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第百十八話 あまんなの方舟

118.a



 限界だった、いくらピューマ達と連絡が取れるキリという女の子が身近にいたところで、私達だけではピューマの保護に回り切れなかった。街が変貌してから時間はたっぷりと経過しておりこのままでは外にいるピューマ達が危険だった。運良く保護されたピューマはもれなく身体機能が低下しており、ぎりぎりのところで一命を取り留めた状態だったと言える。各区から報告されたピューマの総体数と現時点での数を見比べながら、私はさらに焦っていた。


(全然足りない!私達では手に負える!)


 路面が凍結するのは年に数回だったこの街では凍結対策がきちんとされたタイヤを履いている車はそう多くはない。幸運にも普段から価橋を利用している地方区の車は別だったようで、第二区でお冠になっていたファラを第一区まで引っ張り未だ保護が完了していない第十六区へと車を出してもらっていた。


「いい?アオラも落ち着いたら私と一緒にあの子を説教してやってちょうだい、病み上がりだというのにあの子!自分の友達が心配だからと言って夜中に抜け出したのよ?!」


「男の子ってそんなもんだろ、誰にだって反抗期はあるもんだ」


 本音を言えば会話をする気分ではなかったが、キリのナビとファラの運転が今は頼りだった。手元の端末から目を離さずに会話を続ける。


「あの子は普通じゃないの、それなのにどうしてこんな無茶ができるのか…」


「…………」


 助手席で大人しく座っているキリの様子を窺う、あちらもあちらさんで心ここにあらずといった体だ。大方、くっ付いて離れなかったリューオンが傍にいないから落ち込んでいるのだろう。けれどしっかりと役目を果たしてくれるようで元気の無い声で近くにいるピューマのことを教えてくれた。


「ねぇキリちゃん、大丈夫なの?」


「…私は大丈夫…」


 普段よりゆっくりとした速度でハンドルを切り、第十六区の幹線道路から市街へと入っていった。どこもかしこも凍り付けだ、人っ子一人いない街道を走っていると見つけた、足を滑らせながら歩いているピューマがいた。


「あいつの横に車をつけてくれ!」


「分かっているわ!」


 車が停止する間際にタイヤが横滑りしてしまい、歩道沿いのガードレールにいたく車を擦り付けてしまった。その音に驚いたピューマがこちらを見ることもなく慌てて駆け出そうとするが...


「待て!逃げなくていい!」


 もう体力の限界だったのか、この寒さのせいでやはりマテリアルに不具合をきたしているのか、ピューマも足を滑らせ地面に倒れ何とか這い上がろうしていた。運転席から降りたファラが先に駆けつけてピューマを起こしてあげている。遅れて私も到着しファラと一緒に車へと誘導する、キリが荷台の扉を開けてくれていた。


「ほら、もう大丈夫だから」


 マテリアルも凍結対策がされていないのか、至る所に氷が張っており何とも歩き難そうにしている。そして保護したピューマはどことなく、グガランナ・マテリアルに似ている小さな牛だった。



「仔牛と言うそうよ、そのピューマは」

 

「そうか……」


 荷台に乗せたピューマにこれでもかと厚手の布を被せ、持ち込んだスポットストーブで温めている。溶けた氷ですっかり荷台が水浸しになってしまったがこの際いいだろう。


「ありがとうって、その子が」


「………」


 外にいた時はきんきんに冷えていたマテリアルも今は少しだけ温かくなっていた。何とか一体を無事に保護することができたが、それと同時に絶望感がひしひしと足元から這い上がってくる。


(これを私達だけでやれってか…とてもじゃないが間に合わない…)


 ピューマ捜索隊としてスイちゃんも空から探してくれている、けれどそれでもやはり人手が圧倒的に足りない。このままではこちらが見つける前にピューマが息絶えてしまう。こんな事になるならこちら側で面倒を見ておけば良かったと後悔の念がよぎる、しかしこれも今後の為だといってマギールが各区に移送させていたのがまたしても裏目に出てしまっていた。リバスターから人手を回してもらうにも限界がある、どうしたって市民の助けが必要だった。


(それよりもまずはこいつを安全な場所へ…)


 そしてさらなる絶望が私に襲いかかった。



「受け入れできない……?それは何故ですか?まだこちらの建物にはスペースがあまりすよね?」


「………」


 静かに、ただきっぱりと第十六区の区長が首を振った。

 公的な建物でもある区長の館は街の外れに建っていた。昔、私達が過ごした場所でもあるこの区にも絶対零度の波が押し寄せていた。凍り付いてしまって固く閉ざされた扉を嫌そうに開けている区長の顔を見て、嫌な予感はしていたが...


(中にいるあいつらは大丈夫そうだな…)


 私達の訪問に何事かと建物内にいたピューマが顔を覗かせに来た。本来であれば仔牛のピューマもあそこにいるべき存在だというのに、どうして街を彷徨っていたのか。それにこの区長も顔馴染みがない、孤児院を引っ越す際に昔の区長から今の人に変わっているため情に訴えかけることもできなかった。駄目で元々...この区に残っているピューマを保護するため人手を出してくれないかとお願いすると烈火の如く怒り始めた。


「いいかね!俺は仕方がなくあのピューマの面倒を見ているんだ!本当はそっちに明け渡したいぐらいだというのに挙句に人を貸せだと?!こんな非常事態に貴重な若者達をこんな寒空に突き出す区長がいるか!!」


「──っ」


「この寒さを何とかするのが先じゃないのか?!政府の発表によればシステム障害が原因だと言っていただろう!」


「それについては……」


 リューオンから報告はもらっているが、ここでできる話しでもなかった。言い淀んだ私に向かって区長が最後に唾を飛ばした。


「出て行ってくれ!これ以上増えたらうちの区が狙われてしまう!」


 最後の台詞は聞き捨てならなかった、しかしこう追い返されては文句だって言えやしない。


「……行きましょうアオラ、区長の言い分も間違ってはいないわ」


 玄関先からでも車の中にいるキリとピューマが見える、キリがピューマの頭を撫でて何やら話しをしているようだ。


「……分かっているさ、分かっている。こんなクソみたいな状況で他者を優先する奴の方がどうかしているしな」


「そこまで悪く言う必要はないわ。けれど…」


 区長の館から踵を返す際、ファラが小さな声で天秤にかけるなら私だって子供達を取る、そう言った。それに間違いはない、けれどそうじゃない。


(クソっ!)


