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第75話

.捜索隊結成(あと狼)



「ねえ知ってる?最近海で怪奇現象が起こっているらしいよ」


 変なのに好かれた、それが私の第一印象。


「だから何なの?」


 どれだけつっけんどんに言っても一向に怯まない。


「えーとね、確かレーダーが狂ってまともに進めなくなったり海の上を馬が走っていたり「いやそういう事じゃなくて」


 隣を歩いている彼女が指折りでその怪奇現象とやらを語ってくれた、けれど私が訊きたいのはそんな事ではなかった。


「何で私に引っ付くの?」


 政府発足の調査チームでエースを務める─とてもそうは見えない─彼女が、幼さが残る瞳を向けてきた。

 

「駄目?」


「いや駄目とか。昨日確かに喧嘩したよね?」


「え?喧嘩?いつしたの?」


 ダボついた制服を着た彼女が立ち止まる、次の航海までの間だけ在学する事になっているので貸与された物だ、本人の体格と合っていなかった。


「昨日。したでしょうが、勘違いすんなって」


「────いやあれは喧嘩って言わないよ、ただの会話じゃんか」


「というかさ、何でいきなりタメ口なの?色々と距離感おかしくない?」

 

「教官に教えてもらったんだけどさ、ハラヤシキさんって私と同い年なんでしょ?」


「あーはいはい、どうせ私は名前と性格が合っていませんよ」


「え?そうなの?名前は何ていうの?ファーストネームしか教えてもらってなかったんだよね」


 彼女が歩き出す、そして私も当然のようにその跡に続いてしまった。


「………シズク」


「へえ〜〜〜良い名前。あ、私は「ナディ・ウォーカーでしょ、今をときめく皆んなの的、誰でも知ってるよ」


 歩き出した足が再び止まっている、ウォーカーが「は?」という顔をしていた。こっちこそ、は?何だが。


「まさか目立っていないとでも思った?その逆、クソほど目立ってるからあんた」


「え〜〜〜何で………」


 今度は私が指折りで教えてやった。


「セントエルモのエース、特個体のパイロット、潜航のワールドレコーダー。役満じゃん」


「ちょちょちょ、え?誰がエースだって?」


「あんたが自分の事をどう評価してんのか知らないけど周りからしたらクソほど鬱陶しいと思うよ。毎日毎日ちまちまちまちま点数稼いでんのにあんたみたいな奴に来られたらそりゃ嫌気も差すでしょ、あーはいはいエースエースみたいな」


 昇降口を前にして固まっている、ウォーカーは心底愕然としている風だった。ほんと、は?何だが。


(本人はそう思ってないの?どういう事?)


 (いやもうほんと誤解しないでほしいんだけど一向に進もうとしないからウォーカーに向かって)手を差し出した。


「ほら行くよ」


「────ああ、うん」


 何でそう疑うこともせず手を握れるのか、いやというか手を握ってほしいんじゃないんだけど!周りに誤解されたらどうすんだ!



✳︎



(ああ!ああ!目を離した隙にあんな事にっ!)


「ごめんなさいね、参謀本部から急な連絡が入ったものですから」


 先を歩く職員の背中も目に入らない、私の視界にこびりついているのは──浮気現場!


(誰なのあいつ!)


 あんな気さくに手を握るだなんて尻軽な奴に決まっている!ナディは今一人ぼっちだからきっとそこにつけ入ったんだ!

 

(五万歩譲ってアキナミなら許せるけどあんな赤の他人は許せない!成敗してやる!)


 講義が始まる寸前だった、昇降口でナディを待っていた私を職員の方が呼びに来たのだ、何やら大事な会議があるから参加してほしいと。


(どうせ海路の話でしょうよ!パパに訊け!)


 思った通りであった。誰も利用していない通信室、一人モニターの前で聞かされた話はここ最近になって発生した怪奇現象についてだった。

 「全て眉唾物だがね」と語るのは海軍大将のペーストリー、胸の勲章と同じくらい目がギラついていた。


[だが、軍としてこれに対処せざるを得ない。船舶の航行に必要なレーダー類の不具合が必ず発生している、それから乗組員らの馬鹿げた目撃情報から推察するにカウネナナイが何れかの介入を行なっていると見ていいだろう]


 モニターには二つのワイプが表示されている、一つはペーストリー大将、あと一つは私の上司にあたるガーランド大将だった。


[その判断を支持する。我々としても哨戒隊を編成して警戒にあたらせるつもりだ。ただ、解せない事もある]


 言わずもがなと言わんばかりにペーストリー大将が口を挟んだ。


[その目的だろう、ウルフラグ籍の船を惑わせて何の意味があるのかという事だ。特別顧問から何か意見はあるかね]


