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第三十九話 アイリスと白雪姫

39.プエラ



 どうしよう...どうしようどうしようどうしよう!!アヤメに嫌われてしまった...あんなに優しい人なのに...いやまぁナツメと比べたら面白くないんだけどさ。


「プー?どうしたの暗い顔して」


 黒ストが声をかけてきた。黒い髪のストレート、略して黒スト。名前は知らない、というかここ仮想世界だし。


「ううん、何でもないよ、心配してくれてありがとう」


 ぺっ!と心の中で唾を吐く、そんな気分だ。


「そんなことないよ、プーと私の仲だもん、ねーっ」


 そう黄色い声を出して私に遠慮なく抱きついてくる。暑い。しかもフライトスーツなのでコネクタケーブルが当たって痛い、今から編成一班で模擬戦前の実戦訓練をするところだった。

 それにこの子はアヤメにテーピングを貰っていたはずだ、本当はアヤメの所に行きたいくせに、何を思って私のそばにいるのか私だって今すぐ行きたいのに!


「ねぇ、アヤメから貰ったテーピングはまだ残ってるの?」


 抱きつかれたまま話しを振るとゆっくりと体を離し、頬を赤く染めながらおずおずと答えになっていない答えを返す。


「アヤメ先輩って…私のこと、好きなのかな?」


「……」


 ぺっ!


「こんな、いきなりプレゼント渡されても…困るし」


 いやいやいやいや、どこの世界にテーピングをプレゼントにする奴がいるんだ。


「あー…それ、きっと気づかってくれたんだと思うよ?アヤメは、誰にでも、優しい人だから」


 誰にでも、という部分は強く言って強調した。

だが黒ストは私の言葉を聞かず、少し離れた所にいるアヤメへ視線を送っている。それに釣られて私も見やるとアヤメと目が合ってしまった。


(っ?!!)


 驚いて視線を外し、自分のコクピット内に目を向ける。細い子供のような体付きが、はっきりと浮き出てくるフライトスーツは嫌いだ。いや、それよりもどうしてアヤメは私のことを見ていたんだろう。この間はあんなにひどいことをしてしまったのに、何回も八つ当たりをして怒らせたというのに、わざわざ視線を向ける意味が分からない。

 隣を見ると私と同じように恥ずかしそうにしている黒ストと目が合った。


「今……アヤメ先輩……私のこと……見てた!」


「…」


 ぺっぺっぺっぺっぺっ!



 気をつかって仕方がない、求められている反応を返さないといけない、いつも笑っていないとダメ、落ち込んでいたら声をかけないとダメ。


「あぁーーーーー!」


 コクピットに閉じこもり通信回線を切って一人で叫ぶ。


「さっきは失敗した…」


 テーピングが切れているなら貰ってこようかと言おうと思ったのだ。アヤメに謝りたかったから、家で会うだろと思うがすぐに逃げてしまうのだ、私が。


「あんな惚気を聞かされるなんて……ぺっ」


 舌を出してうっぷんを吐き出す。

最初は楽しかったのだ、知らない人と話しをしていくうちに仲良くなって、そんな人が私を慕ってくれて。けれどそれはお互いに強制された気づかいがあって成り立つものだと知り、そうだと分かってから一気に興味が失せてしまった。私でなくてもいいのだ、望んだ反応を示してくれるなら誰でもいい。けれどアヤメは違った、違っていたのだ。

 親機を務めるのは常勝不敗のアイリス。アイリスは英語名、まぁアヤメのことだ。そのアヤメから普段聞き慣れない言葉で編隊飛行の指示が出されるが、慣れていないせいか緊張しているのかぐだぐだだった。


[親機より各機へ、今から編隊飛行訓練を行う、指定された高度までじょうひょう後、ほ、本部よりつ、追加される指示にしたがひ、よ、よ、よよ予定航路を航路するように……お願いします……]


 何とか言い切るが無駄だったようで、班内で愉快な笑い声が響き渡る。


[はっはっはっ!さすがのアイリスも緊張には勝てないってか!]


[い、いえ、すみません、噛んでしまって…]


[ふふふ、あのアイリスが可愛いらしいですね、いいものが見れました]


[ははは…いえ、そんな…]


[アイリス先輩可愛いですよー!気にしないでくださーい!]

[もう一回お願いしまーす!あはははっ!]


[いや、だから、わざとはできないよ…あははっ]


 キレた。




[笑うなぁぁあ!!!!!!]




[…]

[…]

[…]

[…]

[…]


[編成一班、飛行訓練は中止にするかい?]


[……いえ、大丈夫です、すみません]


[七小点、君は飛べるかい?君だけ怒っているようだけど、嫌なら中止にするよ]


 何その言い方。


[大丈夫です]


[では続けて]


 教官からの割り込みで...いや、私のせいか。班内の空気は成層圏みたいに冷え込み誰も喋らない。そんな重苦しい空気の中でもアヤメは務めて明るい声で指示を出す。


[親機より各機へ、これより編隊飛行訓練を行う、指定された高度まで上昇後、本部より追加される指示に従い予定航路を進行、その後は別命あるまで空域内で待機せよ、以上!]



「アイリス先輩!一緒に食べましょー!いいですよね?」

「あ、あぁうん、いいよ、一緒に食べようか」

「あ!私もいいですよね!一度ご一緒したかったんですよ!向こうに行きましょう!」

「私が先に誘ったんだよ!」


 独り占めは駄目だよぉとか何とか言いながら、アヤメを両側から挟み込んで拉致していく二人。私には目もくれない、まぁ当たり前か...

 飛行訓練は恙無く終了した、訓練前はあんなに氷点下だったのに、まるで皆んな私ごと忘れてしまったように和気あいあいとお喋りをしながら訓練をこなしていた。

 そして私は一人飯。


「だからアイリスって言うなよ………」


 スクランブルエッグに混ぜられたグリーンピースをいじめながらぼやく。アヤメは嫌いだって言ってるのに皆んなして渾名で呼んで、けらけら笑っていたのが気に入らなかった。だからキレたんだ。


「はぁ」


 広い食堂で一人でご飯を食べる、惨めったらない。けど、仕方がない。アヤメに嫌われて皆んなにも無視されてどうしようもない。


「はぁー帰りたいなぁ…」


「あら、ひねくれらじゃん」


「?!」


 驚き顔を上げるとフライトスーツ姿のアマンナが立っていた、私と似たような背格好のくせに私より胸の膨らみが大きい。一言もいいよなんて言ってないのに当たり前のように席についた。


「誰もいいなんて言ってない」


「しょうがないよ、わたしも一人だもん」


「意味分かんない、それにその髪型は何?ぜんっぜん似合ってない」


「いいよ別に、ひねくれらに褒められても嬉しくないしー」


 腹立つ。


「何かあったの?」


「別に」


「あったんだぁ、珍しいね」


「うっさい」


「アヤメは?元気にしてる?」


 そこでふと顔を上げる。


「……あんた会ってないの?あんなに好き好き言ってたくせに?」


「会わないんだもん、で、元気にしてるの?」


「……してる、と思う」


「はぁ……思った通りだよ、仲良くないんだね」


「は?何が?」


「ひねくれらとアヤメは似た者同士だからねぇ、すぐキレるし何も言わないし、そのくせ優しいからお互いに距離測ってんじゃないの?」


「………」


 ズバズバと言われてしまったので何も言い返せない。


「やっぱり、ちゃんと言わないと駄目だよ、じゃあね」


「あ、ちょっと!」


 言いたいだけ言って席から立ち、私の知らない訓練生の所へ歩いて行く。


「………」


 すぐキレる...確かにアヤメもすぐキレる。料理をしている時は上手くいかないことがあるとすぐに舌打ちするし、洗濯物をうるさい箱にぶち込んでいる時はぶつぶつ文句も言っているし...そんな時は部屋に引きこもるか外に出かけていた、とばっちりを受けたくなかったから。


(確かに…)


 何も言わないとは...あぁ、相手を怒らないということ?私はよく鞄を置きっぱなしにして出かけるけど、毎回必ず部屋の入り口に置かれているのだ。きっとアヤメが部屋まで持っていってくれているんだろうけど、一度も注意を受けたことがない。前に電話線を抜けと迫られた時も鞄は部屋の前に置かれていたし、途中で脱ぎ捨てた片方の靴も玄関にきちんと並べられていた。


(確かに)


 距離を測っているというのは...相手の出方を待っている...みたいな?


(んー?)


 これだけよく分からない。けどアヤメのそばに付かず離れずで過ごしていたあのアマンナがそう言うのだ、きっとそうなんだろう。それに、ここに来た初日も私はずっとアヤメに質問ばかりして、どうするかもアヤメ任せにして..................


(んー?)


 考えても分からん。


「ありゃ…」


 グリーンピースをフォークで突きながら考え事をしていたので、変わり果てた姿に気付けなかった。

 それにあんなガキんちょに先を越されているのが嫌だったので、大人の階段を登るためにも可哀想なグリーンピースを無理矢理口の中に放り込んだ。


「ぺっ!」



 あまり食べた気がしない食事を終えた後はいよいよ編成一班の初模擬戦が行われる。相手は正体不明の七番機と十三番機、この二機はよっぽど強いのかな?言っちゃ悪いが私の班はトップエリートの集まりだ。どこの班よりも早く訓練課程を終えて実践課程に進んだ班なのだ。そんな私達にたった二機で挑むなんて強いか馬鹿のどっちかだ。

 食堂がある本館から中を突っ切り私の機体がある格納庫を目指す。途中の模型やら何やらが置かれた大通りを抜けて本館を出ると見渡す限りの格納庫!見てもちっとも感動しない風景の中には、人型機や輸送機などか空を飛び交いいつ事故を起こすのかと冷や冷やしてしまう。

 有り難いことに私の格納庫は一番近い所にあるのでそんなに遠くはない、ないけど歩いて数分はかかるのでしんどいのはしんどい。


「はぁ…やっと着いた…」


 それにこの炎天下だ。暑い。フライトスーツは吸水性に優れているのでベタつかないが、ぴっちりとしているのでウザい。

 格納庫に入るとこれまた暑い。ふざけんな。アヤメに嫌われたこととアマンナに偉そうに言われたことと暑いのと、さらにはあんなに仲良く振る舞ってあげたのに、一切寄り付かなくなったあの二人に腹を立てながら私の機体に向かうとアヤメがそこに立っていた。


「…」


「…」


「何」


「…いや、さっきは…」


「何」


「…」


「…」


「あっ」


 電動ロープに縋るように足をかけ、引っ張ったところで早くもならないのに力任せに引っ張り逃げるようにコクピットに搭乗した。

 そして力の限りに叫んだ。


「私のアホたれぇぇぇえええ!!!!!」


 馬鹿じゃないの私!!せっかくアヤメから声をかけてくれたのに!!せっかくのチャンスを「何」の一言で返した私の無脳さよ!!呆れてものも言えないどころでは済まないぞ私ぃぃぃぃ......あーあ、もう駄目だ。お終いだ。そうだここで一生を終えよう。それいいね、いっそのことただのデータになってしまおう。それいいね!いい訳あるかぁあ!!!!


「………………………」


 よく考えてみれば私から怒るように声をかけたんだ、いつものように。八つ当たりするように、本当に言いたいことは言わずに。そして怒ってもらえるのを期待していたんだ、自分ではどうしようもないから。プエラが悪いんだよと言ってほしかったのだ、そう言ってもらえたら素直に謝れるから。待った。相手の様子を探った、その顔はとても悲しそうにしていたので見ていられなかった、だから逃げた。

 いつものことだ。そこでようやくアマンナに言われた事が理解出来た。


「………私のことじゃんか…………」

 

 アヤメのことばっかり考えて文句ばっかり言っていたけど、私のことだったんだ。

格納庫がにわかに慌ただしくなる、他の訓練生らが入ってきたのだろう。あの二人がアヤメに絡み、残りの二人組がまるで長年連れ添った夫婦ように仲良く歩いてくるのが見えていた。私はコクピットのハッチを閉じて中に引きもこり、展開されている映像を膝を抱えて眺めているだけだった。何も変わっていない、ナツメと出会って欲しいものを手に入れたと思っていたけど...