 車に乗り込みファラの運転で区の警官隊の所へ行ってもらった。



 駄目だと何度も断られた。区の警官隊、病院、それから配備されたばかりの人型機部隊も断られてしまった。誰も彼もがピューマを助けようとしない、助けたとしてもそれは手の届く範囲のみでそれ以外のピューマはもう視界に収めないようにしているのか、見ても聞いても知らぬふりをしているばかりだった。


「……アオラ、ここから第一区に向かいましょう」


「いやでも、まだここの区は完了していないんだ、まだピューマの数が合っていない」


「…それが精一杯なの、これ以上車を動かしてしまうと第一区に辿り着けなくなる。そうなってしまえばその子も…」


「………」


 第一区のビル群は目の前にある、しかし区の位置からしてぐるりと迂回する必要があった。この状況では燃料だって売ってくれやしない、ここの連中に断られていた話しは人手以外にも物資の援助もあった。人型機を寄越してもらうにしても「ヒナドリ」の件だって片付いていない、そう望めそうにもなかった。


(諦めるか…諦めるしかないのか…けれどこのままじゃ私がこの街を嫌いになってしまいそうだ…)


 ここでピューマを助けた者とそうしなかった者に別れてしまうと後々問題が起きてしまう、マギールの言った通りに必ず序列が出来てしまうからだ。私はとにもかくにもフラットにしたかった、あの時の恨みもあの時の怒りもあの時のやるせなさも全て均一にしたいのだ。それが土台無理なのは分かっている、全ての人の苦労を真っ平らにしたい、そうすれば皆が皆を恨む必要がなくなるかもしれないのだ。


「…………」


 後部座席から荷台に顔を出してくりくりの目玉を向けてくるピューマを見やる。昔はあんなに嫌いだったというのに、そのせいであいつに八つ当たりして仲直りだってまだできていないのに、こんなにもこいつらに真剣になれるとは思っていなかった。その時だ、


「……あれは、誰が運転しているの?」


「………?」


 道路の脇に車を停めていた私達の後ろに別の車がゆっくりと近付いてきた。荷台からでは運転手の顔が良く見えない、それにあちらも私達だと知って近付いてきている節があった。もしかしたら...そう期待して弾む胸を押さえつけながら車から降りてみると、運転席に座っていたのは第二区の公民館でピューマの頭をおっかなびっくりと撫でたあの男性だった。


「あなたは……」


「やぁやぁ、タイヤを履き替えるのに時間がかかってしまってね、申し訳ない」


 あの時の怒った顔が嘘のよう、今は鼻を赤くして微笑んでいる。後から降りてきたファラも男性に気付いたようだ、吐く白い息もどこか弾むようにして空へと昇っていく。


「まぁまぁ館長ではありませんか!いつもやんちゃなピューマがお世話になっています!」


「その話しはいいんだよ。それよりもピューマは大丈夫なのかい?この寒さじゃ外をほっつき歩いているピューマ達が可哀想だと思ってね、ほら、街歩きの達人を連れて来たよ」


「Wlooonッ」


「お前はあの時の!」


 丁寧語も忘れてついいつもの口調を使ってしまった。館長と呼ばれた男性が運転する車の後部座席には、胃袋に落とされた鉛を処理し切れずに呻いていた朝に出会ったあのライオン型のピューマだった。どこか窮屈そうにしていたので断りもなく扉を開けると勢いよく車の中から飛び出してきた。


「あ、おい!」


 最初は何度か足を滑らせていたがすぐに慣れたようで、普段と変わらない速度で街の中へと駆けて行った。


「何か手伝えることはあるかな……いや、というより、これでも助けに来たつもりなんだ」


 少し照れ臭そうにしている館長、その申し出は絶望に苛まれていた私にとって何より有り難いものだった。


「……あんたも変わったな!」


「はは、君程じゃないよ」


 他所行きの口調は何だか失礼だと思い、普段の話し方に切り替えた。そして、今なお車の中で意気消沈としていたキリに声をかけた。


「キリ!あのピューマと連携して他の奴らを見つけてきてくれ!私からリューオンにうんと頑張ったと伝えてやるよ!」


「………分かった」


 ほんの少しだけ明るくなった声で返事をしてからキリが車から降りた。

 凍り付いた道を難なく移動出来るピューマが仲間に加わってくれた事よりも、たった一人の思い遣りの方が心強かった。



118.b



[こちら捜索本部、カサン隊所属の両パイロットへ。ヒナドリ捜索を一時中断し直ちに第六区へ移動してください、先行しているリトル・クイーンより別途指示があります、連絡以上]


[了解]


「了解しました」


 マギリと飛んでいるのはあの日、ディアボロス様率いるビーストの集団と共にいた場所、そしてお父上から激励して頂いた場所でもあった。カーボン・リベラの街々を支える柱の根元、あの時と変わらず淀んだ汚水が液体として留まり続けていた。そして自分の胸にも、あの日に決して曇らせるなと言って頂いた正義心も残り続けていた。


(お父上の言った通りだ)


 自分は今、ここに住む人達の為に空を飛んでいる。天命だと押し付け命を奪い、資源の為に調整するためではない、その奪い続けてきた命を今度は守るために力を(ふる)うのだ。自分はオーディンの子だと、声高に宣言出来る日がきっと訪れるに違いない。そのためにも戦わねばならない、いいや、戦いたかった。


(ここにこうしていられるのもお父上とナツメさんのお陰だ)


 斜め後ろを追従していたマギリ機から通信が入る。言わずもがな、眼下に広がるこの汚水の事だった。


[ばっちいにも程があると思わない?]


「それもそうだが、ここだけ凍り付いていないのが気になる」


[あぁ…言われてみれば確かに…第二発見者のパイロットはよくここに落ちなかったね]


「見るからに汚いが機体に触れたところでどうということはない………」


 しまったと思った矢先に早速突っ込まれてしまった。


[何でそんな事知ってんの?]


「聞いた話しだ、深い意味はない」


[ふぅん…]


 意味ありげに相槌を打った後そのまま通信が切られた。



✳︎



(アヤメは大丈夫なのかな…)


 できることなら親友の傍から離れたくなかった、けれど仕方がない。人型機が入るエレベーターはもう使えないと言っていたし、何よりヒナドリと名前が付けられたあの気味が悪い敵を何とかしなければならなかった。数時間の仮眠を取って捜索隊に加わったが一向に発見出来ず、さらに捜索本部から追加の指示を頂戴し第六区と呼ばれる場所に移動していた。


(こうして改めて見てもほんとに凄い街)


 雲海の中にビルが聳えているなんてまるでファンタジーだ、私が過ごしてきた街の方が現実味がある。実はこっちの方が仮想世界です、と言われたら納得してしまいそうだ。私が現実世界で目を覚ました時は、街をゆっくりと見ている暇がなかった。ようやく見つけたあの機体の前にはご丁寧にもヘルメットとスーツが用意されていたので、その場で着替えてそのまま機体に乗って飛び出したのだ。


(え、待って。あの服誰にも見られてないよね)


 今頃になってさすがに脱ぎっぱなしはマズかったと後悔するが、どうせ誰も来ないだろうとすぐに開き直った。

 先行しているという部隊から通信が入る、相手は「リトル・クイーン」と恐れられているスイからだった。


[捜索でお忙しいところ申し訳ありません。こちらに到着したらピューマを搬送してほしいんです]


「…….ぴゅーま…?」


[知らないのか?環境洗浄の機能を持つ動物型マテリアルだ]


「ビーストとは違うの?」


[違います、彼らに人を害する力はありません。こちらで保護したピューマの身体機能が低下していて今すぐ手当てが必要なのです]


 どこか険を含んだ声でそう返された。ビーストとぴゅーまの違いに悩んでいた私に代わって良い子ちゃんのヴィザールが返事を返した。


[すぐに伺います、搬送するピューマの特徴と数を教えてください]


「わぁ、凄い猫撫で声で話すんだねぇ。こちらにも一匹だけ猫がいるんですけどこの子も病院に連れて行ってもいいですか?」


[え?え?]