 何かと会議の音頭を取りたがる海軍大将、それからそれを疎ましく思っているに違いない空軍大将の水面下の攻防を馬鹿ばかしく思いながら口を開いた。


「カウネナナイで言うところのハフアモアが原因でしょう。ウルフラグもセントエルモを三度結成して回収調査に奮闘していますから、その邪魔が目的かと思います」


 歳上大将が「そうだろうな」と大仰に頷いてまたぞろ話し始めた。


[これ以上の介入は国内の輸送に多大なダメージを与える。まずは政府からカウネナナイに対して抗議を行ない──[お待ちをペーストリー大将、それは出来かねます]


 待ったをかけたのはメインカメラに映っていた外務省の人間だった、名前は知らないがカウネナナイと交渉の席に着いている人物だろう。


[まだ確定した事項ではありませんので抗議は行えません、もしかしたらあちら側にも被害が出ているかもしれませんから]


 やんわりと釘を刺された歳上大将の目に剣がこもり、それを見ていた歳下大将の目に愉悦が走った。


(アホじゃないのこの人)


[そうは言うがね?現にこうして港から被害報告が上がっているんだ。この国は海の道に頼っているから輸送にも滞りが発生している、空軍の彼らに代行してもらうにも限界があるんだ]


[それに対処するのは国交省と海運庁です、お二人には海に出てもらって異常がないか確認をしていただきたいのです。勿論拒否して下さっても構いませんよ、ウルフラグ政府に命令権はありませんから]


 きっとこの人も軍トップの旗取り合戦に興味がないのだろう、私もそうだ。

 そのくだらないビーチフラッグの第二走者であるガーランド大将が口を開く。


[コールダー顧問には被害を受けた港の精査を頼みたい。まさか国内全ての港がそうだとは思えんが、ある程度の傾向性は掴みたいと思う]


「私ではなく直接カイルに頼まれてはどうですか?そっちの方が早いでしょう」


[断られたから君を喚んだんだ]


 ...断られた?パパが軍の要請を断ったというの?


(──何で、そういう決まり事があったはずなんだけど……)


 曖昧な返事を返すとペーストリー大将が息を吹き返した。


[それも必要だと思うが、実際に起こった事をまとめておく必要もあると思う。コールダー顧問はどう考えているかね]


 何で私やねんと思いながら答えてやった、きっと味方がほしいのだろう、この場限りの。


「それも必要かとは思いますが、さすがに海の上を馬やチャリオットが走っていたというのは調べようがありませんよ」


 ただの幻覚だろと心底思う。

 この情報が寄せられたのは今からちょうど一週間前、ハウィの港を出た船が南南東、つまり自然公園群を擁する山脈側を迂回路としてキラ周辺の港を目指している時だった。

 方角にしてさらに南東、カウネナナイ領プロイの島から一二頭の馬、四騎のチャリオットがウルフラグ方面に走って来たと報告があった。

 当初はパニックになった乗組員の幻覚だと処理されていたが、それから日を置かずして他の船からも同様の報告が上がるようになった。そのどれもが馬であり、やはりチャリオットと呼ばれる古い時代の戦車であった。

 そして、そのいずれの報告には『途中で見失った』とあり、誰もが直近で確認していなかった。

 ネット上でもこの件について様々な憶測が飛び交い、その最も有力な説は『シルキーの仕業だろう』というものだった。政府として、また国防軍としてもどちらかと言えば隣国の介入を視野に入れて対処せざるを得なくなっていた。だからこうして臨時の対策会議に呼ばれてしまったのだ。

 馬鹿ばかしいの一言である。


(だったら遠洋に出ているアキナミはどうなるんだっつう話よ──ん?そういえばあいつが帰ってくるのって年明けのはずよね……)


 ビーチフラッグにご執心の二人ではなく、外務省の人間に質問した。


「失礼、ユーサから何か被害報告は上がっていませんか?」


 訊かれた外務省の人間が手元の資料を確認し、そして答えた。


[ありますね、第一港からも昨年末から遠洋に赴いている船が帰ってこられないとの報告が寄せられています。国交省の方で現在対応中らしいですが……状況は芳しくないようです]


「そうですか……」


[知り合いでもいるのか?]


 ガーランド大将に尋ねられたので素直に答えた。


「はい。ウォーカーと共通の友人がその船に乗っているはずです」


 一体どこに反応すればそんなに気を良くするのか、ペーストリー大将が嬉々として口を開いた。


[で、あれば尚のこと速やかに対処しなければならないな。セントエルモ有望の若人を助けるためにも一肌脱ごうではないか]



✳︎



「だが、実際問題ここは筒の中なんだ。本物の地球のようにぐるりと一周することは不可能なはずだろう?そのプロイという島からウルフラグのキラ方面に現れたんじゃなくて、外から何かが侵入してきたんじゃないのか?」


