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第二十一話 テッド

21.a



 エディスンと呼ばれた街は、山を抉るように作られていた。

 道中で見かけた廃墟とは違い、どの建物も現存されており傷んでいるようには見えない。情けなくも、見えている建物は自然に植生されたのか、植物に食われていた。見ているだけで、気分が落ち込んでしまう。


[総司令、もう間もなくです]


「あぁ、分かっている」


 同伴させたサニアから報告が入る。プエラ・コンキリオと呼ばれるマキナから指定されたのは、街の入り口近くにあるらしい大聖堂と呼ばれるドーム型の建物であった。街の中でもとりわけ大きく、遠くからでも既に見えていた程だ。

 街の通りは、コンコルディアが何とか通れる幅しか無く、その地面には白線の類は一切無い。ここに住んでいた連中は、どうやら自動車を使っていなかったようだ。


(不便な生活をしていたものだ)


 道のそばには、川が流れている。それを挟むように反対側にも道があり、住居として使われていたであろう建物が、同じようにずらりと軒を連ねている。その建物の間には、必ずといっていい程に綺麗な木が一本ずつ立っていた。それを見て、私は不思議と作り物であると確信してしまった。

 早く出て行きたい衝動を堪えながら、歩いていた道より一回り大きい道にぶつかり、左手に指定された大型のドームが見えた、道からはどうやら階段を登るらしくコンコルディアでは上がる事が出来ない。


「コンコルディア停止、いつでも動かせるようにしておけ」


 メインコンソールに音声指示を出して、コクピットのハッチを開ける。私の体を上から覆っていたハッチが、モーターの駆動音と共にゆっくりと開いていく。

 座っていた体を起こし、コクピットから見えた大型ドームの周囲には何も無く、広大な空き地が広がっていた。


「?!」


 そこには、見た事がない機械のそばに立っていたナツメの姿と、白髪の少女が寄り添うように佇んでいた。

 私はナツメの姿を見ながら、外部スピーカー越しに声をかけた。


「まずは、無事で何よりだナツメよ、お前が生きていた事に感謝する」


 私の言葉に答えない。いや、距離があるせいで発言を控えているのだろう。私は観念してコンコルディアから降り、サニアと共に空き地へと続いている階段を登る。


「ナツメの隣に女が立っている、注意しろ、見えた限りでは武器は持っていない」


「はい、それにしてもあの機械は一体…総司令は見たことがありますか?」


 細長い胴体のようなところに、左右に伸びた平たい部品を付けたあの機械のことだろう。恐らくは、中層で使用されていた機械、乗り物かもしれないが、資料にあのようなものは記載されていなかった。

 階段を登り、ナツメとプエラ・コンキリオと呼ばれるマキナと対面する。ドームを背景にして立っているナツメは、私が見たこともない表情をしていた。対面したと同時に、太陽がドームに隠れて広大な日陰を作った。反射していた光もなくなり、幾分見やすくなったところで、ナツメが口を開いた。


