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ボス戦後

バッと顔を真っ赤にしながら気まずそうに分かれた双方は気まずそうに恥じらって、事後処理にかかった。

そして俺は協力の元無事に臭いトロールの下から雨宮を睨みつけながらトロールから抜け出したところ、すっと手が伸びて来た。

照れくさそうに雨宮がはにかんでいた。


「お前には何て言えば……クラン六角形カボチャ団のリーダーの雨宮だ。このことは忘れない、ありがとう」


聞いてもないのにわざわざ言ってきたから耳に入ったが、ここ新宿ダンジョンの浅い層では野生のダンジョン産の農作物として六角形のカボチャが採れるらしい。それで生計を立てていた冒険者集団が集って出来上がったのがこのクランという結成秘話を聞いた。元々はただの浅い階層で活躍していただけの有象無象だが何がどうしてか色々な運や出会いに恵まれてここまで登りつめてきたらしい。


俺は握手をパンと払うと念入りに指をさして言った。


「慣れ合うつもりはない。それに俺は非公式でここに居るんだ」


だが雨宮は笑みを崩さず名前だけでもとか地上に帰ったら飯を奢らせてくれだの立て続けに言ってくる。


なんだろう、これ……わかった、あれだ。二階堂や早乙女と同じ人種だ。

本来なら俺とは決して交わることがなかっただろう人間だ。


グレた俺が濁った眼をしているのに対してこいつは不良っぽくも早い段階で仲間と恋人に恵まれてそこまで道を踏み外さなかったタイプだ。悪っぽくも所作や言動から素直で爽やかさが滲み出ている。ヤンキーだけど重い荷物を持ったお年寄りとか迷子の子供はちゃんと助ける的な、存在が世の条理に反している癖してこういうのが女にもてるんだからたちが悪い。

俺が同じことやったら年寄りからはひったくりと思われ、子供からはブラックマーケットに売り飛ばされると思われて通報が山の如しだ。

わかるぞこいつ、人たらしというかよく人が周りに集まる中心人物みたいなやつだ。


そしてそれは俺が嫌いなやつだ。でもこういうのこそ足をひっぱてやれば簡単にこっちに来そうだからそれほどまで嫌いじゃない。なんだったら好きかもしれない。


「俺はトロールの取り分は無くていい。そのかわり食料を貰うぞ」


「……そりゃあいいが、食料?」


「まだ登らないといけないからな。トロールは荷物になる」


ここまでで食料はそこそこ使い込んでしまった。もし遭難者が生存していた場合足りなくなる。

俺はこれも貰っても構わないよなと一応確認を取って、死んだ奴と逃げた奴が残した備品やポーションを貰っていく。


「上って……まさか41層の遭難者の捜索か?」


「ああ、急がないとそいつらが倒した40層のボスがリスポーンしてまた出てくるかもしれないらしい」


「そんな無茶なこ―――」


「お喋りしてもいいから、手、動かせ」


周りではクランメンバーは慌ただしく動いている。トロールの流れ出る血を保存したり、眼球や内臓を取り出して瓶詰で保存している。

殺した以上、それを活用しなくてはいけないだろう。死は無限の時間を与えられたが、鮮度に関してはシビアなのだ。

他にも後方では周囲警戒や野営準備、怪我人の治療にと忙しい。


雨宮が俺に絡んでくるが無理やり手伝わせて冒険者の死体を運ぶ。雨宮のクランの荷物担当に話すと死体は多すぎてこの人数では運べないらしい。一応合同は瓦解したがそれでも戦友だ。裏切者もいるが死人の悪口を言うのはよそう。トロールの内臓からも数人冒険者の死体が出て来た。ぐちゃぐちゃになって酷い有様だが、目を反らすことは許されないのだ。いつかきっと、もしかしたら次は……これが冒険だから。


ドッグタグを集めて冒険者の死体はボス部屋前に埋葬した。そのうちクランの残党か遺族が回収をどうにかするみたいだ。もしかしたら俺がこれから見つける予定の遭難者もそうなのかもしれないな。そう思うと冒険というのは悲しいようなそれでいて果てしない恐怖を掻き立てる。それでも何故冒険者はダンジョンに挑むのだろうか。そこにロマンがあるのか。

まだ答えを見つけられていない俺には、例えまだまだ浅い階層でしか冒険できていない俺より弱い冒険者よりも多くの大切なことが学べていないのだろう。


ここまで来るのに大勢の冒険者を見た。


捕らぬ狸の皮算用で未だに仲間すらいない俺だが、果たして将来仲間ができてその者が死んだとき俺はどうなるのか。

数年前、家族が死んだように……。

やっぱり俺はまだまだ経験が少ないようだ。今回の冒険で少しでも何か見つけられればいいのだが。


仲間は……まだ……。












汚いのも臭いのも嫌な顔……鎧を着ているが、文句ひとつ言わず力が強い俺は結構重宝された。

取り敢えず死体を埋葬した後は、トロールの解体で貴重部位や腹の脂肪を集めたり、そして背面の一番面積の広い皮を剥いで処理をして丸めたりと手伝った。


トロールの脂肪からできる特殊な蝋燭の炎は低温で緑色の怪しい光を発するらしく、それをゴブリンシャーマンの頭蓋にレイスの霊体羊皮紙を張り付けたそれの中に入れた頭蓋ランタンとも呼べる悪趣味なものがあるらしいがこれが一セットでべらぼうに高く売れる。企業の検証施設に保管されているのは既に七〇年ずっと未だに連続して光を発し続けているらしい。

