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第12話

.Invisible



 さて、ここでは少し堅っ苦しい話をしようと思う。肩の力を抜いて気を楽に、疲れてきたら動画を見るなりゲームをするなりリフレッシュをしても良い。入浴中に済ませるのもいいし、通勤途中の電車の中で時間を無駄にせず済ませるのもいい。

 では、大統領制と議員内閣制の政治体制について話をしようと思う。え?概要を聞いただけでもう疲れた?早くない?


「これはどういう事だ?分かり易く説明をしてもらいたい。これでは国民に対して説明のしようがない」


 議員内閣制とは、立法権(法律を作る)を有する国会によって行政権(法律を執行する)の主たるグループの存続がなされる制度を言う。ここで言うグループとは内閣であり、内閣からさらにリーダーである内閣総理大臣を選出する。この主たる内閣がおかしな事をしないか、きちんと法を守っているかを監視するのが司法権(法律で裁く)を有する裁判所である。これらは「三権分立」と呼ばれ、一つの組織が暴走しないように編み出された民主主義の知恵と言ってもいい制度だった。


「今、厚生省に内容をまとめさせていただいていますので暫くお待ちをプレジデント。我々も今回の事態は予想の範囲外でしたので手をこまねいているのです」


「知ったことではない、そもそも君たちがマキナとやり取りを行なうと言ったではないか」


 端的に言えば、自分たちの首を他所のグループに預けて監視し合うという事である。

 次に大統領制についてだが、これには実に様々な形態が存在するため定義化するのは大変難しい。大まかに説明すれば、大統領が有する力は行政権のみで残り二つの権力は議会に依存する、また内閣総理大臣と違って大統領は国民投票によって選出される仕組みだ。

 そしてここマリーンでは、この二つの制度が採用されている。国会議事堂の一室では国民によって選ばれた大統領である男と、国会によってその重荷を背負わされた内閣総理大臣である男が話し合いを行なっていた。そしてこの僕である。ね?暇でしょう?ただ見ているだけだよ?暇潰しに付き合ってくれてありがとう!


「……マクレーンよ、ちょっと言い難いことがあるんだがな、いいか?」


「何だ、急に改まって。まさかここで借した金を返せとは言わないよな?」


「……未知のウイルスって話、信じられるか?私は馬鹿ばかしくて仕方がないんだ」


「いいじゃないか夢があって!まさか任期中にこんなホットな話題に巡り合えるなんて嬉しい限りだ!」


「ああ、お前はそういう男だったな……」


「それより気にかかるのがカウネナナイの動向だ、ああ──セントエルモ?だったか、民間船を襲撃して横取りしようと企んでいたんだろう?」


「それもある。国としてこのウイルスにどう対応すべきか各政党で意見が十重二十重に別れているんだ」


「迷う必要がどこにある?報告書には捕食した機能を再現する力があると書かれているではないか、こんなテクノロジーが今まであったか?」


「特個体の管理だけで精一杯だ、そんものはっきりと言って邪魔でしかない」


「お前はいいじゃないか、舵取りに専念すればいいんだから、こっちはごまんといる国民に説明しなければならないんだぞ?」


「知るかそんな事、お前はそもそも喋りしか出来ないんだから天職じゃないか」


「何だと?一回噛んだぐらいでネットに晒される身にもなれ」


[話し合う内容が本題より逸脱しています、適宜修正をお願い致します]


「………」


「………」


 あれ、丁寧に言ったつもりなんだけどな、二人とも揃って眉を顰めている。


「……この「ラハム」とか言う支援AI…実際どうなんだ?利用率は上がっているのか?」


「全然だな、あれだけ税金を投入してみてもちっとも流行らない」


「五年前にいきなりお近づきの印だと言われて押し付けられたが……そのウイルスとやらに食わせたらどうなるんだろうな」


[!]


