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神宮寺の危機予感

前振りはあった。


それに気づけるかどうかは別だったが。

噴火の予知を察知して事前に逃げ出すように動物は何かを恐れ慌ただしく動いていた。

逃げ惑い、慌てふためき、東奔西走すたこらさっさ。


しかし野生を忘れ自然から遠く離れ、便利な利器に慣れ親しんで埋もれた私たち人類の大半は愚かにもわからなかった。


私にしてもただ、ああー何か台風とかウィルスが流行った緊急事態宣言みたいにスーパーとかの食べ物とか生活用品が買い占められているくらいの認識だった。

ここだけの話、不動産をしている渋めでダンディーなパパは実は痔で、だからこそいつもお尻に優しい高級トイレットペーパーを事務所も含めて自宅でも徹底していたんだけど、昨日スーパーで買えなくて品棚の前で分かりやすく落ち込んでいたの。

もうねそれが凄い落ち込み具合なの。

パパったらカイザル髭なんだけど、これがショボーンって、もうびよーんってこれが面白くて面白くて。


ママがパパの身を心配してたんだけど弟の光輝と私はそんな情けないパパの姿をけらけら笑っていたの。

そんな日常だったの。



私たちの世代に関してもぶっちゃけ、またまたどうせいつものことでしょとタカをくくっていた。

学校に行ってもクラスのみんなもそんな反応だったのだから。

だから私もそれにつられて一つの大きな流れみたいな集団の意識に同調したのも、あとから振り返ってもそれは帰結することが当然のようで仕方なかったと思える。


けれどあのころはまだ何も知らなかったからだなんていうつもりはない。

若気の至りどころか、今ですらこの身の何を成すにしても知恵も力も足りず才能に劣ることを自覚させられる毎日で、懲りずにまたも損失を押し付けられる側の集団に所属している。


ただ時たま立ち止まって振り返ってみて、無性にあの時ああすればと後悔することもでず他の選択肢が掴み取れない自分の無力さをただ恨むばかりだ。

過去に違う選択肢を取ろうと、自身の持てる全てを出し切っても同じ末路を辿ってしまうだろう自分のちっぽけさに呆れればいいのか悲観すればいいのか。





世界的にウィルスが蔓延したとか、最近なんかは町中にモンスター……何だったっけ、ドラゴンだっけ? 撮影に成功したって人が動画サイトにアップロードしたらしくて、友達の勧めでそれを見たけど凄いCG臭くてあゆも美紀も政府のいんぼーとか言っていた。


