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第四十五話 下層攻防戦

45.a



 ゆっくりと目蓋を開ける。実は言うともう随分前に覚醒はしていたのだ、向こうでの生活も終わり仮想世界から再びこちらに戻ってきた。

 透明なポッドの天板には私の顔が映っている、マギリに褒められた瞳と、適当さ加減が逆にカッコ良く見えると言われたこの髪も。


「はぁ…」


 私の吐いた溜息に誰かが応えた。


「出たくないなぁ…」


 この声は私の指揮下で散々ふざけた十九番機、アマンナの声だ。私と同じ気分らしい。

 声がした方へ向きアマンナに声をかける。


「奇遇だなアマンナ、私もだ、今すぐに向こうへ戻りたい」


「ティアマトの奴やりすぎだって、ここが何処だか本当に分かんなかった」


「…ここはティアマトさんのマテリアルの中だよ」


 次に応えたのがアヤメだ、奴も随分前に起きていたに違いない。


「三ヶ月……はぁ…三ヶ月、向こうへ行く前のことなんてすっかり忘れたよ…」


 奴の言う通りだ。ここで同じようにティアマトから説明を受けた時は「何だそんなものか」と高を括っていたが、実際は何という濃密な時間であったことか。初めてマギリと顔を合わせたあの日から昨日...と言ってよいのか、最後に眠ったあの瞬間までの記憶がまざまざと脳裏に焼き付き「ここ」にいること自体を不自然に思わせてしまうほどだ。


「あの…皆さぁん」


 私のすぐ隣から弱々しくテッドが声かけてきた。


「服を着てくださぁい……出られないですし目を開けられませぇん……」



「さてだ、気持ちを切り替えて早速事にあたろうではないか」


「空元気?言っておくけどあの旅館のような家にはもう戻れないんだからね?」


「…………」


「アヤメさん、余計なこと言わないでください」


「あれ、何か足りなくない?わたしら四人だけ?」


 そうだ。マギリは仕方がないにしてもプエラは?


「プエラはどうしたんだ?何故起きてこないんだ」


 気にしないし見ても何とも思わないと言って、何故だか涙目になったテッドを先に着替えさせて一階へと降ろさせた。その後に私ら女組がポッドから抜け出し着替えを済ませて一階でテッドと合流し、さっきの掛け声をかけてアヤメに秒でノックアウトされたところだった。


「…」


「まさか…………逃げたっ?!!クモガエルの討伐が面倒臭いからってアヤメの街に逃げたんじゃないっ?!!」


 肩からずり落ちていた服を直しながら叫んでいる。それにしてもそんな事は...いや、でもプエラならあるいは...

 などと考えていると会話に参加せずに下を向いているアヤメが目に入った。


「何だ、どうかしたのか?」


「ううん、何でもないよ」


 私の言葉にすぐ顔を上げ平気なように表情を見せている。向こうではあんなにべったりしていたくせに何だか淡白に見えてしまったので、わざとらしく嫌味を言ってみた。


「気にならないのか?優しくするのは向こうだけってか、随分と冷たいじゃないか」


「…そんなつもりじゃ……ないけど………」


 あれ。思ったより大ダメージ?いじらしく眉尻を下げてしまった。あまりこいつは分かりやすい態度を取ったりしないので、本当に私の言葉に傷付いてしまったのだろう。


「いや……冗だんぶっ?!!」


「良い度胸してますねぇ隊長?わたしの目の前でアヤメをいじめるなんてねぇ、何ならここで模擬戦でもしますかぁ?」


 眉間に青筋を立てて握り拳を作っているアマンナ。怒る前に殴られてしまった。


「冗談だって言ってる………ん?」


「今何か……」


「聞こえなかった?」


 マテリアルの中に居ても聞こえた程だ、恐らく空耳ではない。確かにここにクモガエルが襲って来ていることが分かり気の抜けた場にいくらか緊張が走った。


「起きないものは仕方ない、会った時に懲らしめてやろう」


「行きましょう」


 テッドの言葉に皆が応えマテリアルから外へ出る。

このマテリアルは誰かを招く予定で作られたものではないのだろう、天井や床の隅、歩く道以外の所にはケーブルや何やらが乱雑に置かれた空間だ。少し狭い出入り口を抜けるとすぐに外へ出られるが...


「「…………」」


 三ヶ月ぶ...いや、二日ぶりに見たポッドルームの景色に誰も何も言わず無言で走り出した。


「「……っ!」」


 先頭を走っているのは身体能力が高いアヤメ、仮想世界では嫌という程に見せつけられた。最後尾がテッド、その間にすっかりお下げの髪に戻ったアマンナと私だ。


「走れ走れ走れ!」


「ヴゥヴェア!!!」

「ヴィィヴゥア!!」


「いゃあ!!」

「なんで?!」

「ここに?!」


 私の必死の掛け声に先に応えたのが、付近に散開していたクモガエルだった。

そう、クモガエルが既にポッドルーム内に侵入していたのだ。出た瞬間からあの生理的嫌悪感を誘発する姿が見えていたので誰も喋らなかった。走り出した私達に素早く気付き後を追いかけてきたので、我慢にならずに叫んでしまった。


「マテリアルは!どうする!」


 走りながら誰に言う訳でもなく叫んだ。


「異常が!あれば!本人に!通知が!」


 アマンナが走りながら答えてくれたので少し安心した。しかし私達は全く安心出来ない、ポッドルームの出入り口は見えているのに不思議と遠くに感じてしまう。


「!!」


 アヤメから左斜め前にいるクモガエルが腹を前に突き出すようにして構えている、このままでは糸の餌食になってしまう。クモガエルの大きさは少し小さい。艦体で見たよりも大きくはあるが、人型機よりは小さい。


「アヤメ!気を付けろ!」


「見えてるよ!」


 向こうで飽きる程に戦った敵の行動だ、動きを見極める自信はあったがさすがに後ろからの奇襲には気付けなかった。


「!!」


「ナツメさん!」


 後方、上空から飛びかかるように身を投げたクモガエルが、後ろにちらりと視線をやった先に捉えた。どこにいたのかという疑問とティアマトのマテリアルに登っていたのかという答えが同時に頭をよぎる。クモガエルの影がアヤメと重なり気付いた時には私が先にアヤメを突き飛ばしていた。

 

「ナツメさん!」

「アヤメ!」


 間一髪。耳が取れたかと思う程の音が間近で聞こえ一瞬血の気が引いたがどうやら回避出来たようだ。


「そのまま出口に向かえ!」


 私の声にいち早くテッドとアマンナが反応して足をそちらに向けた。腕の中ではアヤメがクモガエルを睨み付けている。

 攻撃が空振りして地面を強かに打ち付けたクモガエルが再び、少し歪んで異臭を放つ液体がしたたった腕を持ち上げた。


「アヤメ!お前が運転しろ!いいな!」

 

「何!車のこと?!」


 私とアヤメも出口を目指して走り出しながら車の運転をするようにと指示を出す。普段なら乗れたものではないが今は有事だ、こいつが一番早く前にマギールさんに連れていかれたあの駐機場まで辿り着けるはずだ。

 ティアマト・マテリアルよりさらに向こうからも続々とクモガエルが現れ始めたのを尻目にポッドルームを後にした。



✳︎



 気持ち悪い!アマンナやナツメ達が言っていた通りだ!仮想世界に出現していた奴らはまだ見た目がマシだと言っていた意味がよく分かった!

 ポッドルームを飛び出し延々と続く道をただひたすらに走る。二日間も眠っていた体が少し重く感じるのは気のせいではない。息が切れるのも構わずアマンナやテッドさんの後を追いかける。


「アヤメ!無事?!」


「大丈夫!」


 走りながらもアマンナが心配してくれている、敵の姿も見えなくなりナツメもいくらか余裕が出てきたようだ、私が知らない隊のやり取りを始めた。


「十九番機!少しぐらいは私も気づかえ!」


「はいはい!隊長は無事でしょう!」


 状況も忘れて二人のやり取りが何だかこそばゆく感じてしまう、あのアマンナが私達と同じようにナツメを「隊長」と呼んでいるのだ、まぁ私は一度も呼んだことはなかったけど。


「見えました!」


 先を走っていたテッドさんが声を上げた。後ろから追いかけてくるであろうクモガエルの声はまだ聞こえない。けれどあの扉...何だか様子がおかしい。


「はぁ、はぁ、あれ?な、なんで」


「はぁ、はぁ、ひらか、開かない?」


「おいおいおい」


「何で?!いつもならとっくに開いてるよね?!」


 厳重にロックされた扉が微動だにしていない、いつもなら私達の姿が見え始めたあたりで自動で開くはずなのに。テッドさんやアマンナが扉を開けようと試みているが、


「何でさっ!何で開かないの!!」


「僕達の登録が抹消された……?確かマギールさんが言うには絶対に出られないって……」


 そんな馬鹿な話しがっ!


「おいおいおいおい……頼むよ、何でこんな時っ!」


 今にも泣きそうなナツメ、後ろから奴らの声が遠くに聞こえ始めていた。


「他に出口は?!」


「ないっ!」


「あーあ…わたしもここまでかぁ…何て短い人生だったんだろ……」


「いや、アマンナはこの中で一番長生きしてるからね」


「馬鹿な事言ってないで通信を取れ!アマンナ!グガランナやティアマトに!誰でもいい!」


「あぁ、わたしがマキナであることを忘れていたよ」


 私もナツメも遠慮なくアマンナの背中やら頭やらを叩いた、こんな時に何て悠長なっ!


