トロール戦
主人公は入口で見てるだけで戦っていないよ
誰かがボスを倒してくれるんならそれでいいから
新宿ダンジョン30層の中堅と上位を隔絶する分水嶺。
現れるボスは巨人族トロール。醜く肥え太った醜悪な巨人。動きは緩慢で鈍重、されどそれから繰り出される攻撃はまさに必殺。
その怪力から繰り出される一撃は当たらずとも掠するだけでも戦闘不能は避けられないだろう。
今まで幾多の冒険者を死に追いやったその無慈悲な怪力は直撃を防げてもトロールから放たれる拳と無骨な棍棒によって巻き起こる突風は人をよろめかすには十分で、時に容易に体を巻き上げる。そこからの追撃のコンボは凶悪だ。
だからこその対策。最低限の防具で身軽重視で完全に避けることを前提とした装備。例え全身重鎧で身を固めても棍棒で殴られるか素手で摑まれて投げられればはるか遠く、数百メートルぶっ飛ばされるのが精々少し手前に落ちる程度だ。なら、身を軽くして避けるのが必然的に取られる選択だ。
そもそも投げる為に握りつぶされる時点で大抵死ぬ。下手に鎧を着こむと苦しみが長引くだけだ。次に投げ出されるまでの加速が体を襲う。急激な慣性変化に臓腑が破裂するだろう。
そして人間サイズの人間で出来た人間投擲による死亡。掴まれただけで軽く3回は死ねる算段だ。彼らの種族はサッカーしようぜお前ボールな‼ をヒト族相手にして容易にできるのだ。そりゃあ重い鎧だなんて脱ぎ捨てて回避に徹するのが当然だろう。
その猛威にここに居るどのクランも過去に敗退を余儀なくされ、少なくない犠牲を経験させられた。
その苦難を乗り越え、今戦いが始まった。
トロールはフロアの中央でまるで挑戦者を待つように不敵に佇んでいた。
入り口から入って来た冒険者はすぐさま散会してクランごとに纏まって陣形を固めた。
こちらの姿を視認したトロールが犬でも猫でもない、耳を防ぎたくなる程の不気味な化け物の咆哮が大気を震わす。その嫌悪感を抱かせるには十分な歯列の悪い顎に過去、いったいどれほどの人間が貪り食われてきただろうか。その唇が獲物を見つけたように舌なめずりをして蛇曲をあらわにする。
ぞっと、その場にいる者が気負けしたのが伝わった。だから自分こそはと己を奮いたてて果敢に闘志を燃やす。
トロールが地面を棍棒で殴ると砂礫と煙が待って、少し遅れて衝撃の余波が伝わる。その振動にこちらが狼狽えないのを見て満足そうに笑った。
「かかれ‼」
それを合図にして合同クランとトロールの戦いは火蓋を切って落とされた。
クランは各自バラバラにそれぞれ動くことになっていたが、役割がある。
事前の打ち合わせ通りだ。序盤雨宮率いるクランともう一つのクランがトロールと衝突した。錯乱と陽動を担う片翼の一方でもう一方が巧みにパイルを地面に打ち込んだ。そのパイルの脇に備え付けられたスイッチを押すと特製のパイルからは重低音の掘削音が響き渡り、扇子のように収納スペースから簡易的な壁が展開される。それと同時に火を操る能力者が燃え盛る轟轟とした激流の炎の渦でトロールの顔を焼いた。
攻撃は直撃したが効かねえかとどこからかまるで自分の心のうちを代行した様な呟きが漏れる。火が顔を焼いそれは少しばかり表面の毛を焼いたにすぎず目くらましにしかならなかった。だがそれでいい。効くのは期待していない。効いていたら苦労していないんだから。目くらましで時間を稼ぐのが仕事だったから。
そのわずかな間にねじ込むようにもう片方のクランが足に攻撃を仕掛けた。トロールの足は近くで見れば見るほど大木のような太さに不清潔なイボが際立った。足の腱を狙うのが生物の構造上妥当な判断だろう。差し迫る短い時間で落ち着いてスムーズに抜刀されたそれは寸分の狂い無く吸い込まれるように狙いを切り付けた―――ボッ‼ だが硬質とはまた少し違う、布団叩きでその正式な使用用途を守った使用方法の音がした。
表皮が硬い、その癖に下の脂肪がぶ厚すぎる。柔軟で在りされど固い、この理性をかいたような醜い生き物が上等な柔と剛を備えているとは皮肉だ。
刀を引いたところでまるで踏切で特急新幹線が通り過ぎたような突風が吹き荒れた。蜘蛛の巣を手でどけるようにトロールが炎を脱すると、その携えた棍棒で炎の風をあたりに撒き散らすように打ち払った。
そして続く、地面を砕くかのような振り下ろし。当然序盤のまだ余力があるうちに直撃するような間抜けは居ない。皆棍棒は余裕をもって確かに避けた、避けたがその後の地雷が炸裂した様に無数に砕けた地面の破片は無理だった。
その為の壁だ。伊達に対策はしていない。サッとぶ厚い壁に隠れた、隠れたがそこから逃げ遅れた仲間が見えた。
その冒険者に破片が突き刺さってなお威力は止まらず、数回体が地面をバウンドして止まった。
「そいつを下がらせろ‼ 杭はまだか‼」
仲間が負傷者、ここからでは状態がわからない。もしかしたら死んでいるかもしれないそれを引きずっていき、フォローに少なくない人数を割く。
杭はまだか……そう下がっていく負傷者を抱えた仲間にチラリと視線をやって後方も確認する。
そこでは3クランのうちの最後一つ、大きな金槌を持った冒険者達が地面に大きな杭を打ち込んで鎖を止めていた。
2つのクランは各ポイントに即興の防壁を築きながら時間を稼ぐ。そして最後の1つのクランが巨人、つまりはガリバー旅行記のように大きな杭と鎖を使って身動きを止めていく戦法が今回選ばれた作戦だった。
当然鎖も船の碇に使うような頑丈で特注の大きさを用いている。
打ち付ける金槌もトロールのそれには確かに劣るが気迫だけはそれに鬼気迫るものがあった。
これで仕留める、そう各々が意志を燃やし怒号のような咆哮を上げて力を振り絞った。
「終わったぞ‼ 今から加勢する‼」
ジャラジャラと鎖を引きずる頼もしい音が響いた。
仕掛けは整った。
あとは気力が続くだけの闘争とこれまで培った自力だけが頼りだ。
「行くぞ‼ 総力戦だ‼」
その声にそこに集まった冒険者達は敵に突撃するのだった。
トロールは大きいイメージがあって巨人みたいだけど 妖精らしいですね まあいいか




