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第三十七話 戦う理由

37.a



『出発してから三時間後』



 重いわ...空気がとても重いわ。前回、下層に突入する時は無我夢中なこともあってよく周りを確認していなかったけど、ここまで重たかったかしら?

 上層近辺の雲はまだ汚染が進んでいないのか、はたまた長年に渡って汚れた空気が浄化されたおかげか難なく飛ばすことが出来たのに、下層を出発してから歩みが遅い。厚く汚れた雲を回避しながら上昇をしているので思ったより飛べないのだ。行っては戻り戻っては進んでの繰り返しで予定航路より遅々として進まない。

 それに艦内もだ。


「…」


「…」


「その、儂の養子になるのは…」


「…」


「…」


「…私を産んだのはティアマトさんですよね、責任取ってください」


「…考えさせてちょうだい」


「…何をですか?ティアマトさんが認知してくれたら済む話しですよね、私ずっと一人ぼっちだったんですよ?それを見兼ねたナツメさんとプエラさんが居場所を作ってくれたんですよ?」


「…それなら二人の子供に…」


「…」


「…まぁ、その何だ、難しい問題だからな?急いで決めることはない、と儂は思うのだが…」


 重い。良かった、このマテリアルの主で良かった。二度目の感謝だ、私には艦体を操縦しなければならないという大義名分があるから会話に参加しなくていい。

 にしてもスイちゃんの強いこと強いこと。あのティアマトがたじろぐ姿を見せるなんて夢にも思わなかった。自分勝手に作った子供が目の前に現れて責任を取れと迫ってくるのだ、彼女の心情は全く理解出来ない。まぁ子供ではなくデータなんだけど。

 それにマギールはさっきから何で事あるごとに養子と言うのか、スイちゃんがお人形さんのように可愛らしいから手元に置きたいのかしら?何て下世話な...


(良かった、でも全く良くない、このままでは計画が遂行出来ない)


 私のメイン・コンソールがあった、空けた場所に椅子を三脚置き話し合いをしていた三人、ティアマトが徐に口を開いた。


「…責任とは、一体何をすればいいのかしら」


「…私のお母さんになってください、お姉様は幸運にも二人出来ましたので」


 あれ?私とアマンナ入ってるの?


「スイ、私達はマキナよ?本当の家族になる必要はないわ」


 最もだ。


「私は私のことをマキナだと思っていません、ショッピングモールで産まれた一人の女の子です、家族が欲しいです、友達も欲しいです、姉妹は…もう出来ました、それとナツメさんと結婚したいです」


「?」


「?」


ー?ー


「?」


 いやいやスイちゃん?どうしてあなたもはてな顔なの?途中まで胸に刺さる話しをしていると思っていたのに、最後にとんでもない爆弾を投下してきた。

 皆んなの反応に慌てたスイちゃんがまくし立てるようにさらに爆弾を追加してきた。


「いやでも!グガランナお姉様はアヤメさんの妻だと言っていましたし!アマンナお姉様も子供が欲しいと言っていましたので私でも結婚出来るんですよね?!」


「グガランナ」

「グガランナ」


 二人同時に名前を呼ばれてしまいさすがに無視が出来ない。何てことかしら...よりにもよって一番真似してはいけないところを全部吸収してしまったのだ。妻発言も子供発言も単なる...何かしら、あれ?私は割りかし本気で言っていたと思うんだけど...

 心細そうにしているスイちゃんに励ましの言葉を送り、さらに場を混乱の坩堝に叩き落とした。


ースイちゃん、あなたも立派な妻になれるわよ、二人の言う事なんて気にしたら駄目よ、いいわね?ー


「「グガランナ!!!」」

「はい!私頑張ります!」



 まぁそんな簡単に解決する話しでもなく、黄色と茶色が混じった汚い雲を乗り越えた時にティアマトが一人でブリッジにやって来た。その顔はとても険しい。有無言わせぬ彼女の命令に二つ返事を返す。


「グガランナ、今すぐ上がってきなさい」


ーはい!ー


 全体同期を解いて、メイン・コンソールを上昇させて私もブリッジに戻る。


「あなた、今回の件についてどう思うかしら、意見を言いなさい」


 教えてではなく言えときた。


「…ティアマトが責任を持つしかないと思うけど…」


「グガランナ」


 あ、これはマジなやつだ。悪ふざけは即死を意味する、数える程しか見たことがない真剣な顔つきをしていた。


「変だとは思うよ?いくらティアマトが作ったからといって勝手に自我を持つなんて考えにくい」


「やはりあなたもそう思うのね、同感だわ」


「何か心当たりはあるの?」


「……さぁね、そこまでは分からないわ」


「…まーたはぐらかす、本当は何か知っているんでしょ?だから私にも聞きにきたんじゃないの?」


 腕を組み重心を右足に傾けながら話しをする、この姿勢はとても久しぶりだ。


「それよりあなた、どうして私に教えなかったのよ、事前に教えてくれていれば墓穴を掘らずに済んだのに」


「はぁ…そんな事言ってる時点で大して気にしてないよね?」


 たまたまスイちゃんとティアマトが休憩スペースで一緒になり「あなたは何処から来たのかしら」と話しを振ると...後は芋づる式に分かっていったらしい。


「私はね、アヤメと会うためだけに作ったその場限りのデータだったのよ?まさか自我を持ってせき………」


「…?何?どうしたの?」


「思い出したわ、そうよあの時既に…」


 顎に手をやりながら意味深に呟く、こうなったら誰の言う事も聞かなくなるので放っておく。


(早くアヤメに会いたいなぁ)


 出発してまだ三時間しか経っていないのにもうホームシックになったように彼女を求めている。これは重症だなと思いながらメイン・コンソールに戻ろうとすると考え事をやめたティアマトが声をかけてきた。


「それはそうとあなた、昨日はどうやって話し合いを終えたのよ、あなたの我儘で徹夜になったのよね?くだらなすぎて途中で抜けたけど」


 何を今さら。


「何を今さら、終わったら続きをしようと約束してくれたからに決まってるでしょ、タダ働きてこんな事するか」


 少し私を見つめた後溜息を吐きながら、


「はぁ…そういうところをスイが真似るのね、それと口調が完璧に戻ってるわよ」


「いいよ別に、誰も聞いてないんだから」


「お姉様…」


「?!」

「?!」


 私も何故かティアマトも凍りついたように動きを止めて、ゆっくりと後ろを振り返るとさっき見せた心細い表情をしてスイちゃんがエレベーターの扉に隠れて伺うようにこちらを見ていた。


「スイ、今のは訓練よ彼女には悪役を案じてもらうためにわざと口調を変えさせていたのよ」


「?!」


 何その話し!でも今は乗らないと!


「え、ええ、そうよスイちゃん、だからそんなに怯えていないでこっちにいらっしゃい」


 それでも表情は変わらない。


「そのお姿は一体...どうして全裸で立っているのですか?」


 あぁそっち?!口調ではなくて服を着ていないことに怯えていたのかそりゃ怯えるか。姉だと慕っていた相手が全裸になっていたら誰でも価値観が破壊されてしまうのかもしれない。


「わた、私も!お姉様を見習って服を脱ぎます!良い嫁になるために頑張ります!」


 二人で慌てて止めて着る必要もない服を着る羽目になったのは言うまでもないことだった。



37.アマンナ



 がっこう...学校、ちゃんとした名前はパイロット育成訓練学校。一週間前に無事入学を果たしてわたしは今、怒られている。


[何をやっている三番機ぃ!!いつまでかかっているんださっさと走れぇ!!]


