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第十二話 最大の仕返し

12.a



 つまらない。誰も言う事を聞いてくれないから。

 寂しい。誰も私を求めてくれないから。

 腹ただしい。皆好き勝手やってるから。



 何なの?私だけ、除け者にして、いや、そもそも誰も私の事なんて覚えてないんじゃない...自分で言ってて寒気がした。

 誰にも覚えてもらえない、こんなに悲しい事ってある?いてもいなくてもいいってことだよ?私が存在する理由が何も無いのと一緒だよ?

 何のためにいるのか、何のためにここに来たのか、分からない。誰も教えてくれない、誰も求めてくれない。


 .........頭にきたから好きな事をしようそうしよう。

 手始めに私の権能を使って、全マキナの行動履歴を調べてやる。恥ずかしい事から隠したい事から言いたくない事全部暴いてやる!全部恥ずかしい事だらけだ!ざまあみろ!

 よし決めた、最初はグガランナにしよう。確か前に一度、私の所に来たような気がする、覚えてないけど。面倒くさかったから追い返したはずだ。友達欲しけりゃマテリアルでも使って外に行きな!って。


 ...........................私が悪いんじゃん。思い出したそうだよ、グガランナは私なんかにわざわざ声をかけてくれたんだ。

 それに、ティアマトだって私の所に来てくれたし、タイタニスだって、ディアボロスだって、あの筋肉馬鹿のオーディンだって私の所に来てくれたんだ。


...

...


...


 いや、でもだよ?それでもだよ?

 私に何が出来たのさ、変に期待されて何も出来なくて、落胆されるぐらいなら最初から断った方がいいよね。傷付くの怖いし、マキナのくせにって言われるかもだけどさ。皆だってそうだよ、きっと。私に会いに来てくれた皆が凄いのであって私は凄くない。皆、他のマキナも...きっと......


 ............私に勇気が無かっただけか。もしかしたら、私の所に来てくれたマキナは、勇気を出して会いに来てくれていたのかもしれない。そう思うと恥ずかしい。自分が恥ずかしい。


 ...


 ...


 いやでもだよ?



12.b



 何かが走ってくる。私達を目指して。向かってくる人間のその表情たるや、怖すぎでしょあれ。


「アヤメ!!!」


 え?アヤメ?彼女の事を知っているの?

 もしかして、あの人間が温泉街で教えてもらった..早速殲滅チャンス?

 隣に立っているアヤメを伺う。

 いくら苛められていたといっても、アヤメの知り合いなのだ。いきなり殲滅する訳にもいかない、そう思って伺った表情は、どこか泣きそうな、拗ねているような、怒っているような、そんな顔をしていた。

 嫌だった。そんな彼女の表情が、私達以外にも大切な人がいるんだと、思い知らされたから。決して、嫌っている人間に出せる表情ではなかった。むしろ、私達でさえ見たことがなかった。


「アヤメ…あの人が前に言っていた…」


「そう、ナツメ」


 そう話したっきり黙ってしまう。

 ナツメと言われた人間は、彼女と同じジャケットを着ている。その手には銃が握られていてボロボロだ、あんな物で彼女を連れて帰るつもりなのかと、腹が立つ。

 きっとあの人間は、アヤメを連れて帰るつもりなのだろう、アヤメ以上に顔が酷いことになっている。泣きそうで、嬉しそうで、再会できた事を心から喜んでいる、そんな気が、


「うぉおおりゃあああっーー!!!!」


 アマンナぁー!忘れていたわ、あの子の方が怒っていたことを!


