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第87話

.キラの山



「取引きをしようじゃないか」


「一体どんな?」


「人の命かマキナの命か、それをあんたに選ばせてやるよ」


「それは取引きとは言わない、ただの脅しだ」


「いやいや、あんたが寄越した連中をキラの山から引き上げさせてくれるならどらちも手に入る。ただ、俺の肚をこれ以上探ろうってんなら無傷では帰さない。これは立派な取引きだろ?」


「……………」


(──ラムウか。奴が駒を動かして失敗したのだな…)


 ガルディア主催のパーティーから数日が経った昼下がりのことだった。街中に置かれた私の(牢獄)に余所者であるこの男が忽然と姿を見せたのだ、手土産として街で売られているリキュールを持参し、私には注がず自分でグラスに入れて何度も空にしていた。

 着崩したブルーのスーツに染みが出来ている、それに気を遣わずバベルがまたグラスに注ぎ、その無神経かつ意味が分からない行ないを眺めながら、私はこう彼に尋ねた。


「状況は?」

 

「そんな話をしに来たんじゃない、それに何よりあんたも知ってるんだろ?何せあんたが放った部下なんだから。セントエルモにアマンナの仲間を潜り込ませたのもあんた、王室の要職にウルフラグの人間を起用したのも他所の特個体関係者を招いたのも、全部あんたの行ないだ。違うか?」


 一部異なる部分が含まれていたが、私は大仰に頷いてみせた。


「そうだな、君の言う通りだよ。それに私が尋ねたのは取引きではなく君の状況だ、マントリングポールに用事があるのだろう?」


 私の声が届いているのかいないのか、バベルが注いだグラスを一口で飲み干していた。少し乱暴にグラスをテーブルに置き、少々勘に障る音が耳をさらった。


「あと少しって所だな──ここは良い、実に良い、向こうと違ってお目付け役のテンペスト・ガイアがいないんだ、何をしたって咎められることがない」


「向こうのガイアは違うのだな」


「ああ、ジェラシーを爆発させた人工知能はやる事がえげつない。ディアボロスの主導で決議にかけられたはずだ、ま、俺はその時からいなかったからどうなったのか知らないがな。タイタニスのクソ野郎に中指立てておさらばしたさ」


「それはまた、反応に困る話だ」


 今日は良く口が動く。

 アルコールを摂取しているのは気分的なものだろう、マキナが酔うことなどあるはずがないのだから。


「──で?こっちの要求は飲んでくれるのか?」


 職人が一から手を加えて作った革張りの椅子に体を預けた、この館で少ない私のお気に入りの物だ。

 彼が手にしているボトルを指差した。


「それなら飲んでやろう」


「──何?」


 陽気な表情をしていた彼の顔にさっと緊張が走った。


「その言葉の意味、分かってて言ってるんだよな?」


 私の発言が余程信じられないらしい。


「そうとも、君の要求は飲まないと言ったんだ」


「……見捨てるっていうのか?」


「何故君がそう驚くんだ、元から殺すつもりで私の所に来たのだろう?好きにするが良い、マントリングポールに細工をしようがティダと手を組もうが私には関係の無い事だよ」


「…………ああそうかい、それなら好きにさせてもらうわ」


 自分の思い通りにならず白けてしまったのだろう、半端に残したボトルをそのままにして椅子から立ち上がった。


「早く手を打たないと露呈してしまうぞ」


 応接室の絨毯を踏み鳴らしながら退出しようとした彼の背中に声をかけ、仕返しのつもりか手にしていたグラスをこちらに投げつけてきた。

 テーブルの上で一度跳ね、入っていた液体を撒き散らしながら絨毯の上に音もなく落ちた。


「あんたは人の味方をすると思っていたんだがな、見込み違いだったよ」


「戦場を知らぬ君には分かるまい、司令官というものは時に人の命を選別しなければならない。──ごっこ遊びが済んだら早々に立ち去ることをお勧めするよ」


 彼は何も言わずに部屋から出て行った。

 椅子から立ち上がり、絨毯の上に転がっているグラスを拾いながら状況確認のために通信を入れる。が──


(繋がらない…あのラムウがポッドに入ったというのか?)


 自ら動いたという事か?それだけ状況が逼迫していたのかもしれない。

 あまり気は進まないが管理施設の防衛を任せていたオーディンに連絡を取った。すぐに繋がったがあちらも同じだったようだ。


[何かの、今はちと忙しいんじゃが。手短に話せ]


 剣を多分に含んだ声でそう言った。


[アビス・グロテスクはどうなっている?今し方バベルが私の元にやって来て人とマキナを人質に取っていると脅しをかけてきた]


[だったら何だ?お得意の裏工作で何とかしたらどうなのだ。こっちは貴様が放った討伐隊のせいでてんてこ舞いなのだぞ?]


[何故ヴァルキュリアの味方をする、彼らは─[─何も悪い事はしておらん、臣下の情に泥を塗ったのは貴様の方だ。──貴様は誰かの上に立つ存在ではない、肝に銘じよ]


 そんな事ぐらいこの私が一番良く分かっている。


[──もう良い。邪魔をした]


[自覚があるならそれで良い、二度と余の邪魔をするな。──餞別だ、しかと聞け。余の家来であるアビスたちは何者かの手に落ちている、こちらからの指示を一切聞かぬ]


[良く分かった]


[ではな。二度とその声を余に聞かせるな、虫唾が走る]


 通信と一緒に啖呵まで切られてしまった。

 

「…………」

 

 手にしていたグラスに視線を落とす、細かな波を再現したガラス細工で良く出来ている物だった。私はそれを力任せにテーブルに叩き付け、置かれていたボトル諸共ただの破片に変えてしまった。

 残っていた液体が衣服にかかり、情けない染みが出来ていた。


「────…………はあ〜。……着替えるか」


 初めて遠慮なく溜め息を漏らした。



✳︎



 油のような濃い匂いの中に、お菓子のような甘さを含むものを感じて目を覚ました。それは僕が小さかった頃、給仕長に作ってもらっていたお菓子に良く似た匂いだったので、一瞬だけここがセレンだと勘違いをしてしまった。

 意識が徐々に覚醒していく中で、次に感じ取ったのは音だった。ごとり、べちゃり、たまに金属製の硬い何かが壁か床に叩き付けられる音、およそ平和的なものではなく殺伐としたものだった。


「…………あれ、は……」


 アビス・グロテスク。長い手足の先が液体に塗れ、体の一部が剥げ落ちている。あれは確かに生き物ではない、剥がれた体から車のエンジンフードの中のような機械が覗いていた。

 様子が変だ、目の前にいるアビス・グロテスクはこちらに背を向けて何かと対面している。その対面している相手が同じ仲間であるはずの別個体だったので頭が混乱してしまった。


(仲間割れ……?何故……)


