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クイーンの進化

翼を生やして尻尾を振りまし、口からは火を吐く。角からは光を発して周囲の力場を操るような薄い蜃気楼のような幕が覆う。

ドラゴンの力を発揮すれば途端に圧倒的機動力と暴力が俺の背中を後押しする。加算される力は俺をもってしても底が見えず計り知れない。


そこからの攻勢はほぼ一方的な展開となった。

洪水のように次から次へと襲い掛かってきていた地べたを這う飛行型でないマシンは既に敵でない。俺に近づくことさえできず相手をするまでもない。

空中についてこられる個体だけを処理をすればいい。


やはり飛行と遠距離攻撃の組み合わせは最強だ。いやー改めてえぐい。

手を変えて工夫する必要もない。捻りも技も無く、それでいて洗練された至高がここに顕現する。力isパワー。複雑なものほど緻密で繊細だ。

純粋な力技というのは単純だからこそ対抗が難しい。その逆境を相手が乗り越えた場合は途端にピンチに陥るが。

相手があの手この手と手を変えながら対抗しようともがいているのが手に取るようにわかる。けれど全く対応できていない。

火に惹かれる羽虫のようにあの苦戦を強いてきたスカイキラーが面白いようにばったばった落ちていく。


そうして戦っていけばクイーンの製造ペースより俺による撃墜ペースが追い越して敵の数が減っていった。

途中では数の減少を抑えようと耐久型を量産させていたがそれを更なる力技で叩き潰してねじ伏せその勢いに敵の自己進化は追いつかない。

そこでやっとクイーンがパターンを変えてくる。

動画と資料で調べたところ過去の進化したクイーンは逃げる冒険者相手に索敵能力や追跡能力、スピードで対抗していたマシンを作った。

だが今回それとは違う進化をしている。

生み出すマシンは歩兵型は一切出なくなった。全ての個体で飛行できるようになっている。

流石にそこら辺は対応するか。今更飛べない個体が来ても意味がない。そうこないとつまらないからな。

そして飛行個体もスカイキラーからアップデートしている。

スカイキラーは端的に言えばギミックで冒険者を殺傷より妨害に重きを置いて墜落による退場を目的とした装備だ。

それが原型がないレベルでひっちゃかめっちゃかに進化の枝先を伸ばしている。

最初はドローンを大きくしたような4枚プロペラからどんどんヘリコプターや戦闘機のような形になってきている。

だがそのどれも俺にかなわない。


「ざぁこ! ざこざこ~! 前髪すかすか~! おら、早く仕様変更しろ! 品質管理が泣いてるぞ! 納期を前倒ししろ!」


俺はクイーンの排出口に佇んで次の敵が現れるのを待つ。もう既に敵は完全に殲滅してしまい、完全に生産ペースをぶっちぎって母体前に鎮座してリポップ出町状態だ。

可愛そうにせっかく生み出した子供は俺の姿を一目見るとこんにちは死ね! とそれを最後に今しがた出てきたばかりの輪廻転生の輪に送り返されるのだ。ショッギョムッジョ。

勝者は敗者の心情なぞくみ取る必要はない。敗者のための時間は無いのだから。

それにしてもこいつうんともすんとも言わねえなあ。悔しくないのかよ、なんか言い返してみろよ。


「……」


ああ、やってしまったな。これは俺の悪い癖だ。最初だけとはいえ雑魚相手に勝てるかもしれないって希望を持たせたところでズドン、上げて落とす。きっとこいつは悔しさに涙を流し、絶望の淵にいるだろう。え? ロボット相手にイキって恥ずかしくないのかって? いやゲームと一緒だから。当然楽しいさ。そんなこと言ったらドラマとか映画に漫画も小説も否定することになるからね。

でもまさか俺がここまで強くなっているだなんて。自分の才能が怖くなる。一体どこまで行ってしまうのだろうか。


……おっしゃ、ここは王者の貫録として敢えて隙を見せたろ。千切れたマシンの足を二つ取り出してコミカルに踊りながら目の前で食べてやる。ああーいいのかなー、今食べている絶好のチャンスなのに。



