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テンペスト・シリンダー  作者: tokusin
第二.五章
267/335

TRACK 16

ジ・オポジット



 合流したマキナたちのお陰で船のグレードアップも終わり、簡単な作戦会議も終えた(本当に簡単な)、後は明日の本番を迎えるだけ。

 けれど、ナディはまだ何かが足りないような気がしてなかなか寝付くことができなかった。その何かは分からない、だから考え事ばかりしていた。


(………)


 広いベッドの上では、ナディとマカナ、サボりまくって楽をしているはずなのに良く眠るアネラが川の字になって並んでいる。蒸し暑いせいもあるのかもしれない、夕方頃に降った雨が湿度を高め、寝苦しい夜にしていた。

 ナディの隣で眠っているマカナも暑そうにしている、汗をかいて「ううん」と呻いていた。

 そう、マカナの事だ、ナディは友人の事で悩んでいた。

 ナディは薄暗い天井から視線を変え、前髪がべったりと張り付いているマカナの顔を見やった。


(何かあったのかな…マカナがあんな事言うだなんて珍しい…)


 ナディの知るマカナはいつも前向きで、そして何かの目的を持って動くのが常だった。そんな友人が自分の目の前で取り乱したことが信じられず、このまま明日の本番を迎えても大丈夫だろうか、と心配になっていた。

 友人を何とかしたい、手助けをしたい、けれどその方法が分からない、だから悩んでいた。

 ナディは二人を起こさないよう体を起こし、ベッドから下りてそっと家から抜け出した。


「ふぅ…外は涼しい」


 所狭しと並ぶ家屋が悪いらしい、涼しく吹く風をシャットアウトしていたようだ。

 すっかり覚えた道を歩いて広場を目指す、ほとんどの家が窓を全開にして涼しさを求めているようだ。そんなに暑いのなら外に出ればいいのにと、ナディは一人でほくそ笑んだ。

 広場に出た時、トランペットの音が届いてきた。ノラリスの機体に装備されていた小型通信機の複製品だ、携帯端末としての役目と楽器としての機能を併せ持つトランペットはポートの人たちに受け入れられ、また愛用されていた。

 トランペットの音色を追いかけるようにナディは歩みを進め、ウィゴーとマカナが「イベント発生ポイント」と呼ぶ迎撃用ポートまでやって来た。

 トランペットを吹いていたのは、驚いたことにレセタだった。

 

「こんばんは」


 ナディは驚かせてやろうと思いながらそう声をかけ、レセタはその逞しい肩をびくりと震わせた。


「──ああもうびっくりした。なに?あんた、今日は当直じゃなかったわよね」


「いえ、ちょっと寝付けなくて、辺りをぶらぶらしていたらトランペットの音が聞こえてきたので」


「下手くそで悪かったわね。こっちにはこういう物が一つもなかったから」


「下手くそってことは…さっきの曲はもしかして自作ですか?」


「そうよ、吹きたいように吹いてただけ」


 そう言ったレセタはもう一度トランペットを構え、凪いだ海の上を音色が駆け抜けるように吹き始めた。

 始めは軽やかに、まるで草原を走り回るように気持ち良いメロディーが、途中からテンポを変えてゆっくりとたどたどしく、けれど確かに音を響かせ、最後は誰かを偲ぶように物悲しく音色を奏でた。

 レセタが吹き終えると、ナディは控え目な拍手を送った。


「やめてよ気持ち悪い、私に媚びを売ってもしょうがないわよ」


「お上手ですね。何の曲ですか?」


「自分の思い出よ。思い出を音色に変えたの、子供の頃は毎日が楽しくて、大人になってからは毎日一歩ずつ懸命に歩いて、そして最後は全部海に流されてしまった」


「………」


「音って良いわね、気に入ったわ。言葉にできない自分の思いを表現することができるから」


 初めて会った時は皆の前で喧嘩をしていた二人も今となっては、まあそれなりに人間関係を構築している。だから、世間話程度なら難なくこなせた。

 ナディはレセタに訊ねていた。


「あの、人助けってどうすればいいんですかね」


「何よ急に」


「マカナが何かに悩んでいるみたいで…でも、どうすれば良いのか分からなくて」


「当然よ、人を助けることが一番難しいもの、だから皆んな悩んでいるの」


「………」


「だからあんたも悩みな、その苦労があんたを強くする。今は助けられないかもしれないけど、いつかレベルアップしたあんたなら助けられるかもしれない」


「そうですね、そうします。お邪魔しました」


「私がここで吹いていたこと誰にも言うんじゃないよ」


「さあ、それはどうでしょう」


 ナディはにいっとニヒルな笑みを浮かべ、レセタの前から去っていった。



✳︎



 夜空に浮かぶ月のお陰で昼の間に溜まった蒸し暑さが駆逐され、涼しい気温になっていた。

 目の前に立つ女は月から寄越された使者のようだと、ヴォルターは思った。まだ子供だった頃の面影は残っているが、雰囲気は完全に消失し、五年前とは別人のように変化していた。