 体に力が入らない、そうだと認識した途端、手足が猛烈に痛み始めて呻き声を漏らしてしまった。

 前方約一〇メートル先、斜めに備え付けられた卵のようなベッドが並ぶその中間で睨み合っていた二体がこちらに視線を向け、その内の一体が目を離した隙に噛み付いた。


「Pyoooooo──………」


 生々しい、断末魔の叫びの中に血か液体か、喉に詰まらせ排水口に吸い込まれていくような音を出しながら息絶えた。

 噛み付き同胞を屠った個体がこちらに歩み寄ってくる、その足取りは不確かで今にも崩れ落ちてしまいそうだった。

 僕のすぐ前でアビス・グロテスクが立ち止まった。目も鼻も耳もない、それはのっぺらぼうの口裂け女のようであり、奇怪の面差しは恐怖を誘発させるのに十分だった。

 食い殺した仲間の液体が滴る口が開き、


「お目覚めのようだなヴィシャス家の君よ。ここいらの安全は私が確保──おい!」


 二度目の気絶を果たした。



「信じろというのが無理なんですが。あなたは本当にウォーカーさんなんですか?」


「そうだ、色々な事情があって今はサーバー内に身を潜めている。君たちがここの施設にやって来た時から観させてもらっていたよ」


「はあ……それならば来た時の人数を教えてください」


「良いだろう。君、それからマイヤー、コールダー、アーチーにハフマン、そしてティアマトとハデスというマキナの二人、合計で七人だ」


「──合っていますね……一先ずあなたのことを信じます」


 嘘は吐いていないようだ。しかしこの人がティダ・ゼー・ウォーカーだとは未だに信じ切れない。

 僕の考えが表情に出ていたのか、心を見透かすようなことを言ってきた。


「私の正体よりも今は仲間の救出が先だろう?信じる信じないよりも大事なことがあるはずだ」


「──はい、確かに。…この事を娘さん「それは駄目だ」……分かりました」


 即座に拒絶されてしまい、二の句を告げられなかった。


(その名前は僕でも知ってる。前王シュガラスクの弟であり、絶世の美貌を持つヨルン・カルティアンの夫……そして僕のバーを褒めてくれたあの子の父親だ)


 場違いにも、今更のように申し訳なさが募ってきた。あの日、ジュディスちゃんが連れてきたあの子がこの人の子供だったのだ。つまり、僕はセレンで少なからず顔を合わせていたはずなのだ、それなのにその場で思い出せなかった。

 この申し訳なさを少しでも埋めようと思っての提案だったが、どうやらこの人は自分の子供に今の状況を知られたくないらしい。

 良く見れば返しが付いている鋭い爪で床を叩きながら、ウォーカーさんがアビス・グロテスクのベッドについて教えてくれた。


「良く聞きたまえ、奴らの巣は全部で五ヶ所存在している。それぞれ四〇〇体が格納されて、今は各一〇〇体ずつが起動し巡回を行なっている」


「それで…ここはそのうちの一つだと?」


「そうだ、実に念入りな管理体制を敷いているためわざわざ来る必要があった。そのお陰で起動している個体の位置を把握することができた」


「それよりも皆んなは?無事なんですか?」


 ウォーカーさんの言葉を聞いてもう一度失神しそうになった。


「無事だ、カメラで確認した限りでは皆意識を失っているだけで目立った外傷は見受けられなかった」


「─────…………「……おいおい!しっかりしてくれ!また気を失われたら困るんだ!」……あ、すみません、安心してしまってつい……「君はどうやら小心者のようだな」


 昔に何度も言われたよ、その言葉。そして「大きいのはその体だけか」と皮肉も言われ続けてきた。

 けれどウォーカーさんは違った。


「天晴れ、君は男の中の男だ」


「──え?」


 浅いスリットに覆われた床から視線を上げ、見るだに恐ろしい顔を見つめた。──惜しむらくは褒め言葉を放ったのがこの化け物であることぐらいか、怖いものは怖かった。


「小心者という自覚を持ちながら、誰かの為に動く時は勇んで足を動かせる。それは真の臆病者、あるいは卑怯者には決して出来ない行動だ。自分を誇りたまえ、君は立派な戦士だよ」

 

「…………それで、僕は何をすれば良いのでしょうか?何かをさせるために僕だけ引っ張ったんでしょ?」


 つっけんどんになってしまったのは決して悪い理由からではない。この歳になって真正面から褒められたので恥ずかしかったのだ。

 ウォーカーさんは僕の機微に気付かず淡々と話を続けた。


「ご明察。この施設のサーバーをメルトダウンさせる、それしか彼女たちを救う方法がない、このマテリアルはどうやら随分と頑丈に出来ているようだからね、既存の武器では歯が立たない」


「それはそうですね、ええ、サーバーの場所は分かっているんですか?」


「無論だとも、そこまでは私が護衛しよう。目的地に着いたらあとは君の役目だヴィシャス、頼んだぞ」


 その呼び捨てがまた僕の心に火を付けた。

 アビス・グロテスクの巣は全部で五つ、真上から俯瞰して見たならば、まるで星のそれぞれの角に置かれたような配置になっているらしい。

 僕たちの現在地は時計の針で例えるなら一二時方向、僕たちが襲われたポイントは七時方向である。結構な距離を引っ張られてきたようだ。

 そして肝心のサーバーは星の中心にある、一度辿った道を戻る必要があり、ハフマンさんに叱責を受けたあの広大なフロアを下りた先にサーバー室があるようだった。


「行きましょう、大方の地図は頭に入りました」

 

「その心配は要らない、何せ私はデバイスそのものだからね、ナビゲートも朝飯前さ。──その前に…」と、言い終わらないうちにアビス・グロテスクがその場でごとりと音を立てながら倒れてしまった。

 何事?!と身構える暇もなく、最も近い位置にあった斜め卵ベッドの天板がスライドし、中から僕を跳ね飛ばした個体と同じゴリラのような体格をしたアビス・グロテスクが悠々と起き上がった。


「──待たせた、これで万ぜ「あああーーー!」またやるのかこの下り」



✳︎



「グロテスクとは……良く言ったものだね」


「わ、私が作ったわけでは─「─しっ」


 目を覚ました事自体が不思議だった。私が最後に見た光景はヴィシャス君がいとも簡単に飛ばされてしまったところ、そしてティアマトという女の子然としたマキナと、彫りが深い顔でありながらもどこか愛嬌を持つポセイドンというマキナが食われてしまった場面だった。

 私たちのグループで最も体格が良いヴィシャス君と、(半信半疑ではあったけれど)最も高度な頭脳を持つマキナ二人があの珍妙な機械にやられてしまったところを見て、即座に「あ、これは死んだ」と思ったものだ。

 しかし、不思議と生きている。そして私の隣には食い殺されたはずのポセイドンがいた。──この事実を持って私はマキナという、空想上の存在だったはずの知的生命体を認めざるを得なかった。

 詮ずるところ、今日の今日まで読み上げてきた世の娯楽小説は『的をきちんと得ていた』という事になる。彼らの介入が確かにあったのだ、過去の歴史において、国々の栄枯盛衰にマキナが絡んでいた事実をここに掴んだ。


(何が何でも生きて帰らねば!死んでたまるか!)