「こら!アマンナ!あなた、」


 と、言ったところで遅い。あの子は飛び膝蹴りの構えで、弾丸のように飛んで行ってしまった。


「アマンナ!」


 アヤメが怒鳴った。初めて見た、彼女が真剣に怒るところを。アマンナは失速して、そのまま地面に着地する。

 アマンナも引くつもりがないようだ。


「だって!アヤメを苛めてたやつなんでしょ?!何今さら迎えに来たみたいに走ってきてんのさ!!」


 後半はアヤメではなく、ナツメとその後ろを走っていたもう一人の少女に向けて発した文句だ。


「アヤメ!こいつは何だ?中層の人間なのか?!」


「アヤメさん!ご無事でしたか?」


 二人同時に話かける、ナツメはいきなり怒ってきたアマンナに警戒しているようだ。もう一人の少女は、アヤメの身を案じている。


「アマンナ、ナツメ達と話をさせて、いい?邪魔をしないで!」


「アヤメ…わかった、…ごめんなさい」


 あんなに傷付いたあの子は、初めて見た。大きく開いた瞳が潤んで、謝った時には下を向いていた。私まで胸が苦しくてなってくる。

 そこで、アヤメが私を見ていることに気づいた。その視線は、とても苦しそうだった。ナツメ達と会えたことか、それともアマンナを怒ったことか、それとも...ここでお別れしてしまうことか。

 私は微笑んだ、安心させてあげられるように。私も、アマンナもいつか、さっき見せつけられた表情を見せてくれるようにと、意地を張ってみせた。私達もあなたの事を心から心配していると。

