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第九話 調律型前傾歩行攻撃機「コンコルディア」-後-

ー展開ー



[何故、まとめて始末しなかったのだ]


[もったいないと思ったからだ]


[──?何をだ]


[せっかくこのマテリアルで人間と接触できた、もっと人間を知りたかった]


[私はお前に遊びに行けと命じたつもりはない、ウロボロス]


[わかっている、次はない、きっちりとやる]


 メインシャフト内に転がるナノ・ジュエルの残骸でせっかく作ったのだ、あの作品を。ここで失敗は許されない、失敗は我々の自決を意味する。

 たまったものではない、人間に作られ、人間に振り回され、人間でないモノに喰われるなど。

 奴ら人間が、中層に戻ることが問題なのではない。これ以上、数を増やすきっかけを与えることが問題なのだ。

 奴らはしぶとい。何度、駆除機体を使って掃除したことか、逃げるわ戦うわ守りを固めるわ、繁殖力も適応力も尋常じゃないぐらい高い。

 ガイア・サーバーに保存された太古の生存種の中に、昆虫綱ゴキブリ目という項目を見つけた。姿形は全く違うが性質は同じだ、どんな環境でも生き抜く。

 タイタニスが建造したエリアはおろか、テンペスト・シリンダーの外部に建てられた堀の中ですら生きている、驚嘆に値する。

 私の役目は、テンペスト・シリンダー内の生存種を把握し管理することだ、必要に応じて数の調整も行う。大昔は中層に動物達も、害のない昆虫達も数多く存在した。

 調和の取れた理想的な環境だった、食物連鎖の流れも完璧で私が作った箱庭はまるで、一つの芸術品のように美しく惚れ惚れとするものだった。

 それを!人間は!自らの糧のためだけに殺し!食らいつき!調和を崩して箱庭を崩壊させた!

 どうして奴らは我慢ができないのか、決められたラインを守っていれば永遠の繁栄が約束されているというのに何故破る!超える!おかげで動物達の数は減り続け、昆虫達も無残に殺された!

 最初は私も我慢していたさあぁ我慢していたとも!減り続ける動物達の補填を健気にも続け、これは駄目だとマテリアル・コアで介入して対話を求めたが塩対応だふざけるな!

 我々の役目は人類の発展を手助けするものと言われているが本当か?バグってるんじゃないのか?奴らの好きにさせていては、テンペスト・シリンダーも地球と同じ結末を迎えるのが目に見えているではないか!


[ディアボロス?]


 子機の呼びかけで我に帰る。私もマキナとして覚醒してから随分と人間臭くなったものだ吐き気がする!!


[ウロボロス、聞こう、初めて見た人間はどうであった]


[…分からない、情報が足りない、なぜ私が撃たれたのか分からない]


 当たり前だろう、人間を二人駆除したのだ。敵と見なされて当然だ。


[次は、頭ではなく、胸を狙おうと思っている]


 そうゆう問題なのか?結果は同じだろう、もう少し知恵を与えるべきだったかもしれない。


[いや、待ってくれ、胸ではなく股間を狙ったほうがいいかもしれない]


 いやだからそこじゃないだろ、結局攻撃しているのだ反撃されるのが分からないのか?


[ディボロス、次は、どこを狙えばいい?どこを狙えば、人間のことが分かるようになる]


 …まさかそんな相談をされるとは思わなかった、血しか出ないだろうと答えようと思ったがやめた。私の芸術品を壊す人間に興味がない。


[ウロボロス、お前はポッドに入っておけ、調整しておく]


[あぁ、助かる、もっと私に攻撃手段を与えてくれ]


 いや絶対そんなことしないからなと思いながら通信を切る、どんだけ筋肉馬鹿なんだ。

 子機も考えものだ。手足としては十分だが、余計な知恵は行動に支障をきたしてしまう。

 …私が悪いのか?