 何かの装置に見えて仕方がないけれどどんな装置なのか見当も付かない装置の隙間、奴らの目から逃れるように隠れていた私たちの傍をアビス何某が通りがかった。

 話し途中だったこともあって、ポセイドンの口を押さえた手のひらに─性別を設けることが適切かは分からないが─彼女の舌が艶かしく当たっている。ちろちろと、何故舐める?

 私たちの存在に気付かずアビス何某がすうと去って行った。長く伸びる何かの装着の角向こうに消えたのを確認してから手を離した。


「…はあ〜〜〜」


「いつまでこうしているつもりかね?物の見事に二次遭難してしまったよ……」


「に、二時?──ああ、二時方向のベッドに行けばそのまま外へ出られたはずだよ」


「…そうなのかい?」


「う、うん…その方角が一番外に近かったはずだから…い、行くの?」


 それは良い事を聞いた、と喜ぶべきなのだろうか。


(私一人だけ……ああ、そうだよ、この正義心は私が一番良く分かっている!だから何度も失敗を繰り返してきたんだ!)


 今さら悔やんでも詮無き事、でも思わずにはいられない。向こう見ずの正義心を引っ込めていれば助かった命もあったのではないか、と。

 

(どうすれば良いんだ…私一人だけ脱出しても…いや、外に出ても誰に助けを求めれば良いんだ?特殊性を帯びているからやはり保証局だろうか──分からない、分からない…)


 私が捨て鉢になって動けばどれだけ気が楽だろうか。しかして、あとは野となれ山となれの行動は勇敢とは言わず"蛮勇"であることは既に経験上学んでいた。

 だが、この場から一人だけで離れてしまう事に強い忌避感があった。彼は良く思い留まったものだ。

 それがきっかけになってくれた。


「…ポセイドン、ここの管理室はあるかな?もしかして無い?」


「う、ううん…あったはずだよ。付いて来て」


 海辺に住む猫のようにしなやかな動作で装置の隙間のさらに隙間へと入って行く。

 果たして私の体がそう柔軟に対応するかなと不安になるが、火事場の馬鹿力の親族的な別の力が働いてくれたお陰で私の硬い体もすんなりと入ってくれた。出た後が怖い。

 装置の隙間と言うが、これはあれだな、うん、ネズミになって家具の裏側に潜り込んだような気分だ。数え切れないケーブルがいくつも伸び、埃っぽい匂いを嗅ぎながら彼女のお尻を追いかける。研究者然としたパンツスーツに小ぶりなお尻が隠れている、何を思ったのか私はつんと指で突いた。


「──ひゃうんっ?!な、ななななっ、何をするんですか!」


「おーおー良い反応だ。もしかしてマテリアルの体にも生殖機能が付いているのかな?」


「つ、つつ付いて──へ、変なことしないでください!」


 おそらく今の私は経験に無い経験を体験し、脳味噌も心臓も特異な状況にいっぱいいっぱいになっているのだ、そうに違いない。彼女のお尻を突き回すのが面白くて堪らなかった。

 肛門ばかり狙っていたらそのうちおならでもするのかなと思い、そこばかり執拗に突いた。


「もっ!ちょ──状況考えろ!!」


 真面目にドヤされてしまった。


「すまない、こうでもしていないと正気を保てそうになかったんだ」と言いつつさらに肛門のど真ん中を指で突いた。そろそろ足蹴にが飛んでくるかなと思っていると飛んできた。鼻頭にクリーンヒットしつんとした痛みが襲う。


「いい加減にしないと蹴るよ!」


「蹴る前に言ってくれるかな?!」


 さすがにはしゃぎ過ぎた、身を隠している装置の向こうから奴らの雄叫びが聞こえてきた。


「Byoooーーー!Byooooーーー!」ああもう!言わんこっちゃない!早く!」まるで仲間を呼んでいるようだな……このケーブルを引っこ抜くとどうなる?──物は試しだ!」


 男性の腕ほどの大きさがあるねずみ色のケーブルを引っこ抜く、すると隠れていた装置の明かりが途端に消失し、湿っぽい音が次々と聞こえ始めた。

 何とか垣間見えた外には孵化したばかりの動物のように、粘液に塗れたアビス何某がごろごろと転がっていた、どうやら当たりらしい。


「すぐに仲間がやって来る!」


「オーキードーキー!今のうちに管理室へ!」


 それみたことか!隙間から這い出て彼女の背中を追いかけ始めた途端、全身が筋肉痛に似た痛みに襲われてしまった。それでも懸命に足を動かし、まるで物見櫓のように建っているベッドの管理室へ向かった。

 階段を駆け上がり、一つ目の踊り場で態勢を立て直した奴らが追いついた。管理室の高さは差し当たって三階建てぐらいの高さがある、階段を上り切った先に管理室があるようだ。

 死に物狂いの追いかけっこ、捕まれば命はない。だが──と、疑問にも思う。


(何故ここに連れて来た?!あの備品庫で何故命を奪わなかったのだ?!)


 あれ程痛かった体も今はアスリートのように動く、呼吸のし辛さも感じない、まるで風になったような感覚を受けた。それだけ必死ということでもあった。

 二つ目の踊り場を過ぎた時には、アビス何某の一体が階段ではなく手すりを伝って上り始めているのが見えていた。どうやら先回りして私たちを押さえるつもりらしい。

 私は先を行くポセイドンを追い越すよう、さらに足に力を込めて階段を蹴り上げた、これぞまさしく火事場の馬鹿力。


「ちょっ──」


 驚く彼女の声も置き去りにし、三つ目の踊り場に差しかかった。案の定、アビス何某が口を大きく開けて待ち構えていた。


「ハフマン──」


「Byoooーーー!!」


 醜い顎が襲いかかる、一歩遅れて到着したポセイドンの悲鳴を背中に受け、私は懐からダブルバレル・ショットガン取り出し奴の口の中に突っ込んだ。──決め台詞とともに。


「この世で!「Giyooっ?!」この距離で!「Gugaaaっ!!」ショットガンを食らって生存できる生き物は「早く撃って!!」


 ──物凄い衝撃、片手撃ちはさすがにまずかった、奴の頭だけでなく、自分の腕も吹っ飛んだかと思った。

 頭ごと失くしたアビス何某がその場で頽れる、それに見向きもせず私は扉を開け放ち中へ、一歩遅れてポセイドンも入室し荒々しく扉を閉めた。



「ちょ…重い!自分の足で立って!」


「む、無理…もう体が一ミリも動かない…」


 一息吐く間もなく奴らが殺到してきた、しかし頑丈な扉のお陰で何とか侵入を防げている。

 私はポセイドンの肩を借りて立ち上がらせてもらい、管理室のコンソールの前にいた。

 ベッドの配置は星の形に似ていた。私たちの現在地は概ね四時方向、ここから北に上がれば出入り口があるベッドへ辿り着ける。しかし私にはある目的があった。


「これ、放送機能とかって、あるかい?」


「いやあるにはあるけど、まさかその為だけに?それなら私に頼んでハフマンは逃げれば良かったじゃん」


「ご尤も。けれどね、人としての矜持がそれを許してくれなかったんだよ、だから仕方ない」


「ちょっと待って今システムを立ち上げるから。あなたはそこの椅子に座ってて」


 人見知りだと自称したポセイドンも随分と打ち解けてくれたようだ。死線を共に掻い潜ったからか、それともお尻を突かれたからなのか、うん、是非とも前者であってほしい。

 ポセイドンがシステムを立ち上げる傍ら、私はモニターに映し出されているある事実に気付き声を上げていた。


「──これは?」


「──ん?ああ、アビス・グロテスクの現在位置。管轄している管理室からなら居場所が分かるように─」「それぐらいは聞かずとも分かる。凄い勢いで数が減っていないか?」


 表示された光点がぽつぽつと、たまにごっそりと勢いよく消失している。

 システムを立ち上げたポセイドンも何事かとモニターを見つめていた。


「……何かがいるの?アビス・グロテスクを平らげるような何かが……」


「思い当たる節は一つしかない……が、」


 ──シルキー?こんな状況で?



