表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テンペスト・シリンダー  作者: tokusin
第二.五章
273/335

TRACK 22

エレクトロスターティック



 新都を実質的に支配しているバベルとダルシアンは、廃棄されて長い年月が経つ石油プラットフォームに足を運んでいた。

 ひどい錆の匂いと潮の香りが辺りを包んでおり、呼吸をするのも億劫だった。空は良く晴れているが、端の方には雨雲が存在している。これはひと雨くるなとバベルは思い、錆びて傷んだ外階段を上った。


「ここもそう長くは保たんぞ、バベルよ」


「そんなの見りゃ分かる、調べ物が終わったらさっさとずらかるさ」


 彼らは調べ物をするためにわざわざここまでやって来た。

 石油プラットフォームは浮上式であり、だから海面の上昇があっても沈没せずに済んでいた。

 彼らが足を運んでいるプラットフォームは四つの建物からなり、その中央部分に採掘用のリグ(大型の採掘機械)があった。建物にはそれぞれ採掘作業員のパブリックスペースであったり、ウェットラボであったり、長期に渡って採掘作業が行えるよう施設などが置かれていた。

 一般的(西暦時代の話)には、採掘作業員が生活するパブリックスペースと採掘現場は分かれており、中にはヘリコプターで移動をするプラットフォームも存在した。けれど、カウネナナイに存在するプラットフォームは一体型となっており、バベルたちはパブリックスペースへ向かっていた。

 ここ最近になって出現した死神の足跡を辿りに来たのだ。

 錆びついたドアノブを回して室内に入る、天井は低く、ずうっと先まで何も無い空間が広がっていた。割れた窓ガラスの向こうには晴れた青空と一塊の雨雲があった。


「ところで…ダルシアン」


「何だ?」


「お前の目論見はどうなったんだ?そいつは叶いそうなのか?」


「政府なき国家の話か?」


 ダルシアンは胡乱げにそう答えた。

 何も無い空間の床は細かなガラス片などが散らばっており、さしあたって人がいた痕跡はない。バベルとダルシアンは床に視線を投げかけながら先へ進んだ。


「見れば分かるだろう、まだその時ではない」


「現状回復が優先、ってか?そいつはいけねえ、手は早く打つに限る」


「そういう貴様はどうなんだ?概念の観点から人類を支配するのが夢なのだろう?」


 バベルが不揃いに伸びてる自分の顎髭をさすった。


「そいつはちっと違うかな〜別に夢ってわけじゃあない。そうだな、若もんが老人たちのやり方に異を唱えるようなもんだ、どこにでもある話だろ?」


 二人はだだっ広い空間を歩き、また別の扉の前に差しかかった。ダルシアンがドアノブに手を回し、そこで違和感に気付く。長い年月が経っているはずなのに、ドアノブの滑りが良い、誰かが油をさした証拠だ。

 ダルシアンがバベルへ目配せをする、彼は懐からゆっくりと拳銃を手に取り構えた。

 中へ進入する、電気の明かりはなく、とても暗かった。


「ひでえ臭いだ」


「人がいた証拠だ。そいつが死神のパイロットなのかは分からんが…」


 二人がゆっくりと歩みを進める、人の気配はない、ダルシアンはハンディライトを手にして室内を照らした。

 

「ああん?」


「これは…大所帯だったのか…?」


 彼ら、というより新都は死神の侵攻にいよいよ困り果てており、もうこれ以上の消耗戦はできないとして反転攻勢の作戦を立案していた。

 先んじて指揮官を務めている二人が新都周辺の捜索をしており、人が滞在できそうで機体を隠せそうなこの石油プラットフォームにまで足を伸ばしていた。

 ダルシアンが照らした先にあったのは無数のゴミだった、とても一人で残していったようには見えない。

 それに鼻につく臭いもしている、生き物の糞尿によるものだ。

 つい最近まで集団が生活をしていた痕跡があった。


「死神はチームを組んでいるのか?でも、新都に来る時はいつも一人だろう?」


「バックアップチームか…もしくは別の集団か?」


「こんなご時世に何の援助もなく動けるチームがいるのか?一体どこのどいつ──」そこでバベルが急に口を閉じた。何か心当たりがあるらしい。


「何だ?何か知っているのか?」


「──いや、お前には関係ない話だよ」


「………」


 ダルシアンは訝しむような視線をバベルに送った後、築かれているゴミの山を見やった。

 バベルがあまり手入れがされていない革靴でゴミの山を崩した、途端に腐敗臭が辺りを漂い二人の鼻を襲う。けれど二人は酷い臭いよりも、変わった形をしているゴミに視線が釘付けになっていた。


