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短編四集

ある日の昼下がり(アマンナ×アヤメ)


「アヤメー、あれいない」

 どこ行ったんだろう、また温泉街に行きたかったからアヤメのことも誘おうって思ったんだけど。

 広間はがらんとして誰もいない。どこで買ってきたのか、いや、自分で作ったのか、おかしな模様をした絨毯の上にはアヤメの洗濯物が置かれている。

 わたし達の服はマテリアルとセットなので特に洗う必要がない。アヤメにこのことを言ったら何故だか残念がられた、おしゃれができないねって。

 こんな所に置いていたらくそえろマギールが発情してしまうと洗濯物を取り、アヤメが使っている部屋へ持って行く。広間を抜けてマギールの私室も抜けた先、客室が三部屋ある。確か真ん中だったはず、ん?おや?

「ふわぁぁ」

 あれ、左の部屋から声がした。その部屋はわたしとグガランナが使っている部屋だ。もちろん声はグガランナではない。

「アヤメ?いるの?」

 扉を開けながら声をかけた。すると、勢いよく布団が動く。

「何してるの?アヤメ、わたしのベッドで寝てたの?」

 反応がない。いやいや、さっきまで起きてたはずだ。隠れてるの?何で?

「こらぁアヤメーイタズラしちゃうぞぉー」

 寝たフリをしたアヤメにいじわるをする、すると観念したようにアヤメが布団をめくり顔を真っ赤にしてわたしにお願いしてきた。

「内緒にして…ね?」

「何その言い方、何してるの?わたしのベッドで」

「アマンナの匂いってね…太陽の匂いがするから、その、」

「え?わたし太陽じゃないよ?ていうか太陽の匂い嗅いだことあるの?すごいねアヤメ」

「違う、お日様の匂い、洗い立ての匂い」

 よく分からない、わたしの服は洗う必要がないので嗅いだことがない。

「どんな匂い?」

「すっごく落ち着く匂い、かな」

 ふーん、よく分からないけど、わたしの匂いはいいってことかな。

「じゃあわたしも一緒に寝てあげよっか?」

「本当でござるか?!」

 がばっと起き上がって変な言葉を使う。初めて聞いた、あとでわたしも取り入れてみよう。

「ほんとーでござるよぉー!!」

 早速使ってみる。ぴょんとベッドに飛び込む。

「ふぁあ良い匂いだなぁアマンナぁ」

 するとどうでしょう、アヤメがすぐに抱きついてきた。抱きついてきた?わたしに?うそ、え、え、抱きつかれてるのわたし?

「うぅん、アマンナぁもう離さないよぉ」

「むぎゅ」

 リアルにむぎゅなんて言ったの初めてだ、ほんとに言うんだね胸に押し付けられると。えーどうしよう、されるがままなんですけど、えー。

「ねぇアマンナ、ひとつお願いしていい?」

「うん、いいよー、何?」

 自分でもびっくりするぐらい順応力が高い。すぐに混乱から回復した。

「今度はね、アマンナが私のこと抱きしめて?いいかな?」

「本当でござるか?!」

「ほんとでごふぁるよぉ」

 言いながらわたしの胸に抱きついてきたので胸がくすぐったい。くすぐったいと思えるほどの胸はあるのだよ。誰も見てくれないけども。

「甘えんぼだねーアヤメは」

「zzz」

「寝るの早くないですか」

 そっこうだよ、もうちょっと甘い会話がしたかったのに。あぁそうだサーバー切っとかないと、グガランナにバレたらただでは済まない。済む気がしない。

「なんだかわたしも眠くなってきた」

 マキナなのに。気持ちよさそうに眠るアヤメを見ていると何だか眠くなってくる。でも寝ない。もったいない。

「あれ、アヤメを独り占めできるのはいいけど、結局ひまだなぁ」

 どうしようか。あぁそうだ、温泉に行こう、グガランナもアヤメも誘って、マギールはもちろんなしで。

「いや隣に寝てたぁー」

 でもさっきと違ってアヤメも一緒だ。まぁいいか、こんな日があっても。





ある日の夜に(ナツメ×テッド)


