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第43話

.〜下部漸深層〜



 今日は朝から雨が降っていた。

 先週末まで続いた真夏日も今日の雨を境にして秋らしい気温に変わっていく、いつも見ているニュースでお天気キャスターが雨に打たれながらそのように喋っていた。

 そして僕も雨に打たれていた。場所は都内の葬儀場前、喪主であるグリルさんの奥さんが入り口前でひっそりと立ち続けている。雨のように線が細い女性だった、驚いたことにグリルさんは既婚者だったのだ。

 グリルさんが亡くなった、死因は急性心不全、厚生省内の特別機器管理室で仰向けになって倒れているところを発見され、緊急搬送された病院で死亡が確認された。

 細かく降る雨に打たれながら来場する人たちをくまなくチェックしていく、僕たちは喪に服す暇も与えられず仕事をこなしていた。

 ヴォルターさんから連絡が入った。


《陸軍参謀部長の車を確認した、見張っておけ》


《参謀部長が?グリルさんと面識ありましたか?》


《ない、とは言い切れないが状況が状況だ、不審な動きをしたらすぐに連絡しろ》


《分かりました》


 細かく降る雨がレインコートを叩く、真上にあるヤシの木から大粒の水が時折落ちて、僕の頭をぼっぼっと鳴らしていた。

 グリルさんが逝去した日の前日から一週間前にかけて、不審な電話と行動が度々見られた。僕が以前、ペットボトルに入れてあった銀色の真珠が水に変化した件を受けて調査を進めていたのだが、その成果報告前に起こった()()の事態と言える。

 グリルさんは何かを掴んでいたはずだ、彼からも何処かへ電話がかけられ、また数時間程行方をくらます事もあった。

 この葬儀で何かしらの人物が遺族に接触してくる、そう踏んで僕たちは席に参加させず張り込みという名の人員整理を行なっていた。

 雨具を使わず濡れ鼠になっている人たちが葬儀場の前を自転車で素通りしていく、この程度の雨なら使うのが面倒臭いからだろう。手持ち無沙汰で突っ立っていると再びヴォルターさんから通信が入った。


《時間だ。一旦車に戻って来い》


《分かりました》


《それから足の具合はどうだ》


 珍しい、ヴォルターさんが僕の怪我を気にかけるだなんて。


《全力は無理ですが仕事に支障はありません》


《分かった。それからダンタリオンたちは?》


《も、問題ありません》


《……まあいい、メンテナンスルームの調整が終わるまでの間だけだ、変な気は起こすなよ》


《起こしませんよ。ヴォルターさんは知っていたんですか?ガングニールのこと》


《だからどうした?》


《……何でもありません》


 ちらりと葬儀場の入り口を見やれば喪主も姿を消していた、会場で葬儀が執り行われるらしい。

 いつの間にか雨が止んでいた空の下、僕は保証局員が待つワンボックスカーへ走って行った。



「で、結局グリルの奴は何が分かってコソコソとしていたんだ?」


「イシカワ、言葉を選べ」


「あいつが心不全で亡くなるのは本望だろう、今頃天国でもっと食べておけば良かったと嘆いているはずだ。そんな事よりもだ、グリルの研究過程が一切見つからないのも今回の不慮の事故がより一層事件性を臭わせている。ヴォルター、お前もただの心不全だと思っていないだろ?」


「そうだな。だが、搬送先の病院で外傷、毒物性は無しと判断されたんだ。自死である可能性も十分高い」


 自死とは自分の病気などで命を落とした場合にも使われる、どちからと言えば事件性を捜査する警察や診療機関が使う言葉だ。


「こんなタイミングでか?他殺を疑うのが筋だと思うんだがな」


「俺たちは探偵でも何でもない、そういった推理ならプライベートでやってくれ」


 ヴォルターさんとイシカワさんは付き合いが長い分、話す言葉にも遠慮がない。周りからしてみれば口喧嘩しているようにさえ見える。

 僕と同じ任務に就いて全身打撲を言い渡されていたキシューさんが口を挟んだ。彼女も無事退院できて元気そうである。


「それで、姿を現した参謀部長は?今のところあの包茎野郎が一番怪しいんでしょ?」


「ホシ」


「奥さんと挨拶を交わした以外はとくに誰とも会話はしていませんでした」


「ビーリは何て?」


 ビーリさんは会場に入って整理を行なっている、何かしらの動きがあれば葬儀会場の中だと思うのだが...答えは白だった。


「──とくに不審な動きはしていないようだ、大人しく祈りを捧げているらしい」


 答えたのはサイトウさんだ、煙草を吸いたそうに窓の外に視線ばかりやっていた。


「そんな事ってある?面識がない奴の葬式に参加して黙って祈りを捧げて帰る普通?」


「それでも奴を取り押さえる理由がない、陸軍から出向しろと言われたらそれまでだ」


「全くどいつもこいつもきな臭い事ばかりしやがって、あのウイルスに絡んでいるのは間違いないだろう」


 ボックスカーの中で行われた会議が暗礁に乗り上げた、つまるところ誰にも分からない。

 ふと、思い出した事があった。ペットボトルに入れてあった真珠が水に変化し、グリルさんが一口だけ飲んだ事だ。


(あヤバい……これ結構マズいかもしれない……)