 アヤメは少し驚いたように目を開き、頷いてくれた。


「アヤメ、この二人は何だ?」


「向こうで話をしようよ、ナツメ」


 そう言って、アヤメは私達から離れて行く。その後ろ姿が遠くなるにつれて、激しく後悔してしまった。

 心に穴が空いたようだ、エモート・コアのエラー音が酷い。こんなにも大切な存在だったなんて。離れてから初めて気づくだなんて。

 久しぶりにアマンナと二人っきりになった、アヤメと出会ってからは、初めての二人っきり。

 膝を抱えて顔を隠して泣いている、何も言わない、私も何も言えない。


「ほら、アマンナ、服が汚れるわ、向こうで座りましょう」


「…うん」


 アマンナの手を引く、とても強く握られた。まるで私までどこか行ってしまうのではないかと、怖がっているように。



✳︎



 久しぶりに見たナツメは、相変わらず怒っているように見える。眉間にしわを寄せて、今にでも怒り出しそうだ。

 テッドさんは空気を読んでくれて、気さくに話しかけてくれた。


「大丈夫でしたか?アヤメさん、遠くから見えた時は本当に驚きましたよ」


「はい、私は大丈夫です、テッドさん、心配をかけてしまって、すみませんでした」


「いえ、アヤメさんが謝ることではありません。あの時、救助活動を断念して上に戻った僕たちに責任があります」


「私のせいだと言いたいのか、テッド」


 ほらやっぱり怒ってる。テッドさんは私を気づかってくれているのに、それを怒るだなんて。


「ナツメ、そんな言い方しなくて、」


「どれだけ心配したのか分かっているのかぁ!!!」


「っ…」


 変わらない、何も変わっていない。

 あの時、橋の下から爆弾を狙撃した時の記憶が蘇ってくる。

 いいように扱われて、心配もされなくて、挙句に怒鳴られて、良い事なんて一つもない。

 だから私は撃ったんだ、爆弾を。これ以上使われないために、いいや、ナツメに心配させるために。

 私なりの仕返しのつもりだった、いつまでも言う事を聞くと思うなよって、昔約束したからといって、いつまでも守ると思うなよって。

 それが、これ。何にも変わらない。

 ほんの少しでもいいから、私のことも気づかって欲しいのに、それすらもしてくれないなんて。


「…テッドさん、ナツメと二人っきりで話しをさせて下さい」


「嫌です、お二人を見ていると何をするか分かったものではありません」


 ...本当に良く見ている、お察しの通りだ。


「構わない、テッド、席を外してくれ」


「…分かりました、では、最後に一つだけいいですか?アヤメさん」


「…あの二人のことですか?」


「はい、アヤメさんにとって、味方ですか?」


 そんなの当たり前だ。だからずっと一緒にいたんだ。


「聞き方が悪かったですね、あのお二人は、アヤメさんの身を案じてくれる人達ですか?」


「…はい、何も心配は要りません、いつも助けてもらっていますから」


 本当はナツメなんかよりも優しいと言いたかったけど、それはアマンナ達にとても失礼な褒め言葉だと思って堪えた。


「分かりました、お好きなように」


 それだけ言って、テッドさんは離れて行く。...やっぱりお見通しかな。



✳︎



 目の前に、アヤメがいる。

 一度、総司令から聞いた捜索隊の報告で諦めもした、けど目の前に立っている。いつものように、生意気な目と突き出した唇で挑発するように、私を睨んでいる。

 どれだけ心配したのか、まるで分かっていない。私がどんな思いでいたのかも。


「私に何か言うことは?」


「久しぶりに再会して、言うことがそれ?変わらないね、ナツメは」


「お前は変わったとでも言いたいのか?」


「…」


「…」


 怒りが湧いてくる。あれだけ思った相手だと言うのに、不思議だ。


「あの二人は?お前にとって何だ?」


「何その言い方、教えると思うの?」


「いい加減にしろアヤメ、聞いているのは私の方だ」


「はぁ…」


 眉間に皺を寄せ、下向きながらついたため息に我慢がならなかった。


「っ?!」


 アヤメの胸ぐらを掴み、驚いた顔に向かって怒鳴り散らした。


「お前ふざけるなよ!!なんだその態度は!!心配していた奴に向ける態度ではないだろう!!私はお前さえいてくれたら良かったんだ!!それをお前は自分から手を切った!!どうでもいいと言いながら!!いい加減拗ねるのはやめろ!!」


 昔、よく遊んでいた時の話だ。アヤメも短気な奴だった、よく喧嘩して、仲直りしたい時はどうでもいいと言いながら拗ねて、私の気を引こうとする。

 子供だから許される行為だ、だが、あの時は違う。命がかかった戦場で許される行為ではない。


「お前は!私のせいにして死にたかったのか?!違うだろうが!私に非があるならその口で言えよ!何でそれができないんだ!」


 それに甘えん坊だった。やって欲しいことも何かも、自分からは言わない。私の周りをうろうろして、とにかく気を使わせようとする。


「お前は子供だよ、これ以上心配をかけさせるな」


 掴んでいた、私の使い古したジャケットから手を離す。こんな時におかしくも、アヤメが着ている物は、私のお下がりであることを思い出した。


「それで終わり?ナツメの言いたいことって」


 ...こいつ、今何て言ったんだ...あれだけ怒鳴って注意したのに、何も聞いていなかったのか?


「お前…」


「私はね、心配して欲しかったんだ、ナツメの事が好きだったから」


 ...言っている意味が分からない。


「分かる?私が頑張ってた理由、いつもいつもナツメの言うことを守ってたのって、ナツメが隊長だからじゃないんだよ?」


「何を、言いたいんだ、お前は、」


「ナツメの事が好きだったから、ただそれだけ、ただそれだけで頑張ってたんだ、私」


「じゃあ何か、お前は、私のためだけに言うことを、指示を聞いていたというのか、」


「そう、でも、それも終わり」


 ...その言葉を聞いて、取り返しのつかない事をしてしまったと、心の底が抜け落ちていく感覚になった。


「私はこれから第三区に行くよ、アマンナとグガランナと一緒に、だからここでお別れだね、ナツメ、元気でね」


「お前、本当に離れるつもりなのか、私から、」


「あと最後に、私から」


 そう言われ、今度は私の服を掴まれた。引き寄せられ、顔を近づけてきて、唇に何かが触れた。目を開けて見ていたのに、何をされているのか分からなかった。

 離れてから気づいた。何をされたのか。


「私の初めてだから、一応」


 ...私だって初めてだ、何て色気もへったくれもない。


「それじゃあね、ナツメ、好きだったよ」


「おい、アヤメ、」


 待ってくれ、という言葉が出なかったは良かったことなのか、言って縋るべきだったのか、今の私には分からなかった。

 ただ、私はとんだ思い違いをしていたことだけは分かった。

 あいつが、私に優しかったのは、好きだったから。私はその優しさに甘えていたという事だ。

 顔を上げた時には、もうアヤメの姿は無かった。



12.c



 顔を埋めて暫く経った。相変わらず、アマンナは小さく泣きながら、何も言わない。

 どうして欲しいのか、これからどうしたいのかも、何も言わずに泣いている。

 ...アヤメはやっぱり、帰ってしまうのかしら。その考えに胸が破壊されたように、グチャグチャになってしまう。

 

「お待たせー、ごめんね、遅くなっちゃって」


「?!!」

「アヤメ?!!」


 あんなに泣いていたアマンナが勢い良く顔を上げた。私が話しかけてもうんともすんとも言わなかったのに。え、というか、え?