「何だこりゃ」


 その変わったゴミとは、金属製の小さな筒だった。バベルはその一つを手に取り、すぐさま後悔した。


「──うんわくっさ!臭いの正体はこいつかよ…最悪だぜ…」


「この中に食べ物が入っていたのか…?」と、ダルシアンは臆することなく筒の中を覗き込んだ。

 筒は貫通しており、ダルシアンが手に持つライトが中を通って床を照らしている、筒の内側にはどろりとした固形状の何かがへばり付いていた。

 そんなおかしな筒が沢山、ざっと見ただけでも百本近くはあった。


「この筒の中に食べ物を保管していたようだな…それで何かしらの手段を使って開封し、摂取していたと思われる」


「何でそこまで分かる」


「片側が破裂したように内側から開いているからだ。他に何か道具は──あった、これじゃないか?」


 ダルシアンは臭い筒を放り投げ、代わりに床に落ちていたある道具を拾い上げた。


「──そいつはさすがに見たことがあるな…何だっけか…圧力計か?」


「そのようだな」


 ダルシアンの手には手のひらサイズの一般的な圧力計が握られていた。配管に取り付ける真鍮製の棒に丸い表示盤、ただ、この圧力計も少々変わっていた。


「このボタンは何だ?」


「それが普通じゃないのか?」


「一般的な圧力計にこんなボタンは付いていない」


 表示盤のてっぺんに一つのボタンが付いていた、ダルシアンが試しに押してみると、差し込み口の方からぷすぷすと空気が出ている。


「何なんだこれは…」


「カウネナナイが作ったんじゃないのか、あんたら機械は得意だろうに」


「少なくとも私は見たことがない。このおかしなゴミの類いを見るに、ここに潜伏していたのはヴァルキュリアが一番怪しいが…」


「──ああ、あいつら最先端技術を使った遊撃部隊だったもんな、そうかもしれんが…」


 バベルは含みのある視線をゴミに向け、ダルシアンに勘繰られていた。


「何ださっきから、何か知っているんだろう?このゴミを残していった相手について」


「言ってもいいが…あんた、もうここには居られなくなるぞ」


「………」


「セバスチャン・ダットサンの二の舞いになりたくなかったら、これ以上は聞かないこった」


「──そうしよう。であれば、死神はここに潜伏していたわけではない…?」


「いや、死神の正体が俺の思う相手かもしれない。そうなったら最悪なんだがな、勝率ががくっと落ちちまう」


「他に何かないか調べてみよう、これ以上遅れを取るのは好ましくない」


「そうしよう」


 その後も、死神の痕跡をくまなく探してみたが結果は芳しくなかった。



「まあ…なんて酷い臭いなんでしょう…ゴミの山に頭でも突っ込んできたのですか?」


「………」ぷ〜ん

「………」ぷ〜ん


 バベルと共に居た時は微塵も反応を示さなかったあのプログラム・ガイアが、自分で自分の鼻を摘んでいた。アリクイの赤ちゃんも彼らが戻って来てから姿を消している。

 ゴミのような臭いを放つ二人を出迎えたのはグガランナ・ガイアだった。何処にいてもその金の髪の輝きは失せず、とても良く目立っていた。

 バベルが予想した通り、新都に戻って来てから雨が降り始めていた。室内にいても雨音が届いてくる、激しいスコールのようであった。

 グガランナ・ガイアが「どうせなら雨に打たれてから帰ってくれば良かったのに」と皮肉を言い、石油プラットフォームの調査について二人へ報告を求めた。


「どうだったかしら?」

 

「どうもこうもねえよ、空振りだ、死神がいたと思しき痕跡は見つけられなかった」


「代わりにおかしなゴミは見つけたがな」


「そのゴミとは?」


 プログラム・ガイアが鼻を摘みながらだっと駆け出した、あまりに臭いが酷かったからだろう。ダルシアンはプラットフォームで拾ったゴミを持ち帰っていた。


「いや写真とかで良かったんだけど…そりゃ臭うはずだわ」


「写真で良いなら最初からそう言ってくれないか…?お前が貴重な証拠は絶対持ち帰ろと言うから…」


 グガランナも鼻を摘みながらダルシアンのゴミを手に取った。


「──これは…プラグ止め?」


「何だそれは、というか見ただけで分かんのかよ」


「プラグ止めは一般的に配管工事に使われる物ね。水漏れとか空気漏れとか、それらを修理する時に流れを止めておく物よ」


「詳しいな」


「頭の中にスパコン入ってるから」


「それでいいのかよ」


 グガランナが説明した通り、ダルシアンが拾ったゴミはプラグ止めと呼ばれる物だった。


「配管工事に使う道具ね…死神とは関係が無さそうだわ。あなたはどう思う?」グガランナがバベルに訊ねた。


「──随分と馴れ馴れしいもんだな、マリーンのお姫様は。俺がお前たちに何やったのか、もう忘れたのか?敵さんと仲良くする趣味はねえよ」


「私はあなたの敵なの?」


「味方ではないな」


「味方ではなかったら全員敵なの?白黒はっきりしてて良いと思うけど、それは世渡りが上手とは言えないわね」


「………」


「今は過去の対立を脇に置いて、少しでも現状回復に務めるべきではなくて?さしあたってはガイア・サーバーを攻撃してくる死神と呼ばれる赤い特個体の無力化、これに同意したから私もあなたたちに協力すると約束したの。分かって?」