「……坊や?どうかしたの?」


 キシューさんに声をかけられ、皆んなの視線を集めてしまった。これは言い逃れできないと悟った僕は正直に告白した。

 

「──と、いうことが以前ありました。その水が関係しているのか分かりませんが……報告が遅れて申し訳ありません」


「────」


「どうどう、坊やは何も悪くないわ。ただ水を飲んだだけでしょ?それをいちいち報告する方が変よ」


 無言のまま怒髪天になったヴォルターさんをキシューさんが宥めてくれている。


「いやだが、その水は元はと言えば真珠だったんだろう?無視はできんだろう」


「だが毒物性は確認されなかった、真珠ってのはただの水で人を殺せるような代物なのか?だとしたら脅威だな」


「────今すぐ全員車から降りろ!ウィンカーの身柄を押さえるんだ!」


「はぁ?さっきは手出しできないって──」


 ヴォルターさんがいきなりそう吠え出したので皆んなが目を丸くした。


「グリルの棺に花を添えた時に接触しているかもしれない!DNA鑑定なら髪の毛一本でもできることだっ!早くしろっ!」


 弾かれたように皆が飛び出した。既に亡くなっているジョン・グリーン元事務次官とも面識があったバラン・ウィンカーという男は、おそらく誰よりもウイルスについて明るいはずだ。もし、グリルさんが水を飲んだ事について知っていたのであれば...葬儀に参加した目的は体毛を採取するため。

 しかし遅かった。


「──くそっ!」


 僕たちが駐車場に到着した時にはバラン・ウィンカーは既に車に乗り込んでいた。僕たちを見るなり血相を変えて車を発進させている、後輪をスリップさせながら駐車場から出て行ってしまった。


「ヴォルター!あの包茎野郎パケ袋を持ってたよ!」


「今すぐ追えっ!イシカワは陸軍に抗議を入れろっ!サイトウ、ビーリ、ホシはこの場で待機っ!」


 それぞれが事件解決の為に動き出した。

 

 けれど、この一件は解決までに長い長い時間をかけることとなった。

 それこそ数年単位、まさかあんな事になるなんてこの時の僕は知る由も無かった。



 逃走したバラン・ウィンカーは陸軍の敷地内に逃げ込み、遅まきながら抗議してもまるで取り合ってくれなかった。「パケ袋?何だそれは」とシラを切られてしまい、僕たちも確かな証拠を持っていた訳ではないのでこれ以上の追求を諦めていた。

 葬儀場に戻り、他の来場者が全て帰ったのを確認してから僕たちもグリルさんと向き合い黙祷をし、家路についた。

 そして家に着いた。


「やぁっーと帰ってきやがった!おせえんだよ!」


「ガングニール!静かに!周りの人に迷惑ですよ!」


「………ただいま」


 どたどたと階段を駆け降りてくる足音が二つ。一人は成人前の体付きをした女の子、僕が貸してあげたハーフパンツとトレーナーを着ている、とくに胸の辺りにインパクトがあった胸の辺りに。

 もう一人は僕のワイシャツを着たダンタリオンだ、細い足の付け根だけが隠れているその姿はインパクトがあった。インパクトしかなかった。曲がりなりにもお世話になった先輩の訃報も不謹慎ながら吹き飛んでしまう程に。

 

「おいなあ!お前がいない間に電話かかってきたけど大丈夫だったゾ!オレがきちんと対応してやったからな!」


「──な、はあ?!あれだけ触るなって言ったよね僕?!相手は誰なの?!」


「う〜ん………忘れたっ!!」


 腕を組んで頭を捻り(持ち上がったバスト)、腰に手を当てて胸を張ってそう自信たっぷりに答えていた(揺れるバスト)。

 なるべく見ないように二人の脇を通り抜けようとすると、二人揃って僕にしがみついてきた。


「なあ〜なあ〜!ナディたちに会わせてくれよ〜!暇なんだよここ〜!」

「ホシ!いいですか!いくらガングニールの胸が大きいからといって意識する必要はありませんよ!」

「んだと〜?そういうお前は彼シャツなんかやってるくせに!意識させようって魂胆が見え見えなんだヨ!男はそういうわざとらしいアピールじゃなくてこういうのがな……」

「止めなさい!そして離れなさい!」


 腕辺りに柔らかい感触が押し寄せてきたので慌てて逃げ出した。

 ガングニールとダンタリオン、この二人は特別措置として人格の再設定は免れていた。理由はカウネナナイのサーバーにアクセスしたからである、その実績は過去の特個体には無く彼らだけが持つ優位性であった。