「アヤメ?あの人達は…え?」


「うん、ちゃんとお別れしてきたから、もう大丈夫だよ」


 え?じゃあ、あの視線の意味は...


「…ごめんね、アマンナ、さっきは怒ったりして、大事な話をしたかったから」


 もしかして、あの目配せは...アマンナのことを気づかって...あぁ、私にフォローのお願いを...

 それはそれはアマンナが暴れるに暴れた。



「いい?あやべ、もう、グガランナに、ぞんなむずがじいごと、おねがいじだら、ダメだがら、ね?」


「うん、分かったよ、分かったからもう泣きやんでアマンナ」


 腕も頭も体も痛い。全力めった打ちにされてしまった、アマンナに。

 話を聞くと、元々帰るつもりは無かったんだそうだ。きちんとお別れをしたい、だから話に行ったんだよ、と申し訳なさそうに笑ってくれた。

 これはさすがに私が悪い、完全に早とちりしてしまった。もうアヤメはあの人達と一緒に行ってしまうんだと、思い込んでいた。だから、アマンナには何も言えなかった。

 アマンナも何も言わない私を察して、アヤメが帰ってこないと泣いていたらしい。...これお互い様にならないかしら。


「アマンナ、まだ怒ってる?」


「すんっ、おこってない、だいじょうぶ」


 鼻をすすりながら答えるアマンナ、いえあれは怒っているわ、見れば分かる。

 

「どうしたら許してもらえる?」


 アヤメも分かっている、アマンナが怒っていることを。分かってくれていることが、とても嬉しい。


「…きすしてくれたら、大事な人のあかし、もうどこにも行かないように、」


「うん、いいよ」


「?!!」

「?!!」


 言った本人が驚いてどうするのよ、私も驚いたけど。え、そんな簡単にしていいものなの?


「わ、わ、わ、わ」


 慌てながら、アヤメにされるがままのアマンナ。いつもなら嫉妬して怒っていたけど、今日はそんな気にならない。たくさん彼女に優しくされてほしいと思った。

 前髪を優しく払い、両手でアマンナを包み込む。泣いて赤いのか、照れて赤いのか、アマンナの顔はひどい事になっていたけど、とても幸せそうだ。


「…っあ、おでこ…」


 アヤメがキスをしたのはアマンナのおでこだった。少し残念そうにしているアマンナ、もう大丈夫かしら?あの子も強かだからそろそろ心配しなくても良さそうね。


「グガランナは…その…してほしい、とか、ある?」


 もう、それはそれは照れながら私に聞いてきたアヤメ。それはそうよね、自分からキスして欲しいってなかなか言えることではない。勇気に感謝だ。その気づかいだけで十分よとカッコいいことを言いたいけど、して欲しいから言わない。