「ご心配をおかけしました、私はこのとおり無事です」


「あぁ、何よりだ」


「私の死亡扱いは取り消して下さい、死んだままでは本隊へ戻れませんので」


 隣にいたマキナが驚いた顔をしたことに些か気を取られたが、


「よかろう、副隊長も喜ぶだろう」


「それと、彼女の紹介をさせて下さい」


 そう言って心なしか沈んだ顔をしているマキナを見やる...感情表現も多彩なのだな。


「…初めまして、私はグラナトゥム・マキナ、名前はプエラ・コンキリオと申します、以後お見知りおきを」


「私は、カーボン・リベラの街を預かるセルゲイだ、よろしくするかはこの話し合いで決まることだろう」


「えぇ、そうでしょうね」


 すぐに持ち直したのか、その顔には余裕があった。読めない奴だ、情報を引き出すのに苦労しそうだ。


「総司令、一つお聞きしたいことが…」


「分かっている、カリブンのことであろう?」


 また先に言われたナツメが驚いた顔をする、変わらない反応に安心していたが、


「はい、廃棄されたカリブンの場所を教えていただきたいのです、彼女らにそのカリブンを再利用するための手伝いをしてもらおうと思っています」


 何を...言っているのか、一瞬理解が出来なかった。


「何の話しを…」


「あなた達が、上層の街で資源として使っているカリブンは真っ黒でベタベタのはずよね?メインシャフトの循環区で採取していたはずよ」


「…」


「総司令?その話しは本当なのですか?」


「総司令は、カリブンがナノ・ジュエルと呼ばれる資源のリサイクル前だとご存知だったのですか?」


 二人同時に質問されてしまい、短気にも怒鳴りつけてしまった。


「訳の分からない事を言うな!でたらめにも程があるだろう!」


「…」

「…」


 その視線は冷ややかだ。


「あなたはタイタニスと友達なのよね?ナノ・ジュエルについて知っていたのではなくて?」


 プエラと呼ばれるマキナが余計な事を言う。


「たい…たにす?総司令、お話しして下さい、何が何やら訳が分かりません」


 サニアの質問を無視するが、それが悪かったようだ。


「初めまして、私はサニアと申します、コンキリオさん…と呼べばよろしいですか?」


「いいえ、プエラとお呼びになってください、その名前、好きではないので」


「では、プエラさん、たいたにすとは一体何ですか?それにぐらなとぅむまきなとは?」


 私を差し置いて話しを進めていく、この場を掌握出来ないのは痛いが、今の私ではどうすることも出来なかった。


「ふふ、あの人はちゃんと言えるみたいね?ナツメ」


「うるさいな、静かにしていろ」


 小声でやり取りをしているナツメとマキナに、何かしらの関係性があったことを読み取れた。


「グラナトゥム・マキナは、このテンペスト・シリンダーを統括、運営をしているAIです、自発的に考え自由意思で動き回る機械だと解釈して下さいな、サニアさん」


「分かりました、では、タイタニスとは?プエラさんの仲間にあたるグラナトゥム・マキナでしょうか?」


「今の説明で分かったのか?」


「ええ、大変分かりやすい説明でした、どこぞの司令官と比べるのも失礼なぐらいに」


 私への当て擦りに腹を立ててしまう。


「タイタニスは、サニアさん達が住んでいる上層の街を興したマキナよ、今は街に引かれたネットの海の中にいるわ」


 そんな所に隠れていたのか...奴の体は軍事基地の地下に眠っていたが。


「?意識と体は別であると、いうこでしょうか」


「はい、私達マキナはエモート・コアと呼ばれる意識と、マテリアル・コアと呼ばれる物理的身体で構成されています、私の知っている人はその事を理解できずに、動かなくなった私の体に抱きついて泣いていまいたたたっ」


「ふふ、随分と仲がよろしいのですね、何だか妬けてしまいます」


「セルゲイさんは、このお二人に説明をしていなかったのですね、あちらに見える機体もマキナを模して作られているのに」


 ナツメに抓られた耳を擦りながら、和やかに言い放ったマキナに我慢がならなかった。


「これ以上の茶番は御免だ!こちらの要求に答えてもらいたいマキナよ、中層にある資源を渡してもらいたい」


「…」

「…」

「…」


 何だ、何故黙るのだ?

私だけが爪弾きにされたこの場を壊してやりたかった。


「…総司令、ここで使われている資源がナノ・ジュエルなのです、話しを戻しますが…」


「もういい!話しは見えた!我らがカリブンを破棄していたせいでナノ・ジュエルとやらも量が減っているのであろう!それをこいつらに手伝いをさせると?本気で言ってるのかナツメよ!」


 どうして私が馬鹿にされなければいけないのか、誰のおかげで今日まで不自由なく街で暮らせてきたと思っているのか。勝手に進んでいく話しに我慢がならず、強引にこちらに引き寄せたが、新たに現れた奴のおかげで失敗してしまった。


「ふむ、ナツメが従っている総司令とやらは、随分と狭量のようだな」


 現れた初老の男を睨みつける。

この場だ、こいつらがどうではない。何よりも、私が今まで苦労してきた事を蔑ろにするこの場が気に入らなかった。必然と、私を馬鹿にしながら現れたこの男も信用がならなかった。


「初めまして、私はサニアと申します、あなたは?プエラさんのお知り合いでしょうか?」


「これは丁寧に、他のマキナ達にも見習わせたい礼儀さだ、よく見ておけプエラ・コンキリオよ」


「ふんっ」


「私はマギール、この中層に暮らす、人間の成れの果てさ」



21.b



 さぁ!今から宴の時間だ!待ちに待った殺戮の時間だ!

 エレベーターシャフトで撃破されたピリオド・ビーストもパワーアップさせている!我が兄弟もオリジナル・マテリアルで駆けつけてくれた!

 後は殺すだけだ!ようやく、ようやく私に課せられた役割を果たすことが出来る!


[ウロボロス!全力で行けいいな!力の出し惜しみは許さない!]


[いや、ディアちゃんちょっとテンション高すぎじゃない?大丈夫?最後まで持つの?]


[やさましいわ!さっさと行けぇ!]


[かしこまりぃ!]


 ウロボロスがピリオド・ビーストのマテリアルを操り、私がサーバーから視覚映像を通じて指示を出す。

 そばにはオーディン・マテリアルも一緒になってエディスンの街へ行進をしている。展開している駆除機体の数は総数で百機だ、一度にこれだけの数を製造するのは骨が折れた。だが!この景色は良い!大変良い!素晴らしい眺めだ...震えた。

 先行させた駆除機体は、最初の衝突で十機程破壊されたようだ。駆除機体はカウントできるが人間はカウントできないのがもどかしい。


(まぁいい)


「ん?何が?」


「…」


「…」


(頭の中が、聞こえているのか?)


