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幕間

「時間がない!」



 あ!ヤバい!こんな大事な日に寝坊してしまった!

 あの日私の体──マテリアル・コアは悪漢の手によって撃たれてしまい使い物にならなくなっていた。けれどそれは良い、後日研究所に様子を見に来てくれたピメリアが私のことをいたく心配してくれたからそれは良い。たまにはマテリアル・コアを破壊して他人を心配させるのも良いなって思ったのは事実。

 でも、新調したマテリアル・コアがいかんせん中途半端な出来になってしまった。使用できるナノ・ジュエルが謎に制限されていたせいもある、だからこのマテリアル・コアは生き物としての生理欲求などを満たしていかないと維持することが困難なのだ。だから寝坊した。


「ヤバいヤバいヤバいヤバいやっ──はっつう〜〜〜誰よこんな所にテーブル置いたやつ!小指ぶつけちゃったじゃない!」


 ここはあの悪漢の住処、寝室に置いてあった人形たちをフリマサイトで売っ払い(びっくりするぐらい早く売れた)、自分好みにカスタマイズした理想の部屋になっていた。

 借りていた本人が母国へトンズラしたのだからそのまま借りちゃえと今に至る。至るも何もこの人間的生活が始まってまだひと月も経っていないけれど。

 自分で置いたローテーブルに罵声を浴びせながら買ったばかりのスーツを探す。まだ封を空けていない服も何着か、何なら売った人形で得たお金で買った家電類なんかも封がされたままである。

 どうせ脱いで見せる相手もいないので下着は上下不揃いのままレギンスを履く。勢い余って破ける。


「もう!脆弱にも程がある!鉄の糸で編みなさい!──ああ!バスが行っちゃう!何で決まった時間にしか来ないのよ!昔は私専用で特個体も飛ばしてくれたっていうのにっ……」


 レギンスを履き終えスーツスカートに手を伸ばす。


「──んなぁんっ?!──あー攣った攣った攣った!んんっ〜〜〜」

 

 変な姿勢で取ろうとしたのがまずかったらしい、太腿の裏辺りがとんでもなく痛んだ。

 そんなこんなでバスの時間まで残り二〇分を切った。


「──はっ!」


 痛みから回復し、あとは無言のまま身支度を進めた。

 スカートを履いてキャミソールとシャツを着て、絶対寒いだろうと思いナディに「これいいですよ」と勧めてもらった裏起毛仕様の年寄り臭いカーディガンも羽織った。この深い青色が気に入って即買いした。あ、そうだ確かこれに合うマフラーも買ってあったんだと現実逃避しかけた自分に喝を入れる!


「しっかりしなさいグガランナ・ガイア!今日が肝心掴みもしっかりしないとあの泥棒猫に取られてしまう!──何がキシューよ!何であの女も作戦室に加わっているのよあり得ないわ!」


 一頻り吠えた後、空気を読まない胃袋がぐうと音を鳴らしてきた。


「一日ぐらい食べなくても──いえ駄目ね、前にそれをやってショッピングモールのフードエリアで涎を垂らしながら気絶したんだったわ、あれは本当に恥ずかしかったそしてあの坦々麺は本当に美味しかったまた行こう」


 買ったばかりで唯一梱包を解いた冷蔵庫から、こういう時の為に買っておいたフルーツ味のゼリーを──「無くなってるじゃない!いつの間に食べたの私?!──まさかカマリイに盗まれ──いやゴミ箱にちゃんと空き容器入ってる!」


 ああ!もう!寝ぼけながらゼリーを食べたっていうことね!

 

「あ〜〜〜!!!………もういいや、行きしにコンビニ寄ろう」


 さっきまでのテンションが嘘のように萎んでいった。無理だと思ったらすぐに諦める、下手な事して無駄にエネルギーを使うぐらいのんびりと行けば良い。

 ──と、切り替えたのも束の間、結局私は走る羽目になっていた。


「雨降ってるじゃな〜〜〜い!せめて伝言ぐらい残していきなさいよカマリイ〜〜〜!」


 いや今すぐ家に戻れよと思うかもしれないが、一旦外に出ると家に戻るのがとんでもなく億劫なのだ。

 濡れるのも厭わず近くのバス停まで走っていく。

 ──この濡れたスーツ姿をあのキシューとかいう女に見せていかに私のプロポーションが神がかっているのか見せつけてやれば良い。そうすれば...あ駄目だ、思い出しただけで腹がたってきた。


(いやもうほんと何なの?!何であの女がピメリアと一緒にいるのよそして何で作戦室のメンバーになってんの!!)


 そう来る?そう来ますか?予想外にも程がある、イカがエネルギードリンクを飲んでクジラとイルカを調伏して宇宙へ行くようなものだ。うん。自分でも良く分からない例えだけどそれぐらい意味不意だということである。

 最寄りのバス停まですぐそこだ。世は俗にいう年末年始に差しかかっており乗客もいない──いや、小柄な女性が一人だけいた。きっと補習か何かで学校に行く生徒だろう。

 さすがにこのずぶ濡れを未成年には─いやというか私からしてみれば人類皆未成年みたいなものなんだけど─見せたくなかったので顔を俯き加減にしてバックの中に詰め込んだハンカチを探った。

 声を──かけられた。

 

「─────あれ、あなたは……」

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