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第53話

.ホシ・ヒイラギの災難



 私の恋人の言葉を借りるなら、ウォーカー家は今"厳戒体制"に突入しているらしい。数日前に行われた祝勝会以降、ナディとフレアに外出の自由が与えられずワンルームマンションの一室で軟禁状態になっている──と、連絡をもらったのも早数日前、そう、数日もの間私はナディと触れ合っていないのだ。その間はメッセージのやり取りのみ、声すら耳にしていなかった。禁断症状が出始めたのはヨルンさんが二人を連れて帰った当日の就寝前...って、

 そんな事は今はどうでも良い。未だ眠たそうにしているアキナミを小ぶりな尻をぱしん!と叩いてやった。


「──いたっ!……何すんの?何で叩いたの?」


「今から気合い入れて行かないと!だからそのケツを叩いてやったの!」


「ピメリアさんうつってない?乱暴なんだけど」


 ビルの谷間から吹き荒ぶ風は冷たく、最後に来た時はまだ暑い夏の時期だった。その季節の移り変わりとともに私も大きく変わった事を実感しながら、厚生省の敷居を跨いだ。



 跨いでものの数分で元の場所に戻ってきた。追い返されたからである。


「何あの受付けの女っ!こっちを見向きもしないで入館拒否するなんてっ!信じられないっ!」


「しゃーないよ。セレンの島で戦闘があったみたいだし、ナディの家だけじゃなくて皆んなが警戒しているん──だだだだっ?!ぱなっ!つまむなっ!!」


「はん!どうしてあんたはそう余裕なわけっ?!ナディのことが好きなんじゃないのっ?!」


 痛そうに鼻を摩りながら、


「こっちこそはん!だよ、好きだって分かってて横取りしたくせに」


「…………そりゃあんたが悪い。私はちゃんとアタックをしてトライをしたお陰だもの」


「………」


 恨みがましくアキナミが私を睨む、けれどこれっぽっちも悪いという気持ちはなかった。だって事実だし。

 話が前後してしまったけど私たちは今、ナディを取り返すべくあちこちに奔走していた。

 祝勝会の翌日に速攻皆んなで集まり額を合わせて相談し、その時はとりあえず様子見ということになった。大統領にお呼ばれした報告会とやらにセントエルモも参加することになっていたからだ。

 その日ぐらいはさすがにヨルンさんも...と、思ったのだがナディはやって来なかった。大統領命令ですら拒むってこれ如何にといよいよ事態のヤバさが分かってきた私たちは昨日、ウォーカー家問題の渦中の人であるカマリイちゃんに連絡を取った。

 断られるかと思案したがそんな事もなくあっさりと会談の場が決まり、そしてカマリイちゃんからは主にフレアについて教えてもらうことができた。


「ねえ、あんたは知ってたの?フレアの本当のお姉さんのこと」


「ううん、ちゃんと聞いたわけじゃないけど……薄らとそうなのかなあ〜って思ってた時期はあった。だってあの二人全然似てないでしょ?」


「うん、そこは認める」


 フレアのお姉さんは特個体のパイロットとして現在も従軍しており、しかも精鋭部隊に所属しているらしい。コードネームは『スルーズ』、まさかの『スルーズ』。以前、パパとママが出会っていたその人だった。

 どうしてそんな事まで知っているのかと尋ねるとカマリイちゃんが、「だって心配だったから」と眉を曇らせて答えてくれた、どうやらマキナは遠い地にいながらくまなく世界を見渡せる()を持っているらしい。

 だから、初めてナディと直接会った時に名前を間違えかけたんだそうな。


(そのスルーズって人と似てる?パパたちもスルーズに似ているって言ってたし……ううん)


 分からないことだらけだ、自分の恋人なのに謎に包まれている。

 五年前の戦役についてもそうだ、だからこうして当時の従軍者であるヴォルターさんに直接話を聞きに来たのだが断られてしまっていた。

 ビル風が防寒着の隙間から入り込み、足のつま先から私を震え上がらさせた。

 用事をこなせないのならさっさと去ってしまおう、鼻頭を赤く染めたアキナミを引き連れて離れていった。



✳︎



ライラ:駄目でした


ライラ:今からそっちに向かいます


ライラ:進展は?