 教官専用のチャンネルから本日六度目の罵声が流れてくる。画面の周りは既に傷だらけ、ムカついたわたしが殴っているからだ。


(帰りたいなぁ…テッドに甘えたい…)


 イライラしながらもコントールレバーを操作して機体を屈め柔らかい砂の上に置かれた土嚢を持ち上げる。掴むのは簡単なんだ、ただここから機体を起こすのがとても難しい。柔らかい砂の上では踏ん張りが効かずすぐにバランスを崩してしまうのだ。密閉されたコクピットのはずなのに中は砂だらけ、コントールレバーもどこかじゃりついた感触があった。

 ボロボロになった訓練に使われている土嚢を掴んだ瞬間、そのまま前に倒れ込んでしまった。


「あらぁ?!どうしてかな?!!いやぁ!!!」


 ...機体の頭部から砂にダイブしてしまった。横目に見えていた海もなくなり視界は真っ暗だ。


[三番機ぃ!!!そんなに砂遊びがしたいならいつまでもそうしていろぉ!!!]


 七度目の罵声。



「…」


 砂だらけの機体もわたしの体も洗ってようやく解放された。時刻は薄暮、濃い紫色の空が街に迫ってくるように薄暗い中一人でとぼとぼ歩いてマンションまで向かっていた。車のヘッドライトがわたしを追い越して前を行く道を一瞬だけ照らしていく。わたし以外にも通行人がいて皆んなの顔もどこか暗い、まぁここは仮想世界なのでただのデータに過ぎないが、それでもわたしと同じように疲れているように見える表情には親近感しか湧かなかった。

 すぐ目の前には背が低い山があり古い建物の屋根が木々の合間から見えている、それをぼんやりと眺めながら横断歩道を渡り民家の前に置かれた古いバス停の前で足を止める。


「ばぁーづがれるぅー」


 機体制御...左右のバランス...関節構造の把握...重心移動...コントールレバーとの会話...はぁー!何さコントールレバーとの会話って!

 今日まで頭に叩き込まれた操縦方法にまつわる単語が、グガランナの呪詛のようにこびりついてしまったみたいだ。考えていなくても勝手に次から次へと脳裏に浮かび上がってくる。


「辛い」


 こんなことなら皆んなにちゃんと伝えておけばよかった、と思ったところで遅い。

ヂィン、と鳴りながらバス停近くの街灯に明かりが点いたようだ。地面には変えたばかりの髪型が街灯に照らされ真っ黒の影で写し出されている、少しお姉さんっぽさを演出したかったのでお下げの髪からぽにーてーるとやらの髪型に変えてみたのだ。


「テッドが全く鼻の下を伸ばさなかったのが気になる」


 このうなじだぞ?何故見向きもしないのか。

端っこがひび割れた道路に黄色のライトが迫ってくるのが見え、少し遠くからまんまるのライトを付けたバスがやって来た。程なくしてわたしの前に止まり中へと乗り込む、薄暗い明かりが灯った車内にも何人か既に乗っていたようで皆んな手元に視線を落としている。最初はいつも元気なさすぎだろ!と思っていたけどどうやら携帯端末だったり本だったり、移動中にも一人趣味に勤しんでいるのが分かった。

 入り口近くにある小さなボックスからぺっ!と吐き出される小さな紙を取って適当な席に座った、そして扉が閉まりGが...重力加速度ではなかった、シートに体が押し付けられる程の加速でバスが走り出した。


(何でこんなに急いでるの?)


 乗り始めた時は何もかもが珍しく周囲を見やっていたが今はもう飽きた、毎日同じ景色を見ているんだ、さすがに見る所が無くなったので「急ブレーキにご注意ください」というランプをぼけーっと眺めることが多くなった。無駄だ。この時間が無駄だと思えてしまう程にわたしは今、遊びに飢えていた。


(わたしも皆んなのマネして何か持ってこよう)


 あ、そうだ今度の休みにテッドと本屋さんにでも行ってみよう。そう思うと少し元気が出てきた。


「ん?」


 視界の角にいた人が車内に目を向けていたような気がしたけど...気のせいかな。

また暫く、次はいつランプが点くのかとぼけーっと眺めていた。



「たらいまー」


「お帰り、訓練どうだった?」


「もう帰りたいです」


「僕はね教官に褒められたよ、筋がいいって」


「聞いてるの人の話し」


「ご飯作ってあるから食べてね」


「いやっほーい!!」


 わたしとテッドは別の班に所属しているので行きも帰りもバラバラだ、たまにわたしが早く帰ってくることがあるけど料理なんて一度もやったことがないので近くのお店から食べ物を買ってきている。

 ここに来て二日目、訓練学校でがいだんすを受けた後に立ち寄ったお店で食べ物を持ってそのまま外に出たことがあった。わたしはてっきりホテルの食堂と同じで好きなように持っていくものだと思っていたので、お店の人にまるで親の仇のように追いかけられた時はもの凄く怖かった。

 着ていた制服を脱いでソファに放り投げ、洒落たテーブルの上に置かれた料理にありつく。「ご馳走だぜぇ!」とわたしなりのいただきますを言ってからちゅるちゅると食べる。


「アマンナ、お願いだからその変な言い方はここだけにしてね」


 親指を立てて返事をする。


「はぁ…本当にお兄ちゃんになった気分だよ、気が気じゃない」

 

「失礼な、ちゃんと分かってるよ」


 はいはいと言いながらわたしの前に座り食事が終わるのを待ってくれている。頬杖をつきながら薄らと微笑みをたたえているので何が面白いのかと聞いてみると、


「妹が出来たみたいで楽しいんだよ」


 そう言えばテッドは一人っ子だったと言っていた、ホテルの食堂前で家族になろうと言われたことを思い出す。


「寂しかったの?」


 ふぉうくで細い糸のような食べ物をぐるぐる巻きにしながら質問する。


「今思えばね、あの時はそれが当たり前だったから何とも思わなかったけど」


 わたしを見ているようで見ていない。昔のことを思い出しているのだろう。


「テッドってどんな子供だったの?」


「どんなって…そうだなぁ、普通かなぁ」


「そんな顔して普通はないと思うよ」


「顔の話しなの?まぁ、臆病だったのは間違いないよ」


 ぐるぐる巻きにして口の中へと放り込む。赤い調味料のけちゃっぷとやらで味付けされたこの食べ物も美味しい、というかテッドの手料理は何を食べても美味しかった。


「アマンナは?昔はどんな子供だったの?」


「…………よく覚えてないんだよね」


 少し視線を落として答える。わたしに明確な記憶というものがなく、気づいた時にはグガランナのそばにいたのだ。それにわたしに子供という時代があったのかも分からない、タイタニスには穀潰し呼ばわりまでされてしまったし。