✳︎



 私とライラちゃんが逃げてきた、あるいは戻ってきた最初の部屋はどうやら防刃耐性があるようで、気味が悪いマネキンたちの攻撃を防いでくれていた。

 刃のように鋭く尖った手がガラスに叩き付けられ、鈍い音を出し続けている。部屋の中からずらりと並んでいるのが見える、その姿は異様でどこにも日常的なものが感じられなかった。

 死が質量をともなって視覚化されているようだ、机の下に蹲っているライラちゃんの手を握りながら私も怯えていた。


(どうしよう…運良く逃げられたけどこれじゃ…)


 助けは来るのだろうか、もしかしたら皆んな既に殺されていて私たちしかいないのかもしれない。

 何度か携帯から電話をかけてみたけれど繋がらない、そもそもここには電波が入っていないようだ。

 万事休す、逃げることも立ち向かうことも助けを呼ぶこともできない。

 あまりの恐怖のためのか、机の下でうわ言を繰り返していたライラちゃんが自ら手を離し、亡霊のような面差しを廊下に向けた。


「……こん……で……」


「え、な、何?というか大丈夫なの?」


「こんな所で終わってたまるか……」


 私の声に答えずゆっくりと立ち上がった。

 そして吠えた。窮鼠猫を噛む。


「──まだキスしてもらっていないのにあんな気持ち悪い奴らに殺されてたまるかーーー!先輩の仇は私が討つ!!」


 ライラちゃんの声に反応したかのように、窓ガラス一面を覆い尽くすマネキンたちの攻撃が激しくなった。


「そんな事で?!」


「そんな事とは何よ!私がストーカーまでやってたの知ってるでしょ?!恋する乙女舐めんな!」


「わ、分かったから!あんまり大声出すと反応するから!」


 机の下に隠れている間、きっと一人でさめざめと泣いていたのだろう、だらしなく鼻水は出ているし目元も赤い、それでも若さ特有のギラついた目をしていたのでそのアンバランスが逆に頼もしくさえ思えた。

 私はというと──冷静になり過ぎて諦めていたのかもしれない。


(──駄目だめ!ホシ君からちゃんと返事を聞くまでは!その為にリハビリも頑張ったのに!)


 立ち上がったライラちゃんは鬼気迫る勢いでキーボードを叩いている、外にいるマネキンたちの音にも勝るとも劣らないものだった。


「何とかなるの?」


「何とかするの!」と激しく言い返され、そのあとはぶつぶつと「何で私があんな奴らにっ」と言っている。

 ライラちゃんがキーボードを叩き始めてからすぐ、高速でタスクバーが流れていく画面に変化が起こった。スピーカーのアイコンが出てきたかと思うと、


[──すぐに二時方向のベッドへ来たまえ!そこから外に出られる!……まだ誰も反応しないのか……?いいかね君たち!今すぐに二時方向のベッドへ「ハフマンさん!!」──ライラちゃんか!!今どこにいる?!]


 通信機能を経由してはぐれてしまった──というよりかは...見捨てたハフマンさんの元気そうな声が届いてきた。

 ライラちゃんが私たちの居場所と無事、それから手短に状況を伝えた。


[ここも似たようなものだよ!扉の外には奴らがひしめきあっている!こういうアプローチの仕方はごめんなのだけどね!他の二人は?!]


「こっちにはいません!ヴィシャスさんも先輩も……もしかしたら……」


[いい!その先の事は考える必要はない!とにかく私たちの無事が最優先だ!]


 ──今まで間抜けな音を出していた強化ガラス、二人の話し声で気付きにくかったがぴしりぴしりと嫌な音を立て始めていた。

 素早く背後を振り返る、私の様子に気付いたライラちゃんもそれに習い、二人揃ってあっ!と声を上げた。


「割れ始めてる!あれって特別なガラスなんじゃないのっ?!どうすれば良いのよ!!」


 そのひび割れる音が次第に大きくなってきた、私たちの焦る心を乱暴に表しているよう。

 スピーカーから──あんな凄惨な殺され方をしたはずのタンホイザーの声が聞こえてきたので幻聴かと勘違いしてしまった。


[──デバイスは操作できるよね?!「誰?!」いや私だよ!謝ってくれたじゃんか!「──いやだってあんたさっき──ああ!マキナだから?!それアリなの?!」アリナシ関係ないでしょ今は!私やポセイドンは平気だけど人間のあなたたちは死んじゃったら終わりなんだよ!]


 そりゃ確かにそうだ、どんな仕掛けがあるのか、動かくなってしまったはずのタンホイザーがこうして声を発している。ここに来て"マキナ"という存在が如何ようなものか、目の当たりした気分だった。

 タンホイザーに言われるままライラちゃんがさらに鬼気迫る勢いでキーボードを叩く、それに比例するようにひび割れの音も大きくなり、新しくウィンドウが開いたと同時についに窓ガラスの一部が大きく割れてしまった。


[──え……何この音……誰?]とスピーカーからか細く聞こえ、間髪入れずにライラちゃんが吠え立てた。


「あんたこそ誰よ!!こっちは今大変─[ちょ!それポセイドンだから!もっと優しくしてあげて!]


 きっといの一番に飛び出して派手にやられてしまったあのマキナの子だろう。濃ゆい顔つきの割にどこか少年っぽさが残っているマキナだった。

 

「優しくしろって何よこっちよ優しくされたいのは!──ポセイドン!あんたもマキナにんでしょ?!早くこっちに来てくれない?!私たちピンチなのよ!分かるでしょ?!」


 もうとにかく必死に訴えるも、


[え…いいよ、どうせ格好悪くやられるだけだし…俺、あんなやられ方したんだぜ?恥ずかしいったらないよ…]


「そんな事今はどうでも良いんだよーーー!」とライラちゃんと言葉がハモった、流石に私も段々冷静でいられなくなってきた。


「いいから!お願いだから早くこっちに来てよ!本当にヤバいんだって!!」

「誰も気にしてないから!ね?!」


[嘘だよ…どうせあとでコソコソと笑ってたんだろ…?]


