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フン、俺が手を下すまでもないな

主人公の意外な得意なこと それはモンスターを率いてそのモンスターに敵を倒してもらうこと

ラスボスより強いボス……ファイナルなんちゃらでは恒例ですね

あれから何手交えたか。


あの周囲を侵食するような赤い世界になってから途端に劣勢になった。完全に勝敗が決したかもしれん。

体力はまだあるつもりだったが体が重いというか速さも破壊力も一段と落ちた。ああ年は取りたくないなと戦闘中の一瞬一瞬の判断の誤りが命取りになるそんな中でも何故かふざけられる度量。そんなものを持っていたのだ内心びっくりだが体が思い通りに動かせないのは事実だ。


特に重大疾患は手のキレ、針の穴を通すような技巧極まる巧な動きの欠落。アル中の禁断症状か。馬鹿野郎震えてねえよ。でも繊細さを欠いている。熱くなりすぎて冷静さを欠いてたりもう何をすればいいのかわからんと自棄になっているのではない。判断力がまだあるのにこの有様なのだ。これいったい俺の身に何が起きてんだ。


力自慢で腕力任せの戦いには傍目から見えるかもしれないが俺は戦いに小物を愛用している。それこそ針の穴を通すのにこれ以上ふさわしいものは存在しないと言ってもいい糸。それがこの有様ってんだからやりずらいことこの上ない。


抑圧を感じる。

深い深い水の底で、空の色を忘れてしまうような深海にいるようだ。行ったことないけど。

肩が上下するほど息が上がって、汗が止まらない。


一方でクイーンはまあ、あれだ流石ロボット。冷や汗どころか息もしていない。

こっちには体力があるが相手にはそんなものがないのだ。

それだけ強くなったのか。

虎の子の糸も持ち得るギミックも、ブレスも効かない。力づくで正面から潰され、時には俺よりも優勢なのに見せつけるように上から搦め手を使ってくる。


無尽蔵の体力のマシン相手に長期決戦はまずいと悟るのは割と前から理解していたが、決め手に欠けるのだ。



そして今もだ。


エンチャパンチが綺麗に顔に決まった。今までなら確実にそれだけで致命になる痛恨だ。決着がついてファンファーレが高らかに鳴ってもおかしくない。けれど現実はクイーンは一歩も後ずさることなく少しだけ体勢を崩しただけだ。


そして被弾部分を確かめるように手で触って、何だこの程度か言外に残念そうにしつつも不敵な笑みを零している。




「あかん……これホントあかん」


「もう何もないのなら生かしておく必要がないな」



精々100階くらいありそうなダンジョンの前半に出てくる雑魚とタカをくくったのが悪かった。

昨今のゲームじゃあ、たまにラスボスより強いフィールドボスがいるゲームも珍しくない。これ完全にそれの奴ですやん。


そ、そうだ。

これはあれを利用しよう。上の階層で行方不明になっている冒険者だ。

彼らと合流して、友情パワーで勝つのだ。

何とも感動的で熱い展開だろうか。

傍から見たら迷惑そのもので自分のまいた種だが背には変えられないだろう。


彼女は俺が飛翔して何をするのか子供のように期待していたがその顔が、寿司にわさびが入っていたちびっ子みたいにしかめっ面になった。


「……逃げるのか‼」


彼女の反応は劇的だった。

光ったのだパスタみたいに。


いや、表現がわからないがパスタ麺を茹でるときに手に持ってみると細い線が束なって波型になったりして、なんてこった高校数学だなんて社会に出ても役に立たないじゃんと決めつけていたのにこういとこに正弦波があるのか役に立つゥーみたいな受験生が目にしたら偏差値が下がる憤慨物な知能指数を凡そ感じられない行為だが、意外と変幻自在に動いて侮れず面白いのだが、それが何倍にも面でなく立体的全方向に密にレーザーが放出され、しかもレーザーの単発砲じゃない、何秒間もレーザーの光線が維持されて途切れないのだ。


もうレーザー砲でない。めちゃくちゃ長いビームサーベル。それかフォトンソード。

それが何重何百と一体いくつあるのかわからなくなって、密さで波となっているのがわかるくらい驚天動地で凶悪な攻撃が繰り出されている。



「こんなことってある?」


つまりこれが決定的な致命打。詰んだってやつだった。こっちが詰めようとしていたのに。俺はそれを理解してしまった。つまり敗北を認めたのだ。これじゃあ絶対逃げられない。

