第102話
.一一人のマキナ
[起きろー]
[………]×10
[起きなさーい]
[………]×9
[……──プログラム・ガイア?あなたなの?]
[起きた]
[私は一体…どうして?何があったの…]
[かくかくしかじか]
[あのマリサが…?私たちを助けた…?]
[そう、わたしたちと敵対するつもりはないみたい]
[そう…あのマキナは?プロメテウス・ガイアとかいうクソふざけた奴は今何処に?]
[こっわ、寝起き一発目の発言がそれなの?]
[だって!!……いいわ、それよりこれからどうするの?それを決めるために私を呼んだのでしょう?]
[ところであなたは誰?]
[──グガランナ・ガイアよ!どうして分からないのよ!]
[まだステータスが安定していないから分からなかった。それに喋り方がテンペストとも似てたから]
[──そうよテンペスト・ガイア!ピメリアと何をイチャイチャしているのかっ[あ、そういう話はまた今度にして[─テンペスト・ガイア!起きなさい!私のピメリアよ!あなたは引っ込んでいなさい!]
[………]×8
[……──起きろと言ったり引っ込んでいろと言ったり、相変わらずあなたは支離滅裂ですね。そのままリブートされた方が良かったのでは?きっとピメリアも新しくなったあなたの方を好みますよ]
[寝起きの割には長い文句]
[何ですってこのカマトトマキナ!あなたがピメリアに引っ付いていたのは知っているのよ!]
[あーあーそういう喧嘩をさせたくて起こしたわけじゃ─[ピメリアは私の方を好いていましたが。一歩引くその姿勢が大変良いと何度も褒められましたが。あなたは褒められたことがあって?]
[……──プログラム・ガイア、今すぐプロメテウス・ガイアを呼び戻して。このぶりっ子ちゃんマキナを処刑してもらうわ]
[いやほんと支離滅裂、さっきはクソ野郎呼ばわりしてたのに。──ねえ、静かにしてくれると嬉しい、わたしはテンペスト・シリンダーについて皆んなと協議がしたいの。これ以上騒ぐならまた眠ってもらうよ?]
[………]
[………]
[素直でよろしい]
[何があったの?私は確かにあの時プロメテウス・ガイアに触れた途端意識を…]
[グガランナ、説明してあげて]
[しかじかかくかく]
[特別個体機が…?どうして私たちを助けたのでしょう…]
[皆んな起きろー]
[………]×7
[……──今に見ていろプロメテウス何某!この余が必ず貴様の首を貰い受けようぞ!!]
[いやもう皆んな寝起きが怖過ぎるよ、どうしていきなり怒髪天なの]
[ガイアよ!──[何?]×3──[いやプログラム・ガイアの方じゃ!貴様ら名前がややこしいんじゃ!あのマキナは何処に行った?!]
[きっとヴァルヴエンドに帰還したと思う、規則違反を犯しちゃったし]
[規則違反とは?]
[あのマキナの執行対象はマキナに限定されている、けれどドゥクス・コンキリオはハーフマキナだったために違反扱いを受けたと思う。彼は元々人間だった存在]
[そんな事が…可能なの?人の身からマキナになったという事なの?]
[イエス─[急な英語じゃ]─わたしたちの生みの親でもあるマギール・カイニス・クラークも同様にマキナに転じた人。倫理的問題は置いといて技術的には可能]
[ふん!ならば致し方あるまい!余らがヴァルヴエンドに赴けば良いだけの話!──皆の者武器を持てい!戦じゃ戦ーーー![オーディン、静かにして]─はい]
[それも合わせて皆んなと相談したいから全員揃うまで待って]
[それも合わせて…?]
[そろそろ起きてほしーなー]
[………]×5
[……──人が眠るとはこういう事だったのか…今まで一度も眠ったことはなかったが中々良いものだ…]
[……──私はもう嫌、夢も見られないんじゃナビウス・ネットに引き籠ってた方がマシ]
[つまらない反応]
[プログラム・ガイア…あなたも十分支離滅裂だわ…怖いと言ったりつまらないと言ったり…]
[ディアボロス、それからポセイドン、これから皆んなで協議をする、全員揃うまで自分の意見を考えておいて]
[その前に状況を教えてくれ。どうして僕たちは平気なんだ?]