半永久の光源であり、過去に世界に災厄をまき散らした特殊個体光り輝く闇と言われるモンスターと戦うときに活躍したとも聞いた。金持ち御用達の逸品だ。

渋谷第三工場も軌道に完全に乗ったからおっさんがほしいとか言っていたなあ。



そんな会話をしながら手にこびりついた血と油をこそぎ落としていると、ふと雨宮が聞いてきた。


「そういや最後、トロールの力が抜けたけど何をしたんだ?」


「近くに槍があってな。ケツに刺した。そっちこそ最後、よく指をすり抜けられたな」


指さす方向、俺が使った野太い獲物が確かにトロールの尻を貫いていた。


「ああ、能力なんだ。連発はできないが数秒間体内時間を加速できる」


「やっぱそんなところか。俺は自分の能力言う気ないからな」


えー、と雨宮は何か俺と打ち解けた気でいるけど、これが陽キャって奴か。たった一度一緒に戦っただけだというのに距離が近い。

あの固さと力だからなんとなーくわかったけど、そう言われて何かクランの苦労話とか色々語り出す。めんどくさくなった俺はそれを適当に相槌を打った。


どうも彼はイケメンで言い寄られることはあっても俺みたいに邪険に扱ってくる奴が新鮮なのと、どうやら俺がコミュ障を拗らせた孤独な奴に見えるようでやたら雨宮と男連中が絡んでくる。

俺は巨乳の女性にしか興味ないんだ。何で二階堂も早乙女もこいつらもむさい男しか俺には寄ってこないんだ。

散れ‼ 作業に戻れ‼ そう言って彼らのケツを蹴飛ばして作業に戻らす。








彼らはボス部屋で今日は一晩過ごすようだ。

ごとごとと食料を煮込む音がした。どうも俺も食べてもいいようで、寛いでいていいぞと言われたので任せた。

俺も約束通り余分にある備蓄と死体の持ち物を幾つか貰った。その中に上等な簡易テントがあったので俺も今日は休むことにした。

それにしても何だかんだ10層のと20層のは通り過ぎたから初めてのボス戦は疲れた。

どこかのクランの所有物だろうかドラム缶が転がっていたので俺はボス部屋の前で水を溜めて、ドラム缶風呂を用意した。

浮遊石と海のように広がる一面雲の世界。凄い絶景だ。この風景を見ながら風呂に入るのは何て贅沢だろう。これが冒険者の醍醐味か。

さあ、いざと入ろうとしたら後ろで誰かがいるのを感じた。雨宮だ。


「おーい、皆こいつがちょっとずるいことしようとしてんだけど‼」


「え‼ お風呂じゃん‼ 入りたい入りたい‼ 男は体デカくて水零すんだから女の後にしてよ‼」


「ふざけんなあっちにもあるから自分たちでやって入ってろ‼」


「おう? 脱ぐんか? 顔は見せないくせに。どれちょっとち○こみせてみろや」


そこからはちょっとした乱闘が起こって大変だった。


そしてその日の夜はどんちゃん騒ぎの宴会を倒れるまで飲んで行われた。俺は酒を呑まなかったがだからこそ終始入れ替わり立ち代わりうざがらみされたもんだ。

何で酒が飲めないか、俺の酒が飲めないのかと言われて未成年だと答えたら、ガキの癖に結構あれはデカかったなと言われたので取り敢えず覗いていたそいつは殴った。

寝静まるときも戦闘の高ぶったそれを鎮めるために結構距離をとったテントでおっぱじめやがって耳がいい俺としては酷くうるさかった。何だかんだ仲間との冒険もいいなと思ったがやっぱ人と絡むもんじゃないなと思わされる。やっぱ俺、冒険者辞めるわと決意を改めたね。


そして早朝、あほ共が寝ている隙に俺はテントから出ると片づけをする。

火照った体を冷ましているのかそれとも見張りをしているのか雨宮が焚火の傍で薪をくべていた。


「……行くのか」


「ああ」


俺はそう短く答えて荷物をまとめる。

薪が爆ぜ、火花が空に溶けていった。朝の寒い空気に吐息が白くなってその中に昨夜の瞬く間に過ぎた楽しかった思い出を幻視した。

雨宮はつらそうな、それでいて励ますかのような顔で俺を見ていた。まるで戦争に行く夫を見送る妻のように。これから今まで以上に過酷な試練が俺を待ち構えているのを悲観して。


ってなんだそれは。真剣でしみじみとした空気なのにお前は俺の嫁かと言いたくなった。


「正直、お前があの時駆けつけてくれたとき、すげー助かったし、かっこよかった。目頭が熱くなって戦いが終わった後もさ、クランに入って仲間になってくんね―かなって思った。それを言おう言おうとさっきまで決めてたのに今お前を見たらやっぱ辞めた」


「何だそれ」


再度握手を求められたがそれを再度拒否したらハグをされた。

……仕方ねーな。俺もハグをし返した。


「これ持って行ってくれ。俺達が前から集めてた31層以上の情報だ。あと、遭難者だがアイツらとは俺も交流が少しある。分かれ道が在ったら左を選ぶくらいのことしか知らないが」


「いや、十分だ。それよりもお前も気をつけろよ。裏切者は噂を広められたくないからな。帰り道気をつけろよ」





そうして俺達は分かれた。

彼は振り返って仲間たちの元に。俺は更なる冒険を求めて。


特殊個体モンスター 光り輝く闇は昨日思いついた 魔王的なもの

昔出たモンスターで討伐済み いずれ詳しい説明もあるかも

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