「痛い!アヤメやめて!」


「アマンナ!お願い!」


「分かった、分かったから!」


 そうこうしている間も後ろから敵が迫ってきている、もう間もなく出口に奴らも辿り着くはずだ。

 そしてさらに異変が起きた、通信を開始したはずのアマンナがその場に倒れてしまったのだ。


「「「アマンナ?!」」」


 皆んなが口を揃えて床に倒れてしまったアマンナに声をかけるが返事がない。さっきまで冗談も言っていたのにどうして?!


「何があったんだ?!」


「分かりません!アマンナ?!しっかりしてアマンナ!」


「うそうそ、アマンナ!」


「まるで反応がない……もしかして、マテリアルからサーバーに戻った?」


「こんなタイミングで?!いやでも…」


「アマンナが一人で逃げたって言いたいの?!そんな事するはずないでしょ!!」


 後ろからはさらに敵の声や通路の壁を何かで引っ掻いている音が、徐々に大きく聞こえ始めてきていた。それに視界にも敵の姿が映っている。


「アマンナぁ!!お願いだから戻ってきてぇ!!何でも!何でも言う事を聞くからぁ置いていかないでぇ!!」


「お前!私にキレておきながら!やっぱりお前もそう思っているんだろ!」


「喧嘩している場合ですか?!すぐ後ろに来ているんですよ?!」


 もうすぐそこまで来ている時に通路の途中にあった点検用のハッチが勢い良く開いた、ハッチは弾き飛ばされちょうどそこを通りかかっていた敵にぶつかり数瞬足を止めた。さらにハッチの中からもクモガエルが現れたがここの通路は人間用に作られた狭い場所なので大渋滞を起こしたようだ。


「ヴェィヴァ!!」

「ピギュィアヴェ!!」

「ウヴェウヴェア!!」


「ひぃ!気持ち悪い!」


 押し潰されたり半壊した敵が通路に詰まり後ろから差し迫っていた敵の動きを止めてくれている、だが時間の問題だろう、すぐに押しのけてここまでやって来るはずだ。


「アマンナ!」


 もう一度アマンナに声をかけると、今度は目蓋がぱかっと開いて一度も聞いたことがない口調で喋り始めた。


「問題承認、解決のために割り込みを開始、扉のロックを解除」


「は?!」


 その言葉と同時に扉をロックしていた機構が次々と外されていく、もう一度アマンナに目を向けるとゆっくりと起き上がってきた。


「……あれ、ここどこ……何でわたし服着てるの……」


「ここはマンションじゃないよ!いいから早く起きて!」


「…え?……ぎゃあああ!!!何あいつらキモっ!はっ!そうだ思い出した!」


「いい!とにかくよくやったアマンナ!後でいくらでもキスしてやろう!」


「いらんわ!」


「アマンナ!無事なの?!」


 何だったんだ今のは...?まるで自動音声のような抑揚のない声で喋っていたが...まるで何事もなかったように身を起こしたアマンナ。


「無事!それよりさっきの言葉ちゃんと聞こえていたからね!何でも聞いてくれるんでしょ!」


「分かった!私がいくらでもキスしてやろう!」


「ひゃっほーい!」


 ナツメの言い方を真似て答え、それに文字通り飛び上がらんばかりに喜んだアマンナが先に出口の扉を潜って外へ出て行った、それと同じくして後ろにいた敵が押しのけ私たち目掛けて再び走り出したので慌てて外へとまろび出た。



 クモガエルが踏み付けたのかはたまた叩いたのか、マギールさんお気に入りの車はボンネットと天井がいくらか凹んでいた。幸い車の周りにはいないようなので、さっきナツメに言われた通りに運転席へと乗り込む。「いた!」と言いながら後部座席にナツメとテッドさん、そして助手席にはアマンナが座った。

 エンジンスタートボタンを押して無事にエンジンがかかったところで音を聞きつけたのか天望の壁からクモガエルがよじ登ってきた。


「何であんなに気持ち悪いのっ」


「あれ、グガランナのマテリアルに侵入してきて大変だったんだよね、わたしはある程度耐性付いたけどさ」

 

「いや、お前のんびりしすぎじゃないか?アヤメが運転するんだぞ?」


「やれって言ったのナツメでしょうがっ!」


「アヤメさん早く!僕達のことは死人か何かだと思って飛ばしてください!どのみちクモガエルに殺されてしまいます!」


「テッドさんも何気にひどくないですか?!」


 それ、私の運転にも殺されると言いたいの?

クモガエルが駐車している所に登って腕を振り上げたところで勢い良く車を発進させた。


「んぎゃっ!」

「あっぶなぁ」


 避けたつもりがトランクルームには掠ってしまったようだ、車体が揺れる程の衝撃を受けてしまい、運転に支障は無いとそのまま坂道を目指す。


「スピードは落とせよ!」


「いいよそのままいっちゃえアヤメぇ!」


 隣で拳を突き上げナツメの声に被せるように檄を飛ばすアマンナ、その言葉を受けてさらにスピードを上げる。


「聞いてんのか人の話し!!」


「違うよ別のクモガエルもこっちにきてるんだよっ!」


 Uターンをしている間に別のクモガエルが登ってきていたのだ、車が坂道を向いたところでさらにスピードを上げる。


「お前はクモガエルの味方なのか?!このまま突っ込む気なのか?!」


「あーあーあーあー」


 喚く二人を無視して坂道から車体をロケットのように飛ばした。


「ひゃっーほぉぉいっ!!」


 人型機の操縦ですっかり慣れた浮遊感の後にクモガエルに叩かれた時は比べものにもならない衝撃の後、未だクモガエルに侵入されていない道路を疾駆する。


「アヤメ!もっと左に寄せて!」


「大丈夫なの?!」


「いけるいける!」


 グガランナの時とは違ってアマンナのテンションが高い。ちなみに後ろの二人は坂道をジャンプしてから一言も喋らない。


「あそこの角をドリフトして曲がるんでしょ?タイミング合わせてね!」


「いいよ!」


 アマンナは私の運転が怖くないのだろうか?むしろ楽しんでいるようにさえ見える。


「今!」


 私がハンドルを切るタイミングよりもさらに遅い、左に体を持っていかれながら迫ってくる中央処理装置に冷やりとするが...


「ぶつかるぶつかる!」


「だいじょーぶ!」


 ブレーキを踏みたい衝動を押さえてギリッギリでぶつかる前にハンドルを元に戻した。


「ひゃっほーい!」


 あまりの快感に今度は私が叫んでしまった、私よりアマンナの方が判断力が良いらしい。


「アヤメの運転は最高だねぇ!」


「ほんとっ?!」


 初めて褒められた。


「後で好きなだけキスしてあげるよっ!」


 私の言葉に嬉しそうに腕にしがみ付いてきたアマンナと一緒に駐機場へと車を走らせた。



45.b



「ほら!二人共急いで!」


 あ、アヤメさんの声に我に帰る...どうやらまだ生きているようだ。

道案内をしていたナツメさんの声を聞きながら放心してい状態から素早く回復して駐機されている人型機へと足早に向かう。


(あの時とは全然違うな……)


 三ヶ月前...ではなかった、数日前にここへ来た時は大きな機械だな、ぐらいにしか思わなかった人型機が今はとても頼もしく思える。マギールさんに支えてもらいながら掴んだ電動ロープも足元を見ずに登る事が出来るし、乗り込んだコクピットで次はどうすれば良いか、その手順も体に染み付いている。


《起動》


 フライトスーツを着ていないのは少し心許ないが陸地戦になるので必要ないだろう。


《機体を同期しています》


 コクピット内の座席の位置が自分の体格に合っていないので、少しの屈辱と共に調整する。


《同期完了》


(どこに?)


 これいつも不思議に思う。「同期」とは文字通りの意味なのかな?どこかと情報であったりバージョンであったり、元となっているところと何かしらを合わせているのだろか。それかもしくはグガランナさんのように「パイロット」と「機体」を繋げる意味で言っているのか...


《操縦権を授与します》


 そういえば、アマンナはこの台詞にいつも怒っていたっけ。偉そうとか何とか言って。もうあの生活に戻ることはないんだと、今更になって胸が締め付けられた。

 皆んなも起動を終えたのだろう、ナツメさんから早速指示が飛んでくる。不思議な事に、モニターに映し出された発言者を示す数字が「7」だった。


[これは訓練でもなければここは仮想世界でもない、我々人間は死ねばそこで終わりだ、気を引き締めるように]


「はい!」

[了解!]

[うぃー]


[ふん、まさかの十九番機のふざけた返事に助けられるとはな]


[あっれーもしかして隊長、緊張してます?あれだけ派手にやらかしてたのに?]


[当たり前だ、テッドお前は私に付け、アマンナはアヤメに付くように、早速お出ましのようだ、迎撃始め!]


 駐機場を囲んでいたフェンスの向こう側から敵が二体こちらに走って来ている、大きさはポッドルームに現れた敵より大きい。目視では人型機と同程度、仮想世界で見たものよりさらにグロテスクな見た目だ。

 敵から一番距離が近い僕が牽制射撃を行う、フェンスや小ぶりな建物に被弾して穴を開けながら敵を威嚇して皆んなの戦闘態勢を整える時間を稼ぐ。フェンスの向こう側には近づいてきていた二体、さらに別方向からも敵が迫ってきている。アヤメさんとアマンナが向きを変えて別方向の敵に対処してくれるようだ。


[こっちは私達が片付けておくよ!]