✳︎



-コンコルディア・起動-


 低い唸り声と共に目を覚ます。

 対ビースト用に開発された決戦兵器だ。


-コンコルディアパイロット・承認-


 カリブンをかき集め、街の研究者共を女と金で釣り、作らせた機械の化け物。


-コンコルディア擬似マテリアル・展開-


 メインシャフト内で通信機器が断絶されてから二時間が経過した、これ以上の通常作戦は続行不可能。

 本来であれば、中層までの道を開き、安全経路を確保してから起動する計画だった。計画に変更はつきものだ、予定通りにいくことなど何一つとしてありはしない。


「シャッターを開けろ、前に出る」


 オペレーターに宣言する。

コンコルディアが格納されているシャッターが開く。

 まるで、母親から生まれる赤ん坊のような思いだ。世界が開かれ、産声を上げる。

 今日まで戦ってきたビーストを食らう喜びと、思う存分に力を震える感動を、今か今かと待ち焦がれるように。

 調律型前傾歩行攻撃機コンコルディア、ビーストを殲滅し、中層の支配者と成るべく生まれたファクシミレ・マキナがここに。



ーLOOOOOOO@@@@@@@####!!ー



✳︎



「忘れろ」


「無理です」


「忘れてくれ」


「嫌です、隊長に言ってもらえた言葉は一生忘れません」


 …そっちのことか。私が言っているのはラジルダの前でやらかした失態のことなのだがまぁいい。


「隊長、さすがに引きましたよ?」


「だから忘れろと言っているだろ」


「あぁそっちのことですか」


 ここでお互いに言いたいことが噛み合う。


「…あの、一つ聞いてもいいですか?」


「あぁ、もしあの時非常階段に設置された爆弾を教えたのがお前なら、今頃子供が生まれているだろうな」


「…隊長ってもしかして頭がわぁぁぁぁ!」


 文句を言いかけたテッドの頭を胸へと押し付ける。


「やめっ、ちょ、やめて下さいっ!」


「何だ嬉しくないのか?どうせあの時、自分だったらどうしていたかと聞きたかったのだろう?」


「そうっ、そう、ですっけど!うふぇ!」


 胸から離し、今度はテッドの顔を両手で挟む。血豆やたこだらけの女らしくない、あまり人に触れられたくない手で、思っていた通り柔らかいテッドの頬を触る。

 互いの鼻が触れ合う程近くで見つめ合い、


「テッド、お前は良いおとごほぉっ」


 殴られてしまった。

 やり過ぎた、まだ少し気持ちが高揚しているらしい。


「いかっ、いい加減にして下さいよっ!怒りますよっ!」


 もうすでに怒っているだろうが、殴られたみぞおちが痛む。


「二人とも、いいか?そろそろこれからどうするか相談したいんだが」


「私の旦那に聞いてくれ、寝るかどうか相談しているところだ」


「まぁだふざけるんですかぁ隊長?」


「おい!いつまでやってんだ、こっちはてめぇらのイチャつき見てる程余裕ねぇんだよ!!」


 それはそうだ、当たり前のことを言われてようやく正気に戻る。

 エレベーターの壁には、爆発の衝撃で空いた穴がある。すぐ外側に位置する非常階段に設置された爆弾を、ビーストが食い破って出来た隙間から撃った。何発目かで弾丸が爆弾に当たり、今に至るということだ。

 だが、困ったことに小型エレベーターが停止してしまった、昇降装置を点検しようにも危険が多すぎる。音が鳴り止んだ今だからこそ、テッドとふざけることができたが、私達が動き出せばどうなるか分かったものではない。

 私とテッドの二名、設置班である第七部隊はラジルダ、足を撃たれた者、テッドに絡んだ者の三名、合計五名が動かなくなった鉄の檻の中にいる。

 名前はラジルダ以外忘れた、覚える必要がない。

 いや、名前を言っていたがテッドを弄ぶことしか頭になかったな。どのみちに聞いていない。

 …落ち着くのにもう少し時間がかかりそうだ。

 


✳︎



「えー何これーマジ臭すぎるんですけどウケるー」


「ヤバすぎだってマジで、え?雨降ってた的な?雨漏りしてる的な?」


 ぎゃはははと笑い声が聞こえる、苦手な先輩達だ。一体何影響されたらあんな喋り方になるのか。

 通信が出来なくなってもう二時間近く経つ、その間私達はずっと待機。え?暇すぎじゃね?

 馬鹿なモノマネをしていると、神経質な隊長が通信室に戻ってきた、表情はここを出て行った時と変わらない。ため息が出る。


「待機だ、もう少し待て」


「えーなんそれさっきもそー言ってましたよねぇ?隊長いつまで待たせるんスかぁ」


「帰りてーマジ無駄この時間無駄マジでー」


 …何今の文句の言い方。すごくね?えやばくね?


「リーちゃん」


「うぇ?!あっな何?」


 癖になってしまったモノマネを聞かれたかと思い少し驚いてしまった。同僚のシズネ、席も隣り同士でよく話す。


「ちょっと休憩しに行かない?さすがに疲れてきちゃったよ」


「あぁ、うん、行こっか」


 上目使いでお願いされる、苦手だ。


「あー何ー休憩行くん?あたしらの分も買ってきてくんなーい?奢りで」


 ぎゃはははとまた笑い声、めんどくさいので二つ返事で了承して通信室を出る。

 朝方に降っていた雨も上がり、雨雲も風で流れてくれたのか、今は太陽が顔を出している。休憩室へと向かう通路からは、水滴で濡れた道路や植え込み、前線の人達へ送る追加の装備類が見える。奥のほうに見える格納庫はシャッターが開いている、あれ朝来た時は閉まってたはずだけど。


「ねぇリーちゃん、ほんとに買うの?」


「あぁうん、買うって言ったしね、断るのもめんどくさかったし」


「でも、そんな買うことないと思うけど、隊長に話してみようか?困ってるって」


 だからそれがめんどくさいって言ってじゃんか聞いてた人の話?


「あれ?」


「どうかしたの?リーちゃん」


 ボタンを押しても反応しない、休憩室に設置された自動販売機がうんとすんとも言わない。代金は天引きだから購入するまでお金はかからないけど…ん?


