第五十五話 変えていく勇気
55.a
私と人型機の間に立ち塞がるように現れた、濃藍色の半巨人がその拳を持ち上げた。見た目とは裏腹にとても滑らか、人型機とはまるで違い軋む音も立てずに一発ぶん殴ってみせた。殴られた人型機は来た道を飛ばされて戻り巨大鍵盤へと叩きつけられてしまった。何という迫力、そして力強さ。
ー良い、体を動かすのはやはり良いものだー
人型機と比べてちょうど倍近くある半巨人がゆったりと拳を戻し、余裕のある言葉を大音量で呟いた。耳もお腹も震わせ否が応でも聞こえるその声で私達の名前を呼んでいく。
ー遅れてすまないアヤメ、それにアオラもナツメも変わりないか、カサンまでいるのか、何とも頼もしい所帯だー
「誰だお前!こんな馬鹿デカい知り合いはいないぞ!」
アオラがすかさず吠えたがさすがに冗談だろう。灰色の全裸マテリアルの時とは違い、顔つきもどこか丸っこい、少し優しそうに見える。
広間から続く階段の途中、その横から現れたタイタニスさんが手近にあった配管を引き抜き未だ崩れるように倒れている人型機へ容赦なく投げた。配管をぶつけられた人型機が金属の悲鳴を上げさらに破壊されていく。
ーここは我に任せてもらおう、お前達は急ぎ階層入り口まで戻れ、そこには仮想空間をばら撒いた犯人が今も頽れているはずだー
「そいつはもしかして……」
タイタニスさんの言葉に耳を疑った。
ークマ型のピューマに擬態している、十分に気をつけろー
「は?」
「クマ型?」
「は?」
「タイタニスさん?何ふざけているんですか?」
ー………………ー
さぁ今からもう一度投げよう、という姿勢で濃藍の半巨人が固まっている。その手にしていたL字型の配管を丁寧に階段脇に置いてから滑らかにこちらを向いた。
ーふざけてなどいない、確かに我が見た限りではクマ型のピューマから反応があったのだー
「あぁ?!ならタイタニス!お前はスイちゃんが犯人だって言いたいのかぁ!」
もう一度配管を掴もうとしていたのか、手を伸ばした状態で再び固まった。
ースイ?どういう事だ?ー
「クマさんにはスイちゃんが入っているんです!ずっと私達と一緒にいたんですよ?!」
ー待て、しばし待て、ティアマトに確認を、ー
「いいから!さっさとやっつけろ!弁償代はチャラにしてやる!」
聞き終わるが早いか、タイタニスさんが配管を投げつけ人型機に止めを刺した。そして次々配管をちぎって投げて、跳ね返ってきた配管をキャッチしてまた投げて巨大鍵盤も破壊してみせた。あまりの激しさに途中から見ていかなかったが...
肩で息をしているのか、半巨人の体が揺れている。あらかた終わった後ナツメが大声で呼びかけた。
「スイの様子は分かるか?!ここを壊せばスイが元に戻ると踏んでいるんだが!」
ー……………ー
あ。半巨人になっても耳たぶが光るんだ。今、ティアマトさんか誰かと通信を行っているのだろう、視線だけを私達に向けて黙り込んでいる。
「どういう事なんだ?何でタイタニスはあの化け物とスイを間違えたんだ?見間違うか?」
「分からない…」
「タイタニスさんはティアマトさんに言われて来てくれたのかな?」
「そうっぽいな、さっきちらりとお母さんの名前を出していたし」
軍事基地にいる人達からそう呼ばれているらしい、前にティアマトさんがまんざらでもなさそうに愚痴っていた。
半巨人なこともあってか、耳たぶの点滅がまるで緊急警報のように辺りを照らしていたので、通信が終わるとすぐに分かった。
ーすぐに戻れ!こんな所で油を売っている暇はないぞ!ー
✳︎
[それでクマ野郎、ここに転がっている死体はテメぇのせいなのか?少しは残しておいてもらわないとなぁ]
["そ、そんな訳ないでしょう!わしだってこんな事になって困惑しているんです!突然黒いモヤにかかったかと思えば、こんな事になってしまうなんて……"]
相変わらずおかしな二人組と同じマテリアルに同居したままになっている。二人の内、どちらかがマテリアルの主導権を握っているのか知らんが、さっきから死体を視界に入れないようにしていやがった。ちらりと見えた限りでは、地球古代のギリシア、スパルタの装いに似ている戦士達だった。古代において世界最強とされていた重装歩兵の連中が揃いも揃って首をはねられ、胴体は捻じ切られ殺されていたのだ。まぁ本物かどうかは知らんが。
[言い訳してんじゃねぇよ、ならこの手に付いている血は何だ?]
オレに指摘されて素早く手を隠しやがった。
["まっ、待ってください!ほんまに知らんのです!気がついたらこんな事にっ"]
[何回も同じ事言わせるなエセ関西人がっ!傍から見たらテメぇらがやったようにしか見えねぇつってんだろ!]
