NEW ORDER
ホワイトウォールがその役目を終えた。
約一五年前から開始された自動修復壁の撤去工事がついにその全ての工程を終え、海へ行ってしまった母に代わり、娘である私が式典の挨拶をする。
「──それでは、続きまして一二塔主議会に若くして就任したレイア・サーストン氏からご挨拶があります」
司会者に促され、ハワイ港の広場に設置されたひな壇に足を進める。
まだ少し肌寒い風が私を撫で付け、うんと広がるハワイの、いや、地球の大海原へ戻って行った。
もうここは囲われた大地ではない、途方にもない太平洋を望める国となった。
ひな壇に立ち、この式典に集まった人々をゆっくりと眺める。期待に満ちた顔、悲しみを湛えた人、暇そうにしている人、沢山の表情がそこにあった。
設置されていたマイクに顔を近付ける。
「この度はこのような式典に呼んでいただきありがとうございます。その昔、ホワイトウォールはウルフラグという国と、カウネナナイという国を分け隔ていた聞き及んでいます。ですが、今は合併されて世界にその名を轟かせるハワイへと変わり、そしてマキナであるタイタニスの尽力をもってホワイトウォールは壁ではなく歴史的なモニュメントへと変わりました」
懸念されていた海水汚染も無い、大気もそうだ、星管連盟が嘘を吐いていたことは事実である。
この地球は今、再生を終え、再び人類が住めるようになっていた。
だが、だからと言ってすぐに住めるような環境でもなかった。
「今となっては他塔との交流が日常のものとなりました。カウネナナイとウルフラグが交わったように、今は他塔との交わりが日常です。このハワイがそうであったように、他塔との交流も問題が多く発生しています、だからこそ塔主議会があり、僭越ながら私もその末席に名を連ねることに致しました」
荒廃しているのだ、どうしようもなく、マグマに犯された母なる大地はまだ再生しておらず、人が住めるような環境ではなかった。
人が住む家を建てられない、これでは住むことができない。
「世界は変わる、歴史は人の手によって動かせる、その証明がここ、ハワイであると私は考えます。約二〇年前の大災害を経て、両国は変わり、壁を乗り越え互いに手を取り合い、そしてここまでやって来た。これからの地球もそうです、他塔と手を取り合い、この荒廃した大地を変えるべく、地球人類が尽力し、悲嘆を希望へと変えていくのです」
──ただ、もし地球が再生し、どんな土地でも住めるようになったとして、私はそこへ行くのかと訊かれたら、きっと断るだろう。
「このハワイから、全ての母たちが眠るこのハワイから、地球全土の民を連れて新しい世界へ。そして私は再び戻って来ます、ここが私の故郷だから」
どう?少しは板についているかな、自慢の娘だって言ってもらえるような演説ができたかな?
まあいい、私もいずれ海へ行くんだ、その時に訊けばいい。
「──旅立ちの日です」
さあ、新世界へ。
第三章『アミール』は2025/3/1 20:00より連載を開始します。