「何かニオわなくない?」


「リーちゃん?」


 しまった、ついにモノマネが口に出てしまった。


「ごめんごめん、いや、何か臭いなと思って」


「…ほんとだね、もしかしてこの販売機から?」


 そう言われ、自動販売機の裏を覗き込む。コンセント部分は見えないが、壁が黒くなっていた。


「あ、待って!リーちゃん!」


 私は弾かれたように走り出す。苦手な先輩達が騒いでいた内容を思い出したからだ。

 休憩室を出て、廊下を走り通信室へと駆け込む。


「おー早いじゃーんリオナーあんたいい子だねー」


「何も買ってきてませんから!」


「どーしたん?慌てて、きゃああ!」


 どこから出たんだその悲鳴は。思ったより可愛い人なんだなと思いながら、先輩の机の下を覗き込む。やっぱりだ。


「隊長!通信舎の電源室は見ましたか?!」


「?いや、見ていないが、どうかしたのか?」


「見ろよ!!」


「?!誰に向かって口を聞いてるんだ!」


「休憩室の自動販売機もコンセント部分が真っ黒でしたよ!ここと同じ!」


「…通信機器の故障ではなく、過電流でショートしたというのか?」


「どうしても誰も確認しに行かなかったんですか!私の貴重な二時間を返せ!」


「やかましい!仮病で休もうとした奴が偉そうなことを言うな!!」


「もう治ったんですぅ!!仮病じゃありませんよ!!」


「もういい!だが良くやった、あとは電源さえ確保できれば何とかなりそうだ」


 にわかに慌ただしくなる通信室、隊長や他の人達がどこそこへと走り出して行った。


「リオナーあんたすごいじゃん、」


「何で早く報告しなかったんですか!先輩の壁際にこの通信室へ電源ケーブルが通されてるんですよ?!先輩がしっかりしないと誰も気づけないじゃないですか!!何がウケるよ!!」


「っ、ご、ごめんなさい…」


 普通に喋れるのかよ!

慌てた隊長が通信室へと戻ってきた。


「おい!この中で一番自宅が近い奴は誰だ!」


 一斉に皆が私を見る。え


「…私ですけど、何か、」


「さっきの威勢はどこへ行ったんだ?もう何を言われるのか分かっているよな?基地中でショートが起こって予備のカリブン・ストーブが足りないんだ。取って来い!」


「嫌です!」


「こんな非常時にふざけるな!」


「嫌なものは嫌です!」


「いい加減にしろ!取りに行けと言っているだろう!」


「せっかく家に帰ったのにまた来なきゃ行けない人の気持ちが分かるんですか?!!仮病使ってでも休もうとした人に頼むことじゃないでしょ!!」


「………取りに行け、明日の休みは私から出しておく」


「行ってきます!!」


 暫くして基地の通信が回復した。

 あれでもどうして格納庫のシャッターは開いてたんだろう…まぁいいか。明日は休みになったんだし。

 ん?仕事なくなるのに休みとか関係なくね?



✳︎



 第一部隊長のナツメに抱きつかれ、激しかった動悸がようやく落ち着いた。

 …隊長だったのか。失礼なことを言ってしまったと頭を下げたら、気にするなと頭を撫でられてしまった。辞めてくれ、俺はスキンシップに弱いんだ。

 動かなくなってしまったエレベーターに閉じ込められ、身動きが取れなくなってしまっていた。


「おい!ドジルナ、どっかから抜け出す道とかねぇのか!」


 同じ部隊のハナカラに声をかけられる。俺をよく馬鹿にする隊員だ。


「こ、ここからでは無理だ、まずはエレベーターを動かさないと」


「それが出来ないから道聞いてるんだろ!相変わらずドジだなお前は!」


 いつものことだ、慣れている。だが、今日は我慢にならなかった。


「ハナカラっ!!」


「っ?!」


「いい加減にドジだと言うのはやめろぉぉ!!」


 俺の声が思っていたより響いたことに驚いた。銃声と変わらない、しまったと思った矢先に嫌な音がした。


「ビーストか?!て、てめぇのせいで!!」


「謝る必要はない」


「ラジルダさんのせいではありませんよ」


 間髪入れずに助けてくれる二人、どうして俺はこんな部隊に居たのだろうと今更後悔した。助けてくれる奴もいるのだ。

 下か、上か、音が反響しているので分からないが間違いなくこのエレベーターを目指している。

 俺のせいだ、せっかく助かったというのにまた危険な目に合わせてしまう。

 突然、床から大きな音がした、音は一回。

 何かがエレベーターの底に張り付いているのか?さっきから歩く音がする。


「隊長、」


「一階層で見たあいつか、」


 あいつ?あの細長くて隊長の首をはねたやつか。どうしてここに?

 歩く音は鳴り止まない、うろうろと歩く。


「おい、上から撃てばいいじゃねか、今なら無防備だろ?」


 ハナカラが小声で話す。


「いや、その必要はない」


「あぁ?倒さねぇのか?」


「ラジルダ、近くに残っている爆弾は?」


「いや、ここにはもうない、さっきのが最後のはずだ」


「わかった、テッド、穴を監視しろ、ラジルダ、お前は私について来い」


「何か、するのか?」


 隊長の言葉を聞いて、恐怖と興奮が不思議と同時に起こった。


「あぁ、お前にしかできないことだ。恐らくカーボン・リベラでもできるのはお前だけだろう、私達が援護をする、お前は天井から上に上がって昇降装置の修理をしろ」


「あんた、こいつのこと信用してるのか捨てたいのかどっちなんだ?下にビーストがいるんだぞ?」


 その通りだ。さすがに返事ができない、そんな中で集中できるとも思えない。


「これ以上ここにいても意味がない、出口も抜け道もないんだ、どのみち装置を修理するしかないが、先に敵に動かれてしまった」


「イチャつくてめぇらのせいだろぉ!」


「こんな中でも集中して作業ができるのはラジルダ、お前だけだ。いいか、自覚していないだろうからはっきり言うが、お前はただ、マイペースなだけだ」


 …何を言い出すのかと思えば。だが、足元のビーストよりもナツメの言葉の方が早く耳に届く。下が気にならない。


「マイペースな奴は、仕事は遅いが出来は良い」


 その一言で心に火が着く、もう説明は要らない。


「…わかったか?ならいい、上がってくれ、期待している」


「あ!…あぁ、わかった」


 また大声が出そうになった、止めるのに苦労した。

 壁側に設置された点検用梯子に手をかけ登る。蓋を開き昇降装置が設置されている天井へと出る、そこでまた声が出そうになった。

 やつがいた。隊長を殺したビーストだ。まるで人間のような体型、毛が全て抜け落ち手足にはびっしりと刃物のような物が突き出ている。

 それにいつの間に天井へ来たんだ?さっきまでエレベーターの底にいたはずだ。


(何も、してこない?何故…)