 これを鑑みた厚生省大臣が「消すなんて勿体無い」と言い出し今回の特例が認められることになった。

 そして僕の家で二人が待機するという珍事が発生し、この生活が始まって半月程経過していた。彼らに合わせたメンテナンスルームが完成すれば、晴れて僕はまた自由な一人暮らしを満喫することができる。それまでの辛抱である。

 寝室に入って着替えている間、二人はリビングでお喋りに興じていた。こういう賑やかしい雰囲気は実家を出てから久しぶりである。


(たまには電話でもしようかい……)


 着替えを済ませてリビングに出るとガングニールが配膳をしてくれた、あのガングニールがである。

 並べられたお皿には料理が──


「え、何これ、何でゆで卵が割れてるの」


「失敗した!でも食えるだろ」


「ゆで卵って失敗できるの?ゆでるだけなのに?」


「そう言うんだったらお前がやってみろよ!言っておくけどそれ五個目でようやく成功したんだからナ!」


「何やってんの勿体ない!卵だってタダじゃないんだぞ!」


「はいはい、ガングニールの料理なんかよりこれをどうぞ」


「おお……凄いね、日に日に上達していくね、ダンタリオンは」


「はって何だよ!はって!オレだってやればできるだゾ!誰がライラの両親を救ったと思っているんだ!」


「またその話?」


 ガングニールはその時の事がよほど嬉しかったのか、折に触れて話をしようとしてくる。最初の数回は真面目に聞いていたけどいい加減飽きてきた。


「何その反応……ま、いいや、ダンタリオン風呂に行こうゼ」


「またですか?」


「ナディが言ってたんだよ、風呂は命の洗濯だって。気持ち良いから何度でも入れるゼ!ほら早く!」


 ダンタリオンがあ〜れ〜と言いながらシャワールームに引っ張られていった。


(騒々しいったら………いやでもいなくなられたらなられたで寂しく感じるんだろうな)


 二人が作ってくれた料理に舌鼓を打ち、頭の中でグリルさんとの思い出に耽る。

 

(駄目だ、ろくな思い出しか出てこない……)


 何かと僕に対してアプローチをかけていたような...本当にあの人は男色家だったのかと考え始めた時、それを遮るようにしてインターホンが鳴らされた。前にも似たような事があったなと思い出しながら画面を確認すると、


「──え?アーチーさん?」

 

 何でそんなに怒った顔を──ああ!ガングニールのせいだ!かかってきた電話はアーチーさんだ!

 さっきの二人のようにどたどたと足音を鳴らしながら階段を降りて玄関の扉を開け放つ。


「アーチーさん!あのですね──」


「おい!ホシ!思い出した!リッツ・アーチーっていう女からだったぞ!もうすぐ家にやって来るって!」


「ぎゃあああっ?!ガングニールっ!!裸!」


「何でお前が叫ぶんだよ、見られてるのコッチだぞ?」


 アーチーさんが女性とは思えない力で僕を押し退けて、


「こら君!何て格好で彷徨いているのっ!」


「げっ!何かコワい女入ってきたっ!」


「待ちなさいっ!」


 僕には目もくれず階段を駆け上がっていく、僕は僕でとんでもないものを直視してしまったのでその場に立ち尽くしてしまった。


(初めて見た女性の裸が特個体ってどうなのっ!あ〜〜〜………綺麗だったなあ〜………)


 リビングからダンタリオンの声で「ついに現れやがりましたね僕の仇敵!」と聞こえてきたので仕方なく階段を上がっていった。



 お風呂から上がったばかりのガングニールがアーチーさんに髪を乾かしてもらっている、さっき見せた怒気もまるでなく姉妹のようである。


「ちゃんと乾かさないと髪が傷むよ」


「そこらへんホシに教えてもらってないからな、仕方がない。他に気をつける事ある?」


「下着は?持ってないの?」


「いるの?」


「それだけ胸が大きいんなら──」


 ガールズトークが始まったのでついと意識を逸らした。ダンタリオンは僕にべったりだ、よほどアーチーさんのことを警戒しているらしい。

 アーチーさんが訪ねたきた理由はラハムと呼ばれるマキナについてだった。


(探査艇のパイロットになるって……セントエルモをもう一度立ち上げたのは本当だったんだな……)


 保証局内でもセントエルモの事は話題になっていた、いつの間にかクラウドファンディングのホームページまで作られていたのでびっくりしたのを覚えている。

 僕たちの間では"否"、いや"不可能"と結論付けられたのでウイルスの採取について見送られることになっていた。けれど、ピメリア連合長は違ったようである。


(何を考えているのやら、前回はあんな目に遭ったっていうのに……)