 わたしの微妙な答えにもテッドは動じずに当たり前のように言ってくれた。


「それが普通なんじゃない?僕だって小さい頃なんて殆ど覚えてないし、皆んなそんなものだと思うよ」


「そうなの?いや、でもわたしはマキナだから、覚えていないっていうのも変かなって思ってたんだけど…」


「覚えていないと駄目なの?」


「……うーん、そう言われると…別にいいような気もする」


「僕がアマンナのことを妹だと思っているのはマキナだからじゃないよ」


「…テッド」


「アマンナだから、だから妹みたいに思えるんだよ」


「…まさかわたしのこと口説いてる?」


 怒ったテッドってね凄く怖いんだよ、何も言わなくなるから。全無視されるんだよ。

 その後一言も口をきいてくれず、眠る前になってようやくわたしの部屋にひょっこりと顔を出して「おやすみ」と言ってくれたので、構ってもらえなかったお返しにタックルをしてあげた。



「いいかアマンナ!後はお前だけだ!今日こそ立派に訓練を終えてみせろ!!」


「はい!」


「お前は返事だけはいいんだ、その気合をコントロールレバーにも伝えろ!絶対に返してくれる!機体を信じるんだ!」

 

 何を言っているんだこの馬鹿教官は、コントールレバーが一体何を返してくるというのだ。それにこの教官、ティアマトに似ているのだ、それがさらにムカつく。横に流した髪は茶色ではなくこの世界でよく見かける黒い髪をしているが顔付きはティアマトそのものだ。熱血ティアマト、わたしは心の中でそう呼んでいる。

 ここは訓練所兼砂浜、今となっては腹しか立たない柔らかい砂浜にわたしとそれ以外の訓練生も列をなして並び、これまた腹しか立たない教官の話しを真面目に聞いている。全員で六名、わたしと同じ背丈の訓練生達は男三名の女三名で皆んな幼い顔をしている。


「よし!搭乗!」


「「はい!!」」


 合図と共に皆んな一斉に自分の機体へと砂浜に足を取られながら走って行く。膝を付いて駐機された機体にはコクピットへと上がる電動ロープが取り付けられ足を輪っかに引っ掛けると自動で持ち上げてくれる。

 コクピットに乗り込みコントールレバーの頭に付いた赤いボタンを壊れろ!と、念じながら強めに押し込む。ここでスタートボタンが壊れたらわたしは今日一日何もしなくてもいいと儚い希望を抱くが、起動シークエンスを告げる無慈悲な電子音声と共に砕かれる。


《起動》


「言わなくても分かるよ」


《機体を同期しています》


「早くやって」


 ちなみに独り言だ。


《同期完了》


「今日こそやってやるぅ!!もう怒られるのは嫌だぁ!!」


《操縦権を授与します》


「何だその言い方、何で上から目線なの?」


 本当に不思議だ。譲渡とかなら分かるけど、どうして授け与えられるのか。

もう、本当にびっくりしたんだけど今までただのデータだと思っていた訓練生から通信が入った。


[ね、何で偉そうに言うんだろうね]


「………」


[頑張ってね、アマンナさん]


 驚きで頭がぽかんとなっていたけどその励ましの言葉は嬉しかった。


「ありがとう!君も頑張ってね!」


 いや、ちょっと待てよ、わたしだけなんだよな?訓練が終わっていないのは。あれもしかして嫌味?とか失礼なことを考えていると返事がきた。それも向こうも嬉しそうに。


[ありがとう!私も頑張るよ!]


 それを合図にして一機の人型機が土嚢が置かれた場所まで難なく走って行く。それを皮切りにして残りの四機も後に続く。


[おらぁ!アマンナぁ!さっさと走れぇ!]


 いつもならモニターを叩いていたけど今日は違う、いや確かに腹は立つけど、さっき励ましてくれたのだ、変なところは見せられないと今まで感じたことがないやる気が湧き上がりコントールレバーをゆっくりと倒していく。

 砂の上を踏みしめバランスを取りながら土嚢が置かれた場所まで走って行く。速度はいつも乗っているバスと同じくらい、そして置き場に到着して身を屈めるようにレバーを駐機状態にするためゆっくりと押し下げていく。左右のレバーに付いたトリガーを引き巨人の手をにぎにぎさせる、一つの土嚢を掴みレバーを引きながら直立状態へ持っていこうとするのだが...


「痛い痛い痛い!指が痛い!」


 わたしの手は小さいんだよバカたれぇ!姿勢維持を解除するボタンにトリガー引きっぱなしの指が届かないんだよ!


[アマンナさん、フットペダルでも解除出来ますよ]


「天使ぃ!!君はわたしの天使だよぉ!!」


 よく分からないけど、その思いやりが天使のように思えたのでそのまま口にした。いつもここで手間取って姿勢制御まで気を配れなかったけど、教えてくれた通りにフットペダルを踏むと機体のロックがすぐに解除され心持ち余裕を持ってゆっくりと機体を起こしていく。そして...


「走れたぁ!やっほぉ!」


 土嚢を掴んだまま指定された場所まで走って行く。

何という達成感、それもこれも教えてくれたおかげだ。


[はぁ、やっとかアマンナ随分と時間がかかったなぁ、早く走れ]


「…」


 指定された場所に到着し掴んでいた土嚢を教官目掛けて、


「このクソ教官!!少しは褒めろぉ!!!」


 投げつけた。

こうして機体操作の初期訓練が終わり、わたしは仮想世界で一週間の自宅謹慎を食らった。

 


37.c



『出発してから六時間後』



 アマンナ...必ずこの子は何かやらかすと思っていたけどまさか教官に人型機サイズの土嚢を投げつけるだなんて...ただの殺人じゃない。


「どうかしたのかね、ティアマトよ」


「いえ、何でもないわ」


 向こうでは既に約二週間程経過したことになる、そろそろ初期動作の訓練を終える頃合いだろう。

 モニターに映して出されているのは中層の外壁、ようやく下層域の雲を抜けてここまで上がってきたのだ。太陽はとうに沈み今は半分に欠けた月が私達を見守るように夜空に顔を覗かせている。


「スイ、いけそうかしら?」


[…]


 返事がない。


「スイ、ふざけるのはよしなさい、私への文句は艦内でいくらでも聞くから今は真面目に」


 少し強く言うと芯の強さを感じさせる言葉が返ってきた。


[…すみません、問題はありません後少しで解除出来ると思います]


 スイに人型機で出動してもらい外壁を外から手動で開けてもらっている、マギール達が中層から上層へ向かう時に開けたというらしいがテンペスト・シリンダーの仕様なのかそれともタイタニスの権能か、私達がこの空域に到着した時には既に閉まっていた。