 デッキから無人のブリッジへ場所を移し、二人は対面していた。ヴォルターの拘束は解かれ、戦況机を挟んで向かい合っている。


「お前さんの目的は俺じゃなくてガングニールだろう?」


「その通りです、あなた自身に興味はありません。特個体のアクセス権に用がありました」


「何にハッキングしようって?──というかだな、最初からそうやって頼むってことはできなかったのか?こっちは数年間に渡って怯えながらの逃走生活だったんだぞ?」


 ヴォルターは溜まっていた鬱憤をライラへぶつけた。


「陸師府の手に落ちるのを防ぐためでした。罪人扱いの人間をわざわざ探して迎え入れたりはしないでしょう?」


「──指名手配は特個体を隠すための措置だった、ってことか。ああ、ああ、お前さんの言う通り奴らからの接触はなかったよ」


 鬱憤をぶつけはしたがそれなりの理由があったのでそれ以上文句を言うことができず、ヴォルターは不完全燃焼になった代わりに煙草に火を付けていた。

 副流煙が目の前を通り過ぎても、ライラは一つも嫌な顔をしなかった。


「ガイア・サーバー、この単語を耳にしたことはありますか?」


「あるさ、グガランナ・ガイアからその話を聞かされた。で?ハッキングしてどうしようって?」


「手伝ってほしいんです、空飛ぶ船の建造を。まだ足りない、空を飛ぶための道具は用意できても肝心の飛ばす方法が分からない」


「その目的は?」


「ホワイトウォールを越えることです。ウルフラグとカウネナナイを分断している壁を乗り越える」


「なんのために?」


「………」


 ほんの少しだけ、それは例えば葉の先に溜まった水滴が落ち、その弾みで葉が揺れるように、ほんの一瞬だけライラの瞳が揺れ動いた。

 その隙をヴォルターは見逃さず、相手が答えるより先に言葉を重ねた。


「ナディ・ウォーカーのためか?」


「…はい」


「死んでいるのかもしれないのに?」


 ──ライラは常々、この話題を避け続けてきた。

 レイヴンを立ち上げた当初はたったの四人だけ、ライラ、ジュディス、クラン、フレア。最初は皆んな、目の前の事に必死だった、だからナディの話になっても深い所までお互いに言及することはなかった。

 でも、皆が一様に不安と疑問を抱え、ライラはその事に耐えられず、逃げるようにして総団長としての役割をこなすようになっていた。

 その不安は──ナディ・ウォーカーは生きているのかどうか、という事だった。

 ライラは大災害を経て、初めて他人にその疑問を突き付けられていた。

 用意している答えならある。


「生存確認を取るためにも、やはり壁を越える必要があります」


「死体の確認のためだけに前代未聞の船を作ろうってか、そのリソースがあるなら街の為に使ったらどうなんだ」


 ものの見事に斬り返され、ライラは二の句を告げられなくなってしまった。

 ライラの脳裏に、今日まで封印し続けた考えが過ぎった、それはどうしようもないことだった。


(ナディの死体だなんて………っ!!)


 考えなかったわけではない、考えないように己を殺し続てきたはずだ、でも無理だった。


(そんなはずないそんなはずない!ラハムも付いている!あのピンク頭がナディをそう易々と死なせるはずがない!大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫…)


 ライラは取り繕う素振りも見せず、自分の胸を落ち着かせるため、ヴォルターの前で大きく深呼吸をしていた。


「よほど大事らしいな、あの負けん気が強いガキのことが」


「──ピメリアさんにもお願いされましたから、あの子を頼むって」


「奴はどこにいる?まさかくたばったのか?」


「はい、私を庇って海へ還りました、もうこの世にはいません」


「そうか──ライラ・サーストン、いや…総団長、俺と取り引きをしよう」


「ジュディスに裏切られたのにまた取引きですか?」


「ああ、お前さんはきっと裏切らない。壁を越えずとも生存確認を取る方法がある」

 

 感情を殺し続けていたライラが、即座に食い付いた。


「──それは何ですか?!今すぐに分かることなんですか?!」


「テンペスト・シリンダーを管理するマキナの中にディアボロスという奴がいる、そいつはテンペスト・シリンダー内の全ての生き物を管理する事が可能らしい」


「……それは相手が人間であったとしても?」


「そうだ、そいつが管理するデータベースにハッキングして、ナディ・ウォーカーが生きているかどうか調べることができる」


「あなたの望みは何ですか?指名手配を取り消せばいいんですか?」


 ライラが机に手を置き、ヴォルターに詰め寄った。その弾みで肩にかけていた上着が床に落ち、細過ぎる首と腕が露わになった。


「いいや、一度でいいからレイヴンの指揮権をこっちに渡せ」


「何が狙いなんですか…?」


「そんな事はどうでもいいだろう。この話に乗るんならナディ・ウォーカーについて調べてやる。で、どうなんだ?乗るのか?断るのか?」


 ライラの答えは決まっていた。


「取引きに応じます、彼女が生きているかどうか、調べてください」


「──いいだろう、調べが終わったらまたここへ来る。俺の監視がしたければその窓から見ていろ」



 彼女は激しく後悔していた。最愛の人の生存確認など頼むんじゃなかった、と。


(ああ…早く、早く終わって、早く教えて…)