[静かに!会話の邪魔だ!]


 私にはつんけんするくせにリトル・クイーンには誠実に対応する。その態度にかちんときてしまった私は皮肉混じりの冗談を口にしていた。言われたリトル・クイーンも何の事だかと慌てている。


(猫じゃない、犬だな)


[失礼しました、どうかお気になさらず]


「そこはわん!じゃないの?」

 

[と、とにかく!第六区の湖にそのまま着陸してください!凍っていますので人型機でも割れたりしませんから!]


 そう言って通信が切られた。


[マギリ…アマンナの真似は間に合っているんだけどね、君まで憎まれ口を叩かないと気が済まないのかい?]


「べっつに〜私にはつんけんするどこかのワンちゃんに腹を立てただけだよ」


[この際だからはっきりと言っておくが、これでも僕は君に対してある程度の信頼があるんだ。だから丁寧な話し方をしていない、分かってくれたかな]


「わん!」


[もういい!一生吠えていればいいさ!]


 そうしてヴィザールにも通信を切られた。私なりの恥ずかしさを表明したつもりだったけど、真面目なヴィザールに通じなかったらしい。



 肝。肝とは俗に言うところの内臓である、この他にも精神力であったり胆力であったりと例えられる際にも肝という言葉が使われる。肝が座っている、度肝を抜かれた、など。そして今も私は度肝を抜かれている、こう何度も肝を抜かれると中身がすっからかんになってしまいそうだけどまだ大丈夫そうだ。


「何あそこ…ほんとに湖の上に人型機が立ってるよ…」


[この温度で湖が凍って臨時の発着場にしているんだろう。それにしてもピューマの数が多いように見えるが…僕達だけで足りるのか?]


 雲海をかき分け到着した第六区と呼ばれる場所には凍ってしまった大小様々な湖があった。こんな非常事態でなければさぞ湖面が輝いて綺麗に見えていたに違いない、しかし今はどこも真っ白けに凍ってその上に人型機が駐機されていた。さらにポートの上にも沢山の銀色をした動物が所狭しと並んでいる、あれがピューマと呼ばれる生き物らしい。


(小さなビーストにしか見えないけど…)


 初めてここに訪れた際に手厚い歓迎をしてくれた桃色の機体、リトル・クイーンが視程に収まるとあちらから通信が入ってきた。


[お待ちしておりました。お二人には早速で悪いのですがピューマ搬送のお手伝いをお願いします]


 優等()ヴィザールがリトル・クイーンに進言した。


[僕達が加勢したところでその数は無理があるのでは?他に救援はないのでしょうか]


[それが…]


 機体の速度を落として着陸態勢に入る、リトル・クイーンの話しを耳に入れながらの姿勢制御だったため危うく操作を間違えてしまいそうになった、それ程集中を乱す内容だったためだ。

 リトル・クイーン曰く、現れたノヴァグはピューマを優先的に狙う傾向があるため他の街からピューマ達をこの区に移送し後は逃げるように去っていったらしい。勿論そんな傾向性はないが、誤った情報を鵜呑みにしてしまった街の人達が陸路、空路を問わずピューマを連れて来るものだからここまで数が膨れ上がってしまったと、どこか悔しそうにして教えてくれた。


[馬鹿な事だ…我が身可愛さの為にそんな事までしでかすとは…]


 ヴィザールの落胆とも嘆きともつかない声がコンソールから届く。


[はい、ですので一先ず第一区の軍事基地へ移送しようと思っています。あそこなら人もいませんし、ピューマ達を寒さから守ることもできます]


 と、言ってもピューマの数は優に百体は超えている。そして私達人型機は合わせて十体もない、空路から移送するにしたって何往復とかかってしまう。


(可哀想…)

 

 ポート上でおしくらまんじゅうをするように集まっているピューマ達を見てそう思った。標的にされてしまうからと見捨てられてしまうなんて、けれどもし、私が街の人達と同じ立場でアヤメかピューマのどちらを守るかと言われたら勿論前者だ。そういった理屈でここに集められてしまったのだろう。


(でも…)


 ピューマを見捨てて助かった街にアヤメは帰りたいと思うのかな。その疑問が私を突き動かした。


[マギリ?]


 とくに考えることもなく、遠慮なくコクピットのハッチを開けるとこれでもかと冷たい風が入り込んできた。とてつもなく寒い、けれどピューマはこの寒さに耐えているのだ。


「ヴィザールも来て」


 コクピットから身を乗り出し電動ロープに足をかけて機体から降りた、凍った湖の上に立つとさらに寒さが増したようだ。後からヴィザールもきちんと降りてきたようでひぃひぃ言いながら私と一緒にポートを目指した。


[どうかされたのですか?]


 インカムからリトル・クイーンが不思議そうに声をかけてくる。


「早く何とかしないと凍え死んじゃうよ、君はあったかいコクピットから眺めてるだけなの?」


[……降ります]


 滑らないように注意しながら歩き、ようやく辿り着いたポートには私達二人を不思議そうに、もしくは警戒した様子で眺めているピューマ達がいた。


「さぶいっ!」


「わ、分かっていることを言うな!よ、余計に寒くなってくる…」


 ヴィザールも両肩を抱きながら寒さに堪えている。湖面からポートによじ登り少しだけ私から距離を開けたピューマを近くで眺める、やはり小さなビーストにしか見えないがあのキャンプ場で息を引き取った狼よりいくらか純朴そうに見えた。


(どちらをとか…天秤にかけて助かる方法っていずれ一人になっちゃうよね…)


 一番近くにいたペンギンに手を伸ばす、人懐っこいのかとくに逃げる様子もなかったので頭を撫でてみると冷たくて驚いてしまった。そりゃそうか、見るからに機械の体をしているのだから直に冷えて仕方ないのだろう。

 遅れてリトル・クイーンがポートにやって来た、私と視線が合うと気まずいのか良く分からない感情を見せてからすぐに逸らした。


(この子も良く分からないな…)


「あ。あれは…?」


 リトル・クイーンが何か見つけたようだ、その視線の先には一隻の凍り付いた船があった。そして、その船首には「あまんな」と書かれていた。



✳︎



[あー…テステス……え?そういうの要らない?おほん。こちらはリバスター部隊、これより皆様方が見捨てたピューマの大脱出計画を発動致します。ノヴァグに襲われたくないそこのあなた、今なら無料でピューマを第六区から第一区の基地へ運んであげましょう。安心、安全の空の旅を「あまんな号」がお約束致します]


「何よこのラジオ放送は…」


「……ぷっ、あっはははっ!」


 良いね、その皮肉が効いた放送内容。


「笑っている場合なの?どうするのアオラ」


「どうもしないよ、私より面白い奴がいるじゃないか」


 館長とライオンの応援もあって何とかこの区のピューマ達を保護することが出来た、いくら感謝してもし切れない程だ。だが、集まったピューマの数は全部で六体、とてもじゃないが館長の車と合わせても乗せられる数ではなかった。

 カーステレオからさらに続きの放送が流れてくる。


[他の区で移動出来ずに悩んでいる方に朗報です。我々リバスター航空がお迎えに上がるプランもございます、ご利用の方は総支配人リトル・クイーンまでご連ら[ふざけ過ぎですよ!真面目にやってください!後で苦情が来ても知りませんからね!]