「それは面白そうではあるな……未知のウイルスは昆虫の姿をとっていたんだろう?そっちの方がインパクトもある」


「虫がぺらぺら喋るのか?………それは面白いかもしれんな」


「どのみちお払い箱なんだ、最後ぐらい有意義に使ってみるのもいいんじゃないのか?」


 いやいやいやいや、僕はただ君たちの話し合いを円滑にするため言葉を挟んだに過ぎないんだ、食われる謂れはない。


[──の!──あの!何やら不穏な事が聞こえてきましたが?!ラハムの居場所を取らな──]


 ああ、本人のお出ましだ、ここいらが限界かな?そろそろお暇するとしよう。



✳︎



 三連休も過ぎ去った翌る日、私は六日ぶりに出勤するため、まだ休みたがっている体を無理やり動かしてバスに乗り込んでいた。


(う〜ん…さすがに六日は長すぎた、体が働くことを拒否していやがる…)


 六日ぶりに乗ったバスも何ら変わりがない、荒々しく発進したかと思えばすぐに急停車、次のバス停でジュディ先輩が乗ってきた。


「おはよ」


「…おはようございます、先輩」


「さあーて今日から仕事よ!すぐにカンを取り戻さないとね〜!」


「…先輩のやる気を見ていたら吐き気がしてきました……」


「あんたってほんとに失礼ね」


「……はあ、まあ、はい」


「?」


 その後ユーサに着くまでの間、私の怠さに気を遣ってか、先輩が話しかけてくることはなかった。



 ロッカールームに荷物を預けに行く、そこで見かける他の社員の人も怠そうにしていた。溜息だったり眉を顰めていたり、連休明けはやっぱり面倒臭さに拍車がかかるのだろう、皆んなの様子を見て少しだけ気が楽になった。


(やっぱそうだよね〜)


 朝食をとるため訪れていた食堂内ではウイルスの話で持ちきりだった、それと遠洋漁業に赴いている船がもう間もなく帰ってくるらしい、卸市場の人たちがあれやこれやと話し合っていた。ここを離れたのがもう一ヶ月も前になる、アキナミも遠洋漁業に参加しているのでさぞかし立派になって帰ってくることだろう。

 今日の朝食は軽めにした、何だか食べる気になれなかったからだ。私の体は職場に来てもまだまだ労働を拒否しているらしい、本当に我が儘である。


「はあ〜……」


 目玉焼きとがっちゃんこしたウインナーをちびりちびりと食べる、喉に通してもまるで味がしない、味覚までもが労働を拒否していた。


「おはようございます、先輩」


「…ん?ああ、おはよう」


「怠いですね」


「全くだよ」


 クランちゃんだ、ゆっくりと私の隣に腰を下ろしてサラダを頬張っている。本人も言った通り怠いらしく、二人で無言のまま食事を続ける。

 暫くしてライラも食堂に入ってきた、すぐにこちらを振り向いて手を振っている。行儀が悪いと思ったけどフォークを手にしたまま応えると少しだけ首を傾げていた。続いてあの男性も食堂に姿を現し、先を行くライラの跡を追いかけていた。


「ほんとライラ先輩って人目を惹きますよね」


「…ねー」


「……先輩?具合でも悪いんですか?」


「え?」


「元気がないように見えますけど…」


「いやいや、元気とやる気はお母さんのお腹の中に置いてきたから」


「……はあ、大丈夫そうなら……」


 あれ、反応が薄いな。

けれど、クランちゃんの見立てに間違いはなかったらしく、私はこの後職場で倒れてしまうのだった。



✳︎



「──では、あなたはあくまでも個人的なやり取りに終始しているのであってジュヴキャッチに進んで関与している訳ではないと仰るのですね?」


 先日の続きだ、私の執務室には陸軍首都防衛歩兵連隊の指揮官であるナツメ・シュタウトが訪れていた。


「そうだと言っている、君が目を付けていたあの夫婦の人間関係の中には確かにカウネナナイも含まれているが、それだけだ」


「それで信用しろと言うのはさすがに厳しいものがあります。今回の襲撃事件を起こしたジュヴキャッチのメンバーに接触しているのですから。身柄をこちらに渡していただきたい」


「それは警察官の仕事であって君が行なうものではないだろう?いつから軍が政府の傘下になったんだ、職権濫用も甚だしいと思うがね」


「それを言うならあなたは調査という名目だけで海軍を動かしたそうですね?一体いくら税金が動いたと思いますか?我々軍が動くのにだって金がかかるのです」


(はった〜…そうなんだよな…金がいるんだよな〜)


 ナツメの話を聞いて蓋をしていた請求書の金額が蘇ってきてしまった。調査船だ、あの船には莫大の金がかかっている、それに国内の研究者が乗船するのを今か今かと待ち侘びる程の人気で、年内いっぱいは予約で埋まっていた。調査が決まったあの日にちょうどキャンセルがあったので運良く手配出来たが、次はいつ乗れるか分かったものではなかった。ユーサの所有物だぞ?どうして自分たちの船なのに気軽に乗れないんだと怒る気持ちはあった。それにだ...