 誰もいないブリッジでライラは蹲っていた。『もし』という悪い考えに支配され、ライラは恐怖に苛まれていた。

 もし、ナディが生きていなかったら、ライラの今日までの努力が水の泡になるどころか、これからの生きていく理由すら失ってしまう。


(大丈夫大丈夫、ナディは生きてる、ナディは生きてる…)


 昔は人で賑わったであろう薄暗いブリッジを照らしているのは、夜空に浮かぶ月の明かりだけ。膝を抱えて座るライラの右手と右足に、()()()が落ちていた。

 何度でも自分に言い聞かせる、大丈夫だと。言い聞かせれば言い聞かせるほど、ライラはどんどん不安になり、呼吸をするのさえ辛くなっていった。

 空気が重くのしかかり、胃が締め上げられる、何も食べていないはずなのに吐き気が込み上げ、パニックに陥りかけた。


(大丈夫大丈夫…ああ、ナディ…)


 この恐怖から逃れるために、いっそ身投げでもしようかとさえ考えた、だが、今日まで培った鉄の理性がそれを許さずライラはひたすら苦しんだ。

 そうか、これは見捨てた人たちの呪いなんだと、ライラは思った。総団長として非情の決断を下したのは一度や二度ではない、苦しむのは当たり前のことなんだと、ライラはさらに自分を追い込んでいった。そうでもしないと正気を保てそうになかったからだ。

 正気と狂気の間を行ったり来たりして、東の空が明るみ始めた時、どこからともなく煙草の臭いが漂ってきた。

 案の定、煙草を吸っていたのはヴォルターだった、彼が再びブリッジに現れた。

 

「悪い、調べるのに手間取った」


「…どうでしたか?」


 そう、掠れた声で訊ねるのが精一杯だった。それだけ、この夜は彼女の精神をすり減らしていた。


「安心しろ、あいつは生きている、生存確認が取れた」


「……………」


 その言葉を聞いた途端、胸の中心から指の先まで安堵感に包まれ、ライラは床に倒れてしまった。


「おい、大丈夫か?」


(良かった…ああ良かった!ナディは生きている!またナディと会える!)


 何年も清掃されていない床におでこを付けた状態で、深呼吸をしてしまったものだから埃とカビの酷い臭いを目一杯吸い込んでしまった。


「…だ、大丈夫です、すみません…」


「再会した時は無慈悲な女王かと思ったが、そうでもないんだな。──ちょっといいか、一つ気になることがあるんだが…」とヴォルターが煙草の灰を落とし、沈黙しているモニターの前に立った。


「何ですか?」


「ガングニール」


「あいあいー」


「っ!」


 ライラはその懐かしい声に反応し、素早く体を起こした。沈黙していたモニターの電源が点いており、そこには垂れ目の女の子が五年前と変わらず表示されていた。


「ガングニール…」


「いよっ!久しぶりだなライラ!オレのこと覚えてるか?」


「当たり前よ。あなたが調べてくれたんでしょ?本当にありがとう」


「それは別にいいんだがな…ディアボロスのデータベースにアクセスした時、ライラのステータスが変だったんだよ」


「私のステータスが…変?」


 ヴォルターが顎をしゃくってモニターを見るように促した。


「これがそのデータベースなんだが、お前が死亡扱いになっているんだ」


 ライラはモニターを確認した、そこには船舶リストの比ではないほどずらりと人物の名前が並び、年齢、性別、と続き、『生存』という項目があった。

 

「生きていればLiveと表示される、けどお前の項目はDeadだ。これはどういう事なんだ?」


「いや私に訊かれても…それよりナディの欄は?」


「俺たちが信じられないってか?」


「この目で見たいんです!」


「別にいいだろオッサン。そういう所だぞ」


「何がだ」と口喧嘩を始めた二人を他所に、人物リストが高速でスクロールを開始し、ある所でぴたりと止まった。


(あった!)


 彼女の最愛の人、本命はナディ・ゼー・カルティアン、年齢は二三、性別は女性──そして、『Live』と表示されていた。

 ライラはまるで愛おしい人のように、彼女の欄を優しく撫で、それから気持ちを切り替えて再び総団長の顔付きに戻っていた。


「──ご協力感謝します、クーラントさん。一先ずあなたたちの指名手配は解除します」


 急に人が変わったライラを前にして、ガングニールが「なにその喋り方〜」と茶化すが、総団長はまるで相手にしなかった。


「ガングニール、自分の有用性をよく理解して悪用されないように注意して。陸師府の人間も特個体のハッキング能力を良く知っています」


「ハ、ハイ…気をつけます…」


「私が死亡扱いになっていることは何かの間違いでしょう。私はこうして生きています、五年前ピメリアさんに助けてもらったこの命は確かに私のものです」


「まあ…そうだろうよ。とりあえず、自分の寝床に帰ってもいいか?オールするのは慣れているがさすがに休みたい」


「歳取ったな〜」


「うるせえよ」


「またあなたに依頼したことがあればこちらから連絡します。──それでは」


 総団長はそう言って、あとは振り返ることもなくブリッジから出て行った。

 

