必殺技
この殺戮ロボットはその与えられた戦闘力を引っ提げてどこから来てどこへ行くのだろうか。彼らに目的はあるのだろうか。創造主による使命があるとでもいうのだろうか。
下階層にいるモンスターは同種と交尾して種の保存にいそしんでいる、道中たまに人間でもいそしんでいる者もいたが、つまるところ生命の営みを行っている。
そのことについて考えたのは、敵の装甲金属を食べて自身の力に取り込んでいた時だ。
ホオズキカメムシ野郎。
素晴らしきスカートの中の小世界。それは戦車の下を覗いたようなマニアにとっては垂涎。
先駆者の動画の視聴。攻略本を眺めながら攻略している気分の俺であったが、階層間を移動しながら35~39階層で現れる異色のモンスター、その項目に注目する。下の階層にはいなかったがここには中ボス的存在がいるらしい。
水と粉末で簡単にできるインスタントパンをナイフで切りながら、バターと硬すぎるビスケットを握りつぶして混ぜて塗る。微妙な飯だ。せめてそんな飯でも誰かと一緒に食えれば美味しくなるのかもしれないが文句は言えない。
周囲を照らすライトの光を油がついたナイフが不規則に反射した。僅かに吐き出した吐息に光が当たって散って消えた。そろそろ研ぐべきかな。食いながらそう考える。かなりの高度だ、地球では100メートル上がるごとに0.6の温度が下がるという。薄い空気は軍の訓練で強化された肺には慣れっこだ。問題は寒さ、ドラゴンの俺は熱さにも寒さにもどっちも強いようだが唇がいささかかさつく。お蔭で昔農場の家畜に早朝5時くらいに餌をやった仕事を思い出す。あの時は寒くても金を稼ぐために脇目を振らずにがむしゃらだった。確か牛の乳から即興で作ったバターをその時は塗っていたなあと記憶の奥底からサルページする。 唇についていたバターを口紅よろしく塗ればさあ完璧だ。まさにくだらない唾棄すべき寄り道思考であった。でも誰も俺を責められないだろう、飯食いながら動画見漁っていたんだから。暇なんだ。
マシンを生み出している蟻で言うならクイーンの立ち位置のモンスター。
しかしクイーンと大仰に言っても生命の神秘みたいに痛みを伴って生み出しているのではない。ペ○パー君ロボの製造工場みたいなものだ。
少し近未来的感は否めないが。
こいつをどうやり過ごすか、または速やかに処理するかがここでの主な攻略の要になる。
紫電を纏う姿はこちらに畏怖を強要するが、パッと見は巨大なウニ。またはスチームパンクな繭。見ようによっては金の卵に見えるかもしれない。それは周囲の柱に細い先端を取り付けながら移動しているらしい。
端末から顔を反らして俺は上を見上げる。
遥か上空、霧の向こうに巨大なうごめく何かがいるのが聞こえる。
「おるやんけ」
ただ、まだ相手には気づかれていない。
だから今のうちに相手の情報を手に入れる。迂回するにせよ、撃破していくにせよ事前情報は大事だろう。
「クイーンてことはこいつ倒せばここって平和になるんじゃ……ああ、他にも巣があるのか」
まさに俺が考えるようなことは誰かが考え付くもの。前例があった。このクイーンを過去に討伐した記録があった。
結果は幾分か貴重な素材を手に入れられたが、この広大なマップのどこからか時間経過で再出現。
蟻のように既にいる女王のとこから新しい女王が独立して他のところに行って増えていくのか、はたまたあの殺戮ロボットたちが合体してなのか。とりあえず謎。解決できればここらあたりの階層で敵を一掃できるかもしれないが、答えがわかったからってどうしようもなさそうという答えだったら調べただけ骨折り損だ。
元の木阿弥。しかも強さはクイーンしかるべきで戦闘結果で見ると採算はどうしてもマイナスに陥る。
とりあえず繁殖方法の最有力な蟻の女王説だが、広範囲に散らばる多数の女王を同時あるいは短期間に一度で全滅させなければならない。つまりは無理。
しかもここでは先に進むためにギミックを利用するために鹵獲が必須。
大元を断ち切るわけにはいかない。
だから過去、ここを通る冒険者はクイーン相手に基本的に隠れてやり過ごしたり表面戦力だけを削って無視をしているたらしいのだが、やっかいなことにビックトラブルが発生する。
機械というのはトライ&エラー。
人間だって問題が発生すれば原因究明と再発防止を行う。
無視されたり逃げられたり、それどころかある程度痛めつけられて動けなくなったところを悠々と冒険者たちに通り過ぎられれば嫌でも学習する。