 アヤメが皆んなに囲われ少し眉根を下げつつも笑顔で対応している。


「……見たことあるな、この眺め……」


 私が腹を括って下層から飛び出す前にも同じものを見ていた、アヤメの周りが変わっただけで...そもそも私はアヤメみたいな人と出会いたくて飛び出したのだ。そして、まさしくその当人と出会えたというのにこの体たらく。自分自身が変わらなければ意味がないと分かりつつも、自分だけではどうすることも出来ないと、無力感に打ちひしがれながらぼんやりとアヤメ達を昔のあの頃のように眺めていた。



とは言えだ。やらなければならないことはやらないといけない。そう、模擬戦だ。

 既に正体不明の二機は実習訓練場に到着していたようで、その隅っこに陣取っていた。

恐らく親機があの.........雲?それに刀?よく分かんないけど「7」の隣に描かれているのはきっと入道雲だろう、それを旋回するように飛んでいる刀のノーズアートならぬショルダーアートがあった。さらに僚機の「13」にも描かれており......んー?アサルト・ライフルは分かるんだけど、端っこからノイズが走ったように崩れていくのはどういう意味が込められて......はっ


「まさか……あの機体はマギリって人が乗ってるの?」


 あのノイズは仮想世界を表しているのか...確かこっちでしか生活が出来ない女の人がいるとか何とか、随分昔に言われたような気がする....誰にだっけ?

 一人で首を傾げて思い出していると、ついに戦いのゴングが鳴らされたようだ。あのどこか見たことがある教官から通信が入る。


[それでは!ここに模擬戦を始めたいと思う、諸君は大丈夫かい?離脱するなら今のうちだよ?何せ使用する各種兵装は全て!実弾だからね、大怪我では済まないよ]


 芝居がかかったあの物言いは間違いなく奴だ、でもどうやって潜り込んだのか考えているとあの二人から私宛に通信が入った。それもまぁ手のひらを返したように...


[プー、離脱しなくていいの?無理して来なくても大丈夫だよ]

[そうだよ、さっきみたいにいきなり怒鳴られたんじゃアイリス先輩が可哀想だし、抜けなよプー]


 はぁ、と一つ溜息を吐いてから怒鳴ろうとすると、


[二人共]


[?!]

[!!]


 アヤメが優しく諭すように怒ってきた。


[仲間を邪魔者扱いするなら、二人が抜けて、いい?そんな意地悪な子とは組めない]


[す、すみません…]

[わ、私達はさっきのことを謝らせようと……]


[何?私のせいにしたいの?いいよそれでも、ほら早く抜けなよ、どのみち人のせいにしないと喧嘩も出来ないならこの班には要らない、今から戦闘するんだよ?]


[…すみません]

[…………………]


 二人との通信が終わると守秘回線に切り替えた。


[プエラ、親機を預けるよ、いい?]


「…」


[私よりプエラの方が適任だから、指示があれば私に直接、そこから皆んなに私が振る形で戦闘を進めていくよ]


「…」


[嫌ならいいえ、やるならはい、返事ぐらい返して]


「…はい」



 そして始まった模擬戦、私はとても緊張していた。


(おこ、怒られたくない!!)


 ガチガチだった無理もない。私に指揮権を預ける前にあんなものを見せられたのだ。これを計算してやったのなら脱帽ものだが恐らく素の行為、自然体にやったに違いない。それすら恐ろしい。

 とにかく戦闘は開始された、任された以上はきっちりとこなす。それに私は自覚もしているし教官からも言われた事だが指揮官タイプだ。戦場の把握と的確な指示には自信しかない。


(私そういえばマキナだったことを忘れていたよ)


 模擬戦会場は縦に八キロ、横に四キロの長方形、人型機の全力疾走でものの五分で端から端まで移動出来る。それに中央には一際高い塔のような建物もあり、そこをアヤメに押さえさせたら勝ったも同然だ。

 しかし、厄介な事にアヤメの存在は敵に知られているのだ。何せ名誉ある「1」の称号を機体にペイントしている、敵も何かしら対策は講じてくるはずである。

 少し緊張しながら最初の指示を出す。


「あ、………七点から親機へ、親機は目前の建物屋上にて待機、二番、三番を組ませて左から進行、八番、九番を右から進行させてください、様子見です」


 すぐに返事が返ってくる、その声はどこか明るい。


[了解、それと私のことはアヤメでいいよ、二人だけの回線だから、気をつかわないで作戦指示に集中して]


「………はい」


 耳から背筋にかけてこそばゆい何かが通り過ぎだ。それに口がもにょもにょしてしまっているので上擦った声で返事をしてしまった。

 暇もなくすぐに進行が開始された。これでどちらかの組と戦闘になり、すぐさまアヤメを向かわせたらチェックメイト...になればいいんだけどね、そう上手くいきはすまい。

 早速戦場に異変が起きる、塔の裏手辺り、敵の陣地にあたる場所から上空に向けてフレアガンが発射されたのだ。


[?!]

[…]


[はぁ?!]

[自分から?]


 馬鹿にも程があると言いたいが、発射したからには何かしら意味があるはず。本当に自分の居場所を教えるために発射した訳ではないだろう。すかさずアヤメに指示を出す。


「アヤメ、右進行再開、左進行停止、アヤメはそのまま待機、いい?」


[了解]


 左、あの仲良し夫婦と呼ばせてもらうけどあそこは建物が密集してしまっているので混戦状態になると不味い。右側はまだ場所が空けているので戦闘行動も逃走も容易だ。そう思ったのだが、


[?!早い!!]

[戦闘開始!]


「はぁ?!」


[…]


 思っていた以上に敵の進行速度が早く、右側の組が出会い頭の戦闘に突入したようだ。

 それにしてもどういう事?フレアガンを撃って右手に待ち伏せしていたということなのか、何という博打か。それがアヤメだったら即終了だというのに.....いや、待てよ、私の思考がバレているな。


「アヤメ!塔に登って援護!」


[了解!]


 敵は虎の子を初手から出さないと踏んだのだ、虎の子はもちろんアヤメのことなんだけど。アヤメ機が屋上から屋上へまるで地面を走っているかのようなスピードで駆けていく、あっという間に塔の手前に到着しそのまま屋上へ跳ぼうという時にアヤメ機の右腕に赤い火花が散った。


[はぁ?!一発狙撃?!嘘でしょ!!]


「アヤメ落ち着いて!あんたが狼狽えると勝ち目が薄くなる!」


[りょ、了解!各機へ十三番機に気をつけて!プエラも!いい?!]


「りょ、了解!」


 と言っても、私は最初の立ち位置から一歩も動いていないので大丈夫だと言いたいが、まさか私個人に指示が飛ぶとは思っていなかったので少したじろいでしまった。


(さっきのこと、あんま気にしてないのかな?)


 いや、アヤメが優しいだけだろう、絶対気にしているはずだ。

そんな事よりも、虎の子を動かすなら手っ取り早く塔を押さえてもらおうと急いてしまったのが裏目に出てしまった。敵は相当アヤメ機を警戒していることになる。


[ヤバいヤバい!こっち八番きっ]

[一時てった]


[…]


「…」


 嘘でしょ...こんな短時間で、いくらアンブッシュの効果もあったとはいえ、二機共沈黙させてしまうなんて...

 右側の組、八番機と九番機が連続して撃破、これで四対二。不味い。数の優位性が損なわれてしまえば後は泥試合しか待っていない。


[プエラ]


 アヤメに指示を求められる。どうすりゃいいんだ?全く分かんないぞ...


「全機自陣まで撤退、アヤメは左側の組みと再編成して!」


[追い込まなくていいの?]


「………どうすればいいと思う?安全策を取ったつもりなんだけど……」


 何でだろう、不思議だった。あれだけアヤメの前で意地張って怒って八つ当たって...八つ当たって何だ、とにかく素直になれた事なんて一度もなかったのに、不安に思っている事を聞けたのだ。


[んー…どうして?安全策取った理由は?]


「アヤメを失いたくなかったから……なんだけど……」


[…]


 あれ、言葉使いおかしくないか?これじゃまるであなたが好きだみたいな言い方になってない?大丈夫?


[…分かった]


「…うん」


 いやだからさ、何で私も照れてるみたいになってんの?!告白OKもらいましたみたいな空気になってない?!大丈夫?!

 けれどアヤメとの会話はすとんと心に収まり安心感へと変わった。


(最初からこうすれば良かったんだ…)


 分かったとうんしか言ってないのに、心が通じ合ったような...まるで雪解けを待っていた寒く凍えた妖精さんが住むもりの.......はっ


(ダメだ、これはダメだ、ポエム脳になってしまった)


 ここは戦場だぞ?正気か私。ポエム脳はいたく満足している時やリラックス状態の時に陥る.......はっ


「あ、アヤメ、変な事お願いしてもいい?」


[うん、何?]


 どうしてアヤメもリラックスしているんだろうか、声がとても眠そうだ。


「私のこと、怒ってくれない?さっきから緊張感が抜けちゃってさ」


[うん………プエラ、めっ!]


 .....................................あれ、ここどこだっけか、何でこんな所にいるんだろう。

アヤメの、めっ!はヤバい。ポエム書くくせにヤバいという単語しか出てこなくなる程に語彙力が破壊されるのだ。つまりどういう事かというと、子供みたいに甘えたくなる。


[プエラ、後で話そっか、今は戦闘中だしさ、私プエラと話しがしたいの、いい?]


「うん!」


 うん!じゃないよ!いやいいのか、アヤメもそう言ってくれてるし。でも許してくれるかな?


(うーやるぞぉ!頑張れ私ぃー!!)


 頬をぺちぺちと叩き気合を入れる。

既に編成が終わっていたアヤメ機と他二機が右側より進行を開始する。それにさっきと比べて随分と視界と思考がクリアになったような気がする、きっとアヤメと話しをする約束が出来たからだろう。これでようやく今までの非礼を詫びることが出来るのだ。


(アヤメに何をお願いしよっかなぁ〜)


 あれ全然ダメだ。もう一回めっ!をしてもらおうとした矢先に再び戦場に異変が起きる。


[?!地雷か?…………全機ストップ、ここより先は進まない方がいいだろう]


 二番機が注意喚起を行なってきた。さらに先を見やると薄く煙が上がっているようだ。


[被害状況は?]


[問題ない、装甲がいくらか剥げただけだ]


「………」


 いつの間に?こんな短時間で敵は地雷までセットしていたというのか。


「アヤメ、私と屋上で彼らの護衛を、周りこもう]


[りょ、]


 アヤメが返事をする前に二番機から通信を割り込みされてしまった、少しイラっときたがその内容に驚いてしまった。


[七小点、君が親機に指示を出しているのだろう?遠慮はいらない、俺達にも直接出してくれ、前に出ることしか頭にない親機があんなに細かく指示を出せるとは思えないからな]


[私そんな…]


[それと、さっきは不愉快な思いをさせて悪かった]


「……いいえ、気にしていません」


 本当に彼らにはデータなのだろうか。アヤメを見抜いてさらに謝ってきた、もうデータと呼ぶのも失礼なような気がしてきた。


[すみませんでした、レイグには私からきちんと言っておきますので]


 レイグ...二番機の本名か。


[俺だけか?椿も同じように笑っていただろうに]


 つばき...女性の名前、二人の名前。名は体を表すという通り、彼らにも体だけでなく歴史を感じさせるものがあった。


「分かった、これからは遠慮なく指示を出します、レイグに椿、悪いけどこのまま建物を突っ切って周り込んでもらいます、あの塔を押さえきれていない以上は屋上から移動するのは危険なので」


[同感だな]

[仰る通りかと]


[私とプエラで屋上から援護するから、二人は地雷に気をつけてね]


 二人から短く返事が来た後進行を再開した。

屋上へ登り、ライオットシールドを構えて彼らの援護をする。隙があれば塔の上へアヤメも向かわせることが出来ればいいけど。

 コントロールレバーを前に倒し、アヤメの前を庇うように移動する。


[プエラ、気をつかいすぎ]


「アヤメ、自分のことを軽く見すぎ」


 私の言葉に何も返さずシールドに隠れて並走する。言わんとしていることを分かったくれたのかと思った矢先に、


[全機注意!!]