ジュディス:無い


ジュディス:子供どころか親すら外に出てこない


ジュディス:マジで軟禁させてるっぽい


 メッセージを打っている短い時間でもう手が悴んだ。携帯をポケットに入れて素早く手袋を装着する。

 探偵みたいな真似事をしてもう二日目、私はナディのワンルームマンション前に陣取り張り込みを続けていた。勿論私一人で、だ。

 道路を挟んだ向かい側の並木道、葉っぱを落として余計に寒そうに見える木の根元に隠れながらマンションの入り口を見続けていた。


(何でもいいから早く出てきなさいよ〜食べ物だって尽きるでしょうに〜〜〜っ)


 ナディと連絡が取れない。カマリイの爆弾発言を経てから私たちは一言もあいつと喋れないでいた。

 こうなったら外に出たタイミングでナディか、あるいはフレアかおばさんをとっ捕まえるしかなかった。

 あまり人通りが多くない並木道でひたすらその時を待っているとついにやって来た、そう、後ろからぽんと優しく肩を叩かれたのである。


「君、こんな所で何をやっているのかな?」


 ばっ!と振り向けばいつかは来るだろうと思っていた警察官がそこにいた。やはり目立つものは目立つらしい。

 にっこりと微笑み続けている女性警察官に何と答えようかと思案していると、


「──あっ!」


「──あ!こら!」


 このタイミングでナディのおばさんがマンションから出てきた!何食わぬ顔で!

 ちらりとこっちに向けた視線がどこか勝ち誇ったように見えたのは気のせいではあるまい。


「昨日も朝からずううっとここに立っていたよね?!付近の方から通報があったから事情を聞きに来たの!交番まで来てくれるよね?!」


「いたたたっ!ちょ!マジで!今?!──こんのっ」


 優しかった手も今はがっ!と肩を掴んでいる、遮二無二になって振り解こうと暴れ回った。


「やましい事がないならっ!私に付いて来なさい!」


「待って!ほんとちょっと待って昨日の努力が無駄になるからあ!今だけは離してっ!」


「駄目よ!これ以上暴れるというのならあなたを逮捕しなくてはならないわ!それでいいの?!会社にも迷惑がかかるのよ?!」


「すぐ行きます」


 いや違う、これはおばさんの追跡を諦めたわけではない。この警察官が私を子供と間違えず大人として扱ってくれたからだ、そんな彼女の誠意に応えたかっただけなんだ。


「──え?あ、そ、そう?……急におとなしくなったわね………」


 すぐにライラへ報告した。


ジュディス:交番連れて行かれるなう


ライラ:迷子と間違えられたんですか?


 そら見てみろ、身近な人間ですらこれだ。


ジュディス:今おばさんが外に出てった


ジュディス:後は任せた


ライラ:いや今都心なんですけど間に合わないんですけど!


ライラ:交番なんて行かなくていいから今すぐ追いかけて!


ライラ:何の為に張り込みしてたんですか!


ジュディス:ちゃんと言ったわ弁論したわ!


ジュディス:でも私を子供と間違えなかったからこの人について行く


ライラ:(´-`)


(腹立つ〜〜〜何だこの顔文字っ)


 連行された交番は割とすぐ近くにあった。前にナディと来たことがあるコンビニの裏手、日当たりは悪く建物の影に隠れているような場所にあった。

 席に座らされるなり私からこれこれこのようにと張り込みをしていた理由を伝えると、警察官がじいっと見ていることに気付いた。


「な、何ですか、どうして何も言わないんですか?まさか嘘を吐いていると思っているんですか?」


 頭に大きな溜息をつけてから警察官が口を開いた。


「……いつになったら気付くのかな〜って思ってたんだけど、まさか忘れられてるなんてね〜」


「……………誰?」


「はあ〜〜〜………」


「いやというか顔見知りなら何であんなことやったの?普通に話しかければ良いじゃない」


「通報を受けて様子を見に来たらまさかの友達だった私の身にもなってほしいわ。ほんと反省しないところは何も変わらないわね、ジュディス」


「………………いや、ごめん、ほんと誰?」


 使い古された長机を強かに打ちつけながら私の知り合いっぽい人が席を立った。


「ハイスクールで!席が隣同士だったリンダ・アマノメ!思い出したっ?!」


「────────ああ!やたらと私に突っかかってきたなんちゃってガリ勉の君か!」


「なんちゃっては余計よ!」


 ここに来てようやく警察官の顔が視界に入った、ふっくらとした頬に茶目っ気のある瞳、今も昔も私より上背があって何かとからかってきたムカつく同級生だった。

 ふん、と鼻を鳴らしてからもう一度腰を下ろし、少しだけ声音を落としてからこう言った。


「……ジュディスの事情は良く分かったけど今は控えたほうが良いよ」


「どうして?いや張り込みなんていつやっても不審な動きだけどさ」


 壁に貼れている『要注意人物』という写真と似たように、顔をこれでもかと顰めてからこう答えた。


「……う〜ん、何か変な動きをしているっぽいんだよね、警察と軍の上層部がさ」


「ええ?何それ、それが何か関係してるの?」


 アマノメというファーストネームで思い出した。現在の陸軍トップの人も同じ性である。


「ジュヴキャッチのメンバーがいたら取り押さえろって命令が来てるのよ、それも手段は問わないってさ。いや今までも何度かそういう命令はあったんだけどここまで過激なのは初めてで……」