「あっはははっ!いやぁ〜スイちゃんも相変わらずだなぁ〜」


「どういうことなのアオラ?あの人型機もそこまで大きくはないわよね?」


「あまんな号ってのは第六区にある船の名前だよ」


「……え、まさか」


 キリが先に気付いたようだ、おそらくあの船を人型機がそのまま運ぶ算段を立てているんだろう。ここにもピューマ達の為に一肌脱ぐ奴がいたのかと嬉しい気持ちになった。


「そう、そのまさか、ピューマを乗せた船を人型機で運ぶつもりなんだろ。いいねぇ、早速そのプランとやらを利用してみようか」


 私の言葉にファラが慌てたように食ってかかった。


「だ、大丈夫なの?!そんな、船を運んで空を飛ぶだなんて…それにもし何かあったら…」


「大丈夫だって、それに一度に運んでもらう方法なんて他にあるか?」


 そう言いながら自前の端末を使ってスイちゃんに連絡を入れるとワンコールですぐに繋がった。


[アオラさん!な、何でしょうか?!]


「何でしょうかじゃないよ、面白い隊員がいるじゃないか。第一区に向かう前に第十六区に寄ってくれるか?こっちでもピューマを保護しているんだが車で送ってやれそうになくてな」


[あ、は、はい!経由するように伝えておきます!]


「それから船に乗れるのはピューマだけか?」


[え?]



✳︎



「ま、マギリさんマギリさん!これで本当に大丈夫なのですよね?!」


「大丈夫、コパのエンジンから船に電力を回しているから中は暖かいはずだよ」


「違います!本当に人型機で船を運べるんですよね?!」


「もう、リトル・クイーンは心配性だなぁ」


「何かあったら私が怒られるんですよ!!」


 船の底を凍らせ停泊していたあまんな号は第六区の中でも大型に分類されるらしく、百体ちかくいたピューマが全部収まる程大きかった。湖から船を取り外す作業はもう完了しており後は人型機で空へと運び出すだけだ。これでもし持ち上がらなくてもコパからの電力供給で凍えていたピューマ達を温めることができる、それだけでも上出来だった。

 先程の放送はただの意趣返しだ、可哀想な思いをしているピューマに代わって私が文句を言ったに過ぎない。後半のリバスター航空のくだりはただの冗談だったが、まさか本当に利用したい人がいるなんて驚きだ。

 船の甲板で話し合っていた私達を船内からピューマ達が覗き見ている、コパのおかげで空調も効いているだろうし顔色(?)もすっかり良くなったようだ。


「さぁ行きましょうか、ピューマ達を運んだ後はまた捜索に出ないといけないし」


「……うぅ、心配で仕方ありませんが…」


 ようやく決心がついたようでリトル・クイーンが出発の号令を出す、人の言葉が分かるのか船内にいたピューマ達もにわかに活気付いた。



118.c



[頭!持ち過ぎだぞ!もう少し下げろ!]


[何言ってんだ!こっちにピューマが集まってきてるから重いんだよ!]


[マギリ!コパに繋いだケーブルが外れかかってるぞ!]


[知るか!もう十分あったまったから外れても問題ないでしょ!]


 馬鹿げている、けれど確かに「あまんな号」が空を飛んでいる。前後左右に人型機が付いて船を持ち上げていた、見ているだけでハラハラしてしまう。


[クイーン!何処からかドローンが飛ばされているようですがどうしますか?!]


「放っておいてください!今はそんなものに対処している余裕はありません!あなたも船から離れないでください!」


 四機が船を持ち上げ、残りの六機が船から付かず離れず追従している。その内の一人から報告があったように撮影用のドローンが私達を捉えていた。この期に及んで動画撮影など良いご身分だ、今の状況が落ち着いたら一斉摘発してやる!

 第六区から飛び立った船と人型機がようやく隣の区に到達した。マギリさんの放送を聞いた人達が寒いにも関わらず外に出て見物しているのがちらほらと確認出来た。


(外に出るくらいなら手伝ってよ!)


 心の中で文句をぶつけてから船を見やる、初めての体験に驚き興奮しているピューマ達が甲板に出てはしゃぎ回っている、危ないったらない。


「あ!」


 甲板に出て物珍しそうに雲を見ていたピューマが手すりを乗り越えてしまった、バランスを取るために人型機が持ち直したせいで船が傾いてしまったのだ。


[なっ?!このピューマは一体何をやっているんだ!危ない危ない!]


[落ちちゃうよその子!早く何とかして!]


 何とか手すりに手をかけているがいつ落ちるか分かったものではない、かといって見渡す限り開けた場所もないため着陸だってできやしない。周囲に待機していた一機がゆっくりと船に近づき落ちかけているピューマの下に手を伸ばした、それに気付いたピューマが人型機の手に降りてゆっくりとその指が閉じられていく。


[な、何とかキャッチしました!]


 パイロットからの報告を聞いて安堵した後間髪入れずに注意した。


「その子は何があってもコクピットから出さないでください!やんちゃが過ぎます!」


 そして船を運んでいたパイロット達からも、


[縄で縛っておけ!]

[絶対に出すなよ!]

[あーもう冷や冷やした!]

[船内に閉じ込めておけば良かった!]


 と、文句の嵐だ。それぐらいに肝を冷やされた瞬間だった。さらに問題が起こる、自動追従していたコパと呼ばれる可愛い名前をした機体が船から離れようとしていた。コパの位置は船の上側、船から伸ばされたケーブルを引っ張りながら船の前に出ようとしているのだ。すぐにマギリさんへ報告するが原因が分からないらしい。


[そんな設定にした覚えはないよ!どうしたの急に!]


[コパも嫌気がさして逃げたくなったんだろ!]


「ふざけている場合じゃありませんよ!このままでは船のバランスが崩れてしまいます!」


 各主要区を結ぶ高速道路に差しかかった時だ、コンソールに未確認機の反応とアオラさんからの通信を知らせる音が同時に鳴り響いた。



✳︎



 空を駆けるは歪の機体。脚部が無く半身の機体が空を埋め尽くしていた。


「あれは何だ…」


「…………」


 第四区で最も開けた場所、カーボン・リベラ最大手のメーカーが経営するモールの駐車場に待機していた私達は空を見上げてただ唖然としているばかりだった。すぐにスイちゃんへ連絡を入れるとすぐに繋がった。


[アオラさん?!ご無事ですか?!]