「くぅっ!!!」


 アヤメの檄とシールドにライフル弾が直撃するのが同時だった。鈍くて思い被弾音と衝撃、私の腕ではそう何発も持ちはすまい、それに塔の上を占拠されてしまった。


[プエラ!耐えてくれる?!]


「いいよ何発でも耐えてやんよぉ!!レイグと椿はそのまま周り込んで!きっと屋上に出てこなかったから、しびれを切らして仕掛けてきたと思う!今がチャンスよ!」


[了解!]

[了解しました]


 アヤメ機が私の後ろに膝立ちで構えを取り、手にしていた大型ライフルの照準を塔の上へと向ける。敵の装填が早かったようだ、二射目が遠慮なくシールドに直撃し破片が辺りに散らばり、破損してしまったではないか。


「はぁ?!たったの二発で!このオンボロ!!」


[違うよ、敵は同じ箇所を狙って撃ったんだよ、疲労破壊が目的なんだ]


 止まって援護していたのが仇になったということか。けれどもこっちにはアヤメがいるんだ舐めんなよ!!


[オッケー!プエラ!]


 呼ばれたと同時に横へ退き彼女に射線を開け渡す、塔の上から狙撃していた敵が慌てて下がろうとするがもう遅い。


[ふんっ]


 おっさん臭い声と共に撃たれたライフル弾は、寸分違わず敵の大型ライフルを狙撃出来たようだ、派手に火花が散って爆発し持っていた右腕ごと破壊したようだ。


「凄いねぇアヤメ!お見事だよ!」


[褒められて初めて嬉しいと思ったよ]


 アヤメの言葉にドキドキしながらも進行を再開する。ここでアヤメを屋上へ行かせなかったのは簡単な理由だ。そばに置いておきたかったから、ううん私が離れたくなかったからだ。ただの職権乱用である。

 まぁでもこれで一機の戦力は削いだように思う、後はあの二人に周り込んでもらえたら...と思ったが敵はかなりアクティブなようで二人から交戦開始の通信が入った。


[会敵!戦闘に入る!]

[レイグ援護!]


 屋上から見えた敵機は七番機、手には斧型の近接武器が握られ早速金属が激しく擦れる嫌な音が響き渡った。あの敵機は彼らに任せよう、私とアヤメで十三番機を落としに行くのだ。

 しかしもう一機もアクティブだったようで既に塔から降りて七番機の援護に回ろうとしているのがこちらからでも見えていた。すかさずアヤメに指示を飛ばす。


「アヤメ!」


 言ったと同時に十三番機を狙撃する、間一髪で建物の影に隠れられてしまった。穿たれた壁には大きな弾痕が出来上がっていた。

 まるで敵の動きが読めない、隠れたと思ったら別の建物から今度は十三番機がこちらにアサルト・ライフルを撃ってきたのだ。今度は私達が慌てて屋上から飛び地面へと着地する。


[何なのあれ?!滅茶苦茶じゃんか!それに強いし!]


 アヤメは気づいていないのか。それなら好都合だ、優しいアヤメに伝えてしまうと動きが確実に鈍ってしまうだろう。

 黙った私を見抜いているように鋭くアヤメが言い放つ。


[プエラ、何か考えているよね?分かるよ]


「…ごめん、今は何も言えない、終わった後に説明する」


 アヤメ機の後ろを走りながら張りぼての街を駆けて行く。ややあってから通信が入る。


[…ちゃんと説明してね]


「…分かった、私も援護するから真っ先に倒そう、十三番機はヤバい、動きも読めないし射撃能力も高いから間合いを支配されると勝ち目がない」


[どっちが強いと思う?]


 場違いな質問に窮してしまったが、アヤメの言わんとしていることが分かってしまった。


「丸裸でも私はアヤメが強いって言うから気にするだけ無駄だよ、もちろんアヤメが強いに決まってる」


[ふーん…そっか]


 声が上擦っている、嬉しいんだ、私みたいな言葉でも。

まるで私とアヤメの邪魔をするかのように十三番機が建物の陰から踊り出てきた、その手には七番機と同じ斧型の武器、まるでキャンプに使うようなチープな色合いをした取手部分に目がいったと同時に殴りかかってきた!


「うんぬぅらぁぁあ!!!!」


 破損したライオットシールドで受け止める。耐久性が落ちたシールドでは長くは持たない、それに向こうの斧は刃に返しが付いているので、食い込んだ状態から引き抜かれたらシールドを持っていかれてしまう。破損した箇所から金属が裂けていく引っ掻くような音が鳴り始める、瞬間的にシールドの半分ぐらい食い込んでしまった。それと同時に手を離し距離を置こうとするが、


「嘘でしょっ?!!」


 盾に斧を食い込ませたままタックルを仕掛けてきたのだ、予想外の行動に対応出来ずもろに食らってしまい吹っ飛ばされてしまった。


「うぎゃああ!!!」


[プエラ!!]


 アヤメの泣きそうな声に不謹慎にも嬉しくなってしまうが、ここは戦場だと自分を戒める。それに私を見下ろすように十三番機が立っており斧を投げ捨て、今度はアサルト・ライフルに持ち替えようとするがその隙にアヤメ機が敵機に肉薄する。


[こんたれぇ!!!]


 アヤメ機は近接武器を持っていない、そのため素手で殴りかかるしかないが向こうは片腕を失くしているのだ。私とアヤメ機で挟んでしまえば勝機は間違いなくあるはずだが、味方機から訃報の知らせが入ってしまった。


[レイグ機大破、私も限界です、申し訳ありません]


[そんな!二人でも勝てないの?!]


[異常なまでの執着性にドン引きしてしまいました、前回の模擬戦が相当頭にきていたようです、離脱します]


 何ということ、これで二対二!一機も倒せずに泥試合に突入するというのか。

戻ってきた七番機の所へ、一旦離脱をしようと距離を置き始めた十三番機に今度は私が食いついた。


「アヤメ!ここで合流されたらヤバい!あいつだけでも倒そう!!」


[了解!]


 私の主兵装はサブマシンガン、殺傷力はイマイチだが足止めぐらいにはなるだろう。片腕の状態でここまで肉薄した十三番機には脱帽するしかないがそれもここまでだ。

 中腰に構え私の左側から前方へ突進するように近づくアヤメ機を射線に入れないようサブマシンガンを撃った。逃げようとした敵機はたたらを踏み手近にあった建物の陰に隠れようとするが、アヤメ機が固めた巨人の握り拳を遠慮なく敵の頭部に叩きつけ、よろめいた敵機の腰辺りを至近距離からアサルト・ライフルで撃ち続けた。腰から下、つまりは脚部が人形のようにふらつきその場に崩れ落ちた。これでようやく一機。


「アヤメ!」


[プエラ!!!]


 私は褒めるつもりで声をかけたのに、アヤメは怒るように私の名前を呼んだ。その怒声に竦み上がってしまったがコクピットに投影されている目前の視界に影が落ちてきた。


「?!!」


 後ろを振り向くと同時に兜割を食らいそうになり慌てて後ずさる。機体が尻持ちをついて突き上げるような衝撃がコクピットに伝わってきた。


「くぅっ!!」


 何とかサブマシンガンを持ち上げるがグリップを握っていた手ごと叩き落とされた。今度は私が片腕を失くしてしまった。


「いつの間に!!味方を放ったらかしにて回り込んだのかこいつ!!」


 何て薄情なのか、そう思いはしたが初めから予定されていた連携ならかなりのものだ。信頼が無ければ出来ない動きだ。


[プエラ!立って!後はそいつだけだよ!!]


「わかっ」


 た、そう返そうと思ったのに敵はあろうことか私の機体に蹴りを入れてきたので上手く返せなかった。コクピットに直接伝わる衝撃に気が動転し、そのまま仰向けに転ばされる。


[こんたれぇ!!]


 アヤメ機からのアサルト・ライフルをものともしない、被弾しているはずなのに私にしか目を向けていない、素早くライフルの銃口を突き付けマズルフラッシュが視界一杯に映し出される。


[プエラ!]

 

 アヤメの悲鳴に...........私は満足してしまった。もういいや、模擬戦は。このまま負けてもいい、私は勝利なんかよりも大切なものを手にすることが出来た...と思いたい。アヤメにちゃんと頭を下げた訳じゃないけど。

 けれどアヤメは諦めないつもりなのか変わらず七番機に向けて前進している。


「アヤメ!私はもういいよ!体勢を立て直して!」


[馬鹿!そんなこと出来る訳ないよ!]


「アヤメ!!」


 あれだけ私にご執心だった七番機がいきなり挙動を変えた。射撃をやめて手に斧を持ち、振り払うように投げたのだ。その投げた先は私ではなくアヤメ機。


[なっ?!]


「あやっ」


 実習場に金属と金属がぶつかる歪な音が木霊し、走る姿勢のままにアヤメ機が動きを止めた。一瞬前に聞こえた通信からはくぐもり湿った音と声と金属が裂ける音と耳障りなノイズ音と。そしてゆっくりと前に傾いで常勝不敗のアイリスが地面に倒れ伏した。

 私は素早く前方に立つ七番機を見上げ、そして至近距離から叫びながら撃ち続けた。


「こんたれぇぇえ!!!!!!!!」



「…」


「…」


「…」


「…あぁ、何だその、あー」


「…は、初めまして、ま、マギリと言います」


「ぺっ!」


「…」

「…」


 ここは特別屋外実習場の待機室。戦闘前は会うことを禁止されていた、何故禁止されていたのか今になってよく分かった。

 七番機はナツメだったのだ。そして十三番機は予想した通りに初めて見る女性だった。

 場はとても重い空間に支配されている、まぁ私のせいなんだが。


「…ティアマトさんから連絡はもらった、向こうの体に大事はないそうだ、まぁ私も一度は爆発に巻き込まれたから…」


「そんな事誰も聞いてない」


「…」


「どれくらいでこっちに来るの?ナツメはどれくらいかかったの?」


「…一週間そこらだと思うが」


「…私せっかくアヤメと仲直り出来るかもしれないという時に一週間も会えないの?」


「悪かった、トドメを刺すつもりで投げたんじゃないんだ」


「…」


 下を向いて無視する。二人の足元には汚れてヒビも入ったヘルメットがあった、かなり訓練をしてこの模擬戦に挑んだのだろう。

 結果は引き分け。私とナツメの機体が同時に沈黙してしまったので勝敗を決めることが出来なかったのだ。けれど編成一班にとっては大負けだろう、何せ六機で挑んで勝てなかったのだ。