「いやそうだけど」


(まぁいい)


 いやだからなんだよディアちゃん!と喚いているウロボロスを無視して、周囲を見やる。あと少しで街へ入ると言う時に、なだらかな坂の向こうから何かが飛翔してくるのを確認した、続いて胴体に衝撃が走る。


「ディアちゃん!」


「問題ない」


 胴体から上がる煙を認識しながら、坂の向こうを視覚を拡大して確認する。勇敢にも人間二匹が携行型ロケットランチャーを構えているのが見えた。


「そんなもので倒れると思うな人間!」


 とくに指示を出さなかったが、ウロボロスが進むスピードを上げ、そのまま人間二匹を踏み潰した、かに思えたが至近距離から再びロケットランチャーからの衝撃を受ける。受けた箇所まで調べるのが面倒だ。


「くそ!」


「慌てるな」


 小さすぎるのが問題だな、無論人間がだ。脚を上げて、下ろす時にはそこにはもういないのだ、全く不愉快。虫のように逃げ回る。


「ちょこまかとぉ!」


 ピリオド・ビーストの腕は不釣り合いに長い、その両腕を地面に向けてウロボロスが振り回した。腕の全長だけで十メートルはあろうかというその質量を、力任せに叩くのだ。地面は抉れ、大量の土が宙を舞う。そこでようやく虫二匹を始末したようだ、その手と腕には返り血が付いていた。


「あぁぁぁぁあ!!たまんないねぇ!!この色ぉお!!ほぉぉー!!」


「おい、うるさいぞ」  



✳︎



 まるで遊んでいるように人間を始末したピリオド・ビーストを尻目に、先程から周囲を索敵しているが奴の姿が見えない。


(金色の虫!)


 俺の頭を撃ち抜いた虫も気に入らないが、あの金虫が何よりも気に入らない。俺に語りかけ、心を暴き、騙り、そして丸太で吹き飛ばしたあの金虫だ。俺が正々堂々と叩き潰さねば!

 俺の役割は、テンペスト・シリンダーを仮想敵から守ることだ。いかなる敵からも守り抜く、そのために唯一攻撃手段を持たされたのだ。だが、それは本当なのか?俺よりも巨体を誇るあれは何だ?ディアボロスも自ら製造したピリオド・ビーストを介して、攻撃手段を持ち合わせているではないか。与えられた役割は甚だ疑問であった。だが!


(明確な敵を持つ事が、これ程有難い事とは思いもしなかった)


 何も気にする必要はない、役割も、立場もだ。思う存分に力が奮える喜びを、まさか虫ごときに教わるなど。


「ディアボロス!俺は先行させてもらうぞ!他の虫には些かも興味はない!」


[いいだろう、だが、深追いはするな]


 返事も返さずに足に力を込めて駆ける。馬の脚力とは違った走りだが、もうその事に感動することはなかった。

 ディアボロスと別れ、街の入り口を目指す。途中に虫らが設置した前線基地が見えてきた、金虫を炙り出すために手にしていた刀剣型デバイスをテントへ素早く振るう。簡単に薙ぎ払われ、中にいた数匹の虫をテントごと斬ったようだが目当ての金虫はいないようだ。


(どこにいるのだ金虫よ!)


 物足りない、前回の戦闘で一匹も倒せなかった虫を、こうも簡単に倒せたというのに物足りなさを感じた。そこで、聞き覚えのある声がした。


「アリン!こっちに来たよ!」


「言われなくても!」


 あの時俺の頭を撃ち抜いた虫だ、マテリアルに保存したエモートから、感情値に異常をきたしていると警告が鳴る。


「まずは貴様からぁ!」


 薙ぎ払ったテントのさらに奥、街の入り口を管理している小さな建物の影に虫を見つけた。


「アシュ!援護!」


 手にしていたアサルト・ライフルの弾がばら撒かれるが、肩に装着したマント型防護デバイスでそれらを防ぐ。


「効かない?!ふざけんな!」


 次は手榴弾を投げたようだ、さらに自然に爆発させるのではなく空中で狙撃し、俺の前で強烈な光が発生した、目眩しのようだが、


「甘いわぁ!」


 爆発する前に視界をシャットアウトし、素早く切り替えた。視界不良を防ぎ、逃げの手を打っていた虫に肉薄する。


「こいつ!何で効かないの!」


「アリン!」


 今度はさらに奥からアサルト・ライフルの射撃を受ける。さすがに何発かはオリジナル・マテリアルにもらったが、どうということはなかった。

 閃光手榴弾を投げ、器用にも空中で撃った虫を剣の間合いに入れる。

 刀剣型デバイスを振り上げ、虫の脳天目掛けて振り下ろす。当たる寸前、虫が横に回避したがそのまま拳で殴りつけ、数メートル先まで転ばせてやった。


「ぐはぁっ!」


「アリン!!」


 殴りつけた程度で血を盛大に吐く、そんなものか、俺が受けた屈辱はこんなものではない。

 油断はしない、勝機が見えたからと勝ったと思わない。それが虫を確実に殺す唯一の方法だ。

 殴られた衝撃で未だ立ち上がれない虫に剣を突き刺す、


「っ?!!」


 刺さる寸前に、刀剣型デバイスが大きく振れた。狙いは逸れて虫のかわりに地面を刺してしまった。

 デバイスを見やると穴が一つ空いているではないか。


(まさかっ!)