「あともクソもないわ!あれから逃げ回ったわ私たち!──ヤバいヤバい!!」


 大きく割れた一部から一体が室内に滑り込んできた、下半身がつかえているのか周りにいる仲間を蹴り上げている。

 ライラちゃんと私はデスクの裏に回り込むが──辺り一面の壁が広がっているだけで逃げ場なんてどこにもない、時間の問題だった。

 格好悪いところを見られたとべそをかくポセイドン、その態度は男の子特有の可愛らしさもあるが今は勘弁してほしかった。


「お願いだから!何とかしてってば!」

「ポセイドン!!」


 苛立ち紛れに叫ぶ、それしか私たちに出来ることはなかった。

 つかえていた下半身が抜け出し、ついに一体が室内に侵入してきた。上背はヴィシャスさんより高く、無手の私たちにどうにか出来る相手でないことは一目で分かった。

 目も鼻もない、口だけの顔が私たちに固定され、ゆっくりと動き始めた。山で見かけた野生の狼のように狙いをすませているかのよう、その動き方に何かしらの()()のようなものを感じた。

 私がシルキーに襲われた時は全てが問答無用で濁流に飲み込まれるように色んな人が犠牲になっていった。けれど今は違う、未知に対する恐怖心をまざまざと感じていた。

 動きが止まった、それに釣られて私の呼吸も室内の空気も全て止まった。じっとりとした空気が肌に張り付き、流れていく一秒一秒を直に感じた。──死を目前にして自分が生きている事を実感できたからだ。けれどそれももう終わり、敵が態勢を低くし間髪入れずに跳躍した。

 ライラちゃんの叫び声、明かりを反射して意外にも綺麗に輝いている禍々しい爪、そして逞しくて大きな腕をぼんやりと眺めた。


「──腕……?どこから──」


 非日常過ぎる光景にオーバーフローを起こした脳がようやく背後から起こった破砕音を認識した。飛び散る破片が敵に殺到し、空中で態勢を崩したのっぺらぼうの横っ面を拳がぶっ叩いた。

 今度は敵が人形のように吹っ飛び、窓ガラスに叩き付けられ、手足をあられもない方向に曲げながら床に倒れた。ぴくりともしない。

 まだ生きている喜びを実感しながら振り向けば、そこには一体の巨人が立っていた。


「俺──やれば出来る子!!剣なんかに頼る必要はなかったんだ!!」


 ただの行き止まりだと思っていた壁向こうには通路が伸びており、その天井から降り注ぐ明かりを巨人が背に受けて立っていたので何だか神々しく見えてしまった。いや、実際に助けてもらったのだからいもしない神より尊い命の恩人だった。


「ポセイドン…だよね?」


 床に尻餅をついたライラちゃんが惚けたように呟いた、私も同じ目線だったからきっと腰が抜けているのだ。


「オリジナル・マテリアル!──ここに見参!」


 いや、あれ?実はそこまで格好良くない...?

 身の丈はヴィシャスさんよりも高い、けれど、あれはどう見てもヘルメットだ、『安全第一』と書かれたヘルメットを目深に被っている。それに服装もどこかの作業員よろしくツナギ服だ、その下に隠れた筋肉は確かに人間のものではないけれど...

 一番インパクトがあるとすれば、それは背中から生えた四本の逞しい腕だろう、きっとあれに守ってもらったのだ。


(ユニークキャラなの…?ポセイドンって…)


 そのポセイドンが雄叫びを上げながら四本の腕を使い、室内に入りそうになっていた敵を文字通りちぎり始めた。鋭い爪で引っ掻かれようが噛み付かれようがお構いなし、一瞬の怯みも見せず敵を無力化していった。



「………」

「………」


「いや、そんなに見つめるなよ、恥ずかしいだろ」


 一難が去り、敵の墓場と化した制御室を後にしていた。私たちはハフマンさんの言う通りに従い、スーパー作業員にクラスチェンジしたポセイドンに守られながら長い廊下を歩いていた。

 やっぱり男の子ってこういう所があるのだろうか、ベソをかいていた素振りなど跡形もなく今はとても嬉しそうにしていた。

 隣にいるライラちゃんに目配せする。


(褒めた方がいい?正直に言った方がいい?)


 ライラちゃんが小さく首を振った。


(ここは褒めておこう)


(おーけー)


 話がまとまった、またぞろベソをかかれても嫌だったので褒めてあげた。


「か、格好良いね!格好良かったよポセイドン!助けてくれてありがとう!」

「あんたやるじゃん!」


「い、いや!そんな事ないって!こんなの普通だって!」


 ご満悦そう。まあ、実際助けてくれたのだから文句なんて言えやしない。

 あとは皆んなと合流してここから無事に脱出するだけだ。今のところ何とか体が動くが、気を抜いたらそのまま失神してしまいそうだった。

 他の皆んなは無事なのかと、後ろにも『安全第一』と書かれたヘルメットを見つめながら声をかけた。


「皆んなは平気なの?調べられたりできない?」


「ん?ああ…それなんだけどな、さっきティダ・ゼー…う、ウォーカー?って人から連絡があって電算室に行くから皆んなを逃してほしいって言われたよ」


「誰それ──待って、今何て言ったの?」


「だから、ティダ・ゼー・ウォーカーって人、ヴィシャスっていうあの大男も一緒らしいよ」


 言ってるそばから気を失いかけた、どうやらヴィシャスさんは無事らしい。

 残るはジュディスだけだ、彼女の安否だけが未だに分からない、覚悟はしておいた方が良いなと思った。


「電算室に行ってどうするの?」


 ライラちゃんがそう尋ねた。


「サーバーをメルトダウンさせてくるんだろ、アビス・グロテスクを管理している唯一のサーバーだから一発で動かなくなる」


 サーバーを...メルトダウン?メルトダウンって確か...



✳︎



 最初はただの言い間違いだろうと思っていた。メルトダウンという言葉は別名『炉心溶融』であり、原子力発電所における重大事故を意味するものだ。

 けれど、再び戻ってきた広大な採取弁フロアに到着した時、間違いではなかったと知った。


「原子炉と一体化している?」


「そうだ、ここの防衛を担当している奴らの管理サーバーは炉心と結合している。だからメルトダウンという言葉を使った」


「どうやってメルトダウンさせるんですか?」


「それを今考えている」


「…………」


 大丈夫なのかこの人。


(あ〜〜〜!ジュディスちゃんを探しに行けば良かったかもしれない……)


 採取弁フロアは五芒星の形をしており、それぞれ五つの扉から中央に向かって目が眩むような高さのある橋を延ばしていた。僕たちが入ってきた入り口は真上、そこから真っ直ぐ下りて中央にある建築物へと向かっていた。

 先を歩くのは歪な外観をした生き物、中身があのウォーカーさんだと分かっていてもなかなか慣れそうにない。話しかける時にこっちを振り向くだけで心臓がどくんと跳ねてしまった。

 そしてまた心臓がどくんと跳ねる。


「何か言いたそうだね、これから死線を潜る仲間なのだから隠し事は無しだよ」


 普段の僕ならこういう時言葉を濁す。けれど、見ず知らずの場所、それから僕の胸の内ですくすくと育ち始めた()()()()()を自覚していたこともあり、遠慮なく言った。