 座っていたソファから徐に腰を上げてシャワールームへと向かう。


「プエラ」


 ナツメに呼ばれるが答えるつもりはない。


「私さ、」


 いやでも言わないといけない事があったな。


「私さ、ティアマトにお願いしたんだよ、ナツメと一緒に生活させてほしいって、アヤメと一緒にいても苦しいだけでちっとも楽しくないって言ってさ」


「……それで?」


「ナツメに逃げるなってティアマトに怒られた」


「…」


「…そんだけ、私はアヤメと一緒に向こうに戻るよ」 


「……そうか」


 それだけ言い残してその場を後にした。



「はぁ……」


 訓練校を出て、夕焼けの空の下一人で自宅へと戻っている。頭や体のあちこちが痛い、ずっと下を向いて歩いているので電柱やら何やらにぶつけてしまったのだ。


「あいた」


 また当たってしまった、おでこが痛い。前を向くと「相談所」と書かれた貼り紙がされてある電柱だった、これで四本目だ。

 落ち込んだ。アヤメがこっちにいないことにとても落ち込んだ。せっかく話しが出来るようになったと思ったのに。アヤメが戻ってくるまで私は一人ぼっちなのだ。


「………」


 横断歩道を渡ればすぐ家に着く、けれどこのまま帰る気にはなれずに古いバス停を通り過ぎて当てもなくふらふらと歩みを進めた。


「………」


 前にあの二人と駄菓子を買いに来たお店の前にやって来た。あの時迷惑そうにしていたおばぁちゃんではなくお孫さん?若い人が店番をしていた。とても眠そうにあくびをかましている。


「………」


 駄菓子屋も通り過ぎ、誰も守っていないのでいつも素通りしている赤信号を渡り、大きな木に囲まれた神社にやって来た。道路の前には何台か軽トラックが駐車されており荷物を神社の中へ運び込んでいるのが見える。


「………」


 鉄パイプに古そうな発電機、それにビニールプールや色取り取りの水風船。用具入れの古い小屋の近くにはお祭りの文字が書かれたのぼりが無造作に置かれていた。


「………」


 騒がしい場所に行けば少しは気が紛れるだろうと思い足を踏み入れる。砂利の音と葉ずれの音と慌ただしく準備をする人の声。喧騒の中にもアヤメの姿を探している自分がいた。


「……アヤメぇ」


 鳥居も潜らずに踵を返し神社を後にした。

寂しさがより一層際立つような気がして、ここにはいられなかったのだ。



『せやからなぁ、こればっかりはどないしようもないねん!』


『何でやねん!お前がきちんとお金返したらいいだけの話しとちゃんうか!』


『ないんや、それが』


『何でないんや、お前まさかつこたんか?』


『元からもろてへんねん』


 ええ加減にせぇ!やめさせてもらうわ!と何が面白いのか、舞台に立った人達が無駄に笑われて終わった、よく分からない劇を眺めながら湯船に浸かっていた。


「何がおもろいねん」


 ここはスーパー銭湯。訓練終わりに何度か来たことがあった、今日は一人だ。石垣で囲われた熱くもない中途半端な温度の湯船に浸かりながら、大型のてれびに映し出される劇をぼけーっと見ていた。周りには何人か浸かっているぐらいで閑散としている。前に来た時は家族連れや小さな子供が走り回っていたのでもう少しうるさかったように思う。


「………」


 それにしても変わった喋り方をしている、確か方言というやつかな?昔の日本にはいくつも方言があったというが今のテンペスト・シリンダーには受け継がれてはいないだろう。


「よっこらせ」


 露天風呂から上がり小さなタオルで小さな体を隠しながら中へと入る。通路が左右に別れているちょうど真ん中に辺りサウナがあったのでとくに考えることなく扉を開ける。ムワっとした熱い空気が外へ逃げ出し、思わず扉を閉めてしまいそうになったが何とか堪えて中へと進む。


「誰もおらんがな」


 さっきの方言を真似て独り言を言う。四段程の木で出来た長椅子?の上にタオルが敷かれている、誰一人として入っていなかったのでど真ん中に腰を下ろして、露天風呂とは違う映像が流れているてれびを再び見るとはなしに見る。そのちょうど下辺りにやたらと進みが早い時計が掛けられていた。


(あぁ…あれは一分で一周しているのか)


 よし、あの時計がぐるりと一周するまで入っていよう。室内の温度は九十度らしい、九十度?!そんなに熱いのか...


「………」


 室内の壁には「スチームストーンに水をかけないで下さい」と書かれた貼り紙があった、あれは紙なのか?プラスチックか、道理でこの湿度でも剥がれずにいられる訳だ。


「………」


 熱い...それはそうだ熱くて当たり前だ。太ももにぽたぽたと汗が落ちていく、何が気持ち良くてこんな所に入るのかさっぱり分からない。


(あと四周すればアヤメは戻ってくる、あと四周すればアヤメは戻ってくる!)


 何かしていないと気が済まなかったのだ、だからサウナに入って願掛けでもしようと思った。苦しいことに耐え抜けばアヤメが戻ってきそうな気がしたので、だから興味もないサウナに入ったのだ。けれど限界がもうきてしまった。


「これは無理やでぇ」


 癖になってしまった方言を独りごちながらサウナを出る、すぐ隣には通路に面した水風呂があったので置かれていた小さな桶で水をすくって体にかける。


「あばばば!あばばば!」


 何だこれ冷たすぎではないか?叫びながらでないと無理だ。いや、これに入ったらアヤメが家に帰ってきてくれるかもしれないと、とんでも理論を自分の中で構築して勢いに任せて体を沈めた。


「はぴゃぁあああ!!!!……………………あれ、これ全然アリだな」


 火照った体が徐々に冷えていき体の中を何ともいえない、くらりとした感覚が駆け巡る。そういえば室内には計三回、サウナと水風呂を交互に繰り返すのが体に良いと書かれていた。最初が十分、次と最後が五分の計二十分。

 確かにこれは気持ちが良いなと水風呂に浸かっていると、唐突に思い出しその場で立ち上がった。


「そうだっ!」



 アヤメがすぐに戻ってこれないなら私から行けばいいんだ!黒電話の線を抜けばすぐに向こうに帰れるとあの時に教えてもらっていたことを、どんな理屈か知らないが水風呂に浸かっている時に思い出したのだ。

 時刻は薄暮も通り過ぎてすっかり夜。家路についている人や学生らがふざけ合いながら歩いていく横を息が切れるのも構わずに走り抜けた。

 スーパーも通り過ぎ、さらに人が増えて賑やかになった神社も走り抜け、運良く青信号になってくれた無意味な横断歩道を駆け抜け、あくびをかましていたお孫さんがおばぁちゃんに叱られているところを横目に我が家を見やると、そこに立っていた。


「遅い」


「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」


「何やってたの?」


「はぁ…はぁ…んぐっ、はぁ…はぁ…」


「とりあえず家に入って」


「ちょ、ちょっと、待って、くれへんか…」


「…」


「ちが、違う、これは、方言で、はぁ…」


「夕方ぐらいからずっと待ってたプエラのこと」


「な、な、なんやてぇ………」


 その場に尻餅を付いてしまった。真っ直ぐ帰っていれば今頃...


「プエラ」


「はぁ…」


 ようやく息が落ち着き、上向くとアヤメが微笑みながら私を見ていた。


「お帰り」


「………ただいま、アヤメ」


 サウナのおかげか水風呂のおかげか、いやどっちも違うな。こうしてすぐにアヤメと会うことが出来て嬉しかった、沢山話そう。何を思っていたのか何が嫌だったのか、私のことを知ってもらいたいしアヤメのことも沢山知りたかった。

 遠慮がちに差し出された手を、私は遠慮なく握って一緒に家の中に入っていく。


「プエラ、改めてこんなことを言うのも変なんだけどさ」


「うん、何?」


 アヤメが靴を脱ぐために私から手を離した。それがちょびっとだけ寂しかったので、代わりに服の裾を掴んだ。


「これからよろしくね、もう一カ月も過ぎちゃったけどさ」


「…うん、私の方こそよろしくね、アヤメ」


 今度は私が靴を脱いできちんと揃える、それを上り框で待っていたアヤメが再び手を握ってくれた。それだけで毛穴がぶわぁとなって嬉しかった。


「それとね、今日は私の代わりに怒ってくれてありがとう、嬉しかったよ」


 手を繋ぎながら台所へ向かう、きっとお菓子かジュースを取りに行くのだろう。


「嫌じゃなかった?私のせいで空気悪くしちゃったし」


 私の言葉に小さく笑ってから、本音を教えてくれた。何ともアヤメらしい本音だった。


「ううん、実を言うとねあの時私も怒ってたんだ、アイリスって言われたし皆んな笑ってさ、こっちは緊張して一生懸命に指示出してたのに、けど皆んな気をつかって笑ってくれてるんだろうなって思うと怒るに怒れなくて」


 台所に入って冷蔵庫を開ける。やっぱりそうだ、言わなくても何をしたいのか分かったのがちょびっとだけ嬉しい。


「いいよ、次も私が怒るから」


 アヤメが黙って私にジュースの紙パックを渡してくる、それを黙って受け取った。冷蔵庫を閉めた後は戸棚から私が好きなお菓子を取り出して、それを持って居間へと向かい、丸いテーブルに置いて「よっこらせ」と二人揃って同じことを言いながら座った。どうしてアヤメは私が好きなお菓子を知っているんだろう、不思議だけとそれすらも嬉しい。


「ごめんね、アヤメにひどいことばかり言って」


「うん、すっごく嫌だった」


 言葉とは裏腹にその顔は何だか嬉しそう、私も謝っているはずなのに心は踊っていた。


「私ね、アヤメに甘えてたんだ、何を言っても怒らないし何でもやってくれるから、学校で嫌なことがあった時はよくアヤメに八つ当たってた」


「八つ当たってたって何?初めて聞いたよ」


 お菓子の袋を開けながらおかしそうに笑うアヤメ、私も自分で言っておきながら変な言葉だと思っていたので何だかこそばゆい。


「それに………あー…その、何と言えばいいのかな…」


「私と生活するのが意味分かんないって話し?」


「………よく分かったね」


「何となく、それで?やっぱ意味分かんない感じ?」


「それ本気で言ってないよね」


「そりゃそうだけどさ、プエラの口から聞きたいな」


 少し悪戯っぽく笑う表情は初めて見た、その表情にトドメを刺されてしまった。

私が好きだったお菓子も、てれびから流れてくる音声も全く気にならない。私の目と耳はアヤメに注がれていた。


「…もうね、あの時はナツメに逃げるなって手紙で注意されて訳分かんなくなっちゃってさ、アヤメに怒ってほしかったんだよ、だからひどい事を言ったんだと思う、そうすれば素直に謝れるからさ」


「何それ」


「…」


「めっ!」


「あいた」


 指で優しく額を小突かれて、さすがに恥ずかしかったので下を向いてしまった。


「プエラ」


「ご、ごめんなさい…」


「ダメ、許さない」


「え…」


 血の気が一瞬で引いてしまった、まさかそんな言葉を聞くとは思っていなかったから。反射的に顔を上げてアヤメを見やると...


