので」
餅は餅屋だな! それで次にどうするんだ?
「まずは高速種に対して良い戦果を上げているパーティーを探します。その上で奴らと戦うために必要なロールを考えます」
「ほうほう、なるほどな」
「既に高速種との戦いではタンクが重要だという知らせを支部から冒険者に流す手筈は整っています。じきに戦況は変わって来るはずです」
そう言う話が聞きたかったんだよ、ワシは! ワシはギルド大長にこの件における全権を委任し、会議の終了を宣言した。
※
(アドゥ視点)
「大分慣れてきたな」
「そうですね。流石アドゥさんです!」
あれから俺達は色んなクエストで新種の魔物──『高速種』と遭遇した。
今のところ、高速種が確認されたのは下級の魔物だけだが、その種類はどんどん増えており、中級の魔物の高速種が現れるのもそう遠くないだろうと言われていた。
「それにしても、アドゥさんはモテモテですね」
エリーゼが言うのは異性の話じゃない。色んなパーティーから勧誘を受けていることだ。
「まあ、悪目立ちしてるからな」
高速種が猛威を振るい、高ランクパーティーでさえ痛い目に遭う中で、俺達は安定してクエストをこなすことが出来ている。そのため、あちこちのパーティから勧誘が来ているのだ。
「エリーゼだってレベルが急上昇したから受付の職員が驚いていたじゃないか」
エリーゼのレベルは現在五十三。俺達がパーティーを組んだ二週間前と比べてレベルが十三も上がってる。どうも高速種は経験値が多いらしいのだ。
ちなみに俺のレベルは六十に上がっている。
「全部アドゥさんのおかげですよ。私達、『守りの樹』のパーティーランクもCになりましたし」
『守りの樹』というのは俺達のパーティー名だ。実は内々に“Bランクにならないか”と言われているが、断っている。まだまだ俺達はその器じゃないからだ。
「そう言えば、エリーゼはまだ森に帰らなくてもいいのか?」
話しながら、俺はエリーゼが最初、“森に帰るための旅費を稼ぎたい”と言っていたことを思い出した。
エリーゼの森が何処にあるのかは知らないが、大分クエストをこなしたからそこそこのお金が貯まっているはずだ。
「……ええ、まあ、今はまだ。高速種が現れたりと状況が安定してませんから」
「良かった。エリーゼにいなくなられると困るからな」
「ほっ、本当ですか?」
エリーゼが驚いた顔をするので、俺は大きく頷いた。
「エリーゼのバフは心強いよ。おかげで安心して戦える」
それは事実だが、それだけではない。俺はエリーゼのことが気に入っていた。クルクル変わる表情も、スラッとした手足も、俺のために誰より激しく怒ってくれるところも。
そして、だからこそ言っておかなくてはならない
「だけど、俺に遠慮して森に帰るのをやめるとか言うのはなしだからな。もし、エリーゼさえ良ければ、森で用事を住ませた後、またパーティーを組めば良いんだから」
「……っ! はいっ!」
エリーゼが少し目元を赤くしてそう答える。レベルは上がったが、自信がないのはあまり変わっていないのだ。
「なあ、アドゥ。次のクエストだけ一緒にやってくれないか?」
そう声をかけてきたのはBランクパーティー、『灰猫』のナッシュだ。
「アドゥが俺達のパーティーに入る気がないのは知ってる。だが、次のクエストは優秀なタンクがいないとキツいんだ」
「誰も見つからないのか?」
実は最近、ミンスではタンクの需要が急上昇しているのだ。ギルドは何の情報も出してこないが、悪目立ちしている俺達のロールを見れば、誰もがタンクに注目する。そのため、タンクは引っ張りだこになってるのだ。
「その通りだ。頼む! 俺達『灰猫』と『守りの樹』の協同受注と言うかたちでこのクエストをこなしたいんだ」
そう言うと、ナッシュはあるクエスト依頼書を俺の前に出した。
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