[いぇーい!アヤメとペア!]


[遊びじゃないんだ真面目にやれよ!]


 アヤメさん達に叱咤しながらも、腰に収納されていた伸縮型の槍を引き抜きフェンスを押し倒して侵入してきた敵を迎え撃つナツメさん、ここの機体は斧ではなく槍が近接武器らしい。

 接敵。右手に構えた槍を素早く敵の眉間へと突き刺す、斧と違って殺傷は点のみで行われるので出血が少ない。


[ん?]


「あれ?」


 綺麗に眉間を貫かれた敵がその場で崩れ落ちた。


「ナツメさん!引いてください!」


 敵の異変に棒立ちになってしまったナツメさんにもう一体の敵が躍りかかっている、腕を振り上げ槍を横に構えたナツメさんに殴りかかった。


[重い……っ!]


 ナツメさんに食い付いた敵を後ろから、お腹にある心臓部を狙って撃った、着弾したと同時に激しく身を震わせて血やら内臓やらを撒き散らしながら...動かなくなってしまった。


「あれ?どういうことですか」


[何故復活しないんだ?]


 いつもなら瞬く間に再生して立ち上がってくるはず。アヤメさん達も異変に気付いたのか敵を一体串刺しにした状態で通信を行なってきた、ちなみにアヤメさんを表す数字は「1」だった。


[これ、何か弱くなってない?こんなに簡単じゃないよね?]


 頭からお腹にかけて綺麗に一突き、眉間と心臓を一回で貫いたアヤメさんの技量が化け物じみている。


[これもしかして……]


 「19」の数字からアマンナが何か言いかけた時、全周波で聞いたことがない男の人から通信が入った...いや、聞いたことがあるな。


[やぁやぁ諸君、現実世界での特別実習の調子は如何かな?少し手応えを感じないだろうが、僕達マキナや人間達のために頑張ってくれたまえ]


[その声は……まさか、教官?]


[あーやっぱり……ゼウスだね?噂は聞いてるよ]


 冷たく答えたアマンナの声を聞いて、ぜうすと呼ばれた教官...いいや、マキナの人が何故だか押し黙った。


[………………………]


[聞いてるの?ゼウスでしょ、向こうで臭いを付けたりしていたの]


[あぁそうとも、それと君達には是非とも勝っていただきたくてね、難易度も上げさせてもらったよ、勿論ティアマトに内緒でね]


「難易度?」


[そうとも男の娘の君、そもそも君達が「クモガエル」と呼んでいる敵は復活したりしないし、急所を攻撃すれば普通の生き物のように絶命するのさ]


 ....................


「[は?]」


 皆んなが一斉に口を開いた。素早く返事をしたのはアマンナだけだ。


[何でこんな事したのさ、わたしらの訓練にまでちょっかいかけて、おかけでこっちは大変だったんだよ?何か言いなよ]


 こんなに冷たく対応しているアマンナは初めてだ。

それに対してゼウスは何とでもないように呆気からんと答えた。


[その方が確実性が増すだろう?訓練を厳しくしておけば本番で失敗する事はなくなるだろう、僕なりの気づかいさ、感謝してくれたまえ]


「はぁ…」


[[ふざけるなっ!]]


 ナツメさんとアヤメさんが同時に怒った。無理もない。僕達は仮想世界で取り越し苦労をしていた事になるんだ。それにおとこのこって僕は子供じゃない!!


「ぜうすさん、どうしてこんな事をしたんですか?ここまでやる必要があったんてしょうか」


[……君は声も女の子らしいね、惑わされてしまいそうだけど、解答は落ち着いてからにしようか、敵のお出ましだ]


「何を言って……」

 

 ぜうすさんの言った通り、フェンスの向こうにはさらにクモガエル達がいた。仲間の血の臭いを嗅ぎつけてここまでやって来たのだろう。それにクモガエルだけでなく空を飛んでいる敵まで姿を現した。


「あれは……見たことないですよ!」


[飛んでいるのか、厄介な]


 鋭い眼に黄色と黒色の模様が入った大柄な虫だ、クモガエルや人型機と同じ大きさがある。両腕にはびっしりとトゲがありお腹はクモガエルと同じように膨らんでいる。


[あれは「オオスズメバチ」…に似た虫さ、蜘蛛と蜂を融合させたものだろうね……いやはや気持ち悪い]


[ゼウス!この状況が分かっているなら援護してよ!ここを破壊されたらヤバいのはマキナも人間も同じなんでしょ!]


[それは出来ない、表立った援護は控えているようにしてるんだ、敵の数はざっと百といったところかな?彼らはメイン・サーバーを避けて下層に攻撃を仕掛けているようだ、まぁ君達がここまで負けてもすぐに支障は出ないが…………おや、やっぱり見張られているね]


[ゼウス!]


[僕は敵でもないし味方でもない、それと気を確かに持ってくれたまえよ、ではまた後で会おう]


[ゼウスぅ!!……ふざけた奴めぇ……]


 アマンナの叫び声だけが聞こえる。ぜうすと呼ばれたマキナは通信を切ったようだ。それに...


(気を確かにってどういう意味?)


 それだけ敵が強いという事か、もしくは臭いかのどちらかだ。


[奴のことは放っておけ!まずは敵を片付けるぞ!]


「は、はい!」


 危険度はやっぱりあの「おおすずめばち」と呼んだ空を飛んでいる敵だろう、素早く照射を合わせて撃ち落とすつもりでトリガーを引いたが、難なく避けられてしまった。


[ちっ!ここで陣取って敵を迎え撃つ!下手に動くなよテッド!]


「了解!」


 飛行ユニットさえあれば...そう思いはするが今から探すのも換装するのも時間がない。ナツメさんの指示通り一番手前のクモガエルから遠慮なく眉間を狙い撃ちにしていく。ナツメさんも後ろに下がり僕と同じようにアサルト・ライフルで攻撃を仕掛けていく。建物の上空にいたおおすずめばちがお腹を構えた、すかさずナツメさんに注意を促す。


「ナツメさん!建物上空!気をつけてください!」


[あぁ!]


 クモガエルが次から次へと押し寄せてくる、とてもじゃないがお腹を構えている敵に牽制射撃をすることが出来ない。どうせ糸が当たったところで機体の動きが鈍るだけだ、きっとナツメさんも同じように思って放置しているのだろう。しかし、


[ナツメ!クモバチの糸に気をつけて!]


 アヤメさんの通信とクモバチ(ニックネーム?)が射出した糸がナツメさんの機体に付着したのか同時だった。箇所は右腕から頭部にかけて、そして激しく煙を上げながら見るみる溶けていく!


「そんな!」


[クソったれ!奴の糸は溶かすのかよっ!]


 装甲板が溶けて中の部品が丸見えになってしまっている、あの糸を一方的に食らい続けるのは危険だ。一旦距離を空けないとこちらが狙い撃ちにされてしまう。


「ナツメさん!全員に撤退を!このままでは不味いですよ!」


[聞こえているなっ!クモガエルは放ってクモバチに牽制射撃をしつつ距離を取れ!]


 僕達から見て左側に展開していたアヤメさんとアマンナが空中へ向けて狙いも付けずに弾をばら撒きながらこちらに近づいてくる、運良く一体に被弾していとも簡単に地面へと落下していく、耐久性は高くないことに少し安心した。


[誰だ今撃ったのは?!後でいくらでもハグしてやる!続けて撃ちまくれっ!]


[その権利はテッドに売りつけようと思います]


 ほんとアマンナは...どんな時でもふざけるその胆力が羨ましい。いや羨ましがっていいのかな。


「いらないよ、自力で落とすから」


[あれ、意外とテッドさんも余裕だったり?]


「アマンナが裸で抱きついてくることに比べれば、マシですね」


[なんだとぅやっぱり照れていたのかこの性欲お化けお兄ちゃん!どうして今頃白状するんだ!]


 馬鹿な会話をしながらもクモバチに牽制をしつつ距離を取れている。

余裕がないのは僕らの隊長だけみたいだ。


[ふざけるなっ!これは訓練じゃないんだ!溶かされたくなかったら真面目にやれっ!]


[溶かされた本人が言うから説得力あるね]


 合流したアヤメさんの機体をチラリと見やると先端が溶けた槍が目に入った。え?あんな細い武器で飛んでくる糸を払い除けたというのか?


「アヤメさん……その槍もしかして……」


[お腹を突いたら溶けてしまったのでびっくりしましたよ]


「あ、そうですか、てっきり飛んでくる糸を突いたのかとばかり」


[そんな化け物じみた事出来ませんよ]


(いやあなたがそれを言いますか)


 本当はやれば出来るのではないか?と思いながら空中に弾をばら撒き続けた。


[空を飛んでいる奴によく近づこうと思ったな……十分化け物だぞ、お前]



 攻撃が止んだ隙に敵に背中を向けて走り出した。クモバチが狙いを変えたのか駐機されていた無人の人型機を次々と糸で溶かしていく。思ったより敵は賢い、これで僕達の人型機が破壊されてしまったら攻撃出来る手段が無くなってしまう。

 入り口とは反対方向、建材が山積みにされた側からフェンスを飛び越え下層の街並みへと身を隠しつつさらに距離を取る。後方から、駐機されていた人型機への攻撃を終えたのかクモバチが僕達を追いかけてくる。この辺りには一度も足を踏み入れたことがないため地理感がまるでない、ホテル前と比べてかなり曲がりくねった構造になっているようだ、それに窓がない建物も多く林立しているように思う。


[六時に二体!]