[…]
[…]
[まだガキの方がしっかりしてるじゃねぇかっ!自分から自首するってんだからちったぁ見習いやがれっ!]
["スイ…すまんなぁ、しょうもない事に付き合わせてしまって…"]
[いえ…謝りに行きましょう、クマさん]
["そうやなぁ…すまんが出てってくれへんか?"]
[出ていけねぇって言ってんだろっ!いい加減にしやがれっ!!]
["いや、入ってきはったんやったら出るんも簡単でしょう?わしはこの通り、スイは元のマテリアルは上に置いてきてありますし"]
[さすがにアレに入るのは……]
そこでまた視点が移動して倒れたままになっている下半身が無い化け物に移った。そしてさらにその向こうには白くて丸い形をした...何だあれは、ポッドか?また変なのが増えてやがんな。
[おい、あの白いのは何だ?]
["……白いのって、あのアロマディフューザーのことですか?蜂蜜の香りがしている…"]
は?
[蜂蜜……ですか?花の香りではなくて?]
はぁ?
[いや、血の臭いだろうが、何言ってるんだ]
[はい?]
["血?何を言うてはんのか…"]
全員が違う匂いを嗅いでいる?そんな馬鹿な話しがあるのか?近づいて調べてみろと言う前に白いアロマディフューザーが忽然と姿を消した。
[!]
全員が息を飲む、そして今度は遠くから雄叫びが聞こえ始めてきた。
["な、何やこの音、声か?誰か叫んでんのか"?]
[おいコラ!勝手に首を回すな!]
クマ野郎が周囲を見回しているのは分かるが、目が回って仕方がない。
最初は雲だと思った。哀れなスパルタ兵を見守るように覆っている雲が、オレ達の所へ流れて来ていると、随分雲の流れが早いんだなと勘違いしてしまったが、みるみる雲が形を変えていく。首が生え、尻尾も伸びて翼が仮想の空に翻った、ありゃドラゴンと呼ばれるものだ。でも何故?さらに背中にはスパルタ兵も乗っていた。その数は四人(四体?)の三個編成、計十二の竜騎兵がアロマディフューザーに代わって空に現れた。
[あれは……]
["おいなぁ…気のせいやったらいいんやけど、構えてへんか?"]
[構えとるわっ!逃げろっ!]
クマ野郎の言う通り、スパルタ兵が槍を、ドラゴンが口を開けてこっちに狙いを付けていたので慌てて叫んだ。ドラゴンが火を吹き辺り一面を焼き払っていく。
[熱っ!!!!……………くない?ん?]
思わず叫んでしまったが全く焼けていない、というか焼けていないどころか熱くもない。ただの幻?しかし周りには影響を与えていたようで景色が焼け落ちていくではないか。味方にすら死体蹴りをされてしまう哀れなスパルタ兵を炎が舐めるように払うと後には何も残っていない、死体も草花も何もかもだ。さらに司令官が生み出した灰色の機体にも火炎放射が直撃し、後に残ったのは焼けた機体ではなくただの瓦礫だった。
[何がどうなって……]
ドラゴンの火吹きは続けられ次第に瓦礫だらけの景色に塗り替えられていく。
[ここは?!]
["わしらがここに来た時とおんなじ景色やないかっ?!"]
あぁ、あのドラゴンは仮想展開された景色を焼いて剥がしていたのか。先頭にいたスパルタ兵が手を上げるとドラゴンの火吹きが終わった。辺り一面、炎に焼かれた場所以外が綺麗に中層の景色のままに、人型機も哀れなスパルタ兵も姿を消した。瓦礫の山に埋もれていたのはクマ野郎と化け物のマテリアルだけだ。
手を上げたスパルタ兵士が今度は槍の穂先をこちらに向けて堂々と宣言してみせた。
「ここで朽ちてもらうぞ!」
✳︎
ディアボロスのナビウス・ネットに敵の侵入を許してからおかしな事ばかり起こっていた。本来であれば異常事態として処理されるはず事案がプログラム・ガイアから放置され、虫の街で大破したはずのウロボロスがデータログの中で発見され、あまつさえそのデータに攻撃を受けたのだ。一度は消失したウロボロスのシグナルサインが今度は階層入り口のピューマから発された。
未だ海中宮殿に留まりコンソール相手に格闘していたディアボロスの眉根が寄った、何かを発見したのか素早く声をかけた。
「何か分かったのか?」
「…稼働歴元年から二千年の歴史データ修復を検知した、こいつか…ヴィザールが移動していたデータというのは……」
しゅうふく...アーカイブデータが修復された?...破損していたという事なのか?
「何故そんな事に?ガイア・サーバーのデータが壊れていたのか?」
「そうなるな………修復されたのはついさっきだ………ティアマトにアマンナの二人が通報者になっている」
「……………」
タイミングが良すぎたというべきか、その件のティアマトから通信が掛かってきた。
[聞こえているかしらお二人さん、今まで何度も通信をしていたのにどうして拒否していたのかしら]
「知らんな、そんな履歴は残っていない」
[………まぁいいわ、それより決議の場でグガランナが発言していた事だけど、あなた達は関係ないのね?最終確認よ]
ディアボロスが目配せをしてきた。ここで虚偽申告は不味いと判断して正直に話すよう頷いて答えた。
「関係ない、俺達も迷惑しているところなんだ、ナビウス・ネットが襲撃されて子機も奴に取り込まれた、嘘だと思うならログを調べろ」
束の間の沈黙。
[………えぇ、確認したわ]
「それはそうとティアマトよ、お前は一体どうやって破損されたデータを見つけたんだ?」
[……何が聞きたいのかしら、言葉通りの意味ではないわよね?]