 独特の匂いがするグラスを持ちながらマギールが世間話しをするように気軽に声をかけてきた。


「何故、仮想世界では二人一組にしたのかね?」


「諦めないようにするためよ」


「…ほう」


「一人よりも二人の方がお互いに刺激し合えるでしょうに、仲が良かろうが悪かろうが」


「まぁ確かにな」


 一つのサブ・コンソールの前に座っていたマギールがグラスをデスクの上に置いた。それを見計らって彼に近づく。


「それに私はあの子達の言うならば保護者ですもの、成長出来るように気を配るのは当たり前のことよ」


「はっ、トイレに引きこもっていた奴の言葉とは思えんな」


 デスクに置いていたグラスとボトルを手にして引き下がろうとするとマギールが遠慮なく私の手首を掴んできた。


「そうね、けれど彼女達が変えてくれたのよ、ナツメが私を頼ってアヤメと仲良くなって、意識が変わったわ」


「…それは何かね」


 目で、離さないとこのままグラスとボトルを床に落とすぞ、と脅しをかけると掴んでいた意外と厚みのある手を離した。


「守りたいって思えたのよ、私は誰かに頼られることばかりに執着して自分から関わろうとはしなかった」


「恥をかきたくなかったからか?」


 手と同じように意外な感想をこの男に抱いた、まさか言い当てられると思わなかったからだ。


「…そうよ、けれど違ったわ、恥をかくべきだったのよ」


「…」


「皆んなの前で恥をかいて教えを請うたあの子を見て反省もしたし、アヤメと話しをしている時もどうしてもっと早く自分から会いにいかなかったのかと後悔もした」


 奪い取ったお酒を一口呑んでみようかと思ったがやめた。


「それにナツメにも感謝したわ、初めて会話をしたにも関わらずあの子から私に手を差し伸べてくれたもの」


「それが悪いことだと儂は思わんさ」


「何故かしら」


「勇気が出せないことを悪いことだと自分を謗るといつまでも臆病者になってしまう」


「…」


「お前さんが人に拘るのはそれが理由か?」


「…そうよ」


「なら今度はお前さんが恥をかく番だな、そうやって人から人へ勇気というものは伝わって、伝えていくものなのさ」


「…まるで知っているような口振りね」

 

「そりゃそうさ、何回人から逃げてきたと思っておる、だからこうしてマキナに身をやつしたのだ」


「…そう」


 手にしていたボトルを持っているのにも疲れてきたので、近くにあったダストボックスに放り込んだ。それを見ていたマギールの何とも悲しい目がおかしくて小さく笑ってしまった。


「はぁ…人類の英知をゴミ箱に……まぁいい、それと、」


 何かを言いかけたマギールの言葉を遮り艦内にアラート音が響き渡った。今まで聞いたことがない音量、それに耳障りな音は無視できないものがあった。慌てたのは私だけではない、さっきまで偉そうに講釈していたマギールもだ。


「グガランナ!これは何だ!」


ー分からないわよ!いきなり?!意味が分からない!スイちゃん!すぐに戻ってきて!ー


「この音は何?!」


 私の叫び声に近い質問に答えたマギールの言葉が一瞬、理解することが出来なかった。


「ロックオンアラート!誰かに照準を向けられている!」


「なっ?!」


 攻撃の意志を持った何者かがこの空域にいるということか、何故?どうして私達が狙われないといけないのか。無理に開けようとしたせいでテンペスト・シリンダーから警告を受けているのかと思ったが違った。


[うぇー!!!!何か飛んでますぅー!!!気持ちわるっ!!!]


「スイ!見えている映像にこっちにも回せ!」


 サブ・コンソールにスイの映像が回された、そこには黒い触覚を生やし鋭い眼球を持った黄色の生物が群れをなして飛んでいた。前に二本突き出た手には遠くからでも分かる程に大きな刺を生やし、二枚の翅を素早く動かしこちらに近づいて来ている。お腹にあたる部分には大きな穴が開いており、私が知っている蜂とは似て非なる姿をしていた。

 そして、鳴り止まないアラート音の中にあの女の声が割って入った。


[ティアマトにグガランナ、ここで引くなら見逃してあげるけど中層へ入りたいというなら彼らの相手をしてからにしてちょうだい、ちょうど実験をしたかったのよ]


「テンペスト・ガイア!いい加減にしなさい!何故私達の邪魔をするの!」


[邪魔?していないわ、自分の成すべきことをしているだけ、そうでしょ?ティアマト]


ーテンペスト・ガイア、やはりあなたの仕業だったのね、上層の街でクモガエルをけしかてサーバーから強制的にログアウトさせたのはー


[そうよ、この子達はとても素直だから私の言いつけはすぐに守るのよ、人間やマキナと違ってね]


「何故かね?何故儂らをそこまでつけ狙うのだ」


[目障りだから、それにいい加減人間もマキナも面倒を見るのに飽いたからよ]


 何とふざけた理由か、マギールに視線を寄越しもう一つの戦闘機で出撃するよう促す。一瞬たじろいだもののすぐに踵を返しブリッジから出て行った。


ーテンペスト・ガイア一つだけ教えて、本当にこの虫達に支配をさせるつもりなの?ー


[…………そう、あなたも]


 この女は本当に頭の回転が早い、今の質問でディアボロス達にグガランナが根回しされているのを悟ったのだろう。


ー答えてー


[そうとも言えるし違うとも言える、それよりあなたも随分と立派になったのね、あの時の話し合いから見違えるようだわ]


ーそりゃどうも、ティアマト!何かに掴まってて!ー


 私に注意を促す前からエンジン音がブリッジ内にさらに響き渡ってきたので、何をするのか理解するのは簡単だった。それと同じくして格納庫から出撃許可の申請がブリッジに入る。


[はぁ…本当にこんなことをしてもまだ言う事を聞かないのねあなた達は、まだアヤメの方がお利口だったわ]


ーなっ?!アヤメ?!ー


[凄く良い子ねアヤメは、私に優しくしてくれて気づかってくれて、私の思いも理解してくれて、あの子にマキナの座を渡してあげたいくらい、安心してあの子だけは残しておくから]


 そう一方的に話しを終えて通信を切った。


「…」


ー…ー


「あの…ね?」


ーティアマトー


 これは駄目なやつだ、逃げられそうにない。


「い、今はとにかく目の前に集中しましょう、話しはそれからよ」


 私の言葉に天の牛が吠えたと同時に蜂...いいや敵が襲ってきた。


ーいい加減にしろぉ!!どうしていつもいつも大事な事を隠すのよぉ!!何でアヤメがあんな奴に目を付けられてるのぉ!!痛っ!このくそ蜂がぁ!!ー


 目前に迫っていた敵の群れに、天の牛の巨体を叩きつけるように急加速させた。



✳︎



「あぁ…何ということだ…儂は今、地球の大空を一目惚れした実証機で飛んでいるのか…」


 大学教授はただのおこぼれのようなものだ。本当はテンペスト・シリンダーの開発、設計に携わりたかった。そのきっかけを与えてくれたのがこの機体だ、何とも感慨深い。


「素晴らしい…素晴らしいぞっ?!!…危ない…馬鹿なことを言ってる場合ではない」


 半舷の月に照らされた空域には無数の雀蜂が飛んでいる、大きさは人型機より少し小さいぐらいか。グガランナ・マテリアルに比べたらさほど驚異ではないが数が数だ、包囲されてしまえばそれだけ致命的な損傷を受けてしまいかねない。

 雀蜂の群れから離れた数匹が儂の周りを旋回している、さっきは危うく衝突してしまうところだった。何が何でもここでバシッと決めて自分の威厳をあの三人に見せつけておかないと居場所がなくなってしまう。

 大きな雲に奴らを引きつけて飛び込む、激しく叩きつけられる水滴と固まった空気にぶつかり機体のコントロールを持っていかれそうになるが、歯を食いしばりながら耐える。後を付いてきた雀蜂が雲に飲まれその翅を濡らしてしまい一匹が墜落したようだ。


「よしっ!」


 しかし他の雀蜂が早々に離脱し、機体の進行方向へ先回りした。すかさず機関銃を斉射しさらに一匹を落とす。


「よしっよしっ!」


 柄にもなく喜んでいると機体の後ろを残っていた雀蜂に取られてしまった。


「…」


 緊張したさ、いくらマキナに身を変えたとて恐怖はここにある。だがその恐怖すらエンジン出力に変え亜音速で半舷の月下を飛行する。付いてきた。付いてきた?