「まあ……でしょうね」


「で、ジュディスの話を聞いてて思ったんだけど、その友達もカウネナナイ人っぽいんでしょ?見た目はさ、もしかしたら──」


 リンダの憶測は、もしかしたらおばさんがジュヴキャッチと関わっているかもしれない、というものだった。

 いやいやそんなまさかとすぐに否定するが、


「でも自分の子供を家で匿っているんでしょ?それって何もジュディスに会わせたくないんじゃなくてテロリストにバレたくないからじゃない?」


「いやいや……それはいくら何でも考え過ぎじゃ、」


「そこまで考えて動くのが警察官なの。で、実際のとこどうなの?その子はカウネナナイの人なの?」


 そこではたと私も思う所があった。

 確かにナディはカウネナナイの血を引いていると言っていた、それにセレンの出身者だし...しかもおばさんが強硬手段に出たのも、家族の事情が明るみに出てからだ。

 本当に...?ナディたちはジュヴキャッチと関わりがあるの...?ナディにはなくてもおばさんは...もしかしたらあるのかもしれない。


「………いや、さあ〜……私もそこまで深くは知らないかな」


 言葉を濁して逃げを打った、あっという間に頭を覆い尽くした嫌な考えから目を背けるように。

 そこでピロリンと携帯の着信音が鳴った、リンダに断りを入れてから画面を見やるとクランからメッセージが入っていた。


クラン:強力な協力を得られました


ジュディス:何そのダジャレ


クラン:助っ人を連れてきました、ジュディさんは今どこですか?


 自分の姉が未だに入院しているというのに、クランはナディの為にあれこれと動いてくれていた。


ジュディス:近くのコンビニで待ってて、すぐ行く


クラン:うい


 雑な返事を見届けてから旧友に別れを告げ─られなかった、念の為にと言われて調書を取られてから─交番を後にした。

 すぐ近くのコンビニにやって来ると、ノッポとまん丸い二人組みが呑気に肉まんをはふはふと頬張っているところだった。


「お待た」


「……んん?今何処から来たんですか?この裏手って確か……」


「名誉の傷よ。それよりこの人は──ああ?!あんたはあの時の!」


「あ、ど、どうも、プウカ・ラ──ああ痛い痛い!クランちゃんこの人凄く怒っているんだけどどうして?!」


「いつもこんな感じですよ。キツネの皮を被ったライオンみたいな人です」


「うっさい!何であんたもこんな奴を連れて来たのよ!ナディを困らせた敵じゃない!」


 プウカという女がうっと顔を顰めた。


「ナディから聞いてんのよ?!あんたが突然辞めてしまったって言ってあいつほんとに困ってたんだからね?!」


「そ、それは………その、すみません……」


「スタンドアップです先輩「立たせてどうすんだっ!!」間違えました、落ち着いてください先輩、プウカさんもずっとナディさんの事を気にかけていたみたいですし、だからこの間のセントエルモの時もプウカ先輩がいの一番に名乗りを上げてくれたんです」


「……ああ?どういう事?」



 大した女だプウカ・ライゼン。

 そして今、私たちはダウンジャケットに包まった大した女の背中をひっそりと観察していた。


「……ねえ、あんたはあれ、良いと思う?」


「あれって……さすがに失礼ではありませんか?プウカさんにも付き纏った男性にも。私はプウカさんのこと好きですよ、面倒見良いですしどこかのジュディスさんにみたいに乱暴なこと──いったはああっ?!………つぅ〜……」


「ふん」


 監視ポイントは変えてある、マンション前の通りから少し離れた所にある公園前に来ていた。

 横を向いたらおばさんが歩いていった通りがあり、前を向けばマンション前で待機しているプウカがいる。後はおばさんが戻ってきた時に合図を送り、名付けて「後輩の様子を見にきた先輩がその母親とエントランスで出会す」作戦を決行するだけだ。

 抓られた太腿を撫でながら、クランが恨みがましく私に視線を向けてきた。


「……そういえば、ジュディ先輩を唯一褒めていたのもナディ先輩だけでしたからね。眠っていたら可愛いとか黙っていれば一番天使に見えるとか条件付きでしたけど」


「それが何?」


 喋ったと同時に吐き出された白い息がクランのおでこを撫でていった。


「それなのにプウカさんはとある男性から猛アタックを受けていたんですもん、そりゃ嫉妬の一つもしたくなりま──来た来た来た来た!「痛い痛い!体格差考えろ!」


 ばしんばしんとクランが肩を叩いてくるから骨に響いた。

 通りを見やれば確かにおばさんが買い物袋を持ってこっちに歩いてくるところだった。

 バレないうちにだっ!と駆け出しプウカにハンドサインを送った。


「……っ」


 もふもふのニット帽を被った顔は勇ましい、親指を立てて「任せろ!」と返してきた。


「何あいつ!後輩の為なら何も怖くないってか!」


「いや、そういう意味ならジュディさんも一緒だと思うんですけど……」


 マンションのエントランスに入っていったプウカに続き私たちも突入した。入ってすぐ右手に居住者の郵便受けがあり、そこに隠れて「あれ?あんたも来てたんだ、じゃあ私たちもお邪魔させてもらおっと」作戦を決行するつもりだった。