「へいへい」ちっ、とバベルが面倒臭そうに明後日の方向を向いた。

 ダルシアンはグガランナの話にはナシよりのアリの賛成だった。大佐もさっさと面倒事は片付けたいと考えていた。


「数百年も閉じ籠もっていたとは考え難いな、実に口が達者だ」


「ありがとう──あの人に」グガランナは何かを言いかけ、逡巡を見せ、苦虫を噛むようにして無理やり口を閉じていた。


「何かね、何かを言いかけたようだが」


「いいえ何でもないわ、気にしないで。私──というより、マリーンのマキナにとってサーバーを攻撃されるのは不愉快極まりない行為よ」


「ま、俺には関係がないけどな」


「曲がりなりにも、サーバーが破壊されたら私たちは二度と再起動できなくなってしまう、それはマリーンにとっても大きな痛手となってこれから先の未来に大きな影を落とすことでしょう」


「お前は別にいらないんじゃないのか?ウルフラグの管制官たちを射殺したんだろ?」

 

 バベルは揶揄う目的でそう口にしたが、事実だった。


「………」


「ま、ここに集まった連中は皆んなコブ付きって事で。お互い肚を隠したまま仲良くやろうや」


「………」

「………」


 バベルが三人の立場を揶揄し、上手く締め括ったかのように思われたが目先の問題は何も片付いていなかった。


「──違うのよ、私はそういう話がしたいんじゃないの「だろうな」×2「赤い死神を何とかしないとガチで私たちがヤバいの、分かる?」

 

 二人は「分かる分かる」と適当に相槌をうってから、


「そもそもだ、死神がサーバーを狙う理由ないし目的が分からない」


「私としてはサーバーうんぬんより、出撃する兵士のことが心配だ、これ以上の人的被害は新都の運営に関わる」


 ダルシアンの懸念も二人はよく理解していた。

 ぽっと出のグガランナが二人に迎えてもらったのには理由がある。普通、いきなり現れたマキナが街の運営に携われるはずもなく、「いきなり出てきてしゃしゃるの止めてくれない?」と言われるのがオチである。

 グガランナには『ナノ・ジュエル』という絶対的な付加価値があった、だから二人も迎え入れていた。


「いくら私がナノ・ジュエルを提供したところで人が減っていったら意味がないわ、だから当面の目標は赤い死神の排除よ」


「へいへい」

「分かっている」


「分かっているならその臭いを早く何とかしてちょうだい。普通に鼻がもげそう」


「………」

「………」


 せっかく頑張ってきたのに汚物扱いを受けた二人が、肩を落としてグガランナの元から離れていった。

 湯浴みをする場所に到着し、二人が衣服を脱ぎ始めた時にバベルが言った。


「ぽっと出のマキナに良いように扱われている件について」


「それを言うな」


「あんのクソお姫様め…皆んなに好かれているからって調子乗るなよ…」


「まあ…我々も配慮に欠けていたというべきか…仕方がない部分もある」


 二人は揃って街がある方角を眺めた。





 元カウネナナイ王都のお城に築かれた街にお姫様がやって来た。そのお姫様は宝石のように光り輝く金の髪を持ち、晴れていても雨が降ってもアーキアに街が襲われてもいつも笑顔を湛え、街の人々と和かに話しをしていた。

 だから人気があった、子供も大人も問わず、お姫様が街に姿を見せたら皆んなが駆けて行った。

 今日もその通りだった。


「──あ!グガランナ様!」

「グガランナ様だ!」

「ちょうどいい所に──お姫様〜!ちょっとこっちに来ておくれ!」


 皆んなから名前を呼ばれ引っ張りだこのグガランナ、心なしか頬が緩んでいるように見える。

 付近で遊んでいた子に手を引かれ、新都のお姫様がある女性の前までやって来た。


「何でしょうか?」


「これを見てくれ、もう橋がボロボロで今にも落ちそうなんだ!」そういって女性は足元から別の集落へ向かう木製の橋を指差した。言った通り固定している金具が錆びており、心許ない印象があった。

 お姫様はすぐに返事をした。


「──分かりました、すぐに軍へ掛け合って修理してもらいましょう。小さなお子さんが落ちたら大変ですものね」


「そうなんだよ!この子たちったらいくら注意しても聞かないから──ほら!お姫様にお礼をちゃんと言いなさい!」


「ありがとう〜!」

「グガランナ様も一緒に遊ぼ〜!」


「ふふふっ」


 それからまたお姫様は子供や大人たちに囲われながら街の中を散策した。


「──ふう…」


 散策を終えたグガランナが城内に戻って来た。何もただ普通に散策をしていたわけではなく、グガランナはすぐさま将校の一人を自室に呼び付けた。

 