 お風呂上がりで髪がしっとりと濡れているダンタリオンを見やる、警戒している割には羨ましそうに二人のことを見ていたので乾かしてもらよう促した。


「ダンタリオンもやってもらったら?僕よりアーチーさんの方が上手だよ」


 きっと僕のことを睨んで一言。


「ホシはあの人のことを何とも思っていないんですか?」


 ソファに座っていたガングニールが「熱い!」と急に吠えた。


「何すんだよ!お前もホシのことが気になってわざわざ家に来たんだろ?面と向かって訊けばいいじゃ──熱い熱い熱いドライヤーを直接当ててくるな!」


「もう!」


 お風呂に入っていないのにアーチーさんが顔を赤くしている。その様子を見て小さく息を吐いてから腹を括った。


「………ガングニール、ダンタリオンの相手をしてやってくれる?僕はアーチーさんと話したいことがあるからさ」


「おう。こっちこいよお子ちゃま」


 ダンタリオンがそのままガングニールの元へ駆けて行く。アーチーさんも意を決したようにガングニールの元から離れた。

 

「アレだな、何だか今から家族会議する母親と父親みたいだな」


「違うわ!」

「違うわ!」


 声を揃えて突っ込みを入れる、自分の部屋へ来るようアーチーさんを促しそそくさと扉を閉めた。


「…………」


「…………」


 アーチーさんが部屋に入った途端、甘い匂いがぶわりと充満し、よくよく考えてみたら自分の寝床に女性を入れたのが初めてだったことを思い出しパニクった。しかし時既に遅し。

 ギクシャクしながら僕はベッドに腰を下ろし、アーチーさんを椅子に座らせた。


「その……まずは急で、すみませんっス……」


「あ、いえ……きっとガングニールがろくすっぽ話しをしなかったんでしょう」


「……本当にあの子は特個体なんスか?電話に出た時は心底驚きましたよ……」


「そうですね、はい……詳しい事はお話しできませんがあの二人は特個体のガングニールとダンタリオンです。えーと……ですね、どうして怒っていたんですか?」


「まさか……ホシさんが未成年の女の子を自宅に招いているなんて思わなかったから……っス。すんません、私の勘違いだったんスけど……」


「あ、いえ……誤解させてしまってこちらこそすみませんでした」


 互いに牽制し合う空気を感じながらも別の話題に移った。セントエルモの事である。


「それからアーチーさん、セントエルモの事についてなんですが……本当に決行するんですか?」


 アーチーさんが小首を傾げながらどうして?と聞き返してきた。


「そうっスけど……大統領からも政府に対して発表がありましたよね?」


 そう、それも驚きだ。この人はいつの間にか行政室の専任補佐官になっていたのだ。


「それはそうなんですが……あまりお勧めはしません。深海に潜ることよりもウイルスを引き上げる方がもしかしたら危険かもしれませんから。今から予定の変更はできませんか?純粋に記録を打ち破るだけの潜航に切り替えるとか」


「う〜〜〜ん……チームの責任者はピメリアさんなので私の方からは何とも……それにチームとしても昨日から活動が始められていますから今さらっスかね〜……そんなに危険なんスか?」


「ここだけの話、以前街で起こった騒動はそのウイルスが原因なんです。政府としてはひた隠しにしていますけど、またその元凶を引き上げるとなると扱いにも困りますから、いずれ止めるようにと行政指導があると思いますよ」