 こちらを観察するようにじっくりと見ている。いつも戦っているビーストとは違う、明らかに理性を持って俺を見ている。


ーLOOOOO@@@@#####!!ー


 咆哮と同時に奴が跳躍する、襲われたと肝を冷やしたがそのままどこかへ行ってしまった。ならいい、俺の頭は昇降装置を直すことでいっぱいだ、気にならない。

 ナツメに言われた一言が頭から離れない。仕事が遅い奴は出来が良い、と。

 カーボン・リベラで俺しかできないことを成し遂げ、今日まで馬鹿にしてきた奴らを見返す日がやってきた!ドジだと馬鹿にした奴らに言い返してやろう!お前らにビーストに襲われながら装置の修理ができるのかってな!



✳︎



 一度も使用されたことがない四番基の扉が開く。最初は本当に開くのかと、手にした自動小銃の重みを頼りにして眺めていたが、開いたようだ。


(あぁ、本当に行くのね、戦場に)


 盛大に軋む音を鳴らしながら、扉が開く。四番基が最も広いと言われているが、知ったことではない。私が初めて足を踏み入れるエレベーターだ、比較のしようがなかった。

 第二部隊の隊員を連れてエレベーターへ乗り込む、入り口近くに設置された照明ライトのスイッチを入れる。ライトの光で目が焼かれたかと思った。

 広い、間抜けな言いようだが本当に広い。訓練所として開放した方が有意義な使い方になるのではと、どこか現実離れをした感想が頭に思い浮かんだ。


「サニア隊長、電装系に異常ありません」


「昇降装置に問題ありません」


「床、問題なし?」


 疑問系になるのも分かる。アレを乗せて大丈夫かと私も思う。


「こら!何ふざけてるの真面目にやりなさい!」


 小さく叱責する声が聞こえた、とても真面目な隊員だ、周りをよく見てくれる。一度も褒めたことはないが。


[サニア、報告を]


「エレベーターに問題はありません、床の強度は調べようがありません」


 端的に返す、新しい玩具を買ってもらった子供のようだと馬鹿にしている自分がいた。


[ならばいい、道を開けろ]


 言われなくても。

 地面が揺れた、私達の背後から来る。

 前屈みで歩いてきた大型の攻撃機、対ビースト用に開発されたと聞いた、名前はコンコルディア。私のアパートと同じ高さはあるかしら、とやはり先程から現実離れな感想しか出てこない。

 頭部はビーストを思わせる、カメラとして機能している眼球は無色透明。この図体で食事でもするのかと、牙までついている。

 垂れ下がった腕には大型の機関銃のような武器が装着され、爪も丁寧に付けてあった。

 首が痛くなる程見上げても背中側は見えない、砲身が二つ肩から突き出ているように見えるが、あれをビースト相手に撃つのだろうか。

 曲げられた状態の足は、装甲板がこれでもかと付いている。鈍重に見えるが、足が破壊されたら使い物にならないからだろう。


「こんなのあるなら最初っから使えばいいのにね」


「こら!アシュ!いい加減にしなさい!」


 アシュと呼ばれた隊員と同じ感想だ。

 前屈みになってゆっくりと歩くコンコルディアには嫌悪感しかない、見上げる今の私はさながらベッドに横たわっている気分だ。盛った男にしか見えない。

 嫌悪感の正体に気づいた時にはもう、コンコルディアと呼ばれた攻撃機に興味をなくした。それと同時に、あれだけ媚を売り取り入ったパイロットにもだ。好きなだけビーストを破壊して勝手に果てればいい。


ーサニア、中層まで護衛しろー


 何が護衛だ、私達はただの露払いだろう。


「了解しました」


 吐き捨てるように返事をする。


ー良く、ここまで辛抱してくれた。あと少しだー


(よくもまぁ外部スピーカー越しにでも機嫌が分かったわね)


 けれどその気づかいで残っていた最後の忠誠心も消え失せた。この男は、私を部下として扱っていないことがよく分かったからだ。


「副隊長、編成はあなたに任せるわ、踏まれないようにね」


「はい!あの、すごい機体ですね」


「興味ないわ、私語は謹んで」


 そう返事をする。傷付いた顔をしながら下がった、名前も覚えていない副隊長が仲間の所へ戻り指示を出している。

 …私も同じね、ただの備品扱いだもの。

 盛った攻撃機と一緒にエレベーターへ乗り込む、服隊長の合図を受けて一度も声を聞いたことがない隊員が降下スイッチを押す。

 鼓膜が破れたかと思う程の轟音、一度も使われたことがない理由がよく分かった。戦場に出たことはないが、ビーストの特性は理解している。


[全員、インカムに切り替えて、これでは連携が取れないわ]


 各々返事が返ってくる、だが、


ーお前達が戦う必要はない、私の邪魔をしなければそれでいいー


 今何て?今何て言ったのかしら、戦う必要がない?では何故私達はここにいるのか、まさか盛っている所を見せつけるために?


[隊長!三時、九時の方向からビースト!]