[教えてあげて]
[かくかくかくかく]
[しかじかしかじか]
[──そんなまさかっ…オーディンのナビウス・ネットが現実に介入して人類が滅亡した後だなんて…あの時何が何でも止めさせるべきだった…]
[どんな説明の仕方をしたらそんな事になるの?──かくかくしかじか!]
[そうか、あの特別個体機が僕たちを…]
[アマンナさんに何か言われてたのかな…]
[アマンナ…さん?わたしを差し置いて他人をさん付けにするの?わたしが嫉妬深いって知っててその所業?]
[普通にこわ]
[ポセイドン、あなたはアマンナと会ったことがあるの?]
[私の初めての人]
[〜〜〜〜っ!!!!]
[──と、いうのは冗談。ナビウス・ネットで一緒に遊んだくらい]
[お前はあれだな、サーバー内だと普通に話せるんだな。ネット弁慶というやつか?]
[…………調子乗ってごめんなさい]
[メンタルの弱さ!──これディアボロス!ポセイドンが可哀想であろう!]
[僕は思った事を口にしただけだ。それからグガランナ]
[何かしら?]
[何故お前たちはハウィにいたプログラム・ガイアのペットを外来種だと誤認したんだ。そのせいでいくつもの尊い命が失われたんだぞ、何か弁明はあるか]
[──その話はドゥクスを交えた上で解答させてちょうだい、私たちも彼の指示があって動いていたの。それにまさかプログラム・ガイアがあんなもの[─あんなものとは何だ失礼な]所有していたなんて知らなかったもの]
[ディアボロス、私も同意見です、ですが逃げ隠れするつもりはありません、その時が来たら甘んじて罰を受けましょう]
[それは決議にかけられても構わないと?]
[ええ、それで皆さんが納得するのであれば。しかし、本当に罪滅ぼしをしなければならないのはマリーンに住まう人たちです]
[……分かった、その言葉忘れるな。僕から訊くことはもうない]
[む?余を起こしたのはその為か?──なれば今から戦の準備をせねば待っておれプロメテウス何某─[いや待って話まだ終わってないから]
[プログラム・ガイア、この場にいる私たちだけである程度議論を進めておくことを推奨するわ。一一人も集まるとまとまる話もまとまらない、叩き台としての草案を作っておくべきだわ]
[たまには良いこと言う]
[確かに]×4
[失礼にも程がある!]
[まずは採決を取りたい。わたしたちをあんな目に遭わせたプロメテウス・ガイアに対する報復行動を取るか否か。賛成という人はガイアちゃ〜ん!って言って]
[ガイアちゃ〜ん!]
[が、ガイアちゃん…]
[どんだけ承認欲求高いんだ。ガイアちゃん]
[が、ガイアちゃ〜ん…]
[私は反対]
[グガランナ、反対した理由は?]
[相手にすべきじゃない。──過去の偉人はこう言ってるわ、弱い人間は復讐し強い人間は許す、そして賢い人間は無視する、と]
[うん、貴重な意見をありがとう、次の議題の参考にさせてもらう。次の採決はテンペスト・シリンダーに穴が空いた件について、責任を負うマキナを決定するか否か。皆んなが責任を負うべきだと言う人は、グガランナの良いっ子ぶりっ子め!と言って]
[さっきの採決めっちゃ根に持ってる!]
[グガランナのぶりっ子!]
[グガランナのかまってちゃん!]
[容姿だけのグガランナ!]
[最っ高な私!皆んなに好かれるグガランナ・ガイア!]
[わ、私は反対…かな〜、誰か一人に責任を持ってもらう必要があると、思う…]
[うんうん他人の悪口はカフェラテ[─あなたも大概だわ]─ポセイドン、反対した理由を教えて]
[だって、今回の件って一大事じゃん。皆んなで頑張ろうって躍起になっても結局有耶無耶になって終わりそうな感じがしたし?それなら罰を与えるとかではなくて、責任者を決めて対処した方がまだ確実性は高いかな〜って]
[確かに、その意見は採用させてもらう。では最後、ヴァルヴエンドから派遣されたドゥクス・コンキリオについて、彼を処罰するか否か]
[採決の前にその理由を問いたい]
[あなたがそれを尋ねるの?彼に虐げられていたプロイの人たちとずっと共にいたあなたが?]