「そう言われると……そうっスね……」


 アーチーさんの長いまつ毛が伏せられ、思案顔になった。

 外様がどうこう言っても仕方のない話ではある、しかし身近な人間がウイルスに巻き込まれて命を落としたとなれば自然と口も強くなってしまう。

 アーチーさんもそれとなく連合長に話をすると約束し会話が途切れた、これで彼女の用事も終わったと思うのだが部屋から出て行く様子がなかった。


「…………」


「…………」


 無言、互いに何も言わず時間だけが無為に流れていく。

 いや自分でも分かっているつもりだ、あの時のパーティーから半ば逃げ回っていたのだからきちんと向かい合わなければならない。


「──アーチーさん、あのですね、あの時のパーティーで僕が言った事は──」


 ここでアーチーさんが急に立ち上がった。


「あ!いえ!それは別にというかっスね!何でもないんスよ!すんません長々と、これで失礼しまスね!」


「え?アーチーさんもその事を聞きに来たんじゃ──」


「いやいや!ほんと!本当に大丈夫っスから!あ!でもガングニールに変な気を起こしたら駄目っスからね!」


「ちょっと!──僕だってあなたに言いたい事があるんです!」


 引き戸に伸ばしていたアーチーさんの手がぴたりと止まった。ゆっくりと振り返った彼女の瞳はどこか潤んでいるように見える、気のせいではなかった。


「………な、何で、何でしょうか………」


 消え入りそうな声に泣き出しそうな顔。


「────僕は子供を産むことができません」


「──え………え?」


「セレンの戦いで重傷を負った僕は全身を……………………ちょっと待っててくださいすぐに戻ってきますからガングニールっ!!!」


 ほんの少しだけ開いていた扉の向こうで「あ、ヤッベ」と声が聞こえ、ついで荒々しく逃げて行く足音が耳に入ってきた。

 トイレに駆け込んだガングニールと一悶着を起こしている間にアーチーさんがそろりと部屋から出てきた。


「アーチーさん?!ちょっと待っててください本当に!」


「いえ、ホシさんが秘密を打ち明けてくれただけで十分ですから、それ以上は聞き出したりしません。それからっスね………」


 帰り支度をして僕の所に寄ってきた彼女が一つだけのお願い事をしてきた。


「私のこと、下の名前で呼んでもらえないっスか?出会って随分と経ちますけどずっと上の名前なので」


「──それは………それは気にしないって事なんですか?」


「それは言わない約束っスよ」


 トイレの中から「ひゅーひゅー」と聞こえてきたので一発扉を殴ってから彼女を玄関まで連れて行った。


「………ありがとう。自分の体質が気になってからパーティーの時はあんな事を言ったんだ」


「………そうだったんだ、でも私は気にしないよ」


「うん──あ、いや、ごめん名前呼びはもうちょっと待ってくれない?さすがにいきなりは恥ずかしいよ」


「ふふふっ……分かった、今度会う時までには慣れておいてね、私もホシからリッツって呼ばれたいから」


「うんいいよ、部屋に篭ってリッツって練習しておくから」


「何それ。言っておくけど今のはノーカンだからね?それじゃあまた」


「うん、帰りは気を付けてね、リッツ」


 最後に何とか言えた。彼女はとても嬉しそうにして夜の街へと歩いていった。



 その彼女から急な知らせが入ったのは半時間ほど経ってからだった。帰り際の甘い会話がまだまだ余韻として残っていたのに、リッツの悲痛に近い声は僕を否応なく現実へと引き戻していった。


[──ホシ!今街中で──暴れているの!早く皆んなに──]


 電話口からでもパニックに陥った人たちの声が届いてくる、彼女の声も途切れ途切れだった。


「今何処にいるんだ?!」


 タガメだ、また奴らが街中に現れたのだ。



✳︎



 グリル...あいつは良い男だった。悪い趣味ばかり持っていたが仕事をそつなくこなし、こちらの暴言にも一切怯まない稀有な奴だった。

 仕事を終えて独りになった時、ようやく奴の死を偲べるかと思ったがそうもいかなかった。局長から緊急通信、新しく調整されたガングニールで出撃して対応しろと指示が下された。


「状況は?」


[都内の複数の箇所にタガメが同時に発生したわ。一つが第二港にある倉庫群、次に首都郊外にある配送会社の敷地内、最後に議事堂内よ。あなたは議事堂に向かって狸共の救助を]


「……了解しました」


[グリルのことは残念だったわ、けれど切替えてちょうだい。無関係な人たちに彼の跡を追わせるわけにはいかないもの]


「問題ありません、すぐに──」


[その必要はないわ、そこで待っていなさい、直にガングニールの機体だけが到着するわ]


 言ってるそばから閑静な住宅街に特個体のエンジン音が耳に届くようになった。


[今は大事な時期だもの、悪いけどあなたにはこの後から缶詰めになってもらうわ。引っ越しの手続きはこっちでしとおくから]


「そりゃどうも、最近エンジン音がうるさくて悩んでいたところですから」


 簡単に身支度を整えて家を後にする、ただの寝床だったのでそこまで愛着はなかった。

 近隣の住民たちが何事かと表に出てきた、住宅街の中にある公園にはガングニールの機体がゆっくりと着陸したところだ。

 普段やったら白い目で見られるが煙草に火を付けてから公園に向かった。


(タガメが発生した地点は全て──っ?!)


 公園に到着し、煙草の火を消そうとした時にガングニールのカメラアイがぎろりと動いた。その人間的な仕草に思わず体を硬直させてしまう。俺を認識したのか、機体のハッチが開き搭乗用ロープが一人でに降りてきた。


「心臓に悪い……中に入ったら食われたりしないだろうな」


 煙草の火を踵で揉み消しロープに足をかける、音もなく上がっていく間も機体のカメラアイは俺を捉え続けていた。

 入り込んだコクピットの中にも変化があった。


「機体だけとは、奴はいないんだな」


 見慣れないコンソール類がびっしりと取り付けられている、ホシの家で厄介になっているあいつの代わりだろう。

 シートに腰を沈めて機体を立ち上げる、オート制御からセミマニュアルに切り替えて局長に連絡を入れた。


「ヴォルター、機体に搭乗しました。いつでもいけます」


[結構。ところで引っ越しするにあたって何か希望はあるかしら?意外と良い物件が多くて困っているのよ]


 珍しい、局長が冗談を口にするなんてそうあることではない。


「別に、どこでも構いませんよ」


[そう?私の傍がいいとは言わないのね]


「言えるんならとっくの昔に言ってます」


[それもそうね。言った通り議事堂へ向かってちょうだい、他の場所へは陸軍のランドスーツ隊が対応にあたっているわ]


「もうですか?」


[もう、よ。今回の彼らは対応が早くて助かるわ、早すぎるような気もするけど]


 機体を離陸させ、衆目に晒されながら夜の空へと昇っていった。



 夜空には先客が既にいた、救助用ヘリコプターである。全ての軍からヘリコプターも出動し、タガメが発生した箇所以外にも機体を向かわせている、被害が拡大している証拠だった。

 第二港近辺と広い敷地を持つベッドタウンから主に火の手が上がっていた、俺が向かう国会議事堂周辺は静かなものだ。


(真珠で一儲けしようとしていた輩が炙り出されたことになるのか……取引き先は──カウネナナイ辺りか?)