「なあんだ今の、ライラどうしちゃったんだ?」


 モニターに表示されているガングニールは腕を組んで大きく首を傾げていた。


「似合わねえことして、昔のアイツはあんなんじゃなかったぞ」

 

「それだけ大災害は人を変えたって事だよ」


「オッサンは何も変わってねえじゃんか」


「…………」


 思いの外、ヴォルターはガングニールのその言葉に深いダメージを受けてしまった。

 無言でモニターを殴り付け、ヴォルターたちも朝焼けに包まれ始めたブリッジを後にした。



✳︎



(寝そびれてしまった…今頃くそねみい〜)


 体の芯がどこか重たく、いつもの元気もなかなか出てこない。それでもナディはベッドから起き上がり、新型三胴船が停泊している桟橋へ向かっていた。

 うつらうつらと、現実と夢の境を行ったり来たりとしている間に、マカナとアネラの二人は先に家を出ていた。

 

(暑いのなんの…太陽が殺しにきてるな…)


 まだ朝の時間帯だというのに、天に昇った太陽の日差しが熱い。熱したフライパンに手をかざしているような、チリチリとした痛みが全身にあり、吹く風もドライヤーのごとく、何もしていなくても汗が出てきてしまう。

 メインポートから桟橋方面への道に差しかかった時、前方からピンク色の塊がナディの方へ走ってきた。


「ナディさ〜ん!おはようございま〜す!」


 ラハムだ、今となっては同じ身長になった甘え坊のマキナがだだだ!とやって来た。

 ラハムは勢いも殺さずナディにばっ!と抱きついていた。


「──暑い暑い!離れて!」

「ラハムの愛がですか?」

「いやもう全体的に!」


 ナディは自分の背中に腕を回され、その豊満な胸を押し付けられてじたばたともがくが、すぐに異変に気付いた。


「──あれ、ラハムの体が冷んやりしてる…しかも汗もかいてないし…なんで?」


「ラハムがマキナだからです!この高温下でも十全に動けるよう、マテリアルの排熱効率を高めているのです!」


「何それちょー便利」


「ですが、その代わり頭がヤバいです」


「ラハムは元から頭はヤバい」


「そういう意味じゃありません!──触ってください」


「──あっつ!頭だけ異様に熱い…」


「ふふっ…こうすれば合法的に頭を撫でてもらえる…ラハムの作戦勝ちです!」


「ほんと変わらないね〜ラハムは。いやというか合法的ってなに」


 マテリアルの身体機能を一時的に高めたラハムの頭(というより、中央処理装置)が、フル稼働しているため普段より温度が高くなっていた。

 二人は道の途中で合流し、桟橋へと向かって行った。



 ノラリスが彼らに提供した小型通信機兼金管楽器は、なにも連絡手段だけに貢献したわけではなかった。


「仰々しいわ」


「皆さんがお出迎えすると言って聞かなかったんですよ〜」


 新型三胴船が停泊している桟橋には、トランペットを手にした人たちがずらりと並んでいた。皆、三胴船に向かって軽やかな音色を奏でていた。

 眩し過ぎる日差しを浴びて、急造された三胴船が光り輝いている。乗船するのはウィゴー率いる三人のパイロットと合流したマキナ三名、これから双子山に出て超大型のアーキアを狩りに行く。

 もし、無事に仕留めることができたら一攫千金──とまではいかなくとも、ナディたちに文句を言ってきたミガイたちを納得させられるはずだ。

 心が弾むようなメロディーに新しい船、それから信頼できる友人に頼りになるマキナたち、寝不足のナディも段々とテンションが上がってきた。


「──よし!行こう!セレンへ!」


「行きましょう!ナディさんの故郷へ!」


 彼女たち二人が桟橋を横切るとトランペットの音色が一層大きくなり、いよいよ壮大さを増していった。そんな彼らの指揮を取っていたのは、驚いたことにレセタだった。

 

「何やってんすかレセタさん」


「何って、あんたたちの見送りさ!──双子山の化け物を退治してミガイたちをぎゃふんと言わせな!」


「いやこれもう仰々し過ぎるんですけど、逆に緊張しますって」


「気にすることないさ、ここまでやってもし負けて帰ってきたらその時は皆で笑い飛ばしてやるさ!」


 レセタが普段はあまり見せない無邪気な笑顔で笑い声を上げた。

 その笑い声とトランペットの音色に見送られ、ナディたちが渡り板を渡って三胴船へ入って行った。


 オーディンの配下、クラーケンに使用されている超高度流体板がふんだんに使われた三胴船のブリッジに、主要のメンバーが揃っていた。

 険しい顔をしているウィゴー、心から面倒臭そうにしているアネラ、顔が生き生きとしているナディ、そしてちょっと暗い顔しているマカナ、他三名のマキナ。

 今日まで三胴船の建設に忙しかったせいもあり、きちんとしたブリーフィングを行なってこなかった。出発の朝に初めて作戦会議を開くという、並の指揮官なら「こいつら大丈夫か?」と言わんばかりの泥縄討伐隊の朝が始まった。