「もう!意地悪しないで!今本気で焦ったんだからね!」


 さっきの悪戯顔で私をにやにやと笑いながら見ていたのだ、もうダメだった。


「ごめんごめん、今ので許すよ、プエラの焦った顔初めて見たから」


「何それ!ふんっ!」


「ふふ、プエラも子供っぽいね」


「ふんだっ!」


 わざとそっぽを向いて拗ねた真似をする、思った通りにアヤメが優しく頭を撫でてくれた。

 少し前まではあんなに距離を置いて遠ざけていたのにそれがまるで嘘のよう、友達のように気兼ねなく、姉妹のように遠慮なく、家族のように思いやり、そして恋人のように優しく甘い時間が二人の間に流れていく。


 そして私はこの日を境に仮想世界を出たあの日まで、たったの一度を除いてアヤメのそばから離れたことはなかった。



39.b



『出発してから一日と二時間後』



「早く出てってくれんかのう…」


「なーに言ってるんですかマギールさん!こんな楽しい所から出て行けなんて無理な話しですよ!!」


「こっちは時間がなんいんだが…」


「カリーン!こっちぃこっちぃ!」


「聞かんか!!」


 まるで言う事を聞かない、アマンナが四人に増えたようで頭が痛い。そう、あの隊長格のアリンという娘も、その妹であるカリンもはしゃぎ回るアシュも、そしてミトンという儂を庇って撃たれたヒグマを一番に悲しんでいたこの娘も、誰も言う事を聞こうとしない。

 少し疲れたティアマトが儂の所にやってきた。


「…マギールあなた、とんでもない人材を雇い入れたものね、あの子達がいかに大人しくて素直であったか思い知らされたわ」


「あの四人も十分に素直だ、だが些か元気があり過ぎるな、ピューマを運び入れるのに相当疲れておるはずなのに……」


 既に中層域に住んでいたピューマ達は艦内に収容済みだ。一部の者達は中層に残るといってここには姿は現さなかったが、殆どが集まっていると言っていいだろう。全てグガランナ・マテリアルのコアルームに待機させている。ピューマの中にもミトン達同様、好奇心旺盛の者がいるので艦内を走り回ったり飛び回ったり、まるで動物園のようになっていた。今もティアマトの肩にはハチドリやリスが乗っており、儂の足元には犬や猫なんかが戯れていた。


「既に一日が経過しておるが、向こうに異常はないか?」


 ややあってから返事をする。


「………えぇ、問題ないわ、全員訓練課程を終えて実践課程に進んでいるから、明日のこの時間帯には仮想世界からこっちに戻ってこられるはずよ」


「今の間は何だ」


「何のことかしら」


「…」


「…」


「ティアマト、報告せよ、これはお前さんの問題だけではないんだ」


 睨みながら詰問してようやく吐き出した。


「はぁ、問題があるとすれば一つだけ、前回と同じように誰かがハッキングして仮想世界内に侵入しているわ」


「まさかテンペスト・ガイアか?」


「どうでしょうね、反応は一つだけだから、何とも言えないわ」


「もし何らかの異常が続くようであれば、あやつらをこっちに戻せ、訓練課程を終えたのなら少し心許ないがクモガエルには対応出来るはずだ」


 儂の言葉にかぶりを振っている、その動きでハチドリとリスが儂の肩に移住してきた。


「それがね、皆んなここから出たくないと言っているのよ」


「はぁ?」


 素っ頓狂な声を出してしまった、アヤメならまだしも、他の者達はどちらかというと嫌がっていたはずだ。それがどうして、出たくないとは気に入ったということか?


「ちなみにだが、どんな世界なのだ?」


「そうね、時代設定は日本の昭和あたりかしら、山も海も近くて田舎と都市部を合わせたような場所よ、それに居心地を良くしてもらうためにも皆んなの記憶を少し弄って郷愁感を与えてあるの」


「…」


「皆んなあんなに嫌がっていたからついムキになってしまって、第二の故郷にしてやろうと張り切り過ぎたわ、ごめんなさいね」


 全っ…………………たく!反省していない笑顔でそう返された。


「馬鹿かお前さんは……それにナツメとアヤメが少しだけこっちに帰ってきておっただろ、あれは何だ?どうして戻ってきておったのだ?」


 ティアマト・マテリアルの様子はここからでも分かるように設定してある、勿論皆のバイタルデータもだ。日付が変わる前ぐらいににナツメがこちらで覚醒したとコンソールから連絡があり、いくつかのチェックと治療を数時間かけて受け、急ぐように仮想世界へと戻っていったのだ。さらに今し方もアヤメが覚醒し、何事かティアマトに怒鳴りつけてから何のチェックも受けずに再び戻っていった。

 あやつらが眠るポッドはティアマト・マテリアルの二階に設置されており皆が裸だ、起きた時はさぞかしテッドが袋叩きにあうことだろう。羨ましい奴め...

 今度の質問には一切応じるつもりがないのか、一階の休憩スペースから黙って出て行こうとする。近くにいた猿型のピューマに頼み身柄を押さえさせた。


「ykkkkiii!!」


「きゃああ?!!何よこのお猿さん私の服を掴まないで脱げちゃうから!脱げちゃうからぁ!!」


 数匹がかりで服やら髪やら掴まれてしまい身動きが取れずにいる、服が脱がされかかっていて意外と純情なのか白い下着が露わになっていた。


「観念して白状しろティアマト、お前さんが身に付けている下着の色を仮想世界の皆に触れて回るぞ」


「こんのくそえろ野郎…分かった分かったから離してちょうだい!」


 自分が作った子供達だから強硬手段に出られないのだろう、猿にされるがままになっている。駄洒落ではない。

 そしてティアマトから事情を聞き、今度は本気で脱がしにいけと猿達に命令して、暫くティアマトと猿が艦内中を走り回っていた。



✳︎



「無理」


「だからねアシュ、この艦体はそろそろ上層に上がらないといけないのよ、だから言う事を聞いて、」


「無理」


「アリンも、ね?あなた達には本当に助けられたわ、また恩返しに必ず来るからここは一つ…」


 アリンとアシュ。マギールの小屋の前で出会ったこの二人は本当に仲良しで、私達の手伝いをしてる時もずっと一緒だった。そして今は艦内の居住区エリアの部屋でベッドに二人揃って寝転び我儘を言っていた。ここから出たくないと。


「あー…あなた達にも仕事や、やるべき事があるのよね?それはいいのかしら、いつまでもここに居ていい訳ではないでしょう?」


「私とアシュは街に戻るつもりでいました、それなのに手伝えと、変な事をするぞと脅しをかけられてそれで手伝ったら後は、はいさよならなんて、そんなヒドいことしなくても……」


「ぐすん」


「分かった、分かったわ!好きなだけここにいなさいな!何か食べ物でも持ってくるわね!」


「…」

「…」


 そう言って部屋を後にした。扉を優しく閉めて柵がなく中央に手摺りが取り付けられたエレベーターに乗り込む。


「はぁ」


 あんなに我儘を言うなんて全く予想も出来なかった。確かに彼女らの働きで予定より早く収容作業は終わったのだ。しかしその後にマギールから詳しい説明を受けて、私達に感動して是非艦内を見学させてほしいと懇願されてしまった。その時はせっかく手伝ってくれたのだからお礼にと私が案内してあげたのだ。だが、案内が終わると帰るのが勿体ないと言い出して後は好き勝手やりたい放題。休憩スペースに置かれて紙媒体の本から読み漁り、飽きたらご飯を食べて格納庫へ走り出し、スイちゃんと艦内を鬼ごっこして駆け回り、汗をかいた後はお風呂に入ってまた本を読み出して...

 一階に到着したエレベーターから降りて休憩スペースへ向かう。入り口近くのフードコートで適当に見繕っていると後ろから声をかけられた。振り向くとあの四人の中でも一番大人しいカリンという女の子だった。


「あ、あの…グガランナさん、すみません長居してしまって、お姉ちゃんも皆んなもここが凄く気に入ったんだと思います」


 まるで小動物のように少し怯えながら謝ってきた。そう、皆んな聞かん坊だけど根は優しい。だから余計に強く言い出せないのだ。


「いいえ、気に入ってもらえて何よりよ、あなたもゆっくりしていってね」


 本当は駄目なんだけど。


「………優しいんですね、グガランナさんも、皆さんも」


「……そんな事はないわ」


「そう……なんですか?きっとお姉ちゃんもアシュもミトンも、優しい皆んな甘えているんだと思います」


 彼女の手を引きテーブルへと連れて行く。椅子に座ってもらい私もカリンの前に腰を下ろした。


「私もね、ある人に優しくしてもらってから今のようになれたのよ、昔はそんな事なかったの」


「どんな…感じだったんですか?」


 この子ならいいかな。アヤメと知り合いという訳でもなさそうだし。


「………口は悪いし、すぐに手が出るし、挨拶もしなかったしよく喧嘩してなぁ、ティアマトの奴に何回怒られたか、いちいち覚えてないね」


「…」


「…みたいな感じかしら?」


「はぇー、別人みたいでした……」


 まぁアマンナと旅をしている時は今の口調だったけど、あの子前でも何度か粗暴な口の聞き方をしたことはあった。

 見繕ったパッケージの一つをカリンに渡す、とても申し訳なさそうに受け取った。


「どうしてそんなに畏るのかしら、いいのよ?そんなに遠慮なんかしなくても」


「いえ、これは癖のようなもので…すみません」


 おかしな子だ。ここまで私達の手伝いをして、帰らない皆んなの代わりに謝りに来てくれたのに。

 なかなか封を開けないので代わりに私が開けてカリンに渡してあげた、さらに恐縮してしまい今にも泣き出してしまいそうだ。


「あ、や、違うのよ?!私はただあなたに食べてもらいたくてっ」


「すみません!すみません、すぐに食べます!」


 あやぁ…何か悪い事をしてしまったなぁ。

あんむあんむと勢いよく食べているが涙目だった。



✳︎



「帰ろっか」


「ねぇー」


「起こしてくんない?」


「そうねぇー」


「アリン?何やってんの?」


「……未発売の新作ゲーム」


「えぇ?!!そんなのまであるのこの船?!!」


「いやこれ…どう見ても違法っぽいんだけど……」


「え」


「これバレたらヤバいやつだよ」


「え、この船、そういうやつ?」


「分かんない……あのピューマってやつも、本当はビースト前の生き物だったり……」


 私の解釈にとんでもない返しをしてきた。


「……レベル上げどこでやってんだろ」


「そっち?私は石か何か与えたら進化すると思ってるんだけど」


「そっち?いやというかさ、アリンは信じてるの?マギールさんの話し」


「半々」


「だよねぇ、いきなりあんな事言われても、まぁ確かにこの宇宙船は信じるけどさぁ」


「そんな実はAIが管理してましたよとか言われてもねぇ……」


「それにあのザコビーもティアマトさんと同じ種神なんでしょ?」


 そうなのだ。あれだけ私達に喧嘩を売ってきたあのザコビーも同じ仲間だと言うではないか。それもあってあまり信じられずにいた。それにここへ来る時に狙撃もしちゃったし。


「うーん…何か派閥?仲間割れ?皆んな意見がバラバラっぽいし、一枚岩じゃなさげだしねぇ」


「本当に私達のために働いてるのかなここの人達は」


「まぁそれ私らが言えるのかって話しなんだけどね」


「ほんとアリンって変わったよね、ぐうたらレベル上がりまくりじゃん、昔のアリンが見たら卒倒するんじゃない?」


「そん時は介抱してあげてね、私ゲームで忙しいから」


「…駄目だこいつ早く何とかしないと」


「私は元々ぐうたらだし一日中本読んでるのが好きな文学少女だし、それに志望は大学生だし」


「あたしも何か本取ってこよー」


「こら、変なタイミングで会話を切り上げるな」


 こうして艦内でアシュを見たのがこれで最後となったのだった。



✳︎



 信じられない。


「……本当にその人は声をかけてきたんですか?」


「えぇ、見た目はあなた達が戦ってきたビーストと似ているはずなのにね」


 そう懐かしむように笑うグガランナさん。この人...まきなって言うんだっけ?まだちゃんと分かった訳じゃないけど、昔に一度牛さんの姿の時に怪我をした妹さんがいて、メインシャフトでそのアヤメさんという人に出会って「大丈夫?」と声をかけられた話しを教えてもらった。そんな事ってあるの?


