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第21話

.進まない会議



 国全体が長い休みに入ったその初日、ユーサ第一港がジュヴキャッチの襲撃に見舞われたことを受けて、臨時の対策会議が国会議事堂で開かれた。

 招集を受けたのはウルフラグ全軍のトップである大将、それから参謀長、そして国土交通省、それから厚生労働省の各大臣とそれを補佐する大臣政務官、最後に襲撃を受けてしまった当事者の代表として、民間企業に勤めているユーサ第一港の連合長が会議室に参集していた。

 手元に置かれた資料には当日の経緯が事細かく記されている、"対策会議"とは名ばかりで要は"責任の所在"をはっきりさせるための会議であった。会議室に集った─いち部の者を除いて─皆の顔が、いくらか暗いのは無理もない話だった。 

 私から口火を切った、それが役目でもあるからだ。


「招集に応じていただき感謝致します。それでは早速ですが、一先日に起こったユーサ港襲撃の件に関して臨時の対策会議を始めたいと思います。まずは被害報告から──」


 国の傘下から外れた各軍が被害状況を述べる、どこも軽微であったが陸軍は少しばかりややこしいようだった。

 陸軍の参謀長を務めているバラン・ウィンカーが、何度も溜息を吐きながら説明していた。


「我々の死傷者は全部で一〇名、うち死亡が確認されたのが八名になります………それと、本作戦を任せた少佐の下についていた大尉ですが──ああ、何と申し上げればよいのか……」


「遠慮なくどうぞ」


 私がそう促し、また溜息を一つ吐いてから答えた。


「………オリーブ・ノア、それからマリサ・クルツの両名も、どちらも死亡が確認されているのですが、経歴に誤りがあったようでして……」


「誤りとは?」


 咳き一つない会議室、彼の溜息は良く耳に届いた。


「セレンで監視を続けている駐在軍に所属していたとありますが、あちらの人員名簿に彼女らの名前がなかったのです」


「そんな馬鹿げた話があるのか?」


 口を挟んだのは国交省大臣のロドリゲスである、彼の一言にウィンカーが盛大に顔をしかめてみせた。


「こちら側の人事に何ら不備はありません。きちんとした手続きを踏んでから少佐の隊に配属を命じました」


「分かっていて配属させたのではないのかね。こちらの指揮官と些か揉めていたようだったが?」


 さらに口を挟んだのは海軍大将のフギン・ペーストリーである、(他の軍人と比べて)細い体格をした男であり、加齢により白くなった髪を一本の乱れも許さず全てオールバックに纏めている。

 サーチライトのように鋭い視線は陸軍の参謀長に向けられていた。


「揉めていたのはウイルスを搬出するタイミングであったと少佐から報告を受けています。それ以上の事は何もないはずです」


「ふん。港の造船ドックに忍ばせていたトラックは君たちが手配したそうではないか、大方、どさくさに紛れてウイルスを確保しようとしたのではないのかね」


 ウィンカーが「そんなまさか」と口にし、彼の代わりに陸軍大将のリーダ・アマノメがペーストリーを糾弾した。


「馬鹿げた憶測で我々に泥を塗るのは止めていただきたい。亡くなった隊員の墓前でも同じ事が言えるのなら詳しく調査をさせますが?どうしますか」


「………」


 双方、強い眼差しで互いのことを睨み合っている。そこへ、窮地を救った()()の空軍の大将が割って入った。


「聞くところによれば、今回の作戦はあなた方の共同作戦であったとか。しかし、現に軍と民間人に犠牲者が出てしまっています。これについてどうのようにお考えですか?」


 大将陣の中で一番歳も若く、その性急さからくるものなのか、場の結論を急かしてきた。

 名前はガルー・ガーランド。セレン島の出身者で、実績と政権争いの果てにトップに上り詰めた、カウネナナイ人の血を引く子孫だった。黒く焼けた肌、それから過去に何かあったのか、髪を剃って禿頭にしている偉丈夫でもある。