「私は無事だよ!それよりあの機体が見えるか?!」


 頭上を通り過ぎていく機体が届けてくる何とも不吉な風鳴りが辺り一帯を支配していた。


(ヒナドリだ!間違いない!ついに動き出したんだ!)


 どこに潜伏しているのか突き止められないまま敵の先手を許してしまった。


[こちらでも確認しました!すぐに迎撃態勢に入ります!アオラさんは安全な場所へ避難してください!]


 こちらの返事も待たずに通信が切られた。安全な場所と言われても、あれだけの大量の機体から隠れられる場所はあるのか...それにまだ巡航しているだけで何か目的を持って飛んでいるようにも見えない。


「あれ、これもしかして…」


「どうかしたのキリちゃん?」


「見てみて、誰かがライブ中継しているみたい」


 キリが手にしていた端末をファラに差し出した、それに釣られて館長も画面を覗き込んでいる。


「これは…船の近くから撮っているみたいだね…」


「何だってこんな時に…」


 私も自前の端末を確認する、こんな非常事態でもサーバーは生きているのだから不思議だ。街に張り巡らされたライフラインは軒並み温度でやられてしまったが、それでも私達にはカリブンによる生活維持が出来ていたのだ。

 そこに映っていたのは確かに、あの日アヤメと一緒に見た船が空を飛んでいる映像だった。さらに第四区を通る高速道路上に黒い物体が整然と並んでいる様子も映っていた。


「こいつらまさか…」


 「19」と所属を示すナンバリングされた車から、空へ向かって一斉にミサイルが放たれた。



✳︎



 コパが突出した理由は未確認機を迎撃するためだった。目前にまで迫っていた腕だけのキモい機体と衝突する間近、第四区からおびただしいミサイルの群れが殺到した。


「挟み撃ち?!」


[いや違う!ちゃんと見てみろ!]


 船のお尻を支えているパイロットが忠告したように放たれたミサイルはキモい機体を捉えていた。コパの自動迎撃よりも遥かに機体が落とされていく、どうやら私達を援護してくれるらしい。でも一体誰が?粋な計らいをしてくれた人達から通信が入った。


[こちら第十九区所属警官隊、これより貴官らを援護する]


 そして再びミサイルを放ち、撃ち漏らした敵諸共空の藻屑へと変えていった。何とも頼もしい、こっちは文字通り手が塞がっているので有り難い。


[こちらリバスター!援護感謝致します!]


 リトル・クイーンが感謝の言葉を述べるといくらかくだけた様子で返礼があった。


[感謝するのは我々の方ですリトル・クイーン、制圧作戦の折に処罰せずにただ迎え入れてくれたビッグ・クイーンに報いるためです]


[ビッグ・クイーンって…]


[第一区区長アオラです。彼女だけが我々を庇ってくださった、ならば次は我々の番です。ピューマを安全な場所へ]


[……はい!]


「いやぁカッコいい人もいるもんだねぇ!ヴィザールも見習ったらどうなの!」


[さっきはあんなに皮肉を言っていたくせに!僕が犬なら君は猫だな!その変わり身の早さは!]


「望むところ!猫なら大いに結構!」


[にゃん!と鳴くところだろ!]


 粋な人達からまだまだミサイルが放たれている、突如として現れたキモい機体が同じように現れた人達によって次から次へと落とされていった。それにしてもこの路面状況でよくここまで来られたな、元々凍結対策がされたタイヤでも持っていたのだろうか。



✳︎



「テッドの親父さんか!粋な事をしてくれるよ!」


[いや何、僕は余りそうになっていた品の在庫処分をしただけさ。それを彼らが快く引き取ってくれたんだ]


 有り難い!テッドの親父さんが第一区で処分保留になっていた警官隊へ物資を届けてくれていたのだ!そのおかげで奴らがこうして第四区まで足を運ぶことができたってもんだ!


「いくらだ?!全部私が買い取ってやる!」


[はっはっはっ!それは街が安泰になってから商談しようか、もしくは僕もピューマに一枚噛ませてほしい、駄目かな?]


「いいぜぇ!好きなだけ噛みな!」


[君のその喋り方も良いね!ではまた会うとしよう!]


 前に訪問した時に包み隠さず話しておいて良かった、テッドの親父さんがどうして第十九区の警官隊に目を付けたのかは分からないが事前に手を打ってくれていたみたいだ。

 そして再び放送に割り込みを入れて好き勝手に喋り出す奴が現れた、何を隠そう今し方話しをしていたテッドの親父さんだった。


[私は第二十二区で街の建設をしているレイだ、ここでは実業家とでも名乗っておこう。さて、君達はピューマを恐れて手放しているようだけどそんなに惜しい事をするなら第二十二区に預けてみないかな?どこぞの配信者がライブ中継していた映像を見るに、新型のビーストはピューマを襲うというのはデマだとはっきりした。襲うこともなく僕が提供した地対空ミサイルの餌食になっていただろう]


 そういう事か...テッドの親父さん、レイはこうなる事を予測して武器と移動用のタイヤなどを無償提供していたのだ、何と商魂たくましいことか。


[生活の要であるカリブンが安定して供給されるようになってから生産も飛躍的に向上している、それだけ僕達人間は余裕が生まれているという証拠さ、それもピューマのおかげでね。どうかな?そんなに勿体ないことをするなら僕に預けてくれ、きっと君達より丁寧に扱ってみせよう]


 引き取り希望の街はレイエアラインまで、そう締め括って放送が終わった。何も放送で対決しなくてもと思うがこれはこれで面白い、レイの方が上品な皮肉だった。

 頭上を覆っていた機体の数が徐々に減り始め、空の端にようやく空飛ぶあまんな号が見えてきた。その様子に驚いたピューマ達が車の中からこぞって出てきた、最初に保護した仔牛もすっかり元気になったようで鼻を鳴らして興奮している。どうやら皆んなもあれに乗りたいらしい。


「アオラ、まさかとは思うけど私達もあれに乗るの?」


 キリがいくらか不安げに聞いてくる、勿論答えは決まっていた。


「モチのロンさ」


 こうして普段は滅多に見られない船の底がモール駐車場の上空に見えてきた。そしてゆっくりと降下が始まり船底をいくらか潰しながらついに着陸した。



✳︎



(あれがビッグ・クイーンか…)


 赤い髪をした女性が船を見上げて豪快な笑い声を上げている、その近くには保護されたというピューマも数体集まっており皆んな興奮しているようだ。


「いや、というかちょー疲れた…まさかこんなにしんどいなんて…」


 コクピットの中で一人愚痴を溢す、耳敏く聞きつけた優等犬が他のパイロット達とピューマを船内に押し込めながら私に言葉を返した。


[そもそも君が言い出したことだろ!それよりも僕達と一緒にピューマ達をっ……いたたたっ!何をするんだ!]