「テッド、今夜私を温めてくれないか、電子レンジのように」

「電子レンジなら食堂ですよ?」

「そうか、お前は食堂で私を抱いてくれるのか、活きがいいな」

「魚は博物館にしかありませんが」

「何だと?食堂の次は博物館か、なかなかハードだな、私の体がもつかどうか」

「疲れているんですか?軍医に見てもらいましょうか」

「軍医?初めての夜にいきなり三人でするのか?活きがいいというレベルではないな」

「…」

「返しはどうした、お前の負けだな、では私の晩飯を奢ってもらおうか」

「いや、あの、いいですか」

「何だもう飽きたのかこのツッコミなしゲームに」

「いや、えーとですね、軍医に嫉妬してしまいました」

「…」

「隊長を愛せるのは僕だけだぞーと、頭の中で軍医を今こてんぱんにしてるところですので、先に席についてて下さい」

「…どっちが優勢だ」

「え?」

「軍医とお前、どっちが優勢なんだ」

「そりゃ…」

(何て答えたらいいんだこれ、さっぱり分からないぞ)

「ちょっと待って下さい、あと1ラウンド残っていますので」

「その返しは思いつかなかったな」

「あーえー…」

「大丈夫か?何なら力を貸そうか?」

(どうやって…はっ)

「キスして下さい、キスしてくれたら勝てそうな気がしてきました」

「馬鹿を言え、お前が始めた喧嘩だろう、愛する女の力を借りて勝とうなど」

「隊長が先に言ったんでしょ!あっ」

「これで決まりだな、相変わらず弱いなテッド」

「…あの勝ち負けどうでもいいのでほんとにキスしてもらえませんか?」

「…」

「…」

「…いくらだ」

「え?」

「私のキスにいくらなら出せるんだ」

「僕の唇なら出せます」

「当たり前だろ!あ」

「これでお相子ですね」




戦闘機の災難(ナツメ×プエラ)


 眩しい、今何時だ?

私が寝ているベッドは窓際に置かれているので朝日を直接拝むことになる。なんなんだ、この配置は。いや、確か昨日は寝る前にSu-47と呼ばれる戦闘機を少し眺めた後、ちゃんとカーテンは閉めたはずだ、それなのにどうして太陽が上ったと同時に朝日を拝むことになるんだ、ん?

「すぅ、すぅ」

 私のベットに、プエラが寝ていた。マキナも眠るのか、眠るのか?まぁいいか、気持ち良さそうに眠っているプエラを見ていると二度寝をかましたくなる。もう少し寝よう。

せっかくだ、プエラを抱き枕代わりにしよう。彼女を抱き寄せ、優しく腕を回す。起こさないように、子供のように、愛する人を抱きしめるように。

「ん、」

 彼女が少し呻く、起こしてしまったかと思ったがどうやら起きてはいないようだ。また、寝息を立て始めた。ん?

「プエラ、お前起きていないか?」

「…」

「起きていないか…声を聞きたかったんだがな…」

「ん、うぅん」

 こいつ絶対起きてるだろ、今の寝言は私が声を聞きたいと言ったからだろ?優しい奴だ。

「なぁ、このまま起きないなら、お前のおでこにキスをするぞ?いいのか、プエラ」

「おはよう」

「…」

 起きるのかよ、そんなに嫌か?嫌だったのか、いけると思ったんだが...