「お呼びでしょうか、ガイア様」


 (肩っ苦しいおっさんにこき使われるぐらいならお姫様のような美しい女性に顎で使われたいと思っている)将校が飛んでやって来た、走ったせいもあるが、頬が赤く染まっている。


「街の中を見て参りました、いくつか補修すべき所と追加で道を作ってほしい所がありますので、また皆様方のお力を貸してください」


 将校は食い気味で「喜んで!」と答えた。

 その日のうちに補修活動が始まり、新都の街がにわかに活気づき始めた。

 グガランナのやっている事は所謂街づくりであり、バベルやダルシアンが失念していた事でもあった。

 (こういう言い方は性差別に繋がるが)男というものは『食って寝られたら何でもいい』的な考えに陥りがちであり、事細かな部分にまで気が回らない。ましてや、忙しい毎日を送っていればなおさらである。

 一方、女性は事細かな部分が気になるものであり、とくに自分たちが寝床にしている場所には気を配る。だからグガランナも「何だこの街汚いにも程がある」と、バベルたちの政治に介入することを選び、今日まで街づくりに精を出してきた。

 以前、新都の民たちがラフトポートへ移動したのも、この街が住み辛いという理由も多分にあるとグガランナは考えていた。人が減ったらお終いだ、組織はあっという間に瓦解し何も残らなくなってしまう。

 そうあってはならないとグガランナは将校に対して細かく指示を出した。


「──以上になります、よろしくお願いしますね」


「喜んで!」


 嬉々として返事を返した将校がグガランナの自室から退去した。


(あの人大丈夫かしら)


 グガランナはすっと目蓋を閉じて自身のナビウス・ネットにアクセスした、そこには数百回に及ぶシミュレーションの結果が示されており、赤い死神がカウネナナイの海に没しているイメージ映像が出力されていた。


「──これならいけるわ、街の要塞化も進んできたことだし…」


 ガイア・サーバーが落とされてはならない、それは何も自身の(エモート・コア)が保存されているからではなく、彼女自身の目的の為でもあった。


「まだ足りない、まだまだ足りない、私はまだいける」


 彼女は「臭い」と追い払ったバベルとダルシアンの元へ向かった。



 翌日。 

 昨日はスコールに見舞われたせいで湿度が高く、じっとりとした暑さが肌にまとわりついていた。グガランナとバベル、二人は純然なマキナだがびっしょりと汗をかいており、不愉快そうに眉を寄せている。

 ダルシアンは慣れたもので涼しい顔をしている、彼も汗をかいているが現場上がりの軍人なので少しも意に介していなかった。


「グガランナお前…策士って言われたことは?」


「あら、それは私にとっては褒め言葉ね、どうもありがとう」


「皮肉も一級品かよ…」


「口を慎め、そろそろ作戦海域に入る」


 彼女たちは航空母艦のデッキに立っていた。デッキには新都に所属する特個体が待機しており、いつでも発艦できるようリニアカタパルトのレールに乗せられていた。


「ただの構ってちゃんお姫様かと思っていたけど、まさか作戦まで立案して部隊を動かすだなんてな。生まれてくる時代を間違えたんじゃないのか?」


「まさか、時にかなっていますよ」


「口を慎めと言っているんだ、ここからは我々軍人の領分だ」


 三人は待機している特個体の部隊を見上げ、それからこの蒸し暑さから逃げるように船内へ入っていった。

 グガランナは何も民たちの為だけに街づくりをしていたわけではない。この二重三重に計画されていた街興しは『対アーキア、対死神』も想定されていたものだった。


「包囲網からの物量作戦──ね〜」


「私が合流するまであなたたちは資源に乏しかった。けれど、今となってはナノ・ジュエルがある、機体に弾薬に数を揃えられるわ。さすがにパイロットは無理だけど、以前にも増して戦う力は付いたはず」


「言うは易いが行なうには難しい、本当にこんな単純な作戦で死神を落とせるのか?」


 バベルの質問に、ダルシアンがきっぱりと答えた。


「実に有効な作戦だ、バベルよ」


「マジかよ」


「単純な物ほど効力が高い、とくに今回のような多対一の戦闘において物量作戦は最も有効である」


「マジかよ、あんた凄えんだな」


 バベルは素直に賛辞を贈った。

 グガランナが考案した作戦、それは特個体で死神を囲い、後は遠距離による攻撃で相手を撃破する、というものだった。

 実に簡単な話である、相手を囲って味方でタコ殴り、少々卑怯のように思うが戦場は『勝てば官軍負ければ賊軍』なんて言葉が生まれるぐらい勝敗が全てである。とりあえず勝てばいい。