 と、ゼウスさんが用意した地図を見やりながらナツメが最もな事を指摘した。

 カウネナナイのプロイは北に位置し、ウルフラグのキラは南に位置する。ここが本物の地球なら行き来は可能だが筒の中だ、壁に囲われているのでどうやったって行き来は不可能である。

 軽空母バハーと呼ばれる船の中の一室、どうやって乗船したのか不明なゼウスさんがナツメの指摘に自信を持って答えた。


「それは無いと断言するよ。マリーンを囲っている半永久自己修復壁に何も問題は無い、あればラムウから報告があるはずだしね」


「じゃあその馬が走って来たというのは何なんだ?映像とかないのか?」


「見てみる?」


 「いやあるのかよ」とナツメが突っ込んだ。

 ゼウスさんが士官室の固定されたモニターを操作して一本の動画を再生し始めた、どうやら船の監視カメラからの映像のようで、何も無いだだっ広い海が映し出された。

 シークバーを操作して該当の映像に切り替える、そこには驚きの展開が待っていた。


「何じゃこりゃ」


 本当に馬が走っている──ように見える。馬の足の動きに合わせて水飛沫が上がっており、ランダムな動きをするはずの波の高さに合わせて馬が上下に揺れていた。

 こりゃどこからどう見ても馬が海を走っている。


「私てっきり仮想展開風景の故障かと思ってたんだけど」


 うんうんとゼウスさんも頷く。


「僕もそうだろうと思っていたんだ。これを報告してきたラムウを問い詰めたんだけどね、何も関与していないの一点張りだったよ」


 外からの侵入説を強く推すナツメが再びその話しを持ち出した。


「やっぱりその自己修復壁に問題があったんじゃないのか?前も確か、マリーンの水位が上がっているとかで遁走していた「逃げてどうすんの。それを言うなら奔走」……頭を抱えていなかったか?」


 コスプレなのか、水夫のようなセーラー服を着ているゼウスさんが「良く覚えているね」と首をかいた。


「ま、それはそれ、これはこれで捉えてくれる?いっぺんに問題を解決しようとするとさらに問題が起こるからさ」


「経験者の言うことは違うな」


「で、実際問題これは一体何なんですか?ナツメの言う通り本当に外から来たものなんですか?」


「だから違うって、それは違う。そもそもこんな技術力はどこのテンペスト・シリンダーも持ち合わせていないはずだよ。作る意味も無い」


「意味があれば作ると?」


 黙るゼウスさん。


「おいゼウス、いい加減──「はいはい違う違う。とにかく君たちには先んじてこいつらの調査をお願いしたい、ドゥクスとラムウには話を通しておくからひとっ飛びしてくれる?」


「また簡単に言いやがって……あの機体、癖が強すぎて未だに慣れんのだが。結婚逃しにバルバトスの使用許可取り付けてくれないか?」


「ああ、それなら君の恋人がもうやってるよ。というかそろそろこっちに来るんじゃない?」


「え?」

「え?」


 冷たい汗が背中を伝う。え...前に言っていた応援ってもしかして...

 情けなさが五臓六腑に染み渡る。がしかし、言わねばならない事は言わねばならない。


「──今すぐ飛んできましょうか?」



✳︎



 私がセントエルモのエースう?にわかには信じ難い。大方、政府発足の調査チームで最年少を務めているから尾ひれが付いただけだろう。──と、思っていた。

 その人が私たちのクラスに現れたのは授業中のことだった。教官の声しか響かない静かな教室で軽やかなノックが唐突に聞こえたので皆んなが扉に集中した。


「少しよろしいですか?」


「──え?どうかされましたか?」


 教官と短いやり取りをした後、私に視線を向けてきた。


「ウォーカーさんこちらに、空軍本部から会議の要請がありました」


 騒つく教室、刺さる視線。


「コールダーさんが視聴覚室にいますので一緒に参加してください」


「──え!」


 ライラも一緒なの?思わず大きな声を出してしまった。

 

(う〜ん………)


 途端に周りの視線が気にならなくなり、まあいいやとタブレットの電源を切るとさらにお呼びの声がかかった。


「それからハラヤシキさんも付いて行ってください」


 教室がさらに騒つく、教官が注意しても静かにならなかった。


「どうして私なんですか?セントエルモじゃありませんよ」


 と、反論しているけれど頬が薄らと上気している、どこか嬉しそうだ。


「あなただけではありません、他の候補生も視聴覚室に集合しています。詳しい話はガーランド大将からしてくれるでしょう、お二人とも急いでください」


 小波から大波のようになった教室を二人で後にし、呼びに来た人の跡に続いた。

 隣を歩くシズクは頬が上気したまま緊張しているようだ。


「何でシズクまで呼ばれたんだろうね」


「聞いてなかった?ほかの奴らも呼ばれてるんだよ、私だけじゃ「静かに、今は授業中です」


 ぴしゃりと注意を受けてしまった。

 黙って歩き続けて到着した視聴覚室では言っていた通り他の候補生もちらほら、そして一台のモニターの前にはライラが一人で座っていた。視線を落として手元を見ている、きっと携帯か何かをいじっているのだろう。