 副隊長からの報告でそこを見やる。壁を食い破り侵入してきたビーストがいる。

 この轟音だ、敵の音が何も聞こえない。


[全員六時に退避!]


 練度が高い部隊で良かったと初めて思った。素早く後ろに下がった途端に、垂れ下がった腕が持ち上がり自前の機関銃を斉射していた。

 ばら撒かれた機関銃の弾が、侵入してきたビーストを壁ごと蜂の巣にする。それで十分だというのに背中にマウントされた砲身を敵に向けて砲弾を撃った。

 …やりすぎよこのままではビーストではなくこいつにエレベーターが落とされかねない。


[総司令、やりすぎです、エレベーターが持ちません]


ー気にするな、今日が最後だ、ここを使うことはもうないー


 ただの観客の言うことは聞かないって?ばら撒かれた大型機関銃の薬莢で、私達が怪我をすることも考えずに果てた男の言うことだ。


[全員、ビーストではなく、コンコルディアに注意を、飛んでくる薬莢は自分達で何とかしなさい]


 ビースト、今日初めて会うあなた達にお願いするのは筋違いだけど…この盛った男を破壊してくれないかしら?私達が危ないのよ。



✳︎



[ウロボロスよ、何故、ポッドから出たのだ]


[いやぁ早く人間と会いたくてさ、ごめんね?]


 こんな喋り方だったかこいつ、知恵を付けたはいいが変なところに付いてしまった。


[…良い、偽物が動いた、お前には、]


[いやでもさ、人間って面白いよな、俺のことを見ても全く動じないつうかさ、全然ビビってくれなかったから俺もビビって帰ってきちゃったよ]


[ウロボロスよ、起動を命じる、四番基の底に、]


[だからさ、もっと武器付けてくんない?そう!頭も刃物だらけにしてさ!なんならお腹に銃を仕込んでくれても、]


[人の話を聞けぇ!!しばかれたいのか!!]


[…ディボロスよ、私は人間と戦いたい、偽物に興味がない、]


[喋り方戻しても遅いわ!さりげなくワガママ言いやがっていいからさっさと四番基の底に行って起動してこい!]


 一気にまくし立てる。


[…えぇーうけたまー]


 どこの言葉だ初めて聞いたわ後で教えてもらおう。

 人間が我々の偽物を作っていたのは察知していた、サーバーにハッキングされていた痕跡があったからだ、全て筒抜けだ。

 だがいいだろう、私の作品を披露することができる。せっかく作ったのだ、私以外の評価があって初めて作品は完成するというものだ。


[…何番基だっけ?]


[だから四番基だっつってんだろ]


[わかりみー]


 初めて聞いたが使い方間違っていないかそれ。



✳︎



ーGYYYYYAAAAAA@@##@#!!ー


 咆哮が聞こえる。だが、気にならない。今の俺には昇降装置のことしか頭にない。

 何度かビーストと戦う音がしたが、ナツメ達が相手をしてくれたのだろう、今の所天井にまで来ていない。


[おい!ドジルナ!まだ終わんねぇのか!]


 ハナカラの声がするが頭に入ってこない。


[聞こえますか?!応答して下さい!]


 突然オペレーターから呼びかける声がした。ナツメが対応している、直ったのだろう。


[聞こえている!回復したのか!]


[はい!何とか、今はどちらですか?!]


[一番基の中だ、ビーストと戦闘して昇降装置が故障、修理中だ]


[うぇ修理中?!大丈夫なんですか?!]


 驚いた返答、今直しているところだ。


[何とも言えない、修理にあたっている隊員次第だが、大丈夫だろう]


 その一言だけで励みになる。


[それより状況を教えてくれ、設置作業を始めてから殆ど檻の中にいるから分からない]


[はい!設置班の帰還報告を受けていないのはナツメさんだけです!それ以外の班は何名か負傷している報告が上がっています!]


[お前リアナか?今日は随分とやる気があるな、名前を呼ばれるまで気づかなかったよ]


[明日は休みなので!]


[そうか、それより何度か聞こえる咆哮について何か分かっていることはあるか?]


[他の班からも報告が上がっています、正体は不明、音の発生源は四番基の底だそうです]


 四番基?あの使われていないエレベーターから?


[それと、セルゲイ総司令が大型の攻撃機に搭乗し、第二部隊と一緒にメインシャフトに突入したと報告も受けています]


 今頃…あぁ俺達の役割は。

 分かったところで作業の手は止まらない。仲間の命がかかっているからだ。


[それが本隊ということか………くそったれがぁ!!!]


 びっくりした、思わず工具を落としかけてしまった。

 ナツメの気持ちは分かる、だが全員がインカムを付けているのだ。


「ナツメ、静かにしてくれ、集中できない」


[あぁ?!お前ラジルダ何とも思わないのか?!私達は命がけで露払いをさせられているんだぞ?!そんなモノがあるなら最初から使えって話だろう!!]


「あぁ、そうだな、だが今は関係ない、俺が教えた爆弾でこのエレベーターは止まってしまったんだ、直したい」


[お前、]


「仲間の命がかかっているんだ、静かにしてくれ」


[くそっ、すまなかった]


 尻すぼみで謝るナツメ、話が早くて助かる。

 また、突然の振動。咆哮によるものではない。何かが動いている音。いや…


[おいおいおいおい何なんだよ勘弁してくれよちゃんとツケ払うからよぉ]


[この音は?すぐ隣から?もしかして…]


「あぁ、四番基が動いている、ここからでも見える」


 四番基の昇降装置が稼働している。錆だらけなのだろう、音が酷すぎる。


[何て音だ、不快にも程がある]


 だが、ここまで音がするのだ。代わりにビーストを引きつけてくれる。

 あと少しという所で、視界の隅に異物を見つけた。何かが登ってくるのが見えた。真っ暗闇の底から、見えるのだ、この位置からでも。

 まさか、あいつが?咆哮の発生源なのか?