走って速度で逃げられるなら逃げられないようにより早く。隠れられるなら広範囲を索敵できるように機械を増やして巡回させたり機能増設してサーモセンサーとかを追加する。
倒されるなら、純粋に強く。
そう、こいつらも冒険者のように少しずつ強くなっていくのだ。
クイーン全体の質が上がって、更にその中で一つ突出したクイーンが出てきたのだ。
そうなれば過去の冒険者たちも流石にこりゃあまずいと気付いた。
それで強力に育ってしまったクイーンを合同クランで多大な犠牲を払って討伐。
リセットに成功したと。
以降、ここの階層に到達できる有力クランは交代順番制で赤字覚悟で強力なこのクイーンを倒さなければならないルールができたらしい。
そこで俺はあることに気づいた。
彼らは進化するこの殺戮マシンを恐れて、そうさせないよう尽くしている。そう方針を定めて舵取りをしているのだが。
「どこまで進化するのか気になるなあ」
やはり俺は寄り道をするぞ。
それからやったことは簡単だった。荷物を取りあえず予定している進行ルートのかなり先に置いてくる。
ぶっちゃけ何もしていないに等しい。身軽になっただけ。それでいいと思ったからだ。
舞台は中間地点の中でかなりの広さがある空中闘技場。
そこに着いたら早速スカイキラーや、下の階層にも出た旧型、新型含めて様々な豊富な武器を携えた多種多様な地を走るマシン、そしてクイーンが敵の存在を認めて赤色の点滅をしだしてゴウンゴウンゴウンと不出来な洗濯機のような音をさせながら追加のモンスターを急造する。
過去最大の敵の数である。
まさに圧巻、絶景。目に入る全てが敵というのはいい。仲間がいると巻き込まないよう気を遣う。
ちかちかと歓楽街のような視界の暴力の賑やかさ。
一方で俺はというと。
靴の先をトントンとやっては調子を確認し、手を開いては閉じた。
不調は確認されない。なら行くか。
「っし、いくか」
襲い掛かってくる敵勢を迎え撃つ。
まずは四方八方それどころかスカイキラーの上位個体によって頭上からも矢や光線銃による遠距離攻撃がくる。
対して俺は片足を少しだけ上げて力強く打ちうつけるように踏みつける。
それだけで地面はひび割れるだけじゃない。隕石クレーターのように俺のいる部分は少し沈下して周囲の砕けた床材がシーソーのように飛び出す。
俺はその塊を右手で持ったのは前方に投げると左手に持った塊を盾に突き進む。
まるで満天の星空、その全てが流れ星となって俺という中心に集まるようだ。
ボウガンの風切り音、光線銃独特の飛来音、唸る発射口。目まぐるしく音と光の情報が駆け抜けていく。
それは近づけば近づくほど火線が収束し、ついには脇から俺に飛び道具が当たるがそんな飛び道具は効かない。ボウガンもそうだが光線銃も初めて食らったが要は電子、陽子、重粒子の可視化されたレーザー砲だ。硬くて熱に強い俺にとっては懐炉を投げつけられるようなもの。それに鎧を着こんでいるのだ。多少熱さは感じるが一瞬。
敵の群集に接触したその時には俺の盾としていた床材は赤熱してドロドロと溶けかけていた。
その溶岩のカーテンの中から腕が飛び出させる。
俺は近場にいた一体のマシンの胸部装甲を貫手で貫き、その背後にいた別のマシンの顔面を握りつぶしながら手を引っこ抜く。
横を見ると今まさに腕部がフォトンソードの人型マシンが凪いでいる。
俺はヒィーと情けない声をあげながら体を後ろに倒して避けてスライディングする。
上を見れば空振りして通り過ぎて行ったソードが先ほどの背後から貫通して胸から仲間の頭が生えていた個体を容赦なく両断していく。
「やっぱこいつら敵味方関係なしかよ‼」
というかこいつらはもしかしたら全部の個体で一つの生き物なのかもしれない。じゃなければ本当にプログラムか。意思があるかもわからないが。
同士討ちの形でも当然のようにこちらを全力で仕留めにきている。
俺はスライディングで滑りながら今しがた攻撃してきたマシンの足を掴むと転ばせて、立ち上がる勢いを加算して持ち上げて地面に叩き付け周囲に寄ってきたマシンに対して一周振り回してぶん投げる。
敵の腕を掴んでソードを利用して、時には投げ、千切り、殴り、叩き潰し、滅ぼす。
エンジンがかかってきた。体があったまってきた。
――――――ガンッ‼ そこに上から衝撃。
まさかの不意打ちを食らって驚いて振り返ってみるとスカイキラーが空を飛んで上から俺に体当たりしてきていたのだ。
「‼」
そこで初めて顔が見えた。まるで手に取って見える距離。緻密に、細部まで眺められるここまで近づいたことは今まで勿論ない。もしこいつが息をしていたら互いの息がかかるほど……!?