 素早く報告されたので誰の声か分からなかった、後ろを振り返ると建物を縫うようにクモバチが迫ってきていた。


[ちっ!目障りなっ!]


 ナツメさんの進行方向に糸が射出されて動きを止められてしまった。付着した糸が建物の一部を溶かし始めている。


[二人は先に行って!この二体は私とナツメで片付けておくよ!]


[気をつけて!]


 アヤメさんが引き返し、ナツメさんの援護に入る、僕とアマンナは二人を残して先を急ぐ。


「アマンナ!どこへ向かえばいいの?!」


[わたし達の愛の巣だよお兄ちゃんっ!]


 何を馬鹿なことを...アマンナもナツメさんと同じように戦闘中はテンションが上がるタイプなのかな?

 アマンナより前の建物からさらに二体のクモバチが姿を現した、さすがに接敵は回避出来ないと判断してアサルト・ライフルを構える。構えた僕を見てアマンナが右腕に収納していた槍を引き抜きさらに機体のスピードを上げた。


(勿体ないな……)

 

 二体一組で行動している手前の敵へ射撃を行う、勿論当たらない。弾丸は空を切り後方へと飛んでいくが、敵が避けた先にはアマンナの槍が待ち構えていた。


「……っ?!!」


 建物の壁を一度蹴り上げてから身を空中へと踊らせたアマンナの機体が、アマンナの動きに驚き身を竦めた敵の頭を突き上げた。後方に控えていた敵が、一動作を終えて無防備になったアマンナに狙いを付けたが今度は外さなかった。


「!!!」


 僕の照準に気付いた時には既にトリガー引いていた、頭やお腹を撃ち抜き地面に落としてやった。


[さっすが!テッドはいちいち口で言わなくていいから楽だよ!]


「それはアマンナもでしょ」


 残り少ないマガジンを交換しながらアマンナの賛辞に答えた。

僕とアマンナの連携は無言で行われる、互いに何がしたいのか動きで判断して自分の行動を組み立てていくのだ。


(勿体ないな、アマンナとペアなら負ける気がしない)


 この戦闘のためだけに人型機の操縦を覚え、この戦闘が終われば乗らなくなってしまうのがとても勿体ない。


[テッド!後ろ!]


 アマンナの通信に振り向きたかったが、アマンナの後ろからもさらに敵が現れた。二体一組のクモバチにクモガエルもセットになった三体一組だ。


「アマンナの後ろからも来てるよ!」


[えぇ?!囲まれた?!ピンチ?!]


 敵が一斉に糸を射出してきた!


「アマンナ!僕の後ろに!」


[うっへぇ!]


 壁を背にして防護盾を構える、機体の肩や腕、さらにはアサルト・ライフルにまで糸がかかってしまった。激しく煙を上げながら盾も装甲板も溶かされていく。


「うわうわうわっ?!」


[いやこりゃ不味げだねぇ]


 コクピットのコンソールからエラー音が鳴り響く、幸いアサルト・ライフルは溶けなかったが粘ついた糸のせいでトリガーを引くことが出来なくなってしまった。

 お腹の糸は連続で射出することが出来ないのか、敵の動きが止まった。


「アマンナ!建物の上へ逃げよう!」


[それしかないよねぇ!]


 溶かされてしまった防護盾とアサルト・ライフルをその場で捨てて身軽になってから、エンジン出力を跳ね上げ建物へと飛び移った。


「何だあれ………」


[うっわぁ……]


 僕とアマンナもげんなりとしてしまった。建物の上から見えた景色には空一面にクモバチが飛び回っていたのだ。

 さっきの連携でようやく二体だというのに空には数えるのも馬鹿らしい程に敵がいるのだ。


「アマンナ、ここって仮想世界だったりする?」


[マキナからしてみれば現実世界も似たようなもんだけど……]


 何でこういう時に限って真面目に返すのか。

手前にいたクモバチの集団が僕達を見つけたようだ、さらに下からもクモバチが上がってくる。


「いやぁ!僕もマキナになりたいよ!」


[テッドの悲鳴初めて聞いた]


 さらに右側からクモバチが錐揉み回転をしながら僕達に突っ込んできた。ん?

羽をもがれて無惨な姿にされたクモバチのようだ、僕達ではなく目の前にいた別の敵にクリーンヒットして二体もろとも地面へと落下していく。


[無事かっ?!]


「ナツメさん!!」


[カッコいい登場ですこと]


[アマンナふざけてないで援護!]


[りょーかいっ!]


 さっきの無惨なクモバチはナツメさん達が投げ付けたようだ、いや間違いなくアヤメさんだな。

 別の建物から先端が溶けた槍を構えながら人型機が空中へと飛びかかった、まさかそのまま突くつもりかと見ていたが驚いたことに一体の敵を素手で掴みあげたではないか。


[ナツメ!]


[あまり動くなよ!]


「え」


 空中で捕まえた敵をナツメさんがお腹を撃ち、中から溢れてきた糸を周りに目掛けてアヤメさんが振り回した。飛び散った糸に何体か付着し羽やら頭やらを溶かされさらに地面へと落ちていく。ぼけっと見ていた僕も慌てて腕から槍を引き抜いてアヤメさんの援護に回った。


「何て化け物!」


[本当に!この糸が厄介なんですよ!]


(いやあなたのことなんですが)


 こんな連携ありなのか?どっちとも技量が高いだけでなく少しの間違いがあれば簡単に大怪我を負ってしまうものだ。僕にはとても真似出来ない。


「常勝不敗のアイリスは伊達じゃないですね!」


[どーもっ!]


 いやしかしだ、いくら二人の連携が凄いといっても敵の数がまるで減っていない。このままではジリ貧だ、いずれ弾も皆んなの気力も底をついてしまう。


[テッド!お前は作戦を考えろ!それと引くタイミングもだ!いいな?!]


「了解!」


 全く同じ事を考えていたようでナツメさんから指示が飛んできた。考えるのは僕の役目だ、特殊部隊にいた時からなにも変わらない。


(機体の損傷……残弾数……それから敵の数……)


 コンソールから分かるだけの情報をなるだけ頭に叩き込みながら整理していく。真っ先に決めるべきは撤退のタイミング、逃げる余力は残しておかないと全滅しかねない。


「…………」



✳︎



 ナツメと通信をしていたテッドの動きが止まった、少し冷や冷やしてしまう。またぞろ何か言われてしまったのかとモヤッとした気持ちでいると、テッドから通信が入った。


[アマンナは建物に上がって!アヤメさんと一緒に敵を倒して!]


「いいけど……テッド、大丈夫なの?ナツメに何か言われた?」


 戦闘中だったこともありナツメとテッドの会話が耳に入ってこなかった。


[大丈夫だよ、作戦と…まぁ後は撤退するタイミングを任されたんだよ、僕は頭は良いけど度胸がないからね]


「何それ、褒められてるの?馬鹿にされてるの?」


[ふふ、言われた本人にしか分からないよ、いいからアヤメさんと戦ってきて!]


 少しむしゃくしゃしながらコントロールレバーを操作する。


(…………)


 さっきはお互いに褒め合ったのにもう忘れてしまっているみたいだ、そんなテッドに腹を立ててしまっている。

 壁を蹴り上げ通りがかったクモバチを一体刺し殺しながら上へと飛び上がる、既にアヤメが待機していたようだ、手には槍ではなくアサルト・ライフルが握られている。そして背中には大型のライフル、アヤメの象徴とも言える武器だ。


「よろしくねアヤメ」


 端的に言葉を発したのが不味かったのか、すぐに見抜かれた。


[機嫌悪いね、ナツメとテッドさんのこと気にしてるの?]


「ち、違うわい!」


[気にしても無駄だよ、あの二人は戦闘中になると夫婦みたいになっちゃうからね]


「……」


[あっれー?もしかしてアマンナさん、妬いてますぅ?]


 手に槍を構え直したアヤメが冗談を言ってきた。こんな風に冗談を言うアヤメは初めてだ、これだけ仲良くなってもまだ知らない一面があることに新鮮さと驚きを感じた。


「何それ、誰のマネ?」


[ふふ、行こうか!アマンナまたよろしくね!]


 言うや否や飛び出すアヤメ、その背中を追いかけるようにわたしも飛び出した。


(いいもんねー!ここでカッコいいとこ見せてやる!)


 アヤメの冗談のおかげで少しはマシになった気分で機体を駆ける。下からはナツメの援護射撃が空中に散開しているクモバチ達を攻撃している。アヤメが空中に機体を飛ばし一体を刺し貫いた、負けてたまるかとわたしも機体を飛ばして逃げてきた一体を後ろから突く。


[やーい横取りー]


「違うわい!」


 向かいの壁を蹴り付けもう一度空中へ身を投げる、しかしわたしに狙いを付けていたクモバチから糸をぶつけられてしまった。被弾したのは腰のあたり。


「何のこれしきっ!」


 怯むことなくお腹を向けて無防備になっている敵をすれ違い様に仕留める。


[やるねぇ]


 アヤメの言葉に鳥肌が立った。さらに調子に乗って休む暇もなく機体を駆けた。


[馬鹿!アマンナ少しは休憩しろ!身がもたんぞ!]