「全員を耳を閉じろ!」


 次の瞬間、振動によって視界が揺らいだ。使い終わった工具が俺の代わりに底へと落ちていった。



ーピリオド・ビーストー



 昂る。何かもが一瞬。トリガーを引いた時にはもう破壊されているビースト。人が手に出来る銃では到底なし得ない攻撃力、殲滅力。

 もう終わりなのか、喰い足りない、これではこの赤ん坊は成長することができない。あれだけ怯えていたビーストに、ここまで襲ってこいと願ったのは初めてだ。

 残弾数を確認する、中層までは十分に保つだろう。


[隊長!底から、振動が!何か来ます!]


 サニアの部下だ。何故私に報告しない。


[総司令、聞こえていますね、私達に気を配らず、お好きになさって下さい]


 先程はどこか不機嫌にも見えたが、いつも通りに接してくる。


「あぁお前達は見ていろ、コンコルディアの力を、破壊してくれよう」


[えぇ、楽しみにしています、総司令]


 底に激震が走る。比べものにもならない振動、メインコンソールから機体制御にエラーが出ている。それ程のモノか、震える。

 喰える喜びだ、いきり立つと言うものだ。

底から壁へ、伝うように移動してきた喰い物が咆哮する。


ーGYYYY AAAAAA@@#@##!!!ー


 壁を殴り、破り、現れた巨体。

 …圧倒されてしまった、見上げたその巨大なビーストに。見上げた?この私がか?コンコルディアに搭乗してもなお見上げなければならないのか?

 気づいた時にはトリガーを引いていた。残弾数のことなど、女のことも忘れてただ撃った。

 心許ない、そう感じたことに恐怖する。肩の砲身を向けて、ひたすら撃った。オーバーヒートの注意が出ているが気にならない、分かっているのか?砲身のことより我が身を思えと怒りが沸く。

 動いた、これだけ攻撃したというのに巨大なビーストが動いたのだ。最大の自尊心を働かせ、女共に援護を求めなかった自分を褒めてやりたい。

 その両腕を動かし、エレベーターの壁をさらにこじ開ける。犯される女の気分だ、覗かせたビーストの顔がこちらを睨む。口を開け、極太の牙を見せつけ、吠える。


ーGYYYYャAAAAAAァァァ###@@!!ー



✳︎



 最高の気分だ!

 見ろ!あの顔!ほうけたように口を開けて驚いた顔を!これだこれだよ俺が求めていたものは!ディアちゃんには感謝しなくちゃならない!

 俺という存在を、何がなんでも相手に分からせる、無視などさせない!あのエレベーターにいた男なんざ下らない!俺を見た後すぐ工具に目をやりやがった、そんなに工具が大事なのか!だったらそのまま抱けばいいさ!

 しちめんどくさい思いをしてあんな底まで潜った甲斐があるってもんよ!

 いいね!あのエモート・コア代わりの人間、最高だよ!たまらないぜ!

 初めて会った人間なんざ顔をしかめただけでつまらない!せっかく色んなところを破ってビリビリ痛い思いをしながら会いに来てやったっていうのによ!

 次に会った人間は、驚かせようと後ろからこんにちはしてやった!勢い余って首をはねちまったが周りの人間が驚いたのを見て、これだ!って思ったね!

 いいね人間!ディアちゃんが嫌う理由が分からない、こんなに興奮させてくれる生き物はそういないだろ!


[ウロボロスよ、やり過ぎるなよ]


「…うけたまー」



✳︎



「は?」


「やつをこのまま仕留める」


「は?」


「二度も言わせるな」


「は?」


 発砲音が鳴る。足のすぐ横を撃たれた隊員が逃げ出した。

 けれど僕もさすがに反対だ、危険過ぎる。違う、無謀だ。勝てるはずがない。


「隊長、反対です、やめてください」


「お前の言うことは最もだ、だが今は聞けない」


 頑なだ。何か考えがあるのだろうか。


「どうするんですか?正面突破でもするんですか?」


「このエレベーターを落とす」



✳︎



「リアナ、お前に通信だ」


「嫌です、もう就業時間は過ぎています」


「…第一部隊長がお前に繋げと言っている」


「ナツメさん何でしょうか!!」


 元気よくインカムに向かって挨拶をする。


[お前に頼みたいことがある、大事なことだ]


 ドキッとした。


[今から隊員を出口まで上げる、その間に小型エレベーターを落とす準備をしてくれ]


「喜んで!」


 言っている意味は分からなかったがナツメさんのためだ。何でもしよう。

 第二部隊の人達から報告は貰っている、現れた巨大ビーストに苦戦していると。初め聞いた時は驚いた、大型の攻撃機でも倒せない相手がいるのかと。そして怖くなった。今、私達の足元には大きな敵がいると、いつ責めてくるか分からない、そんな怖さ。

 他の隊員が第一部隊へ報告しているのは聞いていた、けど、私にお願いしたいなんて。

 はっきりと言って嬉しい、仕事で頼られるとは思っていなかったから。何故だかテッドさんの顔が思い浮かんだ、負けてたまるか!