 場が喧嘩の場に代わりつつあるなか、私が口を挟んで待ったをかける。


「責任の所在を明らかにするのも確かに必要な事ですが、今はとにかく現状把握に努めたいと思っております。今回の議事録は後で大統領に提出し、国民に説明してもらうことになっていますから」


「その本人がここにおらんではないか」


 またしてもロドリゲス大臣が口を挟んできた。


「大統領は襲撃を受けた港の損害状況把握のために現地に足を運んでいます」


 自然な形で次の損害報告を民間へと移していった。


「メアリー、今の話は知っていたか?」


「はい、港の確認は各職場の課長と私の秘書官に任せていますので」


「──そうか、ならいい」


「ではレイヴンクローさん、そのまま報告をお願い致します」


「ユーサ第一港の死傷者は全部で九八名、その殆どが退避による混乱が原因となっています。襲撃における死者は一名です」


 ...前回顔を合わせた時とは打って変わって、覇気もなくただ淡々と報告している彼女は、圧迫感こそないが言葉にはできない迫力があった。強いて言うなれば、彼女は今回の最大の犠牲者と言ってよい、ウイルスの採取から保管、それから調査を経て果ては襲撃である。もっと感情的になっても良さそうではあるが、その静けさが私たちに迫力を与えていた。

 開け放った窓から暑い風が室内に入り込み、テーブルに置かれた資料と彼女の髪をさらっていった。


「……ありがとうございます、心からご冥福を祈らせていただきます。ご遺族の方にはまた改めて訪問させてもらうつもりです」


「よろしくお願い致します」


 各陣営の被害報告を終え、誰もが遠巻きにしていた問題について、一番良く知る厚生省の方から口火を切ってきた。


「──では、改めて皆さま方へウイルスについて報告させていただきます。大臣につきましては所用のため席を外しています」


 いつもの事である、かく言う私も厚生省の大臣とはオンライン会議で言葉を数回交わしたに過ぎない。

 厚生省大臣政務官であるタツタ・グランムールと呼ばれる男が早速説明を始めた。会議室の外に控えていたのか、説明が始まると同時に厚生省事務次官のジョン・グリーンと呼ばれる恰幅の良い男が入室してきた。

 グリーンが何やら準備を進めている間にもグランムールは説明を続けていた。


「──以上が、ユーサ第一港がウイルスを取得した経緯になります。次にそのウイルスについての特性ですが──」


 でっぷりと太り、およそ軍人らしくないアマノメが口を挟む。


「少し待っていただきたい、その説明は今後の対策に必要なことかね?大方、君たちの下についている特個体が検閲したものだろうに」


「いいえ、ここで発言することは全て事実です。特個体による介入もないと断言しましょう」


「続けてくれ、カウネナナイの輩がここまで躍起になっているのも興味がある」


 最年少であるガーランドに促され、いくらか歳上のはずであるグランムールが眉を寄せながら続きを話した。


「採取したウイルスは既存の生態系に当てはまらず、またそのウイルスから生成された小さな物体、研究者たちは"真珠"と呼称していましたが……その真珠の中にルーターがあることも発見しました。これは我々が持てる技術では再現不可能なものであります」


 プロジェクターの用意を終えたグリーンが素早く退出し、明かりを落とされた室内の壁に映像が投影された。


「さらに、そこにいらっしゃいますレイヴンクローさんから情報提供がありました通り、この真珠は港を襲撃した銀色のタガメの卵としての性質もあり、首都近海にまだ残されているものと思われます」