「お生憎さまぁ、わたしはマキナなんだよっ!」


 それは関係あるのか、というナツメの言葉を聞き流しながら横について来たアヤメと目前のクモバチに向かって槍を構えた。

 先にわたしが槍を突き、躱した敵を横からアヤメが柄で殴り付けて地面に伏せさせる、機体の足で頭を踏み付けた後下から薙ぐように上空の敵に襲いかかる。それを躱した敵を今度はわたしが横からかっさらう、お腹を突いて辺りに糸がかかるように振り回し一回転した後に目前の敵へと投げた。ぶつけられた敵がよろめき間髪入れずにアヤメが手で掴み...


「怖すぎでしょっ!!」


 槍の柄で胴体を地面に押し付けて頭を引きちぎってみせた、ちぎった頭をさらに敵へ投げ避けたクモバチをまたわたしが止めを刺す。


[横取りばっかり!]


「アヤメが言うなっ!」


 テッドとはまるで違う、互いに獲物を奪い合うような連携だった。何をしたいのかと読む暇もない、横取りされないように...いや、少しでも横取りするために先に先にと機体を動かしていく戦い方だった。


「何でそんなに必死なのさ!」


[ここでカッコいいとこ見せておかないと、アマンナに愛想尽かされそうだからね!]


 何だそれ。とか思いながらさらに鳥肌が立つのを抑えられなかった、嬉しいやら恥ずかしいやら。グガランナが、思ってくれている喜びとやらを嬉々として語っていたのが何となくだけど分かったような気がする。


(うぅ〜テッドとアヤメの事で頭が一杯……)


 今は戦闘中だぞシャキッとしろ!と自分を怒ったところでまるで効果がない。ニヤニヤ笑いが止まらないのだ。


「いいよー!ここで差をつけてやるぅー!」


[馬鹿たれさすがに自重しろ!]


 まだまだ敵は襲ってくる、しかし今のわたしに引くという文字はない。さらに調子に乗って建物の上から槍を敵に目掛けて投擲した。


[アマンナ?!]


「敵が重なっていたからね!まだまだぁ!」


 びゅおんと風を切りながら敵を二体串刺しにして、さらに飛び上がり槍の柄を掌で叩きつけた。威力を十分に乗せた腕から繰り出された掌底は、串刺しにしていた槍をさらに飛ばして建物の壁ごとさらに一体を貫通させてやった。


[アマンナ凄くないですか?私でも真似出来ませんよ]


「いやいや、ははは、いやいや、そんな事あるかも?」


 謙遜しているのか嬉しいのか、いやどっちもだ。

体中がふわふわしたような感覚になっているのは何も空中に身を投げているからではないだろう。あのアヤメに手放しで褒められたのだ、体中から力が抜けたような、けれど心だけはしっかりと熱が入ったような感覚を味わっていると地獄を見た。


「うぎゃああっ?!!」


[アマンナ?!どうしたの?!]


 アヤメ達といた通りから攻撃を仕掛けて何だかんだと通りを一本挟んだ所に着地したのだが、目の前から迫ってくる敵の数に思わず叫び声を上げてしまった。常に叫んでいるような気がするけど。


「敵!ヤバい!敵!!ヤバい!!!」


[ヤバいでは分からんだろう!正確に報告しろ!それと今すぐに戻ってこい!]

 

「……いや、これ戻れないかも!さらに新しい敵まで出てきたよ!」

 

 と言ったところでどうする?手持ちの武器は銃が一丁のみだ、さっきの槍は壁に突き刺さったままだし...

 私の叫び声を聞いて様子を見に来てくれたアヤメも叫んだ。


[いゃああ?!!]


[報告!ほ・う・こ・く!!]


[て、敵の数は……もしかして百?あるかな、それに何かウネウネして足も多い……虫?]


[まだ出てくるのか?!数は?!]


 わたしもアヤメに並んで建物へと登った、アヤメの例えた通りに茶色と黒色のまだら模様をした細長く地べたを這いずるように移動している虫が見えた、それも大きい。


「数はそんなに多くはないけど……一番デカいよ、クモバチとクモガエルを足してもまだ大きい」


[おいおい…冗談はやめてくれよ、テッド!]


[はい!]


 二人が建物に上がってきたようだ。

わたしの前方には、曲がりくねった建物を間をびっしりと埋め尽くすように虫達が行進をしていた、クモガエルに新しいに敵に、それから空にはまるで人型機のように編隊飛行しているクモバチだ。あまりの密集具合に建物やケーブルが破損してしまい、建物の倒壊に巻き込まれた虫まで出てくる始末だ。


[総力戦……と言ったところか?]


[そう………ですね]


 少しは勢いを付けられたと思った矢先にこれだ。しかし、これはチャンスなのでは?敵がまとめてやって来てくれたのだ。一網打尽にしてしまえば形勢の逆転も可能だ。それにあの建物は見た目とは裏腹に脆い、虫の進行に簡単に崩れてしまう。今のうちに建物をこっちから倒壊させていけば...


「ねぇ、一つ作戦があるんだけど」


[…]

[…]

[…]


「いやなんで黙るの?!」


[……聞こうか]


 そんな嫌そうにしなくても...


「あの見えている建物を壊していけばいいんじゃないかな?簡単に崩れそうだしさ」


[それは駄目じゃない?あの四角いのは中央処理装置と言って重要な部品だよ?]


「何でそんな事知ってるの?」


[いや私…仮想世界でここに見学に来た事があるから……言ってなかったっけ?]


「聞いてませんけど?!」

[聞いていないぞ!!]

[それなら別の駐機場を知っていますか?!]


 暫く敵の行進の音と、耳障りな鳴き声が辺りを支配する。やや間があってアヤメが返事をした。


[知ってる]



✳︎



 テッドに守秘回線で通信を行う、勿論アヤメとアマンナについてだった。


「テッド、これから先はあの二人を絶対に組ませるな」


[分かりました]


 アヤメを先行させて別の駐機場へと目指して駆けているところだった。

コントロールレバーを握る手は汗だらけ、身の危険を感じたからではない。アヤメとアマンナが繰り広げた戦いぶりに冷や汗を何度もかいたからだ。


(見ていられない)


 機体を全速力で走らせているので車のスピードとさほど変わらない、次々と流れていく代わり映えしない景色の中にも敵の姿が混じっている。

 一機分の細い通りを抜けるとそこは大通りになっていた、アヤメが言うにはあの建物のような物は中央処理装置、それより一際大きい物が建ち並び、プロペラを付けた建物、等間隔に並んだ円筒形の建物、細いケーブルにがんじがらめにされた小さな建物、混然一体となって一つの街を形成していた。


「アヤメ!本当にここで合っているんだろうな!間違えましたでは済まないぞ!」


[合ってるよ!地球が綺麗なままならすぐ近くにある出入り口から外に出られるはずだよ!]


 出たくない。外にはあの景色が待ち構えていると思うと足元から崩れていくような、底の見えない不安に駆られてしまった。


[ナツメさん、これからどうしますか?]


「もう一つの駐機場で武器と機体の補充を行う、そこからやれるだけやるだけさ、それでも駄目ならとんずらをかますしかないだろう」


 タイタニスさんと交わした約束を反故にしてしまうが仕方ない、命あっての物種だ。だというのにあの二人ときたらまるで分かっていない、仮想世界でティアマトの叱責から何を学んだというのか。

 大通りは、複雑ながらもどこか整理されているように見える機械の街を一望出来るなだらかな坂になっている、その向こうに機体が並んだ区画が見えた。私達が乗り込んだ駐機場よりさらに大きい、武器の補充は期待出来そうだ。だが...


[回り込まれてるよ!]


「見れば分かる!」


 円筒形の建物からはクモガエルが数匹姿を現しその上空からまるで援護するようにクモバチが編隊飛行を組んでいる。最初に会敵した時と比べて敵の練度が明らかに上がっている。まるで人間のように学習しながら戦っているようだ。


(新型の敵はいないようだが……奴は何だ?)


 ここに来るまでに何度か敵と接触はしたが一度も新型とは戦っていない、移動速度が遅いのか?

 上空のクモバチがお腹を構えた、どうやら既に射程圏内らしい、素早く指示を出した。


「アマンナ!お前はテッドの護衛にあたれ!アヤメは私と二人の援護をするぞ!」


 しかし...


[ここで二手に別れるのは不味いでしょ!わたしとアヤメが前に出た方が確実だよ!]


[武器の補充なら今のうちに済ませて!]


「自惚れるなよお前らっ!戦い方がなってないんだよっ!」


[なーにぃ?嫉妬ですか隊長、アヤメを取られたからって嫌ですよ]


 まるで聞いちゃいない、図に乗った者の典型的な反応だ。

怖い者知らず、臆病風に吹かれない、大いに結構、だが、冷静さを失い引く事を忘れた奴に待っている結末は「死」のみだ。

 頭が良くて度胸が無い者は生き残る術をいち早く見出して帰還しようと懸命に努力をする。頭が悪くて度胸がある者はまだ人の命令を聞けるだけ救いがある。しかしだ、頭も良くて度胸もある者は一切命令も聞かないし危険を察知しても、分かった上で突撃するのだ。ちょうどアヤメとアマンナのように。奴らが足を止めるのは敵がいなくなるか息の根が足と同時に止まる以外にない。


「私の指示に従え!死にたいのかっ!」


[そもそも私とアマンナが隊長役でしょ?いいからナツメの方こそテッドさんと駐機場へ行きなよ!この時間が勿体無い!]