毎度毎度大したこともないのにいちいち緊急事態宣言が発令されて避難指定区域に避難して、いざ蓋を開けてみたら被害も特に無く出てきて終わり。

その分遅れた授業を取り戻すために貴重な学生の休みが削られる。

そこんとこだけはマジ最悪だった。


今年は皆で、何だっけ中学卒業旅行で北の大きな都市で凄い賑わっているっていうからそこに旅行に行こうと折角計画していたのに。


こんなしょっちゅう発令されると休みが無くなっちゃいそうだ。

ホント緊急なのか疑いたくなる。

地震津波避難警報も毎回避難を呼びかけられるけど、避難場所の学校の体育館で狭い思いをしてトイレの行列を待ったり不自由を味わっていざ終われば何事も無くて無事帰還。

しかもそれだけで終わらなくてそれから数日間はスーパーとか雑貨屋の品物が品薄状態になる。


もううんざりだった。

だからほとんどの近隣の人たちは避難していない。

してないというか、今回はまだ避難警報もないから避難も何もあったもんじゃないのだけど。

だというのに品薄になっている。

数日後に台風か大雨でも来るのだろうか。

うちもそんなかんじだった。









私はその日はいつも通り学校に通学していた。

近所のおばさんが庭を掃除していたから挨拶して、曲がり角にはうちの学校のOBの人が立ち上げたパン屋のいい香りを嗅いでテンションあげて通学路を進むのだ。


私の席は窓際一番後ろ。

先生に隠れて居眠りしたり携帯いじってもばれにくい。

席替えの前の席はクーラーが直に当たる場所で凄い寒かったりしたけどここはぽかぽかしていて凄くいい。

まいふぇーばりっとぷれいす。

お蔭で少し成績は落ちたけどそんなものはこの神宮司様にはなんでもないのだーわっはっは。


そうしてお昼休みにはあゆと美紀と机を並べてご飯を食べる。

今日は卵焼きとたこさんウィンナーが詰め込まれている。

弟は卵焼きは醤油の味付けがいいとかいうけど私は断然甘い派の味付け。

ママが今日は私に合わせてくれたみたいだ。

それを3人でトレードしながらお弁当のバリエーションを増やしながら会話に花が咲く。

化粧品に、推しのアイドル。お菓子にカラオケ。


そんな中、近くの席の陰キャが机を取られておろおろしているの見て笑いながらご飯を食べていたら窓がカタカタと鳴った。



「最近ヘリとか飛行機めっちゃ飛んでるね。夜中もだよ」

「あーうるさいよね。妹が赤ん坊だからさそれで起きて泣くから困ってんだよねー」



あゆの家は確か最近下の子供が生まれたって聞いた。

少し前から北の賑わっている都市を中心に東京に好景気の小さな波が起きて皆少しだけ贅沢できている。

それで家庭に余裕ができたのか年の離れた弟が生まれたみたいだ。



「男子もうざいよね。冒険者バブルで冒険者目指すーとかそんな話ばっか」


美紀の言葉には同意せざる負えない。

確かにこいつらうるさい。

猿かっつうくらいうざい。

けど今は業界全体的にそうらしい。

高校生も大学生も中退して冒険者か北の年に出稼ぎに行く人が増えたってニュースであった。

今なら20代で家が建って30代で墓が建つ殺し文句。

いいのか冒険者よ墓が建つって。

大丈夫か冒険者。


しかし眉唾な話だけど、実際3か月くらい前だったかないきなり市長の方で羽振りがいいからその時期のうちの水道代とか電気代がタダになったってパパが言ってたし、隣の市だったかな学生の授業料とかが全員免除されたとか。


そりゃあ騒ぐのも無理がない……のかなあ。



「まあ確かに凄いよね。あんまうちらと年変わらない冒険者が遠征した時のさ動画なんて凄かったよね。連日テレビでも取り上げられてたし。だからってクラスの男子たちに真似できるとは思えないけどね」


そんなこと言いつつも美紀の彼氏はバスケ部なのだけど、実はその動画の人たちに触発されて卒業したら冒険者になるって言っていたし、今すぐにでも部活をやめて冒険者として活動したいとよく口にしていた。