 準備は万端、心なしか震える膝を押さえつけているとマンションの自動扉が開いた。


「……あれ、これのファーストコンタクトってどうすれば……お互い知らない者同士ですよね?」


「……しっ!今さらそんな事言うな!」


 キーの操作音が耳に届き、ついでプウカの「あれれ?ナディちゃんのうちって確か……」とデカい独り言を漏らしている。


「……上手い!」


「……静かにしなさいって!」


 見ず知らずの他人でも自分の娘の名前を口にされたからか、さすがにおばさんも反応せざるを得なかったようだ。


「うちの娘に何かご用ですか?」


「──────」


 何も喋らないプウカ、そっと覗いてみるとおばさんの前でフリーズしていた。


「……ああ!あの美貌にやられているんですよ!私も固まりましたから良く分かります」


「……そんな実況いらないから!」


 おばさんにもう一度声をかけられてからプウカが復帰した。


「──あ、はい!すみません、後輩が会社に来ないのでどうしたのかと思いまして様子を見に来たんです。失礼ですがあなたはナディちゃんのご家族の方ですか?」


「ええ、はい、うちの娘がいつもお世話になっています。娘でしたら昨日から熱を出してしまいまして……今は人と会えるような具合ではないんですよ。せっかく来ていただいたのに申し訳ありません」


 隣にいるクランがぼそっと、


「……私ここでじゃあしょうがないですねって踵を返しちゃったんですよね」


「……所詮あんたはその程度よ」


 クランもナディに似てきたのか、私の背中をまあまあな勢いで叩いてきた。

 対来客用決戦言い訳を放たれたプウカも同様に踵を返すかと思われたが、驚いたことに食い下がっていた。


「病院には行かれましたか?」


「……え?病院、ですか?まだですが……あ、いえ、」


 まさか質問が来ると思っていなかったのか、正直に答えてしまったおばさんが慌てて言い直そうとするが遅かったようだ。


「まだでしたら私が診ましょうか?実家が診療所をやっていますから看病なら出来ますよ」


「あ、いえ、そんな……さすがにそこまでのご迷惑は……」


「迷惑だなんてそんな、後輩の為ですから」


 これには私もクランも感嘆の声を漏らした。


「……おお」

「……おお、あのおばさん相手にあそこまで強気に出られるなんて」


 それにプウカはおばさんに突破されないよう、エントランスの自動扉の前で立ち塞がっている、大した女である。

 ええとかああとか、曖昧な言葉で何とかおばさんが逃げ切ろうとする。しかしプウカがそれを許さず何度もしつこく食い下がった。

 進退窮まったおばさんがどうするのかと見守っていると、次の瞬間──


「──ぅぅぅううわあああっ!!わあわあわあわあっ!!」


 どんな完璧な人でも取り乱してしまうことはあるらしい。綺麗な相貌をこれでもかと崩し、手にしていた買い物袋を一心不乱になって振り回していた。プウカも「はあ〜〜〜っ!!!」と奇声を発しながら後退、私たちがその間に立った。


「はあ…はあ…はあ…やっぱりあなたが一枚噛んでいたのねジュディスちゃん…」


(こっわ!)


 中腰になって肩で息をしているナディのおばさん、目がギラッギラに光っている。


「私が一番苦手な他意の無い善意を持ち出すなんて……やるじゃな「いや知りませんけど。私たちはナディとフレアに会いたいだけなんです。どうして会わせてくれないんですか?」


 すぐに息が戻ったおばさんが、中腰から今さらのように堂々と立った。


「何か既に勘付いているんじゃない?警察官に連れて行かれたんでしょう?」


 おばさんの目がぴたっと私に据えられた、何をも逃すまいと力強く見ている。

 そして私はリンダに言われた事を思い出していた、おばさんがジュヴキャッチに絡んでいるのではないか、という事だ。


(そんなはずないそんなはずないそんなはずない!可愛いあいつがテロリストの一味だなんてあるはずが────)