数学をやっていればすぐわかる。円運動ってものだ。学校でやった奴。


こういうのは円の外側に行けば行くほどつまり円の中心から距離があるほど早くなるのだ。

わかりにくいならホースで放水してみればわかるかもしれない。

ホースの先を指ですぼめて勢いを強くして遠くまで放水できるようにする。

後は簡単だ。ホースを掴んでいる腕の角度を数センチ動かすだけで遠くにある水の着地点は大きく動いて追随するだろう。


必然的に俺はこの攻撃を避けるために、近づく必要があった。まるで誘蛾灯に誘われる愚者のように。逃げることすらできない。そんな生ぬるいことを彼女は断じて許さなかった。強かにそして華麗に退路を断ったのだ。

そんな罠にはまった愚行の行きつく先は火を見るより明らかだ。


緩急をつけてタイミングを調整したクイーンに見事手ごまに取られて俺はあっさりと捕まった。

首根っこを掴まれて、頭にレーザー砲を突きつけられた。キュイィィィィンとレーザー砲が今にも発射したそうに高鳴っている。



「ま、待て待て待て!」


「逃げるということはもう手がないのだろう?」



何か手を考えろ、何かを。起死回生のチャンスでなくてもいい。命をつなぐ何かだ。何だったら靴も舐める所存だ。


「そ、そうだ。知ってるかこの能力は人間のアニマル系能力なんだよ」


「だから?」


「これはまだあと一段階上があるんだ。俺はまだそれができないけど。つまり俺はまだ伸びしろがある。成長中で全力とは決して言いきれない」


これだ。少年漫画であるやつ。

ああー残念だなー。俺があと数年ぐらい修行すれば完全体になれるのに。

あれ? もしかして俺のここぞと煌めく意外な成長性が怖いと?


「短期間の進化で貴様の強さを超えた。例えこの先貴様が進化してもそれ以上の速さで現在進行形で進化しているこの身には到底追いつかない」


絶体絶命のピンチじゃないか。

何とか自分の有効性を示せれれば、こいつは生かしといた方が刺激になると、危険だから排除しようという思考の矛盾とかつけそうだったのに。


矛盾……? そもそもこいつはどうして俺にさっさととどめを刺さないのか?

もう食べられるところが無くなったらさっさと殺せばいいのに。

非合理的だ。


「じゃあなんでまだ殺さない?」


当然その質問をした。


「いや、今から殺す。ただ好奇心だ。貴様にはまだ更なる進化を促す刺激を与えてくれるのではないかと期待しているのだ」


それでわかった。ロボットにあるまじき非合理的判断。こいつは人間に勝つために人間を学び、人間を模倣し、人間に近づいて感情を、好奇心だなんて物を手に入れたのだ。


何とも愚かなことだ。

いや、その感情のおかげでここまで進化したのだからそれは必須項目だったのだろうか。それなら何とも皮肉ってやつだ。


そこで俺は……何とも悪魔……でもない。何とも……そう、人間らしく模範となった人間としてある疑問と可能性が浮かんでそれを試さずにはいられなかった。

彼女のその人間性ってやつを確かめてやろうと思ったのだ。そこに付け入る隙があると思って。



レーザー砲のチャージ音が唸るようにどんどん大きくなっていき、あと秒刻みで俺の頭が吹っ飛ばされるという段階になってだから俺は言ってやった。


「名前だ、名前がほしくないか?」


「名前? ……ほぅ。確かにこの身は貴様の行いによって生まれたと言っても過言ではない。確か人間は生み出した想像主が名前を付けるのだったな」


これは賭けだった。でも乗るという自身があった。

レーザー砲の音が抑えられていく。おし、あと一息だ。


「別に逃がせなんて言わない。名前をあげる代わりに仕切り直しをさせてくれ」


「くれるというのなら貰うとしよう。だがいいのか? 仕切り直しをしても貴様が死ぬことには変わりがない」



そうかもな。けどそうじゃないかもしれない。違う結果が待っているかもしれないだろう。

なんたって人間なんだ。予想はつかないし、可能性は無限なんだから。


そして予想通り彼女は俺の甘言に乗って俺を放してしまった。ころころ変わる感情と言い、心理戦の甘さと言い彼女の人間性は目覚めたばかりの子供だ。

だからこうも簡単に子供だましに乗ってしまうのだ。

何せ、どうせ今逃がしてもまた捕まえてやり直せばいいと思っているからだろう。

確かにまた同じことをされれば俺はあっさり捕まる自信がある。けど俺にはもうこの策が上手くいく確信があった。



彼女から距離をとって空に浮かんで周囲を確かめた。いてくれよ、いてくれよと一縷の希望は果たして聞き届かれた。これだけが心配だったがそこは相手のスペックを信頼することにした。勝利の女神は俺に下着をちらつかせていたのだ。