私はバレー部で同じ体育館にいるバスケ部のことは部活としての面で詳しいのだ。


けど美紀は知らないみたいだし、私もそれを教える気はない。

私の発言で仲がこじれてほしくないないのだ。

責任も取れないし恨まれたくないのだ。



そんな感じでいつも通り学校にきて授業を受けて、ご飯を食べて。

日常が続いたのはそこまでだった。





昼ごはんが終わってからの授業中、教室に無機質で人の神経を逆なでる音が発生したのだ。


メッセージの着信音とかでない。

遠慮せずに率直な言葉で飾るのなら人の神経を逆なで恐怖感も同居する耳を突き刺すような攻撃的な響き。

聞いたものに緊急性や緊張感を持たせるようデザインされた警報音。


避難警報だ。

しかも後からそういうことだったのかとホント怒髪天になったが、これがまた酷かった。

その避難警報は全員の携帯から一斉に鳴ったんじゃない。

音の発信源はクラスメイトのただ一人の男子の携帯電話からだけだったのだ。



「おーい、授業中は携帯の電源切れって言っただろうが」


クラスは途端に騒めき、授業を一時中断させられた先生が不快さを隠さず眉にしわを寄せながら着信音を発した男子生徒を注意した。

けれど彼は言い訳するように携帯の画面を突きつけて弁明した。



「……特別緊急避難警報」


遠藤洋介、貴方は避難対象者です。

家族と一緒に今日午後22:00までに北外壁門に向かってください。

他の者を連れてくることは禁止となっています。

荷物はスーツケース一人一個まで。

例外は認めないものとする。


そう画面に映っていた。



「え? 何それ。俺の携帯には何も来てないんだけど」


周囲のクラスメイト達も自分の持っている携帯を確認するが誰もそんなことはない。

私も確認してみたがそんなものは来ていない。



「何だよ、お前の自演かよ~」

「はぁーきっしょ。目立ちたいだけのお騒がせ君かよー」


そんな感じで騒ぎは収まったが、どうも壁の向こう、隣のクラスでも同じようなことが起きたようだった。

全く同じタイミングで。


そして窓から見える景色の中、次第に校門にぞろぞろと車がやってくる。

車種はバラバラ。

中から出てくる人は私服の格好。


学校に通う生徒の保護者だ。

今日は勿論授業参観でもない。

異常事態だ。



え、かえんの? いいなあ。


クラスでは事態に対してそうした疑問が伝播していく。

廊下ではばたばたと人が行きかって、授業中だというのに保護者に連れられて警報が届いた学生たちが出て行っている。



「北外壁門ってあったよな。帰れんなら俺も行こうかな」

「いや、家族以外誰も連れて行っちゃいけないって」

「馬鹿じゃねえの。どうせいつも通り何も起きないでしょ」


それから時間を置かず遠藤君の両親もやって来て連れ帰っていく。

彼はどうせこの警報も大したことない、ただの嘘だからと言って避難を拒否したが、いいから言うことを聞けと皆の目の前で父親にぶたれた。


昼ドラじゃないけどそんなことが校内で起きた。

一連の流れを見た先生が流石に咎めようとするが構わんで下さいと逆切れされ、無理やり連れ帰られて残された私たちと先生は唖然としている。


そして先生も暫く呆気に取られていたが、何か決断に至ったのか先生も走って教室から出ていった。



「先生もかえんのかーい」

「授業どうすんの」

「先生いないし俺らも帰る? っつーかそれしか無くね」

「んじゃこれからボーリングいくべ」

「んだんだ」


とても授業を行える雰囲気じゃなくて、しかも先生までいなくなってしまった。

そして私の携帯に電話がかかってくる。


避難警報じゃない。

パパからだ。


「パパどうしたの?」

『光輝はママが拾ってるから麗奈は校門外で待ってて。今すぐに‼』


父は決して意味もなく声を荒げたりする人物じゃなかった。

怒るところは滅多に見せず穏やかな人だ。

だというのにこんな切羽づまった声で命令してくるだなんて初めてだった。


ここで、もしかして、もしかするんじゃないかとやっと気づき始めた。

今回は何か起きる、いや起きているだ。



「パパこれって何―――」


そこで電話が切れた。

何度かけなおしても繋がらない。

回線がパンクしているのだと悟った。

私の知らないところで、しかし確かに何かが急激に起きているのだ。







校内駐車場含めて付近は全て車で埋まり、校門前の通りで暫く待っているとそこにパパが他の父兄の波を掻き分けるようにやってきた。

仕事中抜け出したようなスーツを脱いだ白いシャツ姿にはうっすらと汗が滲んで、追い詰められた弱小動物のように不安げに瞳が揺れている。


「陽葵早く!」


私はパパの手に引かれて車の中に車に押し込まれた。

当然私は質問をして、車のナビ画面を操作してニュースに変えるけど詳しいニュースはやっていない。肝心なことをテレビは言わなかった。


「何が起きてるの?」

「わからない。けど今回の警報は本当に重体なことが起きてる。政府が選んだ人間だけが避難させられている」


それじゃあ避難が指示されていない人はどうなるのだろうか。何故人を選別して避難するのか。

そして何が起きているから人々は避難をするのか。

私もパパもそしてその他大勢もまだ何も知らなかった。








家に帰ったパパと私は家でママと弟と合流すると、家族が集まった安堵感に浸る間もなくとんぼ返りでパパは北外壁門に様子を見に行くと慌てて出ていった。


ママはパソコンで弟がテレビで何が起きているのか早速情報収集しているが何もつかめない。私もスマホでネット検索や友達に聞いてみても何もこれと言って詳しいことがわからない。

取りあえず何かわかったら言うようにとママに言われて私は拾った情報を報告した。


「何か、急に発達した爆弾低気圧だって美紀が……」

「違うよ、テレビで宇宙人が攻めてくるって言ってたもん」

「チャンネル変えたらこっちのほうじゃ世界大戦って言ってるじゃん」

「あ、ほんとだ・……」


あまりにも多くの情報が錯誤して、一体何が真実なのかわからない。

どうすればいいのか。私たちも北外壁門に行くべきなのか、それともいつも通りにシェルターか学校に避難すればいいのか。


そうこうしていると予想より早くパパが帰宅をした。

北部の方を目指したが、渋滞で進めなかったこととスーパーや雑貨店そういったあちこちの店で略奪が起きていたのに一向に警察が来なかったらしい。


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