 ない、と、言い切れない自分がいた。

 私の動揺を見抜いたおばさんが目の色を変えず冷たく言い放った。


「何を言われたのか知らないけれど、その程度のことで動揺するならもう娘に会わないでもらえないかしら。あなたの家族に事情があるように、私たちにも事情があるの」


「そんなっ……いえ、私はただっ……」


「何を言われたの─「人を使って情報を聞き出すのはどうなんですか?」と、あのクランが割って入った。私もおばさんも「え?」と目を丸くする。


「ヨルンさん、あなたを見れば分かります。人の顔色からあれやこれやを判断して巧みに誘導し、聞きたい情報を聞き出そうとしていますね?」


「何を言って──」


「私も人見知りなんです!あなたの言動が手に取るように分かります!」と、一体こいつの中で何があったのか、名探偵のように華麗なポーズでおばさんを指差した。

 指を差されたおばさん、思いの外ダメージが入ったのかみるみる頬を染めてあろうことか、


「あっ!」

「あっ!」

「警報装置っ!」


 エントランスにあった赤いボタンを押してから自動扉を潜り、あとは一目散になって駆け出していた。



 再び訪れた交番で「私たちが鳴らしたんじゃない!」と強く説明し、もう調書を取られたくなかったのでとにかくおばさんのせいにした。

 これ以上問題を起こすなと五寸釘を刺されてから交番を後にした私たちは次なる助っ人を求めて電話を手にした──の前に...


「あんたの実家って診療所なの?」


 聞かれたプウカが呆気からんと答えた。


「いいえ、普通の家です。あの時は嘘を吐きました」


「えぇ〜……医者の経歴詐称って普通に逮捕案件だからね?もう二度使わないように」


「それにしてもプウカさん、凄い気迫でしたね……格好良かったです」


「ふふふ、自分でもびっくりしちゃった。ナディちゃんの為だって思うと力が湧いてきたんだよ──ああ痛い痛い!どうして抓るの!」


「おばさんが言っていた他意の無い善意が苦手って話、良く分かった気がするわ」


「プウカさんがいるとジュディさんがどんどん小物に見えてきますらね、身長だけでは飽きたらず」


「うっせえわ!」


「いやでも、クランちゃんの言ってた通りだね、どうしてナディちゃんのお母さんは家に上げてくれないんだろう?」


「うう〜ん……警察官の言動を聞き出そうとしていたことに何か関係あるような気がするのですが……ジュディスさん、何か言われたんですか?おばさんの言った通り動揺していたみたいですけど」


 自分一人で抱えられる問題ではなかったのでさっ!と吐き出した。


「ジュヴキャッチと関係しているかもしれないって言われた」


「…………」

「…………」


「何よ」


「へタれた時だけ素直になるの何とかならないんですか、それなら普段から素直にしていろっていう「──ぅうおらあっ!!」─あっぶな?!暴力を振るえって言ってるんじゃないんですよ!「うっせえわ!今日のあんたはとにかくうっせえわ!言葉がエグいのよ!気を付けろっ!」


 不意打ちの膝蹴りを華麗にかわしたクランと睨み合っていると、隣でプウカがくすくすと笑っていた。


「何笑ってんのよ!見せ物じゃねえっての!」


「いや、ごめんなさい、クランちゃんがこんなにはしゃいでいるところを初めて見たので……」


「はあ?この毒吐き名人みたいな奴が普段は静かにしているとでもいうの?」


 頭一個分─そう!間違いなく一個分である一個半ではない!─高いところからクランが私を覗き込み、ちょんちょんと肩を叩きながらこう言った。


「ジュディ先輩、お忘れですか?私は人見知りするタイプなんで「今さらだろそれ!」



✳︎



 微かな駆動音と熱がこもった空気を吐き出すフィンの音が聞こえる。正規品ではないせいからか、部屋の中が異様に暑かった。


「……Dの一から一五──ブラフ。次、Dの一六から二九──ブラフ。次──」


 網膜に次から次へと、厚生省が保管しているデータが雪崩れのように流れ込んでくる。そのどれもが対ハッキング用のブラフデータ、つまりは"空"だ、肝心な情報がどこにもない。

 アシスタントにつかせていたダンタリオンが休憩を促してきた。


《データの閲覧を開始してから既に一二時間が経過しました。これ以上のサーフィンは身体に悪影響です》


《駄目になったら取り替えればいいだろ。それより次を見せてくれ》


《支払いはどうされるのですか?結構なお値段を請求されていましたよね、残念ながらホシが持つ資産では到底払えるようなものでは……》


《そんなの踏み倒せばいい、犯罪者に金を払う必要はない》


 真後ろから物理的に「はあ……」と溜息が聞こえてきた。一二時間近くも座りっぱなしで痛くなっていた体を動かしてみやれば、腰に手を当てて思案顔のダンタリオンが立っていた。


「ホシ、あなたがどう生活を営もうが誰と関係を持とうが僕には関係ありませんが、自分の体を壊すような真似だけはしないでください」


「壊れてしまった人がいるんだ、それぐらい分かるだろ?自分に出来ることをやっているだけだ」


「それなら直接保証局に出向いて─「それじゃ駄目だ、絶対にハフアモアを提供してくれるはずがない。だからこうして自力で探しているんだ──それから……」


 ダイブしかけた目蓋を開けて、この数ヶ月で明らかに背が伸びたダンタリオンを真っ直ぐ見てからこう言った。


「ダンタリオン、君はもう自由だ、僕の傍にいる必要はもうどこにもない。僕だっていつこのインプラントが使い物にならなくなるか分からないんだ、だから─「だから僕がお世話をする為にここにいるのです。あなたは唯一のパートナーなのですか「それも保証局側の都合だ、君は過去に何度もパートナーを持っていたんだよ」


 奴から買い付けた、型落ちの特別機器管理ドライブが唸り声を上げ始めた。そのせいでさらに熱せられた空気が排出され、女性のように伸びたダンタリオンの髪をさらっていった。

 いやというかだよ、え、何?何でダンタリオンがこんなに綺麗になってるの?男の子だよね、だったよね?それがまた何でこんな美少女アイドルみたいな...