 「直に始まるから座って待っているように」と言われたので適当な所に座り、私の真ん前でヤンキー座りをしたシズクが「ん?」と何かに気付いた。


「どうかしたの?」


「あの人……ねえ、あの人ってコールダーって人だよね、髪が白くてお姫様みたいな人」


 本人にバレないように小さく指をさしている、見るまでもなくライラのことを言っていた。


「……それが?」


「私、双子でアカネっていう妹がいるんだけど前にあの人とデートしたって自慢してたんだよね」


 ──デート?


「……そうなの?」


「写真見る?」


 急にお喋りになったシズクが携帯を取り出し一枚の写真を見せてくれた。──確かにライラと大人しそうな女性が自撮りで映っている、場所はバスの中、移動中のようである。


(……ほんとにデート?ライラ物凄く面倒臭そうにしてるけど……)


 ちらりと視線を向けるとぶつかった。


「…………」


 ライラの目が徐々に開かれ今にも溢れ落ちそう、何なら少しだけ潤んでさえいた。


(あ、マズい。私ちゃんと説明してなかった)


 マズいマズいと思ったが遅かった、スピーカー越しにガーランドさんの声が響き渡った、さらに良く見やれば結構な人数の候補生たちがいた。


[招集に応じてくれて感謝する。先んじて言うが、君たちパイロット候補生たちには空を飛んでもらいたい]


 やっぱり選ばれて上機嫌になっていたシズクが遠慮なく「っしゃあ!!」と喝采を上げていた、他の候補生たちも似たような反応だった。

 騒がしくなった視聴覚室でもガーランドさんが私を呼ぶ声は良く届いた、すっかり取り繕うつもりがなくなったシズクが「あんたばっかり!」と肩を叩いてきた。まあまあ痛い。


「こっちの身にもなれ」


「大将に名前を覚えられることがどれだけ名誉ある事だと思っているんだ!これだから特別扱いされた奴は!」


 なんか良く分からんけど仕返しにシズクの肩をばちこん!と叩いてやった、とても筋肉質だったことに驚き、ここにいる他の候補生たちも同じだろうとすぐに思い至った。

 私と違ってパイロットになる為にここへ来たのだ、訓練と勉学に励み、数ある候補生の中から選ばれた、嬉しくないはずがない。


(何で私が………)


 またしても多種多様に刺さった視線を感じながらモニターの前に向かう。

 ライラと何やらやり取りをしている様子、こっちを見ることなくすいとスペースを空けてくれたので遠慮なく隣に座った。


[ウォーカー、ちょっとはその頑固な頭「ちょっとだけいいですか?すぐに終わりますので」


 マイクをミュートにしてライラを見やる。向こうも何事だと、少し悲しみに染まる瞳を向けてきた。


「ごめんね、私こっちにいる間ライラに甘えるのは止めようって思ってて」


 それだけで伝わったらしい、下がっていた眉がすぐにピンと戻った。何かを口にしかけたライラに言葉を重ねた、言わねばならない事は言わないといけない。


「それでさっ「それと、あの人の名前はシズク・ハラヤシキっていうの。双子の妹がいるんだって」


 半端に開いた口が固まっている、元々白い肌をしているのに見るからに白くなっていた。


「写真も見せてもらったから。今日時間作れるよね?」


「……………はい」


 マイクをオンにしてモニターに向き直る、こっちもあからさまに機嫌が悪くなっていた。


「もういいですよガーランドさん、お待たせしました」


[大将である私を待たせるのはせいぜい総理大臣ぐらいだったんだがな。いやはや知らないうちに格が下がったもんだ]


「そういうくだらない皮肉ばっかり言ってるから他の軍と喧嘩するんですよ。私たち歳下には威厳ではなく懐の深さを見せてください、そっちの方がウケが良いですよ」


 ガーランドさんが(`Д´)ノシみたいな感じで唾を飛ばしてきた。



[──ったく!同じセレンの出身だからと最初に甘く接したのが間違いだったよウォーカー!いいか!これからは他の候補生同様に厳しくしていく「もう十分厳しいですよ」だから人が喋っている時に口を挟むなっ!!………はあ、もういい。──おっほん!失礼した、ではこれより説明に入る]


 ようやっとだよ。


[君たちも知っての通り現在ウルフラグの海で怪奇現象なるものが発生している、その真偽は定かではないが実害を被っている船舶が存在するため、君たちパイロット候補生には臨時の捜索兼救難隊として明日より出動してもらう運びとなった。作戦指揮は私、現場指揮はコールダー顧問、救難隊の隊長はウォーカー特別候補生が行なう「はああああ?!」


 私が隊長?!いやいや...いやいや...