 ダルシアンたち新都の軍もどのみち決着を付けなければならなかった、彼らもそろそろ限界だった。

 武器や弾薬が底をつきかけていた時に、グガランナがナノ・ジュエルを引っさげてやって来たのである、まさに彼らにとっては女神も同然であった。


「けど、これでも勝てなかったらどうすんだ?武器や弾薬があっても士気はもうねえだろ」


「そうね、これでも勝てなかったら──ラフトポートにいる彼女たちへ支援要請を出さなければならないわ」


 グガランナの言葉にバベルとダルシアンが「はあ?!」と声を揃えた。


「向こうには元ヴァルキュリアのエースパイロット、それから元セントエルモ・コクアのメインパイロット、さらにサーフボードを巧みに操りアーキアを狩る戦闘集団。字面だけ見ればとても魅力的な部隊よ」


「冗談じゃない!」と叫んだのはダルシアンである。


「新都を捨てた連中に助けを請えと?!冗談じゃない!我々にもプライドというものがある!それがたとえどれほどちっぽけだったとしてもだ!軍人には守らねばならない矜持がある!」


「なら勝つしかないわね。ダルシアン大佐、あなたの腕前に期待しています「機体だけに?」


 バベルの寒い冗談が通路の端まで流れ、作戦海域に到着したと艦内放送があった。作戦の指揮を務めるダルシアンに招集要請が下った。


「──見ていろグガランナ・ガイア。ここまでお膳立てしてくれたことに感謝する、死神の頭を持って返礼とさせていただこう」


「よろしくお願い致します、ダルシアン大佐」


 結果は新都軍のボロ負けだった。それはもうボっコボコにやられてしまった。





 ジュヴキャッチが作ったラフトポートは今日も大変な賑わいを見せていた。新都からやって来た人たちも加わり、毎日毎日街づくりの為に東奔西走し日を追うごとに家々が建っていく。

 セレンの二子山へ超大型アーキアを討伐に出かけた部隊から、朗報が届けられた時はポートの皆んなが喜んだ。「これで楽ができるぞ!」と、今までとは比べ物にもならない量のハフアモアが手に入るのだ、誰だって楽ができると思っていた。

 思っていただけである。実際はタスクが倍増し、毎日毎日皆んなが悲鳴を上げていた。


「──かあ〜〜〜!何でこう毎日毎日忙しいのよ!あんだけデカい塊があったら少しぐらい怠けたって平気でしょうに!」


 新しくコピーされた特個体の整備を行なっていたマカナがそう叫び、それは連鎖反応となってドックにいた皆んなへ伝わっていった。


「──ああ、駄目もう駄目、マカナが弱音吐くからやる気が失くなった」

「人のせいにすんな」

「ナディ──はまだ牛さんか…」

「あっちもあっちで大変らしいね、昨日の夜ウィゴーが愚痴ってた」


 マカナの隣で整備をしていたアネラが「ああもうやってらんない!」と工具を真上へ飛ばした。

 他に整備していた人たちも「休憩にしようぜ〜」と言い、誰が止めるでもなく弛緩したムードが漂い始めた。

 ──かに思われたが、ドックにヴィスタが現れた。


「まだ休憩時間ではない、手を緩めるな」


 整備をしていた人たちが「こいつガチ?」光線をヴィスタに放つが本人はけろりとしている。


「まだまだ整備が終わっていない機体がごまんとある、それもこれもマカナ率いる部隊が成果を出してくれたお陰だ」


「少しぐらい休憩させてくれたって別に罰は当たらないでしょうに!いいじゃんちょっとぐらい!あと私が悪いみたいに言わないで!」


 他の人たちも「そうだ!そうだ!」とコールする、今日まで毎日働き詰めだったのでリーダーであるヴィスタに抗議の声を上げていた。

 ヴィスタが据わった目をしながら言った。


「──こっちは毎夜毎夜アーキアの撃退に務めているんだ。何なら変わろうか?」


「………」


 ヴィスタが班長を務める狩猟班は、ここ最近になって頻発したアーキア襲来の迎撃任務に就いていた。手練れ揃いの激強部隊である、今日までポートに被害を出していない事がその強さの証である。

 その班長が「変わろうか?」とパワハラを仕掛けてきたのだ、誰も反論できるはずがなかった。


「一日でも早くあのハフアモアを処理しないとこちらの体力が保たない。──まだまだ仕事は沢山ある、励んでくれ」


「…………」


 そう言って見回りに来たヴィスタが去り、ドックにいた皆んなが自分の持ち場へ戻っていった。


 アネラが口にした『牛さん』という言葉は、アヤメたちの母艦の事を差していた。外観が座ってお昼寝をしている牛に似ていることから、ポートにいる皆がそう呼んでいた。も〜。