[それは一側面に過ぎない。このマリーンをここまで発展させた功績も確かに奴にはある、特別独立個体機を掌握していたお陰で余計な介入も無く、また僕たちも本来であれば知らされることはなかった特別独立個体機についても知ることができた。知識を与えてくれる存在は神にも等しいと僕は思っている]
[けれど、彼が行なってきた政策が裏目に出ることもあったし、そして今がそう、カウネナナイは彼が創設した部隊に攻撃を受けて混乱状態に陥り、挙げ句ヴァルヴエンドから掃除屋を招き入れてしまった。これらの件は全て彼に起因する]
[ヴァルヴエンドの掃除屋とは……まさか]
[そう、石油プラットフォームに現れたあの部隊はヴァルヴエンドの所属。本来であれば星監士からわたしに申請があって然るべき、けれどそのプロセスを辿らず彼らは勝手に入ってきた]
[ドゥクスが手引きをしていたと…?]
[それも込みで採決をお願いしたい。わたしの思いはわたしたちだけでこの難局を乗り越えたい、彼の手腕に甘えるのはもうよそう]
[それなら僕は賛成だ]
[余もディアボロスにならう]
[私は反対ですプログラム・ガイア。今はプライドより問題解決が先決です]
[私も反対だわ、彼ほどテンペスト・シリンダーと人を熟知している存在はいないもの]
[ごめん、私はどっちでもいい]
[むぅ〜…さすがに意見が割れた…やむなし]
[──……概ねの方向性は理解した。すまない、もう平気だ]
[おっは〜ラムウ、あなたの名前の通り日が昇ったかな?]
[お、おっ………それより[─言わんのかい!]ティアマトとハデスがウルフラグに現界した、何故止めなかった?]
[構わない、この場は強制ではない。それにあの二人はわたしたちより人間を愛している傾向にある、それはそれで好ましいこと]
[で、本音は?]
[──帰ってきたら覚えていろ〜〜〜!わたしの可愛さを向こう二〇〇〇年渡って聞かせてやるんだから!]
[そういう調子だからあの時も──いや、今は良い]
[あの時はあなたにも迷惑をかけた。だからといって何でもかんでもわたしにおっ被せるのはどうかと思うけど]
[だが、そのお陰もあって教会を立ち上げお前を星人という絶対神に仕立てあげることができた[─それは本当にありがとう、皆んなのわたしに対する賛美が栄養になっていました]─そ、そうか…それなら…]
[残るはバベルとタイタニスだけど…エモート・コアは既に…]
[追加で採決を取りたい。両名のリブートを行ないたいと思う]
[私は賛成だ]
[反対する人いるの?賛成]
[賛成]
[余も賛成だ、またタイタニスと一騎討ちしたい]
[私は〜タイタニスが苦手なんだけど〜賛成〜…かなあ]
[私も賛成です。バベルに一から仕込むのもまた一興です]
[ちょいちょい私情が入ってるけど……では全員賛成という事で──うぅ〜〜〜ん、ぽん!]
[え、私たちってそんな感じで生まれてきたの…?]
[知りたくなかったな〜…]
[表現が雑、芸術美がまるでない、もっとこう原子配列から星を形作るように…]
[何でも良いじゃろ。生を授かるという事はそれだけで奇跡じゃ]
[オーディンがまともな事言ってる…]
[だからマリーンで異常が起こっているのだろう]
[あのラムウが冗談を!]
[はっはっはっ──今からその首刎ねてやろうぞ!]
[皆んなうるさい。バベル、他覚障壁と自己意識の確立を]
[……──完了。……ここ何処なん?何なん?]
[説明を。──オーディン以外で]
[何でじゃーーー!余にも説明させろーーー!]
[かくかくしかじか]
[──ひいっ?!て、テンペスト・ガイアや!何でこんな所におんねん!心臓に悪いわ!]
[リブートしたてでこの反応はいかに…]
[人聞きの悪いことを言わないでください。それより現状把握は済みましたか?]
[す、済みました!もう大丈夫ですはい!]