 そう言い残して、少し足がふらついているアマンナを連れて敵へと突っ込んでいく。


「くそったれ!」


 汗だくになったコントロールレバーから手を離してコンソールを強かに打ち付けた。その音にテッドが怯えたように返してくる。


[す、すみません、組ませるなと言われたばかりなのに…]


 迷った、大いに迷った。テッドだけを駐機場へ向かわせるか否か。ここで二手に別れるべきか否か。

 アヤメとアマンナが踊るように戦っている様を見ながら決断して指示を出す。


「テッド!お前は一人で武器の補充へ向かってくれ!今なら手持ち無しでも辿り着けるだろう!急いでくれ!」


[了解!]


 素早く翻り駐機場へと向かうテッドを横目に見ながら私も武器を構えて二人の元へと急いだ。 

 上空のクモバチを叩き落とし地上のクモガエルを突き上げ宙に舞わせる二人の仕留め方は酔っているようにさえ見えた。


(危険だと!いうことが分からないのかっ!)


 全速力で駆けつける、二人のどちらかでもいい、機体を昏倒させて引っ張っていくつもりだった。踏ん張りが効かなくなってきたアマンナが危険だ、奴が崩れてしまえばお人好しのアヤメはすぐさま援護に向かってあっという間に...


「アマンナ!!」


[え……]


 上空のクモバチを突き殺し着陸した時、ついに腰部から力が抜けたようにバランスを崩してしまった。先の戦いで溶かされた腰部の疲労が溜まって自重すら支えきれなくなり破損してしまったのだ。


[今助けるからっ!]


 近接戦闘していた敵すら放置し槍を投げ捨てアマンナを庇おうと近づくが、それを見逃してくれる敵はここにはいない。地上のクモガエルも上空のクモバチも二人に狙いを定めた。血の気が引いた、どちらかを撃てばどちらかが殺されてしまう。


「…っ!」

 

 アヤメのすぐ後ろにはクモガエルが腕を振り上げている、今からでは避けることは出来ない!素早く照準を合わせてトリガーを引き絞った。


「ヴィェヴァっ!!」


[ナツメ!]


 アヤメの泣きそうな声に死ぬ程に腹を立てながら次はクモバチに狙いを付ける。そしてアマンナの叫ぶ声。


[ナツメ!後ろっ!!!]


 敵の影が地面に映っている。振り返ることなくアマンナに迫ろうとしていた敵を撃ち抜いた。羽をもがれ頭にも穴を開けながら絶命する敵を見届けることなく銃を向けようと懸命に機体を動かすが間に合わなかった。


「ぬぅああっ!!!!」


 コクピットにはトゲが突き刺さり外の景色が映像ではなく肉眼で見ることが出来た。コンソールは消灯、何処かショートを起こしてしまっているのか火花が散ってしまい顔全体が焼けるように熱い、それにプラスチックが溶けたような異臭もしている。聞こえるのは自分の心臓の音だけだ。


「はぁ…はぁ…」


 機体は倒れているのか立っているのかさえも分からない、さっきまで見えていた外の景色もまるで見えなくなってしまった。目がやられたのか?何も見えない。

 そして機体が何かに引き摺られていく音と衝撃の中意識を失った。



45.c



「何か言うことは?」


「…」

「…」


「もう一度言うぞ、他の者に迷惑をかけて戦った感想はどうだったんだ!!!!誰のおかけでお前達がそうして立っていられると思っているんだっ!!!!」


「…ごめん」

「…すみませんでした」


「謝って済む問題ではないっ!!!!気持ち良く戦って死にたいなら誰もいない所で勝手にやれっ!!!!」


「…ナツメさん、傷に障ります」


「…」

「…」


「最後に一つだけ、土壇場で他人を気づかった事だけは褒めてやる、アヤメも、それからアマンナもだ」


「…」

「…」


「もし、あの時鼻で笑って助けもしないなら金輪際私はお前達を助けたりはしない、助けるだけ無駄だからだ、いいかっ!!!!」


「…分かった」

「…はい」


 肩を落として二人揃って医務室から出て行く。眉根は下げて二人とも元気が無さそうだ、けれど無理もない。ナツメさんがあと少しで死ぬところだったんだ、正直僕も腹を立てていた。


(どうしてあんな無茶を……)


 僕が駐機場へ到着したあたりで下層の明かりが消えてしまったのだ、突然の事だった。真っ暗闇になってしまい慌ててヘッドライトを点灯させてお目当ての武器を手にした時、周囲に飛んでいたクモバチや徘徊していたクモガエルが一斉に襲いかかってきたのだ、さすがに肝を冷やしてしまい逃げるように駐機場を後にして、ナツメさんの機体を引き摺っている二人の機体を見た時さらに血の気が引いて血液が干からびてしまったと思った。

 ナツメさんが体を預けているベッドのシーツを睨むように見て考え事をしていると声をかけられた。


「テッド、敵の動きについてどう思う?」


「…」


「テッド?」


 ふらふらと近寄りベッドに腰をかけて、普段はこんな度胸も無いくせに何故だか自然と出来てしまった。


「…」


「あなたの死体だけは見たくありません」


 ナツメさんの首に震える手でしがみ付き体を寄せて、心からの弱音を吐いた。不思議と果物の匂いがしたのは気のせいだろう。

 ゆっくりと背中に手を回して撫でてくれた。


「…すまなかった、お前に助けられた命だというのに私も無茶をした」


「いいえ、ナツメさんらしくて納得してしまいました、けれどそれとこれは別...です」 


 名残惜しくも体を離して腰をかけた状態でナツメさんと目を合わす。軋んだベッドの音だけが部屋にこだました、先に視線を外したのはナツメさんだった。


「…注意しよう」


「してください、駄目なら僕が守ります」


 そこでようやく笑みを見せてくれた、少しだけ安心することが出来た。

 恥ずかしいのか少しはにかんだ笑顔を見せながら敵の変化についてナツメさんと話し合う。


「それと、敵についてですが奴らは暗くなると動きが鈍くなるようです」


「……みたいだな、まさか私が襲われた時に下層の明かりが消えるだなんて、目をやられたかと思ったよ」


 今も下層は暗いままだ。すっかり暗闇に慣れてしまったので夜目でナツメさんを見ることは出来る。けれどこの状態がいつまで続くのかも分からない。


「それと、僕が機体のライトを点けた時、一斉に襲われてしまいました、恐らくですが……」


「明かりに群がる習性がある……確かに仮想世界で生活をしていた時も夜の街灯に集まってはいたな」


「はい、ですので敵を殲滅するなら今が好機かと、けれどそれは僕達の視界不良にも繋がりますので」


 まとまって襲ってきた敵は、この暗闇では動く気がないのか再度散り散りになって身を隠している。建物の陰であったり道路から死角になった場所であったり様々だ。駐機場に併設されたこの建物内は予備電源でも置かれていたのか医療器具を使用することが出来た。


「手を貸してくれ」


「……」


「テッド」


「…分かりました」


 強めに言われてしまったので従うしかない。ナツメさんの細い肩に腕を回して立たせてあげた。まだ覚束ない足取りで医務室を出て、常夜灯の明かりしか点いていない薄暗い通路をゆっくりと歩いていく。


(果物の匂いは………もしかしてこの検査衣?)


 何でまた...僕の方がナツメさんより身長が低いので、ちょうどと言うか、歩いている時はナツメさんが僕の肩に腕を回している。ナツメさんの右脇がすぐ左側にあったので鼻を近づけてさらに嗅いでみた。


「すんすん」


「おまえっ?!どこを嗅いでいるんだ!」


 薄暗い中でもナツメさんの脇が常夜灯に照らされ艶かしく見えていた、あと少しで胸も見えてしまいそうになったので慌てて目を逸らす。


「はぁー…油断も隙もない男だな…」


「いや、違いますよ?何か果物の匂いがするなと思って」


「新しい口説き文句か?」


「果物よりナツメさんの方が美味しそうですけどね」


「…」


「…」


「…」


「…」


「…」


「ほらあれですよ、戦場にいると男女が本能的な行動を取ってしまうあれですよ」


 どうしてかな?薄暗いはずなのにナツメさんの冷ややかな視線をはっきりと感じるのは。

 

「あ、えーと、それでナツメさんはどちらに行きたいんですか?」


「野郎に口説かれて困っていると警官隊の所へ助けを求めに行きたいな」


 皮肉を返されてしまった。


「いやでもですよ?こんな薄暗い中で好きな女性と体を密着させていたら、男なら誰だって口説きにいくと思いませんか?」


「生憎私は男ではないから気持ちが分からない」


 段々と声も冷ややかになっていくのに何故だか口が止まらない。


「周りの人はナツメさんのことを男っぽいと言ってはいましたけど、昔からずっと好きでしたよ」


「続きはベッドの上でどうぞお二人さん」


「?!」

「?!」


 通路を曲がった先に何かを構えた人が立っていた、それに会話を聞かれていたようでまた皮肉を言われてしまった。


「…アヤメか、驚かせるな」


「ふん」


「…あの、どうして銃を?」


 立っていたのはアヤメさんだった、それに手には長い砲身、対物ライフルを持っていた。


「敵が群がってくるから撃退していたんです、まさか弾の補充に戻ったら盛ってる場に出会すなんて……」


「盛ってなどいない、それに敵が群がるとは何だ?この暗闇では動きが鈍るはずなんだが」


「機体の調整のためにスポットライトを点けてるの、それが何でか集まってきて……」


「今すぐにライトを消せ!光に集まってきているんだよ!」



 アヤメさんが急いでライトを消しに行っている間にナツメさんが更衣室に入り着替えを済ませた。この駐機場には飛行ユニットもきちんと整備された状態であったので僕も後からフライトスーツに着替えるつもりだ。