(何なんだよあの修理費用……家が何件建つと思っていやがるんだ……)


 ロープが外れただけのパワーグラブですら中古の一軒家が買えてしまう値段だというのに、ピストンコアラーにかぎっては...


「レイブンクロー連合長、とにかくあなたと話し合いをしていても事態が解決いたしません。これ以上接触を禁ずると言うのであればこちらも司法に頼らざるを得なくなります」


「好きにしろ」


「──よろしいのですね?」


「好きにしろと言っている、最大与党の支持母体であるユーサに喧嘩を売って恥をかくのは君たちだ」


「…………」


 何も言わずに睨め付けているだけだ。


「何か?」


 小声で「ババァが…」と暴言を吐いてからこう言った。


「それならジュブキャッチの件はどうされるおつもりですか?あなたが誰を庇おうとも確かにユーサの社員がテロリストと接触した記録が残っているのです、それも厚生省からの情報提供によるものですよ?無視はできないでしょう」


「それは誰からだ」


「はい?」


「厚生省の誰から提供があったんだ?」


「保証局所属の特個体パイロットからです、これは確かな情報源──」


「ホシか、あるいはヴォルターか。先日も一緒にウイルスを見学してな、その時はとくに何も言ってこなかったんだが……」


「………そ、それとこれとは話が別、いいえ関係がありません、」


「──ボロが出る前に退出を勧めるよ若造」


「………」


「ババァの人間関係ってのは君が思っているよりうんと広いんだ、喧嘩を売るなら外堀を固めてからにしな」


「──そのようですね、失礼します」


 去り際に「ババァが…」と。二回も言いやがったな!

 ナツメが、喧嘩に負けたくせに颯爽と部屋を出て行ったあと、入れ替わるようにして血相を変えたリッツが入ってきた、そしてこう言った。


「ピメリアさん!ナディちゃんが職場で倒れました!」



「す、すんません、俺の言い方が悪かったみたいで」


「ライゼンって子が観光課に異動したって話を聞いたら急に倒れたらしいんだ、元々体調が悪かったみたいでな、他の班員が皆んな心配していたんだと」


 駆け付けた医務室ではベッドの上で苦しそうに喘いでいるナディが横たわっていた。イチアキの話では、頼りにしていた先輩が抜けたことによるショックが大きかったのだろうということだ。それだけではない、ナディは調査の折にテロリストの指示に従い、かなりの精神的な負担を抱えていたはずだ。


(この間のパーティーの時は元気そうにしていたから……くそ、油断していた)


 額に玉のような汗をかき、しわが残ってしまうのではないかと思える程に顔を歪めている。見ていられなかった。


「この子、テロリスト相手に一歩引かなかったんだってな。そん時の疲れもいっぺんに出たんじゃねえのか?」


「そうだな……そうだろうな……」


 体の疲れは休めばすぐに取れるが、心の疲れはそうもいかない。本人でも気付かないところで徐々に徐々に溜まり、何かをきっかけとして一気に溢れてしまう。ナディの場合、それが頼りにしていた先輩の異動というわけだ。気付いてやれなかったことが本当に悔やまれる、私とカズは目に見える怪我をしただけだが、ナディや他の奴らは目に見えない怪我を負っているのだ。

 そのカズが疑うような視線を私に向けてきた、言われることは分かっていた。


「連合長、あんたも大丈夫なのか?調査の件やら文部省の絡みやら、それにさっきは陸軍の指揮官も来ていたんだろ?」


「私は平気だ──」

 