「その……こんな言い方は失礼なのは分かっているんですが……」


「信じられないでしょう?」


「……….はい、私達ではあり得ない事です」


「私もね、色んな人と話しをして本当にそう思ったし、彼女と出会えた幸運を心から感謝したわ」


 そんな人...本当に優しいか、ただの馬鹿な人だと思う。敵に声をかけるだなんて。アヤメさんという人もその時はグガランナさんの事をよく知っていた訳ではないはずだ。赤の他人どころか、見た目はビーストの敵にそんな...それじゃあ私は?よく知っているどころか実の姉にすら褒められたことがない私は、一体誰に優しくしてもらえるというのか。

 初めて会って、身の上話しをしてくれたこの人に嫉妬するのはお門違いだ。それは分かっているけど、心の内にわだかまるこの思いは自分だけではどうすることも出来なかった。


「優しい……方なんですね、アヤメさんという人は、羨ましいです」


「…」


 私の言葉に返事を返さず探るように見つめてくる。嫉妬していることを見透かされてしまいそうで、何か言い繕うとすると遠くから悲鳴が聞こえてきた。


「?!」


「この声お姉ちゃん?!」


 「ひぃやぁあ!!」とまた声がした、それに今度は大きい。逃げてるのかな。


「あ、あの!これは一体?!」


 グガランナさんを見やると私と同じように焦っていた。その表情を見て私もさらに焦ってしまった、異常事態ということだ。


「カリンはここにいて!いいわね?!」


「は、はい!」


 席から立ち勢いよく走って行く。それと入れ替わるようにアシュが反対の方向からこっちに走って来た、その顔は今にも泣き出しそう。


「カリン!この船ヤバいよ早く逃げよう!変な奴がいきなり現れてあたし追っかけられたし!何とか巻いて逃げてきたけど!」


「さっきもお姉ちゃんの叫び声が聞こえたんだけど……」


 私の言葉にフリーズするアシュ。


「…………そうか、ついに散ったか戦友よ、ゲームばかりしているから……」


「見つけたぞ」


「?!」

「?!」


 湿ったように泡が弾ける音と混じりながら、恐ろしくて低い男の人の声がした。私とアシュが喋っている後ろからだ。恐る恐る振り返ると、


「きゃあああ!!」

「……………っ!!」


 アシュ!!無言のダッシュで置いていかないで!!

立っていたのは、色んな動物達の骨で組み上げた体を持ち、眼球が窪んだ髪の長い化け物だった。皮膚は薄く骨に張り付いているよう、けれどその口が釣り上がり笑っているのが分かってしまうのが不思議で恐ろしかった。


「逃すかぁ!!俺の秘術を明かした罪は重いぃぃ!!」


 ゴボゴボぉと話す声に混じりながら不快な音が混じる。怖い怖い!


「待って!アシュ!ミトンとお姉ちゃんが!」


「ここは戦場なんだ!自分の趣味に溺れている奴なんか放っておけ!」


「アシュ!!」


 お風呂に入る前にスイちゃんとやった鬼ごっこのおかげて艦内を迷うことなく走り抜ける。確かこのまま真っ直ぐ行けば出口のはずだけど、先ずは皆んなを助けに行かないと!


「うふふふっ!」

「うふふふっ!」

「うふふふっ!」

「ぎやぁあああ!!!待って待って二人共逃げるなぁ!!!!」


 気が変わりました、あれはさすがに無理です。


「いやぁぁあ!!何あれぇ!!」


「…………っ!!」


 アシュって本気で焦ると何も言わなくなるんだね、初めて知ったよ。

髪の毛を地面に垂らした人形が四つん這いになってお姉ちゃんを追いかけていたのだ。確か向こうはたくさんの部屋があったはずだけど、さすがにアレに向かっていく勇気が持てなかったのでそのまま出口を目指した。

 少し狭い入り口を走り抜けて頑丈そうな扉が上がっている今のうちにと、息を整えることなく飛び出した。アシュと私、それからお姉ちゃんが続けて外へまろび出て草っ原に転げるように倒れた。


「はぁ、はぁ、はぁ、ミトンは諦めよう!!」


「賛成!」


「はぁ、はぁ、はぁ、あ、あれは、」


 顔を上げた先にばぎーとお姉ちゃんが教えてくれたいつも使っている車に、いつの間に外に出ていたのか半狂乱になったミトンがいた。


「gjjjjwqxpwp?!!」


「大丈夫だよ大丈夫だよぉ!お姉さんが良い所に連れてってあげるから大人しくこの車に乗って!早く!皆んなにバレる前に早く乗ってください!」


「ミトン!」

「アホか!」

「いゃあああ!!!」

「?!」

「?!」


 後ろを見るとさっきの骨だらけの化け物と人形が揃って追いかけてきたのだ、私の悲鳴を聞いたミトンもびっくりして、拉致しようとしていた鹿?に似たピューマから手を離した。


「ミトン!全ての奇行を許すからあいつらを撃って!撃って撃って撃ちまくれぇ!!」


 そして皆んなでばぎーに乗り込みミトンに全ての化け物を狙撃してもらいながら、宇宙船から逃げていった。最後にチラリと見た時にあの鹿さんが化け物達の横を怯えることなく通り過ぎて船に入っていったのが不思議だった。



✳︎



「やり過ぎ」


「そうかしら」


「はぁ…」


「う〜お姉ちゃん達ともっと遊びたかったぁ〜」


「我慢なさいスイ、お友達ならいくらでも作ってあげるから」


 マギールと視線を合わす。


(まるで母親のようだな)


 と、言っているように思う。私もそう思う。


「それにしてもあの気持ちが悪い骨だらけの奴は何?」


 そう、悲鳴が上がったので急いで見に行くと骨だらけの化け物が走り回っていたのだ。それに私には目もくれず執拗にアリンだけを追いかけていた。


「知らないわよあんな奴ら」


(ら、ってそれアリン達も入ってるわよね)


 ティアマトは味方だと認めた者には徹底して尽くすが、敵だと見做した奴には徹底して攻撃する性格だった。親?


「それでお母さん、」


「…」


「お母様」


「グガランナ」


「…母上?」


「…」


「まさか母君?」


「グガランナやめんか」


「止めるの遅くないかしら」


「とにかくだ、これでようやく上に行ける訳だな全く、役に立ったのか迷惑掛けられたのか分からん連中だった」


「自分で…」

「雇っておきながら…」


「どうして降ろさないと駄目だったんですか?」


 スイちゃんの言う事は最もだ。向こうでも人手があるならそれに越したことはないはずだ。


「あやつらには帰るべき場所があるからだ、黙って連れて行く訳にはいくまい」


「それは…」


 スイちゃんが珍しく口ごもる。


「逆の立場になって考えてみろ、黙ってグガランナ達が向こうに行ったらどう思うかね?」


「泣きます、お姉様の枕を涙でぐしょぐしょにする自信しかありません、よく分かりました」


「はぁ、頭が良いのか甘えん坊なのか」


 あれ、お母さんは入っていないのかなと疑問に思いながらも、艦体を飛ばすためにブリッジに向かった。



39.アマンナ



[高度を下げろ、十九番機]


「うぃー」


[ふざけるな、飛行訓練中だ]


「うぃうぃー」


[…]


 わたしの視界には小さな宝石をばら撒いたような夜景が広がっている、とても綺麗だ。手前は訓練校近くなのでぽつぽつと、そして奥はわたしとテッドが住んでいる比較的新しい街があるので、黒く縁取られた山間の内側にびっしりと敷き詰められるように建物達が光っていた。

 この景色は是非ともアヤメかテッドと見たかったのに...アヤメはあのひねくれらと、テッドはまだ会ったことがないマギリという人と同じ班になってしまった。そしてわたしは

...


[十九番機、嫌なら抜けろ、私はそれでも構わない]


「うぃうぃうぃー」


[アマンナ!!]


「はぁ…了解しません」


[どっちだ!!]


「りょーかい!!」


[何なんだ全く…]


 わたしのセリフだぞ、それ。



「はぁーやだぁー行きたくなーいテッドー変わってよーやー」


「もう、アマンナ…いつものお姉さんは何処に行ったの?」


「雲の彼方」


「元気だよね?」


「やーやー無理ーテッドー」


 訓練校に出かける前、テッドとわたしが住んでいる家の玄関先でテッドにしがみついている。制服にちゃんと着替えてこんなクソ暑いのにきちんと上着も着て、後は出かけるだけという時にわたしは子供のように駄々をこねていた。


「そんなにナツメさんが嫌なの?」


「ちーがーうーテッドが良かったー」


「そう言ってもらえるのは嬉しいけど…」


 本当に嬉しいのか照れている、こんなに寝食を共にしているのにこんな単純な事で照れるのか、ここは攻め所だと思いさらに言い募った。


「わたしね、ずーっとテッドのこと考えてるんだよ?」


「はいはい」


 あら?


「テッドって最近冷たいよね」


「やっぱりわざとだったんだね、ほら行くよ」


「もう!割りかし本気で言ってるのにぃ!」


 テッドの背中を叩きながら揃って家を出た。



 仮想世界で訓練を始めて一カ月と半ばを過ぎた頃、二つの事件が起きた。一つはまぁお察しの通り、物の見事にわたしは好きな二人と同じ班になれなかったのだ。せめてどっちか...あわよくば二人共...なんて夢見たあの時の夜に戻りたい。何と純真無垢であったことか、大切な物を無くした後でなければ気づけないように、いかにあの時のわたしが夢見がちの乙女であったことか。


「全員揃っているな、早速今日の訓練を始める」


「「はい!」」

「うぃー」


「十九番機、何だ?」


「……何でもありません」


「ならいい、では、」


 編成された班は教官の元から離れてそれぞれの班が独自でかりきゅらむを組むらしい。ナツメは何がいいのか専ら飛行訓練ばかりするのでいい加減に飽き飽きだった。


「アマンナさん!今日もよろしくお願いしますね!」


「うんよろしくねーマリサー」


 この子はマリサという名前の同じ背格好の女の子。あの砂浜訓練で一緒になったわたしの天使だ、まぁ良かったところはこの子と同じ班になれたことかな?

 髪はくりくりの金髪、テッドとアヤメを足したような髪型をしている、目は透き通るような茶色の瞳だ。そして見事なまな板。勝ったな。


「アマンナさん、失礼なところ見ていませんか?」


「いやいや、そんなことはないよ」


 それと察しがとてもいい、愛嬌のある顔をわたしに近づけてきた。


「本当ですか?」


「本当だよ、ほら、訓練に行こう、ね?」


「…はい」


 手を掴んで詰所から表に出る。危ないバレるところだった。


「ねぇマリサって何処に住んでるの?」


 何気なく、けれど前から聞きたかったことを、遠くに見えている雨雲が早くこっちにこないかなと思いながら質問する。


「私が住んでいるのはこの辺りですけど」


「いいね、すぐ近くで」


「そんなことないですよ、音がうるさいですしお店もあまりないので不便ですし」

 

「あー…確かにね」


 詰所から格納庫までは歩いて何と五分もかかる。意味が分からない。


(てっきりバス通学だと思ったのに…じゃああれは誰なんだ?)


 バスの車内でいつも決まってわたしを見ている人がいる...ような気がするのだ。わたしの被害妄想ならそれに越したことはないのだが...

 二人揃っててくてく歩いて行くと、別の班が格納庫前で点呼を行っていた。よく見るとくりくり頭と紫色の髪をした二人が並んで立っていた。あれはテッドが所属している編成ニ班だろう。


(くぅー!わたしもあそこに立ちたかったぁ)


 モヤっとした気持ちで眺めながら編成ニ班の後ろを通り過ぎていくとテッドがこっちを振り向いた、すかさずわたしは手を大きく振ってアピールをする。少し恥ずかしそうにしただけですぐに向きを変えてしまった。


(点呼中だもんね、無理もないか)


 わたしの様子を黙って見ていたマリサが声をかけてきた。


「あ、あのアマンナさん、向こうにお知り合いの方がいるんですか?急に手を振られたんでビックリしました」


「うんそう、わたしのお兄ちゃん」


「え?!お兄ちゃん?!」


 何だその反応。


「………………………」


「え、何、変なこと言ったかな」


 驚き目を見開き、少しの間フリーズしている。ようやく復旧して会話を続ける。


「…………あ、みたいな方、ということですかね、本当のお兄ちゃんとかではなく」


「うん、まぁそうだけど」


「そうですかぁ、驚かせないでください」


 何でそんなに嬉しそうなんだ?わたしのお兄ちゃんになりたいのかな?