 映し出された映像には、ウイルスの外観から件の真珠の画像、それから陸軍のランドスーツ隊が捕獲したタガメの画像もあった。

 確かに、銀色と体格さえ異なっていなければあのタガメに見える。だが、こんな物がこの国の海の底に眠っているのかと思うと、焦燥感と恐怖を感じずにはいられなかった。

 それでも、軍人たちは長年の経験からか、プロジェクターの映像を見て鼻を一つ鳴らしただけだった。


「ふん、こんな物の何が良いんだ?ただタチの悪い害獣ではないか」


「カウネナナイがこれを狙っていた理由は?」


 薄暗い会議室の中でも、グランムールの目がキツく据えられているのが見て取れた。その相手は陸軍参謀部長のウィンカーである。


「──それにつきましては私よりウィンカーさんの方が詳しいのではないでしょうか」


「何を──」


「本作戦の指揮を取っていたシュタウト少佐に奪取されたウイルスの破壊を命じたのでしょう?そうでもなければあのような行為はおよそ容認されるものではありません」


 グランムールの言う行為とは、少佐が条約に抵触する攻撃を行なったことである。本人はまだ入院中ということもあり、審議はまだ開始されていないが懲戒免職は免れないだろう、というのが関係者による見解だった。


「それに関しては審議会の方で発言したいと思っています。カウネナナイがつけ狙う理由とは関係がないでしょう?」


「いいえ、経歴を詐称した二人も作戦に組み込んでいましたよね?─「だからそれに関してこちらに不備があったわけでは─「その発覚が事後事前に関わらず、あの作戦ではカウネナナイに内通していると思しき人間が二人もいたことになります。この中でウイルスに一番近い位置にいるのは陸軍の皆様かとお思いますが?」


 遠回しではあるが、グランムールの言いたい事は「そこまでしてウイルスを欲した理由があるはずだ」ということだ。勿論、ウイルスについてなら厚生省の方が断然詳しい。

 ウィンカーが隣に座っているアマノメにちらと視線を寄越してから、薄闇の中で答えた。


「……少佐が何やら画策していた事実はあります。ですが、それも少佐の治療が終えてからの話ですし、我々陸軍の方で審議をしましてから改めてご報告するという形になるかと思います」


「オリーブ・ノアとマリサ・クルツに関しては?この二人がコールダー家にも接触したという報告をもらっていますが、それにマリサ・クルツという女性についても特個体と思しき能力を有していると、グリーン事務次官から報告をもらっています」


「それにはついては寝耳に水だ。我々もその話を聞かされて驚いている」


 アマノメがそう答え、場がまた静かになった。


(はぁ……全くもって、どうしてこうも話が進まないんだ……)


 薄暗闇をいいことに、遅々として進まない会議を憂いて大きく息を吐いた。



✳︎



 すっかり昇った太陽の光りに照らされて、夜更かしをして重たくなった体を無理やり起こした。

 扉のすぐ向こうにあるキッチンから何やら騒がしい音が聞こえてくる、それも二人分だ。


「……ラハムさんは……」

「……いいえお気になさらず……」


 単身用の狭いキッチンだ、それなのに二人が並んで立っている気配がある。

 まだまだ体が重たいので、怠惰な眠りを貪るためもう一度ベッドに体を沈めようとした時、太陽の光りと見紛うほどやる気に溢れた妹のフレアがすぱあん!と引き戸を開けて入ってきた。


「いつまで寝てるのっ!もう朝ご飯はとっくに出来てるよっ!」


「………」


「もうほらっ!向こうと全然変わらないじゃんっ!」


 アキナミから貰ったブランケットもそおい!と捲ってきたのでさすがに抗議した。


「もう!まだ眠いの!分かれ!」


「今日はラハムさんと一緒にお出かけするんでしょ!言っておくけどもうお昼も近いんだからね!」


 そう言われて時計に目をやるが、短針はまだ真横を向いたばかりである。


「朝じゃんか!まだ十分朝じゃんか!」


「今からご飯食べて用意してたらもうお昼だよ!朝から出かけるのに、時間が勿体ない!」


「知らないよ……そんなに生き急いでたらあっと言う間に歳とるよ」


「早く起きろって言ってんのっ!」



 フレアは私より少しだけ背が高い。ハイスクールでもスポーツをやっているので体の作りが私とは違うということもあり、力比べで勝てた試しがない、つまり結局は無理やり起こされて食卓の前に座らされていた。