おし、予想道理だ。いる、しかも複数。その存在を認めたらもう十分だ。


俺はおもむろに口を開くと、待ち構えている彼女にこう名付けた。


「プリケット・ハート。それがお前の名前だ。あだ名は頭でっかちってところかな」


「プリケット・ハート。プリケット・ハートだな。しかと心に刻んだ。それで頭でっかちとはどういう意味だ」


皮肉である。内心可笑しくて俺は笑うのをこらえるのに必死だった。赤の女王に相応しい名前だ。

そんな人の気も知らずに彼女は反芻して己が名前を口にだし、当然の疑問を俺にぶつけてきた。


「君は人間のことを学んだんだろう?」


「ああ、学んだ。そして人間をはるかに超え優れていると自負している」


そう簡単に越えられるものか。馬鹿め。唾を吐き捨てて俺は王手をかけた。


「なら守るものがあるという強さを学んでみてごらん」


俺の親指で指す先。そこには望んでいた光景が広がっていた。

大規模及び広範囲に渡って破壊活動を行ったことにクレームを入れに来たご近所住民の複数のクイーンとその配下御一行だ。プリケットのように独自の摩訶不思議進化しているのでなく、進化前の有象無象を生産する工場みたいなどでかいフォルムのままだ。


そりゃああれだけド派手に戦えば他のクイーンの警戒網にひっかかるってもんだ。



「トロッコ問題を君はどう答えるかな?」


俺はその出現した新手のクイーンにブレスを吐き出した。

放たれるは二条の奔流。一本はそのまま直進すれば新手のクイーン一体を貫いてなお勢い留まらずその後ろのもう一体のクイーンまで葬るだろう。

もう一本は単体のクイーンだ。

五人と一人を用意できなかったのは俺の不徳の致すところだが、三体でも代用はできるだろう。

よくよく見なくても全然トロッコじゃねえじゃんていう細かいこと言うのは無しな。


残る体力ほとんどをコレに注ぎこんだ。もうこれでクイーンに追いかけられてるまでもなく、その場から逃げられず捕まって屠殺よりもちんけにあっさり殺されるだろう。


けれど彼女はどうするかな? そこに俺はオールで賭けた。

起きるであろう可能性は何か。彼女なら確実に仲間を助けるためにブレスを片方は止められるのは確実なのだ。


無視して俺を殺せば彼女の勝ち。

二体の方を助ける。

一体の方を助ける。まあ、これはないだろう。

大穴、矛盾に演算思考が暴走してエラーによる自滅。うん、これはないだろう。


そして彼女は何もかも予想通りの行動を起こした。

彼女は人間からプライドを、見返してやるということを、そして人間性という実につまらない命取りになる欠点を学んでしまったのだ。


彼女は満天の行動をした。

二体の方へ迫る攻撃に我が身を犠牲に盾となり、休むことなくもう一体の方へ飛んでいくブレスの攻撃にこの土壇場でまるで主人公のように更に進化した早さで体を割り込ませて守り切ったのだ。その光景に何故か俺の心はざわめいた。

予想通りというのもあったが残酷だと、喜んでいる自分自身に思わず自己嫌悪した。何も知らない白無垢な幼子に悪意をもって接するような忌避感。


彼女はボロボロ……というほどではないが、それでも損傷していて痛々しい見た目でしかしやり切ったという誇らしげの表情をしていた。

怒りによる進化で機械として自我に目覚め、今回も守る力によって彼女は更なる進化を遂げた。

逆に俺は人質を取った悪人の気持ちを押し付けられた。それなら彼女は何だ。

人情派主人公かよまったく。


彼女は、今の行動で俺の浅はかなたくらみを見事破ったと、そんな自分はやはり人間より優れているとでも言いたいのだろうか。

それは分からない。彼女が実際に口を開くまで。


これで彼女が損傷を修復が終われば、間違いなく俺は殺される。

けどそれは無いのだと俺は今目の前の光景を見て悟って悲しんだ。

彼女だけが気付いていない。


人間だれしも一度トロッコ問題に向き合えば、思う答え。全員は救えないのだろうかという極基本的な答えだ。


彼女は人間を学び、人間を模倣し、人間に近づきすぎたのだ。

もう俺には彼女が悪夢を見ても疑わない。

ここに至って俺には彼女が人間にしか見えなかった。笑い、怒り、感情豊かに過ごす彼女は人間だった。


だから



「―――――何故だ‼」


彼女は今まさに体を張って助けた同胞に、クイーン三体とその生み出したマシンどもに襲われていた。

その数は、当然俺が一体のクイーンと相手取っていた時より数が多く、そして進化が速かった。


当然俺にもそのマシンどもが襲って来て頭を抱えるように守って、聞こえているかどうかわからないが言った。




「お前言ったよな。この塔を上を目指してみるって。知ってるか、この塔を登る人間はモンスターに襲われんだよ‼」


プリケットは 諸説あるけど 不思議の国のアリスの赤の女王のモデルになった作者の家庭教師の名前だったかな確か

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