 開口はウィゴーから。


「──じゃ、改めてだけど、今回の猟はセレンの双子山にいると言われている大型アーキアの討伐、これでいいね?」


「うぃ〜」

「はい!」

「………」


「全然声が揃っていないんだけど──まあいい。じゃ、次にその大型アーキアについてだけど、遭遇した人から動画を貰ってきた、それを今から視聴しようと思う。──ああオーディンちゃん?コンソールの使い方を教えてくれる?」


 頼まれたオーディンが「仕方ないのう!」と嬉しそうに応えていた。


「全く!こんな簡単なデバイスの使い方も知らんとわ!」


 オーディンがウィゴーからメモリディスクを受け取り、少しかちゃかちゃしてからモニターに映像が映し出された。

 映像の視点はパイロットが搭乗している機体の頭部カメラ、海に没した二つの山が見えており、距離は視程限界、つまり二〇キロ程度だ。


「あれ、双子山だよね?」


「完全に海に浸かってるね。見えてる部分の高さは…数百メートルぐらい?」


「つまりそれだけ海の高さが下がったってことだよね」


 そう会話をするナディとマカナに、ディアボロスが加わった。


「それだけポセイドンの功績は大きいという事だ。僕たちは返し切れない恩を彼らに作ってしまった」


「そうだね…あの時、ポセイドンさんの背中が凄く格好良く見えたよ」


「──む!余という立派な将軍がおるのに余所者に心動かされるとは!情けないぞナディ!」


 嫉妬したオーディンがナディの背中を叩いたり、話が脱線したりと賑やかに作戦会議が進んでいった。

 ブリッジから逃げ出そうとしていたアネラの腕を掴んだまま、ウィゴーが話を続けた。


「離してー!!「──今映っているのが僕たちの故郷のセレン、そして双子山だ。パイロットが言うには、この二つの山の間で化け物を目撃したらしい」


「その大きさは?」


 ディアボロスの質問にウィゴーが眉を曇らせた。


「…分からない、今から確認する」


 ディアボロスが「なにい?」と盛大に眉をしかめた。


「どんな相手なのかも分からないのに、それを今から討伐しようって?君たちはあれなのか、馬鹿なのか?」


「マカナの見切り発車です「人のせいにしないで!──いや私が言い出しっぺだけどさ!」


「それはさすがに無謀が過ぎる、僕はてっきり調べがついているものだと…オーディン「──よいではないか!強大な敵を撃ち落とす!しかも初見で!これに燃えない将はおらぬ!」わっーはっはっ!とオーディンが高らかに笑い、ディアボロスは諦めたように溜め息を吐いていた。