[捜索対象はユーサ所属の遠洋魚猟船一隻と工船一隻、凡その位置はユーサ第一港より南南西二〇〇キロ地点、海運庁と連携を取って今日まで帰港できるようやり取りを続けていたが、積み込んだ生活物資が既に枯渇しつつあるため今回の作戦が決まった。質問は?]


 すぐさま挙手する、なのに別の候補生の質問を受け付けていた。


「レーダー類の故障とありますが、特個体に影響はないんですか?」


 ガッチガチに緊張している割にはとてもまともな事を尋ねている。そうそうこういう人が隊長をやるべきなんだよ、それなのに何で私が...


[現在のところは確認されていない。他は?]


 また別の候補生を差した。


「一連の怪奇現象はシルキーが原因だと噂されています。戦闘状況になる可能性はありますか?」

 

[無いとは言い切れない。だが、君たちに攻撃許可を与えるつもりはない、つまりシルキーを見かけたら全力で逃げろ]


 ずっと手を挙げているのに全然差してくれない。お次はライラだ。


「何故候補生に要請をかけたのですか?飛行隊に一任するのが最も安全で確実かと思います」


[彼らにはカウネナナイの監視に就いてもらっている。先日の接触で明るみになったヴァルキュリアの離反や厚生省が隠していたエセシルキーなど、日に日に情勢が慌ただしくなっているため今回の作戦に飛行隊を割くことができなかった、だから君たちに声をかけた]


 ライラへの返答を終え、ガーランドさんが「他に誰もいないようだな」と勝手に終えようとしていた。今度は私が唾を飛ばした。


「この手が見えないんですか!勲章には真っ先に目がいくくせに!」


 かっ!と眉を釣り上げ、すぐさま平静を取り戻したガーランドさんがやれやれといった体でようやく私を差してくれた。


[……で、質問は何かな?]


「どうして私が隊長なんですか?!」


[ウォーカー特別候補生以外に質問する。この中で戦闘経験がある者は手を挙げろ]


 ばっ!と後ろを振り返る、勿論誰も手を挙げなかった。


「いやいや…いやいや…それだけの理由で隊長をやるんですか?だったら正規のパイロットは皆んな隊長じゃないですか!」


[経験の有無だけではない、君の咄嗟の判断力を考慮して選んだ。この言葉は受け売りだが、時として戦場では命令より現場の判断が生存に繋がる事がある。候補生らにそれを期待するのは難しいが君になら出来るだろう?現にこうして私に噛み付いているんだから]


 駄目だ、この調子なら何を言っても無駄だ。

 こうなったら自分から傷口を広げてやる!

 ガーランドさんから皆んなに視線を変えてこう叫んだ。


「──皆んなもいいの?!私みたいなぽっと出の人に大事な隊長を取られて!それに皆んな私のこと嫌ってるんでしょ?!」


 しん、と静まり返っている、誰も何も言わない。──シズクが、昨日もしてくれたように皆んなが言わないようなことをわざわざ言ってくれた。


「嫌ってるんじゃなくて妬んでるだけ。本当に力が無いならそもそもこんな所に来れないよ。あんたはさ、あのラズグリーズのパイロットに勝ったんでしょ?」


 痛いほどに刺さっていた視線が少しだけその毛色を変えた、それは"羨望"だった。


「勝ったって言わない、あれはラハムのお陰だから」


「──ラハム?あの色ボケピンクのラハム?」


 そのあだ名はどうかと思うが肯定した。


「そう!ラハムが火器の担当をしてくれたの!私は何もしていない!ただ乗ってただけだから!」


 その羨望の眼差しが失望に変わりかけたところで別の候補生から質問があった。


「でも、あなたは自分から立ち向かったんですよね?民間船に狙いを付けていたガングニールの横っ面を跳ねて危機から救ったと教えてもらいました。あなたが自分の判断でそうしたんですよね?」


 さっきよりさらに濃いしじまが支配した、誰もが私の言葉を待っていた。

 ...観念するしかなかった。


「……………はい、私がやりました」


[結局茶番にしかならなかったが、ウォーカー特別候補生が隊長を務めることに反対する者がいれば名乗りを上げろ]


 言い方悪くないですかそれ。いやどのみちか...やっぱり誰も何も言わなかった。


[よろしい。では、コールダー顧問以外は解散とする、既に教官たちには話を通しているから各自訓練機の調整に入ってくれ、後のことはコールダー顧問とそちらの教官たちに任せる。期待しているぞ、そこの跳ねっ返りに遅れを取るなよ、今日まで培った努力の成果をウォーカーに見せつけてやれ]


 そう発破を受けた候補生たちが─シズクも含めて─声を揃えて「はい!」と返事を返した。



[──先程内閣府から発表がありました通り、昨今話題に上っている怪奇現象についても調査するとの事ですが、先生はこれらの現象についてどのようにお考えですか?]


