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露店

応援ありがとうございます!

「うわーっ! 結構色んなお店がありますね!」


 俺も店の多さに驚いていた。しかも商品のバリエーションが豊富で、食べ物は勿論、衣服や日用品に雑貨等々色々なものが売られている。


「ミンスには商人がいっぱいいたんだな」


 普段はちゃんとギルドに許可を得た商人でないと店を開けないが、祭りの日だけは誰でも商売が出来るのだ。


「あっ! あそこに何かありますよ。行ってみましょう!」


 エリーゼに連れられて行ったのはマントを売っている店だ。


「ん~、あっ! これなんかどうですか?」


 エリーゼが見つけたのは深い緑色のマントだ。“どう”っていうのはエリーゼに似合うかどうかってことかな?


(エリーゼには何でも似合いそうだけど)


 色合いも落ち着いていて悪くないな。


「似合うと思うよ」


「私じゃなくてアドゥさんですよ! マントもそろそろ替え時じゃないですか?」


 確かに……


 しかし、エリーゼは俺のことをよく見ているな。


「生地も良いものですし、色もアドゥさんにぴったりです!」


「そうだな。じゃあ、これを貰おう」


 早速採寸してもらったが、あまり直す必要はなく、明日宿に届けてくれるという。

 

「あ、アドゥさん! ここは私が」


「え、いや、悪いよ」


「これはお祝いですから」


 ん? お祝い? ああ、赤暴牛レッドバイソン討伐のお祝いってことか。しかし、エリーゼの手柄でもあるし……


「あ、私もアドゥさんと同じマントにしようかな。すみません! 私にも同じ物を下さい」


「カップルで同じマントか。可愛いね。よしっ! 半額にして上げよう」


 おいおい、妙な誤解をしないでくれ!


「カ、カップル……」


 あ、あれ? エリーゼは顔を赤くするだけで否定しないぞ? このままじゃ誤解されたままになるぞ。


「あんた、町に近づいてきた赤暴牛レッドバイソンを倒した英雄だろ?」


 当惑するエリーゼに隠れて店主が俺にコソコソと話しかけてきた。


「英雄ってわけじゃ……たまたまだ」


「またまた! 可愛い彼女じゃないか。あそこで値打ち物のアクセサリーを売ってる。俺の紹介だと言えば安くしてくれるからのぞいてみな」


「あ、ありがとう」


 まあ、俺からもお返しに何か贈るべきだよな。


 って、エリーゼとはそう言う関係じゃ……


 何か言おうとした時には店主はもうエリーゼの採寸をしていた。


「あ~、エリーゼ。あっちにアクセサリーとかあるみたいだし行ってみる?」


「行きたいです!」


 採寸が終わったのを見計らってそう言うと、エリーゼはそう言って目を輝かせた。


「うわ~ 凄いですね」


 親指を立てる店長に見送られながら教えられた店に行くと確かに良さそうな品が所狭しと並べられていた。


(うわー 凄い数だ)


 どれがエリーゼに似合うんだろうな……正直どれも似合うと思うけど。


(ん?)


 エリーゼとアクセサリーを見比べて困っていた俺に店主のおばあちゃんがそっと目配せをした。


(何だ……?)


 エリーゼの様子を窺うと、視点が一点に集中している。その先にあるのは……


「気に入ったものがあるのか?」

「あっ……いえっ、その」


 エリーゼが見ていたのは深い青色の宝石がついたブローチだ。宝石の色、大きさ、細工の見事さなどがずば抜けており、一目で値打ち物だと分かる品だ。


「いいブローチじゃないか。エリーゼの瞳と似た色だし」


 と言いながら、俺は心の中で首を傾げた。エリーゼの瞳は水色に近い青で、こんなに深い青ではない。

 

「……母様の瞳の色と似ていて」


 母親の? 


 何だか訳ありっぽいな。


「おばさん、これをくれ」

「あいよ」


 値札に書かれた金額に怯まずそう言った俺におばあちゃんは笑顔を見せる。


「だ、駄目ですよ、アドゥさん! こんな高価なもの!」


「これはお祝いだから」


「お、お祝いって! それ、私が言ったままじゃないですか」


 まあ、この種の話をまともにする必要はない。俺はこの店を紹介してくれた男の名前をだしながら、おばあちゃんと手早く商談をまとめた。


「ほら、お嬢さん。せっかくだから彼氏につけて貰いなよ」


 だから、エリーゼとはそう言う関係じゃないって……


「ううう……」


 エリーゼはモジモジしながら俺の方を向く。嬉しさと俺への申し訳なさが同居したようなその表情は意地悪をしたくなるくらい可愛い。


「ひょっとして迷惑だった?」

「そ、そんな! 迷惑だなんて!」


 エリーゼが飛び上がりそうなくらい驚いた顔を見せる。


「だったら、言って貰わないと分からないな~」


「っ!」


 エリーゼが顔を赤らめながら困ったような表情を浮かべる。エリーゼには悪いが、そんな表情も可愛い。


「あ、ありがとうございます、アドゥさん」


「俺が君へあげたかっただけだ。気にしないでくれ」


「アドゥさん……」


 エリーゼが瞳を潤ませる。そんな俺達を見たおばあちゃんは深いため息をつく。


「尊いのぅ……」


 おばあちゃんのよく分からない言葉に送られて俺達は店を出た。

読んで頂きありがとうございました! 次話は明日の7時に更新します!

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