「サーバーを落とす方法が分からないのなら僕はジュディスちゃんを探しに行きたいです、ウォーカーさんもいることですから何とかなるかと」


 ウォーカーさんの四つ足が止まる気配はない。ぽつねんと建っている建築物まであと少しの距離だ。


「そのあとはどうする?よしんば彼女を見つけられたとして、どうやって外まで脱出するつもりだ?」


「それは……」


「この体はマテリアルだ、いくらでも替えが利くからいくらでも戦えるが無尽蔵ではない。私は君と彼女が無理心中するところを見たいとは思わない、だからこうして一網打尽にするやり方を選んだのだよ。それに彼女はおそらく無事だ」


「それは、それはどうしてそうだと言い切れるのですか?」


 着いた。プレハブ小屋のようであり、それより一回りは大きく見える。人間用に見えないのは僕の気のせい...?扉もドアノブも窓もどこか大きく見える。

 バランスを取りながらウォーカーさんが前足の一つを持ち上げ──あえなく転倒してしまった、それなりに音が鳴り響いたので肝を冷やしてしまった。


「だ、大丈夫ですか……?今さらコケるんですか……?」


 おずおずと様子を見守る、生まれたての小鹿のように足をばたつかせながら何とか立ち上がっていた。ずっと無言だったので頭を打った衝撃で中身が敵と入れ替わったのではないかと心配した。


「いやはや……マキナという生命体は頭脳の化け物だよ。マテリアルを遠隔操作してみて初めて思い知った」


「はあ……」


 話の脈絡から外れているがウォーカーさんが語り始めた。


「君、手を動かす時はいつもどうしている?」


「質問の意味が……とくに意識してませんが……」


「それだよ。人は脳という便利な物を持っているから意識することなく手足を動かせる。厳密に言えば──」と、明らかに人用ではない扉をゆっくりと開け、中に入っていく。「脳の神経細胞が放つ電気パルスがそれぞれの手足を動かす神経を刺激しているわけだ。だからとくに考えることなく自分の体を動かせることができる」


 僕も中へ入った。とくに何かがあるわけではない、やっぱり人用ではない一回り大きな椅子が何脚か、それ以外は青白い蛍光灯に照らされたがらんどうの部屋だった。

 ──いや、部屋の中央には鉄柵に囲われた簡素な昇降装置があった。

 話の道筋から判断して僕は尋ねた。


「マキナはそうではないと?」


「ああ、彼らは手足の関節の角度を全て計算してから動かしている。ある程度マテリアルを動かすプリセットは存在しているみたいだが……化け物じゃないのか?人の動きを彼らは全て計算して再現していたのだぞ?鳥肌が立つよ」


「はあ……」


 僕の関心はそんな所にはない、ジュディスちゃんだけだ。

 二人揃って乗り込んでもまだ余裕がある昇降装置に乗り込み、とくに何かをしたわけでもないのに一人でに動き始めた。

 音もなく緩やかに降下し、眼下に差し渡って半径五〇メートル近くはある弁が見えてきた。どこか煤っぽい匂いも鼻をつく、焼き場のようだと思いながら話を元に戻した。


「それで?どうしてジュディスちゃんは無事だと思うのですか?」


 答えはとても簡単だった。


「連れ去られた他の皆んなが無事だっただろう?真っ先に殺された──というより壊されたのはマキナの三人だけだ」


「ですが…それは何か目的があったから…気まぐれで命を奪わなかっただけではないんでしょう?」


 嫌な褒められ方をしてしまった。


「さすがはジュヴキャッチの元メンバー、荒事には慣れているようだ。その通り、今回のアビス・グロテスクの暴走にはあるマキナが絡んでいる。名前はバベル」


「それは──もしかしてこの先なのでは…」


「ご明察。ポセイドンの二人がラムウ・オリエントというマキナに依頼し、君たち人間をここまで引っ張ってきたのはマントリングポールの内部を視察したいからだった。そしてバベルはそれを邪魔したかった、だからアビス・グロテスクの管理サーバーにハッキングして起動させたのさ、オーディンが作った遺物であるこの殺戮機械をね」



 昇降装置というものには、人の精神を落ち着かせる作用でもあるのだろうか?


(何なんだ、この大きな蓋は……)

 

 乗り込んだ昇降装置が停止し、一歩足を踏み出した途端、その異様さが初めて目に飛び込んできた。

 見上げる採取弁というものは、実に三階建てのビルぐらいの高さがある、それも半径五〇メートルに渡る超巨大な蓋だ。一体誰がこんな物を作ったというのか、いや、どうやって作ったというのか。

 前後左右、どこを見てもその見上げるほどに高い蓋がある、自分が小人になってしまったかのような錯覚を受けた。ウォーカーさんはこの場所についてある程度知っていたのか、とくに衝撃を受けた様子もなくある方向へ淡々と足を進めている(表情というものはないけれど)。

 彼の跡に続く、目的地の入り口は意外と近くにあった。


「ここだ、ここから内部へ行くことが出来る。ヴィシャス、この扉の前に立ってくれ」


 先導していたウォーカーさんが脇にずれて僕を促した。立たされた扉はやっぱり巨大でおよそ人間が使うものには見えない。

 何をすれば良いのかと尋ねようとしたその直前、扉の前にホログラムの画面が浮かび上がった。頭から足先まで赤外線を当てられ、すぐにロックが外れる音がした。


「何をスキャンしたんですか?」


「さあね、もしかしたら君の魂をスキャンしたのかもしれない。無機物集合体は決して持ち得ないものだから」


 はあ、と適当に返事をしていた。何を言っているのかさっぱりだ。

 一歩足を踏み出そうとすると再びホログラムの画面が浮かび上がった。どんな仕掛けがあるんだろうか、まるで映画のようだった。ただ、話しかけてきた人物は味方ではなかった。

 バベルと名乗った。


[そこのあんた、仲間の命が惜しくないのか?大体の状況を見れば人質に取られてんのが分かるだろ。あと一歩踏み込めば扉が開く、その一歩に仲間の命がかかってる。さっさと引きな]


「…………」


 高圧的かつ排他的。話し合いをするために声をかけてきたのではないことが明白に感じ取れた。

 はっきりと告げられて足を動かせなくなった。


「バベル、君のごっこ遊びは少し度が過ぎるんじゃないか?セレンの駐在軍に精神攻撃を仕掛けたこともそうだし、今回のこの一件もそうだ。君こそ手を引きたまえ」


[やなこった、こっちにはやりたい事があんだよ。それを今邪魔されるわけにはいかない、せっかく世にノヴァウイルスの種子がばら撒かれているんだから]


「他所でやりたまえ、ここは私たちの土地だ。違うかね?」


 どういう意味だ?