「先ずはこちらの質問に答えてくれないか?」
[…司令官に依頼されたのよ、初回層に展開している仮想領域を調べてほしいと、その一環で発見したの]
司令官とは、プエラ・コンキリオのことか。
「お前…あんな糞野郎の言いなりになっていたのかよ」
[それはこっちの台詞よ糞野郎、よくもアヤメ達に危害を加えてくれたわね、タイタニスが仲裁に入ってくれたから良かったものの、大事になっていたらどうなっていたかしら?]
「邪魔をしたのは向こうが先だ、再三に渡って警告していたはずだ」
[そんな詭弁が通用するとでも?彼女らにとっては死活問題なのよ、放置するはずがないでしょう、今回の決議の場が終わったら覚悟しておくことね]
「好きにしろ、プログラム・ガイアに差し押さえられない限りこちらにも正義はある」
[その間違った自己満足を正す場が決議でしょうに、テンペスト・ガイアと同類よ、自覚なさいな]
ティアマトは俺達を決議にかけるつもりか。票のために手出しはしてこなかったが、本気で発言しているなら何かしら手を打った方が良いのかもしれん。
うろんげに宙を見つめながらディアボロスが口を開いた。
「なら、次の決議の場はお前が開いてみせろ、そうなる前に片を付けてやるだけだ」
✳︎
言葉に出さずとも当の二人が尻込みしているのは分かる。
[おい、謝るんじゃなかったのか?]
[………]
["もう、もうお終いやぁ……付いて来るんやなかった…"]
屑だな。こんな屑に足を引っ張られて可哀想に。
["やっぱりわしらに人の手伝いなんて無理やったんや…大人しく森ん中で居とけばこんな事には……"]
[ん?どういう意味なんだそれ]
["…人様の為にとマギール言うん人に、中層から上層の街へ引っ越ししたんですわ、何でもわしらの力が資源を生む、とかなんとか…]
...こいつらまさか。
[……ならお前達はグガランナ・マテリアルに居た連中か?]
["はい、そうですが……"]
[どうして知っているんですか?]
はっ!どうして?!どうしても何も!
[オレがテメぇらの艦体を襲ったウロボロス様だからだぁ!]
[!]
["!"]
劇的な反応を見せた二人、言葉にしなくても気配で分かる。何せ一つのマテリアルに繋がっているんだから。
[で、出て行けぇ!今すぐここから出て行けぇ!!]
["まさかこんな所で仇討ち出来るなんて夢にも思わんかったわぁ!"]
[何が仇討ちだ屑野郎!テメぇがした事も忘れて他人の足に縋ってる奴が言っていいセリフじゃねぇんだよっ!]
視界が揺れている。さらに自分で自分の頭を殴っているようだ、突然おかしな行動を取り始めたクマ野郎にスパルタ兵が茫然としていた。
["知るかあほんだらぁ!お前の兄貴分のせいでどれだけ仲間が殺されたと思ってんねん!スイ!ええか?!]
[はい!やってやりましょう!]
何をする気だ?
["お前が出て行けへん言うんやったらこっちから出てったるわぁ!!"]
55.b
折り重なるように積まれたビーストの山を越えて出口を目指してひた走る。それも全力疾走、ここに来る時よりも心も体も大量の汗をかいていた。
(スイちゃんとクマさんが!)
十階層に起こった異変についてティアマトさんが調べてくれたらしい。タイタニスさんの話しでは仮想空間をばら撒いている犯人が搬入口にいるらしく、しかもそれがクマさんだと言うのだ。ティアマトさんはグガランナ・マテリアルから調査を行なっていただけなので実情は知らず、依頼を受けたタイタニスさんが既に手を打ってしまっているとのことだった。
隣を走るナツメが、出口へ続く階段に差し掛かる前に愚痴を溢した。
「くそ!次からはマキナとも連絡が取れるようにしておかないと!私らが直接受けていたらこんな事には!」
「いいから走って!」
「こんなところで倒されたらここまで来た意味がない!」
カサン隊長も混じって愚痴を言いながらも階段を駆け登った。
◇
工場区から飛び出すように後にした。突入前に倒されたビーストの残骸には目もくれず目的の場所へと走る。
「でも!どうしてお母さんは!間違えたんだろうな!」
走りながら口にしたアオラの疑問は最もだ。
「まさかスイちゃんも!ばら撒いていたとか?!」
「本人に聞けば分かるだろ!突然暴れた理由と一緒に!」
「拳骨で!許してやりましょうか!」
「あぁ!それがいい!」
前を走る二人に上から影が落ちてきた。小さく、そして段々と大きくなる影はナツメとカサン隊長を飛び越え草原に着地した。もうもうと上がる土煙を置き去りにしてそのまま走って行くその姿は...