 ここも毎日多忙を極めており、主にオーディンがタスクを増やし続けていた。


「もういい加減にしてオーディンちゃん!昨日はこれで良いって言ったでしょ!我が儘はよくないよ!」


「仕方ないだろう!やはり対魚雷シートは船の後方ではなく前方に設置すべきだ!」


「グガランナさんも何とか言ってよ!あなたの船でしょ?!」


「言って聞くならもう注意してるわよ。こっちとしては修理さえ完了すればそれでオッケーだから、現地人のあなたたちに口出しできる権利なんてないわ」


「そう言ってオーディンちゃんから逃げてるだけだよね?!」


「そうとも言う」


「お願いだから否定して!」


 グガランナのオリジナル・マテリアルは飛行不能に陥っており修理が必要だった。先の山モドキ戦でお世話になったお礼として、ジュヴキャッチが船の修理を買って出ていた。

 だが、(自称)戦神たるオーディンが「どうせ直すならグレードアップも一緒にしてしまおう!」と言い出した事から多忙な日々が始まり、今日までウィゴーは頭を悩ませ続けていた。

 毎日毎日「これも追加!あっちも追加!」と、無計画な◯イクラみたいにグレードアップの項目を追加し続け、収集がつかなくなりつつあった。ちなみに船はもう直っている。あとは本人が自分の欲望に折り合いをつけるだけだった。

 グガランナの船にはウィゴーとナディ、それから数人の作業者が乗船して仕事をこなしていた。


「オーディンちゃん!この魚雷シートで終わりだからね!いいね!」


「分かった分かった」


「それもう何十回って聞いてるんだけど──あれ?ナディちゃんは?」


「ナディならここにはいないぞ」


「くぅ〜〜〜!アネラちゃんがサボりの師匠と仰ぐだけの事はある…いつもいつも気配を消してさっといなくなるんだから!──ナディちゃ〜ん!どこ行ったの〜!」と、ウィゴーが体格に見合った野太い声を上げながら休憩スペースを出ていった。


「忙しそうにしているわね、彼」


「全くだ「──いやあなたのせいでしょジュヴィ、ちょっとは自重しなさいよ」


 オーディンがグガランナを見上げ、ふふんとその小さな胸を張った。


「そいつは無理だの、こうも改造し甲斐のある船を前にしたら余のビルド魂が黙っちゃおれん」


「ビルド魂ってなによ」


「マ◯クラもやったことないのか?」


「ああ、ゲームの話…」


 そこで一旦会話が途切れた。

 グガランナは飲み物を取りにフードコーナーへ、オーディンも甘いお菓子を取ってベンチスペースに腰を下ろした。

 それぞれが口に一つ含んだあと、オーディンの方から話しかけていた。


「グガランナよ、お主に訊きたい事がある」


「どうぞ──まあ、大体予想はつくんだけど」


「うむ、オリジンについて訊きたい。向こうはどうなんだ?」


「ざっくりな質問ね。そうね…ここと違って海がないわ」


「海がないのか?!」


「そう、元日本の本州中央部にある山脈地域に建造されているから海がないのよ」


「何で山だらけの地域に建てたんだ?」


「さあ、そこまでは私にも分からない。あと、向こうはこっちと違ってマキナに理解があるし、マキナに関する法案も成立している、つまり政治の中にきちんと組み込まれているわ」


「へえ〜〜〜」オーディンがしきりに感心している。


「そこに至るまで紆余曲折はあったし沢山の人命が失われることになってしまったけど」


「だが、マキナが市井(しせい)に加わわれたのは良い事であろう、命のやり取りをした相手を普通仲間に入れたりはせん」


「それもそうね。それもこれも彼女のお陰よ」


「彼女って──ああ、アヤメの事「──そう!アヤメ!私の大好きで全てを捧げた──「ごめんそういうのほんといいから。向こうには何があるんだ?」


 オーディンは興味津々のようである、グガランナの変態っぷりを華麗にスルーして質問責めにしていた。


「そうね…こっちで言えばこの壮大な海がある…向こうで言えば大きな森があるわ、それも街と同化した超巨大な木々がね」


「ほう〜〜〜街と同化した森が…」


「あっちのタイタニスが残してくれたものよ、システムの名前はユングドラシル、高濃度の酸素を放出し続けて高高度でも人々が生活できるようになっているの」


「高高度?どこに住んでおるのだ?」


「対流圏の最高高度、第一テンペスト・シリンダーの人たちは屋上付近で生活を営んでいるの」


「ん?ん?ん?何でそうなる?その話詳しく──」オーディンは想像することすらできない街の様子にさらに興味をそそられ食い付くが、二人の所へウィゴーが怒り肩で戻って来た。


「オーディンちゃん!!また君は余計な仕事ばっかり増やして──」とオーディンの首根っこを捕まえた。


「あ!何をする!今大事な話を──「追加するのは魚雷シートだけだって言ったよね?!何か知らない間に砲台の躯体まで出来上がってるんだけど?!「あっ、それは男の浪漫「君女の子でしょ!!」