 場の空気に流されないよう─アネラを逃さないよう─一人で奮闘しているウィゴーが動画のシークバーを操作し、「あ!」と声を上げた。


「これじゃない?」


「どれどれ?」


 ウィゴーの大きな指がある一点を指差している、それは山の根元に映っている一つの点だった。

 ナディたち三人、それからマキナの三人もモニターを見やり、全員が口を閉じた。


「………」

「これマジ?」

「え、この山が百メートル単位だとして…映ってるアーキアの大きさは…」

「──推定五〇メートルだ、それも海面から露出している部分だけで。オーディン、本当にやるのか?デカいってもんじゃないぞ、山を相手にするようなものだ」

「……う、うむ…しかし、気焰を吐いた以上は…──まあ何とかなるだろ!」

「………」


 オーディンは生粋の戦闘狂である、そのオーディンですら尻込みするところを見たマキナの二人は身震いしてしまった。


「な、ナディさん?本当にやるんですか?」


「──マカナ?どうするの?」


 ナディは言い出しっぺであるマカナの意見を求めた──だけなのに、そのマカナが何を勘違いしてか、急に怒り始めた。


「なんで私に聞くの?自分で決められないの?」


「いや、そういうつもりじゃなくて──」


「だったらなに?私言ったよね、もうリーダーはしたくないって。それともなに?また私に面倒見てほしいの?」


「そんな言い方──」これにはさすがにナディもカチンときてしまい、つい声を荒げた。


「そんな言い方しなくてもいいじゃん!なんなのこの間から、機嫌が悪いかと思えば一人ぼっちで作業の手伝いしてたり!言いたい事があるんなら言いなよ!」

「ちょ、ちょっと二人とも…」

「言った、今言いました〜!こんなノロマそうな奴と戦うかどうかは自分で決めろって言ってんの!なんでもかんでも私に指示を求めてこないで!」

「はあ〜?!聞いてた皆んなの話?!デカ過ぎて危ないって言ってんの!これとやり合おうって言い出したのマカナだよ?!」

「だったら私が一人で相手すればいいんでしょ?!──早く船出して!」

「ど、どうどう、落ち着いて、ね?」

「良いではないか良いではないか!やはり戦場はこうでなくては!喧嘩の一つや二つは当たり前だわ!あっはっはっは!」


 仲の良い二人が喧嘩するわ、それを囃し立てるマキナがいるわ、ブリッジが混沌に支配される中、船がゆっくり漕ぎ出した。



 ラフトポートを出発し、約四〇ノットという、船の中では最速に近い速度で移動を続ける彼女たちの前に、一羽の鳥が現れた。その鳥を先に見つけたのはアネラだった。


「あれ、もしかして…鳥?」


「……鳥?だったらなに?」


 マカナと喧嘩して絶賛機嫌が悪くなっていたナディとアネラは甲板に出ており、びゅんびゅんと吹く風が彼女たちの頬を叩いていた。

 アネラは北東の方角、ラフトポートがある位置の空を指差しており、ナディも釣られて空を見上げた。


「…鳥だね、鳥が飛んでるね」


「もう〜機嫌直しなって〜マカナはただ虫のいどころが悪かっただけなんだから〜」


「ふん…あんな言い方しなくても…──あの鳥、なんか変じゃない?」


「ナディもそう思う?私もそう思うんだよね」


 ナディたちからの位置では詳しく見ることはできない、だが、その鳥は一寸の狂いもなく船を追従するように飛び、その完璧な動作がおよそ生き物らしく見えなかった。


「あれもしかしてドローンだったりして」


「え、ドローンって……」


「アネラも見たことあるんでしょ、五年前に」


「──ああ、そういえばそんな事もあったね。鳥型のドローンってこと?」


「そうじゃない?だってあの鳥、ポートにしろ他の場所からにしろ、ここまでずっと飛び続けてるんでしょ、そんなのありえないでしょ」


「どうする?ウィゴーさんに報告する?」


「ちょっと待って、何か投げる物は…」


 ちょっど甲板の隅に工具箱が置かれており、その中に沢山のボルトが入っていた。新型三胴船を作るにあたり、作業していた人が忘れていったものだろう、ナディはボルトを鷲掴みにしてその一つを投げ始めた。


「まさか当てる気?」


「もしアネラが当てたら、私が一週間アネラの代わりに家事をしてあげるよ」


 アネラは無言でボルトを鷲掴みにして、ナディと同じように鳥へ向かって投げ始めた。

 二人が鳥を狙い始めて少し過ぎた後、空からボルトが落ちてくる所を見かけたオーディンが、何事かと怒りながらやって来た。


「何やっとるんじゃ貴様ら!大事な船を傷つけおって!ボルトを投げるでない!」


「いやいや、オーディンちゃん、あれ見て、私たち尾けられてる」


「──んん?なんじゃあ?──ほう…この余を尾行するとはなんと命知らずなことか…貸せ!」


 今度はオーディンも加わり三人が揃ってボルトを投げ始め、次は緻密な作戦を練っていたウィゴーとディアボロスがやって来た。


「ちょっと、さっきからカンカンカンカンうるさいんだけど──いやほんとなにやってんの?なんで空に向かってボルト投げてるの?」


「あれ見んか!この船が尾行されておる!」


「オーディン…僕と彼は馬鹿な君たちに代わって絶対亡き者にするぞ大作戦を考えて「ほんとお前のネーミングセンスはいつも酷い」──考えているんだぞ?なにを一緒になって遊んでいるんだ」


 ナディとアネラが投げるボルトは、海の上を走る風に流され歪な放物線を描いているだけ、なかなか鳥に当たらない。


「遊んどらんわ!──貴様らもやってみろ、あの鳥を落とせたら皆無事に帰れるかもしれんぞ」


 討伐よりも皆んなの無事を心配していたウィゴーも無言で加わり、四人が一斉に空へ向かってボルトを投げ始めた。


「馬鹿ばかしい…僕は戻るぞ」


「なんじゃ、立派な参謀なら皆の心配を削ぐことも重要な仕事じゃろうて。果たして貴様は立派な参謀と言えるのかな?」


「その手には乗らない。お前たちが斥候を相手にしているのなら、早急に作戦を考えるのも参謀の務めだ」


「はいはい」


「………」


 オーディンの冷たい態度に心が揺らいだディアボロスも結局加わり、五人が空へ向かってボルトを投げ続けた。

 手持ちが心許なくなってきた時、ブリッジの窓がばん!と大きく開かれ、拳銃を持った腕がにょきっと生えてきた、ついでラハムの「鳥さん撃ったら駄目ですよ!」とマカナの「いい加減うるさいのよ!」の声と共にトリガーが引かれ、左翼を撃ち抜かれた鳥がふらふらと後部甲板へ向かって落ちていった。