「あいつ!まだ生きていたのか!タイタニスにボコられたんじゃ!」
アオラの言う通り、巨大鍵盤で倒されたはずの人型機だった。それにさっきまではくすんだ銀色をしていたのに今はぴかぴかだ。単に光が当たっているだけかもしれないが、とても破壊されたように見えない。
「こっちを見向きもしないぞ!どうなっているんだ!」
みるみる遠ざかっていく人型機の後ろ姿を走りながら見つめていた。
✳︎
「急げヴィザール!何としてもウロボロスを救出しろ!」
[はい!]
これで二体目。仕方がない、タイタニスに破壊された一体目ではどうにも出来ない。
後は子機と連絡さえ取れればいいのだが、いかんせん未だ取れずにいた。先程からディアボロスが何度もコールしている。
「あいつっ、どれだけ迷惑掛けたら気が済むんだぁ?人がせっかく助けてやったというのに……」
「……?助けた?」
「あぁそうだよ、奴らの街で止めを刺された時に急いでこっちに引っ張り上げたんだ、エモート・コアが全壊する前に」
「聞いていないぞそんな話しは」
「助けた後に言うつもりだったんだよ、それがどうしてデータログになんかに迷い込むのか……」
「異常がないか調べてみたのか?」
「ある訳ないだろ、あるならあの筋肉馬鹿の方だろうが」
自分のこめかみに青筋が立っているのが怒鳴る前からよく分かった。
「この…空け者がぁ!!」
「?!」
「その傲慢さも大概にしろディアボロスっ!!貴様がすぐに異常を調べていたら事前に防げていたかもしれんのだぞっ?!いいからさっさと調べろぉっ!!」
自分でも、ここまで大声が出せるのかと驚嘆した程だ。
「どこの世界に子機より自分を疑うマキナがいるんだぁっ!!……………今調べる」
一言だけ文句を言ってからすぐさま作業に入った。ヴィザールも現地に到着したようだ、何故か逼迫した声が聞こえてきた。
[お父上?!確かにあの化け物にウロボロス様がいらっしゃるのですよね?!]
「そうだと言っている!」
[腰から足にかけて欠損していますがウロボロス様はご無事なんですか?!それにクマ型のピューマと戦闘していますが!]
何?足が欠損している?
「同期させろ!」
[喜んで!]
「喜ばなくていいっ!」
ヴィザールと同期させた視界には、確かに下半身が無くなったあの化け物がクマ型のピューマに飛びかかっているところだった。それに上空にはドラゴンに跨った兵士が槍を構えてただ静観していた。
(一体何が起こっているんだ?)
ウロボロスがピューマに組みつき牙を突き立て、それをがむしゃらになって振り解こうと額から生やした角を掴み、あろうことか投げ飛ばしてみせた。そばに倒れていた女のマテリアルにぶつかり諸共転がっていく。
「ヴィザール!ウロボロスの援護に入れ!周りの兵士には気を払うな!」
[は、はい!]
瞬時にクマ型のピューマとウロボロスの間に割って入る。視界がこちらの方が高い分、ピューマを見下ろす形になっていた。
「だぁあ!!!!」
「?!」
ディアボロスが唐突に叫び、思わず同期を解除してしまった。
「何だ!いきなり大声を出すな!」
「あんのくそマキナめ……奴の仕業だったのか……」
「何か分かったのか?!」
「あぁ!全部!分かったさ!ウロボロスがデータに紛れこんだのは奴と作った転送用のバイパスのせいだ!」
「バイパスだと?それはナノ・ジュエルの事か?」
「そうだよ!それにあの女、何がしたいのかウロボロスが紛れ込んだデータをエモートに擬似搭載していやがった!」
バイパスとは迂回路の事を指す、直接ナノ・ジュエルのような大容量データを送ろうものならパンクしてしまうからだ。
「擬似搭載?なら、襲ってきた敵はやはりマキナだったということなのか?」
「作った目的は不明だがな……奴の狙いは何だ?………スイを利用をして………いや……」
俺には目もくれずに考え込み始めてしまった。
[お父上!ドラグーンより攻撃を受けています!……何故私がっ、攻撃許可を!]
再びヴィザールから通信が入った、静観を決め込んでいた兵士から攻撃を受けたらしい。
✳︎
搬入口に戻る前から異変に気付いていた。遠目から見ても分かるように景色が確かにに変わっていた、何もドラゴンに跨った戦士達だけではない。私達が初めて到着した時のように瓦礫の景色に変わっていたからだ、それも所々と言えばいいのか。
「アヤメ!お前はここで待機!」
「了解!」
ナツメの指示で人型機と同じくらいの高さがある瓦礫の山に手をかけた、遠距離から支援しろという事だ。三人の頭を瓦礫の上から見守りちょうど平らになった場所でライフルを構えて姿勢を取った。
「いつでもいいよ!」
[あぁ!先に確認してくれ!]