 ピューマ達もまだまだ空の旅を楽しみたいのかヴィザールに噛み付いたり体当たりをかましている。無粋な真似をするヴィザールに怒るのは理解できるが確かに今は船内で大人しくしていてほしい。はぁと大きく溜息を吐き出してから機体制御にロックをかけて私もコクピットから降りた。もう一度コパにケーブルを接続しないといけない。

 甲板に降り立つと何やら駐車場が騒がしくなった、何事かと見てみれば先程歩兵用のロケットランチャーで援護してくれた部隊がこちらに合流していた。さらに一般の車で乗り付けてくる人もいた。


(何だ何だ、まさか皆んなプランを利用したいなんて言わないよね)


 自分で言ってて何だがあれは冗談の類いだ、まさか鵜呑みにした人がいるとは思えないが...軍用の車両から降りてきた人がビッグ・クイーンに向かって敬礼した。


「あんたら!全く粋な事してくれるぜ!お陰でピューマ達が助かったよ!」


 話し声がこちらにも届いてきた。


「これもビッグ・クイーンに応えるためです、我々警官隊はあなたの指揮下に入ります」


「おう!それならお前達も私に付いて来い!スイちゃん!この船にはあと何人乗れるんだ?」


「え?!」

「え?!」


 機体から降りてビッグ・クイーンの傍にいたリトル・クイーンと揃って私も驚きの声を上げた、まさか本当に乗るつもりだったなんて。


「ほ、本気ですかアオラさん?!この船に乗るって…とてもじゃないですけどおすすめできませんよ!」


 そりゃそうだ、こんな危なっかしい空の旅はおすすめできない。凍った湖の上で寒そうにしていたピューマ達を助けるための苦肉の策なんだから。しかしアオラと呼ばれたビッグ・クイーンは気にしていないようで、人が乗るメリットをつらつらと語っている。


「もし何かあったら私達が対処してやれるだろ?それこそさっきみたいにピューマが落ちないように見張ることだってできるし、こいつらも一緒に乗せておけばそのまま迎撃装置にもなる」


「う〜ん……」


 腕を組んで必死になって考えている総支配人、乗せるメリットと安全性を天秤にかけているのだろう、是非とも安全性に傾いてお断りしてほしかったがそこへ新たに駆けつけた人がいた。


「く、区長!これは一体…いえ、まさか本当に行かれるおつもりで?!」


「これはこれは、どうかされましたか?」


「いや、保護していただいたピューマの様子を、」


「皆んなとても元気にしていますよ、あの子達もあの船に乗りたいらしくはしゃぎ回っているぐらいです」


「そ、それについて、」


「ああ、あなたも空の旅を?でしたら私ではなくリバスター航空にお問い合わせください」


「………」


 な、何だ?何やら不穏な空気を感じるんだけど気のせいかな...コパの再接続の作業も忘れて見入っていたせいかリトル・クイーンが私に気付いて声を張り上げた。


「マギリさん!今すぐこちらに降りてきてください!」


「えぇ……」


 呼ばれたからには仕方がない、ヴィザールに再接続を押し付けて私も船から降りていった。



✳︎



 今さらのように第十六区の区長が慌てた様子で私の元へと駆けてきた、やっぱり車で移動できるんじゃないかとまたぞろ皮肉でも言ってやろうかと思うが、リバスター航空の責任者が降りてきた。その顔は見るからに不安そうだ、きっとこの物々しい雰囲気にやられているのだろう。


「君か!あの放送はとても良かったよ!」


「あぁいえ、あははは…」


 愛想笑いを浮かべている、それにだ...


(この子……とても良い!)


 そのスーツでは逆に際立たせてしまうボディライン、とても良い。公務に励むようになってからすっかりご無沙汰になっていた私には刺激が強過ぎた、スイちゃんという絶世の美女が近くにいるせいもあって審美観が肥えていると思っていたけどそうでもないらしい。邪な気持ちが膨れ上がるのを抑えられないまま握手を求めた、それに応えてくれたパイロット(獲物)に名前を聞いてみると...


「マギリと言います、中層から帰還した先行部隊です」


「………そうか、君がマギリか」


 あっという間に邪な気持ちが萎んでしまった。


「……何か?」


「いや何でもないよ。それよりあの船にはあと何人ぐらい乗れそうだ?」


「ざっと見積もっても十人が限界かと、それに船内はピューマ達がいますので乗っていただいても甲板に出てもらうことになります」


「だそうですが、これ以上ピューマの引き取りは出来ませんのでレイエアラインに問い合わせてみてください。良ければ私の方から聞いてみましょうか?」


「い、いえ、そうではなく…」


 言いたいことは分かる、きっとレイの放送と歪な機体がピューマを襲わずただ撃ち落とされていく様を見て気が変わったのだろう。この区長はピューマを預かりに来たのだ、しかしそう簡単に預けたりしない、何より私はまだ溜飲を下げるつもりはないのだ。


「何か?」


「…最後に彼らの様子を見せてください」


「………」


「これでもピューマのことを心配しているのです、ですが区にいる子供達や若者も守ってやらなければならない、市民の反対を押し切って守れるだけピューマを集めていたのです」


 近くまで来ていた仔牛の頭を撫で、「すまなかった」と一言だけ呟いた。


「………っ!」


 隣に立つキリに横腹を突かれてしまった。


「そりゃ板挟みにあってた人がいきなり手を貸せだなんて言われたら怒るよ。アオラだってこの人に何もしてあげてないくせに」


 キリの言う通りだ、私はとんだ思い違いをしていたようだった。


「……またこの街に連れて帰ります、その時までこちらが責任を持ってお預かり致します」


 本当は帰ってくるつもりなどなかったが、私も区長の振る舞いを見て気が変わった。薄らと笑みを湛え「よろしくお願いします」と返してくれた。



「思っていたよりも眺めが良いな!」


「ほんと…アオラさんも調子が良い人ですね、後であの区長さんにきちんと謝ってくださいね」


「本当だよ、アオラの皮肉って怖いんだよね」


「キリちゃんも乗るの?」


「仕方ないよ…早く第一区に行かないといけないから…」


 船に乗ることになったのは私とキリ、それから警官隊を合わせてきっかり十人だった。ファラと館長とは駐車場で別れている、あのライオンにも声をかけたがどうやら館長の傍から離れるつもりがなかったみたいなのでそのまま別れた。館長とライオンの関係性は私や政府が目指した一つの完成形でもある、いつか全ての区で同様に固い信頼に結ばれてほしいと願う。


(いや、私もまだまだだな…相手の事情も今度からきちんと聞くべきだ…)


 短気な性格が仇となってつい皮肉を返してしまう、そうなっては良好な関係など結べるはずもなく、ましてや全ての区から遺恨を根絶やしするなど夢のまた夢の話しになってしまう、私から皮肉を返していたら永遠に無くならないからだ。

 最後の作業をしていたマギリから出発の準備が整ったと連絡があった、スイちゃんとは別れて私達は甲板で待機している。


「ほ、本当にこのまま行くのですね…船内は空調が効いているらしいのでいざとなったら中に入れば良い話しなのですが…」


「何なら中で待機しておくか?私はこのままここにいるよ」

 

「私も中に入っていい?絶対寒い」


「お前は駄目、中から出てきたピューマを説得する役目があるんだから」


「それ中からでも出来るよね?」


「駄目ったら駄目」


 船の四方で駐機されていた人型機のエンジンが回り始める、甲高いローター音と共にいくらか損傷していた船底から耳障りな音が響きついに重力の軛から解き放たれた。



118.d



[アマンナ、何か分かった?]