 そこで家のインターホンが鳴らされた、束の間見つめ合っていた僕たちはその音で我に返り、揃ってリビングに出て行く。

 テレビの前ですっかりだらけ切っているガングニールをダンタリオンが嗜めた、下着丸出しのお尻(もう見慣れた)を叩いている。


「もっと優しくて」


「来客ですよ、しゃんとしてください」


「しゃん!」


「いや身だしなみを整えろって言ったんですよ、誰が口にしろって言ったんですか」


「漫才してないでガングニールを部屋に閉じ込めておいてくれる?」


 かたやガングニールは何も変わっていない、この家に押しかけてきた時から身体的成長は一つもない、代わりに精神は後退しているが。

 ガングニールとダンタリオンがじっとこちらを見ていることに気付いた。


「……何?」


「オレ……初めてだから優しくして「早く部屋に入れ!客だって言ってんだろ!」


 急かすようにもう一度インターホンが鳴らされ、はいはいとぼやきながら画面を見やると驚きの相手がそこにいた。


「え、この人確か……ジュディス・マイヤー?」


 僕の後ろをとんでもないスピードで駆けて行くガングニール、止める暇もなく階段を下りて扉を開けていた。

 あいつは自分の知人だったら誰彼構わず迎えに行く習性があった、僕の家にいるのが余程暇らしい。だったら早く出て行けよと思うが本人がなかなか出たがらない。

 階下からとくにガングニールの賑やかな声が耳に届く、お菓子と饅頭が遊びに来てくれたとか本当に意味が分からないことを言っている。


「ヒイラギ、お邪魔させてもらうわよ」


 ガングニールに手を引かれて子供のように入ってきたマイヤーがそう言った。


「なあ!こいつ家で飼ってもいいだろ?マジで小動物にしか見えないんだけど!」


「ふん!そんなお世辞嬉しくもないわ!」


「いや突っ込むところそこなんですか先輩」


 確かにボンボンが付いたニット帽にマフラー、それからピーコート姿のマイヤーは小動物のような愛らしさがあるにはある。けれどこれ以上増えると家計が崩壊しかねないのでこう答えた。


「駄目、拾った所に捨ててきなさい」


「ちぇ〜…だってさ、ごめんなジュディス」と、言いつつガングニールが手を引っ張って階段を下りようとしていたのでマイヤーが叫んだ。


「ふっざけんじゃないわよ!こちとら用事があって来たの!」


 被っていたニット帽をガングニールにではなく何故か僕に投げつけてきた。



「ナディ・ウォーカーの自宅にアクセスしてほしい?それはまたどうして?」


「ティアマト・カマリイっていうマキナは知ってるでしょ。そのカマリイがフレアの本当のお姉さんを知っていたみたいでね、何かしらの事情を抱えていたウォーカー家の秘密を暴いたものだから今絶賛引きこもり中なのよ、あんたみたいに」


「フレア……ああ、ナディ・ウォーカーの妹のことか。で、僕に特個体の力を使って不正アクセスをしてくれって?そう言っているんだよね、直接行ったりしたの?」


「はい、私も小動物先輩も行きました「それ私のこと言ってんの?」けど、ナディ先輩のお母さんに止められているんです」


「その理由は──ああいや、うん、分かるよ、僕たちを警戒しているんでしょ」


 ダイニングのテーブルに向かい合って座っていた。中央にマイヤー、その隣にクランちゃん、その反対側には初めて会うふくよかな女性がいた、名前はプウカ・ライゼンという。

 その三人が少しだけ目を丸くして驚いているようだ。


「……何でおばさんが保証局を警戒するのよ」


「それは「今は絶賛無断欠勤中ですけどね。良ければどうぞ、暖まりますよ」


 さっきまで薄手のシャツ一枚だったダンタリオンがきちっと服を着込み、長い襟足を一本に束ねてエプロンも着用し、飲み物を配膳しながら割って入ってきた。

 真正面に座るマイヤーが予想通りの反応を示した。


「……あんたってさあ、見境なくない?リッツのことはもういいわけ?そこんとこどうなの?それにクランだっているのよ?」


「いや、この子ダンタリオンだから、この数ヶ月でとんでもなく成長したけどあのダンタリオンだからね」


 座る椅子がないのでフローリングに胡座をかいていたガングニールが「でもこいつたまにダンタリオンのことエロい目で見てるゼ」と、余計なことを言ってきた。目の前に座っていた女性陣がコントみたいにがたた!と立ち上がった。