「隊長!地図!」


「喧嘩売ってるのか?」


「間違えた、見取り図持ってきて下さい、エレベーターを落とします」


「あぁ、確か四番基の横に設置されているのか」


「いいから早く!」


「有給取り消すぞ?明日出勤させるぞ?」


「基地がなくなるから関係ないでしょ!皆明日は休みだ!」


「お前には民間企業に出向するよう辞令を貰ってるんだが」


「すみませんでした持ってきて下さいお願いします」


 エレベーターを落とすのは簡単だ、昇降装置を爆弾か何かで壊せばいい。


「第三部隊の方へ、今から指定する位置に爆弾の設置をお願い致します!」


 隊長が見取り図を持ってくる前に指示を出す、時間との勝負だ。


「先輩、整備舎に連絡して予備の爆弾を準備してもらうように伝えて下さい!」


「分かりました!」


 いやあんたの方が年上だろう何で敬語。


「シーちゃん!第三部隊の詰所まで車を出して!お願い!」


「うんわかったよ!リーちゃんのためだもん!」


 私じゃないって聞いてないなやっぱこの子。


[あぁーオペレーター?何でそんなことするんだと隊員から苦情がきてるんだが、皆疲れてるんだ、他の部隊へお願いしてくれないか?]


「好きです」


[は?]


「あなたが設置作業する姿も声も好きでした、最後に見たいと思ったからです。…駄目ですか?」


[あ、あぁ!いいとも喜んで設置してこよう!俺もお前のことは気になっていたんだ、これが終わったら食事にでも行こう、待っていてくれ!]


 やー気が引けるー名前も言ってないのに分かるわけないじゃーん、設置するまで気づかないことを祈るしかない。


「ほら持ってきたぞ、ついでにマーカーで印も付けておいた」


「さっすが隊長大好きぃ!」


 変なことを言ってしまった。


「気持ちが悪いなお前、そんなに第一部隊長のことが好きなのか」


 引かれてしまった。まぁいいや、目論見通りだ。


「いやだからぁ、とりま何でもいいからデカ目のやつでいいっていってんじゃん早くしなよー私が怒られるんだよー」


 隊長から貰った見取り図には、昇降装置は驚いたことにまとめて一つにされているみたいだ。なんてめんどくさいまとめられたら爆破できないじゃーんどうすんのさーこれー。

 あそうだ、どうせならついでに彼らに見てもらおう。


「先輩!整備士に小型エレベーターだけ爆弾で落としたいからと伝えて下さい!」


「は、はい!」


 整備担当の人だ、昇降装置なら彼らに任せよう。私が考えても仕方がない。


[リーちゃん?今着いたけど、何か隊長さんに言ったの?食事に誘われてるんだけど]


 あーシズネそれ私だわー


「無視して、その人オペレーターなら誰でも口説く人だから、私もさっき言われた」


 嘘ではない。でも心は痛い。でも気にしない。


[うん、分かったよ!明日お休みなんだよね?一緒に食事に行こう?]


 今?それ今なの?このタイミングで取る約束なの?

 あはいごめんなさいあいてがいるんですと聞こえてきた。

 …心を鬼にしよう、知らない相手に告白されて勝手に振られた隊長に黙祷を捧げる。

 あとシズネ容赦なさすぎる。


[おい、昇降装置を落としたいってどういうことだ?まだ中には人がいるんだろう?]


 今度は整備士の方から通信が入った。


「中の人を下ろした後に小型エレベーターをビーストに落とすそうです!ナツメさんの作戦です!」


[…あいつやっぱイカれてんなぁ頭大丈夫かぁ?]


「ナツメさんの文句を言うな!私の好きな人なんだよ!」


[…あんた]


 あぁ勢い余って変なことを言ってしまった。


[面白い奴だな!気に入った!やってやるよ、ついでに私のベッドに来な、ナツメより可愛がってやるよ!]


「喜んで!」


 適当に返事をする。


[リーちゃんリーちゃん]


 今度は何さー頭オーバーワークなんだけど。


[隊長さんが振られて元気がないから、やっぱり他の部隊にお願いしてほしいって、もう出口前にいるんだけど、どうしよう?]


「終わった後に整備舎まで来て欲しいって伝えといて」


[え?!まさかリーちゃん、]


「違う私じゃない、整備士の人が寝る相手探してるみたいだから」


[わかった!]


 よく伝わったなさすがシズネ。インカム越しから隊長の喜ぶ声が聞こえる。

 やれるだけのことはやったんだ、後は祈るしかない。


[護衛班のナツメだ、準備はどうだ]


「はい!もう準備は出来ています!」


[もう?もう出来たのか?]


 その驚きが嬉しい。期待に応えられたのだ。


「はい!」


[そうか、私の期待通りだ、リアナ、大好きだ]