 私とフレアの様子を見てラハムさんが「どっちが妹さんか分からないですね〜」と言っている。


「いえそんな、私なんかより姉の方がしっかりしていますよ。普段はこんな感じなので手が焼けるんですけど」


 ラハムさんが首を傾げながら「そういう所が姉っぽいと思うんですけど…」と言っている。ちなみに私はさっきから一言も発さず黙々とご飯を平らげていた。美味いから。


(美味)


 無言でパクついている間にも二人はお喋りに興じている。ちらりと視線を向ければ、フレアの髪の毛をラハムさんが整えていた。


「フレアさんの髪はナディさんと違うんですね、同じ姉妹なのに」

 

「そうですか?少し癖っ毛なところは一緒ですよ」


「そうなのですね、これは手入れのしがいがありますね!」


 ふんす!と気合いを入れて櫛で髪をといてる。後で私もやってもらおう。

 一人でごちそうさまと合唱し、流しに食器を放り込んでからダメ押しと言わんばかりの三度寝を敢行しようと思ったのだが、やはり私の妹であるフレアが目敏く見つけて「食べてすぐ寝たら牛になるよ!」の一言で諦めた。



 どうやらラハムさんは()ではないらしい。あの日、ライラと一緒に逃げ回った時から一緒に過ごすようになったラハムさんは、「まきな」と呼ばれる存在らしいのだ。

 三人で自宅を後にして最寄りのバス停でバスを待っている間、その事についてフレアがラハムさんに質問していた。


「結局まきなって何なんですか?普通の人にしか見えないんですけど」


 もう、それはもうバッチリお洒落をしたフレア。どこの読モだよと言わんばかりである、それならライラと並んでも遜色ない程に。

 フレアのダメージパンツをちらちらと見ながらラハムさんが答えた。


「マキナと言うのはですね、皆さんの生活をサポートする存在です!……まあ、ラハムはたくさん失敗しましたけど、それでもそれがマキナと呼ばれる存在だと思います」


 ラハムさんが「よければその衣服直しましょうか?」と言い、フレアが「いやこれはこういうものだから!」とちょっぴり顔を赤くして反論している。


「あのお偉いさんが言っていたやつですか?確か…あまり流行らなかったとか何とか言ってましたけど」


 今度は私の方から質問をすると、ラハムさんが目を潤わせながらひしと手を掴んできた。びっくりするぐらい手のひらの温度が高かった。


「……その事についてちゃんとお礼を申し上げようと思っていました、あの時は本とぅぅぅぅぅにっ!嬉しかったです!」


「あ、いや、まあ………あの時は、その、ラハムって同じ名前だったので、これで配信してたのかなとかなんとか……」


「このご恩はっ──「ほら、バスが来ましたよ、朝からクライマックス迎えないでください」


 いつの間にか到着していたバスに、私とラハムさんがフレアに連れられて乗車した。

 社会人になってから初めて迎える長い夏休み、そのせいか首都方面へ向かうバスには沢山の人が乗っており、皆珍しそうにラハムさんのことを見ていた。だって頭ピンクだし。これが染めたのならそこまで不思議でもないのだが、地毛なのだ。"自然なピンク"なんて誰も見たことがないのだろう、私もフレアも初めて見た。

 周りの視線をラハムさんが気にしていたのでそれとなくそうだよと教え、そして一個分高い視線から見下ろされながらこう言われた。


「…あの時は何も言ってなかったじゃないですか、病院でお会いした時は…」


「…いやだってあの時はそれどころじゃなかったし」


「…え何?二人はもう知り合いだったの?」


「…言ってなかったっけ?私が入院してた時に──あ!そうだよ!ちょっとラハムさん、色々聞きたいことあるんですけどっ」


「…はい!何でしょうかっ」


 とまあ、人の目を気にしているのかしていないのか、三人並んで吊革に捕まりながら小声でお喋りを続けた。

 バスに揺られながら向かった場所は、前にライラと一緒に出かけたショッピング街だった。フレアがどうしても行きたいと駄々をこね、どうせならラハムさんの服も買おうかという話になって再び赴くことになった。