言われるがままにスコープを覗いて先を見やれば、クマさんが化け物に襲われているところだった。それに四足歩行の人型機までもが空を飛ぶ戦士達から攻撃を受けている。まさに混戦、指示が無ければトリガーすら引けない。
「クマさんと化け物が戦闘中!戦士の人達も人型機に攻撃してるよ!」
[早くしてくれよー!]
アオラの言う通りだ。
戦士達が一斉に槍を突き上げた、あれは勝どき?勝ってもいないのに何故?...あぁナツメ達が合流したから出迎えてくれているのか。突き上げた槍を再び下ろし人型機へと穂先を向けた、そして一斉射撃。四人編成の一個隊が三つ、一個隊ずつが連携を取って装填する隙間を相手に突かれないよう間断なく射撃している。さすがに不味いと感じたのか人型機が四足歩行から二足歩行に切り替えた!
「何あれ?!」
カッコいいと出かかった言葉を飲み込みスコープで監視を続ける。太ももに内臓していた人型機サイズの自動拳銃を取り出し戦士達を攻撃し始めた。先頭にいた一個隊のうちドラゴンが撃ち抜かれ、雲のように四散してしまった。空飛ぶ相棒を失った戦士が空から滑落し地面に衝突するかという時に、新しくドラゴンが誕生して再び空へと間一髪、舞い上がっていく。
(ヒヤヒヤする……)
撃ち落としたはずのドラゴンが復活し、それに慌てた人型機がもう一丁の自動拳銃を取り出したところで、だらんと無防備に下がっていた右手の拳銃を狙撃した。
「!」
拳銃はそこまで耐久性が無かったようで被弾したと同時に小規模な爆発を起こし破壊することが出来た。さらに慌てた人型機が周囲を索敵する前に再び戦士達から一斉射撃を見舞われ右往左往としている。
(そこまで経験がない?)
ナツメではないが、まるで新兵のような慌てぶりだ。工場区で襲ってきたのでディアボロスさんの仲間なんだろうけど...
[狙撃をする前に一言かけろ!迂回する羽目になっただろ!]
「あ!ごめん!」
仁王立ちで応戦していた人型機が死角に隠れるよう移動していた、そのせいでナツメ達が進路を変えたようだ。これで忘れてたなんて言ったら何て返してくるんだろうか。
「早くしてねー…」
スコープを再度覗き込み、戦闘しているクマさんと化け物を射程に入れてマーキングしてくれるのをただひたすら待った。
✳︎
[いい加減にケリ付けようや!!]
しつこい、どこにそんな力が残っていたのか。半身のくせにやたらと素早く動き回り巧みに攻撃を当ててくる。このピューマのマテリアルに慣れていないせいもあってか、なかなか上手く立ち回れずにいた。
あの二人は事もあろうに化け物のマテリアルに移動しやがった、そしてオレだけがこのマテリアルに残され主導権を握れた訳だが使い辛いったらない。パワーはさっき投げ飛ばして実感したが手足が短いせいで回避も攻撃も一苦労だ。
["言われんでもここで仇を取ったるわぁ!"]
エセ関西人が言い返してきた。
腕の力だけで跳躍してみせて飛びかかってきた。全身だったら一回り大きいだろう化け物、半身でも十分驚異だった。そのまま組みつかれ頭に噛み付いてきやがった!
[こんの………化け物めっ!!]
頭がもげる手前で何とか振り解いたが、組みついたままだ。
[中身もそうなら見た目もバケモンだなテメぇら!殺しを平気でやるオレと変わりねぇ!]
code:369.re image,repair...
["違う!バケモンやない!"]
もう一度、口を開けて牙を突き立てようとしている。
[はっ!違わないねぇ!味方を攻撃している時に止めもしなかったんだろ!それを今さら無かったことには出来ねぇんだよ!]
code:340.re material,repair...
["義見てせざるは勇なきなり!あんたが言うた言葉や!わしに勇気がなかっただけ!止める勇気がなかっただけや!"]
何なんださっきから、頭がちかちかと...
さすがにこのマテリアルにも少しは慣れたきた、敵の組みつく力を逸らして横へと投げ飛ばした。
[その勇気ってのは、化け物を元に戻してくれるのかぁ?戻す訳ねぇだろぉ!そんな詭弁が通用するならこの街で起こった残虐非道も無かったことになっちまうぜぇ?!]
code:341.re emotion,repair...
["無かったことにしたいんやない!己を変えたいだけや!その力が勇気じゃ馬鹿たれぇっ!!"]
code:350 Repair completed
「たかだかピューマのくせして何を偉そうにっ!変えられないからディアちゃんが四苦八苦してんだろうがぁっ!屑は屑らしく日陰でいじけてりゃっ」
[見つけたぞウロボロス!]
掲げた腕を振り下ろす前、オレが最後まで言い切る前、突然ディアちゃんの声が聞こえたかと思えば一発の銃声。そして暗転。何もかもがうやむやになり体の感覚が失われていく。
「また?」
...もううんざりだ。頼むから勘弁してくれよせっかく盛り上がっていたところだってのに。今度は何処だ?また中層か?暗闇の中か?