「ねぇ、今なんて言ったの?」

「おでこにキスするぞと、私にされるのは嫌か?」

「どこにキスするって?」

「いやだから、おでこだよ」

 この距離で聞こえなかったのか?するとプエラが私の服を少しだけ、弱々しく掴む。

「おでこ?何それ、どこにあるの?」

「…さぁなぁ、どこにあるんだろうな」

「…ナツメの前には、何が見える?」

 ふっくらとして、少女のような容姿をしている彼女には少し似つかわしくない生意気に突き出されたその唇だ。

「生意気な唇が…見えるな」

「…ふぅん、そっか」

 そう言いながら、プエラは私から目線を逸らさない。照れくさそうに、けど、明らかにキスをして欲しそうに私を見ている。

「なぁ…そんな顔をするなと、言ったはずだよな、虐めたくなるんだよ」

 彼女の白く輝く髪を手で払う、触れたはずなのに質感が無く払った後はまた触りたくなる感触が残る。

「…じゃあ、どんな顔をしたら、してくれる、の?」

 距離を縮めてくる、鼻の頭が触れていて彼女の吐息が私の口に当たっている。

「何を?して欲しいんだ、私は頭が悪いからな、ちゃんと言わなきゃ分からんぞ」

「…………さっき、言ったやつ」

 彼女のその小さなおでこに口づけをする。されたプエラは目を瞑り、じっと、まるで我慢をするように眉根も寄せている。顔を離し跡ができたおでこを撫でる。

「今の言い方なら、これが限界だな」

「うぅ…」

 今度は視線を逸らした、下を向き恥ずかしがっている。私に口づけされたことか、言いたくても言えないことかは分からない。

 すると、プエラは私の胸に顔を押し付けてきた、男と変わらない胸だと馬鹿にされてから余計に嫌いなってしまった自分の胸にだ。

「…もう少し、大きかったらな、良かったんだが…」

 何も言わずただ頭を振っている、それだけで安心してしまう。

「唇は、また今度だな」

「うぅ…して欲しい、けど、恥ずかしくて死んじゃいそう…」

「なぁ、プエラ、顔を上げてくれ」

 ゆっくりと胸から顔を離し、上げたと同時に唇を奪う。驚き、体を固くした。だが次第に力が抜けていき掴んでいた服を強く握りしめた。何度か、お互いに感触を確かめた後唇を離した。プエラの顔は赤く、太陽にも負けない輝きを私に見せてくれた。

「…あ、ありがとう」

「…礼を言われるとは」

 こいつは何なんだ、どうしてここまで可愛いんだ。

そうして、私とプエラは贅沢な二度寝をしたのだった。



「お前、あの時どうして寝たふりやめたんだ?」

 二度寝から起きて何故かプエラが私の体にスリーパーホールドをかけていたので、お返しに四の字固めを決めたら泣きながら目潰しされてしまった。今は朝ご飯を食べている。

「…え、それ今聞くの?」

「あぁ、気になるからな」

 はぁ、と言いながらプエラがカップをテーブルに置く。そんなに言いたくないことなのか...

「あぁ、いや言いたくないなら、」

「ちゃんと目を合わせて、キスをして欲しかったから」

 何でもないように言うが、とんでもないことを言う。

「は」

「寝たふりをしているからキスされたんじゃなくて、起きている時にキスをして欲しかったから」

 真っ直ぐ私を見る顔は真剣だ、悪ふざけは一切なしだ。私が照れてしまった。

「…あ、あぁ、そうか、分かった」 

「?顔、赤いね、ナツメ、どうしたの」

 優しく笑い、どこか悪戯に笑う目にまた照れてしまう。

「ナツメだからだよ?例えば、今、ここにいるのが別の誰かなら、私はお願いなんかしていない」

「…」

「初めて会った人間が、貴方で良かったって、キスをされながら思ったよ、ナツメ」

 あぁ...余計な事を聞くんじゃなかった...真っ直ぐに純粋に好意を向けられるのがこんなに恥ずかしいことだなんて、慣れていないし、何よりも怖い。

 いつの間にかプエラの視線から逃げていたようだ。視界には湯気を上げているカップが見える、鼻には薄らとスープの匂いがつく。

「…私は、そこまでの人間ではないさ」

 逃げる、自分から逃げる。大した人間ではないと相手に言い訳をする。振られてしまった時に、ほらやっぱりなと自分を納得させるために。

「?誰かに言われたの?教えて、ナツメに悪口を言った奴、私が懲らしめてくるからさ」

「いいや、私がそう思っているんだ」

「じゃあ、誰かに言われたわけじゃないんだね」

「あぁ」

「それならいいよ、私がそんなことないって、ゆっくりとナツメに教えていくから」

 ...もう駄目だ、太刀打ちできない、諦めるしかない。こんなことまで言われ...