 体格だけで言えばオーディンの四、五倍はあるウィゴーに問答無用で連れて行かれてしまった。


(あのオーディンが…いえ、あっちのオーディンと比べるものじゃないけど…)


 グガランナは一瞬だけ呆気に取られ、すぐに気を取り直した。


「さて、そろそろまたあの子が不法侵入する頃合い──」椅子から腰を浮かせた所でコールが入った。


(一体誰から──というかどうやって…)


 グガランナにコンタクトを取ってきたのは、同じグガランナだった。



「………」


 ナディはエリアに誰も居ない事を確認してから、そろりと歩みを進めた。気分はまさしく敵国のど真ん中に侵入しているスパイである。

 目的地は一つの部屋、そしてその中で横たわっているオリジンのマキナである。

 あの日、サーフィンの練習して倒れた時、偶然にもナディはそのマキナを見てしまったのだ。白い髪に白い肌、もうこの世にはいない恋人を彷彿とさせるそのマキナの姿が脳裏に焼き付いて離れず、ナディは人の目を盗んで何度も部屋へ訪れていた。

 部屋の前に到着しゆっくりとドアノブを回す。足音を立てないよう中に入り、ベッドの傍らに立った。そのマキナとは──


「ほんと、そっくり…」


 プエラである。アマンナに「性格は雪山の頂上で吹き荒れる嵐のよう」と言われたプエラ・コンキリオである。

 プエラとアマンナは五年前の大災害時、エモート・コアとマテリアル・コアのリンクが途切れてしまっていた。本人たちは第一テンペスト・シリンダーで元気にしているが、マリーンに残したマテリアル・コアは昏睡状態のまま月日だけが流れていた。

 プエラのマテリアル・コアは今でも稼働を続けており、小さくゆっくりと胸が上下に動いていた。ナディはプエラの頬に手をあて、ほのかな温かみを感じ取る。ついで、自分もベッドの上で横になり、プエラの横顔をじっと眺めた。


(ライラも生きていれば、今頃はこんな風に美人になっていたのかな…)


 まあ言ってしまえば、プエラは出来の良い抱き枕である。ナディは沸々と沸いてくる性欲を自覚し、決して起きない事を良いことにプエラの胸に自分の手を持っていった。

 そうやってナディは時間を見つけては部屋に訪れ、プエラにライラの影を重ねて自分を慰めていた。


(でも、本当に綺麗な人…ライラも負けていなかったけど──もしかしてライラもそうだったりして)


 小高く整った鼻から漏れる息は優しくて、薄く開いた唇は果実そのもの。首筋は思わず赤い痕を付けたくなるほど綺麗だし、衣服の隙間から覗く胸は神秘そのものだった。

 

「──はあ、ライラ…会いたいよ」


 このすぐ隣で眠る人がライラであればどれだけ良かったか、ナディはそう思わずにはいられない、だから最後の一線は超えずに済んでいた。

 五年前の自分は一体どれだけ恵まれていたのか、それを今さらのように後悔しても遅いが、どうしたって考えずにはいられなかった。

 感傷と劣情の狭間で揺らめき、にわかに破壊衝動に駆られた時、バン!と扉が開いて「それ以上は駄目でございます!」とグガランナが入ってきた。


「────」ナディは声にならない叫びを上げ、さっとベッドから下りるが時既に遅し。


「ナディ、あなたの行動はもうとっくの昔にバレているわ──さあ!お縄につきなさい!」


 のっけからクライマックスのグガランナが隠れているナディの腕を掴んで無理やり立たせようとした。ナディは「いやそのちょっと今回だけだから」と支離滅裂な言い訳を放ち、何とか逃げようとする。

 しかし、


「言っておくけどこの事はナツメも知っているの!あなたがプエラの体で粗相を働いていることをね!今からごめんなさいしに行くわよ!」


「いやほんと今回だけだからもう絶対しないから──」恥ずかしい所を見られ、恥ずかしい事を惜しげもなく言うグガランナを前にして恥ずかしい思いをしているナディは顔がもう真っ赤っかだった。

 二人はナツメの元へ向かった。


「別にいいぞ責任取ってくれるんなら、あいつを貰ってやってくれ」


「え〜」

「え〜…ナツメ、いくらプエラの愛が重いからってそんな言い方…」


 プエラの恋人であるナツメは、ナディから「ごめんなさい」を受けてもどこ吹く風、全く気にした様子を見せていなかった。

 ナツメはショートヘアを潮風にさらし、上はブルーの水着に下は作業服という出立をしていた。彼女もまたオーディンの我が儘に付き合わされ、他のジュヴキャッチのメンバーと一緒に働いていた。