「ならばっ!」


 左へロールをし、ぶれる視界とGに耐えながら敵を射線に入れトリガー引き絞る。綺麗な孤を描きながら赤熱した弾丸が敵の腹を撃ちぬいた。瞬きの程の間空中でもがいた雀蜂がお腹に蓄えていた糸を撒き散らしながら絶命し、地球の荒廃した大地へと落ちていった。

 感動だった。虫に想いを馳せていたことも忘れ命を賭した戦いに勝ったのだ、やはり儂も男の性から逃れられないと思いながら勝利を彼女らに宣言した。


「見たかお前さんらっ!これが、」


[マギール、早く戻ってきなさい、敵がいない間に中層へ突入するわ]


「え?」


 雲を抜けた先、無慈悲に思える月の下に無傷のグガランナ・マテリアルと人型機が当たり前のようにそこにいた。あれだけ飛んでいた雀蜂も見当たらない。人型機の両手にアサルト・ライフルがあるが...それにグガランナ・マテリアルもよく見るとその牛の艦体に雀蜂の死骸が張り付いてる。


「儂…出撃した意味があったのか?」



37.マギリ



 手にしたアサルト・ライフルは訓練用に調整されているので実弾は出ない。使用されているのはペイント弾丸だ、当たったそばから綺麗な赤い塗料が機体に付着するので言い訳は出来ない。


[マギリっ!]


「はい!」


 親機から短い指示が飛んでくる、僚機の役目は私なので敵機を目指して駆ける。

 前方の建物に隠れた敵機に肉薄する、左腕に装着した防護盾を前に構えながら突進し慌てた敵機がライフルを撃ってくる。防護盾に軽い衝撃を受けながらさらに詰めて...あーもう面倒臭いからそのまま殴ってしまおう。


「ふんっ!」


 まさか殴られるとは思っていなかったのだろう、敵機が避けることも守ることもせずもろに防護盾の殴打を頭部に受けた。たたらを踏んだ敵機を容赦なく親機が撃ち抜き訓練終了のアナウンスがコクピット内に流れた。


[マギリ君、今すぐに教官室へ来たまえ]


「はい!」


 そして間髪入れずに訓練を見ていた教官から通信が入り、一発も撃たずに終わった訓練用のアサルト・ライフルを手にしたまま機体を教官室から一番近い駐機場へと向かわせた。



「怪我はないそうだ、後で病室へ行くように、いいね?」


「はい!」


「理由を教えてくれないか?どうして君は撃たないんだね」


「怖いからです!」


「確かにね、対人戦闘は重要ではないが疎かにしていいものでもない、分かるかい?」


「はい!」


「昨今では違法入手した人型機を用いて犯罪を犯す輩も増えてきているんだ、だから君にも…」


 まーた始まったよ。何回同じ話しすんの?


「…だから君にも銃を撃てるようになってほしいんだ、分かったかい?」


「はい!」


 分からない、分かりたくもない。人に銃を向けるだなんてこっちは昨日の今日に覚醒したばかりのデータだぞ?温室育ち舐めんなよ。

 苦手だ、対人戦闘の訓練は本当に苦手だ。というかそもそも防護盾で殴りつけたのも銃を向けたくなかったからだ。初期動作の訓練も武器の取り扱いも余裕でクリアしてきたけど、今回の訓練だけはどうにもなりそうにない。


「ところで、君はこの後時間はあるかい?」


「はい!………………え?」


 馬鹿みたいに大きい観葉植物が置かれた窓際越しに、砂だらけで訓練から帰ってきた人型機を見ながら適当に返事をした。一瞬何を言っているのか理解出来なかった、この後時間あるって何?


「そうか、なら一緒に食事にでも行こうか、君とは一度ゆっくりと話しがしたかったんだよ」


「え?」


「それではまた後ほど」


「え?」



「マギリもか、実は私も声をかけられることが増えてな」


 すっぽかした。今頃あの教官は一人で寂しく私が来るのを待っていることだろう。良心が痛まないのかと聞かれたら下を向くしかないが、私はナツメさんと一緒にご飯を食べたいのだ。

 ここは訓練校の食堂、フライトジャケットを着た他の訓練生らも大勢利用している。丸いテーブルが数えきれない程置かれた食堂は二階建てで、私とナツメさんはいつものように二階の窓際に座ってご飯を食べていた。ナツメさんの後ろには模型の人型機の頭部が見えている。訓練校の本館の中にある食堂は人型機の模型や武器類の展示をしている通路脇にある、変な造りだ。

 私と同じようにフライトジャケットを着たナツメさんがスープをふぅふぅしながら飲んでいる。


「ナツメさんもですか、何なんでしょうね」


「さあなぁ、本当に彼らは話しかけてこないのか?」


「うーん…私が前にいた仮想世界では話しが出来る相手は限られていましたからねぇ」


「限られていたとは?」


「アヤメの近くにいる学生とか」


「…そうか」


 少し目線を下げて相槌を打つナツメさん。

モヤッとする。


「けど今回はいきなり話しかけてきたのでよく分かんないんですよね、データなので決まった話ししかしないはずなんですけど」


「私もそうだと君から教えられていたからな、訓練終わりに肩を叩かれた時は悲鳴を上げてしまったよ」


「……ナツメさんってたまに可愛くなりますよね」


「そりゃどうも、君みたいな可愛い子に言われて嬉しいよ」


「えへへへ」


「それで?マギリは対人戦闘の方はどうなんだ」


「あーいやぁ…またやっちゃいましたねぇ」


 スクランブルエッグの中に入ったグリーンピースをかき分けながら答える、誰だこんな渋いのを入れた奴。


「まだ慣れそうにないか?」


「はい…というか喧嘩すらしたことないのにいきなり人に銃なんて向けられませんよ」


「相手がデータでもか?」


「んー…はい、拒否感の方が勝ってしまいますね…」


「ま、それが当たり前だがな、君も私も軍に入りたい訳ではないから気にするなと言いたいが…」


 二日後の決戦、ナツメさんから教えてもらっていた。今現実で住んでいる場所に見るもおぞましい大型の虫が大挙として押し寄せているらしいのだ、逃げたらどうかと言ってみたが重要な施設も点在しているらしくさらにティアマト以外のマキナと街を守ると約束もしたらしい。