「あんたっ……同性に発情するなんてっ」

「ホシさん、レベチです、ついていけません」

「いやあの、何か、お邪魔だったみたいで…」


 傍らに立っているダンタリオンはダンタリオンで、「え?!そうなんですか?!もう〜!僕はいつでも大歓迎ですよ!」などと言っている。

 あれちょっと待って秒で僕の立場が失われていくんだけどどうにかならないの?理不尽過ぎる。

 とにかく座れと言って座ってもらい話を続けた。


「ま、あんたが見境ないのは知っていたから別にいいとして「いや全然良くないよ」で、どうなの?アクセスできそう?」


「う〜ん……無理にやったらファイヤーウォールで脳が焼かれてしまうからな〜」


「こういった場合はいつもどうしているのですか?私の家になんちゃって王子様が来た時は全部の家を調べていたんですよね?」


 そうクランちゃんに尋ねられたので、まあいいかと答えてあげた。


「一般家庭やその他の電子機器にアクセスしたい時は厚生省に届け出を出すんだよ。それで許可が下りたらアクセスが可能になる」


「じゃあやって、後輩の無事がかかってんの」


 竹を割ったような物言いでそう催促してきた。


「別にいいけど、覚悟はできているんでしょ?もし本当にウォーカー家がジュヴキャッチと関わりがあった場合は問題無用だからね?さっきも言いかけたけど、そのヨルンという人が他人の目を気にしているのは警察か、あるいは保証局に通報されたくないからだよ」


 ピーコートを脱ぎ、セーターに隠れた何の膨らみもない胸の前で腕組みをしているマイヤーが何度か瞬きを繰り返した。

 さらに何度か視線を彷徨わせた後にこう言った。


「……もしくはジュヴキャッチの報復を恐れている?」


「それもあるね。どっちにしたってテロリストとの関係が露呈してしまったら向かう道は地獄だもの」


「いやでも……まだそうだと決まった訳では……フレアちゃんの本当のお姉さんがスルーズっていう人だと分かった程度でそこまでバレるものなんですか?」


「────何だって?今何て言ったの?」


「ダンタリオン君との爛れた関係を姉に暴露するって「いやそんな事言ってないよね」─フレアちゃんのお姉さんがスルーズと言いました……それが何か?」


 ──そう来る?じゃあ何か、ウォーカー家は精鋭部隊に所属しているパイロットの身内を匿っていたって事なのか...?これならまだジュヴキャッチの方がやり易かったかもしれない。

 ダンタリオンに保証局へ届け出を出すようお願いし、僕は皆んなに『スルーズ』という名前について教えてあげることにした。


「そのスルーズという名前には特別な意味があるんだ。精鋭部隊の正式な名前は辺境攻略制圧部隊、通称ヴァルキュリア、国王から直接命令が下される何でも屋のエリートたちだ」


「………そうなの?」


「ああ。そしてスルーズという名前は、その中でもトップクラスの実力を持ったリーダー格に与えられることが多いんだよ」


「ちょ、ちょっと待って、名前が与えられる?ってことは本名は別にあるってことなの?」


「そうだよ、そういった訓練機関があって色んな子供たちが集められるんだ。中には争いで親を失った子もいれば、今後の政略の為の箔を付けるために名家の子が預けられたりする。その中でトップの成績をおさめた子供に名前が与えられるんだ。確か…スルーズ、ヒルド、フロック、レギンレイヴ……ヨトゥルは別枠の選考基準があったはずだけど、まあとにかくそんな感じ」


 ダンタリオンが出してくれた飲み物に誰も手を付けず、どこか寂しそうに湯気を上らせているだけだった。

 僕にも出してくれた飲み物を手に取り口に含んだ。甘酸っぱい紅茶の香りが口の中で弾け、喉に通した後にマイヤーが尋ねてきた。


「……じゃあ、フレアってもしかしたら……貴族の娘、ってことになるかもしれないってことなの?」


「そうなるね。さらに言ってしまえば、そうだと知って預かったヨルンという人もそれなりの地位についている可能性もある、というか間違いなくそうだと思う。ウォーカー家はカウネナナイの中で貴族の位を持つ家系ということになるから、ここで下手な事をして大事になったら国際問題になりかねない」