「無理はしないでください」


「分かっているさ、だが今が好機なんだ、攻めない手はない」


 また手を貸そうとしたが断られてしまった。早く着替えろという事らしい。

中に入って変わらず常夜灯に照らされた更衣室でいそいそとフライトスーツに着替える。


「まさか……」


 脇と内腿が剥き出しになったスーツだった、まさかあの時に見たスーツを自分が着る羽目になるなんて夢にも思わなかった。けど仕方ない。

 更衣室を出て待ってくれていたナツメさんと一緒に駐機場へ向かった。外へ出るなりマズルフラッシュの明かりが辺りを照らして敵の死骸が散らばっているのが目に入ってきた、そしてアサルト・ライフルを構えて応戦しているアマンナの姿もだ。アマンナが武器を構えている姿はこれで二度目だ、グガランナさんマテリアル内に侵入してきた敵を殲滅したあの伝説の夜以来だった。


「あ、ナツメ…さっきはその、」


 しおらしく何かを言いかけたアマンナをアヤメさんが途中で止めてしまった。


「気をつかわなくていいよアマンナ、この二人愛の言葉を囁き合っていたから」


「………はぁ?」


 一気に不機嫌になってしまったようだ。いやいや、誤解だ。


「違うよアマンナ、さっきのは、」


「いいや違わない、お前の兄貴は何処でも口説いてくるんだな」


「はぁ?!………はぁーもうばかばかしい…反省して損したよ」


「そんな訳あるか、いいからお前達二人もフライトスーツに着替えてくるんだ」


「換装は全機終わったけど……本当にそんな状態で出るの?」


「私は後方支援だ、どのみちこいつらを何とかしないとおちおち治療にも専念出来ない」


「確かにナツメの言う通り」


「分かったなら行け」


 ナツメさんの指示に返事も返さず素早く建物の中へと入っていく。

周辺には飛行ユニットを取り付けた人型機が全部で四機と小型の敵の死骸があった。アマンナとアヤメさんでここを守っていてくれたのだ。さっきの失敗を取り返すつもりでいてくれたのかもしれない。

 アマンナから受け取ったアサルト・ライフルを手にしてナツメさんに声をかける。


「先に搭乗してください!援護します!」


「頼んだ」


 静かに答えたナツメさんの背中を見ながら周囲の警戒に入った。



✳︎



《起動》


 聞き慣れた電子音声と共にコクピット内に明かりが灯っていく。メイン・コンソールから生まれた光が左右に別れて仮想投影されるスクリーンを縁取るようになぞり、そして後ろへと流れていく。


《機体を同期しています》


 後ろに流れた光が再び前に戻ってきてコントロールレバーに力を与える、グリップが軽く振動して正常であることを示し最後にはメイン・コンソールへと戻っていく。


《同期完了》


 ヘルメットのコネクタ・ケーブルを機体にセットしてバイザーにも同じ情報を表示させる、仮想世界のものよりいくらかこのヘルメットの方が視界が良いようだ。


《操縦権を授与します》


 準備は整った。後は片付けるだけだ。あの二人も機体への搭乗が完了したようで念のために釘を刺しておいた。


「いいかアヤメとアマンナ、次はないと思え」


[分かってますよー]


[うぃうぃー]


 項垂れそうになった頭を何とか持ち堪えて言い返そうとした時に、


[いい加減にしてください二人ともっ!!!]


「…」


[…]

[…]


 テッドの叱責が先に二人を黙らせたようだ。


「いい、怒る必要はない」


 まだ痛む腕を無理矢理動かして離陸態勢を取る。


[けど!]


「分かっててやったな?今の悪ふざけは」


[まぁ…でも、ごめんなさい]


[…うぃー…]


[もぅアマンナ!アマンナが一番心配なんだよ、真面目に返事をしなよ!]


[先程は失礼致しました!ご心配の程よろしくお願い致します!]


 声に出さずに笑ったせいで痛む体をさらに痛めつけてしまったようだ。


[もぅ!アマンナは僕に付いて!アヤメさんはナツメさんの援護を受けながら敵に突貫してください!アヤメさんが開けた穴を僕達がさらに広げていく作戦でいきます!]


 テッドの作戦指示を受けて暗闇の中、四機の人型機が排気ノズルから爆炎を吐きながら下層の上空へと舞い上がった。建物のシルエットが映し出され物陰に敵が潜んでいるのが見えていた。


「どうやら音には気を払わないらしいな」


 私の独り言ーそんなつもりはなかったんだがーには答えずそれぞれが手にした武器を構えた。私が持っているのは人型機サイズの対物ライフル、それから仮想世界では使用が禁止されていた短距離型ミサイルポッド。遠慮なく使わせてもらう。


「今からミサイルを放つ、着弾と同時に手当たり次第に落としていけ」


 右肩にセットされた長方形のミサイルポッドのカバーがスライドし、弾頭を露わにした。


[クモバチ優先?]


「当たり前だ」


 ミサイルポッドのトリガーを引く。右肩から連続的に軽い振動が伝わってくる、そして大した音も出さずに敵へと飛来していく。一発目は建物の屋上に身を寄せていた敵に、もう一発は上空を旋回していた集団に、さらにもう一発は建物を巻き込みながら派手に爆発した。瞬間的に昼間のように明るくなった視界には背中を見せた三機の人型機の姿があった。


「さっさと終わらせるぞ!」


[了解!]

[了解!]

[了解!]


 仮想世界では一度も揃わなかった返事が、ここに来て初めて揃った。

一番前に出たのはアヤメ、槍を構えて機体自体がまるで一本の矢のようになって飛翔していく。アヤメの道標となるように私が後方から敵の集団へと対物ライフルで狙撃を行った、明かりが点いていた時とはまるで違い、ただの的のように撃ち抜かれた敵があっさりと落ちていく。そこへすかさずアヤメが飛び込み生き残っていた敵を無慈悲に槍で突き殺し、さらにアマンナとテッドが開けた空中の道を押し広げるように、互いを援護しながら地上も空中も分け隔てなく敵を撃ち殺していった。


(何ともまぁ…さっきの暴れっぷりが嘘のようだ)


 円筒形の建物に群がっていた敵を一体さらに撃ち、アヤメが見逃さずに飛び込んでいった。槍を振るえば敵が血を吹き上げ銃のトリガーを引けば木っ端微塵にされていく、その無慈悲かつ正確な殺しはさながら戦闘機械、奴らからしてみればただの死神だった。


[これ!圧勝なんじゃないっ?!]


 アマンナが嬉々として声を張り上げた。


[アマンナ、それフラグって言うんだよ!]


 どこか楽しそうにテッドが答えた。アマンナの気持ちは分からんでもない、四人が連携を取って敵を屠っていくのは何とも言えない爽快感があった。


「好きなだけ立てろ!私達がいくらでもへし折ってやろう!」


 私達。そう口から言葉が出た途端に鳥肌が立った。特殊部隊にいた頃は一度も感じた事がない連帯感の渦の中にいたからだ。

 しかし、そう長くは続かないのが戦場というものだ。何処に潜んでいたのか、建物の陰から姿を現した新型の敵が眩く光を放ち始めたのだ。


「何だ?!」


[まっぶっ?!]


[そんないきなり?!光度調整がっ!]


[あれは…何?お尻が光ってるの?]


 旋風のように暴れ回っていた皆んながその場で動きを止めた。唐突に視界が明るく照らされてしまったためだ、それでもどこか冷静なアヤメが敵の分析を行なっていた。ちょうど私の真下にも、確かにお尻にあたる部分から発光している敵が一体身をよじらせながら狭い通りを進んでいるのが見えた。発光している色は緑色...?人工の光でも、自然の光でもない。初めて見る光だった。

 下層の街全体が、テッドに口説かれてしまったあの建物の廊下のように、さらに明るくなった途端にクモバチ達が息を吹き返したように襲いかかってきた。


「やはり暗闇に弱いんだな!各機標的をあの光る虫に変更しろ!」


[了解!]

[了解!]

[やってやんよぉ!]


 真下にいた光る虫を上から遠慮なく狙撃させてもらった。着弾し血や内臓が噴き出すかと思いきや、敵の体から噴き出したのは太陽と見紛う程の光だった。


「くそ?!」

 

 コントロールレバーから手を離して顔を覆うが遅かった、光に焼かれた目は何も捉えることが出来ない。続いて機体に襲ってきた衝撃で肝を冷やした、動きを止めてしまった私に敵が組みついてきたのだ!


[昼間と何も変わらないじゃんこれ!]


[アマンナ!馬鹿なこと言ってないでナツメさんの援護!]


[ナツメ動かないで!]