[…………]


[アマンナ!]


[うぇっ、な、何?!急に大声出さないで!]


 彼女がマギールと別れを済ませている間、僕達は第十二区の大議事堂前で待機していた。そして妹のアマンナはというと...


[まさかまた動画見てたの?]


[いやだって、船が空を飛んでるんだよ?これは見なくちゃいけないでしょ]


[あのねぇ…今はそれどころじゃないでしょ?多感なのは大いに結構だけど機体はどうなったの?]


[…………]


 無視している訳ではない、きっと動画に夢中になっているんだろう。さすがの僕でも妹のその態度を腹に据えかねていると大議事堂の入り口にナツメが現れた。


[待たせた、今から向かおうか]


 ナツメから通信が入る、それを合図にしたかのようにアマンナが動画の再生を停止して何食わぬ様子で彼女の到着を待っている。


(全くこの子は…要領が良すぎるのも問題だな…)


 アマンナをこっちに連れて来たのも僕達のサーバーから機体を探してもらうためだ。それだというのに街のネットから動画を見ているばかり、それは余裕があるのか単なる遊びなのか、僕には分からない。


[で、見つかったの?]


[てんでダメ、ほんとにわたし専用の機体ってあるの?っていうぐらい見つからない]


[だからと言って動画ばかり見ていたら駄目でしょ]


[うるさいなぁ、ほんと]


 この子は本当に状況を理解しているのかな、猫のように気分が変わるのは今に始まった事ではないけどさすがに心配だ。これなら無理に連れて来ずどこかに隠していた方がまだ良いかもしれない。

 僕のペルソナエスタがついに破壊された。おそらくタイタニスの基地から僕の格納庫へ道を繋げた連中と同じ仕業だろう。そうこうしている内にナツメがコクピットに乗り込んできた、その目元は薄らと赤らんでいるだけで涙の跡はなかった。


「これから下層に降りてあの卵を止めるぞ」


[何かあったの?]


「あぁ、マギールからマテリアル・コアを預かった。ここに全てのアンチ・プログラムが入っているらしい」


 ナツメの言葉にアマンナが素早く反応した。


[待ってナツメ、その全てってどういう意味なの?]


「知らん、これを使えばプログラム・ガイアを止められるらしい」


[そんな物使っていいの?下手したら他のマキナにも影響が出るんじゃない?]


「そんな物とは何だ、お前に批判する権利があるとでも言うのか?」


[言葉の使い方はどうでもいい。それを使ったらグガランナやティアマト達にも影響が出るかもしれないって言ってんの]


 さっきまで動画を見ていたとは思えない剣幕だ。


「プログラム・ガイアは全てのマキナに対してエモート・コアを映してサーバーから切り離している。つまりはそういう事だろう、自分の身に何かが起きても守れるようにしていたんだ」


[何でナツメがそんな事言えんのさ]


[喧嘩は止めて]


 この二人の溝はマギールの死によってより深まってしまったようだ、僕の制止の声も届かない。


「それよりお前は自分の機体を見つけられたのか?まさか動画ばかり見ていたんじゃないだろうな」


[今はそんな話ししてないでしょ、そのマテリアル・コアを使うのは反対だよ]


「じゃあどうやってあの卵を破壊するんだ、あれはイエンと同じ原理で最大級の物だ、物理的な破壊手段はない。何せまだ仮想の物だからな」


[はぁ?何でそんな事が言えるの?]


「マギールに教わったからだ、最後の師事だ」


 イエンと同じ。つまりは僕達と同じ。そういう事か、彼女が目指した未来がようやく見えた。


「現想世界の完成、だそうだ。意味は分かるか?」


[げん…そう世界?何それ]


「スイとマギリの例を見てマギールも理解出来たらしい。仮想の存在、物体、ありとあらゆる物を現実で再現する計画だ」


[そんな夢物語が…]


[あるんだよ、彼女はそれを果たそうとしている。つまりあの卵の中で眠っているのがその役割を担うルーターか…あるいはプリンターという事なんだね]


「あぁ、名前はカエル・レガトゥム。再現する規模も一人や一つではなく世界そのもの、テンペスト・シリンダーに匹敵するものだ」


[馬鹿げてるよそんな…その話しは、]


「本当だ、このためにプログラム・ガイアは昆虫を再現して融合させてトンネル内ではその試験機としてあの群れがあったんだ」


[………]


「カエル・レガトゥムによって有機的繁殖が可能な種を仮想で創造し現実で再現し、ピューマと同様に周囲の環境洗浄に務めさせる。その間私達人類は揺りかごの中で待機しているというものだ」


[揺りかごの……中?それはどういう意味なの?]


「第一区のセントラルターミナルでノヴァグに襲われてしまった人達は全員頭を取られていたらしい。仮想でその人の人格を再現するために」


[………]

[………]


「人類は我らの手に負える、それなら揺りかごの中に幽閉して夢を見てもらう。その間に地球を元の環境に戻してあげるのが我らの最善の道、とマギールの資料には書かれていた。とにもかくにもプログラム・ガイアからしてみれば私達は邪魔で仕方がないんだよ」


 彼女はそこまで思い詰めていたのか...確かに最も理に適っているように思う。だがしかし、その道のりは単なる大虐殺だ、今を生きている人達が全て等しく死に絶えなければ実現しない。


[でも…]


「アマンナ、お前の言い分は分かる。だが私は頼まれた以上やらなければならない」


[本当にいいのかい?プログラム・ガイアを止めるという事は彼女の恩恵を受けられなくなるという事、もしかしたらその時点でこのテンペスト・シリンダーそのものが停止してしまうかもしれないんだ]


[そ、そうだよ!何もそこまでしなくても他に方法が、]


「その後の問題は私達人類のものだ、マキナがとやかくと口を出す必要はない。それに人間の底力を舐めるなよ、お前達マキナは人間を馬鹿にし過ぎているんだよ、だからこんな過保護な世界が生まれてしまったんだ」


 それは独立の宣言と言っても良い。そこまで固い決意があるなら僕から言うことは何もない。そんな折、僕のコンソールにコールが入った、ナツメが持つ個人用の端末と同期していたせいだ。


[ようナツメ、今どこにいるんだ?私と最初で最後のデートをしようじゃないか]


「アオラか……何の用だ」


 緊張していた場が一気に和んでしまった。


[だからデートだよ、デート。聞いて驚くなよ、今私らは船で空を飛んでいるんだ、そこであんたに護衛を頼みたいんだよ]


[えっ?!アオラってあの船に乗ってるの?!]


「………」


(あちゃあ…それはさすがにまずいよアマンナ…)


 アマンナのその切り替えの早さは確かに美徳かもしれない、けれど今その反応は決してして良いものではなかった。妹のはしゃぎようを見てナツメが静かに被りを振っている。


[おお!この声はアマンナか!お前もいるんだな?だったらこっちに来い!空飛ぶ船の景色は最っ高だぞぉ〜!]