 首都のど真ん中を流れる川が目前に迫った時、コクピットにアラートが発せられた。切り離されたガングニールもいれば奴が勝手に報告してくれるが今はそうもいかない、自分で調べなければならなかった。

 ぎょろりと動いていたカメラアイをズームして確認してみれば、その川に奇妙な程足が長い大型の昆虫が一匹存在していた。胴体は細長く、一対の足だけが長い、アメンボと分類される外見をしていた。


「ちっ!奴さんも多様化してきたのかよっ!ガング──ああくそっ!面倒臭い!」


 周囲に人影がないことをカメラ映像とレーダーで確認し、搭載されていたゲイルで狙いを付けた。アメンボの直上に到着し、間髪入れずにトリガーを引き絞る。威力の割には気の抜けた発射音と共にゲイルが放たれ、真下にいたアメンボを派手な飛沫を上げながら撃破した。


「ヴォルターだ!局長!新型の虫を確認した!外見上はアメンボに酷似している!目に見えた武装はしていないが全軍に通達してくれ!」


[──分かったわ、引き続き対応にあたってちょうだい──待って、議事堂方面は状況が落ち着いたそうよ、あなたは第二港へ]


「はあ?狸共が生身で戦ったとでも言うのか?」


[だから言ったでしょう、今回の陸軍の対応が早すぎるって。議事堂で指揮を取っていたのは参謀部長よ]


「──局長、これは明らかに──」


[放っておきなさい、今は他所の連中に手を煩わせているわけにはいかないわ]


「グリルがあんな目に遭ってもか?」


[そういう探偵ごっこなら自宅に帰ってからにしなさい。どのみち証拠がなければ公安に動いてもらうこともできないわ]


「──ちっ!」


[気が済んだら第二港へ、そこが一番出現数も多い、ランドスーツ隊も苦戦しているからあなたの助けが必要よ、いいわね?]


 返事をせず通信を切り、機体を反転させて第二港がある海方面へ向かわせた。

 さらに火の手が上がっていることを確認した時、救難回線による通信が入った。出動している全部隊に行き渡るものだ。


[警告、これは警告であるウルフラグの民よ。全てのウイルスを根絶しなければ、その火が街全体に行き渡ることになるだろう。これは警告である、速やかにウイルスを排除されたし、さもなくばさらに戦火が広がることだろう]


「くそがっ……この声はジュヴキャッチの……まだ国内に潜んでいやがったのか」


 名前は確かヴィスタという男だ、ホシが躍起になって追いかけていた首謀者の一人。

 戦火が行き渡る?根絶しろだ?どうせ独り占めしたいが為のハッタリだろう、この混乱に乗じて先の送還作戦に漏れていた奴らが回収に動き出したのだ。

 到着した現場は酷い有り様だった。第一港と比べて規模も小さい分、港の至る所が破壊され出動したランドスーツ隊の骸もあちこちに転がっていた。


「保証局のヴォルターだ!聞こえている部隊がいたら応答しろ!今すぐ助けに入る!」


 ノイズに塗れたコンソールからややあって返事があった。


[こちら陸軍首都防衛機械式歩兵連隊の者だ!陸に上がった虫共の掃討は完了しつつあるが海中に潜んでいる奴がいる!特個体並みに大きい!相手をしてくれ!]


「民間人の避難は?!」


[それどころじゃない!駆逐するので精一杯だ!]