「……」



……チッ、本当に何もしてこない。

使えねーなー。

俺はもうこんな虚しい戦いやめようかな。時間の無駄だ。噂程にもない奴だった。


最後にズボンのチャックをあける。

ここで一つ人生の教訓授業だ‼ プールの時、ばれないよう水の中で小便するのは臆病者がすること。

男たる者プールサイドに上がって堂々とプールになみなみとそそぐように立ちションすべし。


括目せよ! ボロン! と一物を取り出すとクイーンにかけてやった。

まあただ単に小便したいだけだったんだけどね。

そりゃあ飯を食い飲み物を飲めば当然生理現象もしたくなるもんだときたもんだ。

ガッハッハッハッ‼



「―――――――‼」


すると劇的にクイーンが反応を示した。

さっきまでの粛々と俺に脆いおもちゃを提供していた生産体制が嘘のように蜂の巣をつついたような騒ぎだ。

まるで緊急アラームのように赤色になってサイレンが響いてフィールド全体を揺らすような振動が始まる。びっくりして手についてしまった。


すわ何だと身構えると、クイーンの方に見えない力で引っ張られる感じがする。

何だこれ?

アンドロイド路線から乗り換えてサイコキネシス系に目覚めたとか?


周りを見ると俺が壊したおもちゃたちも吸い込まれるように引っ張られている。

これは磁力で俺の鉄の体含めて金属が引っ張られている……だけじゃない、風も吸い込んでいるのか。

それどこらかクイーンの周囲を弾ける雷が纏められて攻撃性を持った強烈な光が周囲のここまで登ってきた天を貫くような柱と上まで続く階段全てに無差別に照射される。

そして当たった部位は例外もなく見たこともない現象、小さな正方形に切り取られたように解体されていってクイーンの体に飛んでいく。


こりゃあすごい。

ここは何が起きるのか様子見をすることに決めた。

俺は後ろから引っ張られて飛んでくるマシンの残骸を避けながら距離をあける。

だがクイーンは周囲のものを取り込みながら爆発的な拡張を行って、それに伴って吸引力が増していく。


「うお、何だこれ! ダイ○ンかよ‼」


いやそれ以上だ。心臓がドクン、ドクンと脈動するようにその金属の集合体が膨らんでは縮んでを繰り返すと発生した光のリングが波となって広がり、そのたび一段と力が増している。変わらない吸引力じゃなくて吸い込むほど力が強くなっていくなんてありかよ。掃除機メーカーに参戦したら天下取れるぞ。

完全に既存の進化とは一線を画した進化を遂げている。


こうしちゃいられないと思った俺は角に集中して周囲の力場をコントロールして対抗し、綱引きになる。

けれど質量としての数字が違いすぎる。拮抗は刹那に綻んで不利に陥る。

このまんま吸い込まれたらどうなるんだろうという知的好奇心もなくもないが、石橋を叩いてその上で他の誰かに渡らせて安全確認してから渡る俺としてはその試みは断固として拒否だ。


どうしようかと考えたのは一瞬だった。その選択が面白いと思考が全力で推奨するから他の選択肢は潰えた。

こういう咄嗟の判断力が培われているのも修行のおかげだろう。


相手の力を利用しよう。天体を利用したスイングバイではないが、クイーンに急接近してすれすれをすれ違って引っ張られる力と、クイーン全体が動いている力を計算して軌道修正してその力場から脱出に成功する。


距離をとって落ち着いて全体が見えるような配置に着くと、その眼前に広がる光景はまさに世界の終りかはたまた始まりか。

比類なき力と美の象徴が型枠にはめられて浮かび上がる。

それにしても凄い吸収力だ。

まるで核融合……見たことないけど視界のすべてを無差別に取り込んでいる。

何ができるのか楽しみだ。これだけやって雑魚とはいかないだろう。

焦燥感とこれから起こる事象への知的好奇心が内側を激しく揺さぶって恐怖によく似た期待感に置き換わって暴れ回っている。


光がほとばしる。視界を埋め尽くすような光の奔流で色が失われてモノクロの世界に侵される。

その光の先で確かに見えた。遂に完成の時が来たのだ。


色が世界に蘇り、出来上がったのは小振りの小さな虹色に光る球体だ。

そこから卵が孵化するように人型の何かが頭から地面に落ちる…………直前で両手を地面について本当に機械か疑わしいほど滑らかで鮮やかな動きで直立した。いっそ美しいと言い切ってもいい。新体操選手やフィギュアスケートの選手のような観客を魅了する、表現する能力が見られた。今までの戦闘能力だけじゃない、遊ぶ余裕のある無駄を捨てるのでなく拾う性能が備わっている。