 機体を殴っていた敵の動きが不意に止まった、しな垂れかかるように体重を預けてくるではないか。いくらか回復した視力で外を見やると敵の胴体に突き刺さった槍が目に入ってきた。


「お前!戦闘力が化け物なら助け方も化け物だな!」


[銃に持ち替える暇が惜しかったから]


 こいつ!槍を投擲したというのか!下手をすれば私まで串刺しにされていたところだった!


「これでさっきの借りは無しだな!二度と私を助けるな!」


[何だその言い方っ!本気で心配したのにっ!]


 味方が全機、私の空域に集合して背中を預けるように周囲を見やっている。


[どうすんのこれ?明るいしクモバチは元気になったし、あの光る虫を撃つと太陽が出てくるしで最悪じゃん]


[テッドさん、撤退しますか?]


[…………]


 敵の数は半数以下になった。これでも大したもんだと思いたいがまだ敵は残っている。私達の周囲には間合いを計っているようにクモバチが飛び、地上には光る虫を囲うようにクモガエルが隊を組んでいた。まさに一触即発の状態。敵か味方か、動けば混戦になるのは目に見えていた。


[作戦があるんだけど………勝手に喋っていい?]


[…]

[…]

「……またか、何だ?」


 場にそぐわない声音でアマンナが通信を行ってきた。


[ここを火の海に変えるのはどう?]


[…]

[…]

「…」


 本当に勝手に喋るつもりらしい。


[敵は光が無いとわたし達を見つけることが出来ないんだよね?だからあの太陽虫が援護に来たんでしょ?だったらわたし達と同じ目に合わせてあげればいいんじゃないかな]


[…]

[あぁ…]

「確かに…」


[ん?どういうこと?]


 分かっていないのはアヤメだけらしい。


[もう、アヤメのおバカさん!]


[キスは取り消しね]


[そんなぁ!]


「つまりだ、奴らは光が無いと視力を確保出来ない、この辺りに火災を起こして撹乱させようという作戦だな?」


[あぁ、さっき私達が目眩しを食らったように…]


[そうですアヤメさん!だからキスの取り消しは取り消しにしてください!]


 必死すぎる。


[しかしいいんですか?僕達が虫の代わりにここを壊してしまうものですよ?本末転倒では…]


「この区画のみだ、奴らを野放しにするよりいくらかマシだろう、それにタイタニスさんとは「無傷で下層を守る」とは約束していない」


[…]

[…]

[…]


「何故黙る」


 そうと決まれば行動に移すのみだ。


「アヤメ、どこを狙えばよく燃えるんだ?」


[はぁ…仕方ないか、あの筒のような部品を狙って]


[あれは何ですか?]


[あれはここいらの部品に電気を送ってるバッテリー、ミサイル撃ち込んだらよく燃えると思うよ]


[それ怖くないですか、よく戦えたねわたし達]


「発案者が言うことか?」


 ミサイルポッドを起動させながらアマンナに突っ込む。すると周囲を飛んでいたクモバチが一斉に動き出した。


「な?!狙いはお前達ではない!」


[いいから早く撃ちなよ!]


 アヤメの罵声と共にトリガーを引くが、発射されたミサイルは付近を飛んでいたクモバチに当たりその場で爆発してしまった。それを皮切りにして地上にいたクモガエルからも糸の応射を食らってしまった。


「すまない…」


[諦めるの早くないですか?!]

[もう!肝心な時にヘタれるんだから!]

[ナツメさんを援護しましょう!]


 アヤメ達が私の周りを囲うように編隊を組み円筒形の建物がある場所まで飛行する。次から次へと押し寄せてくる敵は波のようだ、引いたかと思えば別の集団が襲いかかってくる。


[交換!援護!]

[次私だからね!]


 矢継ぎ早に攻めてくる敵を的確に撃ち落とし、マガジンを交換するタイミングを皆で合わせている。

 機体の足裏、排気ノズルに糸が付着したようだ。幸いクモガエルのものなのですぐに溶けるような事はないがエンジン出力が徐々に落ちていく。


「本当にすまない……」


[駄目だこの人]

[こら!アマンナでもナツメさんの悪口は許さないよ!]

[少しは粘れ!エンジン吹かせば糸も吹き飛ぶでしょうが!]


 言われた通りにフルスロットルでエンジン出力を上げていく、確かにノズルに詰まったようで故障という訳ではないらしい。機体がガタつきながらもパワーが上がっているようだが...そして突然私がミサイルのように真上へと急上昇を開始した、視界はぶれるが一気に敵の包囲を抜けられたようだ。体にのしかかる重力に逆らいながらもバッテリーをロックオンした。


[やっちゃえっ!]


 誰の声かも分からないがそれを合図にしてトリガーを引く、瞬く間にミサイルが飛翔してバッテリーを粉々に吹き飛ばした。そばにいた敵をも巻き込み激しく爆炎を上げ、さらに周りに火が付いた液体をばら撒きながら火の海を拡散させていく。隣にあったバッテリーにも誘爆し、そこはまるで地獄の業火に焼かれたように悲惨な状況へと様変わりをした。

 広がる火炎に慌てたように敵が慄き距離を空けていくが、飛び散る火の粉を食らい一瞬で火だるまになってしまった。よく燃えている。

 目論見通りに敵の動きが鈍くなった、視界を奪われてのことなのか、単に火の海に怯えているのかは分からない。だが、好機が再来したことに変わりはない。


「これで終いにするぞっ!」


 私の掛け声と共に全機が敵を狩るために散っていく。

私は空域に留まり上空から援護に徹することにした、アヤメが槍と銃を巧みに扱い一騎当千の始末ぶりを見せて、アマンナとテッドは息の合った連携で難なく敵を落としていく。後少しというところで敵の動きが機敏になり味方の攻撃を躱すようになった。


(まだ動けるというのか?!)


 ここまでやったというのに?!下層を壊してまで機会を作ったというのに敵の執念深さともいえる抵抗に愕然とした時、三度下層の街に異変が起きた。

 コクピットに水滴が付き始めたのだ。


「何だこれは……雨?」


 上向くと見えない天井から雨が降ってきているようだ、いや、雨ではない。これは、


[スプリンクラー!]


 下層で起きた火災を沈めるために大量の水が降ってきたのだ。次第に強まり視界が確保出来ない程の土砂降りになった、私が火を付けた一帯は雨で鎮火されたようで燻るように煙を上げて、あれだけ抵抗していた敵がその動きを止めていた。クモバチに限っては撃ってもいないのに地面に落下していくではないか。


[羽!雨に濡れて羽が動かせないんだ!]


「理屈はどうでもいい!今のうちに今度こそ止めを刺せ!」


 こうして、長きに渡る敵との攻防戦は私達の一方的な殺戮をもって終戦と相成った。



45.c



下層の雨が止んだ頃合いに再び全機が私の所へ集まってきた。満身創痍、人の姿は見えないが何となく分かってしまう。私もそうだからだ。

 

「よくやった」


[…]

[…]

[…]


「タイタニスさんには私の方から言い訳をしておく、お前達は何を聞かれても私の指示に従ったと言え」


 少し遠くを見やれば火災に焼け爛れた部品群が見える。原形も留めず火災に見舞われた所は一様に溶けてしまっていた。未だに燻って煙を上げている所が全部そうだろう。


[…キス]


 アマンナの一言に皆が息を吹き返した。


[はぁ……まぁ何とかなったしいいのかな]


[いいんですか?これ……どれだけ被害が出ているのか予想も出来ませんよ]


[そういう時に責任を取るのが隊長ってもんでしょ、ね?ナツメ]


「あぁそうさ、とりあえず機体を下ろそう」


[あれ?キス、]


 アマンナの一言は一本の光の矢に遮られてしまった。


「?!」


[真上から!]


[まだいるんですか?!]


 弛緩していた空気が再び緊張に支配された。気力も体力も限界だというのにしつこい敵だ。

 射抜かれた先を見やれば地面に大きく穴が空いていた、今までの敵とは比べものにもならない攻撃力だ。


「!!」


 コクピットからロックオンアラート!模擬戦の時に嫌という程聞いた、不安を駆り立てるような電子音がコクピットを充満させていく。


[ナツメさん?!これはどういう事ですか?!どうして僕達がロックオンされているんですか!]


 テッドの叫ぶような問いかけに答えることが出来ない。射殺すように光の矢が真上から放たれているからだ。避けるのに必死にならざるを得ない。

 上を見上げても未だにスプリンクラーの影響で煙ってしまい敵の姿を確認することが出来ない、それでも尚光の矢は放たれてくる。


[うっそ]


 その言葉と共に、ついにアマンナが射抜かれた。


「アマンナ!」


 レーダーに映っていたアマンナ機がシグナルロスト、次いでテッド、それからあのアヤメすら光の矢の餌食となった。


「テッド!アヤメ!応答しろ!」


 残ったのは私だけ。まるで生かされているようだ。虫共を殺戮した時とは逆の立場になってしまい、胃がひっくり返るような底冷えする恐怖と、一方的に嬲られてしまった怒りでもう一度上向き敵を睨みつけた。

 煙っていた視界がようやく晴れてそこにいた機体は初めて見るものだった、グガランナのオリジナル・マテリアルのように足が無く先端が尖り、二枚の羽のような鋭利な飛行ユニットを装着していた。

 構えた右腕から覗く右肩のショルダー・アートは、戦闘機と。コーヒーと。




 そして、「7.」の数字がペイントされていた。 

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