「マリサって実は男の子とか…そのまな板、」


「やっぱり見てたんですね!それに私は女の子です!」


 ちなみにわたしは編成三班、隊長はナツメ。けっ。

そしてナツメは向こうでもそうだったようにこっちでも他の訓練生...ではなかった、実習生に大人気でいつも人に囲われている。まぁナツメも何だかんだと面倒見はいいしサッパリした性格だし、それにあのカッコいい容姿をしているから皆んなが夢中になるんだろう。何がいいのかさっぱりだけど。


「アマンナさんはナツメさんのこと、嫌いなんですか?」


「ううん、どうして?」


「いつも返事をする時に、うぃーとか適当な返事をされているので…」


「うーん、嫌いじゃないんだけどね」


「そうですかぁ、好きではないんですねぇ」


 だから何でそんな嬉しそうなの?



 言い忘れていた。もう一つの事件というのがこれだ。


「くっさぁ…」


「あまんなはん、くはいれす」


 この世界にクモガエルが度々侵入してくるようになったのだ。見た目はあの時と比べてデフォルメされているのでまだ視界に収めることは出来るけど...臭いまで再現しなくていいだろうに。


(手が込んでるなぁ、ティアマトの奴…)


 ここまでしなくても。まぁ確かにあと一カ月と半月先には向こうで殲滅作戦が開始されるのだ、これぐらいの余興戦はやっといた方がいいのだろう。

 クモガエルの大きさは人型機の半分程度、格納庫の前に並べられた死体は全部で五つ、殆どが眉間?に見える頭部の中央に一発だけ穴が空いている。一つだけの死体が無残にも滅多刺しされたようにぐちゃぐちゃだった。そして並べられている格納庫というのが...


「編成一班がまた仕留めてきたんですよね、このノヴァグを」


 そう、アヤメ率いる編成一班の手柄なのだ........ん?


「今何て言ったの?の、のば?」


 おかしな事を...クモガエルは間違いなく現実に現れた生物だ。それなのに仮想世界の住人が別の名前を口にするなんて、仮にティアマトからクモガエルの説明を受けていたとしても別の名前は言わないはずだ。

 わたしの質問に、やってしまったという顔つきで明後日の方向を見ているマリサ。


「ね、教えてくれない?教えてくれたら何でも言うこと聞いてあげるから、ね?いいよね、わたしの天使様」

 

 「はぅー」とか何とか悶えているだけで何も言ってくれない。甘えた声で囁けばいけると思ったんだが...まぁいっか、そのうち分かるだろう。

 臭いに曲がりそうな鼻を正面に向けるとわたし達の格納庫が見えてきた。大扉には「3」と書かれている、そしてさらにその前には、黄色の花が添えられた「1」、さらにコーヒーと戦闘機がくっついた「7.」と肩の装甲板に絵と一緒に数字が描かれた機体が駐機されていた。あれはアヤメとプエラの機体だ。


「わ、エリートの二人が何の用事なんでしょう…」


「かちこみ?」


「…」


「あ、お礼参りか」


「違う」


「?!」

「?!」


 後ろを振り向くとナツメが糸で縫い付けたかのように眉間を寄せて立っていた。珍しい、怒ることはあっても不機嫌顔を晒すことなんてなかったのに。


「遅いぞ、ミーティングの時間だ」


「はぁ」


「す、すみません!」


「謝らなくていいよ」

「謝る必要は、」


 一拍置いて、


「お前が言うなっ!!」


 怒鳴られる。



 はっはぁ〜ナツメの不機嫌になった理由はこれかぁ。


「プエラ、持ってきた?」

「うん、あとこれも」

「ありがとう、気が利くね」

「えへへ」

「あとこれ頼める?」

「いいよ、これもやっとくね」

(微笑みながら頭を撫でている)

「ん〜っ、じゃあ頑張ってね」

「うん、プエラも見ててね」


 何だあれ..........え、恋人同士?あれ、確かプエラとアヤメってそんなに仲良くなかったんじゃ..........けど今のやり取りは、何というか.....親密?濃厚?


「…………」


 めっちゃ睨んでんじゃんナツメの奴。そりゃ睨むか、慕っていた二人が目の前で恋人同士になったんだ、ナツメには同情しか湧いてこない。

 アヤメ率いる編成一班が敵対してきたクモガエルについて説明会を行うそうだ。訓練校、というか現実組のわたし達の中で一番戦闘を重ねていたのはアヤメとプエラだった。その資料やらを格納庫内の特設ステージの上で、プエラとイチャつきながら準備しているところをわたし達はただ見せつけられているだけだった。帰りたい。


(あー…似た者同士が仲良くなるとこういう風になるのか…)


 もうお互いのことが手に取るように分かってしまうんだろうな、言葉もいらない、目で会話して、たまにそれすらも必要とせずに相手が求めていることが分かってしまう、みたいな?仲が悪いとお互いに牽制して近づかないように距離を置くけど、仲が良いと....もう後は一瞬であそこまで距離を縮めたんだろうな...本当に恋人じゃん。あれ、もしかしてわたし……要らない子?


「NOォォオ!!!」


 思わず叫んでしまった。しかし編成三班はわたしの訓練を受けているので誰も見ないし注意しない。驚いているのはアヤメとプエラだけだ。


「あ!アマンナぁ!久しぶりぃ!」


 叫び声に気づいてステージの上からわたしにだけ手を振ってくれる渦中の人。嬉しいような皆んなの視線が痛いような...小さく手を振って答えた。


「?」


 少し不機嫌そうに首を傾げている。ちゃんと応えたいんだよわたしも!でもナツメとプエラが怖いんだよ!!

 それと何故かマリサもわたしを睨んでいた。わたしなの?


「むぅー」


「やめて天使様、心に大ダメージ」


 それは良い意味で?と首を傾げながら前を向く。わたしとマリサのやり取りが終わったのを見計らったように、編成一班からの説明が開始された。


「本日は大変お日柄も良く、お足元の悪い中お越しくださり誠に感謝いた、な、何?」


 「違う!普通でいいの!それに雨降ってないからぁ!」と小さく叫びながらプエラがアヤメの挨拶に駄目出しをしていた。みるみる顔が赤くなりさっきの口調とはまるで違って俯き加減に続けた。


「す、すみません…あまりこういうのは慣れていなくて、あの、今回、お、お越ししたのはクモガエルの説明を皆さんに説明しようと思った…からです」


 ぐだぐだ。


「く、クモガエルは初め隣街の隣にあ、現れてきました、それで、あー…えっとですね、弱点は頭の眉間、それから心臓の中央です、一度に撃たないと、ふ、復活してきますので一度に撃ってください」


 さらにぐだぐだ。それに何故似たような言葉を繰り返すのか、頭痛が痛いみたいな。何だ頭の眉間って、頭以外に眉間でもあるのか、それに心臓だってどこを撃っても即死するだろうに。


(あのプエラの顔…腹立つなぁ……)


 なんでしたり顔なのか。私は分かっていますよ的な、あんなに恥をかいているのに。確かに今のアヤメは可愛いけども。

 ナツメは違ったようだ、さらに不機嫌さを増して鋭く叱咤した。


「ふざけるなら帰ってくれないか、きちんと説明しないと皆んなが理解出来ない」


「す、すみません……」


 ここはさっきのお詫びにわたしがっ!

素早くその場で挙手をする。さっき叫んだ時は見向きもしなかった仲間達が一斉にわたしを振り返る。


「……何だ」


 ナツメから発言の許可をもらったので元気良く答える。


「クモガエルの出現場所は隣街、そして再生能力だか何だかのせいで眉間か心臓を攻撃しないとすぐに復活してしまうので要注意、ってことだよね?皆んな分かってるよね?」


 わたしの説明に皆んながうんうんと頷いてくれた。

 しかし、アヤメもいつの間に眉間に糸を縫い付けたのか不機嫌そうに寄せているではないか。


「そうです」


 あっれぇ?何で怒ってるの?



「さっきは私のこと無視したくせに、恥をかいてる時に応えてくるなんて、って思って怒ってた」


「そんな馬鹿な……」


 説明会も終わって格納庫の隅っこ。そそくさと出ていこうとするアヤメを引き止め不機嫌だった理由を聞いたのだ。


「いや、ていうかアヤメ、その久しぶりだね、何て、あははは…」


 そうなんだよ!一カ月振りなんだよ!それなのにどうしてこんな他人行儀みたいな!

 そんなに怒っていなかったのかすぐに機嫌を直してくれた。


「うん!久しぶりだね、アマンナ、元気にしてた?訓練の方はどう?どこも怪我してない?」


 わたしの肩に手を置いて、もう片方の手で優しく撫でてくれる。それにやっぱりアヤメは全力でわたしのことを心配してくれている。


(ほぇーっ!!!)


 え、こんなに距離近かったっけ?ばっちこいだけど!急なスキンシップに胸が胸胸してしまった。いや違う、ドキがドキドキだった。


「う、うん!わたしもテッドも大丈夫だよ!」


「良かった、ごめんね話しかけずに出ていこうとして、何だかアマンナが別人にみたいに見えたからさ、何か恥ずかしくて」


「そ、そんなことないよ、前に一緒にお風呂入った時と変わんないよ」


「あ!近くにスーパー銭湯があるの知ってる?今度二人で行こっか!」


 スーパー戦闘だと?アヤメは休みの日でも戦っているのか...凄いな。


「う、うん!どんな敵でもやっつけちゃうよ!」


 小首を傾げたアヤメの向こうに、心細そうに歩いているプエラが目に入った。わたしはとくに考えることなくアヤメに教えてあげて、もう一度わたしの頭を撫でてからプエラの所へ走っていった。「もう!どこに行ってたの!」と本気で泣きそうになっているプエラと一瞬だけ目が合った、けれどまるで眼中に無いようにアヤメに向き直り手を繋いで格納庫から仲良く出ていった。


(しまったなぁ…あっちに現を抜かしすぎたかなぁ……)


 あのプエラがわたしと目を合わせても他人扱い。それだけアヤメに夢中になっているということだ。不味い。非常に不味い。このままではアヤメもプエラに夢中になってしまいそうだ。


「よしっ!」


「どうしたんですか、アマンナさん」


「ファイっ?!!」


 後ろから急に声をかけられてしまったので、昨日テッドと一緒に見たぷろれすみたいな声が出てしまった。含んだ笑みをたたえているマリサが立っていた。


「よしって、掛け声が聞こえたのでどうしたのかなって、それにさっきお話しされていたのはアヤメさんですよね?」


 視線を全く外さない。


「あーうん、まぁね、これから実践訓練だから気合入れてたんだよ!」


「いつもは面倒臭いって私に愚痴をこぼしているのにですか?編成一班の説明でそこまで気合が入ったんですね、アヤメさんは凄いですね」


 こわ。


「いやまぁ、うん、アヤメだけじゃないよ?皆んなと訓練出来る期間は決まっているからさ!」


「私みたいな可哀想な人がいなければいいんですけどね、む」


「…」


「…」


「…」


「…」


「はぁ…まぁいいよ、いつか口を割らせるから覚悟しておいてね」


 酸っぱい梅干しを食べたみたいに口を閉じて、ぷるぷる震えていたマリサの目が潤んできた。本当に食べてるの?

 「気にしてないよ」と伝えてあげるとすぐに泣き出した。結局泣くのかよ。



[これより特別実習を行う、各機発進準備]


「「了解!」」


[どうした十九番機、いつもの減らず口は置いてきたのか?]