 また狙撃されたというのか?動く剣を正確に撃ってこの虫を守ったということか?何という...その技量、土壇場での集中力。


「アリン!今の内に逃げて!」


「…このくそったれザコビーがっ」


 至近距離からアサルト・ライフルの銃撃を喰らう。さすがにマントで庇う余裕はなかった。だが!その蛮勇が命取りだ!


「何発喰らったところで怯む俺ではない!」


「?!」


 銃撃を喰らっても引かない俺に、虫が驚いたような表情を見せる。

 デバイスを振り上げる時間すら惜しい、地面に突き刺さったままの状態で虫へとデバイスを振るう。


「もらったぁぁぁあ!!!!」


 虫を斬った手応えがない、あったのは金属に当たった感触、甲高い音共に虫を見やればアサルト・ライフルを盾にしているではないか。


(?!)


 地面に刺さったまま剣を振るったのが不味かったようだ、威力が落ちてしまいアサルト・ライフルで受け止められてしまった。

 だが虫は満身創痍、息の根を止めるのも時間の問題だ。


「辞世の句でも聞こうか、虫」

 

 歪んだアサルト・ライフルから剣を離さずに睨みつけたまま声をかける。


「…願わくば、ザコビー、死んで」


「糞虫がぁぁあ!!!」


 どこにそんな言い返す元気があるというのだ。ディアボロスの言う通りだ、こいつらの生命力は高い。こんな状態でも、生きようとするならまだしも、俺に勝とうとしているのだ。


「あら、あなた随分と勇ましくなったのね」


(この声は!)


 瀕死の虫も忘れて声がする方を見れば、そこには金虫が立っていた。あの時、人馬一体のマテリアルが大破し、意識が途切れる瞬間に見せた表情そのままに。


「かかってきなさいな、いくらでも相手にしてあげるわ」



21.c



 嫌だ...嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!せっかく...せっかく出会えたのに!離れたくない、行ってほしくない、でも...


「そんな顔をするな、プエラ」


 セルゲイさんに、本隊が襲われたと連絡が入ってサニアさんが先にこの場を離れた。マキナを模した機体から武器を取り出して、ナツメも本隊の援護に行くと言った。

 元々、私から離れるつもりだったの?


「…ナツメは最初から…」


「…あぁ」


 一言だけ、他には何も言わない。

話し合いも途中だった、怒り出したセルゲイさんでは話しにならなくて、どうしようかと思案している時に、お別れの時が来てしまった。最初にナツメは戻ると言っていたのだ、私の頭の中は、話し合いよりもどうやってナツメを引き留めるか、その事で一杯だった。でも、時間切れ、ナツメが行ってしまう。


「行ってどうするの?戦うの?助けてどうするの?」


「…生きていくためさ、私の街で、そのために援護に向かって、戦って、仲間を助けるのさ」


「私は仲間じゃないって言うの?!誰があなたの事を助けたと思ってるの!!」


 私の怒声にも、顔色一つ変えない。違う、こんな事を言いたいんじゃない...私は、


「世話になった、また会おうプエラ」


「まっ、」


 踵を返して、私から離れていく。その背中を見つめることしか出来ない。視界が揺らぐ、マテリアルの故障かと思ったけど違ったようだ。


「…お前さんもまた、随分と人間臭くなったものだな、プエラ・コンキリオよ」


 残されたのは、私とマギールとうるさい戦闘機だけ。

 下を向いていた私に、マギールが無遠慮にも頭を撫でてきた。ムカついてその手を振り払う。


「ふん、元気はあるようだな、儂をあの概念実証機に乗せろ、ここもいずれ戦場になる」


「だれがあんだなんがのぜるがぁ!!」


 涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃ、声も汚かった。こんな姿を見せたくなかったのでナツメがいなくて良かったとそう思ってしまい、もういないんだと余計に悲しくなってしまった。


「お前さん…」


 マギールの驚いた顔に唾でも吐きかけてやろうかという時に、獣の声を模した電子音声が聞こえてきた。ディアボロスが作った駆除機体と呼ばれるものだろう、初めてその不愉快な声を聞いた。


(あんなものがあるから、あんなものがあるからナツメは戦っているんだ…)


 ディアボロスの行動に間違いは無い。どう検証してみても、このまま人が増えると資源が足りなくなってくる。マギールの提案もただの延命にすぎない、いずれは資源もなくなり人そのものが、このテンペスト・シリンダーで生きる事が出来なくなってしまう。それが奴には分かっていたから、私が下層でくだを巻いていた時から対処し続けていたのだ。


「プエラよ、儂の我儘を聞け、いいな?!」


「…」


 黙って戦闘機へと向かう。乗りたければ勝手にしろ!いつでも空から落としてやる!


[…プエラさん、ナツメさんはもう戻ってこないのですか?]


 戦闘機に入れたやかましい奴が声をかけてきた。


「…やり取りを見ていたんでしょう」


[うぅ…何か、何かナツメさんにお手伝いできることはありませんか?]