[馬鹿ばかしいの一言ですよ、海の上を馬が走ってどうなるっていうんだい、それに十二頭だって?面白い事になっているじゃないですか。カメラを回して特撮映画の足しにでもしたらどうでしょうかね]


 そのカメラを明日から回しに行くんだよと、心の中で突っ込みを入れる。


「大変な事になりましたね、セントエルモの休暇中にまさか空軍の部隊に入れられるだなんて」


 車を運転しているのはテジャトさんだ。ゆっくりとしたスピードで副首都のビレッジ・クックに向かっていた。

 後部座席に並んで座っているアルヘナさんが話しかけてきた、今日も今日とてアルトの声、周りの車の音にも負けず良く耳に届いた。


「ビレッジ・クックにお知り合いがいるのですか?寄り道だなんて珍しいですね」


「あ、はい、ちょっと用事があるんですよ」


 二人にはこうして送ってもらえる事がある、調査中の警護以外にも仕事があるのでたまにだが。


「どこで降ろせばいいですか?」

 

 ビレッジ・クックにあるライラの自宅は都心のど真ん中、らしい。もう既に見えているレアノスの地上エントランスで待ち合わせする約束をしていた。

 どこそこここにと伝え、どうせなら二人も買い物していったらどうだと話すと、まずアルヘナさんがキョドった。


「いやいや仕事中ですのでそういうのは恋人とするものですよきっと」


「恋人じゃなくても買い物ぐらいすると思うんですが……」


 次にテジャトさんがキョドった。


「──あ!道間違えた!……あ〜くっそ、ここ一通だからまたぐるりと……だから都心の道路は嫌いなんだよ」


「あの、そんなに急いでいませんのでゆっくりと……」


「すみません、情けない兄で」


(な、何なんだ?二人で買い物ぐらいと言っただけでこの反応………まさか、いやいやまさか)


 ──突くのは止めておこう。でも妄想はしておこう。

 変な空気だけど居心地は悪くない中、ライラとの待ち合わせ場所へ向かっていった。



✳︎



 時計の針は天辺を大きく回っている、つまりはもう夕刻である。朝から始まった会議がようやく終わりを迎え、薄暗い視聴覚室を後にした。

 もうくたくたである、長い会議はいつになっても慣れない。あーだこーだと、会議の本質を見誤ったかのように自己主張を繰り返すだけ、聞かされる身にもなってほしい、あれではただの"観客"だ。


(なるほど、デウス・エクス・マキナは案外長ったらしい話から観客を救う為に生まれたのかもしれないわね)


 その長い会議のせいで今日の授業は全て無し。それに今からビレッジ・クックで借りた家でナディと話し合いである。

 ナディと言えばあれは何だ、大将に向かって放った暴言の数々、全てが的を得ていたので聞いてるこっちとしては気分が爽快だった。


(威厳より懐の深さ。あんな言い回しどこで覚えてくるんだろう)


 私が通う教室に寄って荷物を取り、昇降口に向かっている時だった。後ろから「ライラさああああん!!」と大きな声で呼ばれてしまった。

 捕まりたくなかったのでそのまますたすたと歩き続ける、面倒臭そうだ、けれどすぐに追いつかれてしまった。


「──何で無視するんですか!ラハムがこんなにも呼んでいるのに!」


「どうせナディに見捨てられる〜とか他の人に取られちゃう〜とかでしょ、面倒臭い」


「そんなちっぽけなラハムじゃありませんよ!「そうね、胸だけはデカいもんね」──そんな事より!明日!ラハムは同乗禁止だと言われてしまったのですが?!どうしてですか?!」


「──え?何その話」


「ライラさんとガーランドさんのお二人がそう決定されたと聞いたのですがっ………違うんですか?」


「はあ?何その話、私が禁止なんかするわけないでしょ。誰がそんな事言ってたの?」


 聞けば教官からそういう指示があったらしい。勿論私は何も言っていないしそもそもさっきの会議でラハムのラの字も上がらなかったのだ。


(となれば……)


 すぐに電話をかけた、相手はガーランド大将だ。

 端的に尋ねた答えは簡潔だった。


[ただの仕返しだ]


「あのですね……[待て待て、確かに私の個人的な感情もあるがあいつもそろそろ操縦に慣れてもらわないといけない。それに明日からの作戦はただ空を飛んで異常がないかその確認と船の誘導だけなんだ、だから今回ラハムは除外した]


「まあそういう事でしたら……」


 ふんふん鼻息を荒くしてラハムが聞き耳を立てていた。『少しは離れろ』と意味を込めてデコピンを打ってやった「痛い?!」


[それとだな、さっきのウォーカーの言葉はどう思う?]