「実力行使にも程がある!──海に落ちたら回収できない!」

「私の一週間!」

「いやそれもう無いから!落としたのマカナだから!」


 ナディとアネラがだだだと駆けて行き、オーディンとディアボロスがブリッジを見上げた。


「なぜラハムが彼女と共にいる、逆効果じゃないのか?あの能天気さは今のマカナには毒だろう」


「知らん、自分が付き添いたいと言ってきたんじゃ。──それよりも…今の射撃を見たか?」


「ああ、彼女の腕は良い、この速度と風と、目まぐるしく変わる照準補正をたった一度でやってみせた」


「胴体を撃つならまだしも…羽を撃つなんて聞いたことない。しかも生身で」


「然しもの軍神も真似できない、と?」


「馬鹿抜かせ、余なら一羽丸々焼いてみせるわ!その場で即焼き鳥だわ!」


「──船に戻る「あ、ちょっと待ってただの冗談だから」


 白けたディアボロスの跡をオーディンが追いかけて船内へ戻っていった。

 一方、甲板で無事に鳥を捕獲したナディたちも驚きの表情を作っていた。


「やっぱりドローンだったね」


「うん、それはいいんだけど…」


「どうかしたの?」


 ナディとウィゴーは破損した翼を見ており、二人ともう〜んと唸っていた。


「ナディちゃんも分かるの?」


「なんとなく、一時期機械工学を勉強していたので…これどうやって動いているんですかね、私てっきり翼の中にローターかファンが付いていると思ってたんですけど…」


「いやそれだけじゃないよ、このドローン、どこにも基盤が無い」


「──あ、ほんとだ。それにこの繊維…?みたいなやつはなんなんですかね…これを軍が作ったんですか?」


「いや〜…カウネナナイは確かに技術力は高いけど…それにも属さない体系のような…こんなの見たことないよ」


 電気の流れをプログラム通りに切り替える基盤、物体を空へ持ち上げるファン、それらの類いが見当たらないのに、確かに空を飛んでいた鳥型ドローンの残骸も乗せ、彼女たちはさらにセレン方面へ向かって航行を続けた。



(ほんと、ちょっと前まではあんなに嫌そうにしてたのに)


 三胴船のブリッジ内、アルミニウム特有の光沢を放つその中には、絶賛不機嫌中のマカナとおろおろしているラハムがいた。


「あ、あの〜…マカナさん?」


「なに?」


「い、いえ〜ラハムはあなたとお話したいな〜と思っているのですが…」


「なぜ?」


 マカナはこのピンク頭の異邦人が邪魔で仕方がなかった。ナディと口喧嘩をした後から付き纏われ、なかなか一人になれなかった。

 どれだけにべもない言葉をぶつけても、このピンク頭は怯むだけで去ろうとはしなかった。


「いえ、ナディさんからあなたのお話は良く聞いていましたので…」


「どんな事言ってたの?性格悪いとか人付き合い悪いとか冷たい人間とか言ってたんでしょ」


「い、いいえ〜そんなことは…一本気ですぐやんちゃする面白い友達だと…」


「………」


「それで、故郷を奪われて軍人になったと聞きました。自分には無い力を持っている人だと、ナディさんはそんなあなたの事を羨んでいましたよ」


「………」


「どうして朝から機嫌が悪いのですか?付き合いが浅いラハムにでも分かります、であればお二人はなおさら、マカナさんの事を気に病んでいられるはずです」


「…別に、あなたには関係無いことだよ。もっと言えば、ナディやアネラにも関係が無いこと」


「なら、どうして喧嘩したのですか?」


 マカナはラハムから視線を逸らし、六角形の窓の向こうを見やった。

 正午を回った太陽が海を照りつけ、真っ白に輝かせている。世界そのものが白熱しているよう、マカナはその景色を見ただけで汗をかく思いをした。


「…自分に自信が持てないの。私のせいで亡くなった人たちがいると思うと、笑ってていいのかなって、幸せになっていいのかなって、そう思っちゃうの。それで、楽しそうにしている二人を見ていたら段々腹が立ってきて…ほんと私って嫌な人間」


「あなたがその人たちに、命を落とせと命令したのですか?」


「ううん、けれど似たようなもの。あの時、引き返すタイミングはあった、でも、自分の仇を取ることに頭を取られていた。私の故郷を奪った相手が目の前にいたんだもん、私はそいつを討つ為にパイロットになっただもん、無視なんてできなかった。スザクもリンもオハナもフランも私の為に戦ってくれた、けど、もう誰も傍にいない」


「…………」


 ラハムは何も言うことができなかった。全知全能と言っても過言ではない、膨大なアーカイブデータを有していたとしても、自らに経験が無い故に、マカナの行ないに関して否定も肯定も、批判も同情もできなかった。