「何かって…手伝ってどうするの?それでナツメは戻ってくるの?適当なこと言わないで!」


[プエラさんは…戻ってこないなら、ナツメさんを助けないのですか?全然優しくないんですね]


「このっ!」


「その子の言う通りだプエラよ、お前さんはまだまだだ、そんな調子だからナツメもお前さんから離れたのだ」


「こんのくそ二人!人の気も知らないで!私がどんな思いでナツメを助けたと思っているのよ!」


「ならもう一度助ければよいだろう、お前さんがいなければ駄目だと、ナツメに頼られるまで何度でもだ」


「!」


 マギールの言葉に、不覚にも思い知らされてしまった。


「儂がその手助けをしてやろう、指定する場所まで飛ばしてくれ」



✳︎



「テッド!右に二体!」


「聞こえていますよ!」


 質素な建物の向こう側に、ビーストが吠えながら僕達の後を追いかけている。爪で建物を傷つけているのだろう、金属で無理やり引っ掻く不快な音を聞きながら善後策を考える。

 途中、ザナカルさんや他の第一部隊の人達と合流して街の中へと入った。大挙として押し寄せてきたビーストから逃げるため、街の中へと避難指示を出したが、統率が取れていない民間人を守りながら移動するのは苦労した。いや、成功したのか失敗したのか全く分からない、守っていたはずの民間人らも気がついた時には近くにいなかったのだ。


「くそったれぇ!」


 罵声と共にライフルを撃つ隊員、建物の上からビーストが僕達に狙いをつけていた。


「しつこいぞこいつ!」


 入り口から程なく、川を挟んだ通りからつけ狙われている。本当にしつこい。

 僕も一緒になってライフルで応戦する。


「テッドさんよぉ!どこへ行けばいいんだ!いつまでも鬼ごっこしてるわけにもいかねぇぞ!!」

 

「少し黙っていて下さい!」


 空になったマガジンを交換しようという時に、前にいるビーストからではなく後ろにいた味方から攻撃されてしまった。


「ふざけるなよお前!誰の指示でここまでやって来たと思っているんだ!撃つ暇があるならどうするか考えろ!」


 後ろから殴られマガジンを落としてしまった。一瞬で頭に血が上る、だが建物の上からビーストが襲いかかってきて肝を冷やした。


(何のために戦っているんだ僕は!)


 距離を開けて予備のマガジンを探すが無い、落としてしまったものが最後だったようだ。だが、そのマガジンはビーストの向こう側にある。


「誰か!マガジンを渡して下さい!予備がありません!」


 誰も答えない、僕を見向きもしない。嘘だろ、そんな冗談今やるのか?と思うが、皆んな目の前のビーストに釘付けだ。手持ちにある武器は手榴弾が一つだけ、こんな密接した状態で使う訳にもいかない。

 ふと嫌な予感がした、確かもう一体いたはず...


「qtgtwpmg!!」


「!!」


 建物の横からもう一体のビーストが現れ、そのまま僕を目掛けて駆けてきた!そんな!


「みなっ」


 援護を求めようと思ったが、一人の隊員が僕に視線を寄越していることに気づいた。


「tptpmg!!」


 僕の上半身はあろうかと爪を身を屈めて躱す、躱したつもりが背中に激痛が走った。


「うぐぁっ!!」


 倒れそうになるのを堪え、つんのめるように前へ駆け出し振り返ることなく走った。今の僕に戦う手段はない、銃を構える意味もない。それに...


(僕がくじを引かされたということ?)


 背中にある痛みと熱さで少し朦朧としている状態でも、あの隊員に寄越された視線の意味は分かっていた。


(僕が貧乏くじを引いたというのか!助けなかったくせに!)


 助けてもらえなかったから引いたのではない、くじを引かせるために助けなかったのだ。僕を囮にして自分達が少しでも助かるために。


(いいさそれならお望み通りにしてやる!)


 もうあそこで戦っている連中に情も未練もない。自分が助かることだけを考えて逃げなければ!


「おい!テッド!囮なら囮らしくしやがれ逃げるな!」


 誰の声かも分からない罵声を聞きながら大通りへと走る。手にしていたアサルト・ライフルを狙いもつけずに放り投げる、幸運にも追いかけてきていたビーストの顔面に当たり、束の間時間を稼ぐことが出来た。


(僕が一体引きつけたんだ!これで十分だろう!)


 さっきの罵声を気にしながらも走りつづける。大通りに出て、隠れられそうな場所を探す。距離を十分に開けてからではないと、建物のような逃げ場のない場所に隠れるのは危険だ。

 白線のないおかしな道路を走りながら、周囲を見る。流れていた川は山へ向かっているのか、僕が走っている道には流れていないようだ。後ろを見ると、顔面にライフルを食らったビーストが僕を見つけ、執拗に追いかけてきたところだった。

 代わり映えしない建物の横に道があるのを見つけ、そのまま入る。今度は不運にも登り坂になっていたようで、幅の狭い階段が終わりの見えない向こうまで続いている。走ってきた勢いそのままに駆け上がる。途中で後ろからビーストの咆哮が聞こえ、まだ追いかけてくるかと、絶望と怒りで叫びそうになった時、







「テッド!!!」







 終わりが見えないと思っていた階段を登りきった先、ナツメさんがそこに立っていた。


(な、ナツメさん!)