「私、ここだけなんですよね、現実に行く方法がないので手伝えないですし…」


「それなんだがなぁ、それならどうしてマギリにも訓練を受けさせたのかという疑問が残るんだよなぁ」


「あのティアマトですよ?どうせ何も考えていないと思いますよ」


「まぁそれならそれで私は君と組めて幸運だと言えるな、仮想世界でしか会えない子と生活出来るんだ」


 ......あれ今何を食べたのか、噛んでいるのに味が全然分からない。それより心臓さんよ、もう少し静かにしてくれないかな。


「マギリ?」


「ひゃい、大丈夫れす」

 

「行儀が悪いぞ」


「あいた、えへへへ…」

 

 あー!幸せに暴力を振るわれるなんて思わなかったよ!ナツメさんの手で優しく額を小突かれてしまった、もっと行儀悪くしよう。 

 幸せな会話をしていると私達の間に闖入者が二人も現れた。二人とも同じ訓練生でフライトジャケットも着ているが初めて見た。


「二人がナツメとマギリかな?合っているか」


「……それが何か」


「そんな警戒しないでくれ二人に手合わせをお願いしに来たんだ」


 一人は男で丸坊主なのに金色に見える、どんな染め方をしたらあんなんになるのか、いや地毛か。もう一人は女で黒髪のショートカット、ナツメさんとのやり取りをただじっと見ているだけだ。


「手合わせ?戦えというのか?」


「そうさ、どうだ?お互いに切磋琢磨していきたいと思うんだが」


 ナツメさんが私を見やり目で会話を求めてくる、私も急なことなので首を傾げるしかない。


「…君の名前を教えてもらえないか?今すぐに返事は出来ない」


「分かった、やる気になったらまたここの食堂に来てくれ、分かりやすい頭をしているだろ?」


 自分の頭を指差しながら踵を返し、女を連れて階段から降りていった...何だ今の?


「どういうことだ?」


「さぁ…」


 せっかくの甘い雰囲気も台無し、休憩時間も終わりに近づいてきたのでそのまま食堂を後にした。邪魔すんな!



 午後からは射撃訓練だけだったのでとくに注意を受けることなく無事に終了し、シャワールームでさっぱりしてから家路につく。

 海の近くに設けられた訓練校は広く、前に通っていた大学よりも面積が広いように思う。講義棟に室内実習棟、それに室外実習場がいくつかあるので場所を取って仕方がないのだろう。すっぽかした教官がいる建物は通らずに正門へと向かい、ワイルドなおじさんに入門章を見せてゲートを通る。

 右手に海が見える、あの時に見たものとは違い本物だ、データだけど。左手は市街地になっていてぽつぽつと建物が点在している、ここいらは人型機やら輸送機やらのエンジン音でうるさいのであまり住んでいる人はいないようだ。

 暫く歩くと建物が増え始め、そして山麓が近くなってくる。ひぐらしの鳴き声を聞きながら古くさいバスが通り過ぎて行くのを見やる、民家の前にバスが停留し何人かを飲み込んでから再び発車した。


(あんな子供まで訓練受けてるの?)


 大人に混じって訓練生の制服を着た女の子がバスに乗り込んでいるのが見えていた、世も末だと一人で黄昏ていると我が家の屋根がぽっかりと空いた木の間から見えてきた。右手に見えていた海が山麓で隠れ、市街地を挟んで小高い山がある。その中に今回...と言うとまるで転勤族みたいな言い方だが私が住んでいる日本家屋がある。


(それは二人だけの愛の巣……ひゃー!!)


 馬鹿な妄想をしながら歩みを進める。バス停を通り過ぎトタン屋根の駄菓子屋の前を通りかかると、中には珍しくお客さんがいるようだった。和気あいあいと仲良くお菓子を選んでいる華やかな声が聞こえてくる。


「えー何ですかこれー初めて見ましたよー」


「本当に?何にも知らないんだね、私が選んであげるよ!」


「いーや私が選ぶの!ね、これなんかどう?」


「どうやって食べるの?教えてくれる?」


「きゃー!可愛いー!」


 ぎゃあぎゃあとある女学生を囲って喚いているだけだった、全然華やかではない。

少し迷惑そうにしているおばぁちゃんを尻目に再び歩みを進める。そうだ、今度ナツメさんを誘って私もここに冷やかしに来よう。


(この辺りって訓練生多いのかな…さっきの子らもそうだったし)


 駄菓子屋も通り過ぎて誰も守らない幅の狭い横断歩道を渡り(青信号!)古い家から漂ってくる醤油の焼けた良い匂いを嗅ぎながら歩くと、杉の木に囲まれた神社が見えてくる。人型機と同じサイズのあちこちが剥げた鳥居の奥には一度も参拝したことがない社があって、袴姿の人が使い込まれた竹箒で掃除をしているところだった。ここには興味がない。

 そして、神社も通り過ぎてようやく我が家に行ける小さな石畳の階段が見えてきた。目印のようにぽつんと立っている赤い郵便ポストには「間切・夏目」と達筆な文字で書かれた表札が貼り付けられている。杉の木と藪に囲われた階段をちまちまと登っていく。


(あの表札のせいなんだよなぁ………)


 苔むしたせいで滑りやすくさらに階段の幅も狭いので登るのが大変だ。少し登ると杉の木の間から社が見えて、さっき掃除していた袴姿の人が竹箒で素振りをしているところだった。きっと大きなホームランを打てることだろう、見事なスイングだ。

 見えていた神社が杉の木に隠れてしまうと後は何も見るところがないので無心でひたすら登っていく。ひぐらしの鳴き声と風で騒めく葉ずれの音を聞きながら、くすんだ白色から夕日で赤色に変わった階段を登った先にようやく門が見えてきた。

 最後の一段を滑ることなく登りきって一息つく。


「はぁーつかれるぅー」


「お疲れ」


「ひゃい?!」


 門の奥から声をかけられた、いつもの作務衣を着こなし真新しい竹箒で玄関前を掃除しているところだった。


「き、聞こえてました?」


「あぁ」


 薄く笑うように視線を投げ、掃除をしていた手を止める。


「お帰り」


「た、だいま…」


 ね?愛の巣とか馬鹿な妄想する私の気持ちが分かるでしょ?

顔が赤いのは夕日のせいなんですと、何も聞かれていないのに言い訳をしながらナツメさんと家に入っていった。



「これを見てくれないか」


「?」


 だだっ広い居間で食休めのお茶を飲んでいるとナツメさんが一枚の封筒を手にして入ってきた。


「ん?何ですかそれ」


「私が帰ってきた時に入っていてな、ここに来て初めてじゃないか?」


「まぁ…というか連絡なら黒電話から出来ますよね、何でわざわざこんな古風なやり方したんでしょうかティアマトの奴」


「いやそうだと決まった訳では…開けてみるぞ」


 ナツメさんがあぐらをかいて私の斜め隣に座ってビリビリと破き始める。中から綺麗な三つ折りの手紙が出てきてナツメさんの透き通るような瞳が文を追っている。


(私もあなたの瞳に読まれたい………何を?)


 私に文才はないなと勝手に評価していると、苦笑いのナツメさんが私に手紙を渡してきた。


「マギリ、お前にだ」


「?」


 お前って言われた...

せっかくドキが胸胸していたのに渡された手紙を読んで、私の気持ちは一気に氷点下まで下がってしまった。


 〜駄目だよ、僕の誘いを無視するのは、めっ!悪い子猫にはちゃんとお仕置きをしないとね⭐︎明日の朝一番に夏目と教官室へ来るように、君一人でもいいんだけどね♡〜


「………………………」


「これはやはりラブレターになるのか?」


 ...........................