 そう言って通信を切られてから家に帰るまでの記憶がなかった。

 覚えているのは、耳と、頭と、胸がとにかく幸せだったことだけだ。

 …働くっていいね。好きになりそうだよ。



✳︎



「また適当なこと言ってどうするんですか!」


「お前が一番さ」


「ふざけないで下さい!」


 また少しテンションが高くなってきた隊長を怒る。よりにもよってリアナさんにあんなことを言うなんて。


「で、落とした後はどうすんだ」


「どうも何もそれで終わりだろう」


「そんな訳ないでしょう!もし仕留められなかったらどうするんですか!」


「ナツメ、考え直したほうがいい」


「そうだ!せっかくこいつが直してくれたエレベーターを落とすのかぁ?!あぁ?!」


 皆が矢継ぎ早に文句を言う。


「だいたいよく考えりぁお前に振り回されっぱなしじぁえねかぁ!」


「…」


「あん時エレベーターじゃなくて来た道戻ればこんなことにはならなかっただろぉがぁ!!」


「それは違う、あの時動かなければ、どうなっていたか分からない」


「知るかそんなもん!イチャイチャするわ指示は偉そうだわイチャイチャするわぁ!」


「おい、俺はちゃんと断っただろう、誘ってきたのはナツメだ」


「てめぇはどっちの味方なんだよ!!」


「ナツメ、お前の誘いは嬉しいが、その、場所を弁えてくれ、皆が見ている」


 まずい。これはまずい。隊長が一方的に文句を言われている。これはまずい。


「エレベーターに行こうと言ったのは僕ですし!あといい加減ラジルダさん真に受けるのはやめて下さい!」


「キスも出来ないへたれは黙ってろぉ!!だいたいてめぇが文句を言ったんだろうが!!」


 ぐぅの音も出ない。いや今は出さないといけない、さっきから隊長が、


「リアナ、隊員は降りた、エレベーターを落としてくれ」


「なっ?!」


「おいっ!!」


「えっ?!降りてませんよ!リアナさん!降りてませんから!!」


 必死で訴える。


[ふぇっ?!あ、あの、えっ?]


 どこか間の抜けた返事が返ってくる。まずいったらまずい、隊長の言葉で頭がふやけているんだ。


「リアナ、落としてくれ、帰ってきたらお前を一晩中愛してやろう、嫌か?」


[しょ、そんなことありませぇん!ば、爆破、してくだはぁい!!]


 僕たちの上で音がした。え本当に準備終わっていたの?と間抜けな感想と共に浮遊感が襲ってくる。


「ふざけんなよてめぇ!!!」


「あぁ、シルダ、すまない、俺がナツメに心を許したばかりにこんな天罰を…」


「まだ言うか!!」


 最後の言葉になるかもしれないのに、ラジルダさんにつっこんだ言葉と共に落ちていった。



✳︎



 どうしようもない屑は世の中にいくらでもいる。

 例えば、目の前の男なんてどうだろう?買い与えられた玩具をお披露目しようと、女を連れ回し、相手のいきり立ったモノに怯え、挙句はこの様だ。


ー聞こえているな、私を援護しろ!これは命令だ!ー


 ありきたり過ぎて反吐が出る。もっとマシな言い訳はないのか。

 初めての実戦がこんな、こんな結末ってあるのかしら?聞いたことがない。いやそれはそうね、実戦で死んだ奴の話なんか聞けないわ。きっと、こんな死に方をした奴はいくらでもいるはずよ。

 我慢ならない、この実戦だけは納得できない。私の判断で死ぬのならまだいい。

 けど、こんな、こんな男の言いなりになって…


[隊長!上から、何か…何この音?]


 間の抜けた副隊長の声で上を見やる、確かにこの轟音の中でもさらに歪な音がする。

 歪な音でも、不思議と私は頼りに思えた。盛って失敗した攻撃機よりも。



✳︎



 失敗した、ただそれだけだ。敵のビーストが強すぎた。当たり前の結果だ。

 銃弾はつき、砲身は焼き切れ使いものにならない。牙も爪もあれでは役に立たない。

 中層での使用も想定されていたこの機体が、なす術もなく喰われる。

 だが、音がした。何かが落ちてくる音だ。そして、見上げる巨大なビーストの頭に落ちてきた。

 これは夢か?現実なのか?誰が落とした?巨大なビーストは体を傾ぎ、この機体と同じ大きさの腕でなんとかしがみついている。

 これなら倒せると思ったが、残弾がない。

 エレベーターから誰かが出てきた、あれは、ナツメか?



✳︎



 歪な音と共に落ちたエレベーターは、ピリオド・ビーストと名付けた私の作品を破壊した。

 だが、まだ機能している。ウロボロスのマテリアルとして換装させたのだ奴ならまだ大丈夫だろうと思い通信するが何も返ってこないそんなはずがないそんなはずがない!

 …また、壊されるのか?

 あぁ今ならまだ間に合う剥き出しになったエモート・コアが見える大丈夫だ間に合うもう一度再起動させるんだまだ間に合う!


 一人の人間がエレベーターからゆっくりと降りてきた。

 ただ、降りてきた。勝ち誇ったわけでもない、その手に大型自動拳銃を携えて。

 どうしてわざわざエモート・コアの前に立つんだ?他にいくらでも立つとこはあるだろう?

 やめろ、やめてくれ、やめるんだ!これ以上私の、作品を、壊すのは、



「失せろ」



 ただ一言。

 不思議とよく聞こえた発砲音と共に、ウロボロスの反応は消失した。



✳︎




「決まったねぇ!人間の勝利だよ!いやー見応えあったかな?どうかな、テンペスト・ガイア、君はどう思う?」


「下らないことに付き合わせないで」


「そんな、せっかくディアボロスが見せ場を作ってくれたのに、それは酷いんじゃない?」


「…はぁ、どうでもいいわ、マキナに興味はない」


「君もマキナだろう?いや僕もなんだけどさ」


「人間にもマキナにも興味はない」


「つれないねーまぁそんな君も素敵、」


---


「まーた切られた、まぁいい。人間達とディアボロスに盛大な拍手を!!素晴らしい余興をありがとう!!」

※次回 12/13 20:00 更新予定

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