しかし、変わった場面には渋い顔をしたディアちゃんが仁王立ちで待ち構えていた。
55.c
「あー…スイ?いるんなら返事してくれなか?」
ナツメがおそるおそるといった体で化け物に声を掛けている、地面に伏したままさっきからぴくりともしない。
状況が終わって暴れて回っていた化け物を囲っているところだった。空を飛んでいた戦士達は念のために周囲を見回ると言って散開している、この場に残されたのは私達と何事もなかったかのように佇んでいる防人さんだけだった。
「もう暫くは種明かしせずに済むと思ったんだが……仕方があるまい」
「タイタニスさんから教えてもらいましたよ」
「そのようだ、さすがにここを築いたマキナには隠し通せなかったか」
「人の心配を何だと思って……」
「まぁ、積もる話しはここを終わらせてからにしようではないか、赤き戦士よ」
実際は覚えているんだろうけど...
するとカサン隊長が頭を撫で始めた、銃をナツメに預けて無防備な姿で。
「スイ、ティアマトやタイタニスから聞いているんだ、いい加減に隠れていないで出てきたらどうだ?今なら拳骨だけで済ませてやるぞ」
微笑んではいるが口調は厳しめ。しかし何か言葉が刺さったのかやおら頭が持ち上がった。
「………」
「……これだけ迷惑掛けておいてただで済むと思うなっ……よっ!!」
ごいんっ!と本当に拳骨をかましてみせたカサン隊長。慌てて止めに入った。
「何やっているんですか?!」
「聞いてなかったのか?!スイちゃんも巻き込まれていただけなんだよ!」
仮想展開をばら撒いていた犯人と同期してしまい、そのせいでタイタニスさんが誤認してしまったという訳だった。詳しい説明はまた後でしてもらえるらしいが...
殴ったカサン隊長はまだ怒りが収まらないらしい。
「ならどうしてスイが一言も喋らないんだ?!いいか!こういうのは誰かが叱ってやらないと本人の為にもならないんだよ!下手な優しさは成長の妨げにしかならない!違うかスイ!ここで這いつくばって優しさに溺れていたいかっ!」
化け物がむくっと起き上がった。口がぱくぱくしているが何も喋らない、いや、喋れないんだ。
「それみたことか!やましさから黙っていた訳じゃないんだよ!喋れないんだよ!」
「案ずるな、今展開させよう」
防人さんが手を上げると辺り一面に中層の景色が再現された、驚きと共に見やるとドヤ顔をしている。
「では、本人もその気のようだから落とし前をつけさせてもらうぞ」
防人さんの言葉に振り返ると、化け物の前に紫色の髪をした女の子と..........魂?何あれ、クマにも見える小さな塊がふわふわと浮いている。
「スイ!」
「スイちゃん?!何で髪の色が……」
「髪の色なんざどうでもいいさ、言うことは?」
カサン隊長に促され、勢いよくスイちゃんが頭を下げた。その姿は生き別れになってしまった過去の親友にそっくりだった。頭では分かっていたけど、とてもじゃないが見ていられなかった。
「ごっ、」
「ほんまにすみませんでしたぁっ!!」
スイちゃんの言葉に被せるように、どこかで聞いたことがある変わった喋り方をしたクマ魂が先に謝った。
「どうして黙っていたんだ?ん?お前達は何も悪くないんだろう?」
カサン隊長はまだご立腹だ。
「おいカサン…」
アオラが止めに入るがまるで聞いていない、視線はスイちゃんに注がれていた。
「わ、わ……私が、グガランナお姉様を殴ったのが原因で…こんな事になってしまったので……」
「何があったんだ?どうして暴走したんだ?」
「あ、あのぉ…それはわしの方からご説明を……」
「お前は黙っていろ!スイが引き起こした事なんだぞ!」
...何もここで聞き出さなくても。
確かに犯人もといあの化け物と同期してしまったが、グガランナを襲ったのはその前だ。同期した事が原因でもないし、タイタニスさんの調べであの工場には製産する以外の機能は見つからなかったのだ。
「…………く、黒くてモヤモヤしたものが、急に襲ってきて、気付いたらな、な、殴っていました………夢を見ているような気もして……クマさんに止められた時にはもう……」
「わしがきちんと対処していればあんな事にはならず済んだ話しです、けど、どうしてもスイ嬢を排出する訳にはいかなくて……」
黒くてモヤモヤ?それは気持ちの事を言っているのか...
「もしかしてグガランナに嫉妬していたの?」
もうね、皆んなが口をぽかんと開けて私のことを見てるの。スイちゃんまでもがそう、クマ魂も口は見えないけどそんな雰囲気が伝わってくる。予想もしていなかった雰囲気にまくし立てるように言い訳を口にした。
「いや!だって!たまにスイちゃんが私のこと睨んでたから、そうかなって、私と仲良くしてたグガランナに怒ったんだと思って……それにあの時二人の秘密がどうって言ってたから!」
「自意識過剰はいい加減にしてくれないか」
「うぐぅ…」
カサン隊長の一言で撃沈してしまった。
(自意識過剰って……私のこと見てたのにっ!)