 黙っていると今度は向こうから質問があった、何を訊かれているのかすぐに分かったので私も簡潔に答えた。


「その通りだと思いますよ」


[威厳より懐の深さか……格好良さより優しさという事か?]


「ええ、私も大将の格好良い所より会議を早く終わらせてくれる気遣いの方が見たいですね」


 電話口で大将が唸った、クリーンヒットしたらしい。こっちも我慢していた分、皮肉に力がこもったのかもしれない。

 逃げるようにして大将が電話を切り、固唾を飲んで見守っていたラハムに説明してあげた。全然納得していなかった。


「シルキーが出現したらどうするつもりなんですか!危険が潜在している事に変わりはないんですよ!」


「それについては──」


 一部の飛行隊がスクランブルできるよう待機してくれるらしい。今回の作戦は言わば候補生らの試験も兼ねているので、いざという時の助けがある事は伏せていた、そっちの方が候補生らも集中できるからという理由だった。

 ようやく納得したラハムが掴んでいた私の腕を離した。


「むぅ〜〜〜まあそういう事でしたら……」


「いいじゃない別に、どのみちラハムはナディと一緒なんだから。どこまで独り占めしたら気が済むの?」


「命尽きるその時まで」


「はいはい。じゃあ私行くからね」


 馬鹿な事を言ったラハムに背を向けて歩き出すが、途端に静かになったので不思議に思い出入り口手前で振り返った。

 

「何?まだ何か言いたい事でもあるの?」


 ラハムが意を決して口を開いた時、タイミング悪く─あるいは良く─誰かに名前を呼ばれていた。


「いたいた!ラハム〜!外に繰り出そうぜい!」


 賑やかそうなグループが昇降口に現れ、私の存在に気付くと「わっ!」とか言いながらさっさと引っ込んでいった。

 行くか行くまいか、思い悩んでいるようだったので私なりのアドバイスをしてあげた。


「友達は大切にした方が良いよ、たとえそれが弁当で釣っただけだとしても。あんな風に気さくに呼びに来てくれるんだもん、私が学生だった時は誰もいなかったから」


「……ライラさん。分かりました」


「ま、私は今からナディと二人っきりになれるんだけどね」


 鬼の形相で追いかけてきたラハムから今度は逃げ切ることができた。



「ちょ、ナディ──」


「どこに行くの?まだ話終わってないよ」


 何だかんだと充実しているラハムと別れ、待ち合わせ場所のレアノスに到着し、そこから程近い私の仮住まいに案内した直後の事だった。


「こ、怖いんだけど……」


「そりゃ怒ってるからね」


 待ち合わせした時から口数が少なかったナディが家に入った途端だった、ぐいと腕を掴まれ首筋を噛まれたのだ、どこの獣かと思った。


「あのさ、ライラはさ、色んな人からモテるんだからもうちょっと警戒とかした方がいいんじゃない?」


「それ、自分で言うの?」


「今はライラの話をしてるから」


 初めて招待する私の一人暮らしの家、あれこれ見せてやろうと予定を立てていたが全部おじゃんだ。

 涼しい顔をして激情に駆られているナディがまた私に近づいてきた。ソファを跨いで荒々しい足音を立てている、怖いったらない。

 暖房もまともに効いていないのに互いに汗をかいていた、怖かった私はまた逃げ出そうとするがまたしても難なく捕まってしまった。襟首を掴まれ乱暴に引き寄せられる、目の前にある彼女の口が薄らと開き、獣のような息使いをしていた。


「アキナミにキスされるし、アカネって言う人にも隠し撮りされるし。それを聞かされる私の身にもなってくれない?普段怒らないからって何をしても平気だと思ってた?」


「ち、違う…そんなつもりは…」


 怖い、ギラギラに輝くナディの瞳は狼のようであった。そして私は今から食べられる小動物そのもの。

 はっきりと言って凄く"興奮"した。

 またナディが私の首筋を噛んできた、片方の手で私を押さえつけ、そしてもう片方の手で全身くまなく触られて──。


 はっ!とした時はもうベッドの上だった。


「………………」


 全身を揺蕩う甘い怠さを先に自覚し、そして下半身が重たいことに気付いた。シーツを捲って自分の身体を見やれば下着も付けていない、生まれたままの姿になっていた。


(──ああ、そういう事……ああ、そういう事か……)


 首筋や胸の辺りを撫でると少しだけベタついた。きっとナディはシャワーでも浴びに行っているのだろう、ベッドの傍らには彼女の下着が無造作に落ちていた。

 ぼんやりと、けれど確かな満足感を感じながらベッドに寝転がっているとナディが部屋に戻ってきた。買ったばかりでちっとも水分を吸ってくれないバスタオルを胸に巻いただけの姿である、しかしどこか様子がおかしい。


「…………」


 薄く開いた扉の向こうからこっちを観察している、何だ何だと声をかけた。


「ナディ?そんな所で何やってるの?」


「いや……もう大丈夫かなと思って」


 え、何でそんなに怯えてるの?