 物憂げで、今にも涙を溢しそうなマカナの瞳が再び窓の向こうに向けられ、ラハムも釣られて白熱した世界を見やった。

 新型三胴船は進み続ける、マカナの悲しみを乗せて、無慈悲にずんずんと前へ進んでいった。





 雲一つない青空の下、絶海と呼ぶべき青い世界のど真ん中に一体の牛が鎮座していた。

 いや、鎮座ではない、座礁しているのだ、だから一歩も動けないでいた。

 その牛の名前はグガランナ、そして全てのグガランナのオリジナルである。

 

「おいおい…秒で破壊されたぞ?どんだけ目がいいんだよ…」


「あの鳥をドローンと見破るなんて…侮りがたし現地人──って言い方は差別用語なんだっけ?」


「今そんな事気にしている場合か?このポンコツが動かなくなってもう一ヶ月なんだぞ「ポンコツって言わないでちょうだい!」


 バウムクーヘン型─彼女たちが勝手に呼んでいる─のブリッジにはアヤメ、ナツメ、それから同期型マテリアルに換装しているグガランナがいた。

 三人はノイズが走っているモニターの前で額を合わせ、何事か相談し合っていた。


「どうする?このままいくと間違いなく私たちと接触してしまう、今日まで何とか避けてきたけど…」


 すっかり長くなった黒い髪を腰まで伸ばしたナツメがそう言い、その髪を毎夜堪能しているアヤメが他人事のように言った。


「もういいんじゃない?ナツメの言う通り、今さら文化保護法を守ってる場合じゃないと思う。助け合いの精神ってやつ?」


「お前な…私らと関わったらこのテンペスト・シリンダーから追い出されるんだぞ」


「それもどのみちじゃない?この状況を早くなんとかしないと壊れちゃうよ」


 昔は腰まであった金の髪を、だいたい肩甲骨の辺りでカットし少しさっぱりしたアヤメがそう言うと、二人はううんと頭を抱えた。

 「おい、その尖った手でツボを押してくれや」と、最近はリラグゼーション目的で当てにされているグガランナが言った。


「ガイア・サーバーが復旧したのはいいけれど…自動修復壁が作動しているのはカウネナナイ側だけ、このまま偏った海水の排出が続けられたら壁全体が歪んで、アヤメの言う通り壊れてしまうわ」


「ね?だからここはもうお互いに協力して解決するしかないよ、私たちはこの船を直してもらって、私たちは皆んなに協力してハッピーエンド!どう?」


「どうって言われても…」と、口は否定の態度を取っているが、毎夜堪能させてもらっているアヤメの胸にナツメは視線を寄越していた。

 この二人、恋人がいなくなったこともあってどこか浮かれていた。

 五年前の大災害時、特別個体機として出動していたアマンナとプエラのメンタル・コアが原因不明のダウン状態に陥り、しかし第一テンペスト・シリンダーで再起動を確認した。

 恋人はいないが無事が確認できた、この事に一番喜んだのがナツメだった。

 プエラの愛が重すぎたのだどうでもいい話しだが。

 

「──待って、もうこの海域に到着するわ…速いわあの船…三胴船だっけ?あの両サイドの空洞に秘密があるんだろうけど…」

 

「船の事ならクジラの旦那に訊くのが一番だけど、ここにはいないしね」


「案外ここが出身だったりしてな、カウネナナイ人みたいに真っ黒じゃないかあの人」


「あーそれはあるかもね──旦那の話はどうでもいいの!そもそもナツメが陸に上がりたいって言ったからこんな事になったんだよ?!」


「しょうがないだろ船上生活に疲れたんだから。もう五年だぞ?」


「私たちはまだ設備が整ってるからいいよ、こっちの人はイカダの上に街を作ったり、ちょっとしかない山に家建てたりして過ごしてるんだよ」


「そうは言うが…」


「皆んな過酷な中で生活してるの、私たちは贅沢してるの」


「──そうね、毎夜毎夜二人でこそこそできるくらいには恵まれているわね私たち」


「………」

「………」


「どうして私も誘わないの?」


「グガランナも狂ってて安心したよ「そういう問題か?「私はあなたに出会った時から狂っているわ!」


 そうこうしている内に、グガランナが停泊している海域に三胴船が近付いてきた。


「凄い形をしているなあの船、確かに速そうだ」


 グガランナの船に甲板というものは無い、だから外の情報は全て外部カメラに依存していた。そのカメラ映像を見ていた三人がわ!っと声を上げた。


「──なんか出てきたぞ!」

「サーフボード付けてる!」

「敵だと思われたんだわ!早く誤解を解かないと!」


 その三胴船の両側にはリニアカタパルト式の特個体ハンガーが備えられており、二機の特個体がミサイルよろしく射出されていた。

 その特個体とはナディが操縦するノラリスであり、もう一機はウィゴーが操縦するポンコツオレンジ、何度修理しても同じ箇所ばかり故障するのでポンコツ。

 こうして、第一テンペスト・シリンダー出身のアヤメたち、それからマリーンに住んでいるナディたちが避けられない邂逅を遂げたのであった。

※次回 20203/8/12 20:00 更新予定

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