「…………」

「そんな、ナディさんが……」

「お姫様、だったなんて……」


「それでも良いって言うんなら今から覗き見するけど………本当にやって良いんだね?」


 最終確認のつもりだった、何も飲んでいないのにマイヤーたちがごくりと唾を飲み干す。そこへ届け出を出したくれたダンタリオンが戻ってきて──


「ホシ、大臣から今すぐやれって通達が来ました」


「──は?」


 そのあまりに予想外の言葉を聞いて間抜けな声が出てしまった。



 ...ビビってるのは僕もそうなんだけど...まさか貴族の家を覗き見する日が来るなんて夢にも思わなかった。

 接続したダンタリオンに尋ねた。


《他に何か言ってた?》


《いえ、ナディ・ウォーカーが滞在しているマンションのアクセス許可を出しておくからすぐに見ろ、としか……》


《そう……》


 再び暑い部屋にこもって双眼式のルーターを装着する。他の皆んなはリビングに待たせてある。

 ちゃっちゃと見てちゃっちゃと済ませよう。僕が探し出したいのは他人の秘密ではなくハフアモアの秘密だ。先日行われた報告会でも重要な事が省かれていた。

 何故、シルキーと名付けたあの小さな真珠が虫に化けるのか。その説明が一切なされていなかった。


(秘匿している理由……それさえ分かれば探しようもあるのに……)


 今や国中がハフアモアに夢中になっていた。夢に見た技術が詰め込まれているからだ、しかし危険性が全て排除された訳ではない。このままではリッツの治療に活用することができない。

 雑念に塗れた意識を切り替え、お目当ての一室に繋がった視覚に集中する。

 そこに映っていたのはリビングだった、あれはロフトだろうか?小さな木製の梯子も見えている。そのまま視線をずらすと...白と黒の見事な造形をした()()が視界に飛び込んできた。

 ()()が何か分かった途端──


「──はっはあ〜〜〜っ?!!んんんっ!!」


 雄叫びを上げながら家賃の何ヶ月分もするルーターをもぎ取り床へ投げ捨てた。

 リビングで待機していたマイヤーが突入してくる。


「何事なの?!────え、何で屈んでるの?」


「いやちょっと待って……ほんと待って……お願いだから今は出ていってくれない?」


「いやでも、あんた顔が真っ赤「いいから!ここは俺の持ち場なの!後で報告するから!」


 不可解そうにしながらマイヤーが扉を閉めて、僕は投げ捨てたルーターにもう一度手を伸ばした。


(正真正銘正真正銘正真正銘正真正銘正真正銘見てしまったあ〜〜〜〜〜〜〜〜!)


 未成年の下着姿を。

 おそらくインターホンの画面からだろう、その視点から見えた光景は──ああ...無防備なお尻を向けてゲームに集中していたナディ・ウォーカーだった。

 見事なコントラストだった、シミ一つない純白の下着を身につけた彼女の裸体は何というかもう〜色々と...凄かった。

 震える手でルーターを装着し、逸る気持ちを抑えて覗き込めば、


(……っ!!)


 誰かがこちらを覗き込んでいるように見えた、その綺麗な顔立ちに思わず息を飲む。そして、その子が─小ぶりでありながらしっかりと形が整ったお尻をふりふり動かしてゲームをしている─ナディ・ウォーカーに声をかけていた。無理やり繋げたせいかどこかひび割れているように聞こえてくる。


[……ねえ、今何か声がしなかった?]


[さあ。ゲームの声じゃない?]


[いやそんなはずは…インターホンから聞こえような気がするんだけど…まあいいや]


 どうやらさっきの雄叫びがインターホンから流れてしまったらしい。

 大人びた様子の子がインターホンから離れてナディ・ウォーカーの元へ向かう、そしてまた声を上げそうになった。


(…………………え、ウォーカー家って裸族なの?何で二人とも下着姿なの?……これヤバいな〜〜〜凄くスタイルが良い……はあっ〜〜〜)


 おそらく今の子がフレアという女の子だろう。そのフレアも同じように下着姿になっている《ホシ》綺麗な谷間にすらりと長い手足《おっほん!》フローリングに寝そべっているナディ・ウォーカーの隣に座り《ホシ!》細くも柔らかそうな太腿に手を乗せて《テント、張ってますよ、何とかしてください》ゲーム画面を見やっている。

 

(何だか思っていたよりも普通そうだな……普段通りというか……暗い雰囲気ではない……)


 ガチャリ、と音がした。こうなったらヨルンという人も下着姿であることは間違いないため今か今かと視界に映り込むのを待っていると、

 誰かが肩を掴んでぐるりと向きを変えさせられた、そして勝手に持ち上がるルーター。


「────え?」


 マイヤーだった、それからその後ろにはクランと本当のお饅頭のように頬を染めているライゼン。

 そして、最後にすっと入ってきたダンタリオンが一言。


「ホシ、僕の方から皆さんに報告しておきました」


 無感動な目から汚物を見るような目つきに変わったマイヤーに──


「はっ!そんなちんけなテントおったてやがって!どうせ張るならもっと立派なモノを張りやがれ!」


 と、威勢の良い暴言を吐きつつも初めて見たのか頬を染めているマイヤーに向かい、お願いだからこの事はリッツに言わないでほしいと土下座をしたのは言うまでもないことだった。

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