「…おい、プエラ、何故笑うんだ?」

 下を向いて肩を震わせている、まさか...こいつ!

「お前!私をからかったのか?!」

「あははは!だってぇ、ナツメが変なこと言うからぁ!なーにが私はそんな人間じゃないよーだ、あははは!」

「だからと言って笑われる筋合いはない!」

「ご、ごめんごめん、ナツメ、許してね?ぷふっ」

 笑われながら頭を撫でられてもちっとも嬉しくない。そう怒っている自分にさらに恥ずかしくなってしまった。

 窓の外には、私達のやり取りをまるで嫌そうに眺めている戦闘機が降り出した小雨に打たれながら佇んでいた。





枕は見た!(グガランナ×アヤメ×アマンナ)


 たまに物音がするのは何?あぁ違う家にいる人が立てているのか、不快。アヤメの家で初めてのお泊まり。今まで泊まった所と言えばマギールの家に休憩室、どこも他人が使っている場所だ。だが、ここは違う、アヤメが住んでいる家なのだ。彼女は今までないくらいに落ち着いている。あの薄着は何とかしてほしいが...目のやり場に困る。 

(あぁ…枕、とんでもない失態を…)

 鼻血塗れの枕は洗濯されて今はベランダに干されているはずだ、可哀想に...私の鼻血で汚れてしまうなんて...というか何故鼻血が出るのか、そんな設定にしただろうか。

 アヤメが使っていた一人用ソファの前で毛布に包まって横になっている。アヤメが眠っているこの時間帯はとくにやることがないのでいつも考え事をしたり妄想をしたり、頭脳労働をしている。要は暇。けれど今夜は違った。

(また…気になる…)

 アヤメの神室の方からまた物音がした。よく響くなこの家は、アヤメに許可を貰って改装しようかしら。他人が立てる物音はどうしてこうも不快なのか。すると、私の方へ向かってくる足音が聞こえてくる。え、誰と思った時にアヤメがそこにいた。

(びっ!くりしたぁ…)

「ど、どうか、したの?アヤメ?」

 その顔は寝ぼけているわけでもなく、はっきりと私を見ている。横になったまま見上げる彼女はどこか少しだけ怖かった。

「ちょっとだけ、いい?もしかして、寝てた?」

 声もどこか熱を帯びている、私に聞いてはいるが有無言わせぬ雰囲気を感じた。いいよね?私を拒まないよね?と。

 夜這い?まさかの夜這い?生きてて良かった、中層から抜け出して本当に良かった。ああそうだアヤメに抱かれながら本当に天国へ果ててしまおう。これ以上生きていても彼女に抱かれる以上の幸福があるとは思えない。ごめんねアマンナ、お先に逝ってるわ。

「…えぇ、少し怖いわよ、アヤメ」

「あ、ごめん…」

 その場でぺたんと座ってしまう。自覚が無かったのか...初めて?嘘、はじめてなの、この私がはじめてを務めるの?...テンペスト・シリンダーを建造した過去の技術者達に頭を垂れた。頭の中で。感謝しかない。

 私も身を起こし、彼女と目線を合わせる。少しだけ彼女の方が低いところにある。

「何かしら、アヤメ」

「…だ、だ、抱きついても、いい?」

 上目使いで、わざとやっているのか素でやっているのか分からないが、そう私にお願いをしてくる。燻っていた嗜虐心が疼いてしまった、わざとはぐらかして答える。

「どうして?アマンナと一緒に寝ているわよね」

「うぅ…そうだけど、まだ、グガランナには抱きついた、ことがなかったから、」

 私にはない?ならアマンナにはあるの?燻っていた嗜虐心が先にあの世に果てた。何それ私の知らない間にアマンナぁ!