 ちなみに、ライラもどう?と誘ったのだが返事がない。既読すらつかない。何度も下にスワイプして更新してみるが、昨日送ったメッセージに未だ返事がなかった。


(むぅ〜………こういうのは好きじゃないな〜)


「どうかしたのですか?」


 首都のバスターミナルに到着し、他の乗客たちが降りていくのを待っている間、そうラハムさんに声をかけられた。画面を見たまま渋面を晒していたのを見かけたらしい、本当に良く気づく人である。

 バスから降車していく人の列に並びながら、ライラから返事が返ってこないと伝えると、


「…ああ、それは……」


「何ですか?」


 意味ありげにそう呟いただけ続きがない、私とラハムさんの会話を聞いていなかったフレアが割って入ってきた。


「ラハムさん…さっきの説明もっかいしてくれますか?私にはさっぱりなんですが。お姉ちゃんは分かったの?」


「う〜ん……まあ、そんな事もあるんだろうみたいな」


「寛容過ぎる」


「いやいや、現に目の前で見せられたらね?だっていきなりパッと消えたんだよ」


 前に並んでいた親子が降車し、私が定期券をかざしてぴっ!として降りると、ラハムさんがぽかんとした顔つきで立っていた。ああ!忘れてたと思い出し、慌ててお金を取り出そうとするとラハムさんが手のひらをかざしたではないか。そしてぴっ!と電子音が鳴ったものだから私もフレアも心底驚いた。


「えっ」


「これでいいんですか?」


「え?いやいや、いやちょっ」


 そして当たり前のように降りてくるものだから、これではただの無賃乗車ではないかとさらに慌てた。しかし、


「後ろがつかえていますので」


「えっ、あ、はいっ」


 バスの運転手がフレアをそう促し、結局三人揃ってそのまま降りてしまった。

 バスから少し離れたところで、私と妹がラハムさんに食いついたのは当たり前のことだった。


「どういう事なんですか?!手のひらがパスになっているんですか?!」


「パス?いえ、ラハムはナディさんの真似をしただけなんですが……」


「今ので大丈夫なの?後で警察呼ばれたりしないかな…」


 フレアが大人びた顎に手をやりながら怖いことを言う。


「あれは何をやっているんですか?生体認証の確認でしたら確かにラハムはラハムなので問題ないかと思うのですが…」


「あれはお金払っているんですよ。私が持ってるパスは定期券っていうやつで……ああ、まとめてお金を払った期間中は乗り放題的な?」


「それはとても便利ですね!」


「ちょっとラハムさんこっち来て」


 フレアがラハムさんの手を掴んでぐいぐい引っ張っていく、大方そうだろうなと思ったらやっぱりそうだった。電子決済機能がついた自動販売機の前に立たせ、さっきと同じようにラハムさんの手をかざすと、またしてもぴっ!と電子音が鳴った。


「………やば、めっちゃ便利……」


「本当ですか?!いくらでもラハムの手を使っ──いったあっ?!」


「こら!駄目でしょうが!」


 ただの窃盗やんけ!とフレアのラハムさんの背中をぱしんと叩いた。


「ラハムさんはマキナなんだから!本当に決済できてるか分からないでしょ!」


「いやそうだけど……ごめん」


「何でラハムまで叩かれたんですか……」


 二人揃って眉を曇らせている。ラハムさんも自分は悪くないと抗議してくるが、問答無用である。


「いいですか、フレアや他の人に頼まれても勝手に手をかざしたりしないでください、お金は私とフレアが何とかしますから」


「………はい!」


 怒られているのにどこか嬉しそうにしているラハムさん、こんな調子だから放っておけないでいた。

 そんなこんなで始まった三人のお出かけ、最終目的はラハムさんがいたという研究所である、その前にまずは観光してから向かうことになっていた。

 夏も終盤に差しかかったこの時期の太陽はまだ、その暑さと明るさをもって私たちと街とを強く照らしていた。

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