 第一陣の部隊はどうしたって被害が大きくなりやすい、相手の動向がまるで分からないからだ。

 人命よりも自分たちの前線を押し上げるのに苦労している部隊を飛び越え、言われた通り桟橋の上空に到着した。

 特個体と同程度の大きさを誇る虫とやらが、潜んでいた海中から身を躍らせ襲いかかってきた。


「────っ!!」


 その長い凶悪な爪に裂かれるすんでのところを躱し、ゲイルを二発見舞った。


「Wwptpmoooーーーッ!!」


 電子的な雄叫びを上げながら再び海面に落ちていく、腹に二発食らっても絶命していない。

 特個体のようにではなく特個体()()()()()()()。推進ユニットに膨らんだ歪な下半身、腕部だけがタガメとしての外観を残していた。


「奴らついに特個体まで捕食したっていうのかっ!!」


 海中に潜ってなおのたうち回る敵へさらにゲイルを放った、計五発だ、それでも奴は絶命せず動き回っている。

 爪が海中から姿を現し桟橋に突き刺さった、無理やり体を持ち上げて陸に上ろうとしている。楕円形の上半身も露わになり、大量の液体を撒き散らしていた。

 その見るに耐えない異形の虫の前に立ちはだかる男が一人、ジュラルミンケースを手にしていた。


「あいつは──」


 気負った様子もなく陸に上がった虫へと近づいていく。コクピットの座席すら再現したタガメの頭に豆鉄砲にしか見えない大口径の自動拳銃を撃ち続けている。


「Wpwpmgooーーーーッ?!?!」


 その男──ヴィスタが手にしていたケースを、雄叫びを上げた虫の口の中へ放り込んだではないか。奴がもう片方の手に持っていた無線機を口に当てて、


[良く見ていろ、これがハフアモアの真実だ]


「何をして──」


 ケースを口の中に放り込まれた虫が次の瞬間、体の内側から爆発を起こしたように膨れ上がり──無数大小の結晶を生やしながら無言のままに絶命した。


「…………………」


[これは触れてはならないパンドラの箱だった。カウネナナイもウルフラグも関係なく見つけた当初から排除すべきだったんだ。だがもう遅い、この小さな卵は世界中に散らばりつつある、誰の手を借りても全てを回収することは不可能だ]


「……何故お前がそんな事を知っているんだ──答えろヴィスタっ!!」


 コンソールに向かって唾を吐き問い質した。


[バランという男に会った。奴からハフアモアの真実について聞かされて手を切ったまでだ]


「まさか──グリルの研究成果は奴が盗んだっていうのか?!」


[その男は自死でも他殺でもない、ウイルスに取り込まれたんだ。遺体の確認を急げよノロマ共め]