「おいカサン、その辺にしてやれよ」
アオラが凄みをきかせながら止めに入った。スイちゃんの前に立ちはだかり一触即発の空気になった。
「クマさんが対処しなかったからこうして会話が出来るんだろう」
「対処していなかったらどうなっていた、この場にいる全員が首を捻じ切られていたかもしれないんだぞ?放っていい問題ではない」
「お前っ!」
「いいかっ!こんな下らない事を家に持ち帰る訳にはいかないだろっ!こいつがどんな思いでこれから街で過ごすと思っているんだっ!」
「……!」
スイちゃんが驚きカサン隊長に視線を注いでいる...この人は本気で面倒を見るつもりなんだ。
「ふぅぅ……ひっく、ひっく……」
スイちゃんが泣くのを堪えている、けれど涙は我儘なようで瞳から勝手に出てきたようだった。大粒の滴が頬を伝い、仮想の大地に音も立てずに落ちていった。
「………カサン隊長、スイの様子を見るに問い質しても何も分からないと思いますが……」
「スイ、お前はどうしたい?」
...私達が世話になっていた時と変わらない接し方だ、ナツメはひどく嫌っていた。あってないような選択をさせても本人を苦しめるだけだと。しかしスイちゃんは違ったようで濡らした瞳でも強い意志を感じさせる視線をカサン隊長にぶつけていた。
「つ、付いて行きたいです、いや、あの、お世話になりたいです、こんな私だけど…」
そしてあの笑顔。だから私はそこまで嫌いにはなれなかった。
初めから分かっていたように満面の笑顔でスイちゃんの言葉を受け取った。
「あぁ初めからそのつもりだ、次もやらかしたら遠慮なく怒るからな、覚悟しておけ」
「ふぁ、ふぁいっ!うぇぇえんっ!うぇえーっ!!」
泣きながら返事をしたスイちゃんを暫く、皆んなで見守っていた。
◇
「大団円で終わったところすまない、こっちの落とし前がまだなんだ」
「貴様……」
「まだ泣かし足りないのか!」
「空気を読んでくれないか?嫌われるぞ?」
三人にガードされたスイちゃんを前にして防人さんが少し申し訳なさそうに割って入ってきた。泣き止んだスイちゃんはしっかりと防人さんを見つめている。
「わ、私に出来る事があ、あれば…」
まだ涙声のままにそう答えた。
「うむ、よく言ってくれた、命で贖えと言っている訳ではない、我らの街へ今一度来てもらいたいのだ」
「?」
「防人さん、あの…私達は六階層に向かいたいのですが……」
「分かっているが足があるまい、それにエレベーターも壊れたままだ、徒歩で向かえば幾日かかると思う?」
「それは…そうなんですが……」
「防人、何か考えがあるのか?」
「うむ、次はしっかりと歓待してもらうよう主には我からも伝えおこう」
おかしな言い方をするな、まるで対等の立場にあるような言い方だった。
「何れにしても休まねばなるまい、それぐらいの猶予は街で過ごしても問題はあるまい」
「………」
皆んなで目配せをしてどうするか視線だけで会話する。ちらりとスイちゃんを見やる、紫色の髪と緑の瞳。間違いない、私の親友の姿をしている。心が締め付けられるような感覚に襲われた時、小さな親友が口を開いた。
「自意識過剰は直してくださいアヤメさん、そんな目で見られても私はデレたりしませんので」
不思議と爽やかな風が吹く草原の中を気の済むまでスイちゃんを追いかけ回した。ショッピングモールで初めて追いかけた時とは違い、前から笑い声が風に流れて聞こえてきたのであった。
55.d
「初めましてウロボロス様、この度はご災難であられました、ご無事で何よりでございます」
「………」
「言っておくが、そいつはオーディンの子機だからな」
「っくりしたぁ!こんな子機をディアちゃんが作れるはずねぇからなっ!驚かせるな!」
「こいつ……」
やっと終わった。何が?聞かれても答えにくいがやっと終わったんだ、あの訳の分からない状態と世界が。
盛り上がったところで暗転し、次に覚醒するとそこは海の中に作られた王様の部屋だった。「中層にこんな所あったっけ?!」と一人で慌てていると大股でディアちゃんが部屋に入ってきたのだ。思わず抱きつこうとしたが見えない壁に阻まれてしまい、止む無く撃沈したところに美男子も部屋に入ってきた。髪は銀と長さがディアちゃんと同じだったからつい、オレに見切りをつけて新しいのを作ったのかと勘違いしてしまった。
「ウロボロス、悪いが一発殴らせろ、そうでもしないと腹の虫がおさまらない」
「意味が分からない、自分の腹を殴ればいいだろ」
「子機といっても私とお父上のような関係を持たないのですね……勉強になります」
「「馬鹿にしてんのかっ!!」」
オレとディアちゃんで優男にツッコミを入れた。それにお父上ってもしかしなくともオーディンのことを言っているのか?何なんだ、ここにいる連中はどうして同性にそこまで傾倒するんだ?