「おいマギリ、しっかりしろ」


「はっ」


 あれ...何これ寒気が止まらないんだけど...


「あ、もしかしてナツメさんの街に迫って来ている虫ってこいつのことですか?」


 納得。今すぐ殲滅しに行こうそうしよう。


「違う、それに私と二人でと書いてあるだろう」


 あぁ本当だ、夏目と書かれている。子猫のくだりで既に意識の半分が他界していたので気づけなかった。


「行きたくないんですけどぉ…」


「ついに手紙までか……データは意思を持たないという話しが嘘のように思えるな…というかマギリ、約束を守らなかったのか?」


「だっていつも同じ話ししかしないので適当に返事していたんですよ」


「はぁ…まぁでも私にも用事があるみたいだから行きはするが…」


 何だかよく分からない微妙な空気になってしまった。食後のフリートークをいつも楽しみにしているのに。邪魔すんな!

ナツメさんが膝に手を付きながら立ち上がり台所へと足を向ける、喋り足りない私も立ち上がりナツメさんの後を追いかける。


「あの、私も一緒に皿洗いします」


「そうか、すまないな」


 二人連れ立って台所へと向かう。居間に面した廊下は磨りガラスになっていて、ここだけ時代が進んだような造りになっている。今は暗くてよく見えないが、庭には枯山水が描かれ小さな橋も一つ架けられていた。この景色をナツメさんがいたく気に入り、よく朝方に一人で眺めている。


(あの橋に私が立っていても眺めてくれるかな?)


 絶対しないけど。

ナツメさんと一緒に台所に入り二人揃って流しに立つ、使い終わった食器を片付けていく。


「こっちに来てまさか、料理をするようになるとは思わなかったよ」


「そうなんですか?」


「あぁ、私達の街には冷温室と呼ばれる家電があってだな、自動で料理を作ってくれるんだ」


「えぇ?!便利!」


 そうなの?凄くない?


「まぁ、決まった料理しか出来ないんだがな」


「それじゃあナツメさんの街では誰も作らないんですか?」


 漆塗りのお碗を洗い流し、ナツメさんを横目で見る。ばっちりと目が合い慌ててしまって洗ったばかりのお碗を脂塗れのフライパンの上に落としてしまった。


「いいや、趣味で作っている奴がいる、殆どの人間は冷温室頼りだがな」


 だから私にお茶の淹れ方を聞いてきたのか...


「そういえば、初めて会った時はどうやって淹れたんですか?よく茶っ葉とか茶飲みとか分かりましたね」


「アヤメに聞いたのさ、あいつは前に仮想世界で生活していたから何か飲む物はないのかと色々と聞いてな」


「そう……なんですね」


 黒電話からアヤメに電話をかけて聞いたんだそうだ。

ナツメさんとアヤメの話しをすると、とても複雑な気持ちになってしまう。私の親友はアヤメだ、それは変わらない。けれどナツメさんは私の知らないアヤメを知っているみたいだし、それに嫉妬してしまっている自分がいる。

 さらにアヤメも私の知らないナツメさんを知っているだろうから、それも嫉妬してしまう。面倒臭い女だ、私は。


「いつから………仲良しだったんですか」


 少し声を小さくして聞く、聞こえなかったらそれでいいかなと思いながらもナツメさんはちゃんと答えてくれた。


「私がまだ子供だった頃からの付き合いだ、昔に両親に亡くしてしまってな」


 いつもと変わらない表情で昔話しをしてくれた。

ナツメさんが住んでいた街にびーすとと呼ばれる敵が襲ってきて目の前で殺されてしまったんだそうだ。酷くショックを受けてしまい誰もと口をきかなくなり、施設にいる間も塞ぎ込んでいたらしい。そんな時に、


「あいつが声をかけてきたのさ、そんな所でサボってないで片付けを手伝えって、今でもはっきりと覚えているよ」


 ...その顔は初めて見た。眉根を寄せているけど口元は笑っている、出会ったばかりの私には決して見せてはくれないだろう、その笑顔。


「…それで、仲良くなったんですか?」


「いいや、喧嘩ばかりしていたよ」


「……そうなんですね」


 食器を洗い終えて手を拭きながらナツメさんの話しを聞く。


「でも今思えばあいつのおかげなんだよ、あの時の私が元気になれたのは、だから銃を握ろうと思ったのさ、私があいつのために住む場所を守ってやろうと腹を括ってな」


「だからナツメさんは人を撃てるんですね」


 台所に置かれた脚が高いテーブルに座った、また前に座ってくれるだろうと思っていたのにナツメさんは何故か立ったままだ。


「マギリ」


「何ですか」


「私は人を撃ちたくて銃を握ったことはない、そんな言い方はやめてくれないか」


「違うんですか、小さな頃から銃を持っていたんですよね、それって暴力に慣れているってことではないんですか」


「慣れていたら何だ?私が人を撃って当たり前だと言いたいのか」


「私は人を撃てません、訓練でも無理です、それに誰かに守ってもらったこともありません、銃を人に向ける理由がありません」


「質問に答えてくれ、私は撃って当たり前だと言いたいのか?一度でも君の前で人を撃ったことがあったか?」


「いつも訓練で撃ってるじゃないですか!!」


 私の怒鳴り声でも全く怯まない。

ムカついた、凄くムカついた。もう頭の中はぐちゃぐちゃだった。何もかもが羨ましかった、アヤメに助けられた話しもナツメさんが守ってやりたいと言った言葉も私には無いものだったから、妬ましくて欲しくてでも手に入らないと分かっているから八つ当たりをしてしまった。

 鋭い視線に私が臆してしまい下を向く。私が何か言うのを待っているのか、それともかける言葉を考えてくれているのか。

 耐えきれなくなった私は下を向いたまま自分の部屋へ向かった。台所に残されたナツメさんがどんな表情をしていたのかは分からない。



 一緒に来いって言われていたの忘れていたよ。


「はぁ…………………………逃げたまんまだし」


[溜息なんかついてどうしたんだい?模擬戦は今度にしようか?]


「結構です、続けてください」


 昨日、私が一方的に文句を言ってからまだ一言も謝れていない。今朝だっていつもより早く起きて訓練校までやって来た、言われた通りに入った教官室には昨日食堂で手合わせをお願いしてきた二人がいたので何となく察した。私は何も言わずに格納庫へ向かい自分にあてがわれた人型機にさっさと搭乗してナツメさんが来るのを待っているところだった。


[ナツメ君が到着したようだ、念のため聞いておくけど、]


「いつも通りで結構です、僚機は私がやります」


[分かった]


 程なくして人型機に搭乗したナツメさんが屋外実習場に入ってきた。右肩にペイントされた数字は「7」、どこもぼろぼろだったのが意外だった。


[私が親機を務める、いいな?]