「あのなあ、末端の人間ってもんは上司の背中を見て仕事をするもんなんだ、一番トップに立ってるあんたがその調子だったら誰も休めないだろうが」


「…………」


「連合長であるあんたが追加で休むって言ってれば、この子も今日は無理して出社することなかったかもな。飲み会の席で一緒だったんだろ?」


「ぐぬぬ………う〜〜〜ん、言ってることは分かるんだがなあ〜〜〜」


 乱暴に頭を掻き毟る、カズの言う理屈も良く分かるが、かと言ってほいほい休むわけにもいかない...席を外していた当直医師が戻ってきた、神経質に見える細身の女性だ。


「今、救急車を手配して最寄りの総合病院へ搬送してもらう手続きをしてきました」


「………そんなにヤバいのか?」


「何かあってからでは遅いのです!よろしいですね!ベッドに寝かしつけておけば良くなるものではありません!」


「わ、分かった…組合には私から連絡しておく」


 医師の剣幕に押されてしまい、唯々諾々と従ったそんな折、ナディの意識が戻り薄らとその目蓋が開いた。


「………あれ、ここは……」


「ここは医務室です、体調不良で倒れてしまったんですよ、すぐに良くなりますから」


「……でも、週末に、船が戻ってくるからって…プウカさんも抜けたから……頑張れって……」


 医師がメスのように鋭い視線をイチアキに投げかけた、そのイチアキは顔面蒼白になっていた。


「ばっ、そういう意味じゃ!……なかったんだよ、悪かった、悪かったよ、仕事のことは忘れてゆっくり休んでくれ、な?」


「……初めて優しくされました……」


 ナディの言葉に私までもがイチアキを睨め付けた、さすがにその発言は聞き流せるものではなかった。ドスの効いた声でカズがイチアキを外に連れ出し、私は私でナディからロッカーの鍵を預かり月並みな言葉をかけて医務室を後にした。



✳︎



「──先日回収したウイルスの特性について以下の事が判明しております。まず、二枚貝としての外観的特徴、次に牡蠣としての生体的特徴を有していることです。これらから察するに、ウイルスは化学合成生態系に則り深海域で生存していたと思われます」


 六日ぶりの出勤はさすがに怠かった、私のパパも「休みは三日で十分、それ以上は働けなくなってしまう」と言っていた。


(全くだわ、まあ、でも楽しかったしいいんだけどね)


 ナディと会ったのは一日だけだ、それ以降はずっとメッセージのやり取りをしていた。本当は毎日でも会いたかったけど、「おはよう」から「おやすみ」までずっとやり取りをしていたのも悪くなかった。正直に言って、今会議で説明されているウイルスの生体報告書なんかよりもナディから貰ったメッセージを読み返したいぐらいだった。

 会議室には開発課の主要メンバーがずらりと並んでいる、壇上に立っているのは課長ではなく解析メンバーのリーダーである男性だ、勿論名前なんて一文字も覚えていない。


(私ここに何しに来たんだろ、いい加減集中しないと……)


 頭の中はナディのことでいっぱいだ。少ーしだけ、少ーしだけナディのことを頭から締め出して会議に集中する。


「ご存じの通り、化学合成生態系は深海域で得られる金属を元に二酸化炭素から有機化合物を化学的反応に基づき──」


 ああ、駄目だ、さっぱり頭に入らない。頭の中からナディを追い出しても体が求めていた、やらしい意味に聞こえるけど。


「……ちょっといいかな」


「!!」


 心底びっくりした、後ろから声をかけられたからだ。慌てて振り向くとそこには課長さんが腰を屈めて立っていた。


「……外に出てくれるかな?話があるんだ」


「……は、はい」


 え!どうして?!何で私だけ?まさか、ナディの事しか考えていなかったのがバレた?!いやそこバレるの?