 何も言わず、少し強引に彼女を抱き寄せる。驚いた彼女は少し身を固くしている。

「ふぁっ、びっくりした」

「これで、いいかしら」

 彼女の体を抱きしめる。細いと思っていた体は意外としっかりとしていて、その可愛さに質量を持たせたように感じる。それに、彼女は寝る時は下着を付けないのか胸の柔らかい感触が直に伝わってくる。

「うん」

 そう言ったっきり、彼女は私の胸に顔を埋める...待って嗜虐心、私も逝くわ。

 幸せ、幸福、この身に流れる温かい感情、とくに彼女と触れている所から流れてくる。あの時、頬に口づけされた時とは違って激流ではなく、弛まず流れる川のようにゆっくりと満たされていく。このまま時が止まってしまえばいいと進んでいく時間が今の私にとって一番の敵であった。

「凄く、いい匂いだね、グガランナ」

 顔を離さず私の胸に付けたまま上目使いで見上げてくるアヤメ。

「そう?あなたの方がいい匂いよ、アヤメ」

 優しく彼女の背中を撫でる...ほんとにつけてないわ、ホックの感触がまるでない。どれだけ無防備なのか、私はマキナを代表する変態なのよ?一度アマンナに言われた時は落ち込むどころか変に納得した自分がいた。そう、ちょうど、私を見ているあの子のように冷たい視線を...て、え?

(びっくりした!)

 声には出なかったが本当にアマンナが神室の前に立っていて驚いた。声も出さず、ただじっと私達を見ている。それはどこか、

「アマンナ、そんな所で何してるの」

 寂しそうにしていた。まるで仲間外れにされてしまったかのように、そんなつもりは無いのですぐに声をかけた。

「ふぇ?アマンナ?」

 私から身を離し、座りながら振り返るアヤメ。その拍子に私はちゃんと見たのだ、彼女の胸の谷間を、見えたではない、見た。下着を付けていないにも関わらず綺麗な形を保ち変態には刺激が強すぎる神秘の山を私に見せつけていた。触りますよ?そろそろ触りますよいいですか?

 声をかけられたアマンナが私達に近づいてくる。アヤメの隣にぺたんと座ったアマンナは事もあろうに、

「次、わたしだから、どいてアヤメ」

 私に抱きつこうとしていた...いやいや、私なの?私が邪魔なのではなく、アヤメが邪魔なの?

「いや」

「いいからどいて、アヤメ」

「いやふぁ」

 離さまいと私の胸に抱きつく。

「もう!そこはわたしのだから!あとでいくらでもわたしに抱きついていいから!」

「アマンナ、ないじゃん」

「ぬぁんだとぅ?」

 わたしとおおきさかわらないだろうとアマンナとアヤメが喧嘩を始めてしまった...これは夢?まさかアマンナがわたしのもの発言するなんて、そんな風に私の事を思っていたのか。というか、

「アマンナ、あなた一度も私に抱きついたことは無かったでしょうに」

 そう、一度もないのだ。それなのに何故?

「…いつでもいいかなって、油断してた」

「私が先だもんね、アマンナが悪い」

 むっきー!と言いながら掴み合いにまで発展してしまった。...むず痒い、居心地が悪いなんてものではない、まさか私が...

「ほ、ほら、二人とも落ち着いて、ね?私のために喧嘩しないで」

 あー言いたくなかったこんなテンプレ台詞、言ったそばから恥ずかしい。

「どくつもりはない、けど独り占めするつもりもない」

「?あぁ、半分こ?」

 私はケーキか何かなの?

「そう、アマンナも一緒に抱きついたらいいよ」

「むぅ」

 口をへの字にしながらアヤメの隣に座るアマンナ、そしてアヤメと一緒に私の胸へと抱きついてきた。窮屈、苦しい、けど、嬉しい。

「まるで子供ね、二人とも」

「私が妹だね、絶対」

 何故かアヤメが自信満々に言う。

「なら、私が長女?」

 何故かアマンナがおかしな事を自信満々に言う。

「どっちでもいいわよ」

 そう言いながら私の胸に幸せそうに抱きついている、新しくできた妹二人を撫でてあげた。ベランダからまるで抗議するように干してあった枕が落ちる音が聞こえてきた。

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