「隊長、こんな時にふざけないでください」


[〜っ]

[〜っ]

[ぶはっ]

[くくくっ]

[………っ!]


[はぁ…まぁいい、そのやる気が山の天気のように変わらないことを祈るよ]


「山にも天気を変えないようにわたしの方から注意をしておきます」


 爆笑。


[ふふっ!アマンナさん!]

[笑わさないで!]

[あっはっはっはっ!お前何言ってんだよ!]

[アマンナの事を言ってんだぞ!]

[あははっ!はぁーもう我慢してたのにぃ]


 いつものことだった、わたしがナツメに絡んだり、適当な返事をしてわたしが怒られたり。けれど今日はどうやら違ったようで、腹の虫の居所が悪かったようだ。


[静かにしろぉ!!!ふざけるならすぐにやめるぞっ!!!]


[っ!]

[…っ]

[す、すみません]

[……]

[…も、申し訳ありません]


 またふざけようかと思ったけど、虫の居所が悪い理由も何となく察しがついたので今日は大人しく謝った。


「すみませんでした」


 謝った後はとくに何もなくいつもの雰囲気より静かな編隊飛行が始まった。

眼下には田んぼだらけの風景が広がっている。わたし達六機の影を稲穂が受け止めて、海のように波立ち揺らいで見える。作業をしていた一人のお爺さんが、屈めていた腰を上げてわたし達の鋼鉄の巨人に手を振ってくれた。その姿を見て早く仮想世界から出たくなってしまった。

 田んぼを超えた先には、ナツメが行けることはないだろうと言っていた隣街に架かる赤い大きな橋がある。奴の機嫌が直ったあかつきには気が済むまで弄ってやろう、まさしくその街に特別実習としてクモガエルの襲撃に備えて哨戒活動を行うのだ。


「ん?守秘回線?」


 大丈夫かぁ、これバレるととんでもなく怒られるぞ。

守秘回線、親機にも聞かれない特別な回線だが履歴を調べられると一発で分かってしまう。かけてきたのは仲間の一人、お調子者でいつもわたしの冗談に笑う男の人だった。名前は聞いていない。情が湧いてしまうから。


[おいアマンナ、どうしてナツメさんは機嫌が悪いんだ?お前また何かやったのか?]


「何でかんでもわたしのせいにしないでください、知りません」


[本当かよ…まぁいいさ、それよりお前あのアイリスと仲良しなんだろ?俺らにも紹介してくれよ、な?]


「けっ!」


[何だ何だぁ?そんなに大事にしているなら白雪姫に遅れなんか取るなよ、あれは、間違いなく、で・き・て・る・ぞっ]


「うるさいっ!人が真面目に喋ってんのに!」


[あっはっはっは!お前はそれがちょうどいい、真面目さなんか捨てちまえ]


「後ろから撃つぞ!」


 言いたいだけ言って回線を切った。ちなみに守秘回線の会話記録は絶対に残る。さらにちなみに白雪姫はプエラのことだ。

 馬鹿話しをしている間に大きな橋の真上を通った。すぐ目の前には隣街が見えている、わたしも、きっと誰も行ったことがない街は大きな建物が立ち並び、まるで上層の街で見たものと似ているように思う。煙は上がっていないけど。

 するとまた守秘回線でわたしにかかってきた。相手は何と、


[私だ]



39.ナツメ



 行けることはないだろうと思いを馳せていた街に空から入った。私達が住んでいる街と比べてビルや高層マンションが多いように思える。訓練校から現空域にて待機と指示があり私は同じ好であるアマンナに通信をかけていた。


[私だ]


 すぐに返事が返ってきたがいつもの調子ではなく他人行儀だった。


[何でしょうか]


[…いや、すまない、この街には来れないとお前に講釈を垂れたのが恥ずかしくてな、忘れてくれ]


[それだけですか?]


[…あぁ]


 そのまま通信を切る。

長い溜息を吐いてしまった。さっきは実習生の皆に八つ当たりのようにキレてしまったから空気を気にしていたのだ。お調子者のアマンナでさえ口を噤んでいつもは賑やかな飛行中がとても静かだった。


(何をやっているんだ私は……)


 アヤメとプエラ。あんなに仲が良くなるとは思っていなかった、前にスーパーで鉢合わせして聞いた時には互いに距離を置いて口も利いていないと言っていたのだ。

 安心してしまった、器が小さいにも程があるのは百も承知だ。


(はぁ…まさかあんなに距離を縮めて仲良くなってしまうなんて…)


 あの二人の仲睦まじい姿に焦ってしまった。私は?要らないのか?.......そう、感じてしまい腹を立てていたのだ。


「ダサい、ダサいにも程がある、挙句に部下に八つ当たり」


[そんな事はないさ、君は十分に魅力的な女性だと思うよ、ナツメ君]


「?!!」


[いや、すまないね盗み聞きするつもりはなかったんだ、今から指定する方角へ部隊を飛ばしてくれ、早速現れたよ失敗作が]


「り、了解しました」


 くそ、聞かれてしまったのかあのいけ好かない教官に。でもまぁ仕方ない、独りごちたのはこちらだ。

 教官から指示された方角は海沿いの閑静な住宅地、まだ遊びに行ったことはないが、かいすい欲情と呼ばれる何やら如何わしい場所にも出現したそうだ。

 気を取り直し、務めて明るい声で指示を出した。


「親機より各機へ、十九番機を中心に八番機、三十一番機が、]


 早速やらかした。


[三十一番は二機いますよ、ナツメさん]


 あぁそうだった、実習生から指摘を受けてしまった。


[すまない、三十一小点、君だ]


 下学年と混同しないよう、ピリオドを付けた実習生は小点、もしくは点と付けて呼ぶのが習わしだったことを失念していた。

 しかし、私の謝罪に皆が何やら小さく笑い出した。


「…?何がおかしい」


 さっきはあんなに他人行儀だったアマンナがいつもの調子に戻って私を弄ってきた。


[ナツメぇ、三十一番機でも分かってたのにぃ、今のわざとだよ?]


「なっ…………そうだな、言われてみればそうだ」


 遠慮なく笑い出した皆に少しだけ救われた思いがした。


「さっきは悪かった、ただの八つ当たりだ、忘れてくれ」


[珍しいですねぇあのナツメさんが、やっぱりあれですか?]


[そう、アイリスと白雪姫に嫉妬してたんだよ、この畑荒らしが]


「アマンナ!誰もそこまで言っていいとっ」


[えー?!マジで?!]

[今のナツメさんの声……]

[いやぁ私ショックなんですけど…アマンナぁ!余計なこと言うなぁ!]

[わたしは悪くないよ、畑荒らしに言いなよ]

「静かにしろ!指示を伝えると言っただろう!」

[ほ、ほら皆さん実習中ですよ]

[いやでも確かにあの二人は可愛すぎるからなぁ、アマンナも少しは見習ったらどうなんだ?]

[もう十分可愛いから見習うとこなんてない]

[お前]

[その自信はどこから]

[アマンナさんの言う通りです]

[相変わらずだなマリサ、こいつのどこがいいんだ?確かに発育はいいが]

[何だとぉ?!どこを見ているんだこのスケベ野郎!!]

「静かにしろぉ!!!」

[編成三班、僕も混ぜてくれなかい?なかなか楽しそうじゃないか]


 暫く実習空域を旋回していた。



 アマンナを中心に三機を先行させ、残りは私が中心となって現高度から様子を見守る。

到着した現場には既にクモガエルが砂浜に出現しすぐそばにある住宅地にも何体か侵入しているようだ。

 アマンナ機が先行し残りの二機が追従していく、そして二機の援護を受けて初めての会敵を果たした。


[いっきますよぉー!!]


 大型ライフルの射撃を受けて一体のクモガエルが動きを止めた、そこにすかさずアマンナ機の斧型近接武器が頭を叩き割った。派手に血飛沫を上げ絶命したかに思われたが、


[アマンナ!]


[うげっ!本当じゃん!もう回復してるし!]


 叩き割ったそばからみるみる再生していく。アマンナ機が距離を置いた時にはすっかり元通りだ。

 また私は守秘回線を開いてアマンナに通信を行った。 


「アマンナ、私が中層で出会した奴らとは違うようだ、あの時はここまでの回復能力は無かったはずだ」


[それ本当?ちゃんと確認してなかっただけなんじゃない?というか、どうしてティアマトはここまで再現出来たのかっ?!うへぇ!!]


 私と会話をしていたアマンナ機に敵が襲いかかってきた。お腹にある粘着性の高い糸を吐き出しとくに刺が多い前足を振りかぶってきたのだ。


「すまない!戦闘に集中してくれ!」


[ナツメはよく見てて!次は命懸けでこいつらと戦うんだから!]


 そうだ、こいつの言う通りだ。私達は現実世界でこいつらと戦い勝たなければいけない。そのためにこの世界に来て訓練を受けてきたのだ。


[マリサ!援護!]


[はい!]


 アマンナ機から要請受けてマリサ機が間髪入れずにライフル弾をお見舞いしている。被弾した箇所は頭部だが、やはり回復速度が圧倒的に早い。よろめいている敵にアマンナが畳み掛けるように斧を突き立てた。


[きたでしょこれっ!!]


 見事に眉間に刺さっている。しかし...


[ほぎゃぁぁあ!!!マリサ様天使様愛しの君よ助けてぇぇえ!!!]


[はいはいはいはいぃぃ!!今助けに行きますぅぅ!!!!]


 刺さっているはずなのに敵の前足がアマンナ機に絡み動きを封じたのだ、さらにお腹を突き出し糸を吐き出している。ん?


「おい!アマンナ!今すぐにお腹に攻撃しろ!」


[出来るかバカたれぇ!!]


[そうですよ!現実見てくださいアマンナさんは私を求めているんですよ!!]


 そんな事誰も聞いていない。そうか、あいつが言っていたことは本当だったのか。

他の実習生らも気づいたようだった。


[隊長、アイリスが言っていた事は本当だったんですね、俺はてっきりテンパっておかしなことを言っていたとばかり]


[こちらからも確認しました、奴らの背中にも二つ「眉間」がありました]


「あぁ、それに一度に撃てという話しも本当だろうな、頭の眉間を撃った直後にお腹に心臓が露出しているように見えた」


[こんな敵を五体も……]


[一体どうやって……]


 あいつは化け物だからなぁ……前に一度爆弾を撃った話しをしてやりたいが誰も信じまい。

 マリサ機の助力で敵の抱擁から抜け出したようだ。指示も出していないのに現場から離脱を始めている。


[ナツメ交替]


「誰も許可していない」


[無理]


「はぁ、二人共戦闘準備」


[[了解!]]



 そして私達は三機がかりでようやく一体を滅多刺しにして倒した。五体のうち、一体がずたぼろにされていた理由がよく分かった。残りの四体はアヤメとプエラが連携を取って鮮やかに倒したのだろう。どこまでも化け物だ。

 倒した敵は訓練校からの輸送機に乗せられて運ぶんだそうだ。何故だ?解剖でもするのだろうか。

 特別実習を終えて訓練校へと帰投していた。


[…]

[…]

[…]

[…]

[…]


 隣街へ向かう時と同様に皆が沈黙している。無理もない、倒したそばから復活しアマンナと同じように羽交い締めにされたり糸を飛ばされたり敵の血飛沫や肉片を浴びたりと、阿鼻叫喚と地獄絵図のオンパレードだった。

 太陽が地平線に沈みかけ、薄い青空に浮かぶ雲が赤い日の光を受けていた。あまりお目にかかれない空模様にいくらか心が洗われる。そして、戦闘中から片言で喋るようになったアマンナから通信が入った。


[ナツメ風呂]


 こいつ。


[臭]

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