 ナディのロッカールームの鍵を握りしめて、私は開発課の研究棟から食堂へひた走っていた。どうやらナディが職場で倒れてしまったらしい、今は医務室で安静にしておりこれから病院に搬送されるそうだ。そして私が光栄にもその付き添い人に選ばれた。

 息継ぎする暇もなくロッカールームに到着した、肩で息をしながら暴れる胸を落ち着かせる。


「はあ、はあ、はあ、はあ」


 あの日、初めて見た時から心を奪われ、けれど声をかける勇気もなくひたすら探し回ったこのロッカー。まさかこのロッカーを開ける日が来るだなんて夢にも思わなかった。酸素不足で暴れる心臓と、常識不足で暴走する胸のうちが酷いことになっていた。悪い事をしているわけではないが、周囲に誰もいないことを確認してからロッカーを開ける、ふわりと私のものではない、他人の匂いが漂った。それだけで─少しだけ、本当に少しだけ!─気分が舞い上がってしまった(興奮したとも言う)。


(…………)


 ナディの私物が入っている、いつも使っている鞄に携帯電話、それとスチール製の小棚には本人のイメージには合わないマスコットキャラクターのキーホルダー、それから飲みかけのペットボトルもあった。本人はめんどくさがりを公言していたけどロッカーの中は綺麗に整頓されている。そんな事にもいちいち感動しながら、ロッカーを閉めて医務室へと向かった。

 そこで私は雷を打たれる思いで立ちすくみ、自分の甘さを痛感させられてしまうのであった。



✳︎



 次から次へと性懲りもなく...こいつら暇なのか?


「……………」


「その、ですから、取得された採取物の一部提供を、ですね、いくらユーサが管理している海とは言えですね、ウルフラグの経済水域になるわけですから、我々にもその利益を受け取る権利があるわけでして…」


 まただよ、また来やがった。文部省と深海探査技術団がタッグを組んで来やがった。スーツ姿の男と白衣姿の男、どちらも気が弱そうでかつ頭だけが働きそうな陰湿な輩に見えていた。


「ウイルスが利益?ウイルスが利益だと言ったか?」

 

 スーツ姿の男が白衣の男を制して代わりに発言した。


「いいえ、それは言葉の綾です。採取物の独占は法令違反になると言っているのです」


「法令違反?聞いたことがないな、無学な私にも説明してくれよ」


「ここでそのような説明に割く時間はありません。我々もウイルスの解明に手を貸すと何度申し上げれば──」


「ウイルスの回収はグガランナ・ガイアからユーサに依頼されたものだ、それを──」


「元々厚生省に依頼があったものをあなた方ユーサが請け負ったのでしょう?履き違えてもらっては困ります。ウイルスの所有権についてはウルフラグ政府に依存すべきです。違いますか?」


「そうだな、おたくの言う通りだよ、私が悪かった」


 素直にそう謝罪すると二人が揃って顔を見合わせた、私の発言が意外だったらしい。


「そ、そうですか、それならこちらにウイルスを明け渡してくれるのですね?」


「ああ、いいとも。船の調査費用、航海に関わった乗組員の人件費、調査機械の修理費用、ウイルスの管理にかかった費用、諸々の請求書も一緒に受け取ってもらうことになるがね」


「何を馬鹿な……それは君たちが勝手に──」


「こっちはウイルスの明け渡しに同意したんだ、それにかかった費用の支払い義務がどちらに帰属するか、おたくが判断出来るのか?ん?ここは一度親玉の所に話を持ち帰って判断を仰ぐのが筋ってもんじゃないのか」


「…………」


「嫌なら同意も無かったことにしてそのままお帰りくださっても結構ですよ。こんな費用、うちらからしてみれば痛くも痒くもありませんから」


「──失礼させてもらう!それと同意した件は忘れないでもらいたい!」


 はあ、と一つ溜息を吐いて奴らの背中を見送った。奥の給湯室に引っ込んでいたリッツが飲み物と一緒に現れた。


「お疲れ様っス、良く追い返しましたね……」


「あんなのただの時間稼ぎだよ……ったくどいつもこいつも成果は寄越せだの金は払いたくないだの……それよりナディは?」


「あ、はい、もう病院に到着したみたいっスよ、まだ診察は終わっていないっスけど」


 リッツが淹れてくれたコーヒーに手を伸ばす、口に含んでもまるで味がしなかった。

 付き添いで病院に行ってもらっているライラへ電話をしようとしたその矢先、机の上に置かれた内線電話がけたたましく鳴り始めた。いい加減プッツンといきそうになっていた私は乱暴に受話器を取り上げて、


「何だ!」


[連合長!今すぐ研究棟へ!ウイルスに異変が起きました!虹色の光を──プールが虹色に光っています!]

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