 どうしてここに?何で僕のいる場所が分かったのか、いやたまたまなのか?それなら何て幸運なんだ、いや幸運なんてものじゃない奇跡だ。その奇跡に頭がどうにかなりそうだった、いや、どうにかなってはいけない!ナツメさんがいるんだ!ダサいところなんか見せられない!


「ナツメさん!後ろにビーストがいます!」


「見れば分かる!早くこっちにこい!」


 そう言いながらも、予断なく銃を構えながら足元を見ずに器用に階段を降りてくる。


「他の奴らはどうした!お前一人か!」


「知りませんよあんな奴ら!」


「武器はどうした遊びにでも来たのか!」


「後ろのビーストにあげましたよぉ!仲良くしたかったのでぇ!」


「馬鹿かお前!マガジンが無くなったぐらいで武器を捨てるな!」


「いりませんよあんな物ぉ!撃てもしないのに邪魔なだけでずよぉ!ぼぐはあなだがいでぐれだらぁ!!」


 階段を登ることに集中していたので、泣いていることに気づかなかった。

 顔を上げると笑っているナツメさんがそこにいた、ビーストよりも先にナツメさんが僕に駆け寄ってくれた。


「同感だな、私もだ」


「うぅぅう!がっこつけたこと言っでないで早ぐ撃ってぐたざぁぁい!!」


 腕を取られ、ナツメさんの後ろに回されたと同時に射撃音が聞こえた。

 ビーストの装甲に当たる甲高い音と、不快な叫び声をナツメさんの背中に抱きつきながら聞いていた。


「ば、馬鹿離せテッド!邪魔だろうが!」


 僕も何で抱きついたのか分からない、けど、


「もうどこにも行かないと約束してください!」


 抱きついた理由はそれが全てだった。もうどこにも行ってほしくないし、僕も離さない。


「いいから離れろ!照準が狂うだろうが!」


「む、胸!胸触りたいです!前にいつでもいいと言ってくれましたよね?!」


「今か?!今じゃないと駄目なのか?!」


 そう言いながらも、ちゃんとビーストを攻撃しているナツメさんは凄いと思ってしまった。ライフルの射撃で振動しているナツメさんの柔らかい体を、背中越しの体温と一緒に感じる。...幸せだと思った、僕のかわりに攻撃してくれているのに、結局ダサいことをしてしまったけど気にならない。

 射撃音が鳴り止む、それでも離れずにナツメさん越しに見たビーストは地面に崩れ落ちていた。


「何か言うことは?」


「…死ぬ間際に女を抱きたいと、喚いていた人の気持ちが良く分かりました」


「何なら私がお前の頭を撃ってやろうか?ん?」


 これはダメだ、怒っている。素直に背中から離れ、こちらを向かないナツメさんの横顔が赤くなっていることに気づく。


「いえ、訂正します」


「はぁ?何がだ」


 赤くなっていることに気づいていないのか、こちらを向き僕の顔を真っ直ぐに見るナツメさんに、


「抱くならちゃんと抱きたいでふぅぅ?!!」


 ほっぺたを鷲掴みにされてしまった。ちゃんと言いたかったのに...



✳︎



 何なんだ?こいつもやっぱり盛った男だったということか?まさか助けた勢いであんなことされるとは思いもしなかった。

 

「それで?どうだったんだ私の胸は」


「え」


「鷲掴みにしていただろうが、まさか…お前…」


「も、もう一度…いいですか?い、今のは無しで!無我夢中だったので今のは無しで!」


「知るかこのあほたれ!」


 崩れ落ちたビーストを足蹴にして、階段を降りていく。


「な、ナツメさん?!か、感触は残っていますよ?!あぁ、あれが、くそっ!何て勿体ないことをっ」


「本人の前で悔しがるな撃つぞ!」


「いいですよ!もう一度触らせてくれるなら撃ってください!」


「もういい!!」


 階段を降りた先は大通りのようで、同じように見える建物も細かい作りは違うように見えた。私のすぐ隣にある建物は、一階が広間のようになっており、空間と一体化した植物に目が入ってしまった。