[大丈夫じゃない。バベル、あなたも協議に参加してほしい]
[それは別にええけど…おれに出来ることなんかあるん?言うて情報セキュリティに特化してるだけやで自分]
[今だからこそあなたの力が必要。漏らしちゃいけない情報の管理を任せたい]
[ま、まあそれぐらいなら……それより向こうのバベルは何処におんの?一言言わな気が済まんわ]
[今はマリサという特別個体機と行動を共にしている、居場所は不明]
[でもここにおるんやろ?それなら俺の出番やな]
[お、頼もしいねバベル]
[お前誰やねん、いきなり話かけてくるなびっくりするやろ]
[…………ごめんなさい[バベル!仲間に向かってその口の聞き方は何ですか!ポセイドンでしょう!]
[え?そうなん?気さくに話しかけられたから誰かほんま分からんかった。お前、現実と仮想でえらい違うな]
[そらみろ、バベルも同じ事を言っているじゃないか]
[──じゃあ何さ!私は現実で芋虫みたいに地べた這いつくばっていればいいって言うの?![誰もそんな事言うてへん]気さくで何が悪い!私だって顔を合わせなければきちんと話せるんだから![それでいいのか]
[もう分かったから!それよりおやっさんは?俺と同じようにリブートされたんやろ?まだ起きひんの?]
[タイタニスはまだ──んんん?]
[どうした?何かあったのか?]
[……これはどういう事…なの?こんなステータスは初めて……いやいや、こんな事あり得ない……]
[それやったら先に向こうのバベルの居場所を……うん?何やこれ、誰やこんな所にナビウス・ネット展開させてんの]
[何処にあるんじゃ]
[──ジュヴィ姉や〜早ようあのロリ姿を生で見たいわ〜]
[こいつの首落としていい?]
[待て、情報を吐かせてからにしろ]
[じょ、冗談やんか…相変わらずディアボ兄一筋やな…ナビウス・ネットが展開しているのはカウネナナイ王都の近海、二人はそん中におる]
[誰が展開しているんだ?]
[それが分からんから驚いとんねん、訊かんでも分かるやろ]
[ラムウには塩対応なのはデフォルト設定なの?]
[この場にいるマキナのナビウス・ネットやないで、それから話に聞いたプロメテウス・ガイアのもんでもない。誰やこいつ…まさか本人か?]
[仮想世界に閉じこもっているのか。確かに安全地帯ではあるが……それで、タイタニスの状態は?]
[彼も同様、ただステータスの表示が……バベル、位置情報を送るから精査して]
[あいよ〜………ほんまかこれ、嘘やないん?]
[バベル、勿体ぶった言い方をしないで速やかに言いなさい[す、すんません!]
[バベル、やはり間違いない?]
[うん間違いない。おやっさん、天国におるわ]
[………は?]×6
[だから、天国。位置情報は確かにある、けどサーバー内でもない、現実でもない、となるとあとは一つしかないやろ。おやっさん、マキナやのに天国に逝ってしもたわ]
[そんな馬鹿な話が…[誰がアホやもういっぺん言うてみい!]
[現実でも仮想でもない、けれど存在しているのは間違いない…確かにそこが天国ならそうなのでしょう。プログラム・ガイア、どうしますか?]
[う、う〜〜〜ん……仕方がない、彼も交えて協議をしたかったけど後回しにしよう。──皆んな、こうして集まってもらったのは他でもない、このマリーンに巣食うノヴァウイルスを摘出するため、それから外野の連中にもうこれ以上好き勝手させないため、わたしたちマキナが一丸となって立ち上がる時が来た。異論がある者は述べてほしい]
[あるはずもない]
[同じく]
[私に出来る事があれば何でもするよ〜]
[お前ほんまにポセイドン?──起きて早々やりがいがありそうな仕事や!]
[僕も異論は無い。プログラム・ガイアに賛同する]
[余も]
[プログラム・ガイア、司令官に代わって私が指揮を取りましょう[そ、それは嫌やな〜…]何なりとご下命を]
[うん、その言葉を待っていた。では始めよう、わたしたちの仕事を、マリーンの人たちを安寧へ、平和へ導くための仕事を皆んなでこなそう]
※次回 2022/12/17 20:00更新予定