「お願い、しても、いいかしら?」


 あれ、思っていた以上に恥ずかしい。歯切れがとんでもなく悪くてなってしまった。そう言えば、ヘタれであることを思い出したけどもう遅い。


「う、うん、何か、照れるね」


「そんな、ことは、ある、かしらね、私も初めて、だから」


「…」


「…アヤメ?」


 急に黙ってしまった。どうしてだろうか、何か変な事を言ってしまったのか。


「…私は…初めて、じゃ、ない」


「?!!誰?!」

「?!!誰?!」


 あんなに惚けていたアマンナが再起動する。声も聞く内容もぴったりと重なる。


「…さっきの、人、好きだったから、お別れに、してきました…」


 何故か敬語で答えたアヤメ。さっき?さっきというとさっき?頭が回らない。


「もしかしてわたしが跳び膝蹴りかまそうとした人?ナツメだっけ確か、あぁそーふぅん、そっかそっかわたしは好きな人を蹴ろうとしたから怒られたんだふーん」


「アマンナ、蒸し返すのは良くないわ、会ってから殲滅すればいいでしょう」


 私も全然分かっていない、理解が納得に変わった時には怒りが湧いてきた。


「うぅ…ごめん、黙っていようかと思ったんだけど、あと、好きだった、だから、そこは間違えないで、下さい」


 ...これ以上責めても、アヤメが可愛そうなだけな気がする。


「アマンナ、もう許してあげましょう、会った時に唇を切り落とせばいいのよ」


 駄目だ私が全然分かっていない、唇落とすって、残酷すぎるでしょ。それに私はまだおでこにキスすらしてもらってない!


「はぁ…まぁいいっか、アヤメも戻ってきてくれたんだし、おでこにキスもしてもらえたし、ね?」


 私まだなんですけどとは言うまい。さすがに野暮なのは分かる。


「そうね、じゃあ改めて上へ行きましょうか、アヤメ」


「うん、よろしくね、二人とも」


 そう言う、彼女の笑顔は少し晴れやかだった。



12.d



 ...グガランナって、こんなに良い奴だったんだ、知らなかった。


「でも、私が目配せした時、グガランナは頷いてくれたよね?」


「あー、そうね」


 少し困ったように、明後日の方向を見ている。その顔は、どこか嬉しそうで、さっきまで落ち込んでいたのが嘘のように明るい。


「どうせ、わけも分からず適当に頷いただけでしょ」


 酷い言いようだ。けどアマンナ、あんたも悪いんだからね?少し会話をすれば、アヤメが戻ってくることが分かったかもしれないのに。


「…意地を張ったのよ、あの二人に取られるかもしれないと思って、私達の方があなたの事を思っているわ、って伝えてたかったのよ」


 ...ほんと、優しい。何その意地。私も欲しい。けど、人に向けられた優しさを妬んでも手に入らない。それだけは分かる。


「…そっか、ありがとう」


 そう一言だけ返すアヤメ。もっと言うべき事が他にあるでしょ、と思ったけど、よく見てみれば何も言えなくなった。

 青い目は、宝石のように潤んで輝いていて、頬もまるで夕焼けのようになっていた。今にも泣き出しそうなその顔は、全身でグガランナの意地を受け止めているように見えたからだ。この人も優しい。

 人間って、こんなに優しいものなのか。テンペスト・ガイアやディアボロスから聞いてた事とはまるで違う。残虐で、自己中心的で、手に追えない種族だと聞いていたけど...

 ティアマトが興味を持つのも頷ける、確かに触れてみたいと思えた。もし私が人と触れ合った時、一体その人はどんな性格をしているのか、怖いのか、卑怯なのか、利用しようとしてくるのか、それとも。

 アヤメのように、私の我儘を、意地を、疑問も不安も受けて止めてくれる人だったら。

 そう、思った時、いてもたってもいられなくなった。私も外へ出てみよう、待っているだけでは何も変わらないと、強く思った。

 行こう。ここでマキナの視覚映像を見ていても、知識は増えるが私は何も変わらない。

 知識が欲しいんじゃない。私だけのものが欲しい。前の私も、後の私も決して手に入れる事ができない、今この瞬間の私にしか手にすることができない特別なものを。

 製造されてから一度も起動させたことがない、プエラ・コンキリオのマテリアル・ポッドを動かす。

 私の名前だ。与えし少女という由来を持つ、全マキナへ指示を与える司令官のような役割持っている。

 司令官としてでもなく、マキナとしてでもなく、プエラ・コンキリオとして、一つの人格が手にする特別なものを欲してこの手を伸ばす。

 駄目かもしれないって?それがどうした、私の欲するためのものなら、いくらでも朽ち果ててやろう。

 ポッドの扉が開く、不思議と恐怖心はなかった。

 さぁ行こう!

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