「何が大丈夫なの?」


「もう噛むのは止めてね」


「いやいや、先に噛んできたのはナディでしょ?言っておくけどマジで怖かったんだからね」


「それはさっきも聞いた」


 ──え、どういう事だ?確かに私はナディと体を重ねて...記憶が曖昧なんだけど確かにそうだ、そうに違いない、でなければこの甘い余韻は一体何なのかという話になってくる。

 そろりそろりと、大丈夫だって言ってるのに距離を取りながら自分の下着を回収しているナディに飛びついた。


「──ああ!食べられるう!!」


「だから大丈夫だって言ってるで──何この歯形、血だらけじゃんか……」


 飛びついた拍子にバスタオルがはらり、全身のあちこちに歯形がついており薄らと出血している箇所まであった。──誰?これやったの、まさか私?


「え、まさか覚えてないの?」


「………幸せだった事は覚えてる」


「ええ〜〜〜嘘でしょ?あんなに噛んでおいて何も覚えてない?私本当に食べられると思ったんだからね」


「ちょちょちょ、え、え、え………したんだよね私たち、そうなんだよね?」


 ナディがくわっ!と顔色を変えて手を払い退けた。


「できるか!あんな暴れ回った相手に何ができるっていうの!まな板の鯉を見習いなよ!」


「何その例え!え、じゃあこの怠さは何?!お腹が重たいんだけど何なのこれ?!」


「知らないよ!ちょっとぐらい私に預けてくれても良かったじゃんか!それなのにライラときたら……腹を空かせた狼か!狼の方がまだ可愛いよ!」


「だから何その例え!え──もしかして何もしてない……?」


「何もできなかった。私はめちゃくちゃにされたけどね、見事な返り討ちだったよ」


 あ、そういう事?もしかして興奮し過ぎて私が責めてばっかり的な...?こんなのってある?初めてなんだよ?


「ええ〜〜〜何それ……」


「こっちの台詞なんだけど……ライラもシャワー浴びてきたら?」


「うんまあ……というかこのベタつきは何?何もされてないんなら何でこんなにベタつくの?」


「──っ?!?!?!?!」


「え?ちょ──ナディっ……行く!シャワーに行くから!無理やり押すの止めてっ──」


 顔を真っ赤に染め上げたナディに部屋から追い出されてしまった。



「ラハムとは最近どう?」


「ん〜?別に、普通だけど。ラハムに何かあったの?」


「別に〜構ってほしそうにしてたから。ちなみに明日からの作戦にラハムは同行しないって聞いてる?」


 ナディがフライパンから手を離し、キッチンテーブルに置いていた携帯を手に取った。何をするのかすぐに分かったので私も野菜を放り込んだボウルから手を離し、彼女の愚行を止めてあげた。


「諦めて」


「ちっ。え〜〜〜私一人ぃ〜〜〜?ヤだな〜〜〜」


「しょうがないじゃんか。言っておくけどナディって結構大将から期待されてるからね」


「ちっとも嬉しくない。というかただの船上作業員に何を期待する事があるのか」


 悪態をついたナディが再びフライパンを握り、二人分のお肉を丁寧にひっくり返していた。


「それも昔の話でしょ。あながちセントエルモのエースって例えも嘘じゃないんだから、立場に合った態度を取らないと周りから恨まれるよ」


「へいへい。それよりキング大佐って人はどうなったの?」


「知らない」


「薄情な……呼び捨てにされる程仲良かったんでしょ?──あ!ライラが凶暴だって分かったから先に逃げ出し──ああ!うそうそ!」


 ぶつ真似をすると悪口をすぐに引っ込めた。


「ま、ライラの相手ができるのは私ぐらいなもんよ」


「お願いだから私に食べられたりしないでね」


 それを自分で言うのかとナディが屈託なく笑い、釣られた私も笑みを溢した。

 ──え、ていうかヤバくね?普通に肩を並べて料理しているこの状況ヤバくね?名前を知りたくてロッカー漁りをしていたあの日々が前世に思えてくる。


(人間やればできるもんね〜昔の私に教えてあげたい)


 いや聞いても信じないかな?まさか初恋の相手と一緒に料理を作れる程の仲になるだなんて。これでは"家族"だ。


「子供どうしよっか?」


 味見をしていたナディが口から食べ物を吹いた。


「──っ!………とりあえず、セントエルモが終わるまで保留していい?考えられる余裕なんてありませんよ」


「はいはい」


 口真似をして答えた。

 明日からナディがどうなるのか分からない、もしかしたら事態が収束してもすぐに調査の為に出航するかもしれない。

 こうして二人っきりで過ごせるのが次はいつになるのかまるで分からないけれど、心ゆくまで幸せな時間を堪能した。

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