[はい]


 人型機の模擬戦闘は親機と僚機の役割に分かれて行われる。親機が戦場の把握と指示、僚機が戦場の報告と指示の徹底を練習するためにツーマンセル、所謂二人一組で戦う。

 相手の親機から通信が入る、昨日のあの女からだった。


[手合わせ感謝致します、全力で参りますので手加減されないようにお願いしますね]


《起動》


 随分とまぁ余裕なこって、こっちは昨日の事で頭が一杯だっていうのに。


《機体を同期しています》


 コクピット内にカメラ映像が投影される、私の後方に親機がいるので様子は分からない。


《同期完了》


 前回とは違って利き手に防護盾を装着する、始めから銃撃は諦めている。殴って殴って殴り倒す!


《操縦権を授与します》


「今日こそやってんよぉ!!何発でも殴ってやらぁ!!!」


 ちなみに私は一度も相手に勝ったことがない、いつもいつもパートナーを組んでいる相手には迷惑ばかり掛けていた。その鬱憤を晴らすべく全く関係ない闖入者相手に吠えたてる。


[事前に説明した通り今回の模擬戦に規定は設けない、親機と僚機をどちらとも倒したペアを勝利者とする]


 気持ち悪い教官から念押しの通信が入る。

昨日、私が昏倒させた模擬戦は私達が勝ったから終わったのではない、私が突飛な行動を取ったから終わったのだ。しかし今日は言うなればサドンデス勝負、何でもありということだ。

 コンソールから開始の合図が鳴り、それと同時に目一杯レバーを倒す。敵ペアの親機が建物を模した障害物に隠れ僚機が私に対峙すべく前に出る、スピードは私の方が上だ。


[マギリ!そのまま僚機を引き付けてくれ!]


[了解!]


 時速は八十キロ、限界速度で走っているので車と変わらない、右手を構えて敵に防護盾を叩きつける準備をする。それを見計らったように敵からペイント弾が飛来し中途半端に構えた盾で防いだ。


(殴れないんならっ)


 ペイント弾を盾に受けながら落ちた速度を上げる、視界は盾に遮られよく見えないが仕方ない!人型機の腰を落として衝撃に備える。


「せいっ!!」


 右肩を前に突き出しショルダータックルの構えで敵機に突っ込み吹っ飛ばす!その衝撃がコクピットにも伝わり振動でどこかに頭をぶつけたようだ。


「くぅっ!!」


[マギリ退避!!]


「?!」


 ナツメさんから叫ぶように指示が飛んでくる、前方を注視すると吹っ飛ばしたはずの敵機が膝立ちの構えで私に狙いを付けていた。


「何で?!飛ばしたはず!!」


 まさか受け身を取ったのか?!馬鹿なと思った矢先に敵機のペイント弾をまともに受けてしまい、コンソールから騒がしいエラー音が鳴り響く。頭部センサーの破損、左肩の防御装甲の半壊。コクピット内にも鉄が削れていく甲高い音が伝わり次々と機体が破損していく。これはペイント弾か?


[教官!今すぐ中止を!何故敵機が実弾を使用しているんだ!!]


[事前に説明した通り今回の模擬戦に規定は設けない、親機と僚機をどちらとも倒したペアを勝利者とする]


[くそったれが話しにならない!マギリ!お前もライフルで応戦しろ!]


「い、嫌です!」


 そう言うが向こうは遠慮なく撃ってくる、敵機が膝立ちから直立姿勢を取りアサルト・ライフルを撃ちながら距離を詰めてきた。このままではただの的だと思い防護盾を前面に構えながら建物の影へ移動する。


[マギリ!撃て!敵は遠慮なく撃ってくるんだぞ?!意地を張っている場合か!!]


「そ、そんな!ここはただの仮想世界ですよ?!そこまでしなくてもっ」


[君にとってはここが現実だろう!撃ち抜かれても平気でいられるのかっ?!]


 その言葉に目が覚めた、確かにそうだナツメさんの言う通りだ。

突如目の前が真っ暗になりコクピットに直接衝撃が走った。


「いゃぁあ!!」


 走っていたのに衝撃で倒されてしまいその場に転倒してしまった、ノイズが走るコクピットにはひしゃげた盾を構えたもう一機の敵機が私を見下ろしていた。


「?!」


 左手に持っていたアサルト・ライフルの銃口を突き付けて目が眩む程の発射光、そして無慈悲に削られていく機体が悲鳴を上げた。


「いや…いや…いや…やめてぇ!!!!」


 叫んでも止まらない。カメラが壊れたのか視界映像が途絶えそれでも敵の攻撃が続く、次第にコクピットにも弾丸が貫き始め私のすぐ隣を高熱の塊りが過ぎていった。


「ひぃ!!やめ、やめて!!」


 頭を抱えて耳を塞ぎ破壊されていく音を遠ざけようとするも弾丸で削がれていく機体が徐々に壊れ始め、コクピット内の全ての明かりが消灯した。コンソールには何も表示されない、それでも敵は攻撃をやめてくれなかった。


「嫌だぁ…嫌だよぉ…」


 震えながら嗚咽を漏らす、恐怖で全てが支配され身動きすら取れなくなってしまった。あれだけ続いた破壊音が唐突に止み、そしてナツメさんの割れた声が聞こえてきた。


ーマギリ!返事をしろ!マギリ!!ー


「……へぇ?……この声」


 顔を上げるとコクピットに歪んだ穴が空き、そして見下ろすように「7」の数字がペイントされた人型機がそこにいた。あと少しで...背筋に冷や汗が流れ私の理性が消し飛んだ。


「助けて!!ナツメさん!!お願いだから助けて!!もうこんな所にいたくない!!」


ー聞こえているならすぐにっ?!ー


「ナツメさん?!どうして返事しないの?!!」


 機体が全壊してしまったのだ、通信も出来ないことに今さら気づく。しかしナツメさんの機体にも火花が散り始め防御装甲の破片がコクピット内にも落ちてきた。もう一機の敵機に攻撃を受けているのだ。


「ナツメ…ナツメさん……そんな、ここまでするの………」


ーこんのくそったれが…いい気になりやがって……くっ!!ー


 ナツメさんの汚い言葉使いに少しだけ頭が冷えていくらか理性を取り戻した。

さらに攻撃が続きナツメさんの機体から小さな爆発が起こり私の機体に覆い被さるように傾いできた、穴が空いたすぐ先にコクピットがありハッチが開く。


「ナツメさん!ナツメさん逃げてください!!」


「ようマギリ、生きていたみたいで何よりだ」


「はぁ?!!何をこんな時にそんなふざけた言い方!!」


「いい機会だから言っておくが私はそこまで出来た人間じゃない、昨日の喧嘩の続きといこうじゃないか」


 こんな状態になってもまだ攻撃が続いている、ナツメさんの機体にも大穴が空き始めてきている。


「逃げて、逃げてくださいよ!どうして…」


「私がお前に銃を握る理由を与えてやる、いいか、この場を生き残って何が何でもあのクソ野郎共に弾をぶち込んでやってくれ!気に入らない!一方的に嬲られるのはいくつになっても気に入らない!!」


「……」


「私はお前のことを守ったぞ!それでもお前はまだ嫉妬するのか?!」


「ナツメっ?!!」


 視界が赤く染まり何も分からなくなってしまった。轟音、皮膚が焼ける程の熱量、そして、


[おめでとう、君達は無事に敗者だ、次の模擬戦に期待しているよ]

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