[やなこった。で?どうするよ、俺の言う通りに従うか?ここから離れてくれるなら捕らえているお仲間を解放してやるよ]


 スピーカーのアイコンしか表示されていないモニターを睨む、手はじっとりと濡れて汗をかいているようだ。


(得てしてこういう類いの相手は……)


「……彼女は今どこにいますか?ジュディスという子の居場所だけが分かりません」


 採取弁の内部へ通ずる扉の奥からぶうんと、何かが起動する音が聞こえてきた。このバベルというマキナの仕業、とかではなく決められた手順に則って何かの装置が自動で起きたような様子があった。

 バベルが答える。


[……教えると思うか?少なくともここからすぐに行ける距離じゃない。なあ賢くなろうや、先に邪魔をしてきたのはそっちだぞ?変に藪を突かなきゃこっちも変な手出しはしなかったのに]


 確かにその通りなのだろう、このマキナの言う事には理があって道理も通っていた。

 しかし──。


「だったらどうして僕たちが入って来た時に警告しなかったのですか?邪魔をしてほしくなかったらその時にきちんと説明すべきでしょう」


[…………]


 本当はそんなもの聞かなくても分かっている、ただの確認だった。

 ──今は確かにジュディスちゃんは無事かもしれない、けれどこんな──

 ぐっと足に力を込める。バベルというふざけたマキナが答えた。


[そんなもん──こっちの方が楽しいからに決まってるだろっ!!人もマキナも人質に取れるだなんてそうある機会じゃなえしなっ!!]


 こういうろくでなしはどこにでもいるようだ。僕がジュヴキャッチで本格的に活動していた時も、バベルというマキナのような"愉快"目的で事を()()()荒立てる連中がごまんといた。

 彼らに道理は通用しない。「楽しそうだから」「面白そうだから」という理由だけで約束を平気で反故にする。だから僕は危険を承知で扉に──。


「──ここまでで十分だよヴィシャス!あとは私が何とかしよう!君は一〇時方向のベッドへ急ぎたまえ!そこに彼女を捕らえたアビス・グロテスクがいる!」


 最後まで踏み込めなかった、自動でスライドした扉の先は等間隔に並ぶ天井の蛍光灯に照らされた廊下があり、僕を易々と掴んで後ろへ放ったウォーカーさんがその一本道に入っていった。


[──はっ!はははっ!ざまあみろってんだ!その領域にマテリアルを感知したが最後!アビス・グロテスクがここにいる何をも殺し尽くすぞ!]


 広大なフロアにあまねく伝わる不快な笑い声を背に受けたまま、僕は奴に構うことなく走り続けた。



 昇降装置に飛び乗り来た道を逆戻りする。心臓は早鐘のように脈打ち空気を吸い込む肺は痛い、体は息苦しいほどに熱いのに頭は冷え切っていた。

 奴の言葉を信じるなら確かに僕たちは要らぬ所に足を踏み入れてしまった。ウォーカーさんが入った途端、一本道の廊下が赤く染まり、奴の声に混じって警報も耳に届きていたのだ。

 焦る、焦った、それは焦った、もしかしたら本当に──と嫌な想像ばかりしてしまう。

 単純な構造で助かった、ジュディスちゃんがいるらしいベッドの一〇時方向も一本道。

 ただ、不気味な程の静けさが廊下に満ちていた。これだけ全力疾走しているのに一体たりとも追いかけてこようとしない、もしかしたらこの先で既に──。

 僕が連れて行かれたベッドと同じ扉を潜り、そしてすぐに全て杞憂に終わったことを理解した。納得は別だ。


「案ずるな人の子よ、彼奴等はこの私が平らげた」

 

「──ウィゴー……」


 銀色のライオンがそこにいた、そして彼女はその背中に乗っていた。

 ──は?


「……………」

 

 そして普通に喋っている。もしかしてウォーカーさん?あの銀色のライオンの中身はウォーカーさんなのだろうか、それにしては喋り方が一段回りくどいような...

 何も言葉が出てこない。全身を銀色に染め上げ人の言葉を喋るライオンがあまりに唐突過ぎて理解が追いつかなかった。


「……だ、え?こ、怖くないの……?」


 やっと出てきた言葉がそれだった。

 背中にちょこんと座っているジュディスちゃんはぱっと見どこも怪我をした様子はない、彼女も何故か口をぽかんと開けて僕のことを見入っていた。

 そして何も言わずにライオンの背中から降り、ゆっくりとこっちに歩いてきた。──いや、右足から血を流した跡があった。

 僕の前に立った彼女、徐に手を上げたかと思えば──


「──何でもっと早く来てくれなかったのーーー!!!」


 凄まじい勢いで僕目がけて振り下ろしてきた。


「いたっ?!痛いよジュディスちゃん!お、落ち着いて!」


「落ち着いていられるか!どれだけ心細かったとっ──」


 それは本当らしい、薄らと目に涙が溜まっていた。

 叩き疲れたジュディスちゃんが僕のお腹に顔を埋めそのまま動かなくなった。か、感動的な再会と言っていいのだろうか...近くにいるシルバーライオンのことが気になって仕方がない。そのシルバーライオンは雄々しく頭を上げて耳を澄ましているような仕草をしていた。


「え………その、ジュディスちゃんを守ってくれていたんですか……?」


 何も話しかけてこないのでこっちから話しかけた。


「いかにも、二人の大地母神から人の護りを務めよと役目を下賜された。私以外の仲間が遊撃戦士として外へ出払っている、そろそろ戻るだろう」


「……二人の大地……何ですか?」


「ティアマトだ、彼女がこの子の事をとくに心配していた」


 ベッドの入り口から今度は銀色の小鳥が二羽飛んできた。小さな鳥がシルバーライオンの辺りを数瞬飛び回り、そしてすぐに何処かへ行ってしまった。

 

「えーと…あなたは一体…?アビス・グロテスクと違うように見えるのですが…」


 やはりライオンは獣の王らしい、彼が動き出すと周囲に隠れていたびっくりするほどの数の動物たちも一斉に動き出した。

 チーター、ゴリラ、サイ...その全てがライオンと同じように銀色だった。

 入り口へ向かい始めた百獣の王が答えた。


「左様、そして私たちはこの世界に蔓延っているノヴァウイルスとも違う存在。名をピューマという、過去においてこちらとあちらが繋がった際に残された母神の子たちだ」


 何そのあの世とこの世みたいな言い方──いや、確かウォーカーさんも...


(バベルを余所者だと言っていた…こことは違う場所が世の中にはあるということ…?)


