破滅の序曲
応援ありがとうございます!
後半ちょっと微妙な場面があるかもです。苦手な方は飛ばして下さい。
(セシル視点)
最近、戦闘が上手く行かない。以前と比べて敗走する回数が増えたのだ。それに勝てた時でも、怪我をする場面やピンチの場面が多い。
(前はシオンが戦闘中に回復魔法を使うことなんてなかったのに)
今までは何も考えずに攻撃だけすれば良かったのに何でだろう。
「別にクエストはこなせてるんだし、大丈夫!」
ニノは楽天的だが、本当にそうか?
「こういう時もある。私がいるから大丈夫」
シオンまで……まあ、俺が気にしすぎなのかも知れないな。
そんな中、俺達はあるクエストを達成した後、村へ戻る最中にそれに出会った。
「何だ、アイツは?」
子鬼か? それにしては妙だな。
「ギギ!」「ギ!」
しまった! 気付かれたか。相手は三匹。脅威というほどではないが、……
「大分MPは使っちゃったけど、子鬼くらい──」
言い終わる前にニノの体が吹き飛び、後ろにあった大木に叩きつけられた!
「なっ!」
驚く俺も攻撃を受ける。くっ! このスピード、子鬼とは思えない!
「シオン!」
「分かってる!」
俺はその場で二匹の子鬼を相手にする。くそっ! 攻撃力も高いな。
「くらえっ! 【蒼波斬】っ!」
俺はスキルを発動して攻撃するが、奴らは素早い動きで回避するため、三発打ってやっと一回当たるような感じだ。
「このっ! 触るなっ!」
俺がやっとの思いで子鬼を一匹倒した時、ニノの悲鳴が聞こえてきた。
「なっ!」
思わず振り返ると、一匹の子鬼がニノを押し倒し、馬乗りになっている。
(そんな! ニノにはシオンがカバーに入ってるはずだが)
よく見ると近くにシオンが倒れている。くそっ! 二人ではこのスピードに対応出来なかったか
(いや、反省は後回しだっ!)
好色な奴らのことだ。何をしようとしているかなんて考えなくても分かる。
「ギキギッ! ギギ!」
「やめて!」
ビリビリと服を破る音と共にニノの悲鳴が大きくなる。
「ニノッ!」
「ギキギッ!」
背を見せた俺に子鬼が襲いかかる。俺は深手を負うが、今はそれどころじゃない。
「【蒼波斬】!」
【蒼波斬】は斬撃を飛ばすスキル。興奮していた奴はかわすことさえ出来ずに絶命した。
「後は──ガハッ!」
ようやく態勢を立て直すが、そこにもう一発食らう。やばい……意識が
「【火球】!」
「ギ!」
【火球】を受けた子鬼は勢いよく燃えあがり、直ぐに事切れた。
「大丈夫かー!」
少し離れたところから冒険者らしき人影が走ってくる。たまたま高ランクの冒険者がいたらしい。正直助かった……
※
「あの新種の子鬼、あなた達のような高ランクの冒険者でも苦戦するような相手なんですか……」
俺達を助けたのはDランクの冒険者三人組。普段なら気にもかけない相手だが、危ないところを助けられてはそうもいかない。
(リックとか言ったか、こいつ。くそっ……こんな雑魚の前で醜態をさらすとは……)
リーダーの俺は重傷、シオンは昏倒、更にニノは強姦されかけた。いくら新種とはいえ子鬼如きにこうまでされるとは屈辱の極みだ……
「……間が悪かったな、流石に」
「「「……」」」
こうは言って見たが、負け惜しみにもなってないな。ああ、黙ってりゃ良かった。
「そう言えば『銀の爪』の皆さんにはタンクがいないんですね。大丈夫なんですか」
「“大丈夫?”だと……」
リックの口調に触発された言い知れぬ感情を押し殺した後、俺はふと言葉の意味を考えた。
(何言ってんだ、こいつ)
まあ、所詮Dランク。ロールのことは何も知らないんだろう。
「防御しかできないタンクなんていらないな」
俺の正面にいたデカい盾を持った男がムッとする。リックは俺とそいつの顔色を見比べながらあたふたした。
「えっ……奇襲を受けた時とかどうするんですか? それにタンクがいるとヒーラーや魔術師系クラスの安定感が違いますし」
は?
「攻撃しまくれば相手は何も出来なくなるじゃないか」
「や、それが通じるのは格下の相手だけでは? さっきの子鬼のような強敵ならそうはいかないのでは……」
俺達が子鬼と同格だとっ!
(落ち着け……落ち着け……相手は所詮Dランク。何も分かっちゃいないんだ)
俺はそう自分に言い聞かせた。Dランクなんて一般人に毛が生えたレベルでしかないのだ。
「まあ、君達にはまだ分からないかも知れないな」
「「「……」」」
俺は寛容にもこう言ってやったが、三人の表情は何故か冴えなかった。
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