そして大きさ。小柄だ、人間サイズ。華奢と言ってもいい。もしかしたら俺より小さいのではないだろうか。拡張主義もやめたのだろうか。

色は赤と黄色を主体にした毒々しい見た目だ。そして下半身、まるでプリンセスドレスみたいにスカート状に大きく膨らんでいる。

ゴッシク基調でなくかなりスチームパンク感が強めな前衛的センスだ。

そして腰あたりから尻尾が生えている。これも何かギミックがあるのだろう。のこぎり鮫のような複数の突起に刺突性のある鋭利な先端器官。

顔の造形は眼球部分にレッドラインが横一文字に入って中央に単眼。


蜂みたいだ、そう思う反面どこか人間に似ていると感じた。人間味があるのだ。

そしてこの尻尾を生やして人間大の大きさに力を凝縮した出で立ち。

打倒しえない敵に対して進化を続けたクイーンは、最終的に俺を模範する答えに行きついたのだろう。

語らずとも言外にその体が如実に主張している。俺より小さいのは、人類が兵器や日常品の携帯電話なんかが同じスペックなら小さい方に進化する傾倒を取り入れてだろうか……まさに人間みたいだ。女性型であるのも小型であるのも俺に対して性能差を見せつけるつもりなのかもしれない。


「・・・・・ス」


「……うん?」


「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」


「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!」


嘘やろお前唇ないやん。発声器官どこだよ。それに壊れたラジオみたいに繰り返した言葉かなり物騒やん。

ホラーだよ。お喋り機能まで入れるとはいよいよ人間じみてきた。こいつは電気羊の夢を見るに違いない。間違いないよ。


そして肝心の飛行器官だ。頭の上にプロペラがついている。これが回転すると発光しだして天使の輪みたいになる。これだけは旧作と共通しているようだ。

やはり自身を神の使いとでも言い張りたいのか。しかしそこには神々しい神聖さは無く、赤黒い光の輪っかは禍々しい邪悪さが見る者に恐怖心を煽らせる。

それにこいつは淑女としての淑やかさを欠片を持ち合わせていない。その長大なスカートをカーテシーのように摘んで翻すとまるでクラゲが海を泳いでる優雅さで空を飛んだ。膨らみ、空気を放出する風船。原理はそうなのだろうが下から見ればパンツがもろ見えだろう。ロボット相手だから羞恥心とか倫理観とかなさそうだが。


そして彼女の開幕の攻撃を繰り出した。はしたなく飛び蹴りをしてきた。排熱機関かそれとも空気で摩擦による熱か、周囲の空間が高温で炙らって光を歪めながら猛烈な勢いで鋭く刺さるつま先が軌跡を描いた。

俺は当然相手の威力を確かめるべく蹴りを胸で受け止める。しっかり受け止めて両腕で離さないようにホールドして、そこに引き裂くように力を込める……が失敗する。何という硬度か。力が足りない。まさかあの短期間でこうも練り上げてくるか。何度かやれば確かに引きちぎれるだろう。手ごたえはある。けれど何度もトライする時間が戦闘中に悠長にあるわけないのは当然だ。

俺は引きちぎる力をそのまま掴んでいる足に伝えて横向きの力で敵の体をコマのように回転させる。

そこで俺の蹴り上げと敵の回転の勢いを乗せたテールの攻撃が交わったのは同時だった。


肩に食らった俺は下方向地面にぶっ飛ばされ、一方相手は空に飛ばされて距離を取る。

俺は遥か下にあった破壊をまぬがれた中間地点の地に足をついて上空の敵を睨む。

俺は攻撃を受けたところを触って先の攻防での感触を確かめる。

あいつは硬い。二度の手ごたえでどれほどの強度かある程度予測がついた。そして攻撃も鋭く重くどれほど威力があるのかを思い知った。


けど攻撃力、防御力においてまだ俺の方が高い。

これで互いに軽い小手調べが終わった。

本格的な戦いが始まるだろう。


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