 そう暴言を吐いたかと思えば、混乱の極地に立たされている港へと歩いていった。


「待ちやがれっ!!」


 ゲイルの威嚇射撃に怯えることなく火の手の中へ消えていった。



 バラン・ウインカーが戦場で倒れ、緊急搬送された病院で死亡が確認された。死因は()()()()()、奴には命に関わる持病などとくになかったと報告を受けている。

 グリルと同じだ、あの男と同じ道を辿ったバランは戦場で唐突に倒れ帰らぬ人となってしまった。ウイルスの秘密を抱えたままだ。

 街中で起こった暴動はヴィスタが現れたのを契機にしたかのようになりを潜め、明け方には完全に沈黙していた。

 暴動が起きた翌る日、奴に言われた通り遺体が安置されている葬儀場へ皆で向かった、到着するなり血相を変えたグリルの妻が俺たちを出迎えてくれた。


「ああ良かった!主人の体が──早く来てください!」


 言われるがままに跡を追いかける、黙祷を捧げる会場には既に医師や会場責任者たちがいた。皆、険しい顔つきをしたまま棺の中を覗き込んでいる。


「一体何があった?」


「……これを見てください。最後お顔を拝見した時は何ともなかったのに……」


 俺たちもグリルを確認してみやれば─昨夜のヴィスタの言葉を思い出しながら─確かな異常を感じ取った。


「色が………抜けている……?」


 誰の呟きかは分からない、だがその通りだった。

 グリルの髪の毛、肌が脱色したように白色になっていた──いや、白というよりも...無色だ、色という色が抜け切っているように見えた。

 医師がグリルの妻に断りを入れてから少しだけ固くなった目蓋を無理やり開けている、瞳の虹彩と呼ばれる部分も無色に変化していた。


「これは一体──どういう事なんだ……何故死亡した後に変化が起きるんだ……」


「分かりません……死後も活動するグリア細胞と呼ばれるものはありますが、それも損傷した脳内細胞の修復を目的したものなので……」


「これがウイルスってこと?」


 キシューの言葉は場を静めるのに十分だった。

 訪れていた医師にグリルの遺体、それからバラン・ウインカーの遺体を預かってもらうようお願いをし、俺たちは会場を後にしていた。

 グリルの妻は本当に良く出来た人だ、取り乱さず粛々と対応を続けている。その彼女とも別れ、再びボックスカーに戻ってきた。


「…………何が何やら……お手上げだよ」


「あいつは……ちとキツいな、さすがにグリルの奴が可哀想だ」


「落ち込む暇があるの?旦那、ヴィスタってテロリストは言ったんでしょ?あれを排除しないとマズいことになるって」


「言った。それが?奴の言葉を聞くってのか?」


「バランも議事堂前で突然死。奴も何らかの形でウイルスを摂取したはずよ、だから心不全がこうも立て続けに起こったんでしょ」


 ...女というものは強い。男たちが感傷に浸っている時ほど前に一歩踏み出していく。

 こういった時に強く出るのがホシだ、奴の顔を見やれば憔悴し切っていた。


「ホシ、大丈夫か?」


「……見れば分かるでしょう、ギリギリですよ」


「坊やは昨日、住宅街で対応してくれていたのよ、今の今まで寝ずにね」


「──そうか」


「で、これからどうするの?ヴィスタって野郎を捜す?そいつなら何かと知っていそうだしね」


「キシュー……ちょっとお前、頼むから少し黙っていてくれないか、仲間を二度も殺された気分なんだよ、とてもじゃないが──」


 イシカワがそう不機嫌さも隠さずキシューを糾弾した。キシューも喧嘩っ早い、だがここは素直に折れてくれた。


「──ごめん、私も何かしてないと気分が落ち着かなかったのよ。サイトウ、煙草ちょうだい」


「止めたんじゃなかったのか?」


「別にいいでしょ」


「ここいらは屋外も禁煙だ」


 ホシが何も言わずに手を振ってみせた、気にせず吸えということだろう。それを見たホシ以外の全員が車の中で煙草に火を付け始めた。

 燻る紫煙を皆んなで追いかけてもこれからの事なんざまるで思い付かなかった。



 さすがに煙が酷かったのか、途中からホシが車外に出て行った。俺はその跡を追いかけ、疲れ果てているように見える奴の背中に声をかけた。

 これが失敗だった。


「昨日はご苦労だったみたいだな、これが終わったら休め」


「……言われなくてもそうしますよ」


「何かあったのか?」


「──昨日の騒動で身近にいた知人が巻き込まれてしまいました」


「状況は?」


「命に別状はありません。ただ、職場に復帰できるのは当分先になるでしょうね」


「ならいい、死んでいないだけマシだ」


 能面のように表情が消えた奴の顔がこっちを振り向いた。


「──死んでいないだけ……マシ?それは本気で言っているんですか?」


「──ああ、命があるならいくらでもやり直せる」


「目の前で──血だらけになっていく様を見ても同じ事が言えるんですか?あと少しのところで間に合わなかった僕の気持ちが分かるんですか?当分先って、それはいつになるか分からないって事なんですよ?それぐらいに──」


「それでも同じ事を言う──っ!!」


 能面のような顔から一転して怒気を含んだ奴が目前に迫ってきた、気付いた時には左頬に強烈な痛みが走っていた。


「──あんたはセレンの島で子供たちを見捨てられたからそんな事が言えるんだっ!!誰がお前たちの部隊の尻拭いをしたと思っているんだっ!!答えろよこの無能がっ!!」


「………っ」


 騒ぎを聞き付けたイシカワとサイトウが猛り狂ったホシを押さえている。後からやって来たキシューの言葉にも耳を傾けない。


「止めなって!!こんな所で喧嘩しても意味なんてないでしょう!!」


「──っるさいっ!!あんたら何も分かっていないっ!!この男はっ──この男は戦果の為に子供たちを見捨てた無能なんだよっ!!セレンの英雄?!ふざけるなよっ!!俺は絶対にお前たちラズグリーズがした事を忘れたりしないからなっ!!」


 雷鳴にも似た奴の叫びが葬儀場前に木霊した。チームが決定的に分たれた瞬間だった。



✳︎



[──先日、そして一月前に発生した街での暴動はテロリストたちによるものではなく、皆さん方も知っての通り我が国に侵略してきた全く異なる生命体によるものです。その全容は未だ何も分かっておりません、政府としても後手に回っている状況です。不安になられている方も、我々に憤りを感じている方もいるでしょう…………しかし!]


 そこで一旦言葉を区切ってから大統領が続きを話した。


[民間調査チームセントエルモがこの状況で立ち上がってくれた!深海に潜む奴らの卵の採取を目的した超潜航!彼女たちが必ずやこの状況を打開してくれると信じ我々行政室は全力を持って支援することを約束する!そして!その成果を国民の皆に必ず開示するとお約束しましょう!]


「あ゛〜〜〜………とんでもない事になっちまったな〜〜〜………」


 朝の臨時放送では、マクレーン・ヒルナンデス大統領が握り拳で大々的に演説を繰り広げていた。その主な内容は私たちのチームである、一歩ずつ暗中模索していた状況から一変して国の命運を背負わされることになってしまった。

 チームの副リーダーはお澄まし顔でタブレットを眺めている、その余裕が羨ましい。


「何を言っているんですかピメリア、世論が私たちの味方になったのですよ。これを見てください」


 見せられたタブレットの画面には、更新する度に桁が変わっていくクラファンの出資金額が表示されていた。


「いやあのな〜……成功するか分からないドキドキ感と失敗したら洒落にならないドキドキ感は全くの別物なんだよ……」


「それも今さらですよ。さあ!私たちの港へ行きましょう!今日も特訓ですよ!」


「……はいはい。その前に寄る所がある」


「何処ですか?」


 肩に乗しかかってきた期待というプレッシャーを跳ね除け、この時ばかりは自信もたっぷりにこう言った。


「吠え面をかかせたい奴らがいるんだよ」

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