「百合にBLってマキナはろくでもねぇな」
「お前もマキナだろうが」
「ディアボロス様、事の顛末をお教えください」
「オーディンは?」
何の気無し名前を呼んだだけなのに、優男に輝く程に磨かれた刀剣を突きつけられてしまった。
「やめて頂きたい!私ですらお父上の名をそう軽々しく呼んだ事すらないのに!あなた様も私と同じ身分でしょう!言葉を謹んで頂きたい!」
「勘弁してくれよ…やっと百合に慣れたところなのに今度はBLかよ耐性付けてねぇわ…」
優しくディアちゃんに肩を叩かれた。
◇
「テンペスト・ガイアの仕業?」
「あぁ俺が調べた限りではな」
「そのお名前は…グラナトゥム・マキナを束ねる方ですよね?」
丁寧な口調が素なのは分かるが、オレもディアちゃんもヴィザールと名付けられたオーディンの子機を睨んだ。あんな女のそばにいたらそんな口調でも呼べるはずもない。
「お前は過去のテンペスト・シリンダーの歴史データの中にいたんだ」
「あぁ道理で」
「何か心当たりでもあるのか?」
「心当たりも何も、過去のディアちゃんが街の連中相手にあれこれやってたぞ」
「…………………」
眉を寄せて口を開けている。オレの言葉に理解出来なかったらしい。
「聞こえてんのか?」
「あ、あぁ、下らない過去を思い出していた…」
「下らないって…あのガキはどうなったんだ?街と集落の人間を取り替えっこしてただろ」
「……忘れたな、集落の男は俺が看取ったが」
「はぁ…そうなの…」
忘れるか?あんなに取り乱していたのに?しかしオレは出来る男、野暮な事には突っ込まない主義なんだ。
「ディアちゃんは絵画を通じて街の連中を更生させたかったんだよな?あんなに一生懸命描いた風景画が見向きもされないんじゃ、そりゃ恨むぅっ?!」
言い終わらないうちに腹を殴られてしまった。
「くそマキナがっ!分かっているならそんな野暮な事は聞くなっ!いいか!それ絶対に嫌われるやつだから二度とするなよっ!」
「嫌われた事がおありなんですか?」
「お前……この場で斬ってやろうか?話しが進まんだろうが黙って聞けっ!」
王様が座りそうなデカい椅子にオレが腰をかけ、ディアちゃんとヴィザールが並んで立っていた。良いなこれ。
「いやディアちゃんから先に話し振ったんだろうが」
「…テンペスト・ガイアの目的は分からんが、アーカイブデータをエモート・コアに搭載して一体のマキナを作りあげたんだ、そこにお前が紛れ込んでいた訳だ」
「あぁ道理で」
「何か心当たりがあるのか?」
「聞くんですかディアボロス様」
「テンペスト・ガイアも中に現れて、オレを見るなりバグ発言しやがったからな」
「「………」」
遠くで鯨の鳴き声が聞こえた、場が静かなせいで。
「………何か、言っていなかったか?」
「さぁ……ディアちゃんの代わりに街の連中相手に演技していたぐらいだな」
「はぁ?」
「あーなんだ、確か、射止めたい相手がいるみたいなことも言っていたな、だからこんなことしているんだみたいな?」
「そのお相手は……誰なんでしょう」
「さぁ…金の長い髪をしたミリタリー系お人形さんに姿を変えられちまったから、そいつなんじゃないのか?」
「駄目だ…こいつの話しに付いていけない、後で翻訳機作っておかないと……」
「いや何でだよ!分かるだろう!それにクソ司令官も姿を見せたぞ」
ふと、怪訝な表情をしたディアちゃん。
「……それはプエラ・コンキリオのことか?」
「あぁ間違いない、何せ二回殴って太ももを一回貫いたからな」
「どういう覚え方をしているんだ……そうか……司令官も姿を見せたのか……」
顎に手を当て考え込み始めた。こうなったら放っておくしかない、思考を邪魔をするととんでもなく怒られる。
暇潰しに手持ち無沙汰にしていた優男に声をかけた。
「テメぇが援護に入った人型機だったんだな」
「はい、初陣でしたので勝手が分からず芳しい戦果を上げられませんでしたが、次は必ずやお父上にお応えする所存です」
「いや知らんが……」
「ウロボロス、そのお人形さんとやらの名前は?」
ディアちゃんが急に話しかけてきた、思案が終わったのかいつもタイミングが読めない。
「知らん」
「つっかえ……まぁいい、それが本題ではない」
「なら聞くなよ!無駄に傷ついただろうが!」
「テンペスト・ガイアの件については決議で晴らせばいい、それまでに俺達はやらねばならない事をやる」
「それは何でしょうか?」
とても眠そうに目を細めながら、オレの主が堂々と宣言した。
「上層の街へ攻め入る、司令官に少しばかり邪魔されたが時間がない、準備をしてくれ」
※次回の更新は少しお時間頂きます。2021/3/23 20:00 予定