 質問したかったが時間切れのようだ、集結しつつあった銀色の動物たちがにわかに殺気立ち、臨戦態勢を整えていた


「彼女を攫った敵がこちらに殺到している。それだけではない、君の仲間の元にも向かったようだ。私に付いて来なさい、活路を開こう」


 力強いその声は『王』と呼ぶに相応しい。

 ジュディスちゃんの手をぎゅっと握り締め「痛い!」と背中を叩かれ力を緩め、チーターが先陣を切った瞬間だった。

 

「──っ?!」


 どこに隠れていたのかアビス・グロテスクが殺到してきた。先頭にいたチーターが切り刻まれ数瞬のうちに絶命する、しかし後ろに控えていた動物たち──ピューマたちは恐れることなく突貫した。

 シルバーライオンが咆哮し、チーターを手にかけた個体をゴリラがその怪力でぺしゃんこにしていた。とんでもない膂力である。

 あとは合図もなく僕たちも駆け出した、突如として味方になってくれた彼らに守られながら、壁という壁からまるで虫のように沸いてくる奴らをピューマたちが押し退けてくれている。


「──さあ時間はないぞ!いずれ我らも骸に成り果てる!この猶予を無駄にするな!」


 迫り来る敵に怯むことなくひたすら走り抜けた。途中で何度も僕たちを庇ってくれるピューマたち、その献身的かつ滅私的な行動にいくらか気後れしながらも足を動かし続けた。

 採取弁フロアに三度戻って来た。──途轍もない光景が広がっていた。


「──何あのっ──数っ!!」


 息も絶え絶えの彼女がそう叫ぶ。

 群がっているなんてものじゃない、昇降装置がある建物を中心に奴らがこちらまで這い上がり、その様相が蟻の大群のように見えてしまった。蠢く黒色は全てアビス・グロテスク、ピューマたちの加勢があっても果たして向こうまで渡り切れるか分からなかった。

 シルバーライオンが再び咆哮した、その雄々しい声がフロアに響き渡り空気を震わせた。

 別のベッドへ続く扉が内側から破壊され、中から大量の──


「──味方じゃんか!どんだけいんのピューマ!」


 僕もてっきりアビス・グロテスクかと思ったけどそうではなかった。ジュディスちゃんの言う通り、シルバーの涙がそれぞれの扉から溢れ出してきたのだ。

 空を飛ぶ銀の狩人、鷹が急降下を仕掛け敵を撹乱し、大地を駆ける銀の殺し屋、(ひょう)が足止めする。そこへシルバーライオン、森林の守護者たるゴリラたちが押し掛け、文字通り肉の壁となって道を空けてくれた。

 走るしかなかった、彼らの鮮やかな連携をこの目に焼き付けることなく時間を惜しむようにして走った。

 目的の扉まであと少しだ、唯一壊されなかった扉がそっと内側から開き、他の皆んなが顔を覗かせてきた。


「──無事かーーー!早くしたまえーーー!」


 ぎょっとするような人物もいたが皆んな平気そうだ、あとは僕たちだけ──。


「逃げてーーー!」


 ジュディスちゃんが叫ぶ、大軍から漏れ出たあるいは一人功を欲した伏兵がハフマンさんたちに近付いていた。動きが早い、蜘蛛のように壁を伝っている。

 声が届かなかったのか、皆んなフロアの光景に呆気を取られているだけだ、そしてそこへ次の異変が起こった。フロアの照明が全て落ちてしまったのだ、突然の暗闇に足が竦む。

 背後から勇気づけてくれるようにシルバーライオンが最後に咆哮した。


「──行け!サーバーが落ちた!いずれ彼奴等も骸になる!このまま逃げ切るん──……」


 騒がしかった音も止み、アビス・グロテスクの大軍が崩落していく音に包まれた。それはピューマたちも変わらない、僕たちが行く方向に一羽の鷹が落ちて手摺りに当たり、さらに下へと落下していった。

 それなのにも関わらず、ハフマンさんたちに近づく一体のアビス・グロテスクが動きを止めない──いくらかぎこちなくなっているが既に射程圏内だった。


「──何でっ?!──早くっ──」


 ようやく気付いたハフマンさん、けれどもう──


「ライラちゃんっ!!」


 ──遅かった。

 闇にようやく慣れた目に、赤い鮮血がまざまざと入ってきた。



✳︎



[……今度はどちら様かな?今少し疲れているからまた別の機会にしてほしいのだが……]


 上手く行った、あとはヴィシャスたちが無事に脱出できることを祈るだけだ。

 原子力発電は、ウランとプルトニウムの核反応によって生じる熱をエネルギーに変換し、発電用タービンを回転させて電力を得る仕組みになっている。だからこのマテリアルを制御棒が浴しているプールに投げ落としてやった、それだけで温度が高まり排熱できなくなり炉心を溶かすことができる。

 それは別に良い、今肝心な事はこのタイミングで私に接触してきた存在だ。バベルではあるまい。


[────あなたは人間ですよね?]


[──……そ、そうだが……]


[何故ここにいらっしゃるのですか?]


 吐きそうになった、比喩でもなく事実として。彼女、あるいは彼の声に()()というものが一切なかったからだ。

 原子核を構成する中性子とクォーツ、何だったら光ですらその質量を持つ。それなのに今し方聞こえた声にその質量というものがなかった。

 誰なんだ?──いいや、()()()()()()()()()()()


[…………それを尋ねることが君がここに来た理由かね]


 彼女、あるいは彼が永遠に思える数秒を無言で過ごした後、答える。


[────こことは?何処ですか?]


[……が、ガイア・サーバーの事だ。き、君はマキナなのかい?]


[ああ……ここは電子の世界なのですね。私が尋ねた理由はあなたに魂があったからです]


[は?魂?]


[はい。──こうしましょう、その方が互いに分かりやすいかと]


 世界が一変する。いや、自意識の壁が消失してしまった。


(──しまった!)


 私が、私という意識が電子に蝕まれて霧散してしまう。死より恐ろしいことに身構えたが、想像していた現象は起きなかった。

 代わりに一人の人間が忽然と姿を表した。


「…………」


 どうやらナビウス・ネットに招待されたらしい──そう思うことにしよう。

 姿を表した人間は花嫁衣装のように全身を白装束で統一していた。頭から垂れる深いヴェールのせいで面差しは分からない、背格好は男女のどちらとも言えない。

 己を見下ろせばそこには懐かしい姿があった、平均的な体格に細い足。そして、視界を意識してみやれば人の身を捨ててから見ることがなかった自分の前髪があった。


「──何故ここにいらっしゃるのですか?」


 同じ質問だ、しかし声の質は変わらない。

 私は正直に答えた。


「マキナの手から人類の支配権を奪取するため、だから私は人の身を捨ててサーバーに潜り込んだ」


 彼女、あるいは彼が一歩踏み出した。その足に踏まれた草を見てようやく周囲の景色を認識した。

 山があった、尖ったような嶺を持つ山だ。どうやらここはマリーンに殆ど存在しない高原のようらしい。綺麗な山だった、山肌に雪を残したそのまだら模様もさることながら、背後に流れている積乱雲に澄み渡るような青空、立っているだけで清々しい。

 景色を認識すると今度は嗅覚も刺激され、まとわりつくような空気を肌で感じた。濃い草いきれと土の匂い、それからどこかで動物でも飼っているのか糞尿も臭いも混じっていた。


「そうですか。何故、魂を持っているのですか?」


 良く分からない質問が先程から続けられている。

 何故魂を持っているのか、だって?それは私が人間だから──。


(果たして本当にそうだろうか……?魂も電子化できるのだろうか……?)


 彼女、あるいは彼が持つ疑念が少し分かったような気がした。

 私の心を見透かしたように彼女、あるいは彼が後を継いだ。


「そうです、あなたは大変興味深い」


「──名を……教えてもらっても?」


 深いヴェールに隠れていた頭が少しだけ持ち上がり、薄い唇がゆっくりと持ち上がるのが見えた。


「────プロメテウス・ガイア。あなた方が住まう世界を管理している子の親のようなものです」

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