「お、面白い建物ですね、ナツメさん」


 私と同じ事を思ったのか、機嫌を取っているのか分からない。


「そうだな、誰もいないようだしさっきの続きでもするか?」


「いやぁもうナツメさん!ほ、ほんとにすみませんでした…」


 尻すぼみで謝るテッドを見て、少しは溜飲を下げることが出来た。

 建物を出ようとした時近くでビーストの叫び声が聞こえた、テッドどふざけている場合ではないことを思い出す。


「テッド、手持ちの武器は?」


「手榴弾が一つきりです」


 ため息を一つ。


「お前…ほんとよく無事だったな、私が運良く見つけられたから良かったものの」


「はい…隊長はどうしてこちらに?確か、中層の方と一緒だったと聞きましたが」


 テッドの言葉で、今にも泣きそうになっていたプエラを思い出す。


「あぁ、お前にも後で説明するが命の恩人がいてな、紹介するよ」


「そう…ですか、僕からもお礼を言わせてください、その方のおかげでこうして隊長の元にいられますので」


「あぁ、あいつも喜ぶよ」


 周囲を警戒しながら、セルゲイ総司令らと交わした会話の内容を伝える。


「この中層にも、ナノ・ジュエルと呼ばれる資源はあるにはある、だが、私達が使っているカリブンの元になっている資源でな」


「はぁ…え?では、僕達はその、ナノ・じえるの使用後を使っていたことになるんですか?それとも原材料ですか?」


「…」


「え、何でしょうか」


「使用後だ、さらにメインシャフト内のエリアでリサイクルをされていたみたいでな、それを私達が知らずに使っていたという事だ」


「……循環区、ですよね?リサイクルされていた場所は、あそこの立入許可はどの部隊にも下りていなかったはずです」


「あぁそうだ」


 理解をするのが早くて助かる。ちょうど、総司令らと会話を交わした大型ドームが見えたところだった。

 三階建の建物の隣に立っている木のそばに、マガジンが装填されていないアサルト・ライフルを見つけた。射撃の際、噴き出る炎が撃っている人間の邪魔をするので、それを拡散させる消炎器と呼ばれる部品も歪んでいた。


「私の方から、破棄されたカリブンを再利用する案を進言したが、却下されてしまってな」

 

「何故ですか?それが実現すれば、資源の問題は解決するはずですよね?」


 捨てられたアサルト・ライフルに近寄りながら、


「さぁな、えらくご立腹だったよ、私とサニアが冷たくあしらったのが気にいらなかったのか、」


「隊長!上!」


 テッドの叫びで銃口を向けながら上を向くが、後ろからの衝撃で敵の姿を見ることが出来なかった。テッドだ、奴が私を庇ったのだ。地面に伏しながら素早く顔を上げた先に、爪が半ばで折れたビーストと、背中から血を流しているテッドが倒れていた。一緒血の気が引いたが、テッドは生きているようだ。


「撃って下さい!」


「wjptgmdwd!!」


 マズルフラッシュの向こう側で、遠ざかるように逃げ出すテッドと、それに追い縋るビーストが見える。

 私のせいだ、油断していた。落ちていたアサルト・ライフルを拾って、テッドをいじってやろうとしたのが原因だ。


(私は何てことを!!)


 変わらず待っていてくれたテッドに浮かれてしまっていた。それに怪我も負わせてしまった。

 がむしゃらに撃った、何が何でも私に引きつけなければ、攻撃手段を持たないテッドが危険に晒されてしまう。


「次から次へとしつこい奴らだ!くそったれがぁ!」


 ビーストがテッドから私に標的を変えようとした時、聞きたくもなかった懐かしい声が耳に入ってきた。


21.d



 テッドの坊やを囮にしてまで一体仕留めたというのに、また次が現れやがった。こんなくそみたいな戦いに終わりはあるのか?こんな所でヤンナみたいにくたばるのがオチじゃないのか?やる気もなければ、あるのは怒りだけだ。俺らをこんな所にまで連れてきた奴らが気に食わない。

 前線基地から一番近い市街地で戦闘を繰り返していた、生き残っている部隊も敵の数も分かりゃしない。

 そんな時に、巻いたはずのビーストが俺らの後ろに現れた。


「次から次へとしつこい奴らだ!くそったれがぁ!」


 弾の残りが少なくなってきたライフルを狙いもつけずに乱射する。当たろうが当たらなかろうが、とにかく遠ざける以外に生き残れない。

 建物の裏から通りへ出た時、しょんべんを漏らすかと思った。囮にしたはずのテッドと死んだと聞いていた隊長が、通りでビーストと戦っていた。


「お前、ザナカルか!」


「隊長…?!そ、それにテッドも」


「挨拶はいい!あいつを何とかしろ!」


 あいつ?ビーストのことか?無理に決まっているだろうが。


「そいつは無理ですよ!俺らもビースト引っ張ってきてますので!」


「…」


 俺の返事に答えず、マガジンを装填している。てめぇが聞いたんだろが!

 何か言い返そうという時に他の隊員らも、通りに現れて、偶然にも第一部隊が勢ぞろいした。


「おやぁ?おやおやぁ?ナツメ隊長じゃありませんか、これはいいな俺達はツイている!」

「マドルエの野郎もここに来られたら良かったのになぁ!せっかく隊長が体を許してくれたったのによ!」


「…状況は?」


 嫌そうに顔をしかめている。それは嫌だろうな、なんせ俺らはクソ呼ばわりされた隊員だからな。


「見ての通りさ」


「…ならいい、前線基地の様子は?」


 ビースト二体に囲まれているのにまぁ、何て悠長な。


「知ると思うか?俺らはここで、あんたのかわりにビースト相手に戦っていたんだ、そんな面される謂れはねぇぞ」


「…すまなかった、不在だったことは謝る」


 珍しい、あの隊長が自分から頭下げるなんざ。

 痺れを切らしたのか、様子を伺っていたビーストに動きがあった。爪が折れてしまっている奴と、俺らを追いかけていたビーストが互いに距離を保ちにじり寄ってきているのだ。こんな動きは今まで見たことがない。


「…テッド、逃げる算段を立てろ」


「…はい」


 逃さないつもりか?こいつらにこんな知恵があったのか?