だからこそここで気付いた。
狂気の光りを目に蓄えてじっと俺の瞳を無機質に覗き込んでいた。
こんな、こんな残酷で綺麗な瞳だったのか。
それが何故か恐ろしかった。
何故か、それはわかった。
顔は無表情なのだがその目は、本質が笑っていたと感じたからだ。
俺は恐怖と同時に、それに対する怒りがわいた。
次の瞬間には決死の特攻でへばり付くそいつを力づくで引きちぎるが、そのわずかな時間ですら戦場で俺の動ける時間を確実に潰す捨て身の行動だった。
周囲のマシンどもが連鎖的に俺に飛びつき、引きはがしても引きはがしても更にその上から覆いかぶさって処理が途端に追いつかず熱殺蜂球のように金属で閉ざされる。
クソッ、してやられた。
見事だ。
重圧と熱が体に押しかかる暗闇の中、相手の一連の流れに感心する一方俺としての、ドラゴンとしての琴線に触れた。
そして一連の自身の行動を共に恥じた。迂闊というか間抜けというか。
忸怩たる思いだ。屈辱、その言葉がこの感情にふさわしい。やはり自分を律し、戒めなくてはならない。
俺はそろそろドラゴンとして本格的にその本質を追求しなくてはならないだろう。
強く美しくそして傲慢に。
「は? キレそう」
俺の自尊心はひどく傷ついた。プライドはズタズタだ。
これじゃあ凡人の見栄や虚栄心と大差ない。矜持を持つことを恐れるな。
かっこつけてやがるとあざ笑うやつは3流。かっこつけているやつは2流。かっこいい奴こそ1流だ。
確かに俺はまだ美少女にモテモテになっていないからかっこいいのではないだろう。その事実は認めよう。
でもかっこつけているのがおかしいだって? かっこつけなくちゃあ、男はかっこよくないぜ。
「鉄屑風情が俺に触れるだと?」
俺という人間を今ここに刻もう。
例えこいつが人間でなくブリキ野郎でも。世界に、そして自分自身に。
何をためらう必要がある。遥か彼方の戦場には己を縛る法も秩序も届かず。
悦楽に溺れて虐殺し惨殺し殺戮の限りを尽くしても倫理の鎖は抑制に能わず。
それを広め語り継ぐ誰の存在もなく、無意味で非生産的で何の役にも立たない浪費だからこそ我が人生。
美を、強さを極める求道者。妥協してどこかで死んで立ち止まることはナンセンス。
最初から本気を出すべきだった。いや、本気というより自分を解放してありのままであるべきだった。
こいつらが学習すればするほど強くなるのは分かった。だがそれが何だ。
ドラゴンっていうのは他の存在が頑張って頑張ってそれこそ血の滲むような努力を気が遠くなるような時間積み重ねて手に入れたその力をあざ笑って蹂躙する。
例えこいつらがどんなに強くなっても勝つのは俺だ。
ドラゴンって存在は努力や進化でたどり着くそんな安っぽい境地じゃないのだから。
「アンドロイドも悪夢を見ることを教えてやろう。うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」
空を支えると錯覚するほどの底知れぬ力を腕に込めて持ち上げ、さらに、さらに、自分にはこんなにも力があったのかと驚くほどの力が体の奥から際限なく湧き上がる。
こんなもので俺を止められると思うなよ。この俺は誰にも止められないんだ。
そして漲るのは腕だけじゃない、上半身も支える足腰にも力を籠め―――――
―――――ブウッッッッッッッッ‼
放屁が爆発した。
どうやら石を食べて可燃ガスを溜めてブレスを強化するドラゴンはおならも火をつければそれ相応の威力があるようだ。