[行きたい!ね?!いいよね?!]


「あぁ、そうしよう」


[………]


 機体が少しだけ急ぎ足で空へと昇る、動画に映っていた船へと向かうため。


(仕方ない…彼女とはそこでお別れしよう…まだ機が熟していなかったんだ)


 ここに来て僕達の温度差が決定的に別れた、多感で目移りし易い彼女と一つの目的の為に邁進する彼女と。もしかしたら溝はここから生まれているのかもしれないと思った。



✳︎



 周囲に散開しているキモい機体は巡航を続けているだけで何ら変化がない、第十六区の端にあった古ぼけた木造の建物を通り過ぎるとようやく目的地である第一区が見えてきた、端に建っているビル群を迂回する必要があるので軍事基地へ少しだけ遠回りすることになる。

 甲板に出て寒さに耐えながらビッグ・クイーンが景色を堪能している、先程まで誰かと通話していようだけど今はキリと呼ばれた女の子と引っ付いていた。するとビッグ・クイーンが私の機体に視線を向けてインカム越しに話しかけてきた。


[さっきの建物に見覚えはあるかい?]


「え?いえ、あまりせんが…」


 あるはずがない、この街に来たのはつい最近の事だ。何を見たって思い出に浸かれるはずがない。


[そりゃそうか…悪いな、変な事を聞いて]


「何かあったんですか?あの建物に」


[昔、私やアヤメが過ごしていた孤児院さ。アヤメはマギリという大切な友達を亡くした後でな、それでも私らより元気だったけど]


「………」


 あぁ、その話しか、だからリトル・クイーンやカサン隊長があんな目で見ていたんだな。


「どうして私だと分かったんですか?」


[ティアマトに話しを聞いていたからな、マギリという女の子がいずれこの街にやって来るからよろしくって。あいつは元気にしてるのか?]


 ティアマトか...今頃どうしているのか、ナツメさんから話しを聞いた限りではあまり大丈夫そうではなさそうだが答えは決まっていた。


「知りませんよあんな親、私を勝手に生んで後は知らんぷり。もし会うようなことがあれば一発殴ってやりたいですよ」


[そりゃまた…君も大変だな。ま、後少しで基地へ到着するからよろしくな!…お、あいつも来たようだな]


 アオラさんが見つけるより早くこちらでも新たな反応を捉えていた。方角は第一区から、ナツメさんと同じ色をした機体だけどデザインがまるで違う。こう、禍々しいというか怖いというか...他のパイロット達も初見だったようでどう対応するか悩んでいるとその機体からコールが入る、驚いたことにナツメさんからだった。


[本当に空を飛んでいるんだな、周りに尖兵がいるというのに呑気なものだ]


[ナツメか…あんたの顔を拝めないのが残念だよ。アヤメはきちんと戻ってくるんだろうな?]


[あぁ、すぐにこっちへ到着する、心配するな]


 青い機体がゆっくりと速度を落として船の上に付いた、中にいたピューマ達も驚いて外に出て来ようとしなかった。その中でも物怖じしないピューマがいたようで、仔牛のピューマだけ外に出ようとしていた。


[……あんたはこれからどうするんだ、その変な機体だって元々の物ではないんだろ]


[私は下層へ行くよ、そこいらを飛んでいる尖兵の大元を叩いてくる。それとアマンナを預かってくれ]


「アマンナ?アマンナも乗ってるの?」


 つい独り言を呟いてしまった。


[アマンナを?それはいいが向こうで降ろすのか?]


[いいや、奴にはもうマテリアルはない、エモートだけそっちにいるピューマに移す。本人は嫌だと喚いているが無視してくれ]


[……おい、無事に戻ってくるんだよな?アマンナが遊んでばかりいるから置いていくだけだよな?]


[そうだな。アオラが面倒を見てくれ、頼んだぞ]


 それからマギリ、私の名前をそう呼ばれてびっくりした。


「は、はい!」


[何かあったらお前にも救援要請を出す、そっちの隊に組み込まれているみたいだがちゃんと抜け出せよ、いいな]


「はい!カサン隊長にもそう伝えておいてください!人使いが荒いんです!」


[あの結婚逃しめ……分かった]


 結婚逃し、良い渾名を教えてもらった。

そして第一区のビル群を遠回りして目的地である軍事基地が見えてきた、そこでナツメさんが船から離れて行く。蒼天の空へ駆け上がり、雲海たなびく向こう側へと降りていった。


「あれ、アマンナは?もう終わったのかな」


 再び私は独り言を呟き、さらに近付いてきた星型の基地へ皆んなと呼吸を合わせて高度を落としていった。



✳︎



 最終目的地である基地へ到着した、ここまで運んでくれた人型機がゆっくりと船を降してくれる。隣にいたキリは恨みがましく私を睨んでいた。


「リューに言い付けてやる」


「はいはい、後はご自由に。リューオンならこの区の病院にいるはずだぞ」


「ほんと?!…………あれ、何かな、あの鳥」


 喜びで顔を弾けさせた後、すぐに眉を曇らせ空のある一点を見つめていた。私も釣られて見上げると、確かに一羽だけ鳥が飛んでいた。


「よくこんな寒空で食べるなぁ、元気なピューマが……」


 違う、ピューマではない。博物館で見るようなきちんとした鳥だ、羽毛があって全身銀色ではなかった。


「違うよ、ピューマじゃない。あんな生き物見たことがないよ」


「あ、おい!もう街に着いたんだぞ!何故逃げるんだ!」


 ヴィザールと呼ばれた中層から帰還したパイロットが船内に向かって声を張り上げている、奴が言った通りピューマは何かに怯えるように船の中へと逃げていくではないか。


(あの鳥が怖いのか……?)


 舐めていた、私達はあの歪な機体を舐めていたと言わざるを得ない、そう痛感させられる事がいよいよ起こった。


「全機スクランブル!アオラさん達も安全な所へ!」

「コンソールに大型の反応あり!今まで何処にいたんだ!」


 パイロット達が再び機体に搭乗し、緊急離陸を行なった。

 そして...基地が大きな、とても大きな影に隠れた、それは雲ではない。探し続けていたヒナドリがついにその姿を現したせいだった。

 

「おいおい……さすがに今時のヒーローだって相手に出来ないぞ……」


 その姿、まさに異様。第二発見者が撮影したものより遥かに巨大、軍事基地がすっぽりとその影に収まってしまう程だ。高層ビルも一飲みしてしまう程大きなその口を開けて、カーボン・リベラ全土にその声を轟かせた。


「────────ッ!!!!」

2021/10/16(土) この物語の最終更新となります。ここまで読んで下さり本当にありがとうございました。また最終回の更新は日毎ではなく、1話9:00、2話12:00、3話15:00、4話18:00と一日の間にまとめて更新させていただきます。

 後少し、拙著に目を通していただき彼女らの最後を追いかけてもらえたら幸いです。

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