 俺の前には、隊長とその隣にテッドの坊や、その少し後ろに残りの第一部隊の連中がいる、もちろん俺は一番遠い場所にいる。

 どっちが先に動くのか、先に動いた奴から殺されるのか、それとも...

 短く続いた緊張状態を、ビーストが破った。一番近くにいた隊長目掛けて襲いかかる。


(ビンゴ!!)


 俺はそのまま振り返り、逃げの一手を打つ。だが、


「なっ?!」


 背中に衝撃が走りつんのめってしまった。驚きながら後ろを向くと、マガジンが装填されていないライフルが転がっていた。


「誰だぁ!俺にこんなもん投げた奴!」


「ビーストです!ビーストが投げました!そんな?!」


「本気で言ってんのかてめぇ!ビーストが投げるかぁ!」


 爪の折れたビーストが、俺を見ていた。背中に悪寒が走る。

 固まった俺を標的にしたのだろう、迷わず進んできたビーストに戦慄し銃口を向けトリガーを引くが、


「?!クソっ!」


 弾切れだ、マガジンが空になっていた。

予備はある。隊長らに驚いて装填し直すのを忘れてしまった。


「援護しやがれぇ!」


 怒り任せに叫んだ声に隊長が応え、襲いかかろうとしていたビーストの横っ面に弾丸を叩き込んでいた。


「とっとと装填しろ!」


「てめぇらが悪いんだろうがぁ!」


 驚かせたお前らが悪い!

マガジンを装填し、今度こそ逃げる。他の隊員らも俺と同じ考えだろう、一度に二匹を引っ張った隊長に押し付けて逃げるつもりだ。


「隊長!後は任せたぜ!」


「たまには貧乏くじを引きやがれ!」


「皆さん!!!」


 坊やの叫び声が聞こえるが、そんなもんに構っていられない。

 俺らの後ろに流れている川沿いに逃げようとした時、隊長に張り付いていた一体が俺らに向きを変え、襲いかかってきた。


「なっ?!」

「ざけんなよつ!」


 隊長じゃないのか?!何でそうまでして俺らをつけ狙うんだ!

 隊員の一人が川へと叩き落とされ、次に銃を構えていた奴の首を力任せに引きちぎっている。今度は...俺か!!


「何でだよ!何で俺なんだよ!」


 ビーストの赤い目玉に睨まれた時、二度目の幸運が訪れた。


「んがぁっ!!」


 隊長の呻き声と共に、目の前にいたビーストのバランスが崩れた、足元から火花が散っている。訳も分からず俺も足元を乱射し、さらにバランスを崩したビーストに隊長が体当たりをかました。そのままビーストごと、隊長も川へと落ちていった。


「ラッキーだぜぇ!隊長たすかっ」


 今度は意識も飛ぶ程の衝撃、気づいた時には体の激痛と水に濡れた感触があった。


「なん…何が、」


 ぶっ飛びそうな頭で回りを見ると、近くで誰かが倒れてくる派手な音が聞こえた、そこを見るとまだ生き残っていた隊員も川の中へ突っ伏していた。 


「ま、まさか、」


 ビーストに落とされたのか?

川に落とされたことが信じられず、馬鹿みたいに突っ立っていると、少し離れた所にビーストも下りてきているのが見えた、さらに隊長に落とされたビーストも中腰で構えているのも見える。


「おいテッドぉ!何とかしやがれぇ!」


 不味い不味い不味い不味い!このままではろくに戦えもせずに殺されるのが目に見えてる!逃げる場所も無い、足場も悪い!最悪の状態だ。

 テッドが上から身を乗り出し、


「隊長!捕まってください!僕の手を取ってください!」


「お前!ふざけるな!助けるのは隊長だけか!」


 俺の呼びかけに答えない、まさか本気か?!


「てめぇ!この人殺しが仲間を見捨てるつもりかぁ!ビーストとかわらねぇだろうがぁ!」


 いくら罵声を浴びせても、こっちを見向きもしない。


「隊長!早く!後は僕が何とかしますから!」


 背中に傷を負った隊長が手を伸ばす。


「てめぇ本当だろうな!俺らを助けるんだな?!」


「早くっしてください!ナツメさぁん!!」


 隊長の手を取ったテッドが勢いよく上に引っ張り上げた。すんでのところで、ビーストの爪を躱す。


 そして、奴は俺らを見ることもなく、手にしていた手榴弾のピンを外して川へ...







「テッドぉぉおお!!!!!!!」

※次回 2021/1/5 20:00 更新予定

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