 彼女は特殊部隊上がりの軍人である、その筋肉質な体はもはや筋肉そのものであり、あまり女性らしさはなかった。

 けれど、それでもナディは綺麗だと思った。

 ──そんな事よりだ、今は恋人の「貰ってくれ」宣言である。


「お前たちに分かるか?地球の質量より重い愛を毎日向けられる私の気持ちが。寝起きでカツ丼を食ってみろ、胸焼け起こすだろ?それと同じ原理だ」


「言いたい放題」


「ナディ、あいつのどこが良いんだ?言っちゃなんだが中身は雪山の頂上で吹き荒れる嵐のような女だぞ」


「ナツメ、自分の格を下げていることに気付いて。恋人の悪口は言うものではないわ」


 ナディは言うか言うまいか悩み、迷惑をかけてしまった相手だからと、誠実に答えることにした。


「その…あの人が、亡くなった恋人に似ていたので…つい、すみませんでした」

 

「………」

「………」


 ナツメとグガランナが目配せをする。


「遺体は確認したのか?」


「…え、遺体、ですか?」


「ナツメ、ちょっと──」


「必要な確認だよ、軍にいたから当たり前の事だと思っていた。その恋人の遺体は?」


「いえ、見ていません…」


「その恋人の居場所は?」


「壁の向こう、ホワイトウォールの先です」


「それでどうして死んだと分かったんだ?あの壁は越えられないはずだぞ」


 ナディはナツメに疑われる度に、「もしかしたら」という希望を見出していた。確かに、ライラの遺体を見たわけではないし直接確認したわけではない。

 ──だが。


「ディアボロス君に調べてもらったんです、生きているかどうか、それで…」


 ナツメとグガランナも「ああ」という合点を得た目つきになり、二人ともそれだけで納得してしまった。

 ナディは抱き始めた小さな希望をすぐに捨てる羽目になってしまった。

 ナツメが肩を竦ませ、冗談めかしてこう言った。


「──あいつで慰めになるんならいつでも使っていいぞ、私に遠慮するな」


 潮風に吹かれ、悲しいのか慈しみなのか、そのどちらとも言える不思議な笑みを湛えていた。





グガランナ:さっきの用件についてなんだけど


グガランナ:ごめんちょっと今無理


グガランナ:はい?


グガランナ:何が無理なんですか?


グガランナ:今立て込んでて、すぐに返事ができないわ


グガランナ:ガイア・サーバーが攻撃されているのですよ?


グガランナ:それはそっちの問題でしょ?


グガランナ:サーバーが破壊されたらあなたたちの帰還も難しくなるのですよ?


グガランナ:ちょっと待って


グガランナ:同じ名前でメッセのやり取りはヤバい


グガランナ:視覚がバグりますね


グガランナ:視覚がバグります


グガランナ:では、いつ頃返事をすればいいのでしょうか?


グガランナ:今すぐだって言ってるわよね?


グガランナ:こっちはヤバよりのヤバなの、つまりヤバいの


グガランナ:語彙力w


グガランナ:喧嘩売ってる?


グガランナ:さーせん


グガランナ:ひとまず声をかけてみますけど、駄目だったらあとはそっちでお願いしますね


グガランナ:あざす


グガランナ:( ´Д`)y━・~~


グガランナ:はあ?


グガランナ:m(_ _) y━・~~


グガランナ:w


グガランナ:どんだけ煙草吸いたいのw


グガランナ:w


グガランナ:ごめん、どれが自分のメッセが分かんなくなってきた


グガランナ:私もです


[グガランナからガイアにニックネームを変更しました]


ガイア:変えました


グガランナ:今頃


グガランナ:で?そっちの状況は?


ガイア:非常にまずいです、兵士たちの士気が下がり続けています


ガイア:単機で部隊を半壊するほどの凄腕


ガイア:彼らは赤い死神と呼んでいます


グガランナ:どうして私に連絡を取ったの?


ガイア:私の話は聞いていませんか?


グガランナ:民間人を射殺した話よね?


ガイア:そうです


グガランナ:だから余所者に頼った?


ガイア:そうです


グガランナ:できるだけの事はやる、けれどあまり期待しないで


ガイア:糾弾しないのですね


グガランナ:されたいの?


グガランナ:何となくあなたの気持ちは分かるわ


グガランナ:私もアヤメの為なら他人の命を奪えると思う


グガランナ:いいえ、奪うわ


ガイア:あなたはまだ何も奪っていません


ガイア:私には叶えたい夢があるのです


グガランナ:そう、頑張って


 やり取りを終えたグガランナ(オリジンの方)がふっと目蓋を開けた。

 明るかった空も今は赤く染まり、一日の終わりを示していた。

 

「………」


 船に波が打ち付ける激しい音、ごうごうと鳴る風切り音、それらに混じって少し遠くから「この大喰らい女!」「束縛激し過ぎ!」と、アヤメとアマンナの喧嘩する声も耳に入っていた。


(ああ──私の大好きな人が私以外の人間と口喧嘩をしている…こんなヒーリングミュージックは他にはないわ…)


 相変わらずヤバいグガランナがうっとりとした顔で海を